タイトル:【RoKW】傭兵分隊の戦記マスター:望月誠司

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/06/24 12:59

●オープニング本文


●Record of Kalimantan War
 二十一世紀初頭、東南アジア、カリマンタン島。
 ボルネオ島とも呼ばれるこの島はグリーンランド、ニューギニア島に次いで世界で三番目に大きな島と言われている。場合によっては四番目と言われることもあるが、ともかく島としては最大級のものだ。
 島の面積はおよそ725,500平方キロメートル。西と北西を南シナ海に面し、北東をスールー海、東をセレベス海とマカッサル海峡、南をジャワ海とカリマタ海峡に接する。
 カリマンタン島を領有しているのは主にインドネシア、マレーシア、ブルネイの三国である。
 地球人類とバグアの戦いにおいて、島の北部は比較的落ち着きをみせているが、南部へと視線を転じれば、UPC軍とバグア軍が激しい抗争を繰り広げている激戦区である。
 カリマンタンを領有する国の一つ、インドネシア軍の数は少なくなかったが大部分はニューギニア島やオーストラリアからの攻撃を防いでいる。全力を傾ける事は不可能だ。またカリマンタン島軍に配備されている兵器は旧式のものが多く、超科学によって生み出されたバグア側の兵器とは質において差があり過ぎた。
 島の戦況は悪いの一言に尽きた。
 戦線は押され徐々に後退していっている状況であり、じり貧だった。全土の解放など夢のまた夢。バグアが支配する南部四都市は揺ぎ無いものに見えた。
 二〇〇八年に入り、旧インドネシア軍、旧マレーシア軍を主軸とするカリマンタン島のUPC軍はこの状況を打開すべく上層部に増援を要請した。紆余曲折の折衝の末、アジア軍は一部に難色を示しつつもこれを部分的に受け入れた。各地方で増援の準備が進められ海を越えて援軍が送り出される事となる。
 カリマンタン島に各地から兵が終結し、混成軍が編成された。その数二十五万強。対するバグア側は親バグアの兵十五万、および夥しい数のキメラとそして数々のワームを備えていた。地球側とは戦力の質が違う。数の上では勝っていても、実質な戦力は同等以上だった。
 古来より城を囲むならば十倍の戦力を以ってせよという。攻勢をかけるには到底十分な戦力とはいえなかった。
 しかし、他の地域も厳しい状況である。これ以上の増援は望めそうもない。
 カリマンタン島軍はなんとしてもこの兵力で南部バグア軍を一掃し、島の全土を人類の手に取り戻さなければならなかった。
 ――後の記録において、混成軍が編成されてよりの一連の戦いは「カリマンタン島の戦い」と記される事になる。
 二〇〇八年の初夏、カリマンタン島の地球人類において、その未来を決定づける戦いの火蓋が今、切って落とされようとしていた。

●アジュラム師団
 カリマンタン島の軍団は五つある。各軍団はさらに幾つかの師団で構成されている。
 そのうちの一つに各地からの増援や傭兵達を主力とした師団がある。第十六師団、率いている将の名はアジュラム・アシュラフ・アッラシード、階級は少将。旧インドネシア軍の出身だ。
 アジュラム少将は齢六十を越える老人だが、エミタに適正があった。その力を用いて軍籍に留まり、今も前線で指揮を取っている。儂が軍を退くのはこの星からバグアを叩き出した時と死ぬ時だけよ、と老齢ながらに気を吐いている。
 第四軍に所属する第十六師団は今回の戦いにおいて島の南西へと投入された。バグアの主な拠点となっている四都市は島の南東に固まっており、一軍および二軍と三軍が北より南下し圧力をかけている間に、四軍と五軍が回り込んで南西部および南部の戦線を押し返し、占領下にある大小の街や村を開放せんとする作戦であった。

●村上大隊
 カリマンタン島南部方面軍隷下、第十六師団所属、第三○六独立大隊は島の南部にある某街で敵と睨みあっていた。
「喜べトンチキども、攻撃命令だ」
 くたびれた軍服に身を包んだ男が禁煙パイプを咥えながら無線に向かって言った。
 男の名は村上顕家。日本の九州軍より援軍として送り出された者の一人だ。小部隊での前線指揮に定評があり、五分以上の状況ならば必ず勝つ男と言われている。
「大尉――ではなく、少佐。共に戦う者に対してトンチキは無いと思いますが。昔の中隊じゃないんですよ」
 無線から生真面目そうな若者の声が帰ってきた。声の主の名を不破真治という。階級は少尉だ。
「似たようなもんだろ。どいつもこいつも、妙な連中ばかり集めやがって、アジュラムの爺は何考えてやがる」
「トンチキやら妙やら、相変わらず御挨拶ですね、村上少佐は」
 無線から嘆息でも聞こえそうな調子でソプラノの声が響く。名をディアドラ=マクワリスという。インド軍から来た。階級は中尉。
「我が隊に多少癖があるのは認めますがな。その分、強さには自信がありますぞ」
 野太い声が無線に響いた。名をハラザーフ=ホスローと言う。パキスタン軍に居た。階級は大尉。
「多少ねぇ? 扱う俺の身にもなってみよ」
「大概な上官に扱われる方の身にもなるとよろしいかと」
「これだよ」
 村上は肩を竦めると言った。
「まぁ大概なのはお互い様か。街の東から敵の増援が向かってきている。不破分隊はこれを討て。ディアドラ小隊、持ち場を堅守、援護を続行しろ。ハラザーフ中隊、大通りの敵を正面から押せ」
 無線から了解、との声が返ってくる。
「勝てますかね?」
 村上の傍らの下士官が問いかけた。
「俺は負ける戦はやらねぇ、必ず勝つ。が‥‥」
「が?」
「何人死ぬかは解らん」
 村上顕家は不味そうにパイプを吐き出した。

●強襲
 村上大隊は街の西側に本陣を構えている。
「B丘南方距離一万五千、敵軍一個歩兵中隊北上中です!」
「飛鳥小隊、B丘南西に回り込め。撃破しなくて良い。牽制しろ。反撃を受けたら北へ退け」
「十陣北方距離一万、敵軍二個歩兵小隊南下中とのこと!」
「黒崎小隊、一旦六陣まで下がれ、そこなら砲の援護が届く」
「本陣西方距離五千、キメラの群れが接近中とのこと!」
「‥‥後ろからキメラと来たか」
 村上は地図に視線を落とす。
「種類と数は?」
「岩鬼、五です!」
 村上顕家は無線に向かって言った。
「第三傭兵分隊、西へ向かえ。キメラの群れを殲滅しろ、一匹たりとも撃ち洩らすな」

●参加者一覧

アグレアーブル(ga0095
21歳・♀・PN
西島 百白(ga2123
18歳・♂・PN
伊河 凛(ga3175
24歳・♂・FT
寿 源次(ga3427
30歳・♂・ST
智久 百合歌(ga4980
25歳・♀・PN
阿木 慧斗(ga7542
14歳・♂・ST
美海(ga7630
13歳・♀・HD
リュウセイ(ga8181
24歳・♂・PN
アズメリア・カンス(ga8233
24歳・♀・AA
レカミエ(ga8579
14歳・♀・BM

●リプレイ本文

 遠来より爆音鳴り響く東南アジアの戦場。赤道近くの初夏の蒼天、第三○六独立大隊を率いる少佐村上顕家からの指令を受け、LHの十人の傭兵からなる第三傭兵分隊が西の草原へと駆けた。膝丈程の緑成す草が風に吹かれて揺れている。
「アッキー大尉――じゃなくて少佐、敵との推定接触時間は解るかしら?」
 智久 百合歌(ga4980)がトランシーバー片手に問いかけた。
「本陣までおよそ二分強ってとこだな」
「それまでに止めろって事ね?」
「そういう事だ。しくじるなよ」
「解ってるわよ。勝ち戦をしてきましょう」
 傭兵達は分隊を五つに分けて索敵行動に出た。A1をアグレアーブル(ga0095)、レカミエ(ga8579) 、A2を智久、リュウセイ(ga8181)。B1を伊河 凛(ga3175)、寿 源次(ga3427)、B2を西島 百白(ga2123)、阿木 慧斗(ga7542)、B3を美海(ga7630)、アズメリア・カンス(ga8233)とし、A班を両翼にまわし、B班で中央を固めた。
「例え、隠れていようが見つけるぜ!」
 智久とペアを組み、最右翼を固めるリュウセイは探査の眼を発動させ、双眼鏡を用いて索敵を進める。
 一方の逆サイド、最左翼を担う犬の獣人少女レカミエはブツブツと作戦内容を復唱し、忘れまいとしていた。
「大丈夫ですか?」
 赤髪のアグレアーブルが言った。
「あ、はいっ、よろしくお願いします、アグレアーブルさん」
「こちらこそ宜しく、です」
 二人の少女は射撃に備え、ある程度の距離を空けて索敵する。レカミエは磁石で方位を確認しながら進み「戦場では何がおきるかわかりません」と、時折立ち止まって全方位を見渡す。なかなか慎重だ。
 一方、中央を固めるB班。
「あまり無茶はしないようにする。宜しく頼むよ」
 伊河はペアを組む寿に挨拶をしていた。
「なに、自分がいる限り、怪我の心配は無用。思いっきりやってくれ」
 サイエンティストの寿はそう答える。彼は伊河と組める事を光栄に思っていた。
「良いのか?」
「その代わり前は宜しく頼む」
「了解した。期待に負けぬよう最善を尽くそう」
 両者は双眼鏡を片手に草原を見渡しながら進む。
 B2班、阿木は視界を広く保ち、怪しい箇所を発見したら双眼鏡で確認する、という方法で索敵していた。
(「厳しい戦いになりそうだけれど‥‥必ず護る。その為に僕は力を手に入れた筈だから」)
 少年は胸中で呟く。はたして力を証明出来るか否か。
「人型‥‥か‥‥」
 阿木と行動を共にする西島は草原を見渡しながら呟いた。思うところがある。人型のキメラ、彼の故郷を襲い、家族を失わせたのも人型のキメラだった。
「ひさびさのがちバトルなのです。キメラなんてブッチラバしてやるのですよ」
 物騒な事を言うのは、B3班所属、身長一○八センチ、年の頃十二、三に見える少女、美海である。稚けない外見だが殺意のオーラを迸らせている。そんなアンバランサーな少女はペアを組むアズメリアと共に双眼鏡で索敵を行う。小柄な身長は敵の攻撃を避けるのには向いてるが、周囲をよく見渡すのには厳しいか。グッドラックを発動させ、幸運を世界に願った。


 しばしの時が流れ、肉眼で視界を広く取っていた阿木がそれを発見する。双眼鏡で確認。岩の肌を持つ鬼が映し出された。距離はおよそ千五百から二千といったところか。
「敵発見。十時の位置です」
 さらに周辺を確認、一、二、三、四、五匹、全ている。トランシーバーを用いて仲間達に報告を入れる。
「相手の動きが遅いんだから、しっかりと準備を整えてから行きましょう」
 アズメリアが言った。一同はその言に従い迎え撃つべく態勢を整える。
「出来る限りのサポートをします。しっかり叩いてやりましょう」
 暗赤の光の翼を広げ、阿木が静かに言った。西島は大剣を抜き放ち、それに頷く。
 傭兵達は各自散開し、突出し過ぎぬようある程度の速度を揃えて前進する。
 草原に立つ岩鬼達の姿が見える。体長ニメートル程度の岩の肌を持つ鬼。鬼達は接近する傭兵達を見据え、分厚い腕を向けている。
 距離が詰まる。九十程度まで接近すると、岩鬼達はそれぞれ一斉に指の先から礫を撃ち出した。
 狙う先はアグレアーブル、智久、伊河、西嶋、アズメリアの五名、五cmほどの石の塊が三連射され空を切り裂いて飛ぶ。
 アグレーアブル、膝下を輝かせ紅蓮の長髪を靡かせ、側面に回り込むよう疾風の如く駆ける。二発の礫を鮮やかに回避するが、最後の一発が回避機動を鋭く読んで飛んできた。脇腹に一発当たる。鉄球が激突でもしたが如き衝撃に息が詰まった。かなり強烈な一撃だ、足元がふらついた。が、とりあえず撃つには人指し指を向けてくる事を確認した。
 智久は獣の皮膚を発動させて外回りに弧を描くように駆けている。素早く駆けて飛来する礫を全弾回避した。速い。
 伊河は積極的に前進しつつ、飛来する礫に備え体を左右に振る。礫の一発が唸りをあげて耳元をかすめていった。少し危なかったが全弾回避。
 西島、己の方を向いているキメラの射線を外そうとしながら前進する。が、キメラはそれを捕捉、追尾していた。石の弾丸が迫る。避けきれない。三発の礫が次々に男の身に突き刺さる。肋骨が嫌な音を立てた。
 アズメリアは思い切り良く加速して進んでいる。弾丸が迫る。一発目が身に直撃する、衝撃が走った。痛みを堪えて身を捻る。続く礫はなんとかかわすが、三発目が再び胴に直撃する。「くっ‥‥!」激痛に表情が歪む。肺から息が漏れた。
 四十程まで距離を詰めたリュウセイが腰溜めにギュイターを構えた。全長1337mmの長大さを誇る小銃だ。長い銃身により優れた威力を持つ。
「唸れ ギュイターッ!!」
 裂帛の叫びと共に強弾撃を発動させトリガーを引き絞る。狙いは最も右端の岩鬼。SES機関が重い手応えと共に焔の咆哮をあげ、フルオートで弾丸が吐き出される。
「おらおらおらぁっ!」
 四十五連の弾丸の嵐が岩鬼へと向かって飛び、岩の皮膚に命中して火花を散らす。岩鬼の皮膚表面が削られ破片が飛んだ。智久を狙っていた岩鬼がリュウセイへと向き直り、その指先から石弾をリュウセイへと発射した。三連射。
 リュウセイは自身障壁を発動させ、飛来する礫を撃ち落とすべくギュイターを掃射する。が、礫はプロの野球選手が投擲する球の数倍速く、そしてボールよりも小さい。直径五cm。剛速で飛来するこれを狙って撃ち落とすのはかなりの神業だ。
 男は能力者の反射速度と弾幕で対抗する。銃弾の一発が礫に当たる、が、質量差から止まらない。しかし方向は逸れた。初弾はリュウセイの脇をすり抜けて大地に突き刺さり爆砕した。残り二発、すり抜けた。男の身に礫が炸裂し、衝撃が突き抜けてゆく。
「俺は、しぶといぜ‥‥!」
 よろめきそうになる身体を激痛を堪えて踏みとどまる。岩鬼の射撃は強烈だった。
 三十程度まで間合いを詰めた阿木は練成弱体を発動させようと思ったが、練成治療へと切り替えた。回復を優先させる。西島とリュウセイへと治療を入れる。両者の傷が瞬く間に癒えていった。改めて、西島の進路の先にいる岩鬼を狙って練成弱体を発動させた。特に外見上変化は起こらないので解らないが、恐らく効いた筈だ。
 阿木と同様に距離を詰めた寿は伊河へと練成強化を発動させた。伊河の持つ月詠が淡い輝きに包まれる。また伊河の進路上にいる岩鬼へと向けて練成弱体を入れつつ、敵の動きを観察する。
 その間に智久が最も右端の岩鬼へと回り込むように迫っていた。リュウセイはそれを見て射撃を中断する。
「便利な玩具は没収よ――命もね」
 智久は岩鬼Aの側面を取ると赤妖に輝く太刀を突進の勢いを乗せて振り下ろした。鬼蛍の刃が岩鬼の左手首に炸裂し、表面皮膚が砕けて石片が飛んだ。しかし、硬い。両断とまではいかなかった。反動で跳ね上がった刃を振り上げ再び振り下ろす。岩鬼は手首を引っ込めた。刃が空を切る。岩鬼が向き直る。刃を返して斬り上げる。左腕をかざして受け止めた。甲高い音と共に火花が散る。左のショットガンを右指の先へと突きつける。発砲、至近距離から散弾がまき散らされた。
 逆サイド、距離を詰めたレカミエは左端の鬼に対して斜めに駆けながら注意を引くべくS‐01を連射する。三連の銃声が轟き、銀の拳銃から弾丸が飛んだ。岩鬼Eの分厚い肌に甲高い音を立てながら命中する。
 岩鬼Eがレカミエへと向き直った、石弾を飛ばす。避けるには少し厳しい、レカミエの脇に石弾が命中し衝撃が身を襲う。バキっと肋骨が嫌な音を立てた。激痛が走る。
 その間にアグレアーブルは疾風脚を発動させ左端の鬼へと向かって迫っていた。瞬天速で加速し一気に後背へと回り込む。岩鬼が振り向く。攻撃の方が早い。完全に向き直られるよりも前に、刹那の爪を叩き込む。
「――slowpoke.まだこれから、です」
 結構言うようだ。流れるように足の爪とナイフで六連撃を繰り出す。しかし、硬い。岩鬼Eの指先が向く。即座に飛び退き回避運動を取る。二連射。一発、肩先をかすめた。強烈な衝撃に身体がゆらぐ。
 伊河、強化された月詠を携え岩鬼Bへと迫る。三連の石弾が迎え撃った。先よりも距離が近い。避けきれない。全弾命中。石の礫が右肩、腹、左腿に炸裂する。それなりに伊河も頑丈だが、敵の破壊力は強烈だ。激痛に視界が揺らぐ。歯を喰いしばって走る。殺らなければ殺られる。
「見敵必殺、だ」
 間合いを詰めると、練力を解き放ち肩の繋ぎ目を狙って切っ先を突きこむ。隙間に刃が滑り込んだ。引き斬る。ぎゃり、という音と共に火花が散った。腕の斬り落としを狙ったが、硬い。弱体と強化のおかげで、それなりの打撃は入っているが、腕を落とすまでには至らない。
「――ちっ!」
 伊河は舌打ちすると刀身に紅蓮の輝きを発生させ、上段から敵の頭部目がけて落雷の如く打ちこんだ。鈍い手応えと共に刃が弾かれる。が、敵の頭部も少し砕け、破片が飛んだ。
 西島は大剣を構え岩鬼Cへと駆ける。
「貴様ら人型を見ていると‥‥存在ごと‥‥消したくなるんでな!」
 刀身にエネルギーを極限まで集中させ、横薙ぎに振り払った。空気が逆巻き、草原の草を巻き上げ、音速の衝撃波が飛ぶ。ソニックブームだ。不可視の衝撃が岩鬼の胴へと炸裂し破片を飛ばす。岩鬼が指先を向ける。反撃の礫飛んだ。西島は直撃を受けながらも一気に間合いを詰める。
「貴様らにも‥『地獄』を‥見せてやるよ‥‥」
 爆熱の光を両手持ちの大剣に宿して振り上げ、踏み込み、渾身の力を込めて振り下ろす。狙いは手。剛剣が岩鬼の手を強打する。表面が砕け、破片が散った。しかし切断まではいかない。首関節を狙って大剣を薙ぐ。石片が散った。
 アズメリアは活性化で傷を癒しながら進む。岩鬼Dから石弾が飛んだ。三発命中。直撃を受けた場所に鈍い痛みが走る。
 その間に美海が間合いを詰めていた。
「命とったらーなのです」
 両手剣は持って来てないので小太刀を左の逆手に持ち、柄頭に右の掌を当て、それを腰溜めに構えると、レイ・エンチャントと布斬逆刃を発動させて駆ける。岩男Dの側面から肉薄し、体当たりするように紅光を宿す小太刀を突き刺した――が、硬い。むしろ非物理に対する防御の方が圧倒的に高い。光の刃が岩鬼の表面を滑る。
 小太刀を右手に持ち替えて斬りつける。三連斬。甲高い音が鳴り、刃と石の皮膚の間で火花が散った。
 リュウセイはギュイターで撃つと味方を巻きこむ恐れがあるので背に小銃を収めると片手半剣を抜き放って駆けだした。レカミエも同様にイアリスを構えて走った。
「一体も抜かせない‥‥嫌味言われるもの!」
 智久が赤妖の太刀で岩鬼Aへと斬りつけた。破片が飛ぶ。岩鬼の両手は健在のようだ。反撃の弾丸が至近から放たれ次々に女の身に命中する。
 アグレアーブルが岩鬼Eへと高速の六連撃を繰り出した。火花の嵐が巻き起こる。E鬼が反撃の礫を飛ばす。三発命中。激痛に目が霞み、足元がふらついた。当ててくる相手は苦手か。
 伊河が機敏に動き回りながら淡く輝く月詠で岩鬼Bへと連撃を繰り出す。岩男の頭部が強打されよろめく。岩鬼Bが礫を飛ばす。全弾命中。ごき、と骨が軋む。歯を喰いしばって踏みとどまる。
「『地獄』への片道切符だ‥‥」西島が大剣に爆熱の輝きを宿す「遠慮はいらん受け取れ」大地を揺るがして踏み込み、岩男Cの首元目がけてコンユンクシオを叩き込んだ。轟音が巻き起こり、岩鬼がよろめく、踏みとどまる、反撃三連、礫が西島の身を強打した。
「美海は蝶のように舞い、蜂のように刺すのですよ〜」
 美海は小柄さを生かし、岩鬼Dの死角をつくように動き、小太刀による四連撃を繰り出す。鈍い手応えと共に火花が散った。岩鬼Dは斬られながらも美海の姿を捕捉し、指先から三連の礫を連射する。美海は咄嗟に小太刀で初弾を斬り払う。が、残り二発は太刀をすり抜け、少女の身に直撃した。バキッと骨が鳴る。激痛が走った。
「本陣には攻撃させないわよ」
 その間に岩鬼Dの後背へと回り込んだアズメリアが月詠に赤光を宿し斬りつけた。両断剣だ。強烈な破壊力を秘めた赤き四連の閃光が岩鬼Dを滅多斬りにし、その体躯を傾がせる。が、踏みとどまった。恐ろしくタフで硬い。
「言った筈だ、傷の事は気にするなと」
 寿が言って超機械を発動させ伊河に一重、アグレアーブルに二重に練成治療をかける。
「‥‥敵は手ごわいようですが、無理はしないようにしましょう!」
 阿木もまた全体へと声をかけながら西島に一重、美海に二重に練成治療をかけた。治療を受けた四名の身体から痛みがひき、傷が癒えてゆく。
「接近戦だってやれる筈だぜ!」
 リュウセイは言いつつ、岩鬼Aへとバスタードソードで斬りかかり智久を援護する。
 一方、岩鬼Eの後背へと迫ったレカミエはアグレアーブルと共に頭部と脚部を狙って同時攻撃を仕掛け岩鬼を転倒させる事を試みていた。が、両者ともに一発が軽い。岩鬼の身は揺るがない。
 岩鬼は傭兵達の攻撃を受けきると、反撃の礫を飛ばす。
 本陣の西の平野で激闘が続いた。


 岩鬼はなかなか倒れず、戦いは長引き、礫は強烈な威力と精度で傭兵達を苦しめた。
 しかし二人のサイエンティストの支えの元に一同は粘り強く戦った。やがて、敵が礫を放ってこなくなった。どうやら弾数制限があるらしい。岩鬼は礫攻撃の威力は高かったが、肉弾攻撃はその見た目に反し、小型キメラにも劣る貧弱さであった。
 好機を捉えた傭兵達は猛攻撃に出ると、乱打の末に全ての岩鬼を打ち倒したのだった。