タイトル:闇に浮かぶ幽女マスター:望月誠司

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/07/13 01:08

●オープニング本文


 真夜中の十二時、月の影からそのキメラは飛来するのだという。
 男は神社の庭に銃を構えて立ち、待った。
 時計に目をやる、十二時まで一分前。夜空を見上げる。
 空の彼方に蒼白い光が見えた。近づいて来る。
「来たな‥‥」
 狙撃銃を構え、夜空へと向ける。現れたのは年の頃十七、八に見える少女だった。巫女のような服装に身を包んでいる。だが人間ではない。人間は蒼白い炎など纏わない。
 男は狙いをつけると銃弾を撃ち放った。少女は宙で旋回し、高速で夜空を翔け抜ける。外れた。四十メートル程度の距離まで接近すると少女が玉串のような物を振りかざす。先端から光の帯が飛びだした。
 閃光が男を直撃する。強烈な衝撃に男は吹き飛ばされた。神社の賽銭箱に身が叩きつけられる。光の束が次々と降り注ぐ。男は身を転がしてなんとか避ける。
「化物めッ!」
 男は銃を連射する。しかし空を高速で舞う少女はひらひらとかわす。
「当たらねぇ‥‥ッ!!」
 地面にさえ引きずり降ろせれば、と男は思う。そうすれば自慢の刀の錆にしてやるものを。
 だが刀は空を飛ぶ相手には届かず、男は空を飛べない。飛び道具で勝負するしかない。
 反撃の光弾が飛んでくる。男は神社の陰に飛び込んだ。あのキメラはあくまで目で見て対象を追っている。見えない相手には攻撃できないだろう。
 と、男は不意に空の影から蒼白い光の球が接近してきているのに気付いた。
「もう一体、だと‥‥?!」
 挟まれた。
「くそっ、ここまでか!」
 男は煙幕銃を足元に撃ち込むと、神社の付近に広がる森へと逃げ込んだ。
 男は自分の手には負えないと判断しその依頼をULTへと回したのだった。

●参加者一覧

花=シルエイト(ga0053
17歳・♀・PN
御影・朔夜(ga0240
17歳・♂・JG
クラリッサ・メディスン(ga0853
27歳・♀・ER
月影・透夜(ga1806
22歳・♂・AA
醐醍 与一(ga2916
45歳・♂・SN
竜王 まり絵(ga5231
21歳・♀・EL
ナオ・タカナシ(ga6440
17歳・♂・SN
ヴァシュカ(ga7064
20歳・♀・EL
猫瞳(ga8888
14歳・♂・BM
タリア・エフティング(gb0834
16歳・♀・EP

●リプレイ本文

 その日の晩、神社の境内に傭兵達が集まっていた。
「‥‥天の川名に流れたるかひありて今宵の月はことに澄みけり‥‥か」
 ヴァシュカ(ga7064)が夜空を見上げてぽつりと呟いた。闇に上弦の三日月、煌々と輝いている。
「‥‥本当‥‥綺麗なお月様ですね‥‥」
 今回のキメラは月光の影からやってくるという、巫女型のキメラだ。
「月夜に舞う巫女型キメラ、か」
 月影・透夜(ga1806)が呟いた。
「何がしたいのか不明だが厄介なのは違いない」
「‥‥バグアも何に影響されたのかしら、このキメラコンセプト」
 小首を傾げ竜王 まり絵(ga5231)が手配した航空図をライトで照らして眺めつつ疑問を漏らした。ちなみに地形を確認した所、空からは神社の境内が森の中にぽっかりと浮かんでいるように見えるようだった。
「飛んでる巫女、ですか? 確かにまぁ変なキメラですよね」
 巫女服、一度私も着てみたいなぁと呟いていたタリア・エフティング(gb0834)が同意して言った。
「変なキメラですけど上空から一方的に攻撃してくるとか嫌らしいです」
 聞けばかのキメラは宙を舞い、空から地上へと飛び道具で一方的に攻撃してくるのだという。
「さすがにバグアも考えましたわね。地を這う我々にとって空駆けるものは分が悪いと」
 クラリッサ・メディスン(ga0853)が言った。だが、分が悪いからといってそれで諦めるほどクラリッサは従順ではない。他の皆もそうだろう。神への反逆こそがある意味「人間」らしさの象徴だとサイエンティストは考える。
「まぁ、神聖な神の住処を、偽物の巫女なんかに守らせるかよ。即刻ご退場してもらうぜ」
 醐醍 与一(ga2916)が左の義手をがしゃりと鳴らし、気合を入れて言った。
「そろそろ時間だね」
 月森 花(ga0053)が言った。
「そういえば、仕掛けの方は大丈夫です?」
 ナオ・タカナシ(ga6440)が言った。
「うん、月影君や竜王さんにも手伝ってもらったから大丈夫」
 と月森。月が輝いているとはいえ夜の森はかなり暗い。ワイヤーを張るの骨だったが、竜王がライトを持っていたので比較的楽に晴れた。また高所に張る時は彼女が借りてきた梯子が役に立った。三人はワイヤーを蓋状にも張った。
「キメラ相手にどれくらいの効果があるかは解りませんが」
 と竜王。その時、月に黒天が落ちた。蒼炎を纏う影二つ。時計の針は十二を指している。キメラが、やってくる。
「――アクセス」
 御影・朔夜(ga0240)が覚醒し、その長い髪の色を黒から銀へと変化させた。他のメンバーも次々に覚醒する。
 二丁の小銃を構えて御影が言う。
「行くぞ」
 九人の傭兵達が宙を舞う二体の巫女型キメラを迎え撃つべく動き出した。


「来たぞ、各自散開!」
 月影が言った。
 巫女服を身にまとった女が二人、宙を渡り、月光の陰から迫ってくる。幽女は傭兵達の上空四十程度まで距離を詰めると玉串を振った。瞬間、一同目がけて無数の光の帯が解き放たれる。
 咥え煙草の男、御影朔夜は黒衣を翻して飛び退き閃光をかわす。
「左を殺る」
 巫女の一体へとシエルクラインを向け、片手で狙いを定め引き金を絞り込んだ。上へと跳ね上がる強烈な反動が腕に伝わる。激しいマズルフラッシュが闇に輝き、激しい弾幕が巫女Aへと襲いかかる。
「二体同時は厄介だな、分断するのが一番か」
 月影は槍を片手にS‐01拳銃を構えて閃光を掻い潜ると宙へと向けて四連射した。牽制だ。巫女Aと巫女Bの間の空間を中心に銃弾を飛ばす。
「‥‥ほら、こっちだよ‥‥おまえの相手をしてあげるよ!」
 月森は声をあげつつ星天を背負う巫女BへとS‐01の銃口を向ける。両手で構え発砲、反動が肩に伝わる、抑え込んで四連射。銃声が轟き、弾丸が空を切り裂いて飛んでゆく。
「さあさあ、お前はこっちにくるんだよ!」
 醐醍は片手でシエルクラインを構えると巫女AとBとの間の空間に弾丸をばら撒く。火花を激しく瞬かせフルオートで弾幕を張る。分断する為の牽制だ。
 ナオ・タカナシは隠密潜行のスキルを発動すると境内のオブジェの陰に身を伏せた。捕縛銃を片手に機会を窺う。
 ヴァシュカはキメラが飛来すると同時に虚闇黒衣を用いて闇の衣を展開させた。虚無が玉串からまき散らされる光の帯を吸い込んでゆく。ヴァシュカは巫女Aへとアラスカ454で狙いをつけ連射した。轟音が響き、猛烈な反動が腕に伝わる。
 竜王は予め運んできた庭石に銃を備えると膝射ちの姿勢で構えた。周囲を光の帯が薙いでゆく。怯まずに撃ち返す。スコーピオンを猛連射した。回避方向を遮って追い込みをかけんとする。弾丸の嵐が巫女と巫女の間にばらまかれる。
 クラリッサは超機械を構え、飛来したキメラに対して練成弱体を入れようとするが少し距離が足りない。接近を待つ。
 木陰に隠れているタリアはその間から顔を出しスコーピオンで射撃する。分断を狙った牽制だ。激しい弾丸の嵐が飛んだ。
 巫女Aは一同からの猛烈な射撃を受け、慌てて上空へと退避した。一方、巫女Bへ対して直接攻撃をしているのは月森のみか、巫女Bはターゲットを月森へと定めると光の帯をまき散らしながら迫る。
 月森は踵を返すと森の中へと飛び込んだ。醐醍とタリアもそれを追う。
 巫女Aは距離を長くとって高空をぐるぐると旋回している。蒼い燐光が闇の中で瞬いていた。
「距離を置いた、か」
 御影が漏らした。巫女Aは一同の射撃に恐れをなしたのか、なかなか降りてこない。
「逃げる気でしょうか?」
 とクラリッサ。
「不味いな、ここで仕留めないとまた後日くるかもしれないぞ」
 月影が言った。キメラは日を選べるが傭兵達は選べない、一同の胸中を不安の影がよぎった。


 巫女Bは低空で飛行し夜の森の中へと逃げた月森を追う。月森は隠密潜行を使用して気配を断ち夜の森に紛れる。常人なら走るなど不可能な暗さだが、能力者の感覚なら月明かりのおかげでなんとかなる。キメラは少女の姿を見失う。
「ほら、こっちだよ」
 月森は草木の影から声でキメラの誘導かく乱を試みる。
 巫女Bは宙に漂いながら背後を振り向いた。
 キメラと月森を追って森に入った醐醍とタリアと目が合う。
「げ」
 醐醍がうめいた。キメラは玉串を振い、醐醍とタリアへと光の帯を降り注がせた。慌てて二人は木々の陰へ飛び込み避ける。しかし閃光が逃げ遅れたタリアの鎖骨部をかすめ焼く。
「うっ」
 焼けつく痛みに少女は眉をひそめ、木の陰で膝をつく。
「大丈夫か」
 隣の木の幹に背を預け、シエルクラインを構えている醐醍が様子を窺いながら声をかける。
「だ、大丈夫です。かすめただけ」
 少女は肩を動かす。少し痛むが自身障壁のおかげもあってまだ致命傷ではない。動く。しかし、タリアは不意に異臭が漂い始めた事に気づいた。
(「これは‥‥」)
 盾にしている木の幹が、キメラの光閃を受けてくすぶり、焦げ臭い匂いを発し始めていた。


「既にキメラは分断されている。射撃は控えよう。今はこっちに意識を向けてくれさえすれば良い」
 月影が言った。庭班は攻撃の手を止めて待ち受ける。
 キメラは逃げようか逃げまいか迷っているような動きをしていたが、射撃が止んだのを見て果敢にも再度の急降下を敢行する。弧を描くように降下、上昇し玉串を振って地上へと光の帯を撃ち落とす。
 御影と月影は軌道を見切って回避した。御影は先手必勝を発動させて片手で捕縛銃を発射する。御影の腕前は非常に優れていたが、巫女キメラは速く、捕縛銃の精度は悪かった。巫女キメラは踊るように宙で素早くスライドし、紙一重でかわす。
 しかし速度が落ちた。チャンスだ。
(「ここで外したら‥‥明日から肩身が狭そうですね。スナイパー的に‥‥」)
 石塚の陰に潜むナオは胸中で呟きつつ捕縛銃の照準を合わせていた。燐光の飛ぶ先を予測し、発砲。ネット弾が飛んだ。弾丸は闇夜を貫いて飛び、巫女の胴に炸裂した。特殊ネットが展開しキメラを絡め取る。ネットから電磁波が発生し、キメラの浮力が消滅し、動きが止まり、地上へと落ちてくる。宙でもがくキメラに対してナオはさらに二丁目の捕縛銃を素早く構え撃ち込んだ。キメラは二重に絡み取られる。
「生憎と人型を理由に優しく出来る慈悲もなくてな、此処で消えて貰うぞ」
 左右にシエルクラインを構えた御影が強弾撃と二連射を発動させ猛攻を仕掛ける。フルファイア。猛烈な弾丸の嵐が落下中の巫女へと向かって延び、次々にその身を穿つ。
 三十メートル程度まで落ちてきた巫女に対してクラリッサは超機械を発動させ、練成弱体を入れた。見た目には変化は起こらないが防御力が減衰した筈である。クラリッサは間髪入れずに電磁嵐を巻き起こしてキメラを攻撃する。蒼光の嵐が巫女を包み込み打った。
「夏彦と織姫ならまだしも、幽女はこの場にはそぐわないですよっ。お引取りくださいな」
 ヴァシュカは影撃ちを発動させるとエネルギーガンのトリガーを引き絞った。眩いばかりの閃光が解き放たれ、破壊の嵐と化して飛ぶ。光弾が巫女の身に次々に炸裂し爆ぜさせた。
「この超機械のスパークで逃がしませんわよ!」
 宙で猛攻を受け踊っている巫女の周辺にさらに猛烈な電磁波が発生した。純白の電磁嵐が巫女を包み込み、その四肢を焼き焦がす。閃光がはじけ飛び、全身ズタボロになった巫女キメラが鮮血を噴き出しながら落下してくる。
「ケリをつける。落ちろ!」
 月影はタイミングを見計らうと数メートルを跳躍し、巫女キメラへと向かい大地に叩きつけるように槍を振り下ろした。巫女はまだかろうじて息があるのか、網に絡まれながらも握った玉串で槍を受け止める。
 しかしインパクトの衝撃は殺しきれず地面に叩きつけられバウンドした。
「こいつでトドメだ!!」
 落下してきた月影が槍を紅蓮の光に輝かせ、巫女の胴に穂先を突き立て、さらに零距離から音速の衝撃波を巻き起こした。巫女の身が弾け飛ぶ。巫女キメラは反撃しようと玉串を振り上げたが、腕からくたりと力が抜け、落ちる。そしてそのまま動かなくなった。
 

 一方、森部では巫女キメラBが玉串を振って光の閃光をまき散らしていた。まだ火はついていないようだが、周囲からは既に煙があがっている。
「今日だけ信心深くなるから、頼むぜ神様」
 言って醐醍は木陰から身を出すと影撃ち、狙撃眼を発動させ捕縛銃を闇に浮かぶ巫女キメラBへと撃ち放つ。ネット弾が宙を裂いて飛び巫女へと襲いかかる。小柄な巫女は宙でくるくると踊るように舞うと弾丸をかわした。
「くそっ、外れた!」
 男は舌打ちしつつ、小陰へ素早く身をひっこめ反撃の閃光をかわす。
「醐醍さん、これを」
 タリアが言って己の捕縛銃を醐醍へと放り投げる。醐醍は薄闇の中、先に撃った捕縛銃を捨てると、タリアのそれを受け取った。
「有難うタリア。だが、正面から撃ってもかわされる‥‥」
「なんとか罠の地点に誘い込めれば良いんですが」
 タリアは木陰からスコーピオンで牽制射撃しつつ言う。
「‥‥こっちに来い」
 木陰から月森がS‐01でキメラの背中を撃った。くるりとキメラが振り向く。月森は脱兎の如く走り出した。巫女キメラBはそれを追う。
 月森はワイヤーを潜りトラップ地帯へと巫女を誘い込む。振り返る。巫女が光線を放ちながら迫ってくる。かわしつつ捕縛銃を構える。キメラがワイヤーに当たった。巫女は袖を払って引きちぎる。だが速度は落ちた。月森は捕縛銃を撃ち放った。キメラは身をひねってかわす。その隙をついて後背から特殊弾が炸裂した。醐醍の射撃だ。ネットが展開され巫女を絡め取る。電磁波が流れ、キメラが浮力を失って地に落ちた。
「敵が動けない今のうちに‥‥」
 月森はS‐01を両手で構え連射する。銃声と共に空の薬莢が舞い、弾丸が飛ぶ。弾丸は次々と網に捕らわれた巫女の身に命中し、その白服を赤く染め上げた。
「神の依代をやるのは気が引けるが、キメラなら仕方ない」
 好機だ。醐醍は強弾撃を発動しジャコ、と音を立ててライフルに弾丸を装填すると、銃床を肩に当て両手で支え狙いをつけた。息を吐き、引き金を絞り込む。鈍い反動と共に銃声が轟き、回転するライフル弾が飛んだ。巫女の身に突き刺さり、食い込み、そして貫いて抜ける。醐醍は次々に弾丸を連射してゆく。
 タリアは強弾撃を発動させるとスコーピオンを構えた。しっかりと両手で保持し連射。強烈なマズルフラッシュが闇に瞬き、無数の弾丸が巫女の身を次々に穿つ。
 血しぶきと共に地面で跳ねるように転がる。網に絡まれながらも巫女キメラは月森へと向けて玉串を振るった。光の束が解き放たれる。
 しかしそんな攻撃が当たるわけもない。月森は閃光をかわすと、拳銃をスライドさせてリロードしつつドコドコと鈍い音を立ててSES弾を巫女の身へと撃ちこんでゆく。
 醐醍もまたライフルのカートリッジを入れ替えつつ弾丸を連射する。引き金が引かれる度に巫女の身が跳ね鮮血が飛んだ。
 タリアはカートリッジを入れ替えると狙いを定めスコーピオンを連射する。撃ちだされた弾丸のうち一発が暴れる巫女キメラの延髄に命中した。
 巫女はしばらく痙攣していたがやがてその動きを止めた。


「たまには綺麗な天の川を見ながら、月見‥‥なんてのも良いんじゃありません?」
 キメラを倒し終えた後、神社の境内で竜王などが救急キットで負傷者の手当てをしている時にヴァシュカが言った。どうやら茶と団子を持参してきたらしい。
 星の川が放つ光は地上の血を洗い流してくれるだろうか、そんな事を思いつつ一同は茶に口つけ夜空を見上げたのだった。