タイトル:【RoKW】再来の翼マスター:望月誠司

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/05/12 18:10

●オープニング本文


●Record of Kalimantan War
 それは東南アジアにある。
 世界で三番目(説によっては四番目)の大きさを誇る巨島カリマンタンの奪還を目指し、ニ○○八年の初夏、UPCは大規模な兵力を投入した。
 インドネシア、マレーシア、ブルネイの三国の軍を中核とし、それにULTや近隣諸国各国からの援軍を加えた混成軍は、最盛期には兵力二十五万を数えた。対するバグア側の兵力は当初、親バグアの兵を中心とした十五ほどであった。
 数の上では勝っていたが、そこに配備されている兵器の質に大きな差があり、実質的にはUPC軍の戦力はバグア側と互角、ないしそれ以下であったと言われている。
 開戦当初、カリマンタン島のUPC軍はバグア軍の頑強な抵抗に合い、戦局を思うように進める事が出来なかった。しかし司令部はコタキナバル基地にて残存の航空戦力三○○を掻き集めて空師団を編成し『落雷作戦』を発令。カリマンタン島における空の主導権を賭けバグア空軍との雌雄を決した。
 結果として、ULTの傭兵達の活躍もあり、勝利したのはコタキナバル航空師団であった。
 コタキナバル航空師団はバグア空軍を壊滅させ、島の中央部の重要拠点であったパランカ・ラヤ航空基地へと大規模な爆撃をかける事に成功する。
 制空権を握ったカリマンタン島軍は各地で猛攻を開始した。ジャミンングや超技術によって戦の有り様は変わったが、やはりそれでも空を握るという事はとてつもなく有利となる。空陸で連携して進むカリマンタン島軍は次々に各地を解放してゆき、〇八年、八月初頭にはカリマンタン島におけるバグア側の最大の戦力を保有していたパランカ・ラヤ市が陥落した。
 パランカの司令官であったバグダット・イグナスはULTの傭兵達によって討たれ、カリマンタン島の親バグア派の人間は戦略的・戦術的支柱を失う事となった。
 戦いの趨勢はUPCの側へと大きく傾き、カリマンタン島は秋には全土が解放されるかに思われていた。
 実際、バグア側は残兵をかきあつめて抵抗を試みるもサマリンディア、パリクパパン、アムンタイと次々に拠点を奪取され九月には主だった拠点はバンジャルマシンとその周辺を残すのみとなっていた。
 バグア勢力は必死の抵抗を試みるも、カリマンタン島軍の圧力に圧され徐々に島の南東へ、南東へと押し込められていた。
 だが、同月、大規模な兵力の変動が起こった。インド方面での攻防が活発化し、まずインドから来ていた援軍がカリマンタン島からの撤退を余儀なくされた。
 どうにも戦局が不利そうだという事を受け、さらにその周辺諸国からの援軍も混成軍を離脱し、防衛の為に帰還した。
 さらには、インドにはメガコーポレーションがあり、あそこを落とす訳にはいかない、と逆にカリマンタン島軍からインド方面へと援軍を出す、という事態にまでなった。
 島の混成軍は弱体化し、それによって島のバグア軍は息を吹き返した。
 バグア軍は圧力が弱まった隙をつき、南東の拠点の一つであるバンジャルマシンに兵力を結集し頑強な防衛ラインを構築した。
 戦線は、膠着した。
 落雷作戦の成功により地球人類側の有利へと傾いていた筈の天秤がまたじりじりと、動いていた。
 そして、秋が過ぎ、冬が過ぎ、年が明け、春が来た。
 既に季節は二○○九年の四月を過ぎようとしていた‥‥

●橋頭堡の戦い
 カリマンタン、宝石の河の島。その南東部にあるバンジャルマシン市の北西には大河が流れており、市の北方にはそれを渡る為の巨大な橋がある。
 西よりバンジャルマシンを目指すカリマンタン島第五軍はさまざまなルートで同市へと乗り込まんとしていたが、第五軍に所属する村上連隊はこの大橋の確保を命令されていた。
「空か‥‥」
 ジーザリオに似た指揮車両の助手席で、よれた軍服に身を包み、禁煙パイプを咥えた男がくたびれた眼つきで無数のピンが打ち込まれた地図を睨んでいた。
 無線や伝令から途切れ途切れの報告が届く。村上はその度にピンを抜いたり、打ちこんだりしている。レーダー装置はあるが、ジャミングが激しくあまり役に立たない。
(「この世の科学技術は恐ろしく発展した筈なのになァ、やっている事は大昔のそれと大差ねぇな、オイ」)
 車両のすぐ傍で爆発が起き、兵士が幾人か吹き飛んだ。運転手の新米下士官が悲鳴をあげた。
 空には、ヘルメットワームが舞っている。
「村上中佐ァ! ここは危険です。後退した方が‥‥!」
「後退って、何処に下がれってんだ?」死んだ魚のような目をしている中佐は、爆発にも下士官の声にも一瞥もくれる事なく、じっと地図を睨んでいる。「これ以上さがったら指揮できねぇよ」
「しかし!」
「空軍が来るまでの辛抱だ」
「空軍‥‥来るのでしょうか。最近では、また制空権をバグア側に奪われつつある、と聞いていますが!」
「そらぁ、来るこたぁ、くるだろうよ。来てもヘルメットワームに勝てるかどうかは、解らんが」
「中佐ぁ!」
「黙ってな。信じる者は救われるって言うぜ?」
 村上が顔をあげた時、無線機から音が漏れた。ノイズが、クリアになる。
「――ちら、第二七騎鳥大隊、こちら第二七騎鳥大隊。応答を請う」
「こちら歩兵第九○四連隊、村上顕家だ。おせぇぞ」
「申し訳ない。あと三分程でそちらの戦域に突入します」
「頼むぜ」
「了解」
 無線が切れると村上顕家は帽子を被り直して呟いた。
「ったく、ほんとに、戻ってくるのがおせぇんだよ‥‥」
 地図にピンを打ちこむ。
「まぁ、良い。頭のうるせぇのさえ消えれば、こっちのもんだ」

●参加者一覧

白鐘剣一郎(ga0184
24歳・♂・AA
クラリッサ・メディスン(ga0853
27歳・♀・ER
平坂 桃香(ga1831
20歳・♀・PN
オルランド・イブラヒム(ga2438
34歳・♂・JG
智久 百合歌(ga4980
25歳・♀・PN
みづほ(ga6115
27歳・♀・EL
ヴァシュカ(ga7064
20歳・♀・EL
音影 一葉(ga9077
18歳・♀・ER

●リプレイ本文

●突入前
(「油断は命取りと解っていても、ついつい気が緩みそうなメンバーですね」)
 南海の上を飛ぶ九機のKV、そのうちの一機R‐01Eイビルアイズに搭乗するみづほ(ga6115)は共に飛ぶ仲間達をみやって胸中で呟いた。
 入れ替わりが激しい傭兵隊の戦力が時によって変動するのは周知の事だが、今回は恐らく現状で揃えられる最高値に近いものがあるだろう。ほぼ、ではなく、全員が傭兵として手練だ。自軍戦力は圧倒的ではないか、と思う。
「‥‥不破中尉お久しぶりです。また一緒に戦えて光栄ですよっ」
 無線機からヴァシュカ(ga7064)の声が漏れた。既にブリーフィングで顔を合わせてはいるのだが、緊急出動する事が多い空の戦では一分一秒が惜しい為、挨拶するのも移動中などになってしまう。
「兜ヶ崎村以来か‥‥中尉とは本当に久し振りになるな」
 白鐘剣一郎(ga0184) が言った。
「ああ、久しぶりだな。皆、健在なようで何よりだ。よろしく頼む」隊を率いる軍士官、不破真治が答えて言った。
「俺も兜ヶ崎以来になるか。昇進おめでとう」
 とオルランド・イブラヒム(ga2438)もまた言う。
「有難う。ま、二階級特進まがいなものが多いがな」ははと笑って中尉となった男は答えた。
「今度は撃墜させませんよ。半年前は未熟だった私ですが、今は違います」
 音影 一葉(ga9077)が言った。僚機が撃墜されるのは忸怩たるものがあるらしい。
「む、了解した。活躍の程は聞いている。あてにさせてもらうぞ」
「そう言えば、空で不破さんとご一緒は初めてかしら?」旧姓智久 百合歌(ga4980)が言った。
「いや、智久とは二度目だな。対馬付近の上空で一度やった」
「ああ、対馬‥‥もう一年以上も前になりますか。ちなみに私、菊池です」
「うむ、早いものだ――ってなんだって」
「結婚したんですよ」「なんと、そりゃ凄い、おめでとう、よく死亡フラグを回避したな」「中尉、メタ過ぎませんかそれ」などと話しつつ南の空へと向かって飛ぶ。今回目指すはカリマンタン島南部上空だ。
「病み上がりも敵さんは見過ごしてくれませんからね、気合いな戦いを期待してますよ」
「ふ、言ってくれるな、体調自体は既に万全だ。やってみせるさ」
「確かに、調子は良さそうだな」白鐘が苦笑しつつ言った「万全というなら頼りにさせて貰おう。改めて宜しく頼む」
「うむ、任せておけ――間もなく作戦領域に突入する。各機、準備はよろしいか?」
 不破の声音が変わった。ここから先は、戦場だ。
「腕が鳴りますね。準備は万端ですよっと」
 平坂 桃香(ga1831)がマイペースな口調で答えた。
「招かれざるお客様には早々にお引き取りを願わねばなりませんわね」
 クラリッサ・メディスン(ga0853)が艶のある声を響かせた。彼女は言った。
「この空でわたし達と相見えた事を後悔させてあげましょう」
――信頼と心配、適度なバランスは難しい。まずは自分の仕事をきっちりこなすべき、とみづほは思う。
 しかしまた思うのだ、
(「このメンバーで負ける所が想像できない」)
 九機のKVが轟音をあげ、空を裂き、音速波をまき散らしながら島の戦場へと突入していったのだった。

●再来の翼
「戦に絶対はない」
 かつて壮年の大尉はそう言った。現在では中佐となっているその男が率いる地上部隊との交信を終えると、傭兵隊の隊員達は言葉少なく認識の共通化を図る。
 ヴァシュカはレーダーから敵味方の配置を告げ、みづほは敵にナンバーを振った。レーダー上に断続して表示されている光点は七つ、中型をZとし小型六機にAからFとした。中型を中心に小型が散っている。
 音速の世界、距離はあっという間に詰まってゆく。戦闘領域に突入。敵も気づいている。地上爆撃の構えから余裕を残しつつ空戦のそれへと動きを変える。
 傭兵隊もまた一斉に機首を翻し三つの塊に分裂した。三班、三機づつの編成だ。中型のHWを囲むように主にX軸方向に展開し、同時に三方から迫る。対するワーム軍団は高度をあげて上を取ろうと動き、同時に左翼へと一斉に流れた。
 彼我の距離を変化させる事により各方向からの包囲網の完成を遅らせ、時間差を作り、その稼いだ時間の間に突出した一辺に戦力を集中させ全火力を叩きつける――そのような意志がHW達の機動から見て取れた。典型的な各個撃破戦術だ。
 不破が短く注意を飛ばす。傭兵達は即応し左翼が旋回して十時方向へと進路を転じた――単純に減速すると速力が勿体ない為だ――それを基点に中央、右翼が回転するように動く。通常、応変の機動を雑多な軍で乱れずにやるのは難しいが、今回は平均練度が高く、足が速い機体が多い。レーダー上に独特の曲線が引かれ位置が推移してゆく。潰した。包囲の位置関係を維持したまま近づいてゆく。
 距離が詰まる。黒い影は粒のように小さいが、目視でも十分確認できる間合いだ。各機、戦闘機動に切り替える。アフターバーナーが焔を吹き、風が唸る音が聞こえた。
 距離が詰まる。射程まであと僅か。敵編隊は逃れようともがいたが、結局のところ予想通りに三方に散った。

●開幕中央
 平坂桃香が駆るXF‐08D雷電が超伝導アクチュエータを発動させ、向かい来る二機の小型HWに対し弾丸よりも速く正面から突っ込んだ。雷電の四連バーニアが焔を吹き上げマッハ6.4へと超加速する。ブーストによる突撃だ。
 二機のHWは赤く輝き速度を増すと、超音速の相手を迎え撃つべく一斉に紅色の閃光を撃ち放った。刹那の交差。雷電は飛来する爆光を急降下しロールしながら次々に掻い潜る。明滅する光の嵐の中で翼が白雲をひっかけ、宙にスパイラルを描く――抜けた。上昇。二機のHWの下方までも抜き、一気に中型へと向かう。速い。
 平坂機の背にワーム達が追撃を入れようと翻るよりも速く、正面に菊池機とオルランド機が展開した。
「アルファ3、まもなく射程に入ります」
 菊池はレティクルにHWを納める。サイトが赤く変わった。ロックオン。
「目標ワームC――3、2、1、Fire!」
 女は裂帛の声と共に操縦桿の発射ボタンを押し込む。EF‐006ワイバーンから百発の怒涛のミサイルが宙へと撃ち放たれた。I‐01「ドゥオーモ」だ。旧来の常識では考えにくい空一面に撃ち放たれたミサイル群は、しかし圧倒的な迫力であり、美しくさえもあった。
「アルファ2、フォックス!」
 ミサイルが飛ぶよりも速く、それを追い抜き、眩い電撃が空間を制圧した。オルランド機から放たれたG放電装置だ。二条の電撃がHWを直撃し、周囲の百のミサイルも次々に爆裂して放電を始める。
 比類ない程の猛烈な電撃の嵐、太陽が一気に数十にも増加したかの如き光の炸裂だ。空が猛烈な勢いで明滅する。電撃を裂いて青のワイバーンは飛んだ。

●右翼開幕
「予定通りに行くぞ。俺が抜けたら小型の始末を頼む」
 右翼では敵の機動を確認した白鐘剣一郎が班メンバーに対してそう告げていた。堅実な指揮だ。安心感がある。作戦通りに事を運べそうだ。
「了解、白鐘隊長」
 みづほが答えて言った。所属する小隊が同じなので普段は単に「隊長」と呼んでいるのだが、今回は編成の問題上ややこしいので苗字をつけて呼ぶ事にしていた。
 白鐘機CD‐016シュテルン、クラリッサ機CD‐016アズリエル、みづほ機R‐01Eイビルアイズ、の右翼班三機は足並みを揃えて飛んだ。二機のCD‐016をトップにR‐01Eがやや後方につく形だ。
「チャーリー3、TargetF、キャンセラー発動」
 距離六百まで詰めたみづほは機首をHWFに合わせ、ロックオンキャンセラーを発動させる。
 互いの距離が詰まる。
 HWが赤く輝いて加速し、三機のKVが真っ直ぐに飛ぶ。二対三、ヘッドオン。
「チャーリー1、フォックス3!」
「チャーリー2、フォックス2!」
「――チャーリー3、フォックス2! フォックス2!」
 白鐘機から凶悪な破壊力を秘めた三条の爆雷が解き放たれ、PRMシステムを全開にしたクラリッサ機から五百発という空前絶後の数のミサイルが飛び出した。噴出するミサイルとその煙が空を壮烈に苛烈に埋め尽くす。みづほ機はラージフレアを噴出すると、爆雷の発射からタイミングを少し遅らせ、二連のAAMを撃ち放った。
 空は天地の終焉の如く激しく明滅し始める。その中を三条の電撃嵐が飛び、二連のAAMが飛び、五百発のミサイルがHWFへと襲いかかった。
 雷撃の本流がHWを呑みこみ、AAMがHWの装甲に喰らいつき突き破り、五百発のミサイルが空を爆熱の色へと変えた。連続する超爆発。爆炎と爆風を背にHWEが飛び出し白鐘機へと猛然とプロトン砲を連射する。視界を埋め尽くすがごとく紅色の光線砲が迫りくる。シュテルンはジェット噴射ノズルを調節すると、空気の層を滑るようにして横に流れた。翼が軋む音と共に風を切り、紅色の閃光を置き去りにする。かわした。抜群の運動性だ。
 電撃が荒れ狂い誘導弾の超爆発が収まった後には、HWFの姿は既に無く、かつてそれであった筈の残骸がバラバラになって大地へと落下していっていた。彼等は文字通り、消し飛ばした。

●左翼開幕
 ヴァシュカ機PM‐J8アンジェリカ、音影機GF‐106ディスタン、不破機ES‐008ウーフーの三機は初手からブースト機動で前進する。超音速で駆ける鋼鉄の翼が空を断裂し音速波を巻き起こして飛ぶ。迎え撃つは中型一機、小型二機の計三機だ。
 ヴァシュカは高度を高めに取りつつ班のトップに立つとターゲットをHWAに定めた。音影は八百ほどの距離から煙幕を撃ち放った。互いに進む両軍の狭間、四百の位置に煙の壁が出現する。煙をスクリーンとして大隊の三機は突っ込む。これは音影、煙中でそれを盾にする意志か。命中は下がるが回避はあがる。
 両軍、二百前進。彼我の距離五百、射程の淵、生と死の境界線。
「‥‥ショーターイムッ♪ いっくよ〜」
 先頭のヴァシュカ機はブーストを継続し加えてスタビライザー、SESエンハンサーも発動させ煙中へと突撃した。同じく煙中、赤く輝く光が三つ見えた。敵も突っ込んで来ている。至近距離。二機の小型から三連の、中型HWから四連のプロトン砲が撃ち放たれる。淡紅の光は嵐となって勿忘草の色のアンジェリカへと襲いかかった。
 ヴァシュカ機は機首を傾け斜め上へと急上昇して回避に移る。一閃の光が風防をかすめ次いでくる光が後方へと流れてゆく。空気が逆巻き、光が流動する音が確かに聞こえた。ロールしながら前へ飛ぶ。天地が横に流れ位置を変えてゆく。四、五、六、七、八、九、十、全弾抜けた。頭上、煙の向こうに霞む大地が見えた。逆さまの世界、前方、赤い巨大な飛行物。至近だ。小型HW。レティクルに捉える。間髪入れずレーザーのトリガーを引き絞る。
――蒼光が爆裂した。
 すれちがい様に嵐の如く放たれた十二連のレーザー砲はHWを消し飛ばした。HWAは大爆発を巻き起こして四散する、撃破。
「八式でいきます」
 音影は煙中に突入しつつ無線の僚機に向かって言った。追撃を頼む、という事だろう。
「ブラヴォー3、フォックス2!」
 二連の螺旋弾頭が撃ち放たれHWBに激突し、その装甲を喰い破る。猛烈な爆裂が巻き起こりその装甲の大半を吹き飛ばした。
「ブラヴォー1了解、エンゲージ、フォックス2!」
 不破はレーダーを頼りに煙中のHWBへと狙いを定めG‐02誘導弾を撃ち放っていた。二連の誘導弾が炸裂し既にぼろぼろになっているHWの装甲をさらに吹き飛ばす。もう一押しといった所か。
 その有様を見ながら不破は頭の片隅で思った。
「攻撃力は、他班に負けますが、その分耐久力はあります。思う存分、電子戦機の力を発揮して下さい」
 ブリーフィング時、音影は不破にそう説明していたが、これで攻撃力低いってそいつぁ一体何の冗談だ、と。
(「‥‥味方で良かった」)
 半年の間に差は凄まじい事になっていたらしい。不破真治は心の底からそう思ったのだった。

●終局へと
 左翼から超音速で飛来した平坂機が稲妻の如く中型HWへと突っ込んだ。迎え撃つ爆光五連撃を鮮やかに突進しながら回避、すれ違い様に翼で掠め斬る。ソードウイングだ。
 鋼鉄の翼は中型ワームへと深々と突き立ち、火花を撒き散らしながらその十数メートルある巨体の装甲を端から端まで削り取る。ワームの合金が木端のごとく散った。やはりマッハで体当たりをかますというこのとんでも兵器は恐ろしいまでの破壊力だ。平坂機は再度翻ると超音速で突き抜けながら滅多切りにする。ソードウイング四連撃。爆裂がワームの巨体のあちこちから起こり始めた。その傷口から茨のごとく巨大な電撃が漏れ、煙を噴き上げ、爆発と共にぐらりと傾く――『まさか』と地上の親バグア兵達は思ったに違いない。
 ゆっくりと、ゆっくりと、それは大地へと落下してゆく。
――音影の言は、あながち嘘でもなかったらしい。
「‥‥こらまた、とんでもねぇ連中が戻ってきたもんだな」
 地上から空を見上げていた村上顕家はそんな事を呟いたのだった。

●その結末
 左翼の一機を菊池機はバレルロールの螺旋の機動で鮮やかにかわし「簡単に当たって墜ちる訳にはいかないの。下ではアッキーも頑張ってるんですもの」オルランド機と連携して撃ち落とした。右翼は翻った白鐘機とクラリッサ機とみづほ機が集中攻撃を行い消し飛ばした。中央の一機は「‥‥んじゃ後任せまし――て落ちてますね中型」やはり同様に翻ったヴァシュカ機と音影機と不破機が火線を集中させ小型を爆散させた。最後に残った一機は逃走にうつったが逃げられる訳もなく、大隊からの集中攻撃を受けて四散したのだった。
「全機の撃墜を確認。お疲れ様だ」白鐘が言った。
「空のお掃除完了ね。さて次のオーダーは? 不破中尉殿」と菊池。
「制空権の維持だな。可能ならば敵の地上部隊へも攻撃をかけてくれ」
「了解した。哨戒に出る」オルランド機は周囲の哨戒へと飛び。
「これなら狙えるかしら?」
 とクラリッサ機はロケット弾ランチャーによる爆撃を敢行した。
 空からの脅威が消え失せ、逆に援護を得た地上部隊は敵軍を圧倒し、瞬く間に橋を制圧していった。
「――中佐ァ! 通信が入っています!」
 地上部隊、新米の下士官が告げた。煙草を咥えた村上が「繋げ」とぶっきらに言うと男の声が漏れてきた。
「お久しぶりです。昔と変わらず見事な采配でした」
 村上は片眉をあげる、ぼへっと煙を一つ吐いた後に言った。
「そいつぁ有難うよ、と言っておこう。その声、覚えてるぜ補佐官。随分と久しぶりだな」
「健在なようで何よりです」
「悪党は簡単にゃくたばらねぇのさ」クッと笑って村上は言った「空の連中に援護感謝する、と伝えておいてくれ」
「了解。では後ほど地上で」
「ああ」
 村上顕家は空を見上げた。そこには九機のKVが雲を引き、南の島の青い空を舞っていたのだった。