タイトル:少年達は銃火を以ってマスター:望月誠司

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/05/01 16:53

●オープニング本文


 満月の夜の日。邸の部屋の陰。蝋燭が闇の中で燃えている。
「あんな子供、産みたくなかった‥‥」
 女が一人、部屋の隅にうずくまって呟いている。童子は廊下から通りがかり、それを聞いた。
 童子は目を一瞬、大きく開いた。そして顔を歪め、奥歯を噛みしめた。
 童子は静かに背を向け、立ち去った。
 その女は、童子の母だった。

●少女の問いかけ
「愛って‥‥なんだ?」
「はぁ?」
 不破真治は病院の中庭で、間の抜けた声をもらした。まさか目の前の相手からそんな言葉を聞くとは思いもしていなかったからである。
「‥‥愛とな?」
 眼前の相手をみやる。オレンジ色の長い髪を持つ少女。歳の頃は十三、四だろうか。何処か遠くを見るような目で不破の眼を見ている。
 彼女の名は鳥居櫻。鬼籍に入った上官の歳の離れた妹だ。
 不破は昨年の東南アジアの戦で負傷し、エミタ機能に障害が出てしまった為、長期の入院を余儀なくされているのだが、こうして偶に見舞に来てくれていた。今日もそうだ。
 しかし、
――いきなり、なんだってんだ?
 不破真治は二十歳半ばの軍人だ。階級は中尉。長期入院する前までは戦って、戦って、戦ってきた。治療も大分進んできたので、また近いうちに戦場に戻るつもりでもある。
 そんな男であったので戦場での知識ならそれなりにあったが、しかし哲学にはまるで素人だ。
――俺にそんな事を聞かれてもなぁ‥‥
 不破は胸中でそう呟きをもらした。
 だが、櫻にとって歳の離れた兄の部下であった不破は、少女から見れば年長の大人の男なのだろう。そう、もしかしたら彼女の兄のように。頼りがいがあるように見えているのかもしれない。
「なんだ櫻、気になる相手でも出来たのか?」
 ニヤリと笑って言う。松葉杖から手を離し、中庭の縁石に腰かけた。周囲の木々は色鮮やかな花を咲かせている。季節は、もう春だ。
「そんなんじゃねー」
 しかし櫻はむっつりとした顔をした。
「‥‥気になるっていえば、気になるけど」
 少女は言って目を伏せた。不破は多少、頬が笑いに緩むのを覚えつつ問う。
「そうか‥‥ふ、まぁ、話してみろ」
「うん‥‥」
 鳥居櫻は顔をあげていった。
「母親が自分の子供を殺そうとするのって、やっぱ、愛がねーからか?」
 風がひょうと吹いて、庭を、抜けて行った。春の強風。花が散って、色鮮やかに舞っている。
「子供が‥‥自分の親を殺せるのも、愛がねーからか?」
 不破真治は空を見上げた。空は、よく晴れている。
 思った。
 どうして、こいつは、偶にこう、ヘヴィな球を放り投げてくるのだろう? と。

●過去の話
 その昔、とても好きあっていた少年と少女がいたのだという。
 少年は少女を愛し、少女は少年を愛した。だが、もう一人、少女を好きになった者がいた。壮年の男で、政治屋だった。
 少年と少女は引き剥がされ、政治屋と少女が結婚した。
(よくある話だ)
 と少年は思う。年の頃は十五、六だろう。ヘルメットを深くかぶり、肩にアサルトライフルを担いでいる。名を山門浩志という。
(ただ、実際に、自分の両親がその話の主人公だ、っていうのはあまり聞かないけど)
 それはきっと物語は幸運な結末になることが多いからだと山門は思う。しかし、彼の両親の場合はそうはならなかった。そうはならなかった。
 その少女が政治屋に産まされたのが、彼、山門浩志である。
(母さんは僕を嫌っている)
 彼の父は彼が六歳の時に死んだ。政敵に毒殺されたというが、犯人が誰だったのか、正確なところは解っていない。父が死んだ後に母は再婚した。かつての想い人と。義父と、やがて種違いの弟が出来た。
 実父は政治屋らしく用心深い人で、万が一の際には山門に全ての財産を残すように記しておいたらしい。しかしそのおかげで――山門はそう思っているし、きっと間違いがない――父の死後、山門の身の回りに段々と奇妙な事がおこるようになった。鉢が空から降ってきたり、車が道に突っ込んできたり、食事に毒が混ざっていたり。
 有能な使用人が彼を助けてくれたが、その者がいなければ山門は今、生きてはいないだろう。
 犯人が誰だったのか、正確なところは解っていない。
 山門は中学を卒業すると家の全てを捨てて軍に入隊した。
 そして、
「因果なもんだね」
 移動する装甲車の銃座で呟く。春の強風が頬にふきつけ、少年は眼を細めた。震える右腕を左手で掴む。
 故郷の街が眼前には広がっていた。

●問題ないと彼は言う
 第三三六分隊、通称ヤマト分隊は臨時の傭兵達を組織して構成されている隊だ。
 今回の目標は街外れの洋館に潜む親バグア兵達を強襲し撃破すること。
「敵兵率いて籠ってんの――お前のかーちゃんだって聞いてるけど」
 同分隊の傭兵鳥居櫻は少年隊長をみやって問いかけた。
「そうらしいな」
 突入前、銃の整備をしていた少年は視線も合わせずにそう答えた。
「大丈夫なのかよ」
「問題ない」
「本当に?」
「ああ」
 がこり、と突撃銃が鳴った。
「俺は、殺せる」
 病院で、櫻の問いに不破真治は答えた。意志が人を殺すと。そして、こうも言った。意志は置かれている状況によって作りだされ、状況は行動によって決定される。生物の行動が化学反応によって起こされるならば、それはきっと運命なのかもしれない、と。
(運命が人を殺す)
 嫌な言葉だ、と櫻は思った。そして、不破も変わった、と思った。以前は、怪我をする前は、決してそんな言葉を使う男ではなかったのに。
「誰しも立場があり、守らなければならないものがある。単純な意志や理屈だけでは、動いていない」
 松葉杖をついた男はそう言っていた。
「俺は‥‥親バグア派じゃないからな。証明してみせる」
 ヘルメットの陰から瞳を鋭く光らせ少年はそう言った。血縁が親バグア派についたとあれば、色々とある。断ち切らなければならないのだと、人は言う。
 しかし、本当に、これで、良いのだろうか、鳥居櫻には解らなかった。しかし、ではどうすれば? 何が正しいのか解らない。
 昔は、真っ直ぐに何かを信じていられた。苦しくても、やる事ははっきりしていた。村を守り、キメラを倒す、それだけを考えていれば良かったのに――
「問題ない」
 少年はヘルメットを深くかぶり、突撃銃を手に櫻を振り返って言った。
「行くぞ」
 櫻は仲間達を見やった。視線に声にならない言葉を乗せて問う。自分達はどうすれば良いのだろうか、と。

●参加者一覧

クレイフェル(ga0435
29歳・♂・PN
皇 千糸(ga0843
20歳・♀・JG
セラ・インフィールド(ga1889
23歳・♂・AA
ノビル・ラグ(ga3704
18歳・♂・JG
ラシード・アル・ラハル(ga6190
19歳・♂・JG
九条・縁(ga8248
22歳・♂・AA
榎木津 礼二(gb1953
16歳・♂・SN
芹沢ヒロミ(gb2089
17歳・♂・ST

●リプレイ本文

 両親の記憶は、ほんの少ししか残っていない。
 温かい、あやふやな記憶。黒いヴェール、水煙草の匂い――それも、機械油と硝煙の臭いで、掠れかけている。
(「一年前には、もう少し、思い出せたのに」)
 ラシード・アル・ラハル(ga6190)は茫洋と思った。
 彼は山門の事情に踏み込む気はなかった。薄れる自身の記憶、しかし様々な親子がいるのだと、十二宮のジェミニに関わって知った。
 だから、ラシードは薄闇の中に碧眼をやりただ問うた。
「山門翠は‥‥敵?」
 それに少年隊長はヘルメットの陰から鋭い眼光を向けて答えた。
「敵だ」
 短く、明確な返答。
 ラシードは頷いた。
「‥‥了解。任務を遂行、する」

●出発前
「――こりゃ又、因果な廻り合わせだぜ」
 出発前、話を聞いてノビル・ラグ(ga3704)はそう呟いていた。なんでも山門隊長の母がバグア側の指揮官であるらしい。
「‥‥こんな時代だ、よくある話さ」
 芹沢ヒロミ(gb2089)が言った。手で口元を覆い、強い風になかなか点かないライターに対し苛立たしそうに眉を顰める。
「そう、良くある話だ‥‥」少年は息を吐いた「それだけで、片付けられる話でもねぇけどな」
「家庭の事情については私には何とも言えませんが‥‥」
 セラ・インフィールド(ga1889)が言った。
「出来れば親子の殺し合いは見たくないですね」
「ああ。でも親子だからって、必ずしも『話せば解り合える』って訳でも無いしなぁ‥‥」とノビル「聞いた話に因るとかなり複雑な親子関係っぽいぜ?」
「山門が今、おかれてる状況もな」クレイフェル(ga0435)が言った。「親を討つ‥‥あまり、させたないことやけど、そうせなならん場合もあると思う」
 ほんま、嫌な時代やな‥‥と青年は呟いた。
「でも、和解の可能性が例え零だったとしても‥‥子が親を殺してしまう事態は避けられる物なら避けたいぜ」ノビルが言った「必ず取り返しの付かない事になっちまう」
「せやな‥‥依頼の遂行を重視はするが、ベストは全員生取にする事といこか」
 それはあくまで目指すべき最善に過ぎないが、クレイフェルはそう言った。

●館前
「行くぞ」
 山門が言い櫻が傭兵達を振り返る。少女の視線を受け、
「なんかネタ的に火攻めにして蒸した所でトドメと行きたくなる様な間取りの館だなー」エロスと浪漫と熱血を愛する漢、九条・縁(ga8248)が双眼鏡で丘上の館を確認しつつそんな事をのたまった「かつては日々夜毎にエロティックインモラル(比喩表現)が行われていたに違いない」
「‥‥どんなモラルだよ、そりゃっ」櫻がかすかに頬を赤面させる「真面目にやれよなーっ!」
「俺は真面目さ」九条は笑い、そして声を落として告げた「まぁ‥‥母子の事は、当事者同士に任せた方が良いだろうな」
 櫻は言葉を詰まらせた。
「‥‥なんで?」
「自分で決着をつけない限り『言い訳のできる』しこりが残る」
「しこり‥‥」
「だから、自分で決着をつけるのが良い」
 九条は先頭を歩いてゆく少年の背を見やりつつそう言った。
「山門隊長」
 榎木津 礼二(gb1953)がその山門に近づき呼びとめた。
「‥‥なんだろうか?」
「血の繋がった人程、大事な人はいない」
 榎木津は家族をバグアに殺されていた。親バグアというだけで殺すのは、彼には少し勿体ないと感じられた。
「例え、憎んでいても失えばそれはとても悲しい」
 山門は榎木津を見据えた。昏い黒い瞳が榎木津の眼をじっと見た。黒瞳には確かに無数の感情の色があったが――何かを言おうと動いたが――しかし、結局は何も言わず、少年隊長は踵を返した。
「‥‥返答無し、か」
 やれやれと嘆息する。あの様子、言っても詮がないと飲みこんだのか、そんな有様だった。
 榎木津は考える。あれは、つまり、決心は堅い、ということだろう。
 常として、家族を人質に取られれば、それの為に戦う者は多い。もし人質を取られている味方がいたとして、他の味方はその人物に命を安心して預けられるだろうか――人による、しかし、いつ家族の為に裏切るともしれない相手にそれは通常は難しい。
 そういったケースでなくとも、血縁から誘われれば敵側に靡く者もいる。相手に地位があればなおさらだ。
 血縁が敵側にいるというのは、端的に言えばそういう事。
 それでも味方から――軍から、信用される為にはどうすれば良いのか。
 証明してみせると少年は言った。
――何を?
 決して、裏切らないと。
――どうやって?
 確実なのは、要因を消滅させる事。
 つまりは、そういう事なのだろうか。
「和解は、難しいんじゃないかしら」
 榎木津が振り向くとそこには着物姿の女が立っていた。
「皇さん」
 皇 千糸(ga0843)だ。
「‥‥やるっきゃないって事ですか」
「ええ。でも、それでも、話し合ってほしいとは思うけど‥‥言いたいこと言い合って、互いの胸のうち全部吐き出してしまえばいい」
 皇は思う。それは傷つけ合うだけかもしれないが、それから互いの関係に見切りをつけても遅くはないのではないだろうかと。
(「‥‥死別して心にしこりが残るより、その方がきっといい。私はそう信じたい」)
 女は微苦笑すると言った。
「ま、私のエゴだけどね」
 榎木津はそんな女をみやりつつ問いかける。
「――その事は山門隊長には?」
「伝えておいたわ。どうするかは、彼次第でしょう」
「そうですか‥‥」
 榎木津は頷いた。振り返る。少年は銃を担いで黙々と進んでいる。
(「‥‥まぁ、頑張れ隊長さん」)
 そんな事を思った。

●開始
 地図は情報部より入手済みなので一同はそれを元に作戦を立てた。捕縛の為に強靭なワイヤーも調達しておく。しかし、
「あれ、閃光手榴弾、誰ももってへんか?」
 クレイフェルが困惑する。無いものは仕方がない。搦め手は無しに実力で対処する事とする。
 傭兵達は三方に分かれ丘上の館を包囲するように配置についた。
「山門、今は余計なことは考えんと。とりあえずまずは依頼遂行や」
 クレイフェルが言った。
「心配はいらない」
 山門はそう答えた。
「状況を開始する」
 無線から少年の声が漏れた。十名の能力者達が丘を登り始める。背丈の高い緑の草が春の強風に揺れていた。
 距離が詰まる。射程一○○、館の正面窓に備え付けられた二つの銃が早速火を噴いた。気付かれている。映画のように派手ではないやけに軽い音が連続して響き、されど唸りをあげ空を裂いて弾丸の嵐が迫り来た。狙いは正面、掃射だ。
 弾丸が地面に突き刺さり土煙を巻き上げる。弾雨の中を進みながら皇は拳銃を手に銃身をスライドさせ弾丸をロードした。
「やー、今回私紅一点だと思ってたから、櫻さんがいてくれてちょっと安心したわ」
 皇は背後の櫻にそんな事を言い残し前方へと駆け出す。ラシードも小銃を携えそれに続いた。手練の能力者である二人には弾道が見えた。距離もある、そう当たるものではない。回避しながら駆け抜ける。
 ラシードは八十の距離まで詰める。狙撃眼を発動させるとイブリースを構え二階、右の銃座へと狙いをつけた。引き金を絞る。銃声が轟きライフル弾が飛び出した。上へと跳ね上がる反動を抑えつつ三連射。弾丸が銃座の銃身に激突、甲高い音と共に火花が散り、それを吹っ飛ばした。
 皇もまた六十の距離まで走ると二階の銃座へと拳銃を向けた。狙撃眼と鋭角狙撃を発動させ、狙いを定め発砲。一発の弾丸が正確に銃身を打った。
 クレイフェルの姿がブレた。残像を残す勢いで一気に急加速する。瞬天速だ。距離を稼ぎ、そのまま玄関を目指し駆ける。速い。
 ほぼ同時に黒のAU−KVの脚部からスパークが発生した。芹沢だ。黒いオーラの翼を背に出現させると、練力を解放し玄関を目指し走り出す。移動と竜の翼を繰り返し使用、電撃の残光を宙に引きながら駆け抜けた。
 正面では他に山門と櫻が、西側ではセラと榎木津が、東側では九条とノビルが、それぞれ前進して距離を詰めている。
 皇は練力を全開にするとS‐01を二連射し銃座の銃を破壊した。ラシードは前進を開始し、玄関前に辿り着いたクレイフェルは無線で突入のタイミングを図った。同じく玄関前まで辿り着いた芹沢は待機して後続を待つ。
 拳銃を手に持った親バグア兵が窓から身を乗り出した。玄関付近の二人の頭部へと狙いを定める。瞬後、フルオートの弾丸が窓辺を薙ぎ払った。山門と櫻の銃撃だ。バグア兵は慌てて身を引っ込めた。
「いきますよ」
 クレイフェルが無線に向かって言った。同時にルベウスで蝶番をぶち抜き、扉を蹴り開ける。
 ホールでは六名あまりの親バグア兵が即席のバリケートの向こうで銃を構え、二名が砲を肩に狙いをつけていた。
「――撃てっ!」
 女の号令が響いた。猛烈なマズルフラッシュ。五丁の突撃銃からフルオートで弾丸の嵐が放たれ、玄関口の侵入者達へと一斉に襲いかかる。夥しい数の弾丸が扉を蜂の巣にし、エネルギー弾が宙を焼いて飛び、無反動砲が炸裂した。玄関周辺で大爆発が巻き起こった。

●爆炎
 ほぼ同時刻、館の東西でも爆発が巻き起こっていた。
「裕子の弓捌きには遠く及ば無ェケド――派手に行くぜ‥‥ッ!!」
 弾頭矢を弓に番えたノビル・ラグが東裏口に向かって猛連射する。撃ち放たれた弾頭矢は扉に突き立つと爆裂を巻き起こし、その裏に打ちつけられたバリケートもろとも扉を吹き飛ばした。
 西側でもセラが弾頭矢を用いて爆破をかけていた。榎木津もガトリング砲で追撃を入れ蜂の巣にする。セラは接近すると豪力を発現させ脆くなった扉を蹴破った。榎木津は竜の翼を発動させ一気に距離を詰める。
 西口の付近には敵兵は見当たらない。セラと榎木津は素早く裏口から館の中へと踏み込んだ。
 九条とノビルもまた東口から侵入を開始していた。
(「正面に銃座を用意したって事はコッチには別の何かが有るって事」)
 九条は周囲を警戒しつつ低い姿勢で素早く駆け抜ける。ともすれば空気に溶けそうな程に細いワイヤーが見えた。案の定トラップだ。九条はノビルに注意を促しつつワイヤーを避け、扉を蹴破り部屋へと踏み込む。敵の姿は無い。クリア。
 西口、榎木津は中腰で頭部を低くし、壁に背を預けて進む。セラもまた慎重に進んだ。バケートの陰、足元に何か――ある? ワイヤーだ。間一髪で気付き回避する。部屋へと侵入。こちらも敵の姿は無い。クリア。

●膠着
 当初の予定では扉を破りその隙間から閃光手榴弾を投げこもうとしていた。しかし、それが無かった為、そのまま蹴破った。敵が待ち構えている事くらいは予想している。
 クレイフェルと芹沢は素早く横っ飛びに跳んで猛攻を回避していた。爆炎と爆風を背に、地面を一度転がってから起き上がる。武器を構え、かつて玄関であった大穴の左右へと二人はついた。中の様子を窺おうと首を伸ばす。瞬間、猛射され壁を弾丸が削る。慌てて首をひっこめた。
 玄関に到着したラシードは芹沢側の壁の陰まで走ると、指揮官らしき女――恐らく山門翠だろう――を狙ってアサルトライフルを撃ちこんだ。遮蔽物の陰に伏せられて回避される。反撃の閃光が飛んでくる。壁の陰にかくれてやり過ごした。やがて皇も到着し射撃を開始する。しかし、敵の腕はそれほどでもないが、武器の威力が高く全員が飛び道具を持っている。弾幕が厚い。
「攻めこめないわね‥‥」
 皇は玄関付近の壁の陰から中の様子をみやり呟いた。目にも止まらぬ速度で拳銃を頭上に向け発砲。二階から放られた手榴弾が撃ち抜かれ、宙で爆発した。

●決戦
 膠着状態に陥っている中央付近だったが、やがてその均衡は崩される。
 部屋の制圧を終えた九条とノビルが東通路よりホールに到達、ノビルのサブマシンガンの援護の元、黄金のオーラを纏った男がクロムブレイドを構えて弾丸の如く突っ込んだ。
「死んで俺の経験値になれぇぇ!」
 あんまりな台詞をあげて突貫してくる九条に対しバグア兵の迎撃が集中する。二人程ノビルが掃射で抑え込んでいるが、残りの六名からの反撃が全て向かった。
 九条は半防御の態勢を取ってはいたが、しかし構わず突進した。致命傷さえ避ければ後は活性化で治せば良いという考えだ。
 猛攻の中、襲い来る弾丸を長剣で弾き飛ばし、飛来する砲弾を剣の烈閃を巻き起こして真っ二つに斬り飛ばす。左右に爆裂が巻き起こった。炎を裂いて男は進む。
「――化け物めッ!」
 女の銀銃からエネルギー波が撃ち放たれた。爆裂する閃光が渦を巻いて飛び九条へと襲いかかる。他のバグア兵達も火線を集中させて一斉に火器を解き放った。
「うぉおおおおおおおおおっ?!」
 さすがに、防ぎ切れない。九条は雄叫びをあげながら爆光に呑まれ、吹き飛ばされてゆく。
 だが当然ながら敵は九条だけでは無い。密かに接近していたセラ・インフィールドはホールへと侵入すると拳銃とナイフを手にバリケートを飛び越え敵中に踊り込んだ。疾風の如く肉薄すると相手の腕をナイフでかすめ斬り、グリップで強打を与え次々に昏倒させてゆく。榎木津がガトリング砲で射撃しそれを援護した。
「行くぜ‥‥!」
 敵陣の混乱を見やり正面組も突撃を開始した。芹沢がスパークと共に突進し、クレイフェルが矢の如く駆ける。二人の突進を皇とラシードが射撃で援護した。クレイフェルは疾風脚を発動させるとルベウスを竜巻の如く振い血風を巻き起こす。竜の翼で敵兵に肉薄した芹沢はその背を守るように動いた。敵兵の腹を狙って拳を繰り出し、衝撃に相手の身が折れたところへ腕へと手刀を叩きつけて武器を取り落とさせる。
 混乱の中、山門翠はそれでも反撃を試みようとしていたが、弾丸が飛来しその手から銃が弾き飛ばされる。ラシードの狙撃だ。踵を返した所へ逃走経路を塞ぐように榎木津のガトリング砲が放たれた。練力を全開にして接近したセラが体を当て背後に回り、床に組み伏せると言った。
「貴女の息子さんが来ています‥‥お互い言いたい事があるなら言っておいた方がいいですよ。これが最後の機会かもしれませんから」
 その言葉を聞き、山門翠は動かなくなった。

●その結末
 勝敗は決した。親バグア兵は全員が生きたまま捕縛され後方へと護送された。やがてバグア側の情報が引き出される事となるだろう。
 子と母がどんな会話をかわしたのか、傭兵達は知らない。
 しかし、
「‥‥撃てなかった」
 山門浩志はそう言った。
「憎んでいるなら、撃つべきだった。愛しているなら、撃つべきだった。生きたままいくなら、殺してやるべきだった。でも、僕は、撃てなかった‥‥!」
 軍人の少年は地面を殴りつけ、涙を流して、そう言っていた。
 それが正しかったのか、間違っていたのか、それは明確には解らず、そしてその判断は、きっと人それぞれ。
「やっぱ‥‥人相手がいっちゃんしんどいかもわからんわ‥‥」
 帰還途中、ジーザリオの上で、遠ざかる黄昏の街を眺めながらクレイフェルは呟きを洩らしたのだった。