タイトル:地の底の闘技場マスター:望月誠司

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/06/11 16:18

●オープニング本文


「金がいるんだ」
 コロッセオの控え室で同じチームになった傭兵の男はそう言った。二十代半ばの刀使いである。
 知り合いの女の治療費を稼ぐために、この場所へやってきたのだという。
「何をやっても、金を作らなけりゃならねぇ‥‥」
 刀使いの雷前道誉は鋭い面差しで己の手のひらを見つめ、そう呟いた。

●地下闘技場
 ある者は傭兵仲間から、ある者は治安の悪い酒場の店主から、またある者はその筋の情報屋から、この場所の情報を聞いてやってきた。
 世界の何処かにあるという、キメラと人とを戦わせ、それを賭けの対象とする場所が。それは地の底の闘技場。金と血が、欲望と暴力が荒れ狂う場所だ。
 ある者は金の為、ある者はスリルを求めて、またある者は別の理由から‥‥その場所に集まり、ある者はどちらが勝つかに金を賭け、ある者は武器をとって命を賭け、ある者は食事を取りながらモニターでそれを眺める。
 要するに鉄火場だ。
 メトロニウムで三方を覆われた室内。地面だけは硬い石だ。百メートル四方、高さは五十メートルほどか。鉄血の箱の中、それがリングだ。設置された無数のカメラがその場所の様子を映し出している。
 北側のシャッターが開いた。五体のKVが檻を抱えあげて立っていた。メトロニウム製の巨大な檻の中には毛むくじゃらの巨猿が捕らえられていた。キメラだ。体長は三メートル程だろうか。
 場の中央よりやや北側へと五つの檻をおくとKVは去ってゆく。シャッターが閉まった。
 南側のシャッターが開く、十一人の能力者達だった。能力者達が鋼鉄の場に入ると、背後のシャッターが閉まった。
 甲高い機械音と共に五つの檻が開いた。巨大猿が場に踊り出てくる。
「さて、どちらが勝ちますかな?」
 恰幅の良い男が白いクロスがひかれたテーブルにつき、巨大なスクリーンを眺めながら呟いた。相席している女が赤い液体の入ったグラスに口をつけ、嚥下してから答える。
「今回のキメラはUPC軍の小隊を壊滅させた化物と聞き及んでますわ。このコロッセオにおいても、挑戦者のチームを幾つも捻り潰しています。
 これといった特別の能力はないですけど、その剛腕から繰り出される爪は、あらゆるものを叩きつぶしますわ。並みの者では相手にならないんじゃありませんこと?」
「しかし、今回の挑戦側チームは最後の希望と名高いラストホープの傭兵達だそうですよ?」
「あら‥‥巷で噂の?」
「さしもの大猿もLHの傭兵相手では手こずるのではないですかな?」
「あらぁ‥‥でもあのお猿さん強いわよ? 傭兵とはいっても所詮は生身の人間。勝てるかしら?」
「正直なところ、解りませんな」
 男はニヤリと笑う。
「しかし‥‥だからこそ観戦する甲斐がある」
「ふふ、そうねぇ‥‥勝敗の見えぬ戦いこそ、見ていてゾクゾクしますわぁ」
 視線を移す。
 モニターの中では体長三メートルを超える大猿が咆哮をあげていた。

●参加者一覧

鋼 蒼志(ga0165
27歳・♂・GD
フェブ・ル・アール(ga0655
26歳・♀・FT
伊河 凛(ga3175
24歳・♂・FT
宗太郎=シルエイト(ga4261
22歳・♂・AA
九条・運(ga4694
18歳・♂・BM
雑賀 幸輔(ga6073
27歳・♂・JG
ブレイズ・S・イーグル(ga7498
27歳・♂・AA
八神零(ga7992
22歳・♂・FT
Cerberus(ga8178
29歳・♂・AA
斑鳩・八雲(ga8672
19歳・♂・AA

●リプレイ本文

「おっ久し振りにゃー♪ 道誉くん元気してたー?」
 コロッセオの控え室、フェブ・ル・アール(ga0655)が男に声をかけた。
「あんたはあの時薬を持って来てくれた‥‥」雷前道誉は驚きを表情に浮かべる「どうしてここに?」
「いや、何かアブなくて割の良い仕事があるって聞いてさー。メンバーは私好みの男臭い面子だし、うーん。わくわく!」
「女だてらに、なかなか闘士な奴だな」雷前は苦笑して言った「あんた達も似たような理由かい?」
「いや‥‥僕の目的はキメラ狩り、そして自分の力を試す事だ」
 八神零(ga7992)が言った。曰く、このコロッセオはキメラと人を戦わせる場所として最近噂になっているのだという。噂の場所に己を試す為にやってきた。
「熱狂がこの場所に居ても伝わってくる‥‥命を掛けた賭博‥‥人が集まる訳だ」
「所謂アンダーバウトみたいなもんだな」
 九条・運(ga4694)が言った。
「人間同士でやり合うのなら結構何処にでも有る――駄菓子菓子! 古代ローマの如く人間と猛獣を戦わせるのは、そう多くない!」
 かつて地下闘技場に出入りしていたという青年はそう語った。
「ましてキメラともなればな。まあ、それだけ報酬は期待できそうだが」
「しかし、確かに報酬は良さそうだが‥‥見せ物ってのは気に入らねぇな、さっさと仕舞いにしたいところだ」
 ブレイズ・S・イーグル(ga7498)が言った。
「興味半分で来た場所ですが‥‥いやはや、命がけになるとは思いませんでしたねぇ」
 斑鳩・八雲(ga8672)が嘆息して言う。
「おいおい、明らかに胡散臭い話だったじゃねぇか」
 戦友の言葉にブレイズが呆れた顔をする。
「はて、そうでしたか? まぁキメラと人間を戦わせるという時点で妙な話だとは思っていましたが」
 と斑鳩。とぼけているのかいないのか、ブレイズは肩を竦める。
「それにしても、どうやってキメラを仕入れてるんですかね?」
 鋼 蒼志(ga0165)が疑問を洩らした。
「軍人が皆、任務に忠実という訳じゃあないだろうからな」雷前が見解を述べる「金になると解れば、色々やる奴もいる」
 今の俺も、軍にいればやったかもしれん、と男は呟いた。
「ではUPCにこの闘技場に関して問い合わせてみても‥‥」
「止めておいた方が良いな。金がある所は強い。持ち込むならメディアだが、あんたも含めて周囲も危険になりそうだ」
「なるほど。よくある話のパターンですね」
 鋼は皮肉気に口端をあげた。
「自らの敵を利用して楽しむ、か。物好きな奴もいるんだな」
 控え室の入口から声が響いた。無言で石壁の隅に背を預けていたCerberus(ga8178)がちらりと視線をやる。
 そこに伊河 凛(ga3175)が立っていた。彼で最後の参加のようだ。
「なんにせよキメラは倒す。何処にいようと、どんな形であろうと、その存在を許す訳にはいかない」
 彼はバグアの侵略により家族を失った。他の誰にも自分と同じ思いをさせぬようにと刀を取った身では、複雑な思いを抱く話かもしれなかった。
「お、誰かと思ったら伊河さんじゃねぇか」
「久しいな雷前。お前も猿退治に?」
「まぁそんな所だ」
「そうか。そろそろ開始の時間らしい、先ほど黒服にそう言われた」
「ついに時間か‥‥」
 その言葉に一同は立ち上がる。
「雷前さん」
 宗太郎=シルエイト(ga4261)が言った。
「この一戦、必ず勝ちましょう。あなたの想いが貫けるよう、私も力を貸しますよ」
「――すまねぇ」
 男は言った。
「よろしく頼む」


 作戦は単純明快。敵戦力の殲滅。
 だが、頭の中をクリアにするな。敵の力を見誤るな。
 対抗できるのは培ってきた戦闘感と冷静な状況判断。
「俺の傭兵としての在り方。試してみようか‥‥」
 雑賀 幸輔(ga6073)が鋼鉄のリングの彼方をみやって言う。場には檻から五匹の大猿が踊り出てきていた。
「やれやれ、オツムの低そうなお猿さんだぜ‥‥」
 ブレイズが肉厚の大剣を抜き放った。
「武勇はかなりのものを誇るキメラのようですが、さて‥‥腕試しにはもってこい、なのでしょうかね」
 斑鳩がデヴァステイターを取り出し言う。
「‥‥趣向は悪くないが、金持ち共のペットのセンスは最悪だな‥‥」周囲に無数に備えられたカメラを睨んで八神が言った「雷前、助けるべき人の為にも絶対に死ぬなよ」
「ああ‥‥そうだな。俺はまだ死ぬ訳にはいかねぇ」
 大猿達が耳をつんざく咆哮をあげた。空間に震えが走る。五匹の大猿は地を揺るがして駆け始める。フェブ・ル・アールが蛍火を振りかざして吼えた。
「こっちも行くぜ野郎ども!」
『オォッ!』
 男達が気合の声をあげ、一同は武器を携え石畳を蹴って疾風の如く駆け出す。十一人の戦士と五匹の凶獣がリングの中央で激突した。
 Cerberusはフォルトゥナ・マヨルーの射程距離まで距離を詰めると右端の大猿Aへと銃口を向ける。精密に狙いを定め、発砲。フォルトゥナが焔を吹いた。轟く銃声と共に二連の弾丸が飛びす。
 大猿は巨体を高速で横に踊らせ、放たれた弾丸のうち一発をかわす。が、残りの一発が猿の脇腹に命中し突き刺さった。
 斑鳩八雲もまたデヴァイスターの間合いまで詰めると、右から二番目、大猿Bへと弾丸をばらまく。猿は素早く跳躍し、三発の弾丸をかわす。しかし残りの九発はかわし切れず、弾丸の雨を受けてその身から次々に鮮血を噴き上げた。二匹の大猿は地を揺るがせて着地すると方向を転じ、己に攻撃を加えてきた者へと向かう。
 その途中、ブレイズ・S・イーグルが割って入った。地響きと共に迫る大猿へと間合いを詰めると、大剣を振り上げ、叩きつけるようにして振り降ろした。大猿Aは素早く反応し飛び退いてかわす。その脇を大猿Bが通り抜けてゆく。一度に二匹止めるのはキツイ。
「一匹いったぞ! 気をつけろ!」
 ブレイズは言いつつ大剣を横薙ぎに振るう。大猿Aはその剣閃を見切ったか、体を捌き紙一重でかわす。咆哮と共に剛爪を振るう。速い。唸りをあげて迫る。避けきれない。男の左肩が割れ音を立てて鮮血が噴き上がった。左右から連撃が迫る。ブレイズは受け止めんと剣を立てる。押し切られた。左の爪が脇腹に突き刺さり、戦鎚の如き右爪に側頭部を殴り倒される。頭蓋が割れ、ぱっ、と赤い色が宙に咲いた。視界が明滅し、腹が焼けるように熱い。
 爪が引き抜かれる。膝から力が抜ける。ブレイズは歯を喰いしばった。ばりっと鈍い音が鳴る。意識を振り絞って踏み留まると雄叫びをあげながら踏み込み、全霊の力を込めてコンユンクシオを振り下ろす。大猿は後方へ飛び退いて剣閃を回避した。空気が逆巻く。
「逃がさねぇぜ‥‥!」
 血を吐きつつ男が呟く。瞬後、猛烈な衝撃波が大猿を追いかけるように飛んだ。ソニックブームだ。空圧の刃が大猿の腹に直撃し、肉を抉って鮮血を迸らせる。
 その間にも斑鳩へと向かった大猿Bは肉薄し竜巻の如き三連撃を浴びせかけていた。斑鳩は素早く抜刀し振り下ろされる剛爪を受け止める。手首が折れそうな程の衝撃が身を貫いてゆく。左右からの連打。爪が肩を割り、脇腹を深く斬り裂いた。噴き上がる鮮血に瞬く間に石畳が赤く染まってゆく。
 中央、九条が大猿Dへと突っ込んでいた。覚醒により黄金龍へとその身を変えた男は、練力を解き放って鱗を強化すると、咆哮と共に蛍火を振り上げ斬りかかる。超音速の一閃。大猿は素早く後方へ下がったが避けきれず血飛沫が飛ぶ。黄金竜は流水の如く滑るように踏み込むと怒涛の三連斬を繰り出した。命中。蛍火がインパクトの瞬間、猛烈な衝撃を巻き起こす。
 大猿はだがそれでも踏み留まり鉄塊の如き腕を振り下ろす。剛爪が鈍い音と共に龍人の頭部に炸裂、その硬鱗を叩き割った。左右の爪を交差ざまに繰り出す。爪が唸り、龍人の身が斬り裂かれ鮮血が噴き上がった。
 中央、大猿Cへは八神零が二刀を構えて肉迫していた。左右の刀で竜巻の如く連撃を繰り出す。大猿は素早く身をかわすも、三撃目に捉えられ連撃を浴びせかけられる。大猿は斬り裂かれながらも怒りに瞳を燃やし、返礼とばかりに剛爪を振るった。鋭い爪が男の肩部に炸裂する。が、爪は防具で止まった。化け物のような装甲だ。八神は続く連撃を双刀で受け流すと、反撃すべく練力を全開にした。
 血を噴き上げてい九条へと大猿Eが迫る。雷前が間に割って入った。刀で三連斬を仕掛ける。大猿は悉くかわし、剛爪を振るう。雷前は血を宙へと撒き散らしながら後方へ吹き飛び転がった。
 A班は戦況を見る。端にいるのは大猿Eか。
「体力馬鹿め‥こういうのは‥口に合うかよっ!?」
 雑賀が長さ二mの棒を振るった。棒の先端から雷光の矢が噴出し、大猿Eへと向かって一直線に伸びる。猿は素早く反応し伏せて雷撃を回避する。しかし二連、三連と続く電撃の嵐はかわしきれなかった。電撃の檻が大猿を捉え、激しく明滅してその皮膚を焼き焦がす。
 その間に伊河凛がスキルを全開にして大猿Eの側面へと回り込んだ。紅蓮の光を左の太刀に巻き起こし、右に小太刀を逆手に持つ。滑るように踏み込み左右の刀で高速の五連撃を浴びせかける。
「今は見物人の掌で踊ってやるとするか。俺達も‥‥お前達もな!」
 鋼がドリルスピアを構え暴風の如く突っ込んだ。切っ先に赤い光を瞬かせ、連続して突きを繰り出す。
「鋼鉄のバイコーンの角で――貴様を穿ち貫く!」
 ドリルが甲高い唸りをあげ、大猿の皮膚を突き破り、鮮血と共に肉片を撒き散らした。大猿が苦悶の咆哮をあげる。
 そこへフェブ・ル・アールが突撃した。紅蓮の輝きを太刀に巻き起こし最上段に振りかぶって肉薄する。
「ロックロールッ!!」
 女は石畳を破裂させる勢いで踏み込み、渾身の力を込めて袈裟斬りに太刀を振り下ろした。刃が猿の脇腹から入り臓器と骨を断ち切って抜ける。血飛沫が飛んだ。
 さらにエクスプロードを構えて宗太郎=シルエイトが迫った。穂先を回転させながら突き刺す。
「くらいやがれ! 我流奥義・穿光!!」
 シルエイトは突き刺した穂先を寸勁の要領でさらに押し込むと、紅蓮衝撃と豪破斬撃を併発させ、エクスプロードの爆炎を解き放つ。大猿の体内で爆炎が荒れ狂い、胴体を爆ぜ飛ばし大穴をあける。灼熱の色に包まれ大猿Eが倒れてゆく。
「雷前、死んだら金など意味はなくなる」
 Cerberusがフォルトゥナを構え、吹き飛んできた雷前のカバーに入っていた。
「ぐっ‥‥俺は良い、他の援護に入ってくれ」
 血塗れになりつつも雷前は刀を杖に立ちあがる。
「しかし」
「お荷物抱え込む余裕はねぇだろ‥‥ッ! 俺は後ろから援護といく」
 雷前は拳銃を抜き放って言った。
「‥‥解った、好きにしろ」
 Cerberusは頷く。
「ぉおおおおおっ! そこだァ!」
 一連の攻防の間にもブレイズは三連の音速波を巻き起こしていた。大猿Aの真っ正面へと一撃を放ち、予測する回避コースへと先手を打って衝撃を飛ばす。予測して放った音速波が大猿へと直撃した。しかし猿は打撃を受けつつも再びブレイズへと迫る。嵐の如き閃光が三条走り、赤髪の男を斬り刻み、吹き飛ばした。赤髪の男は鮮血をまき散らしながらリングを転がる。鋼鉄の天井が見えた。真っ赤になり、薄暗くなってゆく。男の意識はそこで途絶えた。
 斑鳩は練力を全開にして細胞を活性化させる。傷がみるみるうちに癒えてゆく。眼前の凶獣が竜巻の如く爪を振りかざす。爪と刃との間で火花が散った。受けた刀の上から衝撃が突きぬけ、受け損なった爪が身を切り刻む。斑鳩の足元の石畳には既に巨大な血溜りが出来ていた。
 大猿Dが九条へと爪を振りかざしラッシュをかける。血風の華が咲いた。ぐらり、と黄金龍の身が揺らぐ。龍は低い姿勢で踏みとどまると、咆哮をあげて伸びあがった。下段の斬り上げから逆襲の四連斬を振るう。刃の嵐が大猿の身を斬り刻んだ。
 練力を全開にした八神は真紅の光を瞬かせ二刀を振って怒涛の八連斬を叩き込む。大猿は迫り来る刃を受け、身を捻り避け、脚を斬られ、後退して回避し、上体を逸らせて回避し爪で打ち払って回避し、すり抜け、二の腕が裂け、跳躍して回避する。八回攻撃三発命中。大猿が逆襲の三連撃を飛ばす。八神は左の剣で受け、右の剣で受け止める。三発目、腹に剛爪の直撃を受ける。が、軽い。
「こちらは任せた!」
 雑賀は中央は優勢と見て、右翼の援護へと向かう。大猿Aを狙いスパークマシンを解き放つ。三連の電撃の渦が大猿を飲み込み、その身を焼き焦がした。
 伊河は九条と格闘する大猿の背後に回り込むと疾風の如く斬りかかった。刃が唸り、大猿の右のアキレス腱を断ち切る。猿の身が崩れる。間髪入れずに左の脚へも刃を打ち込む。
 態勢を崩した大猿へと向け、鋼がドリルスピアを構え駆ける。裂帛の気合と共に跳躍し大猿の側頭部へと穂先を押し込み、甲高い音と共に頭蓋を穿ち突き破る。大猿Dは白眼を剥いて倒れた。
 フェブ・ル・アールが走る。八神と斬り合う大猿Cの側面へと踏み込み、上段から落雷の如く打ち込んだ。切っ先が猿の脇腹に命中し、鈍い手応えと共に骨を打ち砕く。シルエイトが大猿の胸部へと穂先を突き込む。赤光と共にエクスプロードの爆破機能を開放して爆裂の嵐を巻き起こし体内から爆ぜ飛ばす。大猿は胸に大穴を開けて鮮血の海に沈んだ。
 Cerberusはフォルトゥナを大猿Aへと向け雷前と共に銃撃を仕掛ける。大猿は数発の弾丸を受けながらも機敏に動いてかわしながら前進してくる。Cerberusが前に出た。大猿の爪が振り下ろされる。避けられない。男の身を猛烈な衝撃が貫き、骨が割れた。
 斑鳩は活性化のスキルを全開にしつつ迫りくる剛爪をひたすらに耐え凌ぐ。巨猿の猛攻に身体のあちこちに穴があき、内臓も大分やられている。既に血が足りない。目眩がする。既に細胞を活性化する練力も残されていない。死神の手が、男の首を掴もうとしていた。
 だがA班、B班ともに担当の巨猿を打ち倒していた。フリーになった戦士達が二匹の大猿に殺到し包囲し斑鳩とCerberusが倒れるよりも早く、猛攻を加えて血の海に沈めたのだった。


 闘技終了後、フェブは雷前の仲間の病気に関してVIPに対し便宜を図るよう願うつもりだったが会えなかった。
「――それじゃ、今回の報酬でなんとかなるんですか?」
 報酬を受け取った後、雷前の話を聞いてシルエイトが言った。
「当面はな。長丁場だ‥‥地道に、でもねぇが、コツコツやるさ」
「それじゃ、そんな所にいつまでも突っ立ってないで早く女のところへ行ってやれ」
 全身包帯まみれになり、片手に松葉杖をついているブレイズが言った。
「あんたも存外にタフだなァ」
「地獄の門番は俺の事が嫌いらしい」
 そう言って赤髪の肩を竦めてみせた。雷前は軽く笑うと、
「では、お言葉に甘えてさせてもらおう。今回は世話になった」
 言って男は去って行ったのだった。