タイトル:【RoKW】空の英雄達マスター:望月誠司

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 12 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/07/07 15:02

●オープニング本文


 白い鳥が大きく翼を広げ、青い空へと飛び立ってゆく。

――俺もお前も、所詮、地上に漂う塵の一つだ。変わりゃしねぇよ。風が吹けば、飛ばされちまうのさ。

 翼から抜け落ちた羽毛が風に舞った。涼やかなそれが吹き、緑の丘を揺らす。

――数多くの英雄が生まれ、そしてその多くが散っていった。

 太陽の光が眼を刺す。少女は手で光線を遮り、丘の上から彼方を眺めた。通り抜けてゆくハイパーソニック、音速を越えて巻き起こされた爆風が緑の丘をなぎ倒し、青い海を真っ二つに割り、弧を描いて飛翔してゆく。

――戦の時代、空を飛ぶ鋼鉄の鳥の時代。

 空に輝く赤い凶星、青い星に生きる人々の衰勢。いつかこの空を取り戻せますか? 問いかけられた言葉に答える術を少女は持たず。

――志なくば大事は成し遂げられず、力なくば塵芥に同じ!

 きっとそれらも巨大な風の前に立つ塵の一つ。彼は北米の空に消えた。故にこそ彼等もまた不滅の存在ではない。

「風が吹く‥‥」

 どちらに向かって? それはきっと両方。南海に巻き起こる颶風は、きっと多くを消し飛ばす。
 自分は、生き残れるだろうか? 何が出来るだろう? 解らない、きっと出来ることなど、たかが知れている。
 しかし、それでも――それでも、託されてきたものがあり、二つの肩に乗せられているものがある。故に全霊を賭して。
 南米の蝶のはばたきがテキサスでハリケーンを巻き起こすなら、自分達の一矢もまた星を貫く波動となるだろうか。解らない。人には読めない。
 相良裕子は瞳を閉じ、軽く息を吐くと、再び開いた。
 決意。
 なんであろうと、ただ、やるだけだ。


「ブリーフィングを開始する」
 薄暗い部屋の中、巨大なディスプレイの前に鋭い雰囲気の男が言った。空戦においてはカリマンタン島正規軍最強と謳われる大佐、佐々木仁衛だ。
 彼の説明によれば、本部より今回の作戦名はオペレーション・ファイアイーグル『炎の鷲作戦』と命名されたらしい。
「鷲の如く空を覇し、火炎を以って焼き払え、だそうだ」
 言うは易しだな、と佐々木は言う。
「今回の攻撃目標であるバンジャルマシン市は古来より水上都市として栄えて来た都市だ」
 水の上を渡れる戦車などカリマンタン島軍にはない故に、地上よりの侵攻は不利な点が多いと佐々木は言う。おまけにこの水上都市はバグア軍の占領下において大規模な改築がなされ、難攻不落の要害と化していた。同市の堅牢さは島において比類がない。
「そこで我々、空軍の出番となる」
 大地から攻めるのが難しければ空から攻めれば良い。大規模な航空編隊を組み爆撃で以って敵都市の防御を破砕し、火力を黙らせ、地上部隊がその隙に乗り込んで制圧する。
「今回、地上部隊の先鋒として出るのは第五軍団がアジュラム師団隷下第九○四歩兵連隊――村上連隊だ。実績の数値から言えば連中は最精鋭だが、それでもやはり、俺達の援護が上手くいかなければ、どうにもならんだろう。俺達空軍が全体の作戦の成否、ならびに地上友軍の命を握っていると考えてくれて良い」
 故にこそ、失敗は許されない、と佐々木は言う。
「しかし、前回の第二次落雷作戦では我々は敗北を喫した。八十機からの航空師団が僅か六機にまで撃ち減らされた。最終的には、八十九機の航空戦力が連中と交戦し、連中によって八十四機が撃墜された――ゾディアック獅子座、赤竜の‥‥赤竜の亡霊ルウェリン=アプ・ハウェルのファームライドとその旗下の三機のヘルメットワームによって――その四機によって、こちらは八十四機が撃墜された。そして、敵は一機も落ちなかった。最終的に奴等は全機健在で逃げおおせた」
 佐々木は一端言葉を区切ってから続ける。
「数字から考えれば大敗北と言って良い。結局のところ、爆撃は行われず、空からの援護を得られなかった地上部隊は攻撃に失敗した」
 沈黙がブリーフィングルームに満ちた。
「二度があってはならない」
 佐々木は言った。
「二度があってはならない」
 佐々木は繰り返した。
「今回の作戦では、我々は六機の大型爆撃機と共に出撃し、共に地上への爆撃を行い地上部隊を援護する。赤竜の亡霊が迎撃に出てくる事は火を見るよりも明らかだが――前回よりも敵戦力は補充され、さらに強大になっている事は確定的だが――それでも、我々はこれを撃退しなければならない。何故なら、それを行えなければ勝利は無いからだ」
 佐々木仁衛は言った。
「今回の我々の戦力は六の大型爆撃機ならびに二十のKVだ。数は減ったが、個々の質は前回の作戦時よりも格段に向上していると信じる。なお今回はブルーファントムより相良裕子軍曹が作戦に参加する」
 相良裕子といえば、破壊神、彷徨えるポエマー、迷走する核弾頭などの数々の異名と共に名を響かせる破壊力溢れたスナイパーである。眼鏡をかけた小柄な少女は視線を受けると「よろしくお願いします」と一同に向けて頭を下げた。
「諸君ら知っての人類のエースの一人だ。俺とこの相良軍曹で赤竜を抑える――と言いたいところだが‥‥恐らく、赤竜は止められん。あれは空では鬼神に等しい。一人か二人‥‥もしくはもっとか、共に奴と戦い、奴を撃墜してもらいたい」
 佐々木は「では作戦の詳細を詰める」と言ってディスプレイの前に立ちポインタを伸ばした。

●参加者一覧

里見・さやか(ga0153
19歳・♀・ST
霞澄 セラフィエル(ga0495
17歳・♀・JG
聖・真琴(ga1622
19歳・♀・GP
平坂 桃香(ga1831
20歳・♀・PN
霧島 亜夜(ga3511
19歳・♂・FC
金城 エンタ(ga4154
14歳・♂・FC
アンジェリナ・ルヴァン(ga6940
20歳・♀・AA
時枝・悠(ga8810
19歳・♀・AA
鹿嶋 悠(gb1333
24歳・♂・AA
シャーリィ・アッシュ(gb1884
21歳・♀・HD
鷲羽・栗花落(gb4249
21歳・♀・PN
ルノア・アラバスター(gb5133
14歳・♀・JG

●リプレイ本文

 いつだって敵は強い。いつだって負けられない。
(「いつもの事だ」)
 時枝・悠(ga8810)は胸中で呟いた。
 きっと相手が何であれ変わりはない。だから、いつものように全力を尽くそう。
 ハンガーの中の愛機を見上げ呟く。
「行こうかディアブロ。名に違わぬ力を示そう」
 最後の希望の名に相応しい力を。


「ルウェリンはどう動くか?」
 大佐の佐々木の言葉に金城 エンタ(ga4154)は頷く。
「赤竜は元軍人‥‥軍人思考で最善を狙うなら、餅は餅屋に聞くのが最善と思いまして‥‥」
「そうか。護衛および防衛戦闘時のルウェリン隊の戦術思考なら一応、知ってはいる」
 佐々木は言った。
「基本は『守るべき対象を射程内に捉えられる前に殺れ』だな。これが第一だ。接近されてしまったら第二、火力で威圧する『攻撃した瞬間に致命打が飛んでくる』そう思わせて守る。それも無理なら『防衛対象は囮に使う』。攻撃の瞬間の隙を狙い澄まして撃ち抜き、最悪でも一機と一機は引き換えにしようとする」
「‥‥攻撃は最大の防御、という奴ですか?」
「そういった傾向が強いな。故に奇襲を第一とし、守るべき対象よりもやや遠い間合いでの迎撃を好む。だが今回、あちらが守るのは最後の拠点都市だ。頭上をそう簡単にも空に出来んだろう。単純に予測するなら都市のやや北方での激突になるだろうな」
 佐々木はそう述べた。
「故に初手はまず、通常隊をこちらへと寄せつつ、光学迷彩機――FRの奇襲、だろう。自ら敵をひきつける必要がなく、燃料にも特に不安がないとなれば、確実に初手はそれだ。接敵し、こちらの目が見えている敵に向いた瞬間に、仕掛けてくる」
「何処に来ると思いますか?」
 と金城。
「普通に考えれば‥‥爆撃機だな」
 と佐々木。金城は佐々木の様子にひっかかりを感じた。
「何か懸念でも?」
「‥‥むぅ」
 佐々木は唸る。
「思い過ごしかも、という事が勝敗を分ける時もあります」
 金城は言った。
「そうか‥‥ならば言うが、やられると酷く困る手が一つある」
「赤竜はとかく勝つ為に動いてくる男、でしたよね? 話してください」
 佐々木はその内容を金城に説明した。
「‥‥それは彼女には?」
「俺の思い過ごしかもしれんぞ?」
「話しておいた方が良いと思います」
 金城は直感した。
「きっとその手で来る」
 嫌な予想ほど、よく当たる。
「そうか? 軍人的にはあまりないぞ?」
「でも、それはかなり困るのではありませんか? 僕達は人類側の最高クラスの火力をいきなり失う事になる。唯一単独でFRを圧倒しうる武器を失う」
 佐々木は沈黙した。
「腹が立つのは」
 やや経ってから言う。
「それが予測できていても、俺達には防ぐのが難しいという事だ。後方を互いに警戒するにしても、最後尾から順にやられればそれまでだ。それだけあの光学迷彩というのは凶悪無比だ」
「どうしますか?」
「ルウェリンに倣う」
 佐々木はそう言った。

●対策
「FRがそう来た場合、煙幕の使用を要請したい」
 時枝が言った。
「煙幕、ですか」
 鹿嶋 悠(gb1333)が呟く。
「大佐の話だと照明弾だけではあまり意味がないらしい」
 と時枝。鹿嶋は佐々木を見る。佐々木は頷いた。
「照明弾の場合、一瞬だけしか効果はない。併せて煙などに影を映さなければならない。貴方の策に煙幕が必要なのは理解している。だがそこを押してお願いしたい。見えない相手に闇雲にペイント弾を撃っても当たる訳がないからだ」
 鹿嶋は考える。
(「奴は狙い澄ませばコクピットを一撃で撃ち抜く‥‥もし奴の透明状態を暴けず百秒以上も暴れ続けられたら?」)
 見えなければ不意撃ちし放題だ。そしてルウェリン・アプ・ハウェルの不意撃ちは一撃必殺だろう。どんな達人でも予兆無しの背後からの不可視攻撃には、対応しようがない。
(「‥‥全滅する」)
 脳内のシミュレート。文字通りの全滅の風景が見えた。根こそぎ殲滅される。
「頼めないだろうか?」
 佐々木が言った。
「‥‥解りました」
 鹿嶋は苦笑しながら頷いた。
「俺も死にたくはないですからね。照明弾だけでなんとかなる‥‥と思っていたのですが、そうでないのなら仕方がない。では波状攻撃の起点は常にシャーリィのK02としましょう」
「すまん」
 佐々木は頭をさげて言った。
「私の‥‥ですか」
 とシャーリィ・アッシュ(gb1884
「共に空で戦うのは久しぶりですが、頼りにしていますよ、シャーリィ」
 鹿嶋の言葉に金髪の少女は「はい」と微笑んで答えた。
「しかし大佐、もしこの煙幕で外した場合は‥‥」
「三色班の平坂に頼む事になるだろう。だが基本、担当外だからな。あちらを抑えながらとなると厳しいだろう。そもそもに初手以降は何処にいくか、的が絞れん。担当の者達で決められないとなると‥‥様々な意味で後がない」
 佐々木は言った。
「一発勝負だ」


「こんなところでロングボウ仲間に会えるなんて嬉しいなー相良さん、お互い頑張ろうね」
「うん、有難う鷲羽さん。お互い頑張ろう、おー、なんだよ。是非ともにロングボウの破壊力を天下に知らしめるんだよ」
 鷲羽・栗花落(gb4249)と相良・裕子(gz0026)がうんうんと頷いてそんな事を話している。
「もしも今回、速攻で相良が倒れちゃったらアウトレンジはお願いね、なんだよ」
「あはは、またまた」
「皆、静かに。作戦が決定したぞ。大佐に注目」
 佐々木等と作戦の細部を詰めていた霧島 亜夜(ga3511)が言った。
 それを受けて佐々木が一同に作戦を伝える。
 そして、説明を受けた白髪の少年――ブランドンが悪態をついた。
「‥‥要するに鉄砲玉かよクソッタレ!」
「ま、外様勢力の扱いなんてそんなもんだよね」
 と何処か達観した口調で言うのはエルダ。外道大佐! フ○ック! とブランドンは罵り続けている。
「でも佐々木さん、私達はまぁアレだからね。彼女もそれだっていうのなら、文句は言わないさ。でもやっても出来ない事はある。そこは了承してくれよ?」
「解っている。骨は拾おう」
「悪党め」
「それほどでもない」
 それは褒めてないだろう、と多くの者達が思ったが誰もつっこまなかった。
「絶対護る。この勝負服でな」
 沈黙を裂いて霧島 亜夜(ga3511)が力強く言った。
「‥‥服で、何を、どうやって守るってんだ?」
 ブランドンが半眼でつっこんだ。
「気合いが入るだろう?」
 と霧島。隣で不破がうんうんと頷き「おー、なんかかっけーな、それー」と鳥居櫻が言っている。
 白髪の少年が天を仰いで嘆息する。その隣で不破真治が言った。
「意志が行動を呼び、知恵と力が行動の成否を決する。元が強いのは良い事だ」
 と。
「何の為に戦うのか。何を求めて戦うのか。俺達は何の為に生き、何の為に死んでいくのか。それを忘れないで欲しい」
 若き中尉はそう言った。

●黄金の河の島の空で
 太陽が眩しく輝いている。東南アジアの夏の空。空は突き抜ける程に真っ青だった。
 濃青の空を背景に総勢二十機のナイトフォーゲルと六機の大型爆撃機が南へと向かって飛ぶ。一同は爆撃機を中心におき、それを立体的に取り囲む形で飛んだ。「やや大きめの繭でくるむように」編成を提案した金城はそう言っていた。FR対応班は相良機を先頭に三角形の編隊で飛んでいる。
 カリマンタン島南部に入るとレーダー上に光点が次々と出現した。
「Air Warning! Multiple Bandits Inbound! 11 o’clock 10 miles FL 20!」
 即座に里見機から各員に警告が飛ぶ。霧島からも敵機発見の報告が飛んだ。敵編隊はおおよそ、三、五、五、九に分かれていた。恐らくは三色HW、小型HW、小型HW、キメラの群れ、という編成だろう。「交戦を許可する」佐々木機から各機へと無線が入った。編隊の緊張感が高まってゆくのを里見・さやか(ga0153)は感じた。敵味方の距離が高速で詰まってゆく。
 里見は視線を空へと移し走らせた。敵の最大の脅威FR、何処にいる? まだ確認できていない。FRはステルス機である為レーダーには捉えにくい。目視に頼る。見回す、いない。
 刹那、右手の空の彼方、視界の端に何かが見えた気がした。振り返る。何もない。
(「見まちがい? それとも‥‥」)
 解らない。しかし、彼がこの空にいる事は解っている。出てこない筈がないのだ。光学迷彩。きっと姿を消して何処かにいる。
 距離が詰まる。
 彼方の大地にバンジャルマシン市が見えた。陸軍が押し寄せている。
 空、正面方向に十機のHWと九匹の飛竜。右手上空、三機のHWが斜め上から回り込もうとしている。色違いのエース機だ。彼女の主任務は仲間達と共にこれを抑えること。
「その三機は相当な性能と腕らしいな?」
 アンジェリナ(ga6940)が愛機のXF−08Bリレイズを翻らせながら呟いた。聞いた話が確かならば、HWだからとて甘く見れる相手ではなさそうだ。
「はい‥‥前回は太刀打ち出来ませんでしたが、今回は!」
 と里見。操縦桿を握る手にも力が入ろうというものだ。
「リベンジですね」霞澄 セラフィエル(ga0495)の声が無線から聞こえてきた「私も前回は悔いが残る結果でしたので‥‥今回は納得できるように頑張りましょう」
「獅子座の、FRに、三色HW、落とし切る、心積もりで、いきます」
 たどたどしい口調が聞こえた。ルノア・アラバスター(gb5133)だ。
「必ず、成功、させて、皆で、帰って、みせます」
「‥‥はい!」
 里見は返事と共に覚悟を決めると操縦桿を切った。負ける訳には、いかない。


「この作戦‥‥私らに掛かってンだ。コケる訳にゃいかねぇ‥‥! 邪魔モンは片っ端から焼き払え! 行くぞ!」
 聖・真琴(ga1622)が吼えた。互いの距離が詰まり、ブランドン、エルダの両機が先行して飛び出し、K02による射撃を狙うべく平坂 桃香(ga1831)機と鷲羽機がやや前進した。上空より迫る三色HWを迎え撃つべく迎撃班がそちらへと飛ぶ。
 相良裕子は不意に視界が揺らいだのを感じた。計器が火花を散らし、肺の奥から灼熱感が込み上げてくる。
 胸の狭間、撃ち抜かれている。
――何が起こった? とは思わない。FRの狙撃に決まっている。轟音をあげて揺れるコクピットの中、苦痛を無理やり堪え即座に操縦桿を倒す。
 直後アラートがけたたましく鳴り響いた。機体の反応が鈍い、要所を既に破壊されている――?
 何もない筈の空間から嵐のように飛び出した七つの誘導弾は後方から蛇のようにロングボウに喰らいつき大爆発を巻き起こした。
「――獅子座ァッ!!」
 相良機が徹甲焼夷弾に撃ち抜かれ火花を巻き起こした瞬間、斜め後方につけていた鹿嶋は咆哮と共に煙幕銃を撃ち放っていた。狙うべき箇所は解っている。相良機の後方に奴はいる。瞬後、時枝機から閃光弾が放たれ、煙幕が広がると共に空間に光が満ちる。FRの外縁が一瞬浮かび上がり、そしてすぐに消えた。だが煙の中にその影を映していた。すかさず佐々木、鹿嶋、時枝の三機から機銃が猛射される。
 三方から放たれたペイント弾はFRを捉え次々に命中してその姿を暴き出した。一方の相良機は火球に包まれ大爆発を巻き起こしながら墜落してゆく。
「FE13、フォックス2!」
 シャーリィ機からAAMが猛射されFRが高速で翻る。「FR!」爆撃機護衛班、霧島が警告を発し、各機もまたそれぞれ動いている。聖はAFを発動させるとFRを狙い三十二連のロケット弾を撃ち放つ。鳥居機と不破機、そしてルノア機から次々に誘導弾が放たれる。
「ふん、何処かで聞いた声かと思えば、また貴様かローン・レンジャー(騎兵野郎)! くたばったと思ったが、恥ずかしげもなくまた俺の前に立つか!」
 無線からルウェリンの声が聞こえた。FRはツインブーストを点火させ錐揉むように回転しロケット弾とミサイルの嵐を置き去りにする。横手から金城機が迫り、小旋回で背後へと回り込み機銃で攻撃を仕掛ける。
 FRは即座に反応し急降下して加速旋回し振りきった。鹿嶋は雷電を旋回させつつ無線に言う。
「恥ずかしげもなく? 前回戦略的敗北をしたのは何処の誰だったかな?」
「ふっ、はははははは! いちいちトサカに来る野郎だッ!!」FRがスラスターを吹かせ小旋回し向き直る。獅子座はむしろ愉快そうだった「その口先の才は認めてやろうキリギリス! だが今回も貴様はそこまでよ! 冬を待たずしてあの世で歌えッ!」
 真紅の機体と雷電の未来軌道が交差する。ヘッドオンを挑んできた。ルウェリン、一気にケリをつけるつもりらしい。鹿嶋、獅子座の射撃が正確なのは承知している。故に回避に専念し、敵機銃の発射光と同時に回避にうつるべく待ち構える。しかし予想よりも早い段階でそれらがFRから勢い良く発射された。機銃ではなく誘導弾六連発。
「‥‥なにっ!」
 機体を倒し急旋回、同時に迫りくるFRからすれ違いざまに今度こそ嵐のような銃弾が撃ち放たれる。徹甲焼夷弾が一発、コクピットに飛び込んできて風防をぶち抜き鹿島の右肩を貫き後方へと抜けていった。間髪入れずに次々に誘導弾が突き刺さり爆炎が鹿嶋機を呑みこんでゆく。
「ユウ!」
 無線からシャーリィの声が洩れた。
「‥‥っ、大丈夫です!」
 鹿嶋はなんとか意識を保ちつつ声を返す。赤竜の本来は誘導弾をメインに使うのが戦法だとしても、先の射撃はこちらの動きを読み切ったものだった。
(「――狙い撃たれた」)
 前回使ったマニューバを記憶されている。そこは忘れとけ、という箇所に限って覚えているようだった。
 上空を仰ぎ見る。佐々木機と時枝機が猛撃を加えていたがしかし、FRは縦横に動いてことごとくをかわし続けている。
 鹿嶋は鮮血に染まった腕で操縦桿を倒す。機体損傷率六割八分。機体は動く――まだやれるか? 大気にかき乱され急激に温度を下げゆくコクピットの中で男は唸った。


 爆撃機の南では先行するブランドン機とエルダ機が十機のHW目がけて突っ込んでいた。HWが赤く輝く。ブランドンとエルダの両機は攻撃を集中させHWのうち一機を撃墜する。だが残りの九機が数に任せてそのまま抜けて来た。その奥から来る九匹のドラゴンはブランドンとエルダ機に迫り襲いからんと動く。
 鷲羽はA‐1の複合式ミサイル誘導システムを発動させるとガンサイトを動かし次々にHWをロックオンしてゆく。総計五機。
「FE14、フォックス3!」
 マルチロックオンを完了した鷲羽は素早く発射ボタンを押し込んだ。A‐6のミサイルポッドより煙が噴出し小型ミサイル群が轟音と飛びした。総計五〇〇発にもおよぶ誘導弾が宙を埋め尽くすHW群に襲いかかる。HWは赤く輝き加速して回避に移るが避け切れない。ミサイルが蛇のように次々にHWの装甲に喰らいつき爆裂を巻き起こした。壮絶な爆裂の嵐がHW達の装甲を消し飛ばしてゆく。しかし煙を吹き上げながらも爆炎を裂きHW達は突き進む。まだ堕ちない。
「FE7、フォックス3!」
 鷲羽機よりも前進している平坂もまた鷲羽と同様のターゲットをロックオンすると五〇〇発のミサイルを撃ち放った。こちらもK‐02だ。嵐の如きミサイル群は次々とHWに喰らいつき猛爆を巻き起こして薙ぎ倒す。先の攻撃で弱っていた五機のHWが情け容赦なく木端微塵に消し飛んでゆく。
 しかし炎と破片舞う空を切り裂き、それでも仲間達の残骸を乗り越えて四機のHWが前進する。あちらも必死だ。
 平坂は再び四機をロックするとK‐02を猛連射した。彼女のミサイルは千五百発まである。絶望という感情がHWにあったら、きっとそれを覚えたに違いない。空を埋め尽くすほどのミサイルが三度撃ち放たれHW群に襲いかかった。どこぞの書物にある終末の空でも想起させそうな大爆発が連鎖して巻き起こり、真紅の空は残りの四機のHW達を呑みこみ、そして破砕した。九機いた筈のHWが数秒で空から消し飛ばされる。
 一方、爆撃機の右手上空、三色のHWが赤HWを先頭に急降下しながら突っ込んでくる。
「この間は失礼しました」
 霞澄が無線に向かって言った。霞澄は愛機のブーストを発動させ、敵の進路上を遮るように回り込ませると、SESエンハンサー、スタビライザーも発動させ機体能力を全開にする。
「今回は私も出し惜しみをせず全力でお相手致します」
 言葉と同時に空を焼き尽くす程の放電の嵐と誘導弾が飛んだ。赤HWは赤く輝き急旋回して回避せんとする。しかし荒れ狂う爆雷の腕はそれよりも早く空を制圧し赤HWを呑みこみんだ。猛烈な電撃が装甲の大半を爆ぜ飛ばし、AAMEが突き刺さって痛烈なエネルギー爆発を巻き起こす。
「ハッ、厄介なのが生きてやがった――悪いが今日はあんたとはやりあってられないぜ!」
 低い声が無線から返された。赤HWは機首を返すとダメージを受けながらも爆撃機目がけて突っ込んでくる。強引に突破するつもりらしい。
「させるか!」
 それに対しアンジェリナ機が翻った。赤HWの鼻先へ狙いを定めるとバルカンを叩き込む。赤HWはローリングしながら降下し潜り抜けてゆく。アンジェリナ機はブーストを点火すると機首を向け誘導弾を撃ち放った。横合いから撃たれたそれは外れた。アンジェリナは間髪入れずにブーストを点火させマッハ6まで急加速し追いすがる。漆黒のミカガミに備えられたソードウイングが雲と光の粒子を引き、一閃の光と化して突っ込む。唸りをあげて迫る刃に対し赤HWはしかし、僅かに機体をスライドさせるとすり抜けるようにかわした。
「インターセプトを!」
 赤と同時に緑と青のHWも突っ込んで来ている。里見は叫ぶと愛機を上昇させ緑HW目がけて8.8cm高分子レーザーライフルを撃ち放った。蒼の光がHWへと伸び、HWは前進しながら宙を滑るようにしてかわす。その瞬間、雷前機からAAMが解き放たれ緑HWへと矢の如く飛んだ。しかし緑HWは急降下して次々に回避してゆく。青HWに対してゼナイド機はジャミングを展開しながらAAMを撃ち放っているがこちらもHWは突進しながらあっさりと回避し突き抜けてくる。
「このっ‥‥!」
 聖はディアブロの機首を返させると二班に別れた爆撃機編隊の背後より迫り来る赤HWをガンサイトに納める。AFを発動させスラスターライフルで嵐の如く銃弾をまき散らす。赤HWは初めスライドでかわそうとする様子を見せたが、かわしきれずに呑みこまれ、連射の前に猛烈な勢いで装甲を削られてゆく。赤HWは急旋回に移り、弾幕の嵐の中から脱出した。
 緑HWに対し鳥居、不破の両機から誘導弾が撃ち放たれる。HWは加速して抜けた。金城機が驚異的な行動性で斜め上方より割り込み緑HWの背後を取る。ガンサイトにHWの背をおさめるとバルカンで猛撃した。嵐の如く放たれる徹甲弾に緑HWの装甲が勢いよく削られてゆく、しかし旋回しない、そのまま無理やりにでも攻撃に移る気配だ。
 青HWに対しては鷲羽機が機体能力を発動させ、遠距離から多目的誘導弾を猛射していた。煙を噴出し音速を超えてミサイルが青HWに突き刺さり大爆発を巻き起こす。青HWは装甲を失いながらも爆炎を裂いて飛びだす。
「そう、簡単に、通したり、しない!」
 爆炎にかぶせるようにルノア機が躍り出た。軌道を読んでいる。黙ってはいかせない。素早くロックしAAMを猛射する。解き放たれたミサイルは次々に青HWの眼前へと飛来し、突き刺さり爆裂を巻き起こしてゆく。しかし青HWはその爆裂さえも突き破って飛んだ。
 焔を裂き、ついに爆撃機の後背につけた緑と青HWの砲門が紅色に輝いた。プロトン砲だ。爆裂する閃光がそれぞれが狙う爆撃機へと一直線に伸びる。霧島機がピンポイントフィールドを展開し横合いから射線上に躍り出んとする。光速で飛来する閃光は霧島機の頭上を抜け、背後で飛ぶ爆撃機へと突き刺さった。空戦でのそれはナイフの刃で飛んでくる弾丸を受け止めようとするよりも難しい。相手が意図的に狙ってくれない限り、盾にはなりえない。爆撃機が二機、焔をふきあげ爆裂を巻き起こしながら墜落してゆく。
「――くそっ!」
 霧島はブーストを発動させると旋回し緑HWへと目がけて爆雷を解き放った。HWは急旋回に移ったが、電撃は素早くHWを呑みこみ、その装甲を焼いてゆく。
 一方で、FRは佐々木機を狙って機動していた。六連の誘導弾が焔を吹き上げて飛び、次々にフェニックスに命中して大爆発を巻き起こす。そのFRのさらに背後から二五十発のホーミングミサイルが襲いかかっていた。シャーリィのK‐02だ。ツインブーストを吹かしたFRは爆撃機編隊の中に飛び込む。護衛班メンバーは突撃してきた三色HWを抑えようと射撃している頃だ。手が回らない。K‐02の爆裂が爆撃機を巻き込んでゆく。
「賢しい真似を――ッ!」
 鹿嶋はそれでも波状攻撃を仕掛けるべく、アクチュエータを発動させて横合いから回り込みスラスターライフルで弾幕射を仕掛ける。直角からの攻撃に対し、FRはそのまま前方へ加速して抜けた。
(「ここだ!」)
 時枝はルウェリンの回避機動を予測するとブーストとパニッシュメントフォースを発動させGPSh‐30mm重機関砲で猛攻をかけた。一二〇〇発の弾丸がまさしく嵐の如く放たれ、FRの後背へと伸びる。千を超える弾丸が展開するフォースフィールドをぶち破り真紅の装甲を削り取る。
「うわはははははは! 俺様の動きを読むかッ! 少しはやるようだなッ!!」
 FRが翻り、無線からけたたましい声が流れてきた。
「ルウェリン・アプ・ハウェル! 我はシャーリィ・アッシュ。赤竜の民の騎士だっ!」
 シャーリィは無線に向かって言った。再度K‐02を撃ちたいところだが、これだけ密集していると例のミサイルは味方に当たる。
「貴様は彼の王と我等赤竜の民の末裔の名を穢した。その所業、許すわけにはいかんっ! 貴様は狂気に負けて堕ちた。その瞬間から人ではなくなった‥‥そのような者がこの星の王を名乗るなど笑止!」
「‥‥彼の王? 熊将軍か竜頭かグリフィズの息子か知らんが狂気、とな?」
 訝しむような声が返ってきた。FRは佐々木機の後背へと捻り込み、時枝機と鹿嶋機がそのFRの背を目がけて猛射する。FRの猛撃が佐々木機を撃墜し、時枝機と鹿嶋機のAAMがFRに命中し爆炎に包み込んだ。会話に気を取られているのか、多少動きが鈍っている。
「ち‥‥っ! おいレッドドラゴン! お前の言うことは一体なんだ? 俺に対してさぐりでも入れているのか? さぐりを入れているなら拙いな! 本気で言ってるなら貴様がドラゴンハート達に謝ってこい! あの世でなッ!!」
 FRの赤い輝きが一際強くなりアフターバーナーが焔を吹いた。


 先に残りのK‐02を五匹の飛竜へと叩き込んで撃墜し、発射機をパージした平坂機はブーストを発動させて北方へと切り返していた。
 横合いから青HWへと超音速で接近するとソードウイングで突撃をかける。青HWは急降下して加速し、一撃をかわした。平坂機がアクチュエータを発動させて翻る。聖機はブーストを吹かせて機体を横滑りさせると小旋回から青HWの背後へと機体をねじり込む。リロードしつつスラスターライフルを猛射した。青HWは急上昇して回避に移る。再び超音速で飛来した平坂機の翼がそれを捉えた。剣翼の切っ先が青HWの装甲に入り、深く削りながら、断ち切りながら後から前へと抜けてゆく。五回ヒット。雷電が通り抜けた後にHWの傷口から電撃が漏れ、そして大爆発が巻き起こった。青HWが破砕されて墜落してゆく。
「な‥‥にィっ?!」
 赤HWの男の動揺の声が無線から洩れた。
「無理を押し過ぎましたね」
 一瞬の空白を突いて赤HWの背後にアンジェリカが滑り込んだ。霞澄機だ。霞澄は間髪入れずに全機体能力を発動させ雷撃とAAMEを撃ち放つ。赤HWが赤く輝き超加速する――雷撃の方が速い。猛烈な破壊力を秘めた光が赤HWを呑みこみ、エネルギー爆発がその装甲を消し飛ばしてゆく。赤HWは光の中で爆裂を巻き起こすと煙を吹き上げながら大地へと落ちてゆく。
「バ―な‥‥俺―が堕―る――な」
 雑音まじりの無線はやがて消えた。緑HWは金城がバルカンで猛撃を加え、蜂の巣にしてゆく。さらに霧島、鷲羽、ルノア機からの攻撃が飛び、緑HWは荒れ狂う電撃嵐の中で爆発、四散した。四匹の飛竜はブランドンとエルダ機がレーザーガトリングで蜂の巣にして撃ち落とした。
 バンジャルマシンまで後わずか、残るはFR獅子座ただ一機。そのFRはアフターバーナーを吹かせると爆撃機目がけて加速した。
 不破機が鳥居機と共にAAMを猛射する。FRはトップスピードに乗るとAAMをかわし爆撃機への距離を詰めAAMを猛射する。誘導弾が直撃し爆撃機が火球に包まれ落ちていった。
 FR対応班がその背へと追いすがる。シャーリィ機、鹿嶋機、時枝機からもAAMが一発づつ飛ぶ。FRは斜め上へと上昇して誘導弾を振り切ると再度攻撃をかけるべく機体を捻って向き直る。
 平坂機がアクチュエータを発動させブーストして加速し、放たれた矢の如くに翼を閃かせ突撃する。ルウェリン機はロールすると急降下して回避行動に移る。刃の端がFRをかすめ、その表面装甲を削ったがFRは止まらず、そのまま抜けて来る。
「ここは通さないぜ!」
 霧島機から荒れ狂う三連の電撃が撃ち放たれ、霞澄機からは二連の雷撃とAAMEが放たれ、里見機からアハトアハトが発射され、聖はリロードしつつ九〇発のライフル弾を発射し、鳥居、不破、アンジェリナ、雷前、ゼナイド、鷲羽、鹿嶋、時枝、ルノア、シャーリィ機から合計二十八発の誘導弾が飛んだ。
 ファームライドは真紅に輝くと無造作にそれに突っ込んだ。捨て身か、と多くの者が思ったが猛烈な電撃と弾幕と爆炎の中でルウェリン機のFFは常よりも更に赤く激しく明滅し、それをことごとく弾き飛ばした。
「無駄無駄無駄無駄ァッ!!」
 焔を突き破りほぼノーダメージで出現したFRは、途中の金城機からの機銃猛撃も受けるに任せ、爆撃機に突進するとすれちがいざまに機銃を猛射した。たちまちのうちに爆裂を巻き起こして爆撃機が爆散してゆく。
「うわははははははははっ! 貴様等がいくら束になろうとも、俺様を止める事など出来ぬわッ!!」
 無線からけたたましい哄笑が響き渡る。
「――はったりだッ!」
 不破真治の怒号にも似たそれが無線から響き渡った。
「万物必滅、力尽きぬものなど何も無いッ! 千載一遇の好機だ! 叩き潰せッ!!」
 平坂桃香はどちらの言葉も皆まで聞く前に超音速で突っ込んでいた。口数が多くなるのって互いに苦しい時ですよね、などと少し思う。恐らくルウェリンは燃料が切れかけており、こちらは爆撃機が後一機、お互いに後がない。アクチュエータを乗せたマッハ六からの翼撃はFRを上空から捉えると真芯から叩き斬った。真紅の装甲が深々と抉り取られてゆく。手応えあり。やはりFRの動きが鈍っている。
 シャーリィ機から最後のK‐02二五〇発のミサイルが撃ち放たれた。それに合わせブランドン機、エルダ機、霧島機から電撃が飛び、霞澄機からはAAMEが、里見機からはレーザーが、聖機、金城機、鹿嶋機、時枝機、ルノア機、鳥居機、不破機、ゼナイド機からは銃弾とライフル弾が、鷲羽機からは集積砲が、雷前機からはAAMが一斉に撃ち放たれる。
「ハッ‥‥よかろう! 俺の焔を消し飛ばせるかどうか! やってみろ! 最後の希望どもッ!!」
 ルウェリン機はアフターバーナーを全開に吹かせるとそれに真っ正面から突っ込んだ。真紅の機体は二五〇発のミサイルを加速しながらことごとく掻い潜ると、ブランドン機から放たれた雷撃をスライドしてかわし、エルダ機からのそれもかわし、霧島機の雷撃が一条がかすめ、霞澄機のAAMEを二発を受け、里見機のアハトを装甲で受けるにまかせ、聖、鹿嶋、時枝、ルノア、鳥居、不破、ゼナイド機から放たれる弾幕に対し急旋回してかわす、否、かわしきれずに装甲の何割かが削り取られてゆく。装甲の割れ目から電流を洩らし煙を吹き、錐揉むように回転しながら鷲羽機からの集積砲をかわし、雷前機からのAAMを置き去りにする。
 FRは全ての攻撃を抜け――そして、そのままKV達の間を突き抜け、後方の空へと抜けて行った。
 攻撃を抜けた時、FRの位置は爆撃機からは大分離れた位置であった。それが、勝敗を決した。最後の攻撃には、移れなかった。
 FRはそのまま、火花を散らしながら、それでもツインブーストを吹かせて、北の空へと飛び去って行った。

 バンジャルマシン市上空へと辿り着いた大隊は一機の爆撃機とフレア弾を積んだ聖機、鷲羽機によって爆撃を仕掛けた。また聖機はロケット弾ランチャーで対地攻撃も慣行した。
 対地の全弾の投下を完了すると「友軍の援護に感謝する」との言葉が地上から返ってきた。
(「地上の皆‥‥生きて帰ってきて‥‥」)
 聖真琴は胸中で祈った。
 しかし、結局のところ、地上陸軍からは多大な損害が発生した。
 だが勝敗を決する分だけには足りていた。
 地上軍は紙一重の攻防の末についに親バグア軍を撃ち破り、カリマンタン島の最後のバグア軍の拠点を陥落せしめた。
 UPC軍があげる歓声は天地を覆い、地平の果てまで響いたという。


 かくて二〇〇九年七月、〇八年六月より続いたカリマンタン島の大戦は――俗に【Record of Kalimantan War】と記録されるその戦いは、UPC軍の勝利で以って、終結する事となる。


■佐々木大隊被害報告
●死亡
 佐々木仁衛少将
 ジャン・ジャック=ボールガード少将(Gリーダー)
 アルヴィン=シッパー中佐(G6)

●重症
 マクスウェル=スノー少佐(G4) 
 デュアン=メルヴィン大尉(G7)
 エステル=ジーン大尉(G9)
 相良裕子軍曹