タイトル:この大地と空に刻めマスター:望月誠司

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/01/21 18:16

●オープニング本文


●この大地と空に刻め

 僕達の始まりはなんだったのか、僕は知らない。
 僕達の終わりが何になるのか、知る者はいない。
 暗黒の銀河に浮かぶ青い星の歴史、人間の歴史。例え人類が滅んでも、きっと星は歴史を刻み続ける。
「――紀元でいうと前3500年、今から三千とんで五百年前」
 荒野を疾走する軍用車のハンドルを切りながら女士官が呟くように言った。
「遥か遥か遠くの西の海から、ドラヴィダ人と呼ばれる者達がやってきた。長い時をかけて彼等はインダス川流域に定住し、農耕を始めて文明を築いた。それが後の世で言うところのインダス文明、私達はその文明を人類最古の文明の一つに数えている」
 僕は激しく揺れる助手席に座り、長銃に弾倉をはめ込んでいた。
 弾倉は乾いた音と共に相棒に装填される。僕はそれを確認するとバックミラーを一瞥した。
 巨大な影、追ってきている。
 恐怖と緊張が肝の底からせりあがって来る。それは、氷のように冷たかった。人の身体は、感情と共に本当に冷たくなる。ああ、氷の塊でも飲み込んだかのようだ。
 心臓が、激しく鳴っていた。
「‥‥ディアドラ、こんな時だっていうのに歴史の講義?」
「少年、人はどんな状況だろうと学び続けなければならない。学ぶ事を放棄した生命は、生存競争に負けるからだ」
 スコットランド生まれのバチカン育ち、東京で考古学を学んでいたというディアドラ=マクワリス中尉は飄々とした口調で言った。
 この金髪姐さんは美人だけど、感覚が少しおかしい気がする。生きるか死ぬかの瀬戸際で、よくそんな事を言っていられるもんだ。
「ドラヴィダ人の文明は栄えたが、紀元前千八百年頃に滅びる。何故滅びたのか? 気候の変化、砂漠化、外敵の存在、様々な説があるが、実際のところはどうだったのか、古代人ならぬ我々には知る術はない。彼らが遺した跡から推察するしかない」
「へぇ」
 僕は適当に相槌を打つとシートの上で座り直し、背後へと向き直った。この車は天井がない、というより車体の上半分がない。
 シートの縁に長銃を乗せて支え、狙いをつけ、発砲。反動が肩に伝わる。弾丸が飛んだ。
――‥‥畜生、外れた。
 こんなに車が揺れてちゃ当たるものも当たらない! と悪態をつきたくなったが、車輌よりも揺れているのは僕の腕だった。当たるわきゃない。くそったれ。
「ドラヴィダ人が滅んだように、私達もいつか滅びるのだろう。我々が滅びる時は、何が理由になるのかな」
「さぁ‥‥ね!」
 僕は長銃を連射しながら言った。
「ただ、歴史書に地球人は異星人の襲来によって滅びた、とか書かれるのは勘弁してもらいたいかなっ!」
 放った弾丸のうちの一発は背後から迫ってきている巨大な影に命中した。
 足に突き刺さった弾丸は、そいつの皮膚を破り血を噴出させた。確かに、血を、噴出させたのだ。
 にも関わらず、そいつはまったく速度を衰えさせずに地を揺るがして――言葉の通り、地を揺るがして! 駆けてくる。
 なんというタフさ、それとも全長10メートルなんて化け物には長銃の弾丸など蚊の一刺しでしかないのか。
 それは僕がまだ小学生であったころ、図鑑で見た恐竜に酷似していた。三本のツノを持った四足竜トリケラトプスだ。 三角竜は耳をつんざく吼え声をあげると、咥内から光を発し激しく明滅させた。不味い!
「ディアドラ!」
 僕が警告の声を発すると彼女はハンドルを思いきり切った。砂塵を巻き上げ車体が横滑りし、直角さながらに進行方向を変える。
 爆裂する光、眼も眩むほどのプラズマブレス。荷電粒子の渦が宙を焼き切り、進路上にあるものを薙ぎ払っていった。
 直撃したらこんな車など一瞬で消し飛ばされるだろう。僕は能力者だからもしかしたら一撃でやられることはないかもしれないけど、非能力者であるディアドラは確実に命はない。
 だというのに、
「ドラヴィダ人の次はアーリア人の時代になる。現存するインドの神話ヴェーダなどはこのアーリア人のものだと言われており、ヴェーダの記述の中には先のドラヴィダ人との戦いと思われし場面が――」
 彼女は相変わらずの調子だった。ああ、この神経の図太さが羨ましい。
「‥‥ねぇディアドラ、怖くはないの?」
「怖いぞ」
 僕が問い掛けるとディアドラはあっさり講義を中断して首肯した。
 僕は意外に思ってまじまじと彼女の横顔を見やった。彼女の息は荒く、頬は処女雪のように白く、うっすらと汗が浮かんでいた。
「‥‥解らんのか少年」
「‥‥‥‥何が?」
 ディアドラは言った。
「私が必死に現実逃避しようとしている事がだっ! 恐竜だぞ?! 荷電粒子砲だぞ?! 化石の時代と近未来がドッキングだぞ?! 電撃を撒き散らす十メートル近い大きさの化け物に追いかけられて、正気でなんていられるか!!」どうやら僕は多大な勘違いをしていたらしい。この金髪姐さんもやはり人の子だったようだ。
 僕は思わず苦笑して言った。、
「上官に現実逃避されると部下が困るであります、マム」
「部下っていっても今は君しかいないじゃないか! ヤマト君はしっかりしてるから大丈夫だろ! っていうか十五歳なのになんでそんなに落ちついてるんだ君は! これが能力者か?! これが新タイプの力なのか!」
「なんでって言われても‥‥」
 銃を撃ちながら答える。落ち着いてなんていない。証拠に、また外れた。くそっ!
「私はもう駄目だ。帰りたい、大学の研究室に帰りたい。なんで私は軍人になんてなってしまったんだろう! 駄目だ、もう駄目だ、酒だ! 少年、酒をくれ!」
「運転中の飲酒は禁止されています」
「戦場でもか!」
「戦場でもです」
「くたばれチクショー!」
 一端、壊れだすと止まらない人であるらしい。ディアドラは涙目になって、散々に悲鳴をあげながら、まさに必死といった様子で運転している。
「もうすぐだ! もうすぐで作戦ポイントに着く、そこまで行ければ――」
 ラストホープの傭兵達が必殺の布陣で待ち構えていてくれる筈だった。
 僕達が囮となってこの化け物を誘い出したところを傭兵達が叩く、そういう手筈になっていた。
 ディアドラは半狂乱になっていても見事なハンドルさばきで車体を操り、放たれるプラズマブレスをかわし続けながら無線に向かって言った。
「こちらディアドラ・マクワリス、最後の希望よりお越しの貴君等に告げる! パーティのお客様は招待したぞ! あと三分で会場へエスコートだ! 化石時代からの大物だ、全霊を込めて派手に歓迎してやれ!
 歴史に名を刻もう諸君! この青い星とバグアの赤い星の歴史に刻んでやろうじゃないか! 地球での戦いは、地球人の勝利に終わったとな!」
 この辺境でのキメラとの戦いも、勝利の道への一歩――小さな一歩かもしれないが、それはきっと一歩には違いない。
 ディアドラ・マクワリスはそう言ったのだった。

●参加者一覧

幸臼・小鳥(ga0067
12歳・♀・JG
エスター(ga0149
25歳・♀・JG
御影・朔夜(ga0240
17歳・♂・JG
崎森 玲於奈(ga2010
20歳・♀・FT
高村・綺羅(ga2052
18歳・♀・GP
ゼラス(ga2924
24歳・♂・AA
潮彩 ろまん(ga3425
14歳・♀・GP
キリト・S・アイリス(ga4536
17歳・♂・FT

●リプレイ本文

●化石の吼え声
「あっ、来た来た! わぁ、なんか口からゴーって吐いてるよ!」
 双眼鏡を手に潮彩 ろまん(ga3425)が言う。
「荷電粒子だな。情報によれば奴の場合は‥‥要はプラズマ、電撃攻撃だ」
 御影・朔夜(ga0240)が答えた。
「カンデン粒子? うーん、ボク難しいことは良くわかんないや。でも、ビリビリしそうだから、気を付けなくちゃね」
 緑髪の少女はにこっと笑って言った。
 そんな折にディアドラから無線が入った。やたらと必死な調子だ。それに幸臼・小鳥(ga0067)が声を返した。
「お疲れ‥‥さまですぅー。お二人は‥‥そのまま退避を‥‥お願いしますぅー。ここからは‥‥私たちが‥‥なんとかしますぅー」
「エスコート了解っと」
 ゼラス(ga2924)は腰を降ろしていた岩から立ち上がると、両手に鋼鉄の爪を装着しながら言う。
「‥‥さぁ、後はこちらが主賓だ。お客様を丁重にもてなすか」
 一同はそれに頷くと、散った。それぞれの役割を果たす為に配置につく。
 やがて車輌を追うようにしてプラズマトプスが地平の彼方より現れた。十メートル近い巨躯で大地を揺るがしながら駆けてくる。
 エスター(ga0149)、小鳥、御影の三人が行動を開始する。
 エスターは岩陰に身を隠しつつ射撃し巨竜の注意を惹こうと試みる。小鳥と御影は側面に回り込もうと左右に散った。
 巨竜はエスターの射撃を受けディアドラ達からエスターへと目標を移す。車輌はその隙に彼方へと退避していった。
「大きな岩‥‥突進して‥‥角でも刺さらない‥‥ですかねぇ‥‥」
 小鳥が呟いた。一同は射撃によってプラズマトプスの進路を誘導し、巨石へとぶつけようと試みていた。
 電撃竜の武器が突進だけであったなら、あるいはその鼻先に踊り出て誘導すれば、そういった事もありえたかもしれないが――あちらにも飛び道具があるのならば、撃ち返せばそれで済む。
 巨竜の顎が大きく開き、その奥から凶悪な光が溢れ出した。
「‥‥ヤバイッス!」
 エスターは素早く貫通弾を銃に装填し妨害を試みるが装填の手間がある分、あちらの方が速い。
 猛烈な光が爆裂し、エスターが居た空間を薙ぎ払う。
 間一髪、咄嗟に岩陰に飛び伏せ込こみ回避するエスター。雷撃の帯が岩をかすめ余波を撒き散らす。
 だが岩は電撃を通さない。岩を盾にしようと心がけていたことが、彼女の命を救った。
 電撃竜は吼え声をあげ、果敢にも距離を詰めてきている御影に向き直る。
 だがその瞬間、岩陰から潮彩 ろまん(ga3425)が飛び出していた。瞬天速で加速し、さらに駆け、勢いを乗せて月詠を振るう。
「えーいっ、百万円波斬剣!」
 急所を狙って振り抜かれた刃は巨竜の皮膚を突き破りその首筋から鮮血を噴出させた。その刀は高いだけあって素晴らしい切れ味である。
 だが攻撃の代償も刀の金額同様高い。竜は巨木のような足を振り上げると潮彩を薙ぎ払った。潮彩は疾風脚を用いてかわそうと試みるも、かわし切れず木の葉のように吹き飛ばされ、荒野に叩きつけられる。
 その間に高村・綺羅(ga2052)が巨竜の側面をつくように瞬天速で接近していた。加速し、大地を蹴り上げて跳び、巨竜の背へと舞う。見た目は愛らしいがとんでもない度胸だ。
 綺羅は巨竜の背へとしがみつき、激しく揺れるそれの上に登ると、アーミーナイフを高々と振り上げ首元めがけて突きこんだ。突きこんだナイフで体を支え、さらにもう一本のナイフで急所を狙い滅多刺しにする。
 巨竜が激しく身を捩じらせるが、少女は喰らいついて離れない。
 だが如何せんその巨体の前ではナイフでは刃の長さが足りない。打撃を与えはしているが致命傷までは届かない。
 崎森 玲於奈(ga2010)、ゼラス(ga2924)の両名は巨竜の側面に回りこむように、キリト・S・アイリス(ga4536)もまたプラズマトプス目がけて迫る。
 ゼラスとキリトは巨竜が岩に突進してから動く手筈だったが、突進する見込みがなければ仕方がない。作戦を転換して踊り出る。
 巨竜は咥内に光を集めると、首を振りながら解き放った。閃光の帯が広範囲にわたって撒き散らされる。
 だが能力者達も作戦の転換があったとはいえ、巨竜を相手に無防備に突進するほど向こう見ずではない。岩陰の位置を確認して走り、ブレスが吐き出されるよりも一瞬前にそこへ飛びこんでやりすごす。
 完全に側面をとった小鳥と御影が巨竜を挟み込み、遠距離からエスターが猛射する。小鳥の突撃銃が焔を吹き、御影が近距離から弾幕を撒き散らす。御影の火力は凄まじく、巨竜をみるみるうちに真っ赤に染め上げてゆく。貫通弾を用い練力を全開にしたエスターの一撃が巨竜の足を撃ち抜いた。
 跳ね起きた潮彩は素早く駆け寄ると刀で斬りつけ、首に喰らいついている綺羅がナイフを突き刺し続ける。
 だがそれでも巨竜は動いていた。生命力にものを言わせて電撃を撒き散らす。
 しかし、
「―――雷撃に頼り過ぎたな」
 崎森はブレスの軌道を見切り、紙一重ですり抜けるように避け、すれ違い様に刀を一閃させる。
「この剣劇には付いて来れまい」
 巨竜の足から血飛沫が飛んだ。
「ジタバタすんじゃねぇ‥‥そのデカイ図体‥‥裂き飛ばす!」
「一気に‥‥決める!」
 ゼラスが練力を全開にして崎森とは逆のサイドに回りこむと、大地を穿つほどの勢いで踏み込み、渾身の右フックを叩き込む。同時にキリト・S・アイリスが炎と氷の二刀を用いて怒涛の五連撃を繰り出した。
 雷撃竜の身体が大きく傾いだ。
「‥‥やったか?!」
 巨大な影が落ちた。巨竜の足が振り上げられ、ゼラスを踏み潰さんと迫る。
「――ッ!」
 ゼラスは即応すると後方に退いて間一髪で踏みつけを回避する。
「まだ動くのか」
 男は舌打ちした。
「呆れたタフさですね」
 キリトが半ば呆れたように言った。言いつつ振り回される角を後退して回避する。
「崎森、合わせるぞ」
 御影が貫通弾を装填した。崎森が竜の側面へと回りこみ御影が彼女の後方へと並ぶ位置になる。フェイントと本命を二重かつ二段に織り交ぜた必殺の連携だ。
――だが、一直線に並んだのは不味かった。
 瀕死の竜は、素早く首を巡らせると両眼に二人を捕らえた。竜の咥内が爆音と共に輝き、荷電粒子の渦が解き放たれる。
 圧倒的な威力をもった電撃の奔流が二人を飲み込み、光の帯が地平の彼方までを一直線に貫いていった。
「荷電粒子‥‥流石と言いたい所だが――駄目だな。それは以前にも見た事がある」
 雷撃の奔流が収まった時――御影・朔夜は立っていた。満身創痍、ボロボロになっていたが、立っていた。血反吐を吐きつつも立っていた。スナイパーなのになんでこんなに頑丈なのだろうと、誰かがきっと思ったに違いないが立っていた。恐るべき抵抗力である。もっとも、あと一撃もらえば絶命は間違いない状態と思われたが。
 だがあと一撃を能力者達は決して許しはしないだろう。
 御影よりもさらに深い傷を崎森は負っていたが、彼女もやはり立っていた。戦士の強靭な生命力で痛みを捻じ伏せ流れるように斬撃を繰り出す。
「余所見をするなよ――貴様に良い物をくれてやる。“Hrozvitnir”の爪牙、その真の一撃を‥‥!」
 練力を全開にした男が数十発を超える弾幕の嵐を叩き込む。
 巨竜が咆哮をあげた。その声音には死の色が濃く現れてきていた。
 最後の足掻きか竜の咥内に再び雷撃が宿る。
 しかし、
「そろそろ‥‥御休みの時間ッスよ?」
 赤髪のスナイパーが狙撃銃を構えていた。狙いを定め、発砲。
 一発の弾丸が回転と共に空を裂いて飛び、電撃が荒れ狂っている竜の咥内へと吸い込まれるように消えてゆく。
「Rest in Peace!」
 吐き出される直前のプラズマブレスが咥内で弾け飛び、竜の顔面を荒れ狂う電撃が包み込んだ。
 プラズマトプスは断末魔の絶叫すらも上げることが出来ずに悶絶し、やがてその瞳から光が消える。
 竜の巨体が横倒しに倒れ、地が揺れた。
「‥‥やっと、倒れた」
 高村綺羅が荒野に着地すると巨竜の体躯を見下ろしてそう呟いた。
 化石の時代の生き物は、再び地に帰ったのだ。

●戦いの後
 夜。
 満天の空。
 インドのとある地方にある駐屯地、そこに並ぶ天幕の一つに陽気な声が響き渡っていた。
「お疲れ様! いやー、皆良くやってくれた、有難うっ!」
 そう言って上機嫌に料理を振舞っているのはディアドラ中尉である。
 酒を好む者には酒が、未成年者または酒が嫌いな者には別の飲み物が用意されている。
「‥‥中尉さんもヤマト君も飲む? 日本の御茶は落ち着くよ?」
 茶を持参していたのか綺羅が緑茶をコップに注ぎながら言った。
「お、ジャッパ〜ンのお茶かい。懐かしいなー、大学いたころは良く飲んだよ」
「緑茶か‥‥随分飲んでないな。それじゃ高村さん、お言葉に甘えて一杯いただけるかな」
「ねぇねぇ、能力者になるのに、インドの山奥で修行したってほんと?」
「え、インドの山奥でかい‥‥?」
 潮彩の言葉に戸惑うヤマト。何処から聞いたんだろうそんな話、などと少年は思う。
 そんな様子で各々卓を囲み一息ついていた。今晩はこの駐屯地で休息を入れてから明日の朝帰路に立つ予定だ。 
「なんとか‥‥倒すことが出来ました‥‥ねぇ‥‥。硬かった‥‥ですぅ」
 怪我人の応急手当が一段落して、ようやく人心地ついた幸臼が果実水を飲みながら言った。
「そうですねぇ、どちらかというと硬いというかタフな感じでしたけど。ともあれ一人も欠ける事なく生還できて何よりです」
 キリトが微笑みながら言った。
「しかし‥‥デカイキメラだったな‥‥。あのツノとか‥‥削って武器にできねぇかな」
 酒盃を傾けつつ言うゼラス。
「んー、多分だが、強度の関係とかで無理じゃないか」
 とディアドラ。
「ふぅん‥‥そうか」
「‥‥足りない」
 御影が呟いた。
「え、酒がか?」
 ディアドラが問い掛ける。
「違う。あれ程の敵でも、足りないのか」
 物足りなさそうな顔で御影が言った。
「やはりアイツも、渇きを癒すには足りえなかった‥‥」
 崎森もまた同様に呟いていた。二人とも戦いが物足りなかったらしい。
「修羅な方々だなぁ‥‥」
 ディアドラが苦笑して言った。
 故にこそ、きっとまた、別の戦いを求めて彼等は流離うのだろう。
 ともあれ、こうして夜は更けてゆき、電撃竜との戦いの一日は幕を閉じるのであった。