タイトル:【RoKW】四六小隊の戦記マスター:望月誠司

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/06/22 21:36

●オープニング本文


●Record of Kalimantan War
 二十一世紀初頭、東南アジア、カリマンタン島。
 ボルネオ島とも呼ばれるこの島はグリーンランド、ニューギニア島に次いで世界で三番目に大きな島と言われている。場合によっては四番目と言われることもあるが、ともかく島としては最大級のものだ。
 島の面積はおよそ725,500平方キロメートル。西と北西を南シナ海に面し、北東をスールー海、東をセレベス海とマカッサル海峡、南をジャワ海とカリマタ海峡に接する。
 カリマンタン島を領有しているのは主にインドネシア、マレーシア、ブルネイの三国である。
 地球人類とバグアの戦いにおいて、島の北部は比較的落ち着きをみせているが、南部へと視線を転じれば、UPC軍とバグア軍が激しい抗争を繰り広げている激戦区である。
 カリマンタンを領有する国の一つ、インドネシア軍の数は少なくなかったが大部分はニューギニア島やオーストラリアからの攻撃を防いでいる。全力を傾ける事は不可能だ。またカリマンタン島軍に配備されている兵器は旧式のものが多く、超科学によって生み出されたバグア側の兵器とは質において差があり過ぎた。
 島の戦況は悪いの一言に尽きた。
 戦線は押され徐々に後退していっている状況であり、じり貧だった。全土の解放など夢のまた夢。バグアが支配する南部四都市は揺ぎ無いものに見えた。
 二〇〇八年に入り、旧インドネシア軍、旧マレーシア軍を主軸とするカリマンタン島のUPC軍はこの状況を打開すべく上層部に増援を要請した。紆余曲折の折衝の末、アジア軍は一部に難色を示しつつもこれを部分的に受け入れた。各地方で増援の準備が進められ海を越えて援軍が送り出される事となる。
 カリマンタン島に各地から兵が終結し、混成軍が編成された。その数二十五万強。対するバグア側は親バグアの兵十五万、および夥しい数のキメラとそして数々のワームを備えていた。地球側とは戦力の質が違う。数の上では勝っていても、実質な戦力は同等以上だった。
 古来より城を囲むならば十倍の戦力を以ってせよという。攻勢をかけるには到底十分な戦力とはいえなかった。
 しかし、他の地域も厳しい状況である。これ以上の増援は望めそうもない。
 カリマンタン島軍はなんとしてもこの兵力で南部バグア軍を一掃し、島の全土を人類の手に取り戻さなければならなかった。
 ――後の記録において、混成軍が編成されてよりの一連の戦いは「カリマンタン島の戦い」と記される事になる。
 二〇〇八年の初夏、カリマンタン島の地球人類において、その未来を決定づける戦いの火蓋が今、切って落とされようとしていた。

●アジュラム師団
 カリマンタン島の軍団は五つある。各軍団はさらに幾つかの師団で構成されている。
 そのうちの一つに各地からの増援や傭兵達を主力とした師団がある。第十六師団、率いている将の名はアジュラム・アシュラフ・アッラシード、階級は少将。旧インドネシア軍の出身だ。
 アジュラム少将は齢六十を越える老人だが、エミタに適正があった。その力を用いて軍籍に留まり、今も前線で指揮を取っている。儂が軍を退くのはこの星からバグアを叩き出した時と死ぬ時だけよ、と老齢ながらに気を吐いている。
 第四軍に所属する第十六師団は今回の戦いにおいて島の南西へと投入された。バグアの主な拠点となっている四都市は島の南東に固まっており、一軍および二軍と三軍が北より南下し圧力をかけている間に、四軍と五軍が回り込んで南西部および南部の戦線を押し返し、占領下にある大小の街や村を開放せんとする作戦であった。

●村上大隊
 カリマンタン島南部方面軍隷下、第十六師団所属、第三○六独立大隊は島の南部にある某街で敵と睨みあっていた。
「喜べトンチキども、攻撃命令だ」
 くたびれた軍服に身を包んだ男が禁煙パイプを咥えながら無線に向かって言った。
 男の名は村上顕家。日本の九州軍より援軍として送り出された者の一人だ。小部隊での前線指揮に定評があり、五分以上の状況ならば必ず勝つ男と言われている。
「大尉――ではなく、少佐。共に戦う者に対してトンチキは無いと思いますが。昔の中隊じゃないんですよ」
 無線から生真面目そうな若者の声が帰ってきた。声の主の名を不破真治という。階級は少尉だ。
「似たようなもんだろ。どいつもこいつも、妙な連中ばかり集めやがって、アジュラムの爺は何考えてやがる」
「トンチキやら妙やら、相変わらず御挨拶ですね、村上少佐は」
 無線から嘆息でも聞こえそうな調子でソプラノの声が響く。名をディアドラ=マクワリスという。インド軍から来た。階級は中尉。
「我が隊に多少癖があるのは認めますがな。その分、強さには自信がありますぞ」
 野太い声が無線に響いた。名をハラザーフ=ホスローと言う。パキスタン軍に居た。階級は大尉。
「多少ねぇ? 扱う俺の身にもなってみよ」
「大概な上官に扱われる方の身にもなるとよろしいかと」
「これだよ」
 村上は肩を竦めると言った。
「まぁ大概なのはお互い様か。街の東から敵の増援が向かってきている。不破分隊はこれを討て。ディアドラ小隊、持ち場を堅守、援護を続行しろ。ハラザーフ中隊、大通りの敵を正面から押せ」
 無線から了解、との声が返ってくる。
「勝てますかね?」
 村上の傍らの下士官が問いかけた。
「俺は負ける戦はやらねぇ、必ず勝つ。が‥‥」
「が?」
「何人死ぬかは解らん」
 村上顕家は不味そうにパイプを吐き出した。

●四六小隊
 屋上、女はライフルを構えビルの縁に伏せている。すぐ近くで砲弾が炸裂し、コンクリートの破片が散った。ひー、と女は悲鳴をあげつつ、隊員達と共に縁から身を乗り出し突撃銃を下方の通りへと向けて連射する。
「ディアドラッ! また新手が登ってきたッ!」
 少年の叫びが無線から響いた。山門は傭兵達と共にビルの内部へと回っている。
「数はっ? 六階までは放棄して良い!」
 女は再び縁に身を伏せつつ無線に返す。
「あまり多くない、やってみる!」
 少年はそう答えた。
「解った」
 ――死ぬんじゃないぞ、と胸中で呟きつつ女は下の通りへと向けて銃を撃ち返した。

●参加者一覧

クロード(ga0179
18歳・♀・AA
弓亜・美月(ga0471
20歳・♀・FT
フェブ・ル・アール(ga0655
26歳・♀・FT
ベーオウルフ(ga3640
25歳・♂・PN
アッシュ・リーゲン(ga3804
28歳・♂・JG
OZ(ga4015
28歳・♂・JG
緑川安則(ga4773
27歳・♂・BM
ファルル・キーリア(ga4815
20歳・♀・JG
ラルス・フェルセン(ga5133
30歳・♂・PN
クライブ=ハーグマン(ga8022
56歳・♂・EL

●リプレイ本文

 人間の敵は人間、親バグア兵。バグアに与している以上、そいつらは敵性体。
「分かっちゃいるし、キメラ共よりもやり易くはあるはずなんだが‥‥やれやれ」
 フェブ・ル・アール(ga0655)がぼやいた。
「やりづらいですか?」
 山門が偵察を終え戻ってくる。少年兵はかぶったヘルメットの陰から昏い瞳を覗かせて問いかけた。目から光を塗りつぶし、ジャコ、と音を立てて突撃銃をロードする。
 そんな山門を見下ろしてフェブは思う。普段は呑気でも戦場にあっては兵士か、と。
「ああ‥‥正義の味方を始めて、もう長いからな」
「そうですか」
 山門はそう言った。
「人を殺めるのは、バグアの東京侵攻の混乱の中を逃げるとき以来ね‥‥」
 ファルル・キーリア(ga4815)が呟いた。思う、地獄の淵に再び自分はやってきたのかと。
「ひひっ、スリルだな。っつーか人間を相手とか超ナイスだぜ」
 一方のOZ(ga4015)は笑みを浮かべていた。
「キメラも飽きてきてるしー、いい機会だってね、ワォ!」
「相手が『何』だろうと、守りたいものを守れれば良いのです」
 ラルス・フェルセン(ga5133)が言った。キメラだろうが、人間だろうが関係はない。守りたいもの以上に大切なものなど、彼にはなかった。
「人間だろうが何だろうが敵は潰す。確実にな」
 ベーオウルフ(ga3640)が言った。
「‥‥覚悟は出来ている‥‥斬る事も‥‥斬られる事も‥‥故に迷い無し」
 クロード(ga0179)が呟いた。これも乱世の武家に生れし者の運命。戦場での殺人に忌避は無い。
「化け物相手より、私はこっちのほうが本業でね」元SASの古強者が言った「奴等に実戦を教育して差し上げよう」
 金属音と共にクライブ=ハーグマン(ga8022)が突撃銃をロードする。
「やれやれ‥‥今回の作戦は厄日だねえ。ま、ドンパチできれば俺はどっちでもいいんだけどな」
 緑川安則(ga4773)が言った。
「作戦は簡単だ。これ以上、進めなければいいだけだ。やつらの数に押されたが、前衛と後衛の連携を保って押し返す。向かいのビルの窓からの狙撃には一応警戒しつつ、応戦――」
 一同は簡潔に迎撃プランを打ち合わせる。
「弾をバラ撒くのは趣味じゃねぇんだけどな‥‥」
 アッシュ・リーゲン(ga3804)は呟きつつ覚醒する。
「選り好みは出来んし数には数、無粋には無粋で応えさせて貰おう」
 男は弾薬箱で五十cm程度の台を作ると、その後ろに膝をついて座った。シエルクラインを置いて固定し、左手でレイシールドを構える。接近戦に備え傍らに小太刀を置いた。
 ファルルとラルスは踊り場から五階へと続く階段の最上部に救急セットを置き、誰でも使用出来るようにした。またラルスは五階と六階へと続く階段の左右に釘を打ち込み、鋼線を引いた。
 弓亜・美月(ga0471)頭上二m程の高さにある窓へと飛び付いて、その縁に鏡を設置した。降りる、見上げる、確認する。安定性が悪く、カバー出来る範囲も狭そうに見えた。しかし無いよりはあった方が良いだろうか。
「大丈夫、人間が相手でも私は‥‥」
 女はスコーピオンを抱き、深呼吸して呟いた。
 ――階下から、敵がやってくる。


 先頭の一人が三階と四階の踊り場の手すりの陰から顔を出した瞬間、各員の火器が一斉に焔を吹いた。凄まじい密度の弾丸が階下へと降り注がれる。
 踊り場の縁、最前列、左から緑川がスコーピオンを膝撃ちに構えフルオート射撃し、中央では盾の陰からアッシュがシエルクラインを猛射し、右端にフェブが膝をつき大盾を構え剣を突いてソニックブームを放つ。後方、踊り場の角でファルルがフォルトゥナ・マヨルーを立射に構えて前の三人の頭上から連射し、同じくクロードがスコーピオンで猛射した。
 それはまさに壁だった。回避スペースもなく、防御という意味なら零に近い布陣だが、前面に対する攻撃力は計り知れない。
 おまけに五階へと続く階段の手すりから後衛の六人が身を乗り出し、ベーオウルフがショットガンから散弾をまき散らし、ラルスがサブマシンガンを、弓亜がスコーピオンをOZとクライヴと山門がアサルトライフルをフルオートで射撃する。上部側面、および斜め下方へと銃弾の嵐を降り注がせる。
 前衛、後衛合わせて凄まじい密度の弾幕が階下を覆い尽くし、無数の弾痕を穿ち、床と壁を破砕し石片を飛ばした。顔を覗かせた兵士の顔が装着したマスクごと一瞬で弾け飛ぶ。倒れた。
「此処から先に通す訳には行かん、アイツがいるんでな!!」
 アッシュ・リーゲンがシエルクラインでフルオート射撃しながら吼える。
 この弾幕の中に飛び込んでゆくのは死と同義、さすがのバグア兵も突撃などかけられる訳がなかった。
「メディック! メディック!」
「サカタハルミジャン!」
 バグア兵は叫び声をあげつつ、倒れた負傷兵を後方へと引きずり込む。傭兵達は射撃を止め、弾丸をリロードした。
 バグア兵の一人が手すりの陰から銃だけを出し薙ぎ払うようにフルオート射撃する。出鱈目に弾丸がばらまかれる。出鱈目でもこれだけ密集していると当たる。フェブとアッシュの大盾に弾丸が命中し甲高い音を立てた。緑川の膝に弾丸が二、三発命中したが装甲に弾かれる。
「龍の傭兵ご自慢の皮膚だ。さながら龍の鱗といったところかな?」
 緑川の台詞が終わる頃には兵士の銃と腕に一同から放たれた弾丸が襲いかかり破砕していた。床に破壊された小銃が転がり、悲鳴があがる。
 傭兵達の布陣は防御力は低いが攻撃力は高い。殺られる前に殺る。ある意味では鉄壁の守りと言えた。
 銃撃のみで押す事の困難さを悟ったバグア兵は下方、手すりの陰から手榴弾を投擲した。数は三つ。傭兵達は即座に反応した。アッシュが先手必勝を発動してシエルクラインを猛射し、ラルスが影射でSMGをフルオートし、ベーオウルフがショットガンで散弾をまき散らす。フェヴがソニックブームを放ち、ファルルがフォルトゥナで射撃し、美月がスコーピオン、OZ、クライヴがアサルトライフルでフルオート射撃する。
 弾幕の嵐と音速波に撃たれ、三つの手榴弾は傭兵達に届く前に瞬く間に宙で爆散した。
 爆炎と破片がまき散らされ、傭兵達に吹きつける。破片が盾に命中して甲高い音をあげ、前衛組の装甲に覆われていない顔などに飛来し、手傷を与えた。各自、咄嗟に顔を逸らせた為、眼に命中したものはいない。軽傷だ。
 爆発の後、バグア兵が三人、銃を構えて階下に躍り出る。傭兵達は一斉に射撃した。三人のバグア兵達は踊るように銃弾を浴び、頭上へと向けて突撃銃を吐き出しつつ、崩れ落ちた。
 バグア兵達は正面からの射撃を完全に封じられ、手榴弾も防がれた。攻撃が止む。
「‥‥諦めた?」
 クロードが呟きを洩らす。
「まだはえーだろ」
 OZがジャコ、と音を立てながらアサルロライフルをリロードする。
「な〜んか怪しい雰囲気だぜ。気ー抜くんじゃねぇぞ、てめぇら」
「言われるまでもないわ」
 ファルルがフォルトゥナのカートリッジを入れ替えながら答えた。
 美月はちらりと窓に置いた鏡に視線を走らせる。鏡に何かの影がよぎったように見えた。
 次の瞬間、ガラスが破砕し、三連の砲弾が下方から天井へと向けて突きぬけていった。建物からの狙撃ではない。下方、道路上からの無反動砲だ。バグア兵は屋上組が撃ち合っている地上部隊に支援を要請していた。
 硝子の破片が背後から降り注ぎ、砲弾が天井に炸裂し大爆発を巻き起こす。焔が吠え、砲弾の破片と砕かれたコンクリートが頭上から降り注いだ。一同の間にさすがに一瞬、虚が出来る。
 六人のバグア兵が手に何かを持ち階下に躍り出た。振りかぶる。傭兵達が射撃する。バグア兵達は銃弾に撃ち抜かれるよりも一瞬速く投げつけた。投げた後、弾幕に撃ち抜かれ、血風と共に崩れ落ちる。何かが飛んでくる。数は六、反射的に迎撃する。
 クライヴ・ハーグマンは思った。いや、待てこれは――
「フラッシュバン!」
 銃弾がスタングレネードを撃ち抜いた瞬間、爆音と共に猛烈な閃光が荒れ狂った。六連の光と轟音の爆発。傭兵達の視界が真白になり、音が消える。前衛、必死に目をこらす。見えない。階下に無数のバグア兵が死体を踏み越え、踊り出る。何かが無数、傭兵達の近くに転がる。
 手榴弾。
 爆裂が巻き起こった。至近からの猛烈な爆圧に踊り場の五人が吹き飛ばされる。ファルル、角の壁に叩きつけられた。クロード、壁に叩きつけられ五階側の踊り場の隅に転がった。フェヴ、踊り場左側面の壁にぶちあたる。アッシュ、真上に吹き飛んだ。落下してその場に落ちる。緑川、右の壁に激突した。
 後衛、まだ目が眩んでいる。その隙に敵の先頭が階段を八分までを駆け上る。徐々に視界が回復してゆく。かすれる視界の中で狙いを
つける。バグアの先頭部、射線の向こうに味方がいる。狙えない。ベーオウルフ、ラルス、美月、OZ、後続を断つべく銃弾を上から下へと降らせる。幾人かは倒れた。しかし先頭部が抜けている。六人のバグア兵が踊り場に雪崩れ込む。クライヴ・ハーグマンは隊を後退させるべく照明銃を撃とうとしたが、敵はマスクをしている。下手をすると味方の目が眩むだけだ。後退するには踊り場を援護する必要があるが、肉迫している。銃は使えない。味方に当たる。アーミーナイフを抜き放った。
 バグア兵の前列、三名、踊り場を抜ける。二列目、三名、踊り場で倒れている傭兵達に攻撃を仕掛ける。
 緑川、身を起こし膝立ちになる。イアリスを抜刀ざま抜けてゆくバグア兵の脚部に斬りつける。鮮血が飛んだ。
 クロード、膝立ちになりながら抜刀し脚を狙って振り下ろす。月詠がバグア兵の腱を叩き割り、鮮血が噴き上がる。
 フェブ・ル・アールが膝立ちになる。バグア兵が至近からアサルトライフルを撃ちこんだ。咄嗟に盾で受ける。金属音と共に弾丸が跳ねまわり、周囲の者を穿った。フェブは盾の隙間から太刀を突き出す。鈍い手応えと共に貫通した。
 アッシュ、小太刀を探る。吹っ飛んでる。起き上がる。伸びあがりざま、シエルクラインのストックを振り上げる。正面のバグア兵の顎を強打した。ファルル、壁に背を預けるようにしながら立ち上がる。フェブの頭上から、彼女が太刀を突き刺しているバグア兵の眉間へとフォルトゥナを向ける。発砲、撃ち抜いた。
 踊り場から五階の階段へと足を踏み入れた三人のバグア兵がアサルトライフルをフルオートで掃射する。
 ベーオウルフ、ラルスは山門と共に手すりの上から階下へと弾丸を撃ち降ろしている。OZは跳躍すると左のバグア兵に向けてアサルトライフルのストックを振り下ろした。バグア兵が打撃を受けてよろめく。美月はソードを抜き放ち、脇から突く。切っ先がバグア兵を貫き、倒した。クライヴは銃弾を浴びながらも右のバグア兵に肉薄するとナイフを一閃させ喉を切り裂く。鮮血を噴き上げ倒れる。
 緑川、伸びあがりざま、イアリスの刃を寝かせて突く。平突きだ。切っ先がバグア兵の喉を貫いた。
 クロードは眼前の敵の頭部を太刀で強打すると、体を当てて吹っ飛ばした。フェブ・ル・アールもまた立ち上がりつつ眼前の敵を盾で突き飛ばす。吹っ飛んだバグア兵は後続を巻きこんで階下へと転がってゆく。
 ファルルは強弾撃を発動させリロードしつつ、フォルトゥナ・マヨルーを連射する。アッシュ・リーゲンもまた鋭覚狙撃と強弾撃を発動させ、シエルクラインで掃射する。踊り場と階段が瞬く間に血の色に染まってゆく。後衛組もまた手すりの上から弾丸の嵐を降り注がせた。
 弾幕の嵐に後続のバグア兵達は後退する。夥しい数の死体だけが残った。
「お前ら、退け!」
 フェブが言った。
 だから、という訳でもないだろうが、それ以降、バグア兵からの攻撃は止んだ。彼等は、撤退に移っていた。
「‥‥とりあえずは終わったか?」
 クライヴ・ハーグマンが息を吐いて言った。
「後で飲みに行こう、私がおごるよ」


「一歩目の勝利に、乾杯」
 アッシュ・リーゲンが砕けたアスファルトの端に転がる木箱に腰かけつつ杯をあげた。
「乾杯――お疲れ様だ。よくやってくれた」
 金髪の女士官も言って杯をあげて見せる。
「相変わらず苦労してんな、無理だけはすんなよ?」
「有難う‥‥まぁ、出来るだけは心がけるさ」
 ディアドラは苦笑して言った。
 四六小隊はビルを守りきり、屋上から地上部隊への援護を継続して行った。地上のハラザーフ中隊は正面の敵部隊を破り、村上大隊は街を奪取した。
 しかしカリマンタン島での戦いはまだ始まったばかりであり、終わりは見えていない。戦いの熱は冷める事を知らず、徐々に加熱して行っていたのだった。