●リプレイ本文
「ヒトを相手にするよりも、キメラを相手にする方が気が楽やわ‥‥キメラには悪いけど、な」
村上隊の本陣の一角、丘下の戦況をみやりつつクレイフェル(
ga0435)が呟いた。
「そんなものですか‥‥」
隣に立つ叢雲(
ga2494)が呟きを拾って相槌を打つ。まぁ確かに人間相手は色々な意味で辛い。
一同が待機している中、不意に無線機から声が漏れた。アッシュ・リーゲン(
ga3804)がそれを取る。
「はいこちら傭兵屋、ご注文は‥‥おぉ、やっと出番が来たか」
隊長の村上だった。東からやってくるキメラを迎え撃てとのこと。
「了解、大将。このまま報酬貰うのも流石に悪いと思ってたトコでな。何より、戦場に居て弾の一発も撃てねぇのはフラストレーションも良い所だからな」
ニヤリと笑いアッシュは仲間達に言う。
「さぁて仕事の時間だ! 虎とトカゲに丁重なおもてなしをして来いとさ」
「大虎に蜥蜴ですか‥‥確か、大虎はパワーと運動性に長けるという話ですね。蜥蜴は虎よりは運動性が劣りますが、電撃を吐き出すとか」
事前に兵士達から話を聞き、戦場の情報を集めていた瓜生 巴(
ga5119)がそう述べる。
「戦場ゆえ、野生以上の判断力がありそうです」
「ふむ‥‥」
ベーオウルフ(
ga3640)が呟き顎を撫でる。蛇は煙草の臭いを嫌う。蜥蜴も爬虫類ならば煙草の臭いを嫌う可能性はある――男はそう考え煙草を浸けた水にBDUジャケットを浸したいところだったが、
「急ごう皆! 早くキメラの元へ向かわないと犠牲者が増えてしまうよっ」
敵は三分――既にそれ以下だろう、あと二分弱で来る。準備している時間がない。月森 花(
ga0053)が切羽詰まった様子で言う。
「‥‥止むをえんか。兵は神速を尊ぶとも言うしな」
ベーオウルフは頷き、傭兵達は手早く役割を打ち合わせると東に向かって動き出す。
「時間のない状況って好きやないなぁ。ま、好きなヒトもおらんやろけども」
クレイフェルが冗談まじりにぼやきつつ走る。
傭兵達は丘を駆けおり東へと急行した。遮蔽物のない平野は見通しが良い。東方から駆けてくるキメラの群れはすぐに確認できた。
「久しぶりの化け物退治。さて、どこまでできるか‥‥」
敵は大虎が二匹に蜥蜴人が三匹。Cerberus(
ga8178)が迫り来るキメラの群れを見据え呟いた。
「雇われたからにはそれなりの仕事をさせていただきましょう」
狩衣姿の木花咲耶(
ga5139)が駆け抜けながら腰から太刀を抜き放つ。白銀の刃が鋭く光りを放った。
傭兵達はキメラの群れの進路を遮るよう回り込んだ後、狙撃班の月森、アッシュ、叢雲は正面から前進、蜥蜴迎撃班のクレイフェル、ベーオウルフは南から、智久 百合歌(
ga4980)は北から円を描くように、虎迎撃班の月影・透夜(
ga1806)、瓜生、Cerberus、木花も北側から展開した。
最初に仕掛けたのは最長の射程を誇る月森花だった。
「ここは抜かせない‥‥ボクの背後を取らせるわけにはいかないんだよ!」
狙撃眼を用いて蜥蜴人の頭部を狙いスナイパーライフルの銃口を向け発砲、四連射。回転するライフル弾が宙を切り裂いて飛び、次々に蜥蜴人に襲いかかる。さすがにこの距離かつ立ち撃ちでの頭部狙いは全弾命中とはいかず、二発がかわされる。しかし一発の銃弾が蜥蜴人の頭部をかすめ、もう一発が額に直撃してその鱗を割った。
月森の隣では同様の長射程を持つアッシュ・リーゲンが片膝をついて姿勢を固定し、練力を全開にしてスナイパーライフルを構えていた。
「盛大に歓迎してやろう、クラッカー代わりに鉛弾のシャワーで、な」
強弾撃の乗ったライフル弾が二発づつ、二匹の蜥蜴人に向かって飛ぶ。安定した姿勢から狙い澄まして放たれた弾丸は蜥蜴人達を次々に撃ち抜き、鱗を貫いて鮮血を迸らせた。
月森のライフルで頭部に弾丸を受けた蜥蜴人は膝をついて頭をふっている。他の二匹の蜥蜴人はよろめきつつも踏みとどまり、その顎を開いた。瞬間、爆裂する光が狙撃班の三人がいる空間を薙ぎ払う。
「――っ!」
「この距離で撃ち返してきやがったっ!」
咄嗟に地面に跳び伏せて電撃をかわす月森とアッシュ。電撃の射程はスナイパーライフルに勝る。
電撃の渦が荒れ狂う中、虎が全速で突進し、迎え撃つように叢雲が走り、姿勢を低くして地をすりながら片膝をつきSMGを構える。
「そこから先は通行止めですよ‥‥!」
フルオートで発射される弾丸が虎の行く手を遮るように撒き散らされた。その猛射撃に二匹の大虎は進路の変更を余儀なくされ横に逸れる。
だがそちらには既に迎撃班の面子が詰めていた。
「悪いな、行き止まりだ。貴様等はここで消えてもらう!」
月影透夜は豪力を発現させるとカデンサを振りかざして斬りかかった。長柄をしならせ、遠心力を乗せて薙ぎ払う。虎は咄嗟に飛び退くも避けきれずに切り裂かれた。振り抜いた槍を返し、一歩踏み込んで下方から切りあげる。虎の脚から鮮血が吹き出した。別の一匹が月影目がけて跳躍する。月影は豪力に任せて槍を振り下ろし、大虎の巨体を叩き落とす。虎の顔面が割れて鮮血が迸った。
「攻撃こそ最大の防御ですわ!」
木花咲耶は月影が攻撃を加えた虎の側面へと回り込むと蛍火を振るって連撃を浴びせかける。虎は素早く身を伏せ一刀をかわし、二刀目が虎の毛皮に突き込まれ血飛沫が飛んだ。虎が咆哮をあげ木花に向かって反撃の爪を振るう。巫女は盾でかわした。爪と盾との間で火花が散る。
瓜生は月影の眼前の大虎めがけ滑るように前進すると斧槍を繰り出した。虎の脇腹に鋭い穂先が突き刺さる。瓜生は槍を回転させながら抉り引き抜くとさらに振り上げて振り下ろした。大虎は素早く反応して後退する。振り降ろされた斧刃が大地を爆砕した。
Cerberusは胡椒瓶を取り出すと蓋を開ける。
「さて、嗅覚はどんなものだ!」
木花と格闘する大虎の顔面に投げつけた。粉末が散り、虎の顔面が胡椒で包まれる。虎はそれを吸い込んだ。盛大にくしゃみを発し始める。目に見えて動きが鈍った。
Cerberusは無防備と化した大虎に肉薄、至近距離からディヴァイスターを突きつける。
「双頭の番犬を甘くみるものじゃない」
発砲。クリティカルな弾丸が大虎の眉間をぶち抜いた。銃弾は頭蓋を砕き、後頭部から抜ける。大虎は脳漿を散らしながら地に崩れ落ちた。
●平野の戦い
「残念ね。貴方の『雷光』では、シュトラウスのようには踊れないわ」
狙撃班と撃ちあっている蜥蜴人めがけて北側から智久百合歌が突っ込んだ。速い。射程距離に蜥蜴人を捉えると急停止、靴底で地を擦り横滑りしながらショットガンを構え発砲。散弾の嵐が蜥蜴人達に襲いかかる。
散弾が炸裂した直後、瞬天速で加速した後クレイフェルが全速で、同様に瞬天速で加速、移動、瞬天速で加速、移動したベーオウルフが南側から蜥蜴人に突っ込んだ。
クレイフェルは頭部を撃たれ衝撃から立ち直っていない蜥蜴人に肉薄するとルベウスで滅多斬りにして葬りさる。ベーオウルフは突進の勢いを乗せて直刀を繰り出した。蜥蜴人はスウェーして切っ先を回避する。
「避けるな。面倒だ」
男が身に纏う光が強くなる。突きから身を捻りざま回転蹴りへと繋げ、刹那の爪で蜥蜴の脚部を蹴り抜いた。よろめいた所へ蜥蜴人の頭部めがけてイリアスを叩き込み、打ち倒す。
蜥蜴人がクレイフェルに向かって顎を開いた。咥内に光が生まれる。クレイフェルは即座に反応し飛び退いた。先ほどまでいた場所を爆雷の嵐が焼き切ってゆく。
「感電するのはごめんですね。私はそういう趣味ではありませんので」
連続して放たれる閃光の軌道を次々に見切り、瞬天速で爆雷を掻い潜る。猛烈な速度で突進するとルベウスを振りかざしてラッシュをかけた。
「無理よ。もう眠りなさい――」
クレイフェルに切り刻まれ、よろめく蜥蜴人の側面へと智久は瞬速縮地で一気に距離を詰める。地を這うような低い姿勢から蛍火で一気に斬りあげた。強烈な斬撃に血飛沫が飛ぶ。
「――Dona eis requiem.Amen」
返す刀で蛍火を横薙ぎに振るい智久は蜥蜴人の首を撥ね飛ばす。蜥蜴人は噴水のように鮮血を噴き出すと、ゆっくりと倒れていった。
●終局へと
最後の大虎は月影のカデンサによって葬り去られ、東からのキメラの群れは全滅した。
「こちらは掃除完了です。役割は果たせましたかね?」
叢雲が無線で連絡を入れる。
「よくやった。北ももう一押しでケリがつく。本陣に帰還してくれ」
「あら、もうお終い? 大尉、追加のお仕事は無いかしら?」
智久が微笑みを浮かべて言う。
「ん? なんだ、まだ余力は十分か? なら丁度良い。三班と合流して北のキメラ群を側面から突き崩せ」
「‥‥本気ですか?」
と叢雲。
「叢雲、傭兵隊の状態は可能か、不可能か?」
村上の問いに叢雲はしばし考え、
「‥‥可能、と見えます」
「なら命令する。行け。押せる時は一気に押す。その為の切り札だ」
「傭兵使いが荒いですねぇ。報酬は上乗せしてくださいよ」
「考えておこう」
かくて傭兵達は北西へと走った。
傭兵隊を加えた三班は側面から猛攻をしかけ、キメラを圧倒。丘上の本隊もそれに呼応して攻勢をかけキメラ群を粉砕した。
●戦い終わって
「どうやら、俺は戦場の方が生きれる人間らしい‥‥」
夜の本陣、星空を見上げながら一人Cerberusが呟いた。さて、今回の策は上手くはまったが次はどうか。
「はい、これで大丈夫ですわ。でも無理は禁物ですからね」
木花は救急セットを使って負傷兵の手当てをしている。
「村上、配置ミスとは珍しいな」
焚火を囲み夕食をとりながら月影が苦笑して言った。
「不破の評価が甘かったってことか? それとも不在での士気低下の考慮不足か?」
「個々の戦力の分析不足ですね」
瓜生が茶をすすりつつ淡々と言う。
「手厳しいな。言い訳はしねぇよ。だが、二度はない」
しかめっつらで煙草を吹かしつつ村上顕家。
「まーまー、結局は勝てたんやから良かったやんか。おかげで飯も美味いわ」
快闊に笑いつつクレイフェル。肉料理をぱくぱくと平らげる。
「でもほんと、これ美味しいね。誰が作ってるんだろ?」
月森がダシの良く効いている煮込みをすすりつつ問いかける。
「うん? 今日の料理当番は確か‥‥」
村上が良く焼かれた緑色の物体に目を落とし、ふと眉をしかめた。
アッシュ・リーゲンが言う。
「あ、それ作ったの俺だぜ。虎とトカゲって案外美味いだろ」
ぶふーっ! とクレイフェルがスープを吹き出した。
「‥‥虎と、蜥蜴?」
唖然として月森が呟く。
「そ、キメラの再利用って奴? 俺って環境にやさしい!」
うわはははと笑いつつアッシュ。
「アッシュ、お前なー! かなわんで、これはっ」
「怒るなって、身体に害はないし、美味いだろ?」
「そういう問題やな――」
クレイフェルの動きがピタリと止まった。
「どうした?」
首を傾げるアッシュ。その肩が背後からぽんと叩かれる。
「リーゲンさーん? ちょっと良いかしらー」
背後には素晴らしい微笑を浮かべた女が居た。
「ゆ、ゆーりさん、目が笑ってないんですけど‥‥」
「あら、なんのことかしらね」
ほほほと手を口にあてて笑うと、アッシュの襟首をひっつかむ。
「うげえっ?」
「ここじゃなんですから」
うふふふふと微笑みながら暴れるアッシュをパワーに任せていずこかへと引きずってゆく。
しばらくの間の後、
「あれは‥‥死んだな」
二人が消えていった方向を眺めながらぽつりと呟くベーオウルフ。
「ああ、死んだ」
月影が淡々と頷いた。
「戦死者一名か、やれやれだ」
村上顕家はぼふっと煙を吐き出すとくたびれた眼をして呟いたのだった。