●リプレイ本文
「まずは相手を知ることからだ」
茶色の髪の青年、月影・透夜(
ga1806)が言った。雷(
ga7298)やリゼット・ランドルフ(
ga5171)もまた同じ考えのようで、一同はまず樹木型キメラの情報を集める事にした。
手始めに町長から話を聞く。
「忙しいとこ悪いな、ちょっとおしえてくんねぇか?」
雷が青色の瞳で町長を見据える。
「うーん、大体は話したと思うけどねぇ、具体的にどんな事を知りたいんだい?」
ルーサー=ハルドラッドは癖のある髪をかきながら答えた。
「それじゃ例えば、根の攻撃範囲ってどんなもんだ?」
「攻撃範囲、かい? そうだね、近づいたら地面からいきなり突き出てきたな‥‥それで幾人かやられたよ。本体からはあまり離れていなかったねぇ」
「実を弾丸みたいに飛ばすって話だが、こいつはどうだい?」
「結構飛ぶね。しかし百メートルは届かなかったかな‥‥あくまで私の感覚で、なんだが。今ではキメラの方でも警戒しているらしく、射程距離に入るとすぐに撃ってくるね」
「根と実で同時攻撃ってしてくるか?」
「近い相手に根、遠い相手に実、という事はやってきたかな」
「ふーむ、なるほどねぇ、さんきゅー」
金髪の青年は礼を言うと考えるように腕を組む。
「では続いて私から」
どこぞの良家のお嬢様然した少女が言った。こう見えても彼女も傭兵だ。静止画では納得しないが、動く所をみると皆納得する。リゼット=ランドルフである。
「以前、キメラを誘い出そうとなされたみたいですけど、どんな時に移動しましたか?」
ハルドラッドはうーんと唸ると、
「こちらが射程外に出た時だねぇ。いきなりは動き出さないが、一旦交戦してから射程外に出ると追いかけてくる」
「有難うございます、いきなり移動攻撃はしないのですね‥‥それと山の地図ってお借りできますか?」
「ああ、地図か。私達が使ったのがあるから、それを持ってゆくと良い。化け物がいる大体の位置と地形を書き込んである」
「あ‥‥それと町長‥‥僕からも良い‥‥かな」
歳の頃12、3の金髪の少年がおずおずと言った。
「ん、リオン君、なんだい?」
ハルドラッドの問いにリオン=ヴァルツァー(
ga8388)は言う。
「スコップとかって‥‥借り、られる?」
「ああ、勿論だよ。必要なら、遠慮せずに持っていきなさい」
元町医者は冴えない風貌で笑うとそう言ったのだった。
かくて、情報を集めた一同は地図とスコップ等をハルドラッドから借り受け役場を後にした。
●マドラガンの木人
赤道近く、東南のアジアにあるその島は、既に真夏のように日差しが厳しい。からっと晴れた青空の元、一同は町の西にある山へと登る。
湿気はあまりなく、涼やかな風が山道を吹きぬけてゆく。
「あれかしら」
崖沿いの山道の途中、ゴールドラッシュ(
ga3170)が崖をまたいだその先にある道を指して言った。借り受けた地図で木人の位置のあたりをつけ、双眼鏡を覗きこんだところ、それらしい物体がレンズの中には映し出されていた。
彼方の道のど真ん中になんとも不自然な感じで一本の木が立っている。
「どれどれ」
ゴールドラッシュからその双眼鏡を借りて他の一同もまた覗きこむ。
「三十秒、100クレジットね」
賞金稼ぎ女王の異名を取るブロンドの髪の女はそう言った。
「どこの展望台だい。ぼったくり過ぎるぜ」
一同はそんな事をわきゃわきゃと言いつつ確認を終える。
「‥‥言われてみると明らかに不自然ですなぁ」
杉田鉄心(
ga7989)が道の中央に生える木をみやってそんな感想を漏らした。
「家の柱にするには理想的な太さなんだがな。動くの厄介だぜ」
そんな所感を洩らす雷。
「交通に、不便‥‥だね。退治、しないと‥‥」
リオン少年がたどたどしい口調で呟いた。
一同は曲がりくねった登り道を進み、やがて六合付近の木人が棲息する道に入る。
彼方、登りの山道のど真ん中に約7m程の高さの樹木がのっそりと聳え立っているのが見えた。
左は絶壁、右は崖、道の幅は六mほど、広いとは決して言えない。右に吹き飛ばされたら谷底へ真っ逆さまだ。
「慎重に行こう」
リオンが覚醒し、左腕の包帯を外した。口調が滑らかになる。肘から手首にかけて大きな傷跡が見えた。
「相手はあの場所に拘ってる。攻めるのは私達よ。余裕を持っていきましょ」
イニシアチヴはこちらにあるのだ、とゴールドラッシュが一同を励ます。
それに月影が言う。
「誘き出されたら戻るくらいだ、積極的な移動はしてこないだろう――と思いたいが」
「町長さんの話だと、一旦交戦状態に入って、射程外へと出ると追いかけてくるんでしたっけ?」
とリゼット。
「聞いた話をまとめるとそうらしいですな。敵の射程も思っていたよりかなり長いとか」
ふむぅ、と唸りつつ杉田が言った。
「そうらしいな‥‥注意するに越したことはない。用心して行こう」
月影の言葉に一同は頷き覚醒する。
一度に並べるのは回避も考えると三人程度か。格子状に陣形を組む。前衛に左から雷、杉田、月影、後衛にリオン、ゴールドラッシュ、リゼットだ。各々武器や盾を構え慎重に前進を開始する。
やがて距離が百メートルを切った。町長の話ではそろそろ射程距離に入る筈だが。
(「さて‥‥」)
面差し鋭く、気を引き締め、月影が慎重に一歩を踏み出す。
月影の右足が地面を踏み締めた時、大木が動いた。
ざわりと木々の葉を震わせると、幹に直径二m程度の老人の顔のような瘤が現れ、口を大きく膨らませた。
次の瞬間、老人の口から拳大のクルミのような木の実が勢いよく放たれた。月影はカデンサを振って弾き飛ばす。
「およそ九十というところか、やはり長いな」
「本当に木が動いてるぜ!」
雷が少し驚いたように言う。
「アグレッシヴな樹木ですね」
吐き出される木の実の礫をかわしながらリゼットが言った。
「最近の広葉樹林は自己主張が激しいみたいだ」
とリオン。一同はそんな事を言いつつも慎重に、出来るだけ素早く間合いを詰める。
向かってくる傭兵達に対し、木人は再び大きく口を膨らませると礫の嵐を吐き出した。
今度は杉田、リオン、ゴールドラッシュへと木の実が飛ぶ。
空を裂いて飛来した礫が杉田の肩をかすめる。リオンは刀を一閃して弾き、ゴールドラッシュは盾を翳して受けた。
リゼットとリオンは拳銃の射程に入るや否や銃口を向け弾丸の嵐を浴びせかけた。銃声が轟き、激しい弾幕が老人の顔を穿つ。反撃の礫が飛んだがリゼットは飛び退いて回避する。リオンは今度は避けられずに礫によって肩を撃ち抜かれた。かなりの苦痛の筈だが少年は顔色一つ変えなかった。
ゴールドラッシュは二十程度まで距離を詰めると片手半剣にエネルギーを集中させ、横薙ぎに振り払う。音速の衝撃波が巻き起こり空を切り裂いて飛んだ。大木の幹に衝撃波が炸裂し、木の葉が舞い落ちる。
「後ろに廻り込む。援護を頼むぞ!」
月影と杉田が絶壁側へと駆け始める。
「了解!」
それを受けて雷が前進した。
「おうおうおう! 木の化け物! こっちに獲物がいるんだぜ!」
男はハルバードを振り回しながら、歌舞伎の児雷也の如くドカドカと大地を踏み締める。それに反応したのか、地面が隆起し木の根が槍のより下方から突きだしてきた。
「うぉっ!」
警戒してても完全に回避するのは難しい、雷の脇腹を穂先のように鋭い根の先端がかすめ切り裂く。雷は素早く体を返すとハルバードを振って根を切り払った。
その間に月影は絶壁に向かって跳躍し、三角飛びの要領で木人の背後へと抜け、杉田もまた木人の横をすり抜け背後へと回った。傭兵達は木人を前後から挟み込む。
「一気に切り倒してやる。一点集中だ!」
木人の背後に回り込んだ月影が練力を全開にして紅蓮の槍を振るう。リゼットが前進しバスタードソードを引き抜く。ゴールドラッシュと共に衝撃波の嵐を巻き起こした。
「チェストーーーッ!!」
杉田鉄心が裂帛の叫びと共に示現流蜻蛉の構えから袈裟斬りの斬撃を放つ。グレートソードの刃が巨木に食い込んだ。リオン=ヴァルツァーは強弾撃を発動させると銃弾の嵐を浴びせかける。木人の顔が次々に穿たれてゆく。
木人がゴールドラッシュへと礫を飛ばし、後背にもう一つ顔を出現させ、根を突き出して月影と杉田へと攻撃を仕掛ける。ゴールドラッシュは礫を盾でかわし、月影は飛び退いてかわした。杉田はかわし切れず根がその胴に突き立つ。
「よかったな化け物、俺の全力は二十秒もたないんだぜ!」ハルバードを振り上げ、雷が大木に迫る。「それが終わってもお前が立ててるかわからんけどなぁぁぁ!!」
斧槍を月影が背後から攻撃した高さに――合わせるのは見えないからちょっと無理だ。勘で適当な位置に振り下ろす。ハルバードの斧刃を大木に食い込ませるとそれを手放し、背に負ったコンユンクシオを抜き放つ。紅蓮の輝きが巻き起こった。
「あぁぁぁぁ! 喰らえっ、傭兵術奥義! 葬乱刃汰(ホームランバッター)!!」
斧槍を楔に見立て全力全開で振り抜く。ハルバードの背に罅が入った。だが猛烈な勢いで斧槍の刃が大木へと打ち込まれる。大木の人ならぬ叫びが周囲に響き渡った。
「もうひと押しだ!」
月影が言ってカデンサを振り回す。リゼット、ゴールドラッシュ、リオン、杉田の四名もまた剣を手に大木へと襲いかかり、車がかりに斬撃の嵐を浴びせかける。
傭兵達の総攻撃は凄まじい勢いで木人の身体を削り取ってゆき、やがて樹木型キメラの活動を停止させたのだった。
●伐採、伐採
「痛い?」
覚醒が切れ痛みに顔を顰める少年にリゼットが問いかける。
「‥‥いつものこと。大丈夫‥‥」
少年はそう答えた。
「あんまり無茶しちゃ駄目ですよ」
リオンや杉田等、手傷を負った者達にリゼットがテキパキと救急セットで応急手当をする。
「いやー、悪いですな」
がははと豪快に笑いながら杉田。
「深手ではないですから、数日もすれば治りますよ」
にっこりと微笑んでリゼット。
その間に他のメンバーは樹木型キメラをへと刃を入れていた。
直径三メートルの巨木というのは、KVでも持ち出さない限り、なかなか切断できるものではなく、キメラの方も断ち切られる前に、その活動を停止させたのだが、念を入れておこうと一同は切り倒す。メキメキと音を立てて幹が折れ、巨木が地響きをあげて倒れた。
「植物系は生命力が強いのが定番だからな」
というのが月影の言である。
「何度か戦っているのに、活動が弱まってなかったのは、何かしらの再生力が働いた可能性もあるわ。地下から養分を吸収してたのかも」
ゴールドラッシュが少し考えるようにして言う。
「それじゃ‥‥掘り起こして‥‥根こそぎ消滅」
借り受けたスコップを持ち出してリオン。念には念をだ。
一同は周囲一帯を掘り起こし、木人の根を引きずり出すと、一ヶ所にまとめて火をつけた。死ねばキメラもただの薪。
「俺もこれぐらい勢いよく燃えなきゃだぜ!」
コンユンクシオを地に突き刺し、燃え盛る炎の前で腕組みして雷が言った。
かくて木人の亡骸はめらめらと盛大に燃え、樹木型キメラは完全に灰となったのだった。