●リプレイ本文
●化石の吼え声
「あっ、来た来た! わぁ、なんか口からゴーって吐いてるよ!」
双眼鏡を手に潮彩 ろまん(
ga3425)が言う。
「荷電粒子だな。情報によれば奴の場合は‥‥要はプラズマ、電撃攻撃だ」
御影・朔夜(
ga0240)が答えた。
「カンデン粒子? うーん、ボク難しいことは良くわかんないや。でも、ビリビリしそうだから、気を付けなくちゃね」
緑髪の少女はにこっと笑って言った。
そんな折にディアドラから無線が入った。やたらと必死な調子だ。それに幸臼・小鳥(
ga0067)が声を返した。
「お疲れ‥‥さまですぅー。お二人は‥‥そのまま退避を‥‥お願いしますぅー。ここからは‥‥私たちが‥‥なんとかしますぅー」
「エスコート了解っと」
ゼラス(
ga2924)は腰を降ろしていた岩から立ち上がると、両手に鋼鉄の爪を装着しながら言う。
「‥‥さぁ、後はこちらが主賓だ。お客様を丁重にもてなすか」
一同はそれに頷くと、散った。それぞれの役割を果たす為に配置につく。
やがて車輌を追うようにしてプラズマトプスが地平の彼方より現れた。十メートル近い巨躯で大地を揺るがしながら駆けてくる。
エスター(
ga0149)、小鳥、御影の三人が行動を開始する。
エスターは岩陰に身を隠しつつ射撃し巨竜の注意を惹こうと試みる。小鳥と御影は側面に回り込もうと左右に散った。
巨竜はエスターの射撃を受けディアドラ達からエスターへと目標を移す。車輌はその隙に彼方へと退避していった。
「大きな岩‥‥突進して‥‥角でも刺さらない‥‥ですかねぇ‥‥」
小鳥が呟いた。一同は射撃によってプラズマトプスの進路を誘導し、巨石へとぶつけようと試みていた。
電撃竜の武器が突進だけであったなら、あるいはその鼻先に踊り出て誘導すれば、そういった事もありえたかもしれないが――あちらにも飛び道具があるのならば、撃ち返せばそれで済む。
巨竜の顎が大きく開き、その奥から凶悪な光が溢れ出した。
「‥‥ヤバイッス!」
エスターは素早く貫通弾を銃に装填し妨害を試みるが装填の手間がある分、あちらの方が速い。
猛烈な光が爆裂し、エスターが居た空間を薙ぎ払う。
間一髪、咄嗟に岩陰に飛び伏せ込こみ回避するエスター。雷撃の帯が岩をかすめ余波を撒き散らす。
だが岩は電撃を通さない。岩を盾にしようと心がけていたことが、彼女の命を救った。
電撃竜は吼え声をあげ、果敢にも距離を詰めてきている御影に向き直る。
だがその瞬間、岩陰から潮彩 ろまん(
ga3425)が飛び出していた。瞬天速で加速し、さらに駆け、勢いを乗せて月詠を振るう。
「えーいっ、百万円波斬剣!」
急所を狙って振り抜かれた刃は巨竜の皮膚を突き破りその首筋から鮮血を噴出させた。その刀は高いだけあって素晴らしい切れ味である。
だが攻撃の代償も刀の金額同様高い。竜は巨木のような足を振り上げると潮彩を薙ぎ払った。潮彩は疾風脚を用いてかわそうと試みるも、かわし切れず木の葉のように吹き飛ばされ、荒野に叩きつけられる。
その間に高村・綺羅(
ga2052)が巨竜の側面をつくように瞬天速で接近していた。加速し、大地を蹴り上げて跳び、巨竜の背へと舞う。見た目は愛らしいがとんでもない度胸だ。
綺羅は巨竜の背へとしがみつき、激しく揺れるそれの上に登ると、アーミーナイフを高々と振り上げ首元めがけて突きこんだ。突きこんだナイフで体を支え、さらにもう一本のナイフで急所を狙い滅多刺しにする。
巨竜が激しく身を捩じらせるが、少女は喰らいついて離れない。
だが如何せんその巨体の前ではナイフでは刃の長さが足りない。打撃を与えはしているが致命傷までは届かない。
崎森 玲於奈(
ga2010)、ゼラス(
ga2924)の両名は巨竜の側面に回りこむように、キリト・S・アイリス(
ga4536)もまたプラズマトプス目がけて迫る。
ゼラスとキリトは巨竜が岩に突進してから動く手筈だったが、突進する見込みがなければ仕方がない。作戦を転換して踊り出る。
巨竜は咥内に光を集めると、首を振りながら解き放った。閃光の帯が広範囲にわたって撒き散らされる。
だが能力者達も作戦の転換があったとはいえ、巨竜を相手に無防備に突進するほど向こう見ずではない。岩陰の位置を確認して走り、ブレスが吐き出されるよりも一瞬前にそこへ飛びこんでやりすごす。
完全に側面をとった小鳥と御影が巨竜を挟み込み、遠距離からエスターが猛射する。小鳥の突撃銃が焔を吹き、御影が近距離から弾幕を撒き散らす。御影の火力は凄まじく、巨竜をみるみるうちに真っ赤に染め上げてゆく。貫通弾を用い練力を全開にしたエスターの一撃が巨竜の足を撃ち抜いた。
跳ね起きた潮彩は素早く駆け寄ると刀で斬りつけ、首に喰らいついている綺羅がナイフを突き刺し続ける。
だがそれでも巨竜は動いていた。生命力にものを言わせて電撃を撒き散らす。
しかし、
「―――雷撃に頼り過ぎたな」
崎森はブレスの軌道を見切り、紙一重ですり抜けるように避け、すれ違い様に刀を一閃させる。
「この剣劇には付いて来れまい」
巨竜の足から血飛沫が飛んだ。
「ジタバタすんじゃねぇ‥‥そのデカイ図体‥‥裂き飛ばす!」
「一気に‥‥決める!」
ゼラスが練力を全開にして崎森とは逆のサイドに回りこむと、大地を穿つほどの勢いで踏み込み、渾身の右フックを叩き込む。同時にキリト・S・アイリスが炎と氷の二刀を用いて怒涛の五連撃を繰り出した。
雷撃竜の身体が大きく傾いだ。
「‥‥やったか?!」
巨大な影が落ちた。巨竜の足が振り上げられ、ゼラスを踏み潰さんと迫る。
「――ッ!」
ゼラスは即応すると後方に退いて間一髪で踏みつけを回避する。
「まだ動くのか」
男は舌打ちした。
「呆れたタフさですね」
キリトが半ば呆れたように言った。言いつつ振り回される角を後退して回避する。
「崎森、合わせるぞ」
御影が貫通弾を装填した。崎森が竜の側面へと回りこみ御影が彼女の後方へと並ぶ位置になる。フェイントと本命を二重かつ二段に織り交ぜた必殺の連携だ。
――だが、一直線に並んだのは不味かった。
瀕死の竜は、素早く首を巡らせると両眼に二人を捕らえた。竜の咥内が爆音と共に輝き、荷電粒子の渦が解き放たれる。
圧倒的な威力をもった電撃の奔流が二人を飲み込み、光の帯が地平の彼方までを一直線に貫いていった。
「荷電粒子‥‥流石と言いたい所だが――駄目だな。それは以前にも見た事がある」
雷撃の奔流が収まった時――御影・朔夜は立っていた。満身創痍、ボロボロになっていたが、立っていた。血反吐を吐きつつも立っていた。スナイパーなのになんでこんなに頑丈なのだろうと、誰かがきっと思ったに違いないが立っていた。恐るべき抵抗力である。もっとも、あと一撃もらえば絶命は間違いない状態と思われたが。
だがあと一撃を能力者達は決して許しはしないだろう。
御影よりもさらに深い傷を崎森は負っていたが、彼女もやはり立っていた。戦士の強靭な生命力で痛みを捻じ伏せ流れるように斬撃を繰り出す。
「余所見をするなよ――貴様に良い物をくれてやる。“Hrozvitnir”の爪牙、その真の一撃を‥‥!」
練力を全開にした男が数十発を超える弾幕の嵐を叩き込む。
巨竜が咆哮をあげた。その声音には死の色が濃く現れてきていた。
最後の足掻きか竜の咥内に再び雷撃が宿る。
しかし、
「そろそろ‥‥御休みの時間ッスよ?」
赤髪のスナイパーが狙撃銃を構えていた。狙いを定め、発砲。
一発の弾丸が回転と共に空を裂いて飛び、電撃が荒れ狂っている竜の咥内へと吸い込まれるように消えてゆく。
「Rest in Peace!」
吐き出される直前のプラズマブレスが咥内で弾け飛び、竜の顔面を荒れ狂う電撃が包み込んだ。
プラズマトプスは断末魔の絶叫すらも上げることが出来ずに悶絶し、やがてその瞳から光が消える。
竜の巨体が横倒しに倒れ、地が揺れた。
「‥‥やっと、倒れた」
高村綺羅が荒野に着地すると巨竜の体躯を見下ろしてそう呟いた。
化石の時代の生き物は、再び地に帰ったのだ。
●戦いの後
夜。
満天の空。
インドのとある地方にある駐屯地、そこに並ぶ天幕の一つに陽気な声が響き渡っていた。
「お疲れ様! いやー、皆良くやってくれた、有難うっ!」
そう言って上機嫌に料理を振舞っているのはディアドラ中尉である。
酒を好む者には酒が、未成年者または酒が嫌いな者には別の飲み物が用意されている。
「‥‥中尉さんもヤマト君も飲む? 日本の御茶は落ち着くよ?」
茶を持参していたのか綺羅が緑茶をコップに注ぎながら言った。
「お、ジャッパ〜ンのお茶かい。懐かしいなー、大学いたころは良く飲んだよ」
「緑茶か‥‥随分飲んでないな。それじゃ高村さん、お言葉に甘えて一杯いただけるかな」
「ねぇねぇ、能力者になるのに、インドの山奥で修行したってほんと?」
「え、インドの山奥でかい‥‥?」
潮彩の言葉に戸惑うヤマト。何処から聞いたんだろうそんな話、などと少年は思う。
そんな様子で各々卓を囲み一息ついていた。今晩はこの駐屯地で休息を入れてから明日の朝帰路に立つ予定だ。
「なんとか‥‥倒すことが出来ました‥‥ねぇ‥‥。硬かった‥‥ですぅ」
怪我人の応急手当が一段落して、ようやく人心地ついた幸臼が果実水を飲みながら言った。
「そうですねぇ、どちらかというと硬いというかタフな感じでしたけど。ともあれ一人も欠ける事なく生還できて何よりです」
キリトが微笑みながら言った。
「しかし‥‥デカイキメラだったな‥‥。あのツノとか‥‥削って武器にできねぇかな」
酒盃を傾けつつ言うゼラス。
「んー、多分だが、強度の関係とかで無理じゃないか」
とディアドラ。
「ふぅん‥‥そうか」
「‥‥足りない」
御影が呟いた。
「え、酒がか?」
ディアドラが問い掛ける。
「違う。あれ程の敵でも、足りないのか」
物足りなさそうな顔で御影が言った。
「やはりアイツも、渇きを癒すには足りえなかった‥‥」
崎森もまた同様に呟いていた。二人とも戦いが物足りなかったらしい。
「修羅な方々だなぁ‥‥」
ディアドラが苦笑して言った。
故にこそ、きっとまた、別の戦いを求めて彼等は流離うのだろう。
ともあれ、こうして夜は更けてゆき、電撃竜との戦いの一日は幕を閉じるのであった。