タイトル:【DoL】幕下暗闘マスター:望月誠司

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/02/03 00:06

●オープニング本文


 西暦2008年を迎えた一月某日、名古屋にあるUPC日本本部を統括する東アジア軍本部の会議室では
、ミハエル=ツォィコフ中佐がいつにも増して怒号を上げていた。
「お前達が私を評価してくれたことには嬉しく思う。だがそれでは余計な注目を浴びてしまうだけというのが分からんのか!」
 問題になっている議題はツォイコフ中佐の帰郷である。本来極東ロシア軍所属の中佐がいつまでも日本に滞在する必要は無く、防衛戦の事後処理も済んだ今では中佐はロシアに帰るのが筋だった。しかし日本本部の司令官本郷源一郎大佐は、中佐の帰郷さえも一つのプロパガンダに利用できないものかと考えていた。
「だがガリーニンはもう存在しない、中佐はどうするというのだ?」
「俺を呼び出したのはお前達で、ガリーニンの突撃もお前達の指示だ! 全権を握ったのは確かに俺だが、その青写真を描いたのもお前達ではないか!!」
 吼える中佐、しかし彼に提示された案は一つしかないことも中佐は理解していた。
「お前達は何故そこまで俺をユニヴァースナイトに乗せようとするのだ!!!」

 会議室のプロジェクターは、UPC東アジア軍が提示したガリーニンに代わる中佐の乗艦「ユニヴァースナイト」を映し出していた。手元に配られた資料には「KV搭載可能、自己発電機能有、航続可能時間1000時間超」といった十分すぎる性能が書かれている。しかし最大の問題点が書かれていなかった。

「名古屋防衛戦も敵の本来の目的はこのユニヴァースナイトの破壊が目的だったのではないか?」
 ユニヴァースナイトの最大の問題点、それはガリーニンを超えギガ・ワームにさえ引け劣らない巨大な体躯だった。また空母である以上ユニバースナイト自体には十分な火力が搭載されているわけではない、いかに各メガコーポレーション合同開発の最新鋭空中空母とはいえ、KVが無い状態で集中砲火を浴びれば撃墜は免れない。
「そのユニヴァースナイトの進水式を大々的に行うと言うのはどういう了見なのだ! 再び名古屋をバグアの戦火に晒したいのか!!」
 当初中佐はユニヴァースナイトに乗ること自体に懐疑的だった。
 乗ってしまえば常に最前線を転戦し、部下を危険に晒してしまう。
 乗艦条件として提示したのが部下以外の各種専門家の搭乗と進水式の見直しだった。
「しかし名古屋以外にもバグアからの解放を期待する声は高い。彼ら彼女らに希望を持たせるのも私達UPC軍人の仕事だ」
 冷静に諭す司令官。そこまで言われた以上、流石の中佐も反論ができなかった。
「ならばガリーニンの時と同様KVでの護衛を依頼する。並びに、民間人は全員シェルター退避だ。貴様らの言う希望はブラウン管を通してでも伝わるだろう。これが俺の譲渡できる最低ラインだ」
 こうして中佐のユニヴァースナイト搭乗が決定した。

●幕下暗闘
 巨大空中空母ユニヴァースナイトの進水式がとり行われようとしている時、注目が集まるそことは別の場所を守る人材が求められていた。
 それは名古屋の街外れにある巨大なガス工場である。
 名古屋市へのガス供給シェアの何割かを担っているこの工場には、当然ガスの詰まったタンクがあり、万が一爆撃でもされようものなら、一瞬のうちに連鎖してこの地上から地上の幾ばくかを巻き添えにして消し飛ぶ。
 街外れにあり、付近に人の住む建物が無いのが救いといえば救いだが、それでも万一破壊された時の被害は計り知れない。即、名古屋市のガス供給がストップするといった事態にはなりにくいだろうが、確実に名古屋の都市としての機能は低下する。
 故にバグアの襲撃も予想されており、UPC軍が守備にあたることになっていた。
 地上、空、そこにはなんとか手が回る、しかし手薄な場所が一点あった。
 それは――地下である。
 古来より地上に注意をひきつけ、地下より少数の部隊を送り込んで内部を撹乱するのは定石の戦法。
 バグアがこの星の戦史を知っているのかどうかは定かではないが、古の伝承に基づき人々の恐怖を煽る姿のキメラを作り出すくらいである。この星の都市攻めに有効な戦法を知っていても不思議はない。
 ガス工場の守備任務につくことになったUPC将校は貴方達に言った。
「ガス工場の地下にある道――下水道は知っての通り狭い、ついでに暗い、故に大量の戦力を展開しにくい。生身で、しかも少数でとなった時、きゃつ等ともっとも有効に渡り合えるのは貴君等ULTの傭兵達であると儂は考える」
 将校は艶やかなヒゲを撫でつつ述べる。
「故に貴君等にガス工場地下の下水道の守備を依頼したい。まぁ下水道は広大だ。その全てを貴君等で守れなどという無茶を言うつもりはない。四方より水道が交わる、もっとも重要だと思われる地点を守って欲しい。他は我々でカバーする。下水は狭い、来るのは恐らくキメラだろう。小型から中型のキメラなら場所が狭くても数で押せる。儂が連中の指揮官なら炎を吐く小型キメラを大量に送り込むだろうな」
 将校は一つ咳払いすると、
「派手な任務ではない。当然、注目を浴びる任務でもない。むしろ地味で、目立たぬ任務だ。多くの人はきっと儂等のことなんぞ知らんで終わるだろう。にも関わらず危険な任務だ。しかし――重要な任務だ。貴君等か儂等、もしキメラの一匹でも防衛線を突破させてしまったら、その為にこの工場の全てが吹っ飛ぶ危険性がある」
 爆風は上にゆく為、地下ならば無事に済むかもしれないが、地上を守るこの将校達は確実に死ぬ。そして長い目で見れば名古屋市の命運を分けることにもなりかねない。
「正直な話、キツイ任務になるだろう――その上で問おう。この依頼、引き受けるかね?」
 ヒゲの将校は貴方がたを真直ぐに見据え、問いかけた。
――貴方がくだした決断は、如何?

●参加者一覧

フェブ・ル・アール(ga0655
26歳・♀・FT
比留間・トナリノ(ga1355
17歳・♀・SN
フォーカス・レミントン(ga2414
42歳・♂・SN
リン=アスターナ(ga4615
24歳・♀・PN
アルヴァイム(ga5051
28歳・♂・ER
ラルス・フェルセン(ga5133
30歳・♂・PN
藤宮紅緒(ga5157
21歳・♀・EL
大上誠次(ga5181
24歳・♂・BM

●リプレイ本文

●有備無憂
「照明、かね?」
 即席の司令部と化しているガス工場の一室でヒゲの将校が問いかけた。
 将校の前に対するはショットガン使いのフォーカス・レミントン(ga2414)である。
「万が一、スコープが壊れてしまうことがあれば、死んだようなものです」
 壮年の男の主張に将校はふむ、と鬚をなでると隣に立つ女性士官に問い掛けた。
「まぁその意見ももっともか、貸与可能な照明器具はまだ残っているか?」
 副官らしき女性士官は首を横にふった。
「厳しいですね。下水へゆく部隊は他にもいます。スコープの無い部隊に優先的に与えていますから‥‥スコープの無い班は照明がないと、そもそもに戦えません」
「では軍用、といかなくとも懐中電灯ぐらいは‥‥何とかなりませんか」
 フォーカス・レミントンが食い下がる。
「うむむ、まぁ懐中電灯くらいなら‥‥古いものならまだあったか?」
「緊急キットなどに備えられている物に比べれば、光量も少なく、大分性能が劣りますが‥‥それでも良ければ」
「十分です」
「ではそれを」
「あ、あとっ、網を貸していただけませんか?」
 藤宮紅緒(ga5157)がおどおどとしながらも進み出てしっかりと言った。
「‥‥網とな?」
 訝しげな顔で将校は藤宮を見た。
「そ、その、キメラの足止め用に‥‥‥‥網目が細かくてよく絡む物だと嬉しいです‥‥っ」
「なるほど、下水に張るのかね? そうなるとかなりの大きさになるが‥‥我が部隊は持ってきていたかな?」
「網ならあります。荷物の固定にも使いますから」
「ふむ、ではそれも手配してやってくれ」
 という訳で網と懐中電灯を借り受けた一行は下水に潜るべく工場の底へとゆく。
「ゴーグルの感度はー、良好‥‥っと。あー‥‥私は軽い遠視ですからー、眼鏡は心配ないですよ〜?」
 と言って笑うのは茶会の王子様ことラルス・フェルセン(ga5133)だ。ラルスを始めとして、地下へと降りる前に一同は暗視スコープを装着し、その具合を確かめる。
「なんだ老眼じゃなかったのか?」
「違いますよっ」
「これ壊したら弁償だよな‥‥? やっぱり? 気をつけよう」
 と心配そうなのはビーストマンの大上誠次(ga5181)。まぁ実際には故意に壊しでもしない限りはそういった事はないだろうが。
「‥‥地上任務の華やかさの影に隠れた、地味な任務かもしれないけれど‥‥この任務の大切さは‥‥この場にいる、私たちが一番分かっている‥‥」
 スコープをつけながらリン=アスターナ(ga4615)が言った。
「――頑張りましょう。地上で頑張っている同僚と‥‥私たちに作戦と己の命運を託した‥‥あの将校殿の為にも」
「‥‥そうだな」
「失敗は、できませんよねぇ」
 一同はリンの言葉に頷くと決意を胸に地下へと潜った。

●闇の中へ
「うわっ‥‥こりゃ酷いな」
 下水路におりるや否や襲い掛かってきたその猛烈な臭気にフォーカスは呻いた。
「水が澱んで‥‥うぅぅ‥‥」
「この臭い、きついねぇ‥‥文字通り鼻が曲がりそうだ」
「うっうー、く、臭くて、暗くて、怖いです‥‥!」
 一同、その下水の有様に辟易とする。比留間・トナリノ(ga1355)などは既にスコープの下で涙目だ。恐怖の為か、臭気の為か、それともその両方か、いずれにせよ下水道というのは著しく嫌な場所であるのは違いない。
「汚ない、臭い、キツいの3Kってヤツだにゃー」
 フェブ・ル・アール(ga0655)が顔を顰めつつ言った。
「しかーし、誰かがこれをやらねばならぬ。期待の人が俺たちなればー!」
 気合を入れなおし一同は闇の中に足を踏み出す。
 熱源式のスコープから映し出される世界は蒼と藍と青の世界だ。寒い。
 中央部を勢い良く流れる廃水が壁に反響して轟音となり、通路をゆく傭兵達の立てる靴音と和音を構成する。
 暗闇の中を進むことしばし、やがて一同は守備地点となる十字路に到達した。
 彼等は廃水の中を潜行してくるキメラがいるやもしれないと考え、軍から借り受けた網の設置を開始する。
 しかし、
「ふと思ったんですけど‥‥網を設置するといっても、どうやって設置しましょう?」
 借り受けた網を手に困った様子の比留間。森などならば簡単に設置できるが、水中に張るとなると勝手が違う。
 網で足止めを行うという考えは全員が一致するところであったが、下水路へ設置するということの方法を多くの者が想定していなかったようである。ラルスなどは排水時に、と考えていたようだが、この下水は常に一定の水量で流れている。
「え、ひっかける場所とかないのかにゃ?」
「‥‥残念ながら無さそうです。それに、あったとしてもそれだけでは不十分でしょうね」
 と周囲を見回してラルス。
 下水はそれなりの流れがある。上下左右の端を最低四箇所はしっかりと固定しないと流されてしまうだろし、そもそもにキメラの侵入を防ぐという目的を果たせない。
「U字の金属片か何かを通路の端と下水の底に打ち込んで固定しなければ使い物になりそうにないですね‥‥」
 アルヴァイム(ga5051)が思案しながら言う。
「‥‥誰かそんなもの持ってたか?」
 問いかける大上。
「「「‥‥」」」
 沈黙。
 一同は前向きに対処することにした。
「さ、配置につこうか」
「応!」
 まぁそんなこともある。

●地下での死闘
 一同は交差点の南側に陣取った。
 排水が流れる中央部を挟んで東側にフォーカス、大上、比留間、紅緒。西側にフェブ、リン、ラルス、アルヴァイムの布陣だ。
「どれだけの数が押し寄せてくるのやら‥‥ま、例え網がなくても、一匹も通しませんけどね」
 闇の中、超機械を構え柔らかくも不敵に微笑むラルス。
「鼠一匹通さないですよ、うっうー!」
 比留間も気合十分であるらしい。そこはかとなく怯え気味にも見えるが。
 傭兵達が監視を始めて小一時間ほど経ち、緊張の糸も緩くなってきた頃、探敵にあたっていた各人のスコープに赤い点が浮かび上がる。
「西側、来たにゃー!」
「ひ、東も来ましたっ」
「北からもです!」
 赤い影は三方から一斉に押し寄せてきた。形状から推して図るにネズミとコウモリの群れか。
 射撃武器を持つ各人は一斉に射撃を開始する。
 フェブのスコーピオンが焔を吹き、ラルスの超機械が闇を裂いて迸り西のキメラを撃ち払う。
 東側は紅緒のシエルクラインと比留間のSMG、共に連射が効く火器だ。少女達はフルオート射撃で弾丸を嵐のように撒き散らす。二人とも気弱なふうだが、攻撃方法は苛烈だ。
「弾幕には自信があったんだが‥‥」
 その様をちらりと一瞥して苦笑するフォーカス。ショットガンも広範囲に強いが、フルオート射撃が出来る火器に比べると地味かもしれない。
 フォーカスは北方よりアルヴァイムのSMGを潜り抜けて飛んできたコウモリへ狙いを定め発砲。閉所でかつ近距離から放たれる散弾をかわすのは不可能に近い。散弾はコウモリを穿ちバラバラに吹き飛ばして撃墜する。手馴れた様子でショットガンを取り回し狙撃眼を用いて遠距離の敵も的確に落として行く。
 だがキメラ達も黙ってやられる訳ではなかった。猛射されても後から後から押し寄せて一斉に火弾を撃ち放つ。閉所において回避行動が難しいのは敵と同様能力者達も同じ。火弾の嵐が三方より降り注がれ能力者達に次々と命中する。単発の威力は低いが数が多い。一同の、特に前衛の体力がみるみるうちに削られてゆく。
 その猛攻に能力者達の攻撃の手が弱まった隙をついて、弾幕の薄い西側から蝙蝠の群れが押し寄せてくる。咄嗟にアルヴァイムがSMGで支援し、一瞬のあいだ敵を押し返すが、彼は北方も支えねばならず一時ならばともかく継続した火力支援は行えない。
 三匹の蝙蝠が防衛ラインを突破し南方へと抜ける。
 しかし、
「そう簡単に突破を許すほど‥‥甘くないわよ‥‥!」
 闇の中、リン=アスターナの姿がブレた。瞬間移動したがごとき速度で加速すると宙へと跳躍し、両手の爪をふるって二匹の蝙蝠を叩き落す。
「上の連中に焼けてもらう訳には行かないんでね‥‥一匹足りとも通しはしない!」
 覚醒により漆黒の人狼と化した大上誠次が瞬速縮地で追いすがり逆サイドの通路から衝撃波を連打する。放たれた二連の黒衝波は蝙蝠を吹き飛ばすと側面の壁に叩きつけた。蝙蝠は通路に落ちそれきり動かなくなる。
「そろそろA線へ! サポートします!」
 焔と弾丸が吹き荒れる激戦の中、三方を支え続けるのは限界と判断したか、ラルスが一同へと後退を促す。電磁波を放って攻撃しつつ、自身の傷ついた細胞をロウヒールの能力で再生させてゆく。他のメンバーへも救急キットで治療を行いたかったが、火力を維持しなければ突破されてしまう為、事実上不可能だった。
 一同は南へと後退に移るが、キメラ達がその隙を見逃す筈もなくさらに圧力を増した火弾の嵐が襲い掛かる。
「壮観だねェ‥‥けど戦士にゃ退けねぇ時があるってな!」
 全身を帯電させたが如きフェブ・ル・アールが火弾の前に立ち塞がり、体を張ってその猛攻を受け止める。後衛への被害は大幅に減ったが、さすがの彼女にもこの攻撃はキツかったらしく、足元が一瞬揺らいだ。
 しかし全霊を振り絞って踏みとどまり、
「‥‥やらせねェ!」
 スコーピオンを猛射して仲間が後退するまでの時間を稼ぐ。
「挫けません‥‥挫けませんよぉ‥‥!」
 迫り来るキメラの群れを前に、弾切れになったシエルクラインを手に紅緒が必死に装弾しながら呟く。
「うっう、水中からも来てます!」
 SMGで前面を支えつつ比留間が叫んだ。中央を流れる排水の中を北から熱源が数点迫ってくる。
「ちっ、このクソ忙しい時に!」
 大上が肉薄してきた蝙蝠を氷雨で叩き落しつつ舌打ちした。一同、防衛ラインの再構築と弾幕の維持、弾倉の交換などに追われていて廃水中を迎撃する余裕がない。
 ラルスが鼠と蝙蝠を捌きつつ隙を見て超機械を放ち見事水中の熱源の一つを止めるが、数が多く全てを止めきれない。廃水中の熱源は見る見るうちに迫り、そして防衛ラインの横を通り過ぎてゆく。
「くっ‥‥これはちょっと、不味いですよぉ、突破される!」
「我が処理しましょう。間の抑えを!」
 弾倉を貫通式の物に換装し終えたアルヴァイムは前面の支えを味方に託すと身を翻し、ドローム社製SMGを構える。
 全開にされる練力。アルヴァイムは唸りをあげて活性化したSES機関の力を乗せフルオートで掃射する。猛烈な弾丸の嵐が水面を爆砕し、廃水を宙へと迸らせた。
 廃水は鮮血で染まり、熱源群は力を無くして浮かび上がり水流に押し流されて北へと流れてゆく。
「やったか!」
 フォーカスが散弾を撒き散らして地上の鼠の前進を止め、リンが跳躍して爪を振るい宙の蝙蝠を叩き落す。
 だがそれでもキメラ達の数は尽きる事無く押し寄せてくる。
 光の差さぬ地下で傭兵達は激闘を続けた。

●戦いの終わりに
「これはまた‥‥派手にやったな」
 照明を携えやってきたUPCの兵士は思わず、といった様子で呟いた。
 鼠や蝙蝠の肉片が通路一面に撒き散らされ、血に濡れた懐中電灯が転がっている。
 傭兵達は疲労困憊の体で通路の壁にもたれかかっていた。
「地味な任務と聞いたんだがなぁ‥‥」
 包帯をあちこちに巻いたフォーカス=レミントンがぼやいた。
「地味にも色々ある」
 兵士は苦笑して言った。
「地上も空も無事だ。街の中心部の方はワームが暴れたおかげでかなり被害が出たみたいだが、この辺りは目立った被害は出さず守りきることが出来た‥‥俺達も、焼け死ななくて済んだよ」
 兵士達は破顔して言うと座り込んでいる傭兵達に手を貸し、立つのを助ける。
「後の監視は自分達が引き継ごう。お疲れさん、良く踏ん張ってくれた!」
 兵士達は傭兵達の背や肩を叩いて賞賛したのだった。

●地上
「夕陽が‥‥夕陽が眩しいにゃ〜」
 地上に出るとフェブが猫のように伸びをした。隣ではリン=アスターナが夕陽を見つめて目を細めている。
「なんとか依頼完了、ですね〜。はぁ‥‥お茶の香が恋しいです」
 ラルスが苦笑しながら呟く。
 紅緒は持参したミネラルウォーターを頭からふりかけて首をふっている。
「い、生き返ります〜‥‥匂い‥‥取れるといいのですけど‥‥」
 よよよ、と涙ながらに言う。
「ハーブ‥‥これを使ってもチョイ悪にはならんな」
 フォーカスが手持ちの香水をふりかけつつ苦笑し、良かったら使うか? と紅緒に勧めている。
「しかし‥‥くたびれましたね、今回も」
 ふぅっと息を吐きつつアルヴァイム。
「でもまぁ、こうして生きて帰れて何よりだ」
 人型に戻った大上がコキコキと首を鳴らし身体をほぐしながら笑ってみせた。
「ですね、工場も無事でしたし、被害がなくて良かったですよ」
 比留間は赤光の中佇む工場を見上げ、柔らかく微笑んでそう言ったのだった。