タイトル:【SV】すいか漂う珊瑚島マスター:桃谷 かな

シナリオ形態: イベント
難易度: 易しい
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/09/11 06:59

●オープニング本文


『Vacation』
 南半球だったら冬真っ盛りのこの時期であるが、太平洋上を運行する人工島ラスト・ホープには四季らしい四季がないが、地球の人の住める陸地の大半が北半球に存在する為か、この時期に相応しい長期休暇と言うと夏休みと言う言葉かも知れない。

「夏休みと言えばリゾートですよね」
「海水浴かなぁ‥‥花火大会もいいですよね」
「‥‥夏休みと言えば、実家で墓参りだ」
「田舎で食った井戸で冷やしたトマトは最高だった」
「ウチの田舎は、町内会で肝試しとかありましたねぇ」
「夏休みと言えば自由研究を思い出す」
「今年こそはショッピング三昧に100万Cの夜景でディナーよ」
「クルージングも楽しいですよ♪」

 夏休みと言う言葉に連想されるイメージは様々である。

 そんな夏の1日。
 あなたは何を体験するのだろう。


    ◆◇
 この時期、タイ南部のとあるビーチリゾートは、雨季ということもあり、比較的空いていた。
 とはいっても熱帯雨林気候のこの地域では、やや波が高くなる以外には時折スコールが降り注ぐ程度で、海遊びができないわけではない。
 この夏、キメラ研究者である琳 思花(gz0087)から、ラスト・ホープへと届けられた依頼は、このビーチリゾートからクルーザーで10分程度の位置にある、『珊瑚で有名な島』へ行く、というものであった。
 その内容とは―――

 『珊瑚の島でスイカ狩り☆シュノーケリングツアー』


    ◆◇
 と、いうわけで、ツアーに参加した傭兵たちは、エメラルド色の波を掻き分け、浅瀬を激走するスイカ頭の海パンキメラを追いかけ回していた。
『◎☆▲□○ーーー!!!』
「待てーー! このスイカ頭ーー!!」
 理解不能な悲鳴をあげて走り回るこのキメラの名前は、『すいかん』。
 この夏、各地の浜辺に姿を現しては、海水浴客や海の家に被害を与えている新型キメラである。
 一週間ほど前にこの島に現れたすいかんは、マリンスポーツが盛んなこの島で、シューノーケルの口を手で塞ぐわ、バナナボートのロープを切るわ、お客様用シーフードビュッフェを食い荒らすわ、やりたい放題に暴れていた。
 そこで目を付けたのが、新種キメラに研究意欲旺盛な、思花の研究所である。
 ぜひとも、この夏の風物詩キメラを捕獲し、隅から隅まで舐め回すように検証したいという研究所の意向により、今回のすいかん捕獲ツアーが企画されたのだ。
「きゃー! みんなー、適当にがんばってー!」
『△●☆◎‥‥』
 浜辺で無責任な歓声を上げている思花の同僚研究員、シンシア・バーレン(29歳・独身)の足元の檻の中では、既に捕獲されてロープでグルグル巻きにされたすいかん(スク水にお下げの女性体)が、めそめそと何か呟いている。
「これで終わりだァァァーーーッ!!!」
『●△☆ーーーーッ!!』
 傭兵の一人が振り下ろした武器が、うっかり、逃げるすいかんの頭部に命中した。
「わっ‥‥!?」
 見事に頭をカチ割られ、波間に広がる赤いどろどろ(スイカ)。
 体だけになったすいかんが、惰性で数メートル浅瀬を進み、ぼうっと見物していた思花に正面から激突する。
「‥‥キモイ」
 だらり、と垂れ下がるすいかんの体を引き剥がし、ちょっとスイカ味の海中に座り込む思花。
 前方の浅瀬では、南国に来て何やら上機嫌のシンシアが、高らかに作戦終了を宣言していた。
「はーい、傭兵のみんな、お疲れ様ー! まあ、すいかん一匹死んじゃったけど、一匹捕まえたから大丈夫! 捕獲作戦しゅーりょー!」
 シンシアの明るい声の陰で、浜辺で泣いていた雌すいかんが、白衣を着た見るからにマッドそうな方々に連れ去られていく。
「じゃーあとは、待ちに待った自由時間ねっ」
「‥‥そこの海の家で色々借りられるから‥‥必要な人は、どうぞ」
 ハイテンションなシンシアとは対照的に、スイカ色の海水を滴らせ、座ったままで浜辺を指し示す思花。

 すいかんに荒らされたビーチは、キメラをも恐れぬアツい男・ビーチボーイズを除き、他に客もいない貸し切り状態であった。
 碧く澄み渡る海に色とりどりの熱帯魚が泳ぎ回り、浜辺ではバナナボートがお出迎え。
 傭兵たちは、大はしゃぎで浜へと散って行く。

「じゃっ、あたしはそこの海の家に用事があるんでぇ、思花、迎えの船か来るまで、テキトーに遊んでてねっ!」
「え‥‥ちょっと‥‥」
 傭兵の引率を華麗に放棄し、三十路前のシンシアは、海の家のビーチボーイ目掛けてまっしぐらに走って行ってしまった。
 残された思花は、海に浮かぶすいかんの残骸を横目に、むぅ、と膨れて肩まで水に浸かる。
「‥‥スイカくさい‥‥」

 青臭いにおいと赤いどろどろが、南国の海を夏色に染めていた。


※ビーチボーイ:海の家の従業員のマッチョなおにいさん達の呼称。真っ黒に日焼けしたアツい男のこと。

●参加者一覧

/ 藤田あやこ(ga0204) / ナレイン・フェルド(ga0506) / 鳥飼夕貴(ga4123) / UNKNOWN(ga4276) / 神森 静(ga5165) / ラウル・カミーユ(ga7242) / 狭間 久志(ga9021) / ジェイ・ガーランド(ga9899) / 赤宮 リア(ga9958) / 烏谷・小町(gb0765

●リプレイ本文

「シンシアさん必死だな」
 波を掻き分け、ビーチボーイズの待つ海の家へと爆走していくシンシアの背中を眺めつつ、藤田あやこ(ga0204)は、やや呆れたような口調でそう呟いた。
「うん‥‥今月、誕生日なんだ‥‥」
「必死にもなるか‥‥」
 スイカ色の海の中から聞こえた琳 思花(gz0087)の言葉に、とても納得したご様子の藤田なのであった。
 彼女は、すぐ後ろに立っていた鳥飼夕貴(ga4123)を勢い良く振り返り、唐突に宣言する。
「私、この戦争が終わったら結婚するんだ」
「‥‥壮大な夢だよね。がんばって」
「婚活には見合い写真よね! 今日はそのために来ました」
 シンシアと同じく現在相手募集中な藤田は、燃えに燃えて空を見上げ、最高の撮影スポットを探しに浜辺を目指す。夕貴は、しばらくの間、その後ろ姿を眺めていた。南国は人を情熱的にするものだなぁ、などと思いながら。
「‥‥‥‥」
 一方、波間に浮かぶ首なしすいかんを見つめ、思花は、色んな事に想いを巡らせていた。

 例えば、向こう一ケ月の残業を、全てシンシアに押し付けるとか。
 もしくは、バースデーケーキに『何か』混ぜるとか。

「――やれやれ、大丈夫かね? レディ」
「‥‥UNKNOWN」
 黒い考えに完全支配されつつあった思花に手を差し伸べたのは、この暑いのに立襟カフスシャツ&紅タイ&黒ベストでダンディーにキメたUNKNOWN(ga4276)だった。
 帽子に皮手袋も完全装備だが、ダンディーな人は汗などかかないらしい。さすがにスラックスは濡れないように折ってある。
「災難だった、な。海の家にシャワーがある。着替えたらどうかね?」
「そうだね。そうする‥‥あなたも着替えた方が‥‥」
 UNKNOWNに助け起こされ、思花は、濡れて体に纏わり付くワンピースから、スイカの破片を少し落とした。
「ところで今回は、約束を果たしに来たのだが、ね」
「‥‥約、束?」
 彼の発した不審なワードに、思花は、心当たりなく眉を顰める。
 そういえば、少し前に深夜のラスト・ホープあたりで、何かそういう会話を交わしたような記憶もあるのだが。
 そこへ、赤宮 リア(ga9958)、ジェイ・ガーランド(ga9899)、烏谷・小町(gb0765)の三人が水着に着替え、海の家で借りたバケツを手に駆け戻ってきた。
「青い空白い雲、といえば夏の海の定番で御座いますね‥‥まあ、海は今ちょっと、キメラまみれで御座いますが」
 ジェイの着ているライトグリーン基調の水着も、ハーフパンツな丈のおかげで、裾のあたりのスイカ侵食が激しい。
「うぇっぷ‥‥当分スイカは食べられませんねぇ‥‥」
 目の細かい網でスイカ成分をすくい取りながら、海に漂う白い水死体を微妙に避けるリア。こちらは、お気に入りの赤色ビキニ着用のため、スイカに染まったところで、見た目にはそれほどわからない。
「思ー花ー! このすいかんの死体は、どーしたらええん?」
「あ‥‥ごめん。私がやるよ? 遊んでていいのに‥‥」
 小町の声に、思花は、『約束』の件は一旦忘れて三人のほうへと駆け寄った。
「流石にこの状況のまま遊んでいられるほど、良い根性はしておりませんから」
「みんなでやった方が早く終わるやん。で、どーする? この死体ー」
 脱力してダラリと垂れ下がる海パンキメラの体を持ち上げ、ジェイと小町が、苦笑いのまま尋ねる。確かに、水死体の浮かぶ海で遊ぶのは、色んな意味で非常に気を遣うことだろう。
「あのへんの‥‥砂浜に放置でいいよ。そのうち回収されるから‥‥」
「あの‥‥女の子すいかんを連れて行った方たちですよね‥‥」
 連れ去られる雌すいかんの悲痛な叫びが忘れられないリアが、やや同情したような声を漏らし、白衣のマッドな方々が出現した方向へと視線を走らせた。残念ながら、そこには『藤田あやこ官能見合写真集』を撮影中の藤田がいるだけで、雌すいかんの姿などどこにも見えなかったのだが。
「では、私が運びましょう。水死体は、重いですからね」
「‥‥うん、ありがとう」
 小町にすいかんを離させ、ちょっと気持ち悪いが、それを肩に担ぎ上げてそう言ったジェイに対し、思花は、素直に礼を述べた。本当に、嫌だったのだ。触るのが。
「思花サン、大丈夫? 髪とか、すごいスイカまみれだケド」
 そこへやってきたラウル・カミーユ(ga7242)が、スイカ成分が早くも乾いて固まりつつある思花の髪を見て、パッと彼女の手を取って浜の方へとぐいぐい引っ張った。
 いくらなんでもいすぎだろ、と突っ込みたくなるぐらいウジャウジャ泳いでいる魚と波の合間を、けっこうなスピードで進む彼に、思花は、何回か転びそうになりつつ付いて行く。
「ラウル‥‥私、一人で歩ける‥‥」
 と、言い掛けた時、急にラウルが振り返り、悪戯を思い付いた時の子どものような顔で、笑った。
「息止めてネ♪」
「え――!?」
 トン、と肩を押されて、思花の体が浮いた。
「お? っと、わ‥‥っ!!」
 ラウルの誤算としては、踏み止まろうとした思花が、彼の腕を掴んだことと、それを支え切れなかったことであろうか。
 激しく水飛沫を上げて倒れた二人は、当然息なんて止めておらず、海の中に座り込んだまま、ゲホゲホと咳き込む結果となってしまったのだった。
「もう‥‥何するの? 鼻痛い‥‥」
「ごめーん。ケド、スイカ落ちたよネ!」
 髪からポタポタと雫を滴らせながら、ラウルは立ち上がり、ニコニコと笑いながら、思花に向けて手を差し伸べる。
 ――ところが。
「思花ーー! 何遊んでんねーん!!」
 凄い勢いで突進してきた小町によって、思花は再び、魚だらけの海中へと突っ込んだ。
「うらー! 今日は入っとるんか確認やーーっ!」
「こ、小町‥‥! 入ってない。入ってないからっ!」
 具体的に普段『何が』入っているかは言わないが、小町は、水中でジタバタもがく思花に背後から覆い被さり、なんとなくいつもよりコンパクトな彼女の胸元を、確認と称してゴソゴソと触りまくる。
「あら、水遊びかしら? 仲がいいのね?」
 そこへ、丁度通りかかった神森 静(ga5165)が、とても微笑ましいものを見る目で三人を眺めながら、ふふふ、と微笑って声を掛けた。燦々と降り注ぐ陽光の下、黒のパレオ付きビキニが悩ましい。
「水遊びと申しますか、いつもの遊びで御座いますが‥‥」
 繰り広げられるいつものバスト狩りを前に、やや嘆息混じりの声を上げて額に手を当てるジェイ。その隣には、ちょっと後退して両腕で胸を隠し、襲撃を警戒しているリアの姿があった。
「楽しそうね? 私も、リゾ−トで、南の島は、初めてかもしれないわ。楽しまなくちゃ、損よね?」
 台詞の最後の方は、半ば独り言のようであったが、静は、大騒ぎの一同を横目にそう言うと、シュノーケリング道具と食パンの袋を手に、珊瑚の美しい沖の方へと歩いて行ってしまった。
「神森さん‥‥大人の魅力ですね――ぷぁっ!?」
 ゆったりと優雅に歩いて行く静を見送りつつ呟いていたその時、リアの顔面に、いきなり大量の海水が直撃する。
 驚いて振り返ると、一体どこからそんな素敵武器を手に入れたのか、巨大ウォーターガンを手にしたラウル立っていた。
「命中ー♪ 油断しちゃダメだヨ?」
「らら、ラウルさんっ! どこから出したんですかっ!?」
「このヒト」
 ラウルが指差した先にあったのは、いつのまに登場したのか、真っ黒に焼けたマッチョな夏男・ビーチボーイの黒光りボディ。彼は、白い歯を輝かせて笑うと、大量のウォーターガンを入れたカゴを手に、ビビるリアとジェイのほうへと歩み寄ってきた。
「HAHAHA! 彼だけじゃフェアじゃないZE☆ さあ、武器を取るんだベイビー♪」
「では遠慮なく。狙撃なら負けませんよ、ラウル君」
「ゎ、わたくしだって! 銃は使いませんが、水鉄砲くらい!」
 テンションが異様に夏しちゃってるビーチボーイが少し気になるが、ジェイとリアは、各々ウォーターガンを手に取り、物凄い命中率でラウルに反撃を開始する。
「ウチもーーっ‥‥って、思いっきりスナイパー有利やないかぁー!」
「大丈夫‥‥私も小町と似たようなものだから」
 海中から起き上がり、水色ホルターネックビキニの胸元を揺らしてぶーぶー言っている小町の肩を叩き、そっと特大ウォーターガンを手渡す思花。
「HAHAHA! キメラの残骸は預かろう。楽しむんだZE☆」
 男前な台詞を残し、三つのバケツと水死体を担いで浜へと戻って行くビーチボーイを尻目に、彼らの銃撃戦は、その後一時間以上も続いたのであった――。


    ◆◇
 澄んだエメラルドグリーンの海の底には、色とりどりの珊瑚が輝いている。
 太陽の光が屈折して海底を照らし、岩陰に隠れた大魚が時折、おっかなびっくり顔を覗かせる。
(「すごい綺麗だわ。魚が沢山いるわね?」)
 群れを成し、目の前をスイスイ泳いで行く熱帯魚たちを目で追いながら、静は、一応貸し出されたライフジャケットの浮力に身を任せ、うっとりと海の中を眺めていた。
(「でも、大丈夫かしら? 日差し、結構強いわね?」)
 日焼け止めは塗っておいたのだが、南国の日差しはジリジリと熱い。白い腕や脚を極力水の中に沈めて冷ましつつ、静は、シュノーケルを通して嘆息する。
(「あら、可愛い。餌撒くと、凄い寄ってくるわ」)
 大軍にたかられるのを避け、海面から少し遠くにパンを投げると、すっかり餌付けされた魚たちが、我先にと殺到して水飛沫をあげた。
「神森さーん」
 手に持った食パンを投げては魚たちの反応を楽しんでいた静は、不意に聞こえた自分を呼ぶ声に、浜の方を顧みる。
 よく見れば、上手いことパレオで誤魔化して女の子ビキニに身を包んだ夕貴が、こちらに向けて手を振っていた。
「そろそろお昼にしないー? 時間なくなるよー!」
「あら、もうそんな時間?」
 夕貴に言われて、初めて気付く静。海では時計を外しているので、すっかり遊びすぎてしまったようである。
「そうね。そろそろ、上がろうかしら?」
 静はそう呟くと、残った食パンを一気に海へと流して、大パニックを起こして集まってくる魚たちを眺めながら、ゆっくりと浜へ引き返して行った。


「あ‥‥UNKNOWNーーーっっ!!!」
 恐らく誰も聞いたことがない思花の怒鳴り声がビーチに響き渡ったのは、皆が海から上がり、シーフードビュッフェ前に集まった時のことであった。
「どうしたの? 急に変な声出して」
 驚いた夕貴が席を立ち、シャワー室のドア越しに声を掛ける。すると、思花が上から何かを投げてよこした。

 それは、『しーふぁ』と書かれたゼッケン付きの、微妙にサイズ小さめスクール水着だった。

「‥‥うわぁ」
「おや、気に入らなかったかね? 残念だ」
 言葉に詰まる夕貴の横で、何か布の塊を抱えて涼しい顔のUNKNOWN。
 どうやら思花は、彼が親切心で差し出した水着がお気に召さなかったらしい。彼女は、自前の白ビキニに着替えて出てくると、UNKNOWNに詰め寄った。
「‥‥‥‥それから、たった今私が脱いだ服と下着がないのは‥‥誰の仕業かな?」
 とてもとても低い声で尋ねる彼女に、黒のV字な水着のUNKNOWNは、優雅に煙草などふかしながら、答える。
「なに、私がきれいに手洗いしておいたからね。心配はいらん、さ」
「鍵の掛かったシャワー室から、一体どうやって取ったので御座いましょうね‥‥」
 何事かと近寄ってきたジェイが、UNKNOWNの腕に抱えられているワンピースと女性用下着に気付き、完全に呆れ返った声を漏らした。
「‥‥自分でやるからっ」
 思わず頬を紅潮させつつ、思花は、服と下着を素早く奪い返す。
 そこで仕方なく、ジェイが二人の間に割って入り、その場を収めることにした。
「さて、思花さん。ちょっと遅くなりましたが、お昼と致しましょう。如何です?」
「‥‥行く」
 

 やや遅めの昼食の席では、とりあえず取り皿いっぱいに料理を取ってきたリアが、キラキラと目を輝かせてフォークを取っていた。
「採れたての海の幸ですね〜! どれも美味しそうです♪」
「魚介類はやっぱ美味しいなー。みんなもそう思わん?」
 蟹の殻がうまく剥けず、苦戦し始めたリアを助けてやりながら、小町は、海老のタマリンドソース炒めを口に入れ、皿を動かして周囲に勧め始める。
「こちらもなかなかで御座いますよ。アサリとバジルの炒め物‥‥で御座いましょうか?」
 どうぞ、と思花とラウルに皿を差し出し、今度はイカの炭火焼に手を伸ばすジェイ。
「タイ風焼きそば? これも美味しい――って、ラウル、袖が汚れるでっ」
「ホントだ。袖捲ったほうがヨイ?」
 結構周りを見ているらしい小町に言われて、ラウルは、着ていたパーカーの袖を上げ、改めてアサリの身をフォークで刺した。
「キメラ退治付きの旅行は、疲れた顔の写真しか残らなくて」
「じゃあ、今回もお見合い写真の撮影には向いてないんじゃない?」
 シーフードビュッフェとは別に頼んだらしい熱帯魚の刺身を口に運びつつの藤田の言葉に、ちょっと疑問を覚えた夕貴が、首を傾げた。今回も一応、すいかんの捕獲後なので、疲れていないわけではないだろう。
「でも、お遊びで水着姿なんて今年で最後だし」
 シンシアが聞いたら速攻で殺しに来そうな台詞を言い放ち、緑と白のボーダービキニでキメた藤田は、『パラソルの下で食事する私』をテーマに、お気に入りのビーチボーイの手を借りて撮影作業に戻る。
「あら? 美味しそう。これも、いただこうかしら?」
 現在何皿目かは不明だが、ともかく、使用済みの皿を傍らに山積みにして、静は、優雅にもりもり食べまくっていた。太らないから、別に良いのだが。
「やっぱり新鮮な物で、焼きたては、美味しいわ。あら、これは何かしら?」
 取ってきた料理が何なのかわからず、彼女は、フォークを持つ手を止めて、しばらく悩む。
「食べてみないと、わからないわね」
 そして結局、三つほど食べた。
「いかにも南国といった感じですねぇ♪ あ‥‥スイカはちょっと遠慮しておきます‥‥」
 すいかんショックから未だに抜けだせないリアは、デザートのフルーツに喜びつつも、スイカだけは頑なに拒否した。それでも、パパイヤやマンゴーなど、みずみずしいフルーツが沢山用意されているため、特に困ることはない。
 だが、そんな中、何やら赤い液体の入ったグラスを両手に持って帰ってきた男が一人。
「思花サン、甘いの好きだよネ? コレあげるー♪」
「え‥‥? あ、うん、ありがとう‥‥」
 ラウルが差し出した謎のグラスドリンクを目にしたジェイが、なんとなく中身を予想しながら、尋ねた。
「ラウル君、それは?」
「スイカのシェイク。タイではメジャーなんだって言ってたヨ?」
 スイカか‥‥と脱力気味の一同をよそに、ラウルは、なんだかいつもより上機嫌で、思花にスイカシェイクの感想を訊いている。
「美味しいよ? ‥‥みんな、どうしたの?」

 キメラをカレーにしたこともあるキメラ研究者の感覚は、どうやら少しだけ、皆とズレていた。


    ◆◇
 昼食後、ジェイ、リア、小町の三人はシュノーケリングをしに海へと繰り出し、残りのメンバーは、浜辺で各々のんびりと過ごしていた。
「たまには、いいわね。こうしてゆっくりしているのも」
 パラソルの下のビーチチェアに腰掛け、静は、トロピカルドリンク片手に波の音を聞きながら、ふう、と息をつく。
 青いドレスに身を包み、リゾートサンダルの足元を女性らしく揃えて、彼女は、ゆったりとした気持ちで、目の前に広がる美しい海を眺めていた。
 そのすぐ隣のパラソルの下では、一旦撮影を終えて休憩中の藤田が、恋愛小説を読んで涙している。浜辺で読書というシチュエーションに、少し憧れていたらしい。
「おや、琳」
 こちらもシートに寝そべって読書に勤しんでいたUNKNOWNが、近くを通り掛かった思花に目を留め、声を掛けた。と、同時に、サンオイルを塗って小麦色の肌を目指していた夕貴も起き上がり、二人を振り返る。
「悪いんだけど、背中だけサンオイル塗ってもらっていいかな?」
「うん‥‥いいよ。でも」
 差し出されたサンオイルを夕貴の背中に垂らし、思花は、少し言葉を切ってから、ずっと疑問に思っていたことを口に出す。
「その髪型とか‥‥つらくない?」

 本日の夕貴のファッションのポイントは、がっちり固めた日本髪に、白塗りメイクであった。

「辛くないよ? 濡れても崩れないから、楽だしね」
「そうなんだ‥‥」
 と、思花と夕貴がこのような会話をしている間、藤田は何をしていたかというと、読書を止め、おもむろにUNKNOWNに接近していた。
「なに黄昏てるんですか〜ハッスル一発」
「差し入れかね。うん、ありがたく頂こう」
 何のつもりか藤田が差し出した栄養ドリンクを受け取り、飲まずにシートの上に置くUNKNOWN。藤田は、そんな彼の耳元に口を近付け、こっそり「ええ子紹介しまっせ」などど囁いてみる。
「素晴らしい申し出だが、ね。今日のところは、琳との約束もある。遠慮しておくとしよう」
「だから‥‥約束って、何?」
 再び飛び出した不審ワードに、眉を顰める思花。だが、UNKNOWNは、飄々とした様子で煙草を咥え、微笑んでいるのみである。
「よし、じゃあ、ちょっと休んだから、ビーチバレーでもしない?」
「賛成!」
 夕貴の提案に、速攻で挙手したのは、東洋の魔女の座を狙う藤田であった。そして、UNKNOWNもまた立ち上がり、軽く伸びなどしながら、思花に声を掛ける。
「一緒にやらんかね?」
「あ‥‥うん。神森さんは‥‥?」
 思花が振り返ると、静は軽く手を振りながら、「私は見学しておくわ」と首を振った。


 さて、ビーチバレーであるが。
「喰らえ! 隕石サーブ!」
「点はやらん、よ。全力で来るといい」
 藤田とUNKNOWNは、特に本気だった。
 どちらかというと、夕貴と思花は、全力投球の二人についていくのが精一杯の状態である。
「ガンバレー♪」
 静と同じく見学中のラウルが、のほほんとした声援を送る。
「なんの! 台風レシーブッ!! そしてアターーック!!」
「甘い。そんなもので私は倒せん、さ」
 夕貴が返したボールを凄まじい勢いで拾い、思花のトスでアタックを決めた藤田を嘲笑うかのように、身長にものを言わせて余裕のブロックを披露するUNKNOWN。
「‥‥無理。絶対無理だと思う」
 ブロックされたボールを拾い損ねて砂浜に転んだ思花が、敵陣にいる夕貴を見つめつつ、同意を求める。
「うん、俺も、ビーチバレーってもっと平和な競技だと思ってたな」
 覚醒しないだけマシだけど、と、付け加え、夕貴は、とりあえず藤田の攻撃に備えて身構えた。
「まだ負けられないっ! 喰らえーーッ!!」
「うわ、痛っ!」
 藤田のアタックが炸裂し、それをレシーブした夕貴の腕に、骨が折れんばかりの衝撃が走る。
「手加減はなしだ。終わりにさせてもらおう」
 跳ね上がったボールに、UNKNOWNの手が伸びる。
 次の瞬間には、ボールは藤田のすぐ隣を通り過ぎ、砂を散らしてコートに落ちていた。
「ゲームセット。UNKNOWNさんと、鳥飼さんの勝ち、ね」
 静が片手を上げて、にこやかに試合終了を宣言する。藤田は、がっくりとうなだれて、コートに座り込んでしまった。
「じゃあ、罰ゲームだよね。このすごいマズイ野菜汁飲むのと、ビーチボーイズの皆さんに海に投げられるの、どっちがいいかな?」
 笑顔で鬼な提案をする夕貴。コートの外では、既に黒い肌が眩しいアツい男たちが、出番を待っている。
「わ‥‥私はこっち」
 藤田が来ないうちに、思花は、素早く野菜汁を取る。つまり、彼女は藤田を見捨てた。
 そしてミラクルなマズさを誇る野菜汁を飲み干し、涙目どころではない状態に陥ったりする。
「思花サン大丈夫? そんなにマズイ?」
 テーブルに手をついたまま動かなくなった思花を見て、ラウルは、野菜汁が入っていたコップに顔を近づけた――が、臭いだけで完全に無理だった。
「HEY☆ スマキにしちゃうZE☆」
「あ〜! せめて砂地に落としてー!!」
 波打ち際には、数人のビーチボーイズにビニールシートでスマキにされ、海へと放り投げられている藤田の姿があった。
「うむ、なかなかの飛距離だと思わんかね?」
 ボチャーン、と水柱を上げて海中に沈む藤田を眺めながら、UNKNOWNは、実に満足そうに煙草に火を付けたのだった。

 
    ◆◇
 手の中の食パン目掛けて、数十匹の魚たちが死に物狂いで殺到してくる。
 もはや視界は魚一色、1m先すら見えない視界ゼロ。
(「‥‥これって餌付けになるんでしょうかね?」)
 これはパンを手放さなければ危険なのでは、というくらいに群がってくる魚たちを見ながら、ジェイは、可愛いとかそういう気持ちよりも、この餌付けという行動そのものに対する意味を考えるところまで達していた。
 とりあえず残りのパンを遠くに放り投げて、海面に顔を上げると、少し深いところまで行っていたリアが戻ってきている。
「ジェイさん! すごいですよ! あちらにとても可愛いナマコが!」
「ナマコで御座いますか。南国のナマコと、日本で食用にするものとでは、やはり何か違うので御座いましょうか?」
 アメフラシもいました、と嬉しそうに申告するリア。彼女のそういうところにも割と慣れっこなジェイは、特に突っ込んだりもせず、きちんとナマコ関連の話題を振って、誠実に応えた。
「うーん、珊瑚もええけど、乳も見放題やなぁー」
 まるで酔っぱらいの台詞とともに沖から戻ってきたのは、バストハンター・小町である。彼女は、二人の傍に来てもすぐには顔を上げず、しばらく水中からリアの胸を鑑賞していた。
「あ、思花さん」
 ふと、人の気配を感じて、リアが振り返る。そこには、シュノーケルをつけた思花と、なぜか素潜り状態のラウルが浮かんでいた。
「ごめん、あんまり遊べなくて‥‥ちょっと、あっちでビーチバレーやってたから‥‥」
「別に構わんでー。今からしっかり鑑賞するからなー!」
 スイスイと泳ぎ寄ってくる小町の視線を胸元に感じつつ、思花は、なんとなく触られるより恥ずかしい気がして、複雑な心境である。
「ラウルさん、どうしてシュノーケルつけないんです?」
 不思議そうに問うリアに、ラウルは、少し拗ねたような顔をして、首を傾げた。
「今、ちょっとだけ教えてもらったケド‥‥馴染めなかったんだよネ。水中で息すること自体」
 素潜りに慣れてしまった人にとって、どうも、シュノーケリングは難しいらしい。ラウルは、そのまま海中に潜ると、珊瑚礁を見に行ってしまった。
「さて、思花さんも合流したことで御座いますし、私たちも、もう少し沖のほうまで行ってみましょうか」
「あっちにカクレクマノミがおったでー。見に行かん?」
 ジェイの提案に、小町が思花の腕を取り、ぐいぐいと引っ張って沖へと泳いで行く。そして、リアもまた、再びシュノーケルを口に入れると、三人を追い、澄みきった海に全身を沈めた。
 その後、沖に出た一同は、カクレクマノミどころか、海底で寝そべってグラビア撮影風な藤田に遭遇するのだが、あまりに真剣な彼女の様子に、声すら掛けずに無言で浜へと引き返したのであった‥‥。
 


 シュノーケルも十分に楽しみ、少し疲れて戻ってきた一同は、既に浜辺でのんびりしている他のメンバー達と同じく、ゆっくりと残り時間を過ごすことにした。
「思花さんの綺麗な肌も、紫外線からしっかりガードしませんとね♪」
 浜辺に敷いたシートの上で、リアが日焼け止めを手に取り、思花の背中にペタペタと塗ってやる。そして、そのままジェイを振り返ると、蓋の開いた日焼け止めのボトルを差し出した。
「ジェイさん、また塗って頂けませんか?」
「ええ、では後ろを――」
 と、ジェイが日焼け止めを手に取ろうとした瞬間、いきなり横から出てきた小町が、それをひったくる。
「ウチが塗ったるでー!!」
「えぇっ!?」
 小町の張り切りにピンとくるものがあり、リアは、思わず焦って声を上げた。
「‥‥をや。では小町、しっかりよろしく」
 まあ、いつもの展開だろうな、と思いつつも、ジェイは苦笑し、リアの背中に日焼け止めを塗る権利を小町に譲る。
「ほれいくでー! ウチが背中だけやなくて乳も狙うんは当然やろー」
「ちょっ! な‥‥何するんですっ!! 小町さんっ‥‥」
 背後から覆い被さり、背中というよりは胸の方に手を遣る小町に、リアは、顔を真っ赤にして抵抗した。時々、水着が浮いて胸が見えそうになってしまうため、とても危ない。
「だめですっ! だめですったらーーっ!!」
「しかし‥‥目の保養も、過ぎれば目の毒で御座いますね」
「‥‥うん。そうだね」
 さすがに直視できなくなってきたジェイの呟きに、少し離れて見守る思花が、静かに同意した。


    ◆◇
「ちょっと‥‥待って、UNKNOWN。約束って‥‥そんなの私、言ったかな?」
 夕方、シャワー室前では、再び思花とUNKNOWNの攻防戦が繰り広げられていた。
「忘れているのかね? 言っていたはずだよ。『着替えを手伝う』と、ね」
「なんとなく‥‥思い出してきたような‥‥」
 とても眠かった時に、そんな約束をしたような気がする。思花は内心、とても焦っていた。
「でもダメだよ‥‥みんないるのに」
「私は気にしない、さ」
「‥‥‥‥」
 とても勝てる気がしなくなってきた思花は、仕方なく、少し妥協してみることにする。
「‥‥わかった。ちょっとそこで‥‥待ってて」
 思花は、その場にUNKNOWNを残し、静かにシャワー室の扉を閉めた。


 一方、浜辺では、リアとジェイ、そして、少し離れて小町が、ぼんやりと夕陽を眺めていた。
 物想いに耽る小町が考えている事はというと、雌すいかん捕獲時に触った胸の感触についてである。
 「つっかまーえたー♪ さーて、キメラの乳はどんなもんやー♪」などと、それはもう大喜びでスク水の胸に飛びついたはいいが、ものすごいツルペタだった上に、その後、水弾を喰らってしまった。

 ほろ苦い夏の思い出である。

「もう‥‥今年の夏も終わりですねぇ‥‥」
 少しずつオレンジ色に染まっていく太陽を眺めつつ、リアは、どこか物悲しい響きを込めて、そう呟いた。
「いや、しかし、この夏は本当に波乱万丈で御座いました」
「思えば今年の夏は、ずっとジェイさんと一緒だった気が致します‥‥」
 苦笑するジェイに、リアは、ふふふ、と小さく笑い返して、立てた自分の膝に、細い顎を押し当てる。
「来年の夏も、こうやって遊べると良いですね」
「はい。楽しみにしていますね!」
 傭兵としてラスト・ホープに移り住んで、初めての夏。それが今、終わりを告げようとしていた。


「街に戻ったらもう一度集まり、皆で花火でもどうかな?」
「うん‥‥暗くなってからにしようか‥‥」
 ビーチの隅でシートに座り、思花とUNKNOWNは、そんな話をしていた。
 あの後、「着替えを手伝う」と主張する彼に、とりあえずスカートのリボンだけ結ばせて誤魔化した思花は、なんとか周囲に感づかれることなく、騒ぎを収束させることに成功したのだ。
 UNKNOWNは、一切納得してなどいないが。
 そして、ビーチに移動して、彼に髪や手の手入れをしてもらって、今に至る。
「‥‥美人の出来上がり、だな」
「‥‥‥ありがとう」
 指の先までクリームでマッサージをしてもらった思花は、ふう、と息をついて浜辺を見渡した。
 夕貴と静は、帰り仕度だろうか、姿が見えない。
「では、な、琳」
「あ‥‥うん」
 立ち去るUNKNOWNの背中を見送り、思花が正面を向くと、魚の餌を撒き、そのついでに足の角質を食べてもらおうと試行錯誤している藤田の姿が見えた。
「ドクターフィッシュだい」
 どうも、うまくいかないらしい。
「思花サン、ちょっとだけヨイ?」
 その時、不意に話し掛けてきたのは、もう着替えも終わって帰る準備万端の、ラウルであった。
「‥‥どうしたの?」
 彼は、思花のいるシートの隅に腰を下ろし、顔を横に向けて思花を見る。
「突然だケド、『恋人前提のお付合い』どーカナ?」
「‥‥‥‥え?」
 突然すぎて、思花は、僅かに声を漏らしただけで、そのまま言葉を失った。
「急には無理だと思うし、でも、もう友達にはなってると思うんだよネ」
 だから『恋人前提』、と、ラウルは笑って説明を付け加える。思花は、そんな彼を、じっと見つめていた。
「‥‥何故、思花サンかというと‥‥勘。思花サンなら自分のコト全部話せそうな気がする、んだ」
 そこまで言うと、彼は、スッと立ち上がって、思花に片手を差し出す。
 少し離れた浜に、迎えの船が着いたのが見えたのだ。
「返事は急がないカラ」
「‥‥‥‥うん。少し‥‥考える」
 ふっと微笑んで言ったラウルの手を取り、思花は、小さく頷いて立ち上がった。
 


「そうだわ、皆さん。帰る前に、記念写真を撮りません?」
 規則正しいエンジンの音を響かせるクルーザー船の前で、静がそう提案した。
「そうだよね。せっかく来たんだから、記念に」
 UNKNOWNからカメラを預かった夕貴が、側にいたビーチボーイに声を掛ける。
「雨季とウキで心でウキウキ‥‥なんちて」
 帰りだというのに浮き輪を持ってはしゃいでいる藤田が、若干捨て身のギャグで周囲を和ませると、写真を撮り続けて十数年のビーチボーイの指示のもと、皆が浜辺に集合した。
「HEY☆ 今日は楽しんだカイ? いくZE! ワン・ツー・FINISH☆」
 パシャ、と軽い音がして、オレンジ色の海と砂浜を背景に、皆、思い思いのポーズで写真に納まった。

 常夏の国に別れを告げて帰り着いたなら、そこに吹く風はもう、秋の色。
 こうして、傭兵たちの暑い夏は、静かに終わりを告げたのだった。


    ◆◇
 後日。
 UNKNOWNにより皆に届けられた写真には、たった一人、半目の人物が写っていた。
 それが誰であったのかは、夏の思い出とともに、永遠に皆の胸にしまっておくべき秘密となったのだった――。