タイトル:【PN】窮鼠背水・央軍マスター:望月誠司

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/05/20 08:39

●オープニング本文


 四月某日、セルビア南部、ブジャノヴァクの前線陣。
 急ピッチで築城が進められたその陣の南に、ついにバグアの大軍が姿を現した。
 敵の先鋒はキメラだった。地平を埋め尽くす程の生物兵器の群れが、砂煙をあげ、地を揺るがして前進してくる。
「へっ‥‥ついにきやがったぜ」
 緊急指令が発令され、迎撃態勢を取る為に慌ただしく動いている陣地。兵士は塹壕に身を隠し、突撃銃を握りしめて呟く。口は不敵に歪められているが、手がカタカタと震えている。
「大丈夫だ。恐れるな。この陣の守りは堅い」
 別の兵士が言った。傭兵達の活躍や軍人達の奮起もあり、建造途中だった陣は完成していた。かなり堅牢な陣となっている。
 容易くは抜かれない。
「そうだったな‥‥これならきっと」
 やれる筈だ。
 兵士達の多くは皆、恐怖を抱えていたが、それでも士気は高かった。

●防衛戦
 櫓が吹き飛んだ。機関砲が爆砕した。戦車が踏みつぶされ、自走砲が砕け散る。
 地雷原に踏み込んだキメラの群れが吹き飛び、戦車砲の直撃を受けて大型キメラがよろめく。重機関砲が焔を吹き、無反動砲が煙を裂いて飛び、撒き散らされる手榴弾が爆発を連鎖させた。
 人が飛ぶ、人が飛ぶ、人が砕ける。
 キメラが飛ぶ、キメラが飛ぶ、キメラが砕ける。
「そ、空にHW編隊! 数8! フレア弾を投下してきましたッ!!」
「電撃竜を中心としたキメラ30がBP20を突破!」
「ヒュドラを前面とした大型キメラ群20、BP18を速度20で北上中!」
「レッド中隊壊滅! オイゲン大尉、戦死!」
「203歩兵大隊がヒュドラを撃破!」
「KV小隊が敵HW編隊を撃破! 制空権を取り戻しました!」
「101戦車中隊が電撃竜を撃破! BP18を南下中です!」
「グリーン中隊がBP20を奪い返しました! 損害は軽微! とのことです」
 激突から数日が経過し、暦は既に五月へと突入している。ブジャノヴァクの陣は激戦の最中にあった。
 十数キロに渡って敷かれた陣、その中央部、司令部となっている天幕の中で、一人の男が椅子に腰かけていた。
 エゼキエル・ジーク、齢は五十。階級は大佐。能力者だ。すっかりと髪の色を白に変えた厳めしい顔立ちの男は、次々にあがってくる報告に耳を傾けつつ陣図を睨んでいた。
「ラポヴォからの返答はまだか?」
 通信士に問いかける。ジャミング電波が満ちているので通信一つするにも時間がかかる。
 戦況は悪くない。敵の圧力が予想程ではなかった事と、しっかりとした陣地を作れたからだろう。後方にあるラポヴォ要塞からS‐01を三十も送ってもらえればあるいは反攻も可能かもしれない。
「‥‥大佐!」
 通信士の一人が顔面を蒼白にして声を張り上げた。
「ラポヴォ要塞が攻撃を受けている、との事ですッ!」
 その言葉に場に衝撃が走る。
 エゼキエルはしばしの沈黙の後に言った。
「‥‥なるほど、道理でバグアどもにしてはぬるいと思ったわ。山中を抜かれたか」
 敵は部隊を二手に分けていたらしい。陣が堅固と見て後方を奇襲で断つ事にしたのか。
 小賢しい手を、と大佐は思う。だが下手を打ったな、とも思った。
 ラポヴォの要塞司令アッラシードは百戦錬磨の古強者だ。エゼキエルと同様能力者でもある。アッラシードの指揮ならばきっと要塞に向かった敵部隊は手痛い目にあっていることだろう。
「アッラシードはなんと言っている? こちらから援軍を出して敵の背後をつくべきか?」
 少々きついが、多少の戦力を割いても陣はまだ維持できるはずだ。
 エゼキエルが素早く挟撃の構想を練っていると、
「その‥‥アッラシード司令官は戦死なされました‥‥」
 沈黙が降りる。
「現在はジャコヴァン中佐が指揮を取っています」
「‥‥アッラシードが死んだ、だと?」
 厳めしい顔立ちの男は自失の態で呟きを洩らした。
「‥‥‥‥どうやって死んだ?」
「それが‥‥詳細はこちらまで来ていないのですが、司令は突如として地中より現れた影に呑まれた、と」
 地中。バグアの新兵器か。
「なお要塞戦力は既に壊滅状態とのことです」
 司令が殺された直後の混乱を突かれたらしい。要塞が破壊されるのはもはや時間の問題だと。
 場が静まる。少し離れた前線から爆音が鳴り響いている。
「――現状は理解した」
 エゼキエル大佐は呟いた。
 援軍は来ない。背後は断たれた。補給路も断たれた。退路も無い。
「つまり、我々は孤立した、という訳だ」

●大佐の決断
「‥‥は?」
 その大佐の言葉を聞いて下士官は耳を疑った。
「全面攻勢に出る」
 初老の男はそう言った。
「しょ、正気ですか大佐ぁ?!」
 下士官は思い出す。そうだった。エゼキエル・ジーク、通称死神大佐。その苛烈な戦いぶりからついた渾名だった。
「単に後ろに下がっても喰いつかれる。そして例え犠牲を払って追撃を振り切ったとしてもE75街道上に敵はいるだろう。結局、前後を挟まれるだけだ。後ろに退けなければ前に出るしかない」
「しかしながら、だからといって、玉砕でありますか」
「玉砕? 違うな」
 大佐は口元を歪め、葉巻を咥えると言った。
「博打が適当なところだろう」
 いずれにせよ正気じゃねぇ、下士官はそう思った。
 大佐は火をつけると、煙を吐き出しつつ言う。
「戦力を削られる前に纏めてぶつけた方が、我々が生き残る確率は高い、と見る。幸いな事に前面に展開しているバグア軍の数はそれほどでもない。
 一斉に攻勢をかけこれを殲滅、追撃の手を断ってから改めて北上、街道の敵を突破し、道の分岐点を東南へと抜け、ソフィアへ逃げ込む」
「前面の敵部隊を殲滅する前に、南から敵の増援がやってきたら」
「来る前に潰す」
「そんな事が出来るんですか」
「‥‥貴官はいまいち理解していないようだから言っておくが」
 エゼキエル・ジークは淡々と言った。
「我々の八方は既に塞がっている。現状では我々には進める道がない。退くも出来ぬ、留まるも出来ぬ。我々がいるのは既に地獄の底だ。叩き斬って道を開かぬ限り、何処へも行けんのだよ」

●央軍
 圧力は予想よりも少ない、エゼキエルはそう言ったが、実際には敵はかなりの大軍である。
 最前線の陣を突破し、その奥にあるBP26と区分されている陣へと黒きゴーレムを中心とした部隊が突き進んでくる。
 反攻に出る、との司令の言葉を現実のものとするには、まずこの先頭集団を撃退しなければならないだろう。敵の斬り込み隊、その力は非常に強力だ。
 この黒ゴーレムの部隊の撃退を命じられ、BP26に配置された傭兵の一隊は、KVのコクピットの中で静かにその時を待っていた――

●参加者一覧

ロッテ・ヴァステル(ga0066
22歳・♀・PN
幸臼・小鳥(ga0067
12歳・♀・JG
エスター(ga0149
25歳・♀・JG
鋼 蒼志(ga0165
27歳・♂・GD
ファファル(ga0729
21歳・♀・SN
西島 百白(ga2123
18歳・♂・PN
葵 コハル(ga3897
21歳・♀・AA
月神陽子(ga5549
18歳・♀・GD
ソード(ga6675
20歳・♂・JG
八百 禮(ga8188
29歳・♂・DF

●リプレイ本文

「破滅をもたらす巨人の行軍。やれやれ、小説や映画の様に変えられない現実でないのが救いですね」
 戦闘機形態をとっている八百 禮(ga8188)が上空を旋回し、コクピットから大地を見下ろして言う。
「これは‥‥大軍だ」
 地上、コクピットの中、迫りくる群れを目にしてソード(ga6675)が呻いた。
「勝利を確信しているのかしら‥‥気に入らないわね」
 ロッテ・ヴァステル(ga0066)がバグア軍を見据え眼を細める。
「うー‥‥相手は多いですけど頑張りますぅっ」
 幸臼・小鳥(ga0067)がおどおどしながらも言う。
「‥‥無理はしないようにね?」
「はい、ロッテさんも‥‥気をつけて‥‥くださいねぇー‥?」
「‥解ってるわ」
「しかし、中々無茶な状況ですねぇ」
 鋼 蒼志(ga0165)が呟いた。ただでは後ろに退けない、それは解る。だが、押されているのに押し返して、おまけに殲滅しろという。
「瀬戸際の背水作戦ッスね」
 エスター(ga0149)が言った。
「死中に活あり‥か。くくっ‥‥その考え、嫌いではない」
 ファファル(ga0729)が煙草を消しながら笑う。
「‥‥来る、ぞ」
 西島 百白(ga2123)が呟いた。
「敵の指揮官機の武器は‥危険です。攻撃を受ける前に速攻で相手を撃破して下さい」
 月神陽子(ga5549)が敵影を見据え呟く。
「了解ッス。ガクガクアニマルランド再建って事にはならねー様に一気にやるッス!」
 ライフルを構えてエスターが言った。
「活路を切り拓く先陣として! 行くよ風牙!!」
 葵 コハル(ga3897)が愛機に呼びかける。
「ふん、こういう状況を力押しで抜けるというのは嫌いじゃない」
 覚醒と共に語調を鋭くした鋼が言う。
「さしずめ俺達は死神大佐の振るう鎌ってところかね。奴等の首を刈り取ってやろうじゃないか」
 戦いが、始まった。

●央陣死闘
 バグア軍が陣に押し寄せ、キメラと歩兵が、KVとゴーレムがぶつかり合う。
 エスター、小鳥の両機は煙幕銃を解き放った。前に出ている敵機とその後方の敵機との間に煙幕を張る。エスター機は西に展開し、小鳥機はレーダーを頼りに発砲する。東に展開したファファル機もスナイパーライフルを発砲した。
 八百機は飛行形態で戦場へと飛来し、上空から地上へと向けて電撃をまき散らす。遺憾なことだが、空から大地への攻撃はKVの仕様上、狙えるものではない。電撃は狙った地点よりもはるか奥を薙ぎ、溢れるキメラのみを薙ぎ払った。
 八百は空中で可変し大地へと降り立つことを試みる。空気抵抗で急減速する、マッハで着陸しては機体が四散するのでバーニアを吹かせてさらに減速する。
 殺し合いだ。
 敵がその隙を見逃す理由は存在しない。
 後衛のゴーレム二機が大砲を空へと向けた。猛射。合計で十二発の砲弾が飛ぶ。ディアブロの急所へと次々に直撃した。爆裂、焔の嵐が巻き起こる。
 八百機は空中で爆炎に呑み込まれて四散した。大破だ。吹き飛んだ破片が大地へと降り注ぎ、焔に包まれた機体が大地に叩きつけられてひしゃげる。歩兵達がその様を見て息を呑んだ。
 その間に漆黒の指揮官機は前進を開始し慣性制御を発動させて宙へと跳躍していた。煙幕地帯を跳び越える腹積もりのようだ。西に回り込んだエスター機が指揮官機へと発砲していたが外れていた。後衛のゴーレムを狙った小鳥、ファファルの両機の弾丸もかわされている。
 前衛、三機のゴーレムが大剣を振りかざして突進してきている。
 中央、ロッテ機と葵機が迎え撃った。葵機が牽制のレーザー砲を放つ。ゴーレムはかまわず大剣を楯にして突っ込んだ。ロッテ機はゴーレムの軌道を読みグングニルを撃ち放った。加速した穂先がゴーレムの装甲に突き立ち、穿つ。ゴーレムが反撃の大剣を繰り出す。
 それよりも早くに槍を引き抜きロッテ機は後退していた。
「何処を狙っているの、こっちよ‥‥!」
 距離を取ってかわす。葵機が盾を構えて突進し、ソニックブレードで袈裟斬りに斬りかかる。入った。轟音と共に火花が散り、装甲が削られる。返す刀で薙ぎ払いを放つ。ゴーレムは大剣を立てて受け流した。ゴーレムから反撃の斬撃が飛ぶ。葵機は楯で受け止めた。轟音が鳴り響き盾越しでも強烈な衝撃が突きぬけてゆく。
 右翼、月神機へと向かってゴーレムが大剣を振り上げて踏み込み猛烈な二連撃を浴びせかける。真紅のF‐104夜叉姫は左のディフェンダーで捌き、受け止める。受けはしたが突きぬける衝撃に左腕が悲鳴をあげた。
「道を作るというのならば無理矢理こじ開けるだけだ。このバイコーンの角で穿ち貫いてな!」
 横合いから鋼機が暴風の如く襲いかかった。全身これドリル。スタビライザーを発動させ、両手両足で螺旋の咆哮をあげると怒涛の四連撃を加える。ゴーレムはスウェーしてかわし、大剣で打ち払ってかわし、後退してかわし、四撃目、捉えられる。甲高い音をあげてドリルがゴーレムの装甲をぶち破り、抉り抜く。青い巨体が大きくよろめいた。
「もらいましたわ」
 月神が呟きを洩らす。夜叉姫はスタビライザーを発動させて機体を加速させ必殺の爆槍を繰り出す。メトロニウムの切っ先がゴーレムの装甲をぶち破った。瞬後、穂先から焔が噴き上がり猛烈な爆発が巻き起こる。爆裂、爆裂、爆裂、爆裂。内部からの爆圧にゴーレムの巨体が弾け飛ぶ。大破だ。烈火が荒れ狂った。
「なんとも‥‥凄まじい破壊力だな――月神!」
 爆発に巻き込まれぬように後退した鋼が気付き、叫ぶ。
 ゴーレムが噴きあげた爆炎を裂いて漆黒の機槍が夜叉姫めがけ飛んできていた。咄嗟に防御に掲げたディフェンダーをすり抜け機槍が突き刺さる。次の瞬間、猛烈な爆炎が巻き起こった。地に降り立った指揮官機は自らが間合いを詰めていた。夜叉姫の装甲が爆ぜ飛び、爆炎に包みこまれる。
 左翼、西島機へとゴーレムが襲いかかった。西島は竜巻の如く振り下ろされる剣閃を見た。
 ――速い。避けられない。
 大剣が阿修羅の背中を強打する。背面装甲が砕け破片が飛び散る。強烈な一撃だ。激震がコクピットを襲った。阿修羅では二撃は耐えられないと直感的に悟る。
(「ただでは‥‥やられん!」)
 西島機は防御を捨てゴーレムに肉薄するとチタンファングで猛攻をかけた。ゴーレムは横にスライドして避け、大剣で打ち払って避ける。ゴーレムが大剣を突き降ろした。
「行くぞ‥‥【阿修羅】」
 阿修羅が踏み込む。ゴーレムの膝関節を切り裂いた。ゴーレムがよろめく。四足獣が串刺しにされる。電流が茨の如く荒れ狂い、阿修羅の機体から爆発が巻き起こった。大破。
「あまり調子に乗らないでもらいましょうか!」
 ソード機が怒りの叫びと共に間合いを詰め、爆槍を繰り出す。西島機の一撃によろめいているゴーレムに直撃した。命中。ロンゴミニアトの切っ先がゴーレムの装甲を突き破り、爆炎の華を咲かせた。さらに爆裂。脅威的な破壊力が荒れ狂う。ゴーレムの胴体が爆散し上半身と下半身が二つに別れて吹き飛んだ。
 中央、ロッテ機は間合いを詰めるとグングニルを撃ち放ちゴーレムの装甲を突き破る。神速の一撃に態勢が崩れた。その隙に葵機がソニックブレードを閃光の如く振ってラッシュをかける。
「風の刃からは逃げられないから!? 葵顕流・空技! 颶風裂破!!」
 袈裟斬り、逆胴の二連撃から、傷口の交差点を狙い、アグレッシヴ・フォースを乗せて強烈な突きを放つ。切っ先がゴーレムの装甲を貫通し、漏電、爆発を巻き起こした。ゴーレムの瞳から光が消える。葵はゴーレムを蹴り倒し刃を引き抜く。ゴーレムの巨体が地響きをあげて大地に転がった。
 後衛の敵左翼、煙幕の西側へ回り込んだエスター機へとゴーレムが大剣を振りかざして突進していた。エスターはレティクルに迫りくる鉄巨人を収めると顔面、膝、関節を狙ってライフルとレーザー砲を猛射する。ゴーレムは慣性制御を用いて突進しながら横にスライドする。命中したが急所からは外れた。ゴーレムの装甲が削られる。
 ゴーレムはエスター機に肉薄し頭部を狙って落雷の如く大剣を打ち降ろした。エスター機は咄嗟に機体を横に振る。鉄塊がバイパーの肩部を強打する。ゴーレムは返す刃で薙ぎ払った。大剣がバイパーの胴を直撃し吹き飛ばす。
 後衛の敵右翼、そちらのゴーレムもまた煙幕の東側に展開したファファル機へと向かって突進していた。
「ちっ‥‥やらせん!」
 ファファルは舌打ちし、迎え撃つようにレーザー砲を猛射する。ゴーレムは慣性制御を発動させて跳躍しかわした。バーニアを吹かせて急降下し大剣を振り下ろす。鉄塊が轟音と共に命中し、R‐01の右肩部をひしゃげさせ叩き潰した。コクピットを狙って凶悪な殺傷能力を秘めた大剣が振り下ろされる。ファファルは即座に機体を横に逸らせる。刃が風防をかすめ足の付け根に炸裂しその間接に食い込んだ。
 ファファル機へとトドメを刺そうとするゴーレムをサイトに納め、小鳥は二丁のライフルで猛射する。弾丸が空を切り裂いて飛びその脇胴に炸裂した。装甲を突き破って喰い込む。
 中央、炎に包まれながら夜叉姫が爆槍を繰り出す。指揮官機の装甲を突き破った。喰い込んだロンゴミニアトの切っ先から猛烈な爆炎が巻き起こる。爆裂、爆裂、リロード、爆裂。
 指揮官機もまた同時に爆槍の全弾を開放していた。爆裂、爆裂、爆裂、爆裂、爆裂、五連打。
 真紅のバイパーと漆黒のゴーレムを中心に地獄の業火が荒れ狂う。夜叉姫は上半身を爆砕され粉々に吹き飛び地に転がった。ゴーレムの胴体が爆ぜ飛び、左半身が消し飛ぶ。だがまだ立っている。リロード分が明暗を分けた。
 鋼機がスタビライザーを発動させる。手足のドリルを唸らせて指揮官機へと連撃を繰り出す。漆黒のゴーレムは慣性制御を発動させて避けた避けた避けた避けた。
 爆槍がリロードされる。鋼機へと向かってカウンターの豪槍が繰り出される。切っ先がバイパーの胴を突き破り、喰い込む。爆裂、爆裂、爆裂、爆裂。爆風が荒れ狂い、バイパーの上半身が破砕し吹き飛んだ。激しく電撃をまき散らしながら鋼機が地面に崩れ落ちる。
 敵左翼、ゴーレムがエスター機へと向かって猛撃を加える。エスター機もまたライフルをリロードしつつ反撃する。銃弾がゴーレムの胴体を抉り、装甲を突き破る。大剣がバイパーを袈裟切りに叩き斬り、腕を斬り飛ばし、胴体を貫いた。エスター機は漏電、爆発、大破する。ゴーレムはまだ動いている。
 敵右翼、ゴーレムの大剣が荒れ狂う。横合いから攻撃を受けつつもファファル機へと猛攻を仕掛ける。斬撃の衝撃に機体が悲鳴を上げる。ゴーレムが音速を超えて突きを放つ。ファファル機がブレイクホークを繰り出す。斧がゴーレムの脇腹に食い込む。ゴーレムの大剣がR‐01の胴をぶち抜いた。漏電。爆発、大破。
 ゴーレムは剣を引き抜くと小鳥機へと向かう。小鳥機はライフルをリロードしつつ連射する。ゴーレムは慣性制御を発動させ回避機動を取りながら前進する。しかし、避けきれずに弾丸がゴーレムの装甲を抉った。
 ロッテ機が小鳥機へと迫るゴーレムの横合いから突っ込む。機槍がゴーレムを撃ち抜いた。葵機が追従し疾風の如く間合いを詰める。音速刃が閃いた。振動する刃がゴーレムを切り裂き、打ち倒す。
 ソード機はエスター機から大剣を引き抜いているゴーレムの背へと迫り爆槍を繰り出した。背面装甲を突き破り、切っ先から焔を噴き上げる。爆裂が巻き起こった。ゴーレムはその一撃で損傷が許容範囲を越えた。激しく漏電、焔を噴き上げ、倒れる。
 そのソード機の側方より漆黒の指揮官機が迫った。右腕一本で爆槍を構え突進、振り向いたソード機の胴体に切っ先を叩き込む。リロードしつつ爆裂三連。破壊の嵐が荒れ狂う。ソード機が吹き飛んだ。紙一重で耐えきれずディアブロがその動きを止める。
 煙幕が消えた。小鳥機がブーストを発動させ駆けだす。
 ロッテ機がマイクロブーストとブーストを併用して発動し背から光を噴き上げて駆ける、葵機もまたブーストを点火させバーニアを吹かせて駆ける、ゴーレムもまた迎え撃つように走る。バーニアは無い。三機の鋼鉄兵が激突する。
 漆黒のゴーレムから爆槍が繰り出される。狙いはロッテ機。爆裂三連。猛烈な破壊力が荒れ狂いワイバーンが吹き飛んだ。大破。だが同時に加速する機槍が繰り出されていた。オージンの槍が満身創痍の指揮官機に炸裂する。漆黒の機体から焔が噴き上がった。だがまだ倒れない。
 葵機が迫る。グングニルの衝撃に態勢を崩しているゴーレムへと後背からバーニアを吹かせソニックブレードを構え突っ込む。
「た・お・れ・ろぉおおおおおッ!!」
 全身全霊を込めて切っ先を繰り出す。空を切り裂いて振動する刃がゴーレムの胴めがけて伸びる。
 漆黒のゴーレムは槍を横に払った。鈍い音を立てて切っ先が横に流れる。
 ――かわされた。
 カウンター、爆槍が繰り出される。ディアブロを貫く。リロードしつつ爆裂三連。ディアブロが吹き飛び地に転がる。起き上がろうと動かす。漏電、爆発、動かなくなった。
 最後の生き残りである小鳥機はブースト機動でゴーレムの背後に回っていた。
 漆黒のゴーレムはもう燃料が無いのか、初期に見せた高機動ではない。全身から焔を吹いている。あと一撃、おそらく、本当に後一撃だ。
 爆炎が噴き上がる中、ガンサイトに漆黒のゴーレムの背を収める。幸臼小鳥、当てられるか否か。
(「当てる‥‥ですぅっ!」)
 小鳥は腹の底から湧きあがってくる震えを押し殺し、祈りを込めて引き金をひく。ゴーレムが振り向いた。

●決着
 ゴーレムには既に慣性制御を発動させる力は残されていなかった。それでも横に動く。肩に槍が突き刺さったままだ。重量で態勢が崩れ機動が遅れる。槍を掲げる。狙い澄まされた弾丸が柄をすり抜けた。
 弾丸が吸いこまれるようにゴーレムの胴へと突き刺さってゆく。装甲を突き破り、穿った。
 ゴーレムが爆槍を構え、小鳥機へと突進する。槍を振り上げる。電流が茨のようにその全身から溢れた。漏電、爆発の嵐が巻き起こる。漆黒の指揮官機は炎を噴き上げながら走り、小鳥機の脇をすり抜け、大地に倒れた。
 数瞬後、爆発が止んだ。
 小鳥は振り返った。
 動悸を抑えつつ、地に倒れたゴーレムを見る。
 ――ゴーレムはもう、立ちあがらなかった。

●結果
「漆黒のゴーレムを傭兵達が倒したぞ!」
 歩兵達から盛大な歓喜の嵐が巻き起こる。
「まさか、黒の部隊を倒せるとは‥‥」歩兵隊長が無線機を片手に呟いた「今こそ好機だ! 一気に押し返せッ!!」
 津波の如く数千の兵士達が咆哮をあげる。
 小鳥機を先頭に立て、中央の大隊が前進を開始する。
 両翼――特に右翼の部隊からの圧力もあり、バグア軍は総崩れとなった。
 エゼキエル・ジーク率いるUPC軍は猛攻に猛攻を重ね、やがてバグア軍を撃破し殲滅した。