●リプレイ本文
●鋼鉄の騎士達
ここは地球の中央部、赤道に近い南の海の上。輝く太陽を背に八機のKVが轟音と共に空と海との狭間を飛ぶ。
「新しい機体の慣らしにしちゃ‥‥ちょっとハードかな」
新鋭のK−111を駆る雪野 氷冥(
ga0216)が呟いた。敵の数は多く、おまけに強力なFフィールドを持つ竜型のキメラまでもいるという。
「それにしても騎士が竜退治、ね」
斑鳩・眩(
ga1433)が飄々とした口調で言った。
「ファンタジーの王道ですね」
それに平坂 桃香(
ga1831)が答える。
「まったくね、いよいよもってファンタジックになってきたわ」
「これが物語なら竜を倒せば財宝や特殊な力を手に入れられるんですけど」
「空に幻想を抱くと死ぬよ?」
「ですねぇー、現実の辛いところです」
そんな会話をかわしながら飛ぶことしばし、やがて一同は作戦領域に突入する。水平線の彼方に踊るキメラと戦闘機の影が見えた。
「‥‥ぐりふぉん隊へ。聞こえますか、こちらLH(ラストホープ)6、ハーベスター、応答願います」
白銀の髪が美しい少女戦士のシエラ(
ga3258)が無線を入れる。
ややたってから野太い男の声が返ってきた。
「こちらグリフォン隊、グリフォンリーダーだ! 聞こえるぞ! 来てくれたか!」
「お待たせしました。LH隊‥‥これより援護します。消耗や損傷の激しいものは撤退を。その他はキメラ殲滅の援護をお願いします」
「了解、頼むぜお嬢ちゃん!」
通信が切れ、八機のKVが高度をあげ加速してゆく。戦闘態勢だ。
「さぁ、花火の中に突っ込むよ!」
斑鳩の言葉の通り火線が荒れ狂う戦場へ、八機のKVが空を切り裂き音速波を巻き起こして突入してゆく。
「ドラゴンバスターズ、ただいま参上! なんてな」
ベールクト(
ga0040)が不敵に軽口を叩いた。
レッドドラゴンめがけ速度に優れる雪野のK−111を先頭に、ベールクト、平坂の三機が、無数のキメラと戦闘機の入り乱れる間を縫って戦場のど真ん中へと切り込む。
平坂機は有効射程に入るや否やSRD−02とHミサイルを進路上にいた大型キメラへ向かって放った。機体、搭載兵器、ともに目新しいものではないが、改良に改良を重ねられたそれらの精度と威力は抜群だ。羽虫型のキメラを爆裂する火球と化し、たちまちのうちに撃墜する。
「グリフォンを落とされる訳にはいかないの。落ちるのは――そっちよ!」
三機に続いて突入してきた智久 百合歌(
ga4980)のS−01が咆哮をあげた。グリフォン4を追い回しているコウモリの如き大型キメラとヘッドオン。正面から20mバルカンを撒き散らして牽制する。
猛烈な弾幕に蝙蝠キメラはグリフォン4を追うことを諦め、翼をはためかせて急旋回し命からがら回避する。
「すまん、助かった!」
旋回するグリフォン4から智久に感謝の言葉がとぶ。
「来るのが遅れてしまいましたからね。待たせたお詫びは後で。全て叩き落とします――援護お願い!」
「グリフォン4、了解した! これより貴機の援護に回る!」
智久機と同様にクラーク・エアハルト(
ga4961)、真藤 誠人(
ga2496)、シエラ、斑鳩の駆る四機もそれぞれ散開し、グリフォン機の援護に回ると共に大型キメラへの攻撃を開始する。
南海の空で、大乱戦が始まった。
●赤竜を追え
ベールクト、雪野、平坂の三機がレッドドラゴンを追うも、竜はそれには一顧だにせずグリフォン8を追いまわしていた。
三機は散開し、それぞれ火竜の軌道に回り込むように動く。
「どこへ行く気だ? このクソトカゲ野郎ッ」
ベールクト機が射程内に火竜を捉えた。間髪入れずにHミサイルを発射。激しく煙を噴射し音速を超えて二発のミサイルが飛ぶ。銀河重工製の高い命中率を誇るそれは、素晴らしい精度で火竜を追尾し、狙いたがわず直撃させた。爆風が巻き起こり、南海の空を焼く。
爆発が収まった時、竜の身から赤い障壁が展開されていた。火竜がその身に纏う強力なFフィールドだ。これに阻まれグリフォン隊の攻撃はまったく効かなかった。
だが今度は違う、ベールクト機の攻撃によって赤竜の鱗は何枚か剥げ落ち、血を溢れさせ空に赤い糸を引いていた。
久しく味わう苦痛に激怒した赤竜は耳をつんざく咆哮をあげ、回転しながら急上昇し百八十度向きを変える。俊敏に機動し、音速で迫る、目標は――ベールクト機。
荒らぶるレッドドラゴンは顎を大きく開けると、その奥から燃え盛る火球を吐き出した。
「うぉっ?!」
巨大な火球が空を焼き焦がし迫る。ベールクトは咄嗟にロールすると螺旋の軌道を描いて間一髪で回避する。
だがその隙に竜は再び宙返るとベールクトの背後につけた。恐るべき機動性、火球が喉の奥から膨れ上がってゆく。
「させないわよ!」
だが横手より迫った雪野機がバルカンを猛射した。バルカンといえども新鋭機から放たれるそれは威力が高い。障壁が大部分の威力を削いでいたが、それでも痛みを与える程度の威力はあったようだ。火竜は苛立ったように咆哮すると旋回し弾幕の嵐から逃れる。
「ほらほら、こっちいらっしゃい。ってね!!」
雪野は巧みに軌道を修正しながらロールする。背後を取られぬようにしながら火竜を主戦場から引き剥がしていった。
●爆炎を裂いて
「Crash、FOX−2!」
クラーク・エアハルトが猛撃した。合計四発のHミサイルが大蜻蛉と大蝙蝠に向かって飛ぶ。
四つの誘導弾は目標に突き刺さり大爆発を巻き起こす。たまらず落ちゆく蝙蝠。大蜻蛉はかろうじてまだ飛んでいたが、それもすぐさま高分子レーザーによって撃ち抜かれる。
「悪いけど、さっさと堕ちてもらうよ!」
真藤誠人もまた高分子レーザー砲を撒き散らしキメラに攻撃を加える。一刻も早くキメラの群れを殲滅せんと攻撃重視の戦闘機動だ。
四時の方向に見える鳥型キメラへと機体を倒して旋回、下降、
「いただきっ!」
至近距離から127mm2連装ランチャーを叩き込み鳥型キメラを海面へと撃ち落す。
遠方に有翼虎に追われている戦闘機が見えた。エンジン・フルスロットル、轟音をあげて機体を加速させ有翼虎に迫る。
ターゲットインサイト、ロックオン。
「LH5、FOX−2!」
放たれた誘導弾は有翼虎に突き刺さり、次の瞬間、爆裂四散させ肉片を翠の海に降り注がせる。
「サンキューLH5!」
キメラの攻撃から逃れた戦闘機が機体を一回転させ陽気な声で礼を言う。
「あまり無理なさらないように、機体が損傷したら離脱してください」
「なんの、こちとらHoNのグリフォン6、数で負けなきゃまだまだいけるゼ! だが矢面は任せたッ!」
調子の良い物言いに真藤は苦笑する。
「了解、LH5が先行します。グリフォン6、援護してください」
「オーケィ、オーケィ! イィィィィィヤッホウ!!」
真藤機とグリフォン6が青空に交差して飛ぶ。両機は巧みに連携を取りキメラを撃墜していった。
「敵をドラッグします‥‥後ろよろしく」
一方のシエラは自らが攻撃するだけでなく、僚機と連携しての戦法に出ていた。
三匹あまりのキメラを引き連れ、放たれる電撃や火弾をロールしながら鮮やかにかわす。白と薄い紫の機体が軽やかに舞った。シエラ機への攻撃に気を取られている所へキメラの後背よりグリフォン7が襲い掛かる。
旧代の戦闘機が放つミサイルはFフィールドにより打撃力が激しく減衰する為、一撃でキメラを葬るという訳にはいかなかったが、シエラ機が敵の攻撃をひきつけている為、僚機には余裕が出来ていた。
殲滅速度は遅かったが、確実に一匹一匹と倒してゆく。
「何、空で死ぬなら意外とありじゃない?」
不敵なことを軽い口調で言いつつも斑鳩の戦闘機動は冷静かつ慎重だ。
三百六十度の戦況を拾うことを常に心がけ、味方機が劣勢にあればそれを援護する。援護射撃を行う際も狙いを絞り無駄弾は撃たない。
「こちらグリフォンリーダー、わりぃケツにつかれた! なんとかしてくれ!」
グリフォン1から悲鳴があがった。見れば戦闘機が妖精型のキメラに追い掛け回されている。
「こちら雀蜂、まぁーかせて!」
S−01は素早く飛ぶと、遠レンジから高分子レーザーでキメラを撃ち抜いた。妖精は羽根を散らし南海へと堕ちてゆく。
「LH8、FOX−3!」
智久機はガトリング砲を掃射して牽制し赤竜とキメラの群れの切り離しを計っていた。そして隙あらばグリフォン4と連携してSRD−02を放ちキメラを撃墜してゆく。
「‥‥Lamento e trasmesso voi」
智久は歌うように囁くとライフル弾を直撃させ大蝙蝠の頭部を吹き飛ばした。
●火竜
三機のKVと真紅の巨竜が蒼空を背に螺旋を描きながら激しく入り乱れる。
K−111が蒼空を裂いて飛び、その後背からレッドドラゴンが迫る。
「‥‥くっ」
急降下のGに雪野が呻く。景色は矢のように流れゆき、天と地が激しく入れ替わる。鋼の翼が爆風を巻き起こし、海面を割って水の壁を巻き上げる。
雪野機は回避に専念し複雑な戦闘機動を描くが、それでも火竜を引き剥がせない。
火竜は咆哮し爆熱の火球を吐き出した。火球は音速を超えて飛び、雪野機を捉える。
「――ッ!」
機体を激震が襲い、ダメージを知らせるアラームが激しく鳴り響く。K−111は攻撃に優れる反面、防御が弱い。荒れ狂う熱波は雪野機の装甲を焼き焦がし、その表面を融解させる。
雪野は失速しそうになる機体を必死に立て直し、機体をロールさせる。竜はなおも一撃を与えようと咥内に炎を燃え盛らせる。
「させるかよっ!!」
高空より急降下し速力を増したベールクト機が迫りレーザー砲を連射する。竜は翼をはためかせると急上昇しそのことごとくを回避した。速い。
だが、その火竜を一発のミサイルが捉えた。大爆発が巻き起こり、竜の鱗を消し飛ばす。
「LH4、FOX−2!」
平坂機だ。奉天製の安物の筈のそのミサイルは、それ自身が数度の改良が施されていることに加え、改良に改良を重ねられた機体から放たれ事も合わせて、さらにアグレッシヴファングの効果までも複合し、ありえない破壊力と精度を発揮した。
竜の回避軌道を完璧に補足、追尾し、強固なFフィールドを圧倒的な破壊力で突き破る。
平坂はさらに駄目押しとばかりにSRD−02を叩き込み、火竜を一気に血達磨に変えた。
「‥‥さっきはやってくれたじゃないの?」
真紅の翼が翻った。動きの鈍った火竜めがけ、微笑みを浮かべて雪野が迫る。手負いのK−111は獰猛な雄叫びをあげ蒼空に誘導弾を撒き散らした。
「とっておきのを喰らいなさい!!」
カプロイア社のそれは防御は弱いが攻撃性能は高い。放たれた三発のミサイルは強烈な打撃力を伴って見事に全弾命中する。
「悪いな、予定より少し早いが――終わりにさせてもらうぜ!」
ベールクト機が近距離から二発のHミサイルと総計九十発にも及ぶポッドミサイルの嵐を叩き込んだ。
断末魔の悲鳴さえも掻き消す猛烈な爆風の渦、百に近い爆発が火竜を包み込み、その巨体を南海へと叩き落していった。
●そしてかつての空挺陸士は祈りを捧げる
火竜を撃ち落した三機はキメラ掃討班に合流し、一同はキメラの群れを完全に殲滅してみせた。
『マタ同ジ空で会オウ』
水平線の彼方に燃える巨大な太陽が沈みゆく中、ベールクト機は閃光信号を残してロールすると、黄昏の闇へと飛び去っていった。恐らく、急ぎで何か別の用事があるのだろう。
残りの十二機がヒナ・オブ・ナイトウッチャー基地へと向けて黄昏の世界を飛ぶ。真紅に染まる世界は血をぶちまけたかのように鮮烈で、しかし美しかった。
(「‥‥珈琲を淹れよう」)
夕陽の鮮やかな赤光に目を細めながらクラーク・エアハルトは思った。基地に戻ったら珈琲を淹れよう。それはきっと素晴らしいことだ。丁度、美味い豆があるのだ。きっと皆喜んでくれるに違いない。
出来ればグリフォン隊の全員にも飲ませてやりたかったが、三機は既に落ち、エアハルトは霊界へと豆を届ける術を知らない。それはきっと、とても悲しいことだ。
沈みゆく巨大な太陽を眺めながら、散っていった者達の為にクラーク・エアハルトは祈りを捧げ、生ける者達の為に飛んだ。