●リプレイ本文
黄塵吹き荒ぶ荒野の道を二台の装甲車が激しく揺れながら疾走している。
「六人も犠牲になったなンて‥‥絶対に、一匹だって生かして帰すモンかっ!」
吹く風に髪を暴れさせつつ聖・真琴(
ga1622)が怒りを顕わにして言った。彼女等が今回引き受けた依頼は街道の途中でキメラの群れに襲われた輸送部隊の救援だった。
「食料を運ぶつもりがキメラに餌を提供する破目になった、では余りにやり切れません。事は一刻を争います、急ぎましょう」
間 空海(
ga0178)が後部座席から身を乗り出して言う。
「解ってる。奴等が届ける筈だった食料品を待ってる人もいる。死なせる訳にはいかない、必ず助けだしてやる」
運転席についている伊河 凛(
ga3175)はハンドルを切り、ギアを操作する。
「飛ばすぞ。舌を噛まないように注意してくれ」
伊河は言ってアクセルを全開まで踏み込んだ。
●黄砂の狼
「前方に目標発見!」
双眼鏡を手に彼方を見やり瓜生 巴(
ga5119)が遭遇を報せる。双眼鏡には横転したトラックとそれを取り囲む狼の群れ。トラックの上で刀を振り続ける雷前道誉と上空から襲いかかる大鷲の姿が映し出されていた。
「手筈どおりにいく」
それを受けてもう一台の装甲車を運転している神無 戒路(
ga6003)が言った。傭兵達は一台をキメラをひきつける牽制班とし、もう一台を要救助者を救助する班として二手に分かれた。牽制班が先行し、救助班は道をそれて荒野に乗り出して回り込む。
牽制班は目標に接近すると五十mほど手前で停車し、傭兵達は次々に降りる。狼達の数匹が振り向いた。そのうちの一匹が吠え声をあげ狼達が集まってくる。
霞澄 セラフィエル(
ga0495)が覚醒しその背からオーラの翼が現れる。三対の白翼を生やした少女は洋弓アルファルに弾頭矢を番え限界まで弦を引き絞った。
「まずは一番厄介な相手を落します!」
急降下攻撃をかけ再び空へと舞いあがる大鷲に狙いを定める。エミタを活性化させ狙撃眼と強弾撃のスキルを発動させ、矢継ぎ早に二連射する。矢は音速を超えて飛び、大鷲に炸裂すると次々に爆発を巻き起こした。
爆発を合図にして前衛組が前進する。
平坂 桃香(
ga1831)が目標に向かって風の如く駆ける。髪から放たれる青白の光が残光を引いた。少女は半ばまで距離を詰めると拳銃を構える。
(「上手く引きつけないと‥‥」)
胸中で呟きつつ発砲。銃弾が狼の一匹に命中し、悲鳴があがる。
「群れの習性か、厄介だな‥‥なら、先に頭を潰すまでだ」
覚醒と共に髪を雪の色に変えた伊河は月詠を抜き放ち一際体躯の大きい狼へと向かって走る。
と、その伊河の背を風を巻き起こして追い越してゆく者がいた。聖真琴だ。
「そっから離れろぉーーーっ!!」
死体を貪り喰う狼を見てぷっつりと何かが切れてしまったようだ。激怒の叫びをあげ瞬天速で加速するとスコーピオンを撃ちながら突進する。少女は竜巻のごとく群れの真っ只中へと踊り込み、死体を喰らっている巨狼の顔面へと回し蹴りを叩き込んだ。
赤壁が展開し巨狼が唸り声をあげた。狼の巨体は蹴りの衝撃では倒せない。銃弾の痛みに怒りの吼え声をあげ牙を剥き真琴へと襲いかかる。真琴は横に跳んで避けたが、着地の瞬間を狙って群れの一匹が側面より噛みつく。少女の足に牙が喰い込み鮮血が飛んだ。
よろめいたところへ別の狼が後方より飛びかかって押し倒し、倒れたところへ五匹あまりの狼が群がって襲いかかる。真琴は腕をふるって首元に噛みつかれることだけは避けたが、手足や腹など全身に牙が撃ちこまれ、猛烈な熱さが全身を包み込む。狼の獰猛な唸りと共に防具と骨格がバキバキと音を立てるのが聞こえた。
「――聖さんっ!」
狼の群れに呑み込まれた仲間をみやってフォル=アヴィン(
ga6258)が顔面を蒼白にする。男は全力で駆けるが瞬天速のように一瞬では飛びこめない。それでも男は生存を祈りつつ必死に駆けた。
間は射程距離まで間合いを詰めると超機械を構えた。本来ならばもっと近距離までいきたかったが、この期に及んではそんな事は言っていられない。倒れている真琴を巻き込まないように極限まで意識を絞り込むと、蒼光の電磁嵐を解き放つ。
少女に喰らいついている一匹の背上で三連の電磁波が荒れ狂い、狼の身が鮮血をまき散らして爆ぜ飛んだ。
「状況はどうッスか?」
一方、荒野を走る救出班の車上でライフルを担いだエスター(
ga0149)が問う。
「トラックの傍で固まってる‥‥でも囲みは解けてます」
瓜生が双眼鏡で状況を確認しながら答える。
「想定とは少し状況が違うねェー、距離が近い」
と獄門・Y・グナイゼナウ(
ga1166)。さてどうする。
「‥‥行きましょう。どうも引き離せる状況ではないようです」
瓜生は双眼鏡を降ろして言った。
「解った。後ろから入る」
神無はハンドルを切ると大きく迂回して戦場の後背へと回り込んだ。
●血戦
伊河は先手必勝を発動させて飛びこむと、紅蓮の光を巻き起こし月詠を猛然と振るう。真琴に喰らいついている一匹の首元へ刀を振り下ろして延髄を叩き折る。喰い込んだ刃を押し当てながら引き抜き、半ばまでを切断し、返す刀でもう一匹へと連撃を浴びせて血祭にあげた。
平坂は腰を落とすと膝立ちで姿勢を固定し、両手で拳銃を構えて狙いわずかな射線を通す。速射四連、銃声が連続して鳴り響き狼の一匹が悲鳴をあげて吹き飛んだ。
フォル=アヴィンは青眼に刀を寝かせて構え踏み込むと、流し斬りから逆袈裟に切りあげて狼の首を断ち斬った。首は飛ばず、真琴の胴に喰らいついたままだった。
全身を血に染めた少女がゆらりと立ち上がる。腹に喰らいついた狼の頭部を無造作にひきぬいて放り捨てると、両手にルベウスを装着し大狼へと向かって歩いてゆく。
大狼が毛を逆立てて咆哮した。地を蹴りたてて巨体を踊らせ飛びかかってくる。
血染めの女は目を細めて大狼を見据えるとその牙を左腕で受け止めた。血風が飛び、真琴は右の爪を掲げる。狼の目に血に刃の光が映った。
「恐い? でも‥‥アンタ等にやられたみんなは、もっと恐かったンだよ!」
怒声をあげて大狼の左目へと向けて爪の切っ先を突き出す。繰り出された爪は眼球を破壊し、その奥の脳髄まで届いた。真琴はさらに爪を押し込むと回転させながら抉り、引き抜いた。
大狼が悲鳴をあげ、喰らいついていた牙が離れる。四匹ほどの狼が真琴へと飛びかかろうとしていたが側面に回り込んだ間が、電磁嵐を巻き起こして行く手を遮る。二匹抜けたが真琴は飛び退いて回避した。
空を舞う大鷲は攻撃を受けて霞澄へと間合いを詰めていた。爆発による血を滴らせながらも急降下して爪を振りかざし向かってくる。
霞澄迎え撃つようには矢を番え弦を引き絞り速射する。二連の弾頭矢が直撃し爆裂する。さすがに耐えきれなかったか、大鷲は急速に失速して地面へと墜ちていった。
その間に、戦場の後方から救援班は突入しトラックの隣に横づけしていた。
「無事ッスか?」
エスターがライフルを担ぎながらトラックの上にあがる。
「おう、なんとかな、助かったぜ!」
刀使いの男、雷前は破顔していう。
「生存者を収容します。手を貸していただけますか?」
「応」
瓜生は雷前と共に意識のない響を抱き上げると、トラックから降りて装甲車に収容する。
エスターと神無はトラックの端へゆくと上から撃ちおろす形で味方に当てぬようアサルトライフルをフルオート射撃した。銃弾が大狼を次々に撃ち抜いてゆく。大狼は弾丸の嵐の中、断末魔の悲鳴をあげて倒れ、動かなくなる。
獄門は響を運び終えた雷前に向かってハンドガンを差し出していた。
「まあ、獄門が撃っても豆鉄砲の様な物だがー。ファイターの君が使えば牽制程度の威力にはなるだろうからねェー」
「ありがてぇ、遠慮なく使わさせてもらうぜ」
ハンドガンを受け取り構えて雷前。
「それにしても道誉とはかぶいた名前だよねェー。本名なのかねェー?」
「‥‥お穣ちゃん、その歳で良く知ってるな? うちの親父が歴史好きでね」
雷前は少し驚いた様子で答えた。
しかし結果から言うと雷前がハンドガンを撃つことはなかった。
そのすぐ後に平坂が側面に回り込んで銃弾を三連射して狼を撃ち倒し、伊河が疾風の如き四連斬を叩きこんでもう一匹を斬り倒していた。次いで真琴が爪を振って超機械の一撃で弱った狼にトドメを刺し、同様にフォルが朱雀を振って最後の狼を突き殺し、キメラの群れは全て退治されたのだった。
●戦い終わって
「派手にやっちまったッスねぇ」
エスターが真琴の傷口を救急キットで応急手当しつつ言う。
「イタタ、ちょっと突っ込みすぎちゃったかな」
噛まれた腕をグルグルと回して具合を確かめつつ真琴。
「しかしまぁ、生きていてくれて何よりです」
ほっと息を吐きつつフォル。
一同が装甲車で負傷者の手当てをしている間に瓜生は戦死者の亡骸の元へよっていた。エミタと認識票の回収の為だ。
「――瓜生さん、何をする気だい?」
瓜生が声に振り向くと、頭に包帯を巻いた雷前が刀を担いで立っていた。
「エミタは希少です、回収しなければなりません」
「どうやって?」
埋まっている場所から抉りだすしかない。
雷前は瓜生を見据えると、
「言わんとするところは解らんでもないが、あんたはやらない方が良い。死体を切り刻むってのは気分の良いもんじゃない。心に傷が残るぞ」
「では、放置するのですか?」
「いんや」
男は首をふった。
「こいつらを――つっても、もうほとんどバラバラになっちまってるが、一緒に連れていってやって欲しい。しかるべき場所に持っていけば、対処してくれるさ。
あんたはエミタを回収したい、俺は一時とはいえ仲間だった連中を埋葬したい。利害は一致するだろう? ‥‥同行させるにはちょいとスプラッタなのが欠点だがね」
瓜生はしばし考えると言った。
「‥‥仲間と相談させてもらっても良いですか」
「ああ」
雷前道誉は頷いた。
●倒れても走る
瓜生を中心にして一同はトラックの中身を外へと運び出すと、装甲車のウインチを用いてワイヤーをひっかけ横転しているトラックを立て直す事を試みる。
フォルを始めとして体力派のメンツは覚醒してトラックを押し上げ、立て直しの梃入れを行う。鈍い音を立てつつ車体は垂直に立ち直った。
「コイツは‥‥まだ走れるのか?」
伊河が運転席に入りキーを捻るが、空転するばかりでエンジンがかからない。
「駄目みたいですねぇ」
横から覗きこみつつ、うーんと唸って平坂。
神無は無言で腕を組む。トラックが動かないとなると面倒だ。
「トラックが使えなければ輸送車に積むしかありませんね」
考えるようにしつつ間。
「さっき荷物降ろした感じだと全部は積めそうにないッスよ」
とエスター。装甲車にはトラックの荷物を全て積めるほどの空きはない。困った。
「うーん、ちょっとエンジン見てみるよ。もしかしたらなんとかなるかもしれないしさ。獄門さん手伝ってくれる?」
真琴が言った。車系には詳しい。
「任せておきたまェー」
真琴やサイエンティストの獄門を中心として一同はトラックの駆動部をチェックする。幸いにしてあまり破損はなかったようで、少し手を加えただけでエンジンをかける事が出来た。
「よし! これなら走行に支障はないハズだよ☆」
真琴がエンジンを起動させて言った。
「悪りぃな、こんな事までやらせちまって」
頭を掻きつつ雷前。
「気にしないで。ボーナス当て込んでますから」
と言うのは瓜生だ。
「たくましいねぇ」
ははと笑って雷前は言った。一同は運ぶべきものをトラックと装甲車の中に運び込む。
「あとは私達が引き継ぎます、あなた方の魂が安らか眠れますよう‥‥」
霞澄が呟き十字を切った。
やがてトラックと共に二台の装甲車が走りだし、荒野を黄塵が吹きぬけていった。