●リプレイ本文
春の某日、中国河南の空の上、六機のKVが舞いあがった。
「落ち着けよ、遊馬琉生。シミュレーション通りにやるんだ‥‥大丈夫、怖くない‥‥」
茶色の髪の少年、遊馬 琉生(
ga8257)がF‐108ディアブロのコクピット中で呟いた。操縦桿を握り直し、計器をチェックする。
「システム良好。これより作戦行動に移る」
「こちら九条、ヨロシク頼むぜ遊馬!」
R‐01を駆る九条・運(
ga4694)の声が無線機から響き渡る。
「おう、こっちこそよろしく頼むぜ、九条ー!」
傭兵達は二機編隊を組んで作戦にあたることに決めていた。遊馬と九条、ハルカ(
ga0640)とファルロス(
ga3559)、シェスチ(
ga7729)と御山・詠二(
ga8221)といった編成だ。
「地上の方は厳しい戦闘になってるはず‥‥こっちがしくじる訳には‥‥いかないよね」
シェスチが呟いた。彼の愛機はS‐01だ。クドリャフカと命名してある。
「ああ、地上が抜かれたら街は瓦礫の山だが、俺達が抜かれても火の海だ。失敗する訳にはいかないぜ」
と九条。事前の情報によれば敵は体長十mを超えるレッドドラゴンだという。音速で飛行し爆裂する火球を吐きだす超大型キメラだ。
「火を吐くキメラか‥‥」御山詠二は覚醒により炭化したがごとき己の右腕を一瞥して呟いた。「進ませるわけにはいかんな」
「そうだな‥‥しかしその為にもまず敵を発見しない事には話にならない」
岩竜に乗るファルロスが各機に言う。
「九条の案の通り、俺とハルカが西、九条と遊馬が北西、シェスチと御山が南西、三方に散って索敵しよう。散開する範囲は俺を中心に二十キロ以内だ。それで良いな?」
「委細承知〜問題ないよー!」
ハルカの快闊な声が無線から響き渡った。
「では状況を開始する。一匹たりとも行かせるわけにはいかない。皆、気合いれていくぞ!!」
『応!』
ファルロスの言葉と共に六機は三方へと散った。
●火竜
麦県の西の空、ファルロスが彼方から迫ってくる三つの赤点を確認する。
「っ!? 団体さんのお出ましだ!」
銀髪の男が無線に向かって叫ぶ、
「こちらファルロス、火竜三匹を発見、至急応援を求む!」
各機から了解の報が入る。すぐにブーストして飛んできてくれる筈だ。
「ハルカ、増援到着まで持ちこたえるぞ」
「はいよー!」
コクピットから空を舞う龍の姿が見えた。まだ小さい点だが、みるみるうちに大きくなってゆく。KVと火竜の距離が詰まり、やがて射程距離に入った。
「当てるっ」
先手を取ったのはハルカ機だ。正面から火竜を照準に捉えロックオン、限界射程からG‐01ミサイルを連射する。四連の誘導弾が宙を裂いて飛んだ。四発のミサイルは狙い違わず赤竜に命中、大爆発を巻き起こす。
次いでファルロスもまた試作型G放電装置で攻撃を仕掛けた。眩いばかりの電撃の渦が別の一匹へと伸びる。雷光が赤竜を絡め取った。
ミサイルの直撃を受けた赤竜は爆炎を裂いて飛び出し、鮮血を迸らせながらもハルカ機に迫る。残りの二匹はファルロス機へと真っ直ぐに向かってきた。
赤竜達は顎を大きく開くと、咥内の奥から燃え盛る炎を膨れ上がらせる。次の瞬間、巨大な火球を吐き出した。爆裂する火の球が音速を超えて飛び、ハルカ機とファルロス機に激突する。激震が両機を襲った。凄まじい熱波が荒れ狂い表面装甲を吹き飛ばす。二発の火球を受けたファルロス機は装甲も薄く、危険だった。けたたましくアラームが鳴り始める。
位置が交錯し、KVが旋回し、赤竜が宙返る。三匹の赤竜と二機のKVが入り乱れての格闘戦になった。
「させないっ!」
ハルカは一匹に背後につかれつつも、ファルロス機を追い回している二匹のうち一匹へとガトリング砲で攻撃を仕掛けた。赤竜の機動を読み弾丸を叩き込む。注意をひくのが目的だ。横合いからの猛射にレッドドラゴンはたまらず旋回して離脱を計る。痛打を与えてくれたハルカ機へ怒りの咆哮をあげると翼を空打ちし弾丸のごとく迫る。
まずは援軍が来るまで持ちこたえなければならない、ハルカは攻撃は牽制程度に抑えて回避を重視した。距離を離し、赤竜の攻撃するチャンスを潰させる。しかし二匹の赤竜もまた素早い、ハルカ機の背後にくらいつくと、それぞれ火球を撃ち放つ。炎が炸裂しR‐01の機体が激しく揺れた。
一方のファルロス機は牽制も控え完全に回避に専念していた。しかしそれでも岩竜の機動力だと厳しい。引き剥がそうと様々なマニューバを駆使して動くも瞬く間に背後に詰められる。
赤竜の顎から爆裂する火球が放たれた。岩竜を炎の嵐が包み込み爆風が装甲を融解させ吹き飛ばす。損傷率五割八分、このままでは不味い。
だがその時、北の方角から炎とは違う、赤い光が輝いた。
「生きてるかーっ!!」
遊馬のF‐108と九条のR‐01が超音速で北方より突っ込んでくる。
「目視、捉えた。これより援護を開始する」
さらに南からは詠二のF‐108とシェスチのS‐01クドリャフカも到着する。
(「思っていたよりも機体が軽い‥‥実験機とは違う‥‥!」)
戦闘空域に到着した遊馬は照準をファルロス機を追い回す赤竜に合わせつつ胸中で呟く。機体に慣れることだけに集中したいところだったが戦場ではそんなこともいってられない。
(「けど‥‥やってやるッ!」)
ロックサイトが赤く切り替わる。捉えた。
「FK6、FOX−2!!」
F‐108よりAAMが発射され、激しく煙を噴き出して飛ぶ。誘導弾が赤竜に直撃し爆発を巻き起こした。
「黄金の破壊龍の紋章にかけて! 貴様等一匹残らず叩き落して、大地の滋養にしてやるッ!」
九条が咆哮をあげR‐01を突っ込ませた。遊馬のターゲットに目標を合わせAAMを撃ち放ち、直撃させる。
「シェスチ、こちらも仕掛けるぞ!」
「OK、君に合わせる‥‥一気にカーテンコールといこうか!」
詠二機が遠距離からロケット弾を連射する。ドラゴンは素早く反応し、急降下して次々と避けた。そこへクドリャフカからAAMが撃ち放たれる。誘導弾が音速を超えて飛び爆発を巻き起こした。
だがレッドドラゴンはまだ健在だった。二匹の赤竜が咥内から火球の嵐を吐きだしハルカ機に猛攻をかける。六連の火球が爆裂しR‐01を焼き尽くさんと荒れ狂う。激しい攻撃に装甲が凄まじい勢いで削られてゆくが、ハルカ機はR‐01の割にタフだった。損料率五割強、まだいける。
もう一匹の赤竜は回避に専念し距離を離しにかかっているファルロス機よりも、攻撃を仕掛けてきた者への敵意が勝ったか、翼をはためかせて方向を素早く転じさせる。目標は――遊馬機、一気に距離を潰し火球を二連射する。
遊馬は迫りくる火球に対し84mm8連装ランチャーを発射。三十二発のロケット弾を撒き散らして弾幕を張る。火球とロケット弾が激突、空を揺るがして爆炎の華を咲き乱らせた。
赤光が荒れ狂う中、ハルカ機が攻勢に出た。ジェット噴射ノズルを操作して機体を急転させ赤竜より背後を取り返す。
ガンサイトにターゲットを納めアグレッシヴ・ファングを発動、ガトリング砲を猛射し誘導弾を撃ち放つ。凄まじい破壊力を秘めた弾丸が赤竜の鱗を次々に突き破り、ミサイルが爆裂の嵐を巻き起こしてその真紅の巨体を大地に叩き落とした。
九条機は遊馬機と背後の取り合いをしている赤竜の背後に回り込みAAMを三連射する。近距離から放たれた誘導弾は空を裂いて飛び全弾命中、爆炎の嵐を巻き起こした。
ハルカ機を追っているもう一匹の赤竜に対しシェスチがロックサイトを合わせる。
「‥‥まだ、喰らい付く‥‥非力でも、僕とクドリャフカの牙は‥‥簡単には抜けない‥‥!」
ターゲットロックオン、ミサイルフルバースト。クドリャフカが咆哮をあげ三連の誘導弾が空を裂いて飛んだ。ミサイルは赤竜に直撃し、その身を大きく揺るがせる。
その瞬間を御山詠二は見逃さなかった。アグレッシヴ・フォースを発動。ディアブロのSES機関が唸りをあげ、圧倒的なパワーが火器に送り込まれてゆく。
レティクルに赤竜の巨体を捉え、発射ボタンを押し込む。ロケット弾が連射され、勢いよく飛び出し赤竜の身に突き刺さった。破壊力が飛躍的に増した砲弾が爆裂し、猛烈な破壊の嵐を巻き起こして竜の巨体を消し飛ばす。
「これで最後だッ! FK3、FOX−2!!」
九条・運はアグレッシヴ・ファングを発動させるとホーミングミサイルで猛攻をかけた。三連の誘導弾が爆裂し、火竜の身を次々に爆ぜさせる。最後の火竜が断末魔の悲鳴をあげながら墜落していった。
●終局
遊馬の言で一同は地上に降りて赤竜の生死を確認した。三匹の赤竜は一匹が荒野で、一匹が川のほとりで、一匹が街の外れで確認された。
「街中に落ちなくて良かったぜ」
上空へと舞い戻った遊馬が無線にむかってほっと呟く。
「そうだねー、良かった良かった――考えてみれば、下で暮らす人にとっちゃえらい迷惑だよね」
とハルカ。
「だが戦わない訳にもいかん‥‥座して死を待つ訳にはいかんからな」
御山が淡々と呟く。
「難儀なもの‥‥だね」
シェスチがぽつりと呟いた。
「やれやれ‥‥どっかの巨大ヒーローも、そんな事に頭を悩ませながら戦ってたんだろうか」
九条運は嘆息して呟いたのだった。
かくて西の空より飛来した赤竜は全て撃退された。
勝利の報を手に街に帰還した時、一同は地上部隊が夥しい被害を出しながらも銀のエースを撃破した事を知る。
空陸の部隊の活躍により、麦県に攻めよせてきたバグア軍は全て撃退され、街は束の間の平穏を取り戻したのだった。