●リプレイ本文
●出発前
麦県の傭兵隊に出動の命令がくだった。一同は皆、次々にKVのコックピットに乗り込んでゆく。
「‥‥自爆装置搭載‥‥機密保持? ‥‥それとも浪漫の為?」
クロード(
ga0179)が機器を操作しながら疑問を述べる。
「敵のエースが持ってんのはめっさ強力な盾なんやろ? 万一わしらに拾われて使われたら困るからちゃう?」
厄介な依頼やなー、と頭を掻きつつ佐伯(
ga5657)が答える。
「‥‥なるほど」クロードは頷き、立ちあがった機器を見やる。「システム、オールグリーン」
「こっちもOKだ。いつでもいけるよ」
落ち着いた声でソード(
ga6675)が言った。先ほど飲んだお茶の効果かもしれない。
「皆々様、準備はOKでありますか? それでは麦県傭兵隊、初出動であります。胡蝶小姐、傭兵隊出撃します」
無線に向かって稲葉 徹二(
ga0163)が言う。
「了解ネ、出撃を許可する」
「小姐ー」
獄門・Y・グナイゼナウ(
ga1166)が言った。
「小姐が天帝にかけて誓うのならばー。
獄門は我が科学にかけて誓うんだよー。
すなわち、今このひと時にあっては、我らはただ麦県がための力であると!
貴女のお金と意思が、我らが鉄火の引き金を引く限り‥‥なんだよー」
無線を片手に胡蝶は目を細めると、
「ふふっ、ちっこいのに言いやがるアルネ。ハートに来たアル。それでこそ傭兵、結果を出せば報酬は弾むあるヨ。行ってこい!」
「了解。貴女とこの街、必ずや守って見せましょう」
皇 千糸(
ga0843)が言い、KVが加速する。
かくて麦県から十機の騎士鳥が北へと向かって飛び立って行った。
●備え有れば
「胡蝶、街の住人をなるべく安全な場所へ避難させたく思う」
傭兵達の十機が出撃した後、ファルロス(ga3559)からの無線が入った。
「‥‥それは、つまり、彼等が負けるとでも?」
胡蝶はピクリと片眉をあげる。
「そうは言っていない。だが、負けないまでも突破を許す事はあるかもしれない。一番厄介なのは連中が陽動だった場合だ。あんたは無いと踏んでいるようだが、万が一という事もある」
胡蝶はしばし考えるようにした後、バッと扇を開いた。
「なるほど、それも一理あるネ。ファルロス、あなた待機組の傭兵達の指揮を取るがよろし。同組五機以下、貴君の裁量で捌く事を許す。住民の避難と万一の際の防衛、任せたヨ」
「了解した」
ファルロスは街の守りを固めるべく動き出した。
●古戦場
麦県の北方に広がる荒野の古戦場、そこに十機のKVが降り立った。
彼等は通常ゴーレムを狙うB班を中心とし部隊が半円になるようにエース機を担当するA班を展開させた。いわゆる鶴翼陣で迫りくる敵を待ち受ける。
「KVが使える分、前回よりは幾分かマシですね‥‥」
荒野の彼方をみやりシエラ(
ga3258)が呟いた。顔立ちは涼しいが胸中では炎が燃えている。生身で戦った時のリベンジを果たしたいらしい。
「エースかぁ‥‥話は聞いた事あるけど強いんだよね‥‥? 戦って‥‥みよう、カナ」
という事で葵 コハル(
ga3897)はA班に所属した。自分自身の実力がどの程度なのかを確かめたいのだ。
「銀色のエース機について情報屋さんの話を要約すると――盾は硬いけどそれほど避けないし本体もわりと普通、ということでしょうか? なんと言うか、強いんだかそうでもないんだか良くわかりませんねぇ」
と小首を傾げるのは平坂 桃香(
ga1831)だ。
「他のエース機と比べればって事じゃないか? 油断はしない方が良い。こういうのは、臆病なくらいが丁度良いってね」
と言うのは射撃戦を得意とする伊佐美 希明(
ga0214)である。最終防衛ラインからの援護射撃を行う予定だ。
時は静かに流れゆき、風に吹かれて黄砂舞い、やがて前方よりゴーレムの集団がやってきた。二列縦隊、装輪走行で迫ってくる。
「来たわね。一番後ろの向かって右側の奴。狙えるかしら?」
皇機がスナイパーライフルD‐02で狙いをつけつつ言う。
「駄目だ、前列のゴーレムが邪魔で射線が通らない」
同様にSRD‐02で狙いをつけつつソード。
「じゃあ一番前の左側、銀色じゃない方、狙えるかしら?」
「オーケィ、そっちなら問題ない」
射程距離に入るや否やB班の六機はSRD‐02を用いてターゲットを合わせ一斉に射撃を開始する。が、限界射程からの射撃はさっぱり当たる気配がない。
敵機はある程度の距離まで接近すると縦隊を解き二手に解れた。銀色のゴーレムは中央目がけて真っ直ぐに突進し、残りの五機は方向を転じ外側から回り込むようにして左翼へと向かってくる。防御に長ける一機を突っ込ませて射撃部隊を撹乱してから、鶴翼の端から潰すといった腹積もりが見て取れた。発砲しているのはB班のみ。長距離武器を持つ機体がどれなのかは推して計れる。そこからの判断だろう。
左翼の端に立っていたのは盾を持たない方向――通常、盾は左に持つ、相向かう相手の右を狙うなら左――からの突撃を狙っていたシエラ機だった。彼女の担当はエース機である。しかしそれは傭兵達の都合であって、ゴーレムの都合ではない。どうやら五機に狙われているようだった。どう動く? 予定通りに突撃すれば背後にゴーレム五機を背負うことになる。大砲が見えた。背中を向けるのは不味いか。
だがその場に留まるのも上手くない。部隊は鶴翼に展開している。このままではゴーレムを狙うB班の射線上に位置する事になる。
刹那の考えの末、シエラ機はB班めがけ真っ直ぐに向かってくる銀色の進路を正面から遮る位置に移動した。つまり中央。同じく左翼にいた葵機も同様に中央に移動する。
銀色のゴーレムが突っ込んでくる。通常のゴーレムはまだ遠い。銀色の突入を待ってから接近する腹積もりらしい。B班が一斉射撃しブースト突撃に備える。
激突の時が迫って来ていた。
●銀のエース
「兵法『窮修流』丸目蔵人、参る!」
右翼に位置するクロード機がバルカン砲でエース機に向けて弾幕を張り、佐伯機がショルダーキャノンを用いて足元めがけて砲を撃ち放つ。エース機は盾と槍を構えて走行し、右に左に動き走り抜けながらキャノン砲をかわし、大楯でバルカンを防ぎつつシエラ機へと迫る。
「煙幕入るであります!」
激突間際、稲葉機から煙幕弾が飛んだ。弾丸が炸裂すると瞬く間に煙が立ち込めエース機およびシエラ機、葵機を呑み込む。B班がブーストし五機のゴーレムへと向かって一気に距離を詰める。
煙の中、エース機より豪槍が繰り出された。シエラ機は楯をかざしてそれを受け止めんとする。
「‥‥くっ!」
盾と槍との間で火花が散り、衝撃にシエラ機が地面を擦りながら後退する。葵機が飛びだし長大なメトロニウムレイピアを繰り出した。このレイピア、刺突剣というより最早槍だ。むしろ槍よりも長い、9mある。長大な切っ先はエース機の肩部の砲身の繋ぎ目に命中し、甲高い音を立てて滑る。
五機の通常ゴーレムもまたシエラ機へと迫ろうとしていたが、B班がブーストして突撃してきたので行動の変更を余儀なくされる。
ゴーレムが肩から延びる二本の大砲を構える。伊佐美、皇、獄門、ソードの四機が遠距離からSRD‐02で狙いをつけ、稲葉と平坂の両機が前進し後者はさらにハンマーボールを構えた。
平坂機に向かって三十発程度の砲弾が飛び大爆発と共に地面を爆砕した。素早く機動し平行移動して回避する。数発喰らったが大部分は避けた。反撃のハンマーボールが飛び、四発のライフル弾が集中する。
「デカイのいくでぇ! エースの回り、注意せや!」
佐伯はショルダーキャノンをばら撒いて牽制すると、大火力兵器、粒子加速砲を連射した。チャージされた二連の光線が唸りをあげ、煙を裂いて飛ぶ。
万一にでもこれを喰らっては不味いと判断したか、エース機は大楯を構えてビームを受け止める。光線の破壊力は凄まじい。佐伯はあわよくばその衝撃で盾を持つ腕の破壊を狙うがしかしゴーレムの腕は脆弱ではなかった。
腕は痛められなかったが足は止まった。シエラ機は重心低く槍を構えるとエース機の脚部を狙い、間髪入れずにランスチャージをかける。エースの武器も槍。迎え撃つように槍を繰り出してくる。馬上試合のごとく穂先と穂先が伸び両機が交錯した。
シエラ機が吹っ飛び地に転がる。脇腹が深く削り取られていた。だがゴーレムの脚部にも傷が入っていた。
倒れているシエラ機へと向けてゴーレムが砲を構えた。グレネードランチャーだ。襲い来る砲弾を横転して間一髪で避ける。だが地を爆砕し広がる爆炎に呑まれた。
さらに追撃をかけようとするエース機に向かって葵機がレイピアで猛攻をかける。
(「エースをきっちり抑えるとゆー責任重大な役割、できる事をしっかりやれば、きっと大丈夫‥‥っ!」)
真っ向からの勝負だ。連続して繰り出される切っ先をゴーレムは盾でかわし槍の柄で払ってかわし、豪槍を旋回させてカウンターの槍撃を繰り出す。葵はメトロニウムシールドでその攻撃をからくも受け止める。重い。長時間は凌げそうにない。
一方、煙の中、音を頼りにクロードはエース機の背後に回り込んでいた。
(「手は綺麗に、心は熱く、頭は冷静に‥‥!」)
煙を裂いて突進し、アグレッシヴ・ファングを発動させゴーレムの右肩を狙ってソニックブレードで烈風の如く斬りかかる。葵機と挟んだ。強烈な連撃がエース機に叩き込まれる。
だがそれでもエース機は動いていた。慣性制御を用いて飛びあがると、宙で方向を転じて側方へと逃れんとする。
お互いに距離を保って撃ちあっているB班の方は順調に押していた。
平坂機が投擲するハンマーボールをゴーレムが慣性制御を用いてからくもかわしても、その後の隙を稲葉は逃がさず、ハンマーボールを叩き込んで粉砕する。一機だけでも極めて破壊力が高いのに二機に連携されるともう手がつけられない。ゴーレムは次々に撃破されてゆく。
両機を支える狙撃組も優秀だ。
伊佐美の狙撃は派手さはないがそつがない。
「この『山猫の眼』から、逃れられるものか。ケツが丸見えだぜ、そこっ!」
狙いを定め発砲、リロード、移動を繰り返す。射線を計り、全体の戦況を計り、タイミングを計り、狙う部位を計り、的確に援護射撃し味方の行動を助ける。まさに模範通りだが、それ故に隙がなく、それ故に信頼性が高い。信頼できない援護射撃など背負いたくないものだが、これなら前は安心して戦える。
全体が押している状況下では良い戦術だ。唯一の失敗は人型ではロケット弾は使えないという事だが、ガトリングとライフルで十分カバーできる範囲だろう。
皇機はブレス・ノウを発動させライフルの発砲からレーザー砲の射撃へと繋げる。光線攻撃に対してゴーレム機は比較的防御性能が高いがまったく効かないというレベルではない。威力があれば通る。大打撃とはいかないがそれなりの打撃を与えていた。
ソードの狙撃は精密だ。その精密さを活かし距離を生かす。遠い間合いから前に出てくるゴーレムを押し返すように一発、一発確実に当ててゆく。
獄門は距離がある状況で慣性制御されると回避されてしまいそうだったが、ブースト機能を発動させてそれに対抗し、良好な位置を確保して命中させてゆく。
ゴーレム達は平坂機に当てるのは諦めたのか稲葉機を集中して狙うが、こちらも速い、おまけに頑丈だった。多少の被弾はもろともしない。
弾丸と鉄球が暴風の如く荒れ狂い、エース機に張った煙幕が晴れる頃には通常のゴーレムは全て撃破されていた。
●終局
エース機はゴーレムが劣勢にあるのを確認すると逃走に移った。慣性制御を発動させて踵を返すと、装輪走行で脱出を計る。
「今回は‥‥逃しません‥‥」
シエラ機が追いすがりユニコーンズホーンを振りかぶって投擲する。ゴーレムの背後に命中し傷を作るが倒すには至らない。
「こいつは土産だ、持っていきなっ!!」
「ただで帰れると思ってるんですか?」
伊佐美機や平坂機もスナイパーライフルで追撃を試みるが倒しきるのは無理だった。エース機の装甲にはまだまだ余裕があるようだ。追撃があるのも計算に入れての逃走だろう。
「深追いするとこちらの消耗も激しくなるわ。不用意には追わんとこ」
全速で逃走してゆく銀色の背中を眺めながら佐伯が言う。
「‥‥また、逃がした」
ぽつり、とシエラが呟く。表面上は涼しそうだが胸中は果たして。
「今回は脚一本以上といきたかったんだけどね」
嘆息して皇。なかなか逃げ足の速い奴であった。
「まぁ、ただでさえ強いゴーレムにエース機までいたのを無事撃退できたんだから、良しとしよう」
ふぅっと息を吐いてソード。帰ったらお茶飲もと思いつつ、勝利に安堵する。
「良かった‥‥ちゃんと強くなれてるね、うん」
葵もまた手応えを得られたらしく呟いている。長期間続いていたら危なかったが、煙幕の援護の中でもエース機の猛攻を防いだのはたいしたものだ。
「自爆‥‥しなかった」
クロードが呟く。まぁ最終手段だろう、自爆というのは。
「胡蝶小姐はー、ぶっ潰すよろしとか言ってたけどー、バグアに取って嫌な街だと認識させられれば上々なんじゃないかねェー。少なくとも北京の解放までは喉元の小骨で十分だと獄門は思うよー」
と獄門・Y・グナイゼウ。
「確かに、あまり派手にやり過ぎては敵の大戦力が投入されかねんであります。しかし奉天の支社があるとはいえ麦県にそこまでの価値があるかどうか‥‥」
稲葉は考える。あるやもしれず、ないやもしれず。それを判断する為には彼が得ている情報ではあまりに少ない。必要な材料は一般の傭兵では知りえないことばかりだ。仕方がない。
「まぁ何をともあれ、今回はお味方の大勝利、荘小姐に吉報を届けに参りましょう」
稲葉の言葉に一同は頷き、十機のKVは帰路についた。
なお部隊名については荘胡蝶の独断と偏見により葵コハル提案の鉄騎衆に決定されたらしい。
麦県傭兵隊の正式名称はこれ以降「麦県鉄騎衆(ばくけんてっきしゅう)」となる。
今後、戦火の溢れるこの中華の大地で、彼等はどんな戦史を築いてゆくのか――それはまだ、誰も知らない。
了。