タイトル:地の底の闘技場3マスター:望月誠司

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/06/02 23:24

●オープニング本文


 ある者は傭兵仲間から、ある者は治安の悪い酒場の店主から、またある者はその筋の情報屋から、この場所の情報を聞いてやってきた。
 世界の何処かにあるという、キメラと人とを戦わせ、それを賭けの対象とする場所が。それは地の底の闘技場。金と血が、欲望と暴力が荒れ狂う場所だ。
 ある者は金の為、ある者はスリルを求めて、またある者は別の理由から‥‥その場所に集まり、ある者はどちらが勝つかに金を賭け、ある者は武器をとって命を賭け、ある者は食事を取りながらモニターでそれを眺める。
 要するに鉄火場だ。
 メトロニウムで三方を覆われた室内。地面だけは硬い石だ。百メートル四方、高さは五十メートルほどか。鉄血の箱の中、それがリングだ。設置された無数のカメラがその場所の様子を映し出している。
 コロッセオの中、柔軟な肢体を白の衣で包み込み、背に純白の羽を生やした女達が長い髪をたなびかせて舞っていた。手に持っているのは長大な槍、空から素早く飛来しては弧を描いて振るい地上を這う者どもを斬り裂いてゆく。
 斬り裂いた後はすぐに空へと上昇し、反撃を許さない。「天使」と彼女達は呼ばれていた。その飛び回る速度は疾風の如くに速く、降下突撃の速度は落雷すらも思わせる。およそ人間ではない、キメラだ。
 四人の天使達は対戦相手である四人の能力者達をあっという間に肉片に変えてみせた。
「あら、もう終わってしまいましたの。つまらないですわねぇ」
 モニターで様子を見ていた女がグラスに口つけながら言った。天使達は地上に舞い降りると殺した能力者達の死体を爪で切り裂き貪り喰っている。
「ふふ、見た目は美しいですけれども‥‥狼も真っ青の喰いっぷりですわね?」
「外見に惑わされ油断すればあっという間に昇天ですな」ククッと笑って恰幅の良い男が言った。「しかし、まいった、ここまで圧倒的だと賭けが成り立たない」
「空を飛び、身が軽く、速い。飛び道具が無いのだけが救いでしょうけど‥‥一対一では厳しいのではなくて?」
「そうですなぁ‥‥少々人間側の人数を増やしてみますか。次は六人程度で」
「うふふ、今度は愉しませてくれると良いのだけど」
「いやまったく」
 男と女はそう言って笑い、赤い液体の入ったグラスを干したのだった。

●参加者一覧

叢雲(ga2494
25歳・♂・JG
OZ(ga4015
28歳・♂・JG
MAKOTO(ga4693
20歳・♀・AA
不知火真琴(ga7201
24歳・♀・GP
八神零(ga7992
22歳・♂・FT
鈍名 レイジ(ga8428
24歳・♂・AA

●リプレイ本文

 逆巻く熱狂、爆発する歓声、黄金の貨幣が渇いた音を立てて床に落ちる。

――クソの吹き溜まりってのはココの事か? うひゃは!

 ある者は絶望に叫び、ある者は歓喜に拳を突き上げる。

――血の匂いと狂気‥変わらないな‥‥一年前と。

 モニタに映るのは血風、紅蓮の風。

――こいつは少々悪食でしてね?

 薄闇の彼方に男は何を見るのか。

――相手が天使ってのも風情があって良い感じ。

 宙へ弾き飛ばした真実のコインの表と裏。

――天使が人を喰らう‥‥か。

 抱く印象は人それぞれ。

「また来ちまったか‥‥懲りないな、俺も」

 火瞳の男は大剣を背に聳え立つ城塞を仰ぎ見る。
 ここは地の果ての闘技場。野心と欲望に彩られた場所。戦いの場への門が今、音を立てて開かれた。


 命賭けるなんてのはどいつもこいつも大概は馬鹿野郎だ、鈍名 レイジ(ga8428)はそう思う。
(「だがな‥‥ノッたからには覚悟決めて馬鹿になろうぜ。今はこの場のノリが全て、だろ?」)
 己自身に問いかける。答えは「応」だ、怯みはしない。
「血の匂いと狂気‥変わらないな‥‥一年前と」
 八神零(ga7992)がモニタを眺めつつ呟いた。
「‥‥この澱んだ空気、嫌いではありませんね」
 叢雲(ga2494)は微笑しながら言った。
「そう?」
 幼馴染とは対照的に顰め面をしているのは不知火真琴(ga7201)だ。
(「天使が人を喰らう‥‥か」)
 誰が考えたんだか知らないけど、どうにも気は合いそうに無いな、と思う。
「にーさん達から話には聞いてたけど、見世物って意味では同じなのに表の大会とはえらい違いだね〜」
 と言うのはMAKOTO(ga4693)だ。相手が天使ってのも風情があって良い感じ、などと呟いている。抱く感慨は人それぞれの模様。
「クソの吹き溜まりってのはココの事か? うひゃは!」
 控え室の扉が開き一人の男が入って来た。OZ(ga4015)だ。
「‥‥貴方が最後の参加者ですか?」
 控えていた黒服が言った。
「そうだよ。何びびってんだ、タマでも落としたか? ってそもそも最初からついてねぇか!」
 ぎゃははははは! と笑う男。
「‥‥テッメェがぶちこまれてぇか、あ”ぁ”?!」拳銃を抜き放って言う黒服「生きてここから出たければ、言葉遣いには気をつけるんだな」
「おーこわっ!」言いつつ指を一本立て舌を出し蛇の如く笑うOZ「それで黙ってりゃ傭兵業は出来ねんだぇよ早撃ち野郎! F○UK・OFFッ!!」
 黒服が目を細めた。
「まぁまぁ」
 叢雲が微笑んで立ち、言った。
「今日は、宴なのですから」
 黒服はOZと叢雲を見る。
「‥‥チッ!」舌打ちし、銃を収める「開始は四半刻後だ。せいぜい神に祈っておくことだな。もっとも――貴様等の相手はその神の使いな訳だが?」
 ジャハンナムへ逝け、と黒服は言い残して去って行った。
「ひゃは! これからが面白かったのによぉ?」
「時間は有限ですから」
 では作戦を立てましょう、と叢雲はしれっと言う。
「俺が欲しいのは弾除けだ。テキトーに利用させてもらうぜ?」
「御随意に。幾つかの役割さえこなしてくれれば文句はありません――‥‥もっとも、下手を打たれたらその限りではありませんがね?」
「はっ、上等。言ってみろ」
 かくて揃った六人の傭兵達は相談を終えると、刃弾を手に天使が舞うその場所へと向かうのだった。


 奥のゲートが開き、宙を飛ぶ天使達がコロッセオへと入ってくる。それを見て叢雲は黒魔術的な装飾のなされている弓に弾頭矢を番えた。
「先手は頂きます‥‥外しても文句は無しですよ?」
 胴を狙い練力を全開にして猛連射する。
 百メートル程の距離を飛び越えて弾頭矢が次々に飛んだ。天使達は翼をはためかせると旋回し掻い潜る。後方、閉まりゆくゲートの壁に矢が激突し四連の爆発を巻き起こした。爆風と破片が天使達の純白の翼を焦がし傷つける。叢雲は弓を置き十字架銃を背から取りだした。天使達が高く勇壮な咆哮をあげた。完全回避はされなかったが直撃でも無い。疾風の速度は健在に翼をはためかせ迫り来る。
 射程六十、鈍名はSMGを腰溜めに構えた。黒天使の翼を狙いトリガーを引く。激しい反動と共に猛烈な勢いで弾丸が飛ぶ。
 OZ、隠密潜行を使用し身を低く、傭兵達を壁にして天使達の視界を切っている。脇から突撃銃の先端を出すと上空へと向けてフルオートで射撃した。狙いは中央。薙ぎ払うように銀と赤へと弾丸を飛ばす。
 迫りくる弾雨に対し黒天使は錐揉むように回転すると弾かれたように横に旋回する。弾丸が宙を突き抜けてゆく。銀は上昇し、赤は急降下して回避した。速い。OZの姿は既に先の位置から消えている。
 距離五十、MAKOTOもまた中央へとサブマシンガンで弾丸をばらまき、降下し向かってくる赤天使へと攻撃を仕掛ける。重ねられる攻撃に回避運動にも制限がかかって来ているか。弾丸が天使の肩を掠める。だが赤天使は膝よりも低い位置まで降下し這うように超低空で飛び弾丸を潜りぬけて高速で突っ込んでくる。
「あの大猿との戦いからどれだけ強くなれたか知りたいんだ‥‥悪いが付き合って貰うぞ」
 八神は言いつつ左腕一本で小銃を構え狙いをつけている。射程四十、入った。赤天使を狙い秒間十数発の勢いでシエルクラインを解き放つ。不知火もまた右腕を真っ直ぐに伸ばし拳銃「黒猫」を構えていた。赤天使の動きを見据え翼を狙い発砲。五連射。弾丸の嵐が赤天使へと飛んだ。
 低空を矢の如く翔ける赤天使は横にスライドしながら弾幕をかわそうとする。しかし、全てはかわし切れず身を撃たれる。衝撃に動きが鈍った所へ拳銃弾が飛来し翼を撃ち抜いた。赤天使は悲鳴をあげて態勢を崩し地面へと激突して転がってゆく。
 MAKOTOは弾幕を潜り抜け近距離まで迫って来た銀天使へと向かって猛射する。銀天使は急旋回してかわす。追尾するように薙ぎ払う。天使は上下に動いて対抗する。
 金天使が緩やかな上昇から旋空、急降下し叢雲へと稲妻の如く突っ込んでくる。速い。照準が間に合わない。
 叢雲は巨大十字架を回転させて担ぐように掲げた。薙ぎ払われた穂先が十字架表面と激突し火花を散らす。瞬間、叢雲は先手必勝を発動させて割り込んだ。隙を無理やりキャンセルし天使へと向かって踏み込む。槍の間合いを制圧し、女の顔面へと向かって左掌を伸ばす――届くか。天使が首をふる。肩が外れそうな程の衝撃。捕えた。突撃の勢いに叢雲の腕が後方へと引かれ身体が流れ、天使が失速し、お互いの身が激突する。視界が明滅し左腕が鈍い音を立て激痛が走った。激しく地面を転がりながらも叢雲は天使を抑えつけ上を取る。馬乗りになると顔面を掴んだ腕に力を込め天使の頭部を石畳みへと叩きつけた。走る激痛を無視してチェーンソーを仕込んだ手甲を全力稼働させる。
「こいつは少々悪食でしてね?」
 甲高い唸りをあげて刃が天使の形の良い鼻と掴んだ箇所を抉り取る。絶叫と共に骨片と血飛沫が飛んだ。瞬間、脇腹に鋭い痛みが走った。女の爪が叢雲のスーツの繋ぎ目を貫いて、内臓までをぶち抜いていた。腹の中で爪が掻きまわされる。叢雲の喉から鮮血が込み上げ、口から盛大に吐き出された。意識が飛びかける。衝撃の隙に掴んだ腕を払われた。鈍い音と共に骨が割れた。脳髄を焼き切るような痛みと共に左腕が肘から明後日の方向へと折れ曲がる。掴んだ掌が振りほどかれ、凄まじい造作になった女が牙を剥いて吼えた。叢雲もまた牙を剥き咆哮をあげ右手で十字架を回転させると振り下ろす。瞬間、炸薬が爆裂し猛烈な勢いで杭が飛びだした。鋼鉄のステークが天使の顔面もろとも石のリングを爆砕する。必殺の一撃。頭部を亡くした天使の四肢からぐったりと力が抜けた。
 噴き上がる鮮血にまみれながら叢雲は立ち上がろうとしたが、脇腹に入った天使の手首が邪魔で上手く立てなかった。邪魔だな、と思った瞬間、視界が暗転し倒れた。


(「あ‥‥あのアホッ!」)
 彼方に広がっている惨状。私の幼馴染もしかして死んでませんか? という言葉が不知火の脳裏をかすめる。援護の為に咄嗟に構えた銃は結局、撃てなかった。叢雲と天使の距離が近すぎた。
 今すぐ駆け寄りたい所だが、戦闘中だ、隙は見せられない。
 大丈夫、大丈夫、アレは殺してもそう簡単に死ぬようなタマではない。そう、大丈夫、多分、大丈夫、きっと、大丈夫、きっと、多分‥‥!
 嫌な汗が背中から噴き出ているが、それでも立ち上がろうとしている赤天使へと拳銃を構えなおし発砲する。外れた。連射。外れた。弾が切れる。照準狂ってるのかと思いつつリロード。マガジンがすっぽぬけ明後日の方向へと飛んで行った。狂ってるのはきっと手元。赤天使が宙へと跳躍する。飛ぶ気か。
 それを見た八神は無言でシエルクラインを捨てると、左からも太刀を抜き放った。練力を全開にすると二刀を構える。黒焔と紅蓮の輝きを刀身に巻き起こし極限までエネルギーを集中させる。
「悪いな‥悠長にしていられなくなった」
 八神は呟きと共に疾風の如く踏み込むとクロスさせた太刀を振り払う。銃よりもこちらの方が十八番だ。空気が断裂し、逆巻き、音速を超えて衝撃波が巻き起こった。ソニックブーム。
 圧倒的な破壊力を秘めたそれは空間を爆砕しながら唸りをあげて赤天使へと迫り直撃した。ぼろぼろになった天使が後方へと吹き飛んでゆく。しかし、文字通り真っ赤に染まった天使は宙で翼を空打ちすると態勢を立て直す。怒りの咆哮をあげ再度男へと向かい雷光の如く飛ぶ。迎え撃つ八神は烈閃を巻き起こす。空気が無数に断裂した。音速波の結界。天使は掻い潜ろうと翻るも、痛めた羽では回避しきれない。激突。再度吹き飛ばされた赤天使は放物線を描いて落下し、リングに叩きつけられて動かなくなった。
 一方の黒髪の天使は鈍名へと向い、鈍名は叢雲の方を見やりつつ抜き放った大剣にエネルギーを集めていた。鈍名もインタラプトに入ろうとしていたが、やはり密着した所へソニックでは敵味方まとめて吹き飛ばしそうだったので撃てなかった。黒天使が迫る。鈍名の注意は余所へ向いている。が、しかし、敵を前にして完全に意識をやる訳もない。すぐに黒天使へと向き直る。しかし――壱秒にも満たぬ僅かの間だが差が出た。
 コンマ一秒が生と死の境界線。
 眼前に白銀に輝く塊が急激に巨大になり迫り来ていた。刃だ。咄嗟に首を横に振る。唸りを上げて刃が耳の脇を通り抜けてゆく。視界の端を赤い色がかすめた。首の付け根から血飛沫が噴き上がっている。斬られた。一瞬後に痛みよりも灼熱感が走った。
 黒天使は空へと舞い上がり再度急降下突撃を仕掛ける。鈍名、噴き上がる鮮血を無視して敵が構える穂先を見据える。まだやれる。穂先がぶれた。攻撃の予備動作だ。軌道を予測し大剣を掲げる。閃光が走り激突した。火花が散った。甲高い音が鳴り響く。猛烈な衝撃が大剣を持つ腕を貫いていった――が、防いだ。鈍名は雷光の刃をすんでの所で受け流す。
 銀髪の天使はMAKOTOへと向かって急角度で降下、旋回、上昇し竜巻の如く槍を振るう。MAKOTOは迎撃に銃口を向ける。速い。照準が間に合わない。それでもトリガーを引き絞るが、吐きだされた弾丸が撃ち抜いたのは虚空だけだった。
 風の唸る音が聞こえた。
 雷光の如く刃が迫り来て虎耳の女の脇腹からを逆袈裟に斬りあげていった。真っ赤な血が音を立てて噴き出す。衝撃によろめくMAKOTOに対し銀天使は上昇、旋空すると再度攻撃を仕掛ける。閃光が走ると共に肩が断ち割られて女の身から血が噴き出した。真紅の華が咲き乱れる――同時に天使の羽が散り、地に堕ちた。
(「ちっ‥‥居合いの世界だなこりゃ」)
 数秒前、敵の行動を観察しパターンを割り出そうとしていたOZは胸中で舌打ちしていた。刹那で勝負が決まる世界では参考にする為のサンプルが少なすぎる。
 が、しかし少ないなりのそれを勘に頼って判断するなら――
(「獣か、こいつら」)
 殴られたら殴り返しに行き、進路上に他がいればそれを殴る、目についた相手を片っぱしから攻撃する。戦術も何もあったものではない。溜まる憎悪のままに力を振るうのだ。仲間内で連携する気など微塵も感じさせない。
(「高慢な天使どもだ‥‥ま、こっちとしちゃあそっちの方がやりやすいがな!」)
 OZは傭兵達の陰から飛び出すとアサルトライフルを構え前進する。
「速いがこいつらの頭は猿だ! 横から潰せ!!」
 距離を詰めると練力を全開にし、銀天使がMAKOTOへと刃を振り降ろす瞬間を狙って――壱撃離脱だろうがなんだろうが攻撃に入る瞬間は最も当てやすい――目にも止まらぬ速度で発砲する。
 放たれた弾丸は女へ攻撃を当て一瞬動きの遅くなった天使の翼を撃ち抜いた。天使が地に落ち膝をつく。が、天使は咆哮をあげつつも身を捻り様なおも槍で薙ぎ払う。肩や胴から鮮血を溢れさせつつもMAKOTOは猛然と虎の牙を剥き獣の皮膚を発動させ、地を破裂させる勢いで踏みこんだ。槍の柄を銃身でブロックしつつ肉薄、練力を全開にして天使の顔面を蹴り抜く。重い手ごたえと共に赤壁が展開し天使が吹き飛ばされていった。獣突だ。間髪入れず女はサブマシンガンを向けた。
「形勢逆転って奴だね?」
 地へと転がった天使へと向けてフルオートで射撃する。天使は咄嗟に横に転がって避けようとするが、こういう場合翼が邪魔になる。避け切れない。襲い来る弾丸の嵐に天使は赤色のダンスを踊り始める。やがて弾丸をリロードし終えた不知火もまた練力を解放し銀天使へと弾丸を叩き込み始めた。二度と飛びあがらせる事なく――起きあがらせる事なく、集中して葬りさらんとする。
 MAKOTOと不知火から攻撃を受け続けた銀天使は、やがて体重を何割か増やし血の海の中で動かなくなった。
 黒天使。八神から逆巻く風圧が音速を超えて迫ってくる。避けられない。黒天使は錐揉みながらリングに叩き落とされる。
「一撃‥‥もらったぜ!」
 防御を重視した構えから隙を見計らっていた鈍名が疾風の如く踏み込んだ。練力を全開に解放すると、長さ二mの大剣を爆熱の色に輝かせる。渾身の力を込めて振り下ろす。落雷の如く放たれた剣は、地に墜ちた天使の頭蓋を見事に真っ二つに断ち斬った。


 かくて四匹の天使型キメラは葬られ闘技場の勝者は傭兵達となった。叢雲は至急不知火と鈍名によって手当され、一命を取り留めた。特に障害も残らなかったようである。
 彼等が叢雲と自身の手当てを終え一段落した所で、OZは渡された報酬を手に言った。
「なぁ、報酬賭けて二回戦と行こうや?」

――世界の何処かにあるという、キメラと人とを戦わせ、それを賭けの対象とする場所が。それは地の底の闘技場。金と血が、欲望と暴力が荒れ狂う場所。