タイトル:マドラガンの魚人マスター:望月誠司

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/04/19 14:43

●オープニング本文


 マドラガンという名の町がある。
 東南アジアのとある島にあるその町は、北東を海に面し、南を草原と接し、西に山を持つ。
 陸海の道を備えるその町は、治安は悪いが交通の要にある事もあり、小規模ながらそこそこ潤っていた。
 しかし二ヶ月前にキメラの襲撃を受け、町は多大な損害を受けていた。現在はその再建の途中だ。町民達は町に大きな被害が出たのは周辺のキメラを放置した町長の怠慢であると考え、連日役場へと押しかけた。
 襲撃してくるキメラに脅え、押しかけてくる町民に脅え、町長は職務を放り投げて安全な国へと逃亡した。
 その後に町長として新しく席に座らされたのが元は町医者であったルーサー=ハルドラッドである。二十台後半の冴えない風貌の男で、癖の強い茶色の髪と常にぼーっとしているような瞳を持っている。
 新町長は就任するや否やULTへと依頼を出した。内容は南の草原に棲む体長三メートルを超えるドレイクの退治だ。
 そしてULTからやってきた十人の傭兵達はこれを瞬く間に退治してみせた。
「夕食時に話をうかがってみたところ、なんというか、楽勝! という感じだったみたいですね」
 秘書がハルドラッドの机の前に紅茶のカップを置きながら言う。
「どうも、そうみたいだねぇ」
 ハルドラッドは礼を言ってカップを受け取ると口をつけて啜る。
「さすがはULTの傭兵達、といったところでしょうか」
「伊達で世界を股にかけてバグアと戦っている訳ではないようだね。これなら、二つ一気に片付けてもらっても大丈夫かな」
「と、言いますと?」
「今回は二手に別れてもらって、それぞれ山と海をお願いしよう。少数精鋭でいってもらう、人件費も馬鹿にはならないからね」

●魚人退治
 かくてルーサー=ハルドラッドは挨拶もそこそこに町にやってきた貴方がたに言った。
「貴方達に頼みたいのは魚人の退治だ。海岸沿いに洞窟が一つあるのだが、そこがどうやら魚人達の巣になっているらしい。
 洞窟は海に繋がっていて中背の男の膝程まで水深がある。潜水される事はないだろうが、動きづらいだろうね。中は暗いから光源の確保も忘れずに。懐中電灯くらいならこちらで用意しよう。
 魚人の体長は成人男性と似たりよったりだね、結構個体差もあるらしい。連中は何処で手に入れたのか知らないが銛を使うようだ。また水の玉を高速で撃ちだして攻撃してくるタイプの者もいるとか。注意を払った方が良いだろうね。
 解っているのはとりあえずそんな所かな。
 私のぼんやりとした日々を取り戻すために力を貸してほしい」

●参加者一覧

シエラ・フルフレンド(ga5622
16歳・♀・SN
フォル=アヴィン(ga6258
31歳・♂・AA
不知火真琴(ga7201
24歳・♀・GP
レイアーティ(ga7618
26歳・♂・EL
レカミエ(ga8579
14歳・♀・BM
レイジ=エディアール(ga8580
20歳・♂・SN

●リプレイ本文

「ご質問させてもらってもよろしいですか〜っ?」
 依頼の説明を受けた後、シエラ・フルフレンド(ga5622)がそう町長に問いかけた。ちなみに彼女はマドラガンへやってくる前にLHで曳光弾、蛍光弾丸の支給を申請していたのだがそちらは通らなかった。原則、LH本部では依頼へ赴く傭兵への弾薬類の無料支給は行っていない。
「うん、何が知りたいのかな?」
 冴えない容貌のルーサー=ハルドラッドは癖のある髪をかきつつ言う。
「えっとですね、洞窟の詳細って解りますかっ?」
「解らないねぇ」
 あっはっはとルーサー。
「えー!」
「その洞窟は入り組んでいてねぇ、危ないから昔から立ち入りは禁じられているんだよ」
「ではせめて、地図などはありませんか?」
 レイアーティ(ga7618)が問う。
 町長は首を横にふった。
「申し訳ないね。助力したいが、無い袖はふれない。しがない私に出来るのは懐中電灯を貸し出すくらいさ」
 という訳で一同は懐中電灯だけを手に役場を後にした。
 シエラやレイアーティ、フォル=アヴィン(ga6258)、レイジ=エディアール(ga8580)などが中心となって町で聞き込みを行ったが、やはり洞窟に関しては目ぼしい情報を得る事は出来なかった。
 しかし、猟師達に聞き込みを行いこの時期の干潮と満潮の時刻を知る事はできたので、傭兵達は干潮時を狙って洞窟へと突入する事に決めた。

●海辺の洞窟
 夜の海辺、煌く月光が砂浜を照らしている。静寂の中、潮騒が響き、涼やかな風が一陣抜けていった。
「さて‥‥行きましょうか」
 フォル=アヴィンが借り受けた懐中電灯を左腕に紐で巻きつけつつ言った。
「ご主人様と一緒に初めての傭兵稼業です。がんばります♪」
 と犬獣人の少女レカミエ(ga8579)が言った。「ボクはご主人様の飼い犬、狩猟犬になって魚人狩りです!」と気合を入れている。
「あっ、ちょっとまってください〜っ」
 シエラが制止をかけた。
「どうしました?」
 レカミエの主であるレイジが訝しげに問う。
「えへへ‥‥ちょっと着替えてきますーっ」
 と言ってシエラは岩陰へと小走りに消えていった。少々の間の後、ランタンを腰にさげた制服姿で出てきた。
 特に変わったところは見当たらない、多分、見えない部分が変わったのだろう。
「それじゃ、改めていきますかー」
 不知火真琴(ga7201)がSMGを携え言う。
 洞窟は海と繋がっており、中には水が満ちている。一同は足に冷たい水の感触を覚えつつ、水面を割って洞窟内へと入っていったのだった。

●蒼と闇と
 洞窟内は闇に閉ざされていた。遠くからの海嘯の音と、自分達が水面を割る音が聞こえる。
 一同は電灯とランタンの光で闇を裂き進む。光の帯を受けて水面が蒼く煌いていた。
 通常は成人男性の膝ほどまで水嵩があるが、干潮時を狙って入ったこともあり、今はそれよりも水面は低い。
 出来るだけ足音を立てぬよう、銃器等が水に濡れぬよう、奇襲などにも注意を払い、傭兵達は慎重に進む。隊列はフォル、シエラ、レイジ、レカミエ、レイアーティ、不知火の順だ。
 洞窟内は入り組んでおり、時々分かれ道などがあった。シエラが耳を頼りに気配を探り、フォルは木桶を取り出すとスブロフ瓶口に布を詰めたものに火をつけて奥に流した。
 何度かそんな事を繰り返しながら奥へと進んでゆくと、突如左方より何かが飛来し十字路に流した木桶が爆砕した。何者かが木桶を狙って攻撃を放ったのだ。
 左の曲がり角の向こうにいる。
 一同はそれぞれ武器を構えた。
「皆、行きますよ」
 フォル=アヴィンが照明銃を手に飛びだした。水飛沫をあげながら左の通路に向きなおり発砲、光の玉が飛んでゆく。もっとも先頭にいた影に光球が炸裂し、真っ白な閃光が洞窟内に溢れた。
 射撃武器を持つ者達が一斉に通路に飛び出す。光の収まった洞内へ懐中電灯を向け照らす。居た。半魚人ではない、まさに魚人。銀の鱗を持つタイそのものに人間の手足がついている。またバグアは何かを勘違いしたのか。それとも東南アジアだけに南国に影響されたのか。
 傭兵達は狙いをつける。水弾を吐き出すタイプを先に潰したい。だがどれだ? 見分けがつかない。
 戦術知識を元に一瞬のうちに考える。敵は先にスブロフの灯を水弾で撃ち抜いた。ならば、戦闘態勢に入っていたということだ。接近戦しかできない者は前に出るだろう。飛び道具を持つ者は前進はしない筈だ。確認する、ホールのような広い空間の途中、前に三体、奥の方に三体、見切った、恐らく後ろの三匹だ。
 即断したのは最も知力の高いシエラだった。
「奥の奴を狙ってくださいっ!」
「了解!」
 各自、一斉に火器を解き放つ。強烈なマズルフラッシュ。弾丸が雨の如く降り注ぐ。魚人達は閃光に完全にスタンしているのか反撃はおろか回避運動すら満足にとれない。一方的な射撃だ。
 不知火はSMGで、シエラはアサルトライフルで、レイアーティは小型小銃スコーピオンで、それぞれ一匹づつの魚人へと猛攻を加える。レイジはシエラとターゲットを合わせスコーピオンで射撃した。
 だが十数秒以上の弾丸を浴び続けても魚人達はまだ一匹も倒れなかった。予想よりもタフだ。
 フォルは使い捨ての照明銃を放り投げ、二刀を抜き放って構えていた。射撃で敵が二、三匹倒れたら突撃する算段だったのだが、まだ一匹も倒れていない。男は突撃の号令をかけるか否か迷う。
 魚人達が動き始めた。射撃を浴びている三匹の魚人が、それぞれ攻撃を加えてくる相手に向かって口を開いた。殴られたら殴ってきた相手を殴り返すのが本能というものだ。咥内から回転する水弾が嵐の如く吐き出される。
 射線が通ってるということは遮蔽物でも盾にしていない限り相手も撃てる。シエラ、不知火、レイアーティにそれぞれ水弾が直撃する。猛烈な衝撃が襲いかかった。威力がでかい。
 雷をまとった制服が不知火への打撃は幾分か軽減したが、シエラから苦悶の息が漏れ、レイアーティが片膝をつく。
「シエラさん! レイアーティさん!」
 レイジがシエラと共に攻撃を加えている魚人へとスコーピオンで猛射した。弾丸が次々に魚人の身を穿つ。鮮血を吹きあげながらようやく奥の一匹が倒れた。
 銛を構えた三匹の魚人が水面を掻き分け突進してきている。
「二人とも、俺の後ろへ!」
 フォルは仲間達を庇うように二刀を広げ、魚人達を待ち構える。
 一方のレカミエは迫りくる三匹の魚人の端の一匹へ向けて迎え撃つよう走り出していた。最初は水に足をとられているように見せつつ――満更演技でもない――タイミングを計って瞬速縮地で一気に加速する。滑る足場に転倒しそうになったが、水嵩は干潮の為、常より低い。いける。一瞬で距離を潰され、魚人の表情は解らないが動揺したような気配が伝わった。
 若干バランスを崩しつつも間合いを詰め、闇に輝く白刃を振り上げ、振り下ろす。衝撃が手に持つ柄に伝わってくる。入った。鮮やかに日本刀の刃が魚人の鱗を撫で斬る。
 だが意外に硬い。レカミエの腕力では刃が深くまでは食い込まない。浅い。
 衝撃を耐えきった魚人が弓を引くように銛を引いた。反撃の一撃が繰り出される。少女がガードにあげた太刀をすり抜け、切っ先が肩に突き立つ。
 二匹の魚人はその脇をすり抜け、強烈なダメージを受けているシエラとレイアーティへ――は剣士が立ちふさがっているので攻撃できない。邪魔だとばかりにフォルへと一斉に襲いかかった。
「舐めるなよ」
 フォルは腰を落とし、重心低く構えをとると、突き出された銛の切っ先を左のパリィングダガーで打ち払った。重い。だが腕力にものを言わせて押し切る。もう一匹の一撃は朱鳳で叩き落としてかわした。魚人が銛を連続して繰り出す。ダガーで逸らし、体を捌いて装甲の厚い部分で受け止める。
 再び繰り出される銛を朱鳳で巻き上げて跳ね上げさせ、魚人の体勢を崩すと、その動作から流れるように斬り降ろす。鍛え抜かれた炎の太刀が魚人の顔面を叩き斬り鮮血を吹きあがらせた。もう一匹から振り下ろされる銛をダガーで受け止めつつ、突きを連射して突き破る。
 不知火は痛みを堪えつつ、魚人へとSMGで猛射する。弾丸が次々に魚人の鱗を爆ぜ飛ばし鮮血を噴き出させた。魚人が水面に落ちる。だが弾丸と交差するように三連の水球もまた飛んでいた。高圧縮された水の弾丸が蒼い閃光となり不知火の身を次々と穿つ。雷の服でかなり軽減されている筈だが、衝撃に眩暈がし、一瞬目の前が暗くなる。胃から熱い塊がこみ上げ、赤い液体がこぼれた。
 魚人と白兵戦を繰り広げているフォル=アヴィンは朱鳳で素早く突きを繰り出し、さらに上段から振り下ろして魚人の頭蓋を叩き割り、一匹を打ち倒した。
 奥の魚人からレイアーティを狙って水弾の嵐が襲いかかる。フォルは一歩動いて射線上に立つと水弾を炎の太刀で斬り払った。残り二発が身に直撃するがジャケットが纏う雷に弾かれる。多少衝撃が来たが、軽い。頑丈だこの男。
 満身創痍のレイアーティは後がない。あと一撃がかすめただけでも倒れるだろう。後退しロウヒールを発動させて体力の回復を試みる。徐々に細胞が再生していった。
 フォルの影からシエラがアサルトライフルを構え練力を全開にした。奥の魚人へとライフルの銃口を向け発砲。連弾に魚人の鱗が爆ぜる。
 ホールの中ほどで犬獣人の少女と魚人が斬りあっている。魚人がレカミエに向かって銛を突き込んだ。レカミエは太刀を振り上げ間一髪で受け流すが、重い。衝撃に手が痺れる。
 痛みを押し殺し裂帛の気合を乗せて鱗の薄い部分を狙って太刀の切っ先を突き込む。魚人が素早く銛を引き戻し払う。甲高い金属音と共に日本刀が弾かれた。魚人は太刀を払った勢いで銛を回転させ、旋風の如く石突を少女の脇腹めがけて繰り出す。レカミエの身を側面から強烈な衝撃が貫いてゆき、膝から力が抜ける。
 魚人が銛を振り上げた。バランスを崩した少女の喉元目がけて突き下ろす。
 弾丸が飛来した。切っ先が届くよりも先に弾幕の嵐が魚人を横殴りに殴りつける。
「カミュ! 無茶するな! さがれ!!」
 レイジがスコーピオンを連射しつつ前進する。
 不知火は血を吐きつつも執念で踏みとどまってSMGを猛射した。渾身の弾丸が唸りをあげて飛び直撃する。水弾を吐く魚人の三匹目が鉛玉で体重の何割かを増やして倒れた。
 フォルと格闘戦を続ける魚人が銛を旋回させ連撃を繰り出す。男は腰を落とし半身になって切っ先を見据えるとパリィングダガーで弾いた、払った、受け止めた。反撃の朱鳳が振り下ろされる。連撃に魚人の鱗が吹き飛んだ。だがまだ倒れない。
 レイアーティが太刀を抜き放った。口から血を滴らせつつも、水面を爆ぜさせて踏み込み、月詠の刀身を紅蓮の光に輝かせ、渾身の力を込めて振り下ろす。物理から非物理へと転換されたエネルギーが爆裂し、魚人の鱗を突き破り爆ぜさせる。魚人の体躯が傾いだ。瞳から光が消え、血飛沫をあげながら水面に倒れる。
 レカミエはよろめきながらも後退する。魚人が射撃を加えてきたレイジへと飛び、銛を突き下ろす。男の身に切っ先が突き刺さった。シエラが横手に回り込み、アサルトライフルを単射に切り替え狙撃する。だがまだ倒れない。
 レイジは左手で銛を掴み、怒りに燃える双眸で魚人を射抜き、銃口を魚人の頭部へと向ける。
「あんた、暴れ過ぎだ」
 スコーピオンが火を吹いた。猛射された弾丸に魚人の眉間が爆ぜ飛ぶ。魚人は頭部から鮮血をまき散らし、その銀の身体が横に傾いでゆく。
 盛大に水面から飛沫をあげつつ、最後の魚人は水底に沈んだ。

●医務室
「随分と‥‥強敵だったみたいだねぇ」
 ベッドに横たわる怪我人達の治療を行いつつハルドラッドが言った。
 夜、ボロボロの身体を引きずって町へと帰還した一同は町医者をやっていたというハルドラッドの元を訪れていたのだった。
「吐血組みが多数ですよ」
 あいたたとベッドの上で不知火。内臓がやられてる。レイアーティも同様だ。
「普通に、死ぬかと思いましたよ‥‥」
 青白い顔で天井をみやりつつレイアーティは呟く。
「魚強いです‥‥」
 ベッドの中でうーん、と耳伏せレカミエが唸っている。攻撃の仕方自体は良好だったが、最前線で真っ向からやるには、流石にちょっとパワー不足だったようだ。エミタとの親和性が低いうちは、難敵相手の場合、横をつくか搦め手を用いた方が良い。
「しばらくお魚嫌いになりそうな勢いですっ」
 シエラとレイジは包帯を巻き、フォルは手首に湿布を貼っている。
(「飯はまた今度だな‥‥」)
 レイジは胸中で呟き嘆息する。せっかくなのでこの町で食事していこうと考えていたのだが、しばらくは消化の悪いものは無理だろう。
「敵も、やる時は容赦がないようだねぇ。水弾は強烈、洞窟は暗闇、足元には水、敵は六匹と多めで、こちらは――僕のせいだが、人数がいつもより少なめ。ふざけた外見の割には必殺を期してたんだろうねぇ」
 ふむぅと唸りつつ町長。
「怪我人多数だが、これを一人も倒れる事なく破ったのは素晴らしい事だと思うよ。報酬も何割か色をつけておこう」
 ルーサー=ハルドラッドはそんな事を言ったのだった。