タイトル:麦県鉄騎衆・地上の戦マスター:望月誠司

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/04/15 12:31

●オープニング本文


 中国が河南の大地。戦火によって廃墟と化した街のビルの屋上で、一人の男がスコープを手に呻いていた。
「‥‥なんだ、ありゃあ」
 男は河南省麦県で強い影響力を持つ荘胡蝶の部下である。この黒服の男は胡蝶の命令を受けてバグアの勢力地帯から南下してくるものがいないかどうか監視にあたっていたのだった。
 男が持つスコープは今、荒野を南下する巨大なキメラの群れと一機のゴーレムの姿を捉えていた。
 列の中央に見えたのは体長八mを超える巨竜プラズマトプス。太古の時代に滅んだ角竜トリケラトプスに酷似した姿を持つそれは、しかし過去に存在したそれが決して持ちえないプラズマブレスを吐き出すということで知られていた。ただし体皮の色がいつものものの緑色とは違い銀色だった。おそらく強化されているのだろう。さしずめプラズマトプスMk2といったところか。銀色の巨体を揺らし三匹の銀雷竜が横一列に並んで南へと向かっている。
 その後方から続くのは多頭竜ヒュドラらしきもの、本来五本の首を持っている筈のこの竜は、しかし現在は一本の首しか持ち得ていなかった。他の四本の首は根本から斬り落され代わりに巨大な砲門が取り付けられていた。大口径のプロトン砲だ。キメラ自体の大きさも巨大化され体長は十mを超えている。これが二匹。
 そして先頭をゆくのは肩に二門のグレネードランチャー、腰に銃を下げ、長大な槍と巨大な盾を持つ銀色の鉄巨人、ゴーレムのエース機だ。その手に持つ盾はあらゆる攻撃を弾くという。
「‥‥こいつぁ不味いぞ」
 黒服の男はスコープを下げると慌ててビルの内部へと入り、麦県の荘胡蝶へと報せるべく通信室に向かった。

●麦県鉄騎衆
「キメラの群れが向かって来てるですって?」
 中国が河南省にある麦県で強い影響を持つ荘胡蝶が部下からの報告に眉根を寄せた。
「は、北方より大型キメラが多数、麦県目指し南下中との事。確認されているのは銀雷竜が三匹、機械化されたヒュドラが二匹、そして指揮をとっていると思われし銀の鉄巨人が一機です」
 黒服の報告にチャイナドレスに身を包んだ少女は小気味良い音を立てて扇を広げると、
「性懲りもなくまた来たアルか。よろしい、受けて立つアルよ。鉄騎衆を出すよろし!」
 麦県鉄騎衆、荘胡蝶がULTの傭兵達を雇い常備させている傭兵部隊だ。軍からの許可を得てKVも備えさせている。
「姐さん、姐さん、てぇへんだ!」
 と、そこへ突如としてもう一人の黒服が血相を変えて飛びこんできた。
「どうしたネ、今、忙しいあるヨ」
「こっちも火急でさぁ! 西から赤竜が三匹、麦県に向かって飛んできてるそうです!」
 レッドドラゴン、宙を飛ぶ超大型のキメラ、高い機動力を持ち爆裂する火球を吐き出すという。
「な、なんですってぇっ?」
 荘胡蝶はその報告に扇を取り落とす。
「ど、どーしやしょう」
 若い黒服があわをくった様子で言う。
「‥‥どーするも、こうするも、迎え撃つしかないネ。そっちにも傭兵を出すよろし!」
「陸と空から同時に来ましたか‥‥いよいよ本腰を入れて攻めてきた、ということですかね」
 壮年の黒服はあくまで落ち着いた様子で言った。
「出せる兵力には限りがあります。どちらを優先させますか?」
「数には数を。多数で攻めてきている陸には、数を当てなきゃならないネ‥‥」
「でも赤竜は強敵ですぜ」
「解ってるネ! 今どうするか考えてるヨ!」
 少女は形の良い眉を歪ませてしばらく唸り、そして無線を手に取った。
「鉄騎衆、聞こえてるアルか? こちら荘胡蝶ネ。また命を賭けての博打の時間がやってきたアルよ。敵の数は九、北から陸上戦力が六、西から航空戦力が三、こちらも部隊を分けて迎え撃つよろし。決してバグアどもをこの麦県に汚れた足で立ちいらせるんじゃないヨ。それぞれの担当は――」
 少女は張りつめた声で指示を出す。かくて、再び河南の大地で戦いの火蓋が切って落とされる事となる。

●参加者一覧

吾妻 大和(ga0175
16歳・♂・FT
クロード(ga0179
18歳・♀・AA
エミール・ゲイジ(ga0181
20歳・♂・SN
伊佐美 希明(ga0214
21歳・♀・JG
皇 千糸(ga0843
20歳・♀・JG
シエラ(ga3258
10歳・♀・PN
葵 コハル(ga3897
21歳・♀・AA
月神陽子(ga5549
18歳・♀・GD

●リプレイ本文

「‥‥また自爆付きが来た」
 クロード(ga0179)がコクピットの中で呟いた。
「シルバーゴーレム? 懲りずにまぁた来ますか‥‥ふむ、三度目は無いって事、教えてあげないとね」
 と葵 コハル(ga3897)。
「あ、そうだボス。今回も町の人達を避難、させといた方が良いカナ?」
 無線に向かって葵が言う。
「ああ、それは黒服と待機組の面子でやっとくアル。出撃班は気にしなくても大丈夫アルよ」
 胡蝶からはそんな返事が返ってきた。
「了解ー」
「ところでボス、中国の人ったらホントに語尾に「アル」付けるのな」
 面白そうに言うのは吾妻 大和(ga0175) だ。
「ほっとくよろし。そんな事いってる間があるならさっさと迎撃に出るあるヨ!」
「たっはー、了解、了解、お仕事お仕事っと」
 吾妻は飄々と言って、操縦桿を握る。
「さーて麦県鉄騎衆、出るぜ!」
 八機のKVが北の空へと飛び立った。

●無いんです
 ほどなくして戦場に辿り着いた一同は人型に変形して舞い降り、トラップを仕掛ける為の穴を掘り始める。
「それにしても良く襲われる街よね」
 皇 千糸(ga0843)が言った。
「こう言ってはなんだけど、何度も襲撃するだけの価値があるのかしら。街には兵器工場があるだけよね?」
「さぁ‥‥でも西にいけば許昌がある。許昌から南へは街道が伸びてる。その先をずっと降ってゆくと激戦地の武漢。横合いから補給線断たれるのが嫌だから潰しとけって事じゃないカナ?」
 葵コハルが首を傾げつつ言う。
「それだけで? でも、うーん‥‥何度も侵攻を阻止されて、意地になっているのかしら」
「一番ありえそうな理由だから困る」
 と伊佐美 希明(ga0214)。
「やれやれ、守る為に撃退するのに、撃退するから狙われるとはねぇ」
 肩でも竦めそうな口調で吾妻。
「‥‥皮肉なものです」
 シエラ(ga3258)がぽつりと呟いた。
「ま、他にも何かあるのなら、そのうち我らが雇い主が教えてくれるかしらね」
「ところで‥‥地面にフレア弾を埋めちまってどうやって起爆させるんだ?」
 エミール・ゲイジ(ga0181)が問いかけた。
「それはですね、遠隔起爆装置で爆破しますわ」
 月神陽子(ga5549) が答えた。
「‥‥フレア弾に、そんな装置、ついてた?」
 クロードが首傾げる。
「確か大規模作戦では‥‥あら?」
 実はフレア弾に遠隔起爆装置というのは自作でもしない限り無かったりする。

●戦
 へこむ月神を励ましつつ一同はV字型の陣形を取り待ち受ける。
「来ましたね‥‥」
 シエラが呟く。黄砂吹き荒ぶ彼方から銀のゴーレムが二匹の電撃竜と三匹のヒュドラをひきつれ姿を現した。
「ふ、ふふふ‥‥血祭りにしてさしあげますわぁ」
 覚醒し彼方からくる敵を見据え月神。怖い。人、それをやつ当りという。
 バグア側はゴーレムを中心に横一線に広がった。砲戦を挑むつもりらしい。行軍陣形のまま戦いには突入したりはしないようだ。西から銀雷竜斜め後ろにヒュドラ、斜め前に銀雷竜、隣にゴーレム、斜め後ろにヒュドラ、斜め前に銀雷竜といったW型の陣形だ。
「行くぞ!」
 エミールが言った。小細工なしの真っ向勝負だ。八機の鉄騎衆と六体のバグア軍が互いに前進し、KVとゴーレムが走輪走行で加速し、キメラ達が地を揺るがして駆けだす。
 150程度の距離で伊佐美機がSRD‐02で射撃を開始する。狙いはヒュドラだ。鋭い弾丸が唸りをあげて飛び、ヒュドラを直撃する。皇機も前進を続けながら銀色のゴーレムへと向けてSRD‐02を撃ち放つ。ゴーレムが盾をかざす。甲高い金属音と共に弾かれた。
 首の代わりに四門のプロトン砲を持つ二匹のヒュドラから合計二十四条の淡紅色の光線が放たれ、三匹の銀電竜の顎から地平を薙ぎ払う荷電粒子のブレスが吐き出される。ゴーレムが肩に備えた大砲を向け、爆裂する火球を撃ち放った。
 猛烈な射撃が荒れ狂う中、KVは前進する。撃ち合いはバグア側の方が優勢か。
 月神機にゴーレムから放たれる爆炎が次々に命中する。西よりブーストで突撃する吾妻機へもブレスとプロトン砲の嵐が命中する。幾つかをディフェンダーで斬り払いかわすが数が多い。全ては防ぎきれず雷撃の渦と光線に装甲が削られてゆく。同様にブーストで突撃する葵機は避けられない。キメラ達の猛攻にディアブロの装甲が恐ろしい勢いで吹き飛ばされてゆく。損傷率が八割を超えた。
「この山猫の眼が見逃すと思うなっ」
 伊佐美はレティクルに葵機へと猛攻を加えるヒュドラの頭部を収めるとアグレッシヴ・フォースを起動させて撃ち放った。強烈な威力を秘めた弾丸が空を裂いて飛びヒュドラの額を直撃する。ヒュドラが鮮血をまき散らしながら苦悶の咆哮をあげた。プロトン砲の砲撃が明後日の方向へと逸れてゆく。
 猛火が荒れ狂う中、クロード機は東側へ回り込むよう進みつつバルカン砲で弾幕をまき散らした。銀雷竜の身に砲弾が叩き込まれ注意がそちらへと向き、三連の雷撃が吐き出される。クロード機は回避を重視した機動をとっているが全弾は避けきれない。二条の雷光が直撃する。
 エミール機は距離を詰めつつエースへと向けてレーザー砲を撃ち放つが、盾に弾かれる。シエラ機もガトリング砲でゴーレムへと弾幕を張りながら進むが、正面からでは全て盾に弾かれる。月神機はディフェンダーで火球を受け止めつつ雷竜へと駆けた。
「アメノムラクモ、いざヤマタノオロチ退治で‥‥って言うには、ちと頭の数が足んないかってな!」
 荒れ狂う閃光をディフェンダーをかざして突き破り、彗星の如く吾妻機が斬りかかった。ブースト機動ですれ違いざま、ヒュドラの胴を大剣でかすめ斬る。アグレッシヴ・ファングが乗ったその一撃は鱗を泥のように斬り裂き鮮血を噴き上がらせた。ヒュドラが咆哮をあげる。
「葵顕流・空技! 颶風刃!!」
 葵コハル機は関節部から火を吹きながらもブーストで突っ込み吾妻とは別のヒュドラへとソニックブレードで斬りかかる。振動剣がプロトン砲の砲身と火花を散らし、分子のレベルで鮮やかに断ち切る。ディアブロは装甲は薄いが流石の威力だ。
 銀のゴーレムが動いた。エース機は背面からバーニアを吹かせると真っ直ぐに月神機に向かって突っ込んでくる。
(「狙われてる‥‥?!」)
 月神の真紅のバイパー、夜叉姫は特徴的だ。性能的にも狙われやすい。亀やゴーレムを北米で瞬殺してくれた彼女は、敵側からすると一番フリーにさせたくない。
 月神の第一の任務は銀雷竜の撃破だが、しかし眼前のエースは易々とゆかせてくれる相手だろうか。背後から斬られるのは流石に避けたい。一瞬の逡巡の合間にも銀色のゴーレムは盾を構え、槍をふりかざし突っ込んでくる。
「行かせては‥‥くれないみたいですわね!」
 月神は迎撃する事に決めた。左にディフェンダーを構え、右の爆槍ロンゴミニアトを引き絞り夜叉姫が駆ける。
 真紅のバイパーが踏み込み爆槍を突き出す。シルバーゴーレムは盾で受けた。穂先が鉄壁を誇る盾の表面を削り、大爆発を巻き起こし、ありえない程の激烈な破壊力が荒れ狂う。しかし、ゴーレムが持つ鉄壁の盾はそれを凌いだ。カウンターの槍撃がバイパーのコクピット目がけて振り下ろされる。
 月神機は間一髪で身を捻り直撃を避ける。ぎゃりぎゃりと音を立てて装甲が削れていった。
「っ‥‥!」
 コクピットを貫かれれば即、アウトだ。そうそう当たるものでもないが、敵の攻撃は速く、そして鋭い。
「簡単にはっ!」
 夜叉姫のSES機関が唸りをあげ、速度が加速する。ブーストスタビライザーだ。真紅のバイパーは爆槍を嵐の如く繰り出す、銀のゴーレムの盾が受け止め、槍が払い、爆炎が巻き起こる。ゴーレムからの駆動音が強くなる、全開になった。嵐のごとき槍撃の応酬。ゴーレムから豪槍が繰り出され、ディフェンダーがそれを受け流す。強烈な衝撃に夜叉姫の機体が悲鳴をあげた。一旦後方へと跳ぶ。
「三度目の正直! 今回こそキッチリ墜としてあげるわ!」
 皇機とエミール機が前進しレーザー砲を連射する。エミール機は狙いを散らし、盾での防御を困難にするようにレーザーを放つ。しかしゴーレムは大盾をかざし半身になって全身のほぼ全てを盾で隠した。レーザーの嵐は次々に大盾に弾かれる。
 左肩の砲門が動きエミール機に向けられた。赤い光が膨れ上がり爆裂する火球が飛ぶ。高い運動性を誇るエミール機をもってしてもかわし切れず、半身を爆炎に焼かれる。
「将を射るにはまず馬から‥‥シエラ=ライヒテントリット‥‥参ります」
 一方、ゴーレムをすり抜けその奥へと向かったシエラ機は槍と盾を構えて重心低く銀雷竜の一匹へとチャージをかける。銀雷竜は首を巡らせると、荒れ狂う雷光の嵐を吐き出した。S‐01を爆雷が焼き焦がす。
「アインツ‥お願い‥‥もうちょっとだけ、付き合って‥‥っ」
 激しく明滅する世界の中でシエラが愛機へと呟く。雷が晴れた。目の前には銀雷竜の巨体。S‐01アインツはSES機関を唸らせ、矢のように突っ込む。雷竜が迎え撃つよう牙を剥いた。白と紫淡の機体は突撃の勢いを乗せユニコンズホーンの切っ先を繰り出した。

●死闘
(「動き自体は資料と大差は無い、ならばやれる」)
 クロード機はシエラ機と格闘戦を繰り広げる銀雷竜の側面へ素早く入り込むとソニックブレードで横腹へと斬りかかった。振動する刃が白銀の装甲を削り裂く。さらに同じ個所へと連撃を浴びせかけると鮮血が吹き出した。
 激闘が続く。葵機はヒュドラのプロトン砲を三門破壊し手傷を与えたが、反撃に撃ち抜かれ大破した。吾妻機は左右に動いて上手くプロトン砲の射線を外し、隙を見てはディフェンダーで斬り刻んで優位に戦いを進めている。
 伊佐美機はフリーになっている二匹の銀雷竜への抑えに回った。遠距離から狙撃し注意をひく。雷光が撃ち返されるが距離がある為なんとか避けられる。
 シエラが駆るアインツは爆雷の嵐を浴びつつも頑強さで粘り、クロード機と連携して銀雷竜へ猛攻を加え打ち倒す。
 月神機はエース機と爆炎をまき散らしながら格闘戦を繰り広げている。エース機の槍撃をディフェンダーで受け流す事は可能なのだが衝撃を殺し切れず、左腕のフレームがおかしな方向に曲がり、機体が火を吹いていた。
 エミール機は中距離から皇機は近距離からレーザー砲で攻撃を仕掛けているが、盾で防がれている。時折ゴーレムから火球がエミール機へと飛んでくるが、距離をとり運動性を増したエミール機はそれを紙一重でかわしていた。
 吾妻機がヒュドラの胴へ深々とディフェンダーを突き刺し生命活動を強制停止させる。伊佐美機は電撃竜へと撃ち合いつつ一方へと射撃を集中させる。その銀雷竜へとクロード機が側面より格闘戦を仕掛け撃破した。シエラ機はゴーレムへと向かう。
 月神機の左腕が吹き飛んだ。ディフェンダーを握った腕がくるくると回転しながら宙を舞い、落ちる。損傷率が八割を超えた。レッドランプだ。

●蒼い光
「この前の借りは、お返しします‥‥!」
 ゴーレムの背後からシエラ機が盾を構えてチャージしぶちかましをかけた。ブレス・ノウを発動させ、たたらを踏むゴーレムの後背から槍を突き出す。
 ゴーレムが素早く反転し、豪槍を繰り出す。強烈な一撃に装甲が突き破られS‐01が吹き飛んだ。激しく漏電し爆発、煙をあげて動かなくなる。
 シエラ機が突進した瞬間、射撃に徹していた皇機がそれまでにない動きをみせた。フルブーストで突進し腕を振り上げ光を掲げる――蒼光のレーザーブレード、雪村だ。
「刺し、穿つ!」
 S‐01のコクピットの中で皇千糸が裂帛の叫びをあげた。乾坤一擲の一撃だ。ゴーレムが咄嗟に振り返り盾を掲げる。しかし防御が遅れた。眩い光がシルバーゴーレムの肩部装甲をぶち抜き貫き通し、盾を持つ腕が落ちる。
「――捉えました」
 間髪入れず隻腕の夜叉姫が爆槍を繰り出した。圧倒的な破壊力を秘めた切っ先が分厚い胸部装甲を突き破る。
「貴方がたとえどれだけ硬くとも、この一撃を防ぐことはできません!! ロンゴミニアト、全弾開放!!」
 穂先より液体火薬が噴出し、次の瞬間、凄まじい爆裂を巻き起こす。銀のゴーレムが爆炎に包まれ、轟音をあげ内部より装甲が弾け飛ぶ。
 だが――恐ろしいことにそれでもゴーレムは動きを止めなかった。頑強さにかけては比類がない。炎に包まれながらも竜巻の如く槍を振り回す。炎を纏った豪槍が皇機を吹き飛ばし、月神機を刺し貫く。カウンターの一撃を受けて夜叉姫は電撃をまき散らしながら爆裂、大破した。
「エミールにいさん!」
 彼方よりライフル弾が飛来し、ゴーレムの頭部に直撃する。エミール機は皆まで聞き終える前に走り出していた。仲間達が繋げに繋げた千載一遇のチャンス。
「おおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」
 雄叫びをあげエミール機が突進、灼熱の塊と化しているゴーレムへと向け鋼鉄の筒を振り上げ握り締める。ゴーレムが月神機より槍を引き抜き、迎え撃つように掲げる。金属の筒から眩い光が解き放たれる。超圧縮のレーザーブレード雪村だ。
 豪槍が突き出され、光の刃が振り下ろされる。光と槍が激突した。

●その最後
「ふ‥‥ふふふふ、なかなか、面白かったのぅ」
 エミール機の胴には槍の月牙が叩き込まれている。しかし、それは既にゴーレムから離れていた。光の刃は肩口から入り、腹の中程までを切断していた。
「人が乗っていたのか‥‥」
 エミールが呟く。
「もうこの機体には戦う力はない。儂の負けだ」
 燃えゆく機体から声が響き渡る。
「‥‥儂を倒したんじゃし一つ、良いことを教えてやろう」
「なんだと?」
「この機体はな‥‥万一の際には武器防具まとめて自爆するように出来とるんじゃ」
 一瞬エミールの頭が真っ白になる。自分の機体はまだ良いとしよう。だが回りには大破した仲間達の機体が転がっている――不味くないか?
「儂にも止められん。幸運を祈ろう」
 ゴーレムの瞳から赤い光が消えた。
「‥‥俺がやるしかねーか畜生ぉおおおおおおお!!」
 エミールは盾を拾い上げ、燃え盛るゴーレムに組み付くとブーストし、空へと向かって跳躍した。
 ――三秒後、荒野の上空で壮絶な大爆発が巻き起こった。

●終局
「に、にぃいいいいさぁああああああああん!!」
 吹きつける爆風の中、伊佐美の叫びが鳴り響くが戦いは続く。まだヒュドラと銀雷竜が残っている。ゴーレムと五機がやりあっている間にも吾妻機とクロード機は超大型キメラと戦い続けていた。
「たっはー、ここで俺達がやられると洒落にならないねぇ‥‥!」
 吾妻機がプロトン砲を掻い潜りヒュドラの側面へと肉薄する。
「負けは‥‥しない!」
 爆雷の嵐に呑まれつつもクロード機が銀雷竜へとソニックブレードを構え突進する。
 轟音が河南の古戦場に鳴り響いた。

 結果
 自軍=戦死者無、大破四機、中破二機、小破一機。
 敵軍=全滅。