タイトル:ただいま教官募集中マスター:望月誠司

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/05/07 00:27

●オープニング本文


 激化する戦いにおいて戦力の入れ替わりが激しいのは常である。
 熟練の傭兵達は前線で失われ、何処かから新人の傭兵達がやってくる。
 最も戦力が欲しいところは当然ながら激戦地である。しかし激戦地に新人をそのまま放りこんでも生き残る確率は極めて低い。
「そこでです」
 まだ若いオペレーターが言った。
「ルーキー達にはある程度の戦闘の常識を教え込んでから送り込まれることが決定しました。
 現在これは実行されているのですが、現場で実際に戦っている者の意見が聞きたい、という事でこの依頼が出される事になりました。
 皆さんは訓練校の教師となりルーキー達に戦闘術や現場で大切な事のその他もろもろを叩き込んであげてください。
 剣での突きかた、槍での振りかた、銃の撃ち方、キメラの生態、ジャングルの歩き方、偵察のしかた、奇襲のしかた、強襲の仕方、待ち伏せする時の注意、野外地での料理の作り方、野営の仕方、交渉術とは、他の傭兵達と上手く付き合ってゆく為のコツ、歌い方踊り方ボケとツッコミの心得等々、傭兵生活において役に立ちそうなものなら、なんでも構いません。
 教える内容は何人かで組んで一つのことをやるのも結構ですが、もちろん単独で行っても構いません。教える内容も生徒はたくさんいますので重複しても構いません。銃の撃ち方一つとっても何を重視するかは人によって違うでしょう。それが流派というものです。
 ちなみに今回は生身編です。KVについてはまた別の機会となりますのでご了承ください。
 新人の未来の為に、皆さんのご参加をお待ちしております」

●参加者一覧

ファファル(ga0729
21歳・♀・SN
クラリッサ・メディスン(ga0853
27歳・♀・ER
烏莉(ga3160
21歳・♂・JG
ゴールドラッシュ(ga3170
27歳・♀・AA
ベーオウルフ(ga3640
25歳・♂・PN
増田 大五郎(ga6752
25歳・♂・FT
杉田鉄心(ga7989
28歳・♂・FT
クライブ=ハーグマン(ga8022
56歳・♂・EL
ジーン・SB(ga8197
13歳・♀・EP
アズメリア・カンス(ga8233
24歳・♀・AA

●リプレイ本文

「時間が足りん‥‥」
 紫煙を吐き出しながらファファル(ga0729)は頭を抱えていた。
 忌々しい、と思う。訓練期間すらろくにとれんとは。
「‥‥何とかせねば‥‥な」
 煙草を灰皿に押しつけつつ銀髪を掻き上げる。
 十分な時間はないが、彼女が教えられる限りを新人達に伝えよう。彼等が生き残れるように。
 氷の魔女と渾名される女は夜遅くまで教材と格闘していた。

●教えてファファル先生! 狙撃編
「私の講義内容は、銃火器での戦闘‥‥その中でも狙撃を主眼においた戦闘方法、および後衛の役割だ」
 ラストホープの訓練場、市街地を模したその場所で、居並ぶ新人の傭兵達を前にしてファファルは言った。
「私達スナイパーは基本的に支援射撃を主目的とする。だが援護射撃のみが後衛の役割でない。視野を広く持ち全体を把握し、的確に動くことが肝要だ。敵味方の力量、地形等全てを頭に叩き込まなければならない」
 そう述べると幾人かの班に別れ模擬戦を開始する。
「貴様は銃の腕はいいが、視野が狭い。もっと周りの状況を把握しろ‥‥いいな」
「ウィッス、了解であります」
「貴様は引き金を引くのが速い。あと半呼吸待ってみろ」
「サーイェッサー!」
 後衛は間合いを保ち決して敵の土俵では戦わぬこと。接近されそうになった場合、主兵装、および不可能ならば副兵装で牽制をかけて距離をとること。主兵装として射程の長い小銃、ライフルなどだ。副兵装として拳銃など携帯性の高い物を装備する。
 そうやって間合いを保ちつつ、チャンスがあれば狙撃してゆくこと。
 それらをファファルは徹底させて叩き込んで行った。

●教えてクラリッサ先生! 科学編
「私もまだ色々と学ぶ事が多いというのに、教官役というのは何だか面映ゆい気がしますわね」
 講義前、教材を抱いてクラリッサ・メディスン(ga0853)はそんな事を言って微苦笑していた。
 手製の教材をプロジェクターで映し出すとクラリッサは講義を開始する。彼女の講義に集まったのはやはり科学者の新人達だった。
「サイエンティストに主に期待される役割は、仲間が少しでも有利に戦えるように戦場全体を見極める事、そして仲間の戦闘力を上げ、万が一の時には治療に当たる事です」
 全体を見極め、的確な指示を出せる者が居ると居ないとでは隊として戦闘能力まったく違うとクラリッサは言う。
「治療役が居ると居ないとでは継戦能力に雲泥の差があります。縁の下の力持ち、それに徹する事はけして恥ずべき事ではありません」
 そう解説した後、特殊能力に頼らない応急手当の方法もレクチャーしてみせる。
「『錬成治療』は便利ですけど、練力には限りがあります。きちんと覚えておいて下さい」
 そう言って一通りを終えると、最後に女性能力者向けの講義をとりおこなった。
「‥‥教官、これ、必要なんですか?」
 まだ幼い少女が一人、首を傾げた。最後の講義の内容は戦場でも出来る簡単なメイクや健康の保ち方だった。
 クラリッサは艶然と微笑むと言った。
「はい、すぐに必要になります。戦場に於いても美しくありたいと思う気持ちを捨ててはいけませんよ?」

●教えて烏莉先生! 隠密編
 烏莉(ga3160)は生徒達が来る時間よりも随分早くに密林の訓練場へとやってきていた。
(「半日で一体なにが教えられると‥‥」)
 密かに嘆息する。どうにかせねばなるまい。
 生徒達が到着すると居並ぶ面々に烏莉は言った。
「今回‥お前達を教える烏莉だ。あまりしゃべるのは好きではない‥一度しか言わないと思え‥」
 烏莉が教えたのは密林での自給自足方法や気配の消し方、ナイフや銃を用いての暗殺方法等だった。実際にゴム弾等を使っての模擬戦を行う。
「戦場ではとっさに正確な行動ができなければ即、死につながる」
 烏莉や敵チームからの攻撃に有効な対処が取れなければ容赦なく失格としてゆく。失格者へは前もって作成しておいたマニュアルを渡す。
 密林に新人達の悲鳴が響いていった。

●教えてゴールドラッシュ先生! 財力編
「傭兵にとって一番大切なものは何かしら? 解る?」
 頭を悩ます一同に対し、卓をバシッと叩いてゴールドラッシュ(ga3170)は言う。
「それはお金よ!」
 場が一瞬静まった。が、そこの所は傭兵「ちげぇねぇ」という答えが笑いと共に返ってきた。
「でもセンセー、それって目的であって手段じゃねーかと」
「甘いわね。傭兵の装備は原則自弁なのよ」ゴールドラッシュは語る「生き残るために技術を学ぶのも良し。自身を鍛えるのも良し。でもそれらと同様に忘れてはならないのが、強力な装備で身を固めることよ」
 戦力差を工夫してひっくり返すのがこの世界の醍醐味の一つなのだが、戦略的には圧倒的戦力を整え敵を叩き潰すのが正しい。
「強力な武器を持っていれば、やり方によっては貴方達でだって私達を倒す事は十分可能。強力な装備品というのは、それだけの力を秘めているの」
 しかし新人はそれらを身に纏えない。何故か? 単純に資金の問題に他ならない。
「だからとにかくお金を溜めるのが重要なのよ」
 ゴールドラッシュは力説する。
「‥‥勝負に勝つ為には、まず良い鉄砲用意しろってのは、確かに理に叶ってる」
 期待していたものとは何かが違うような気もするのだが、うーんと唸り納得する新人達。目の前の教官は戦術よりも戦略を重視するらしい。
「傭兵には誘惑が目白押しよ。あれやこれやでお金はあっという間に飛んでいくわ。だからこそ計画的な資金運用が不可欠。自分が将来的にどういうスタイルの戦い方を目指すのか。常に考え無駄を省き、支給品の取り逃しはせず、きっちり貯めてゆくのが大事よ」
 支給品、なんだろう、この地に足が付きまくった安定感と生活感。浪漫は欠片も感じられないが、これが現実か。新人達はそんな事を思う。
「センセー」
「はい、なにかしら?」
「センセーはいくらくらい溜めてるんですか?」
 ゴールドラッシュは言った。
「次の講義に移ります」

●教えてベーオウルフ先生! 兵士編
「楽にしていいぞ。寝ても一向に構わない」
 ベーオウルフ(ga3640)はまずそんな事を言った。
「これからは、情報の取捨選択は自分でするように」
 ある新人は楽な教官だと思い、ある新人は厳しい教官だと思った。
「皆わかっていると思うが、スペシャリストにはなるな」
 男はそう語った。隊が特定技術のみに特化した者だけで構成されていた場合、そこから一人でも欠けたら隊として機能するか否か?
「勘違いしないでほしいが、何かに優れている事は素晴らしい事だ。だが、それしか出来ないのはこれから苦労するぞ」
 特に反論する者はいなかった。もっともな言葉である、と新人達は思ったようだ。
「もしも敵が何かに偏っている場合、選択肢が多ければ、その弱点を突く戦い方が出来る」
 ベーオウルフは実際に模擬戦を行い実例を示してみせた。近接専門の仮想的の場合は、遠い間合いで照明銃を放って目を眩まし、瞬天速で接近して組み伏せ、遠距離の相手の場合は距離を保って射撃を避けてから、瞬天速で鮮やかに間合いを潰して喉元に剣をつきつけた。
「前衛はこの三つを覚えておけ。『隣にいる仲間を死なせるな』、『後衛を死なせるな』、『自分が死ぬな』
 後衛はこの三つを覚えておけ。『行動の優先順位を間違えるな』、『自分を守ってくれている人を死なせるな』、『自分が死ぬな』」
 男はその言葉で講義を締めくくったのだった。

●教えて増田先生! 筋トレ編
「前衛は最も強大な打撃力であり、後衛を守る盾である」
 増田 大五郎(ga6752)は前衛クラスの新人達にまずそのような事を言った。
「前衛は時には身を挺して仲間を庇う必要がある。何故か? それは上位キメラの攻撃をモロに喰らえば後衛職辺りだと命がない恐れがあるからだ。
 俺は平均的な後衛職と比べると倍以上の装甲を持つが、それでも以前に味方を庇い攻撃を受けたときは血を吐くほどの痛打だった」
 一概には言えないが後衛職からすると一撃死のダメージである。
「だが、俺の場合この攻撃を三回は耐えられる。これは生まれ持ったものではなく、体力訓練の成果である。前衛も生き延びねばならない。日ごろの体力訓練がお前達の命をつなぐのだ」
 増田はグラウンドに集まった新兵達を見まわして宣言した。
「ということで耐久筋肉トレーニングを行う!」
 げぇ、と新兵達から不満の呻き声が上がった。
「困難に立ち向かう心こそが俺達にとって一番大切なものだ。体力は訓練を続けていればついて来る。気合を入れろ!」
 かくて増田教官含めての、地獄の腕立て腹筋背筋スクワットダッシュのローテーションが始まった。

●教えて杉田先生! 武術編
「君達は、力を得る為にここに来たのかね?」
 杉田鉄心(ga7989)は新人達にそう問いかけた。新人の一人が「生き残る術を学びに」と答えた。
「君達は武道と武術の違いを知っているだろうか。道は生きるに活かすものだが、術は純粋な技術だ。畢竟、敵を殺す為にある。故に扱いには注意しなければならん」
 言って杉田は武術の存在意義と用いる際の心構えを説き始める。
「君達は、強さを得るためにここに来たのかね?」
 新人達は頷く。
「よろしい、ならば儂の知る限りの術を教えよう」
 杉田は頷くとバキバキと腕を鳴らし、古武術と近接格闘術の教授を開始した。

●教えてクライブ先生! 制圧編
「皆さんの訓練を担当する、クライブ=ハーグマンです。どうぞよろしく」
 初老の男が居並ぶ新兵達に向かってそう挨拶した。クライブ=ハーグマン(ga8022)、元はSASに所属していたという古強者だ。
 クライブは講義の内容を説明し、並べられた火器の山から小銃を取り出す。
「ショップで一般販売されている銃火器をそろえてもらいました。まずこれがスコーピオン、ドローム社製です。小型で取り回しが良く、命中精度、威力もそこそこ、軽量なのでサブウェポンとしても携行できます。値段も手ごろなので初心者にもお勧めですね。もう少し射程が欲しい、といった場合はこちらのアサルトライフルの方が良いでしょう」
 クライブは次々に銃火器の説明を進めてゆく。一通りの説明を終えると、順番に新人達へと渡し的に向かって撃たせてみせる。
「全体的に随分と‥‥射程が短いんですね」
「ええ、SES兵器の特徴なんです」
 試射を終えるとアスレチック施設を使って屋内制圧訓練を行う事にする。
「ビルに立てこもった、親バグア派のテロリストを制圧する、という想定で、制圧訓練を行います。室内に数字が書いてありますから、私の指示に従って、それぞれの部屋で、的をすべて撃ち倒して、次の番号に進んでください。まず一班から‥‥」
 クライブの指導により新人達は特殊部隊のごとく動き、課題をクリアーしていった。

●教えてジーン先生! エキスパート編
 訓練場の講義室、こほんと咳払いしてジーン・SB(ga8197)が集まった受講者達へ向け、言った。
「私が教えるのはエキスパートとしての実技と意思疎通の重要さだ」
 そう前置きして早速、白板に何事かを書きつけようとするが、
「‥‥だ、誰かミカン箱持ってこい! 背が届かんっ!?」
 先生、大層小柄であった。なんだか和やかになった空気の中、受講者によってミカン箱が用意され、見た目幼女はその上に乗る。
「っていうか、教官、失礼ですが大丈夫なんでアリマスか?」
「フ、案ずることはない。私が教官においてもエキスパートであることを見せてくれよう!」
 実は彼女自身依頼を受けるのはこれで二回目という新人だったりするのだが、まぁ、それは秘密だ。
「あー、LHの傭兵がまず学ばねばならんのは意思疎通の重要さだ。何故かといえば、軍隊は画一的な訓練と基礎知識を叩き込まれて戦場に駆り出されているが、傭兵は違う」
 ただの肉屋の兄ちゃんでも適正者なら引っ張ってくる御時世だ。
「だから常識が違う。環境が違う。「此処まで言えば判るだろう」という判断が信用できん」
 少女は言う。
「認識のズレが危機を招く例は存外に多い。徹底した意思疎通と相談が生存率を引き上げると憶えておけ」
 ふむ、と受講者達は頷く。見た目はアレだが言う事は結構マトモだ、と認識されたらしい。
 一通りの座学の後、実技に移る。
 ジーン曰く、駆けだしのエキスパートは足が遅く大体定点防御を任されることになるという。
「退くなら殿、押すなら壁。故に盾が必要だ。守ることが仕事と心得ろ」
 言ってがしゃりとスコーピオンを構える。
「では今から訓練に入る! ペイント弾で狙撃するから盾で防げ! 避けるなよ! 逸らしたら後始末させるからな!」
 ぱぱぱぱぱとペイント弾の華がグラウンドに咲いた。

●教えてアズメリア先生! 野営&刺突編
「安全にしっかりと休む為には、野営場所の選別は重要だからね」
 アズメリア・カンス(ga8233)は集まった新人達にそう述べ、野営の仕方を講義する。
「野営する場所は川のすぐ傍は増水した時に危険だから、なるべく避けた方が良いわね。地面に凹凸があると寝心地が悪くて、疲れが取れないわ。平らなところを選ぶか整地が大切よ」
 視界は確保出来る場所か。敵からは発見されにくい場所か。木等の遮蔽物を確保するのは当然として、何がしらの物を被せてカモフラージュするのも重要だと説明する。
「寝込みを襲われるのが怖いから、敵に備えるのが最重要よ。地形を利用して周囲に鳴子等の警戒装置を設置すること。地面等の痕跡は良く観察することね、足跡から敵の動きを把握できる事も多いわ」
 アズメリアは野営関連の講義を一通り終えるとグラウンドに出て剣についての実技を開始した。
 主に刺突についての訓練を行う。
「人型のキメラの場合は急所は人と同じ場合が多いわね。突きで狙うのは一に喉、二に眉間、必殺の気合でいくことね。装甲が無ければ心臓を狙うのもありよ。肋骨があるから刃は寝かせて刺し込むこと。いずれにせよ刺したら刃は捻ること」
 言いつつ剣を構え、踏み込み、突いてみせる。片手でのそれと両手のものを実演してみせた後、ルーキー達に模造刀で自分に向けて撃たせてみせる。
「突きは殺傷力が高い攻撃だから、きっと役に立つわ」
 刃を払い何点かの注意を与えた後、アズメリアはそう言った。

●最後に
 全ての講義の終了後、教官達と新兵達は兵舎の前に集まった。
「今回‥俺達が教えた事だけでは戦場で生き延びる事は不可能だ‥この世界を生き延びるには強いセンスを必要とする、だが、鍛練すれば少なくとも死ぬ確率は減るだろう‥‥」
 烏莉が新兵達を見据え、言った。
「常にトレーニングを怠るな、生死を分ける戦いに二度目は無いと思え」
 当たり前だが、死んだら終わりだ。
 ファファルが言う。
「決して犬死はするな。どんなことをしてでも生き残れ! 以上だ。諸君、次は戦場でな」
 ファファルは言ってこめかみを擦るように敬礼をしたのだった。