タイトル:【神戸】indicationマスター:桃谷 かな

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/11/04 23:55

●オープニング本文


 南北を山と海に挟まれた異国情緒溢れる港町、神戸。
 秋の観光シーズンを迎え、多くの人で賑わうこの町の南の海上に、兵庫UPC軍の主力基地、ポートアイランド駐屯地は在る。
 現在大阪北東部の学園都市に留まるキメラ研究者・琳 思花(gz0087)が、再びそこを訪れたのは、暗鬱とした空に冷たい雨の降りしきる朝のことだった。

「ごめん思花、わざわざ来させて」
 来客用の小さな部屋で向かい合わせに座り、そう言ったのは、思花を呼び出した張本人、ヴィンセント・南波(gz0129)。兵庫UPC軍の、若き大尉である。
「――傭兵監査官を兼任するって聞いたけど」
「俺? うん。北部攻略と南部防衛の前線に、傭兵部隊を置くから。あと、あの三日月ヘルメットワームの調査と殲滅、命じられちゃったからね」
 視線をテーブルの上に置いたまま、静かに口を開いた思花の言葉に、南波はにこやかに答えた。
 名古屋防衛戦以降、勢力を盛り返したバグア軍により競合地域と化した兵庫県北部では、UPC豊岡基地を中心に連日戦闘が繰り広げられ、南部の支援を受けながらも慢性的な戦力不足に陥っている。
 そこで兵庫UPC軍上層部の下した決定は、ヴィンセント・南波大尉を傭兵監査官に任命した上での、ULT傭兵部隊の投入、前線配備であった。
 これは、中国山地に現れたヘルメットワームを極めて短時間で撃墜、及び敵エース機を撤退に追い込んだULT傭兵達の実力を見込んでのことである。
「・・・・訊きたいことがあるって・・・・奏汰のことだよね?」
 呼び出された時点で質問内容を何となく予想していた思花が、やや不機嫌な声音で小さく尋ねた。
「・・・・何が訊きたいの?」
「じゃあ率直に訊くけどさ」
 敵エース機のパイロットは、上月 奏汰。半年以上前に南波の指揮下で死んだはずの、元ULTの傭兵だった。
「奏汰の弟の、上月 心(しん)を探してる。ラスト・ホープで軍人やってた奴。今、どこにいる?」
「・・・・・・」
「確か、奏汰が死んだ時に失踪してるよね? 真相を探るとか何とか言って」
 南波の問いに、思花は、しばらく沈黙した後、無表情に答えを返す。
「・・・・さあ。・・・・いちいち・・・・別れた彼氏の連絡先調べたりしないし、私」
「そっかー・・・・」
 やっぱりな、という調子で南波が唸ると、ふと顔を上げた思花が、探るような目で彼を見た。
「・・・・奏汰のこと調べて、どうする気? ・・・・相手がヘルメットワームに乗ってる以上・・・・墜とさないといけないんだよ、結局は」
「わかってるよ。こんなの意味がない。・・・・ただ」
 南波はそこで一旦言葉を切り、少し笑って思花を見返す。
「奏汰を死なせた責任を感じてるんだよ。俺も、多分――お前も」
「・・・・・・」

 ――雨のポートアイランドに、緊急を知らせるサイレンが鳴り響いた。

 
    ◆◇
 雨が上がり、曇天の同日正午。
 急遽UPC豊岡基地へと移動した南波は、作戦会議室に召集した傭兵たちを前に、スクリーンを指し、告げた。
「これが、偵察機の捉えた敵輸送部隊の映像だ」
 画面に映し出されているのは、日本海上を進むバグア軍輸送艦・ビッグフィッシュ、そして、その護衛と見られる小型ヘルメットワーム群。その陰に隠れるようにして、数機のキューブワームの姿も見える。
「兵庫県城崎沖に複数現れた敵輸送部隊は、一部が既に防衛ラインを越えて兵庫県内に侵入、僚軍と交戦状態にある。現在も海上を航行中の二隊のうち、今回、君たち傭兵部隊が迎撃を担当するのは、西側から来るこの一隊だ」
 窓から見える暗い空に、基地を飛び立った数機の戦闘機とナイトフォーゲルが、次々と吸い込まれるようにして消えていく。
 傭兵たちは、一様に神妙な面持ちでスクリーンを見つめ、任務の説明を聞いていた。
「確認された敵戦力は、ビッグフィッシュ1機、小型ヘルメットワーム5機、キューブワームが5機前後。それほど脅威とは言えないかもしれないが、援軍は望めない。心してかかってくれ」
 そして、南波は映像を切り、こう付け加えた。
「特に今回は、傭兵部隊が正式に配備されて以降、初任務となる。任務の遂行には、各自、十分な注意を払い、確実に成功させるように」

●参加者一覧

霞澄 セラフィエル(ga0495
17歳・♀・JG
平坂 桃香(ga1831
20歳・♀・PN
エルガ・グラハム(ga4953
21歳・♀・BM
藤宮紅緒(ga5157
21歳・♀・EL
シーヴ・王(ga5638
19歳・♀・AA
音影 一葉(ga9077
18歳・♀・ER
赤宮 リア(ga9958
22歳・♀・JG
烏谷・小町(gb0765
18歳・♀・AA

●リプレイ本文

「兵庫北部は不安定やね。その分、実力も要るってか‥‥」
 荒波渦巻く日本海――波間に漂う戦闘機の残骸を眼下に見ながら、烏谷・小町(gb0765)が、小さくそう呟いた。
「チッ、そういう事かよ! AWの余波で俺の愛する洋菓子の都が脅かされているとはな!」
「さあ――ahura Warが関係してるかどうかは知らないが」
 勢い込んで言ったエルガ・グラハム(ga4953)の言葉に、ヴィンセント・南波(gz0129)は、極めて冷静な声音で応える。
「エース機の投入もあったし、こんな大軍を寄越してくるわけだから。バグアが戦局を変えようとしてるのは、確かかな」
「きゅ、急に出てきたりしないですよね‥‥?」
 エース機の話を耳にして、不安気な声を上げたのは、藤宮紅緒(ga5157)だった。すぐさま、霞澄 セラフィエル(ga0495)が通信を入れ、落ち着かせようとする。
「今のところ、敵戦力は増えていないようです。それでも、敵が海上にいる間がリミットですから‥‥」
 その時、9機の計器類が、軒並み異常を示し始めた。
 ノイズが混じり、乱れたレーダーが捉えたのは、明らかに僚軍のものではない、恐ろしく巨大な黒い影。
 岩龍を駆るシーヴ・フェルセン(ga5638)は、同じく電子戦機である南波のウーフーの位置を再度確認すると、曇天の空に視線を走らせた。
「あれがビッグフィッシュ‥‥直接見るのは初めてですが‥禍々しい様相ですねぇ‥‥」
 低い声でぽつり、とそう漏らしたのは、赤宮 リア(ga9958)であった。
「へいへいおいでなすったぜ! 兵庫の地図をてめえら色に染めてなるもんか」

 暗く垂れ下がった厚い雲の下、ゆっくりと姿を現したのは――バグア軍輸送艦・ビッグフィッシュ。


    ◆◇
 全長約600m。潮風吹き荒ぶ海上を突き進む敵輸送艦を隊の正面に捉え、接触1km手前を過ぎると、9機のKVは攻撃を開始した。
「補給路を叩くのは戦略の基本。それがこの程度の護衛とは‥‥こちらには好都合ですけどね」
 敵戦力を確認し、音影 一葉(ga9077)は、先の作戦で傷ついた体に鞭打って、操縦桿を握り直す。
 艦体の左舷を向けて飛ぶビッグフィッシュ。5機の小型HWは、CWをそれぞれ背後につけてV字の陣形を取り、こちらを迎え撃つ。
「では。一番乗り、行ってきますねぇー」
 敵機との距離800m。真っ先に飛び出したのは、平坂 桃香(ga1831)の駆る雷電だった。
 超伝導アクチュエータを起動、一気にブーストをかけると、敵陣の真只中に突っ込んで行く。
 いきなりの単機突入は予想外だったか、周囲のHW、そしてCWが警戒を強め、強行突破を防ぐべく、桃香機の進路上に集結して壁を形成、迎撃を始めた。
 敵の砲撃を何度か浴び、細かな破片を散らしながらも、桃香は、ふふ、と微笑った。
「駄目ですよ? 一箇所に集合なんて」
 次の瞬間、曇天の空を轟音が貫き、H‐112グレネードが炸裂する。灼熱の爆炎と爆風が、周囲に居たHW3機、CW3機、そして桃香機に、容赦なく襲い掛かった。
「すごいな平坂。戦法が男前すぎ」
「機体が硬いですからねぇ。これぐらいは平気ですよ?」
 爆風を追い風に、赤熱する機体を旋回させて敵陣を突っ切って行く桃香。その様子に、南波は思わず苦笑を漏らした。
「神戸には向かわせませんよっ!」
「ここを通すわけには、いきません!」
 桃香の特攻に浮足立った敵HW群の隙をついて、リア機、霞澄機、シーヴ機、小町機が一斉に加速し、空中で四手に分かれて接敵する。
「ちぃとばっか頭痛しやがっても、根性。根性のねぇAIなんかにゃ負けねぇです」
 ギリギリと締め付ける頭痛に耐え、真正面のHWが放つ連射の中、機体を素早く横転させて敵砲撃をかわすシーヴ機。一発を右翼の下に浴びながらも、最小限の機動で敵機に肉薄する。
 そして、中央左、爆炎に巻かれて後退する一機に目をつけたリア機が、猛スピードで空を駆け、そのまま相手を押し遣るようにして、ビッグフィッシュの下に入り込んだ。
「SESエンハンサー発動! 参ります!!」
 全身に纏う赤い覚醒オーラがその輝きを増し、一瞬、コックピットを突き抜けてアンジェリカを包み込む。リア機は、逃げるHWに追い縋り、その背後からレーザー砲を撃ち捲った。
「CW5機か‥‥鬱陶しいな」
 怪電波のお陰で決定打を加えられないHW班を見て、南波は、CWの影響を受けないスナイパーライフルD−02の射程ギリギリまで前進、トリガーを引いた。
「一機撃破――HWはこちらで抑えなくては」
 南波の一撃に貫かれ、弾け飛ぶCWを横目に、霞澄機は、ブースト加速をかけながら上昇、向かって右端のHWへと迫る。そして、敵機を見上げるような格好でSESエンハンサーを起動し、擦れ違いざまに二発、高分子レーザー砲を撃ち放った。
 だが、CWが一機墜ちたとはいえ、うまく照準の合わない霞澄機の攻撃は、寸でのところでかわされてしまう。
「中身はぼろぼろでもディスタンの力は健在です。今、それを教えてあげます!」
「えと‥‥どっちに、あ、あっちですか‥!?」
 HWがそれぞれ標的を抑え込んだのを見て取り、一葉機、そして紅緒機が、向かって左に浮かぶ2機のCW目掛けて加速、ブーストを起動した。
 紅緒機がやや高度を上げ、上下に並行して飛ぶ一葉機を援護する。接近するにつれ酷くなる頭痛に顔をしかめ、一葉は、視界中央のCWに向けて、試作型スラスターライフルを撃ち放った。
 30発もの銃弾が、桃香のグレネードで損傷したCWの側面を抉り、完膚無きまでに破壊する。
 それと同時に、二機の前方で突然爆炎が巻き起こり、砕け散ったCWの破片が、一息に吹き飛ばされた。小町機の放ったAAMのうち一発がHWに命中、熱風を撒き散らしているのだ。
 そして、破片と熱風の中を突っ切った一葉機の目の前に、もう一機のCWが現れる。
「ま、マシンガンでも、なんとか‥‥」
 一葉機の上空で、紅緒機のR−P1マシンガンが唸りを上げる。
「俺は俺なりの装備で、目一杯お前らに打撃を与えるぜ」
 同時に、二機の背後からスナイパーライフルD−02でCWを撃ち抜いたのは、エルガの駆るS−01改であった。
 ライフルの一撃で装甲を貫かれ、無数の弾丸を浴びたCWは、機体の半分を完全に吹き飛ばされ、荒れた海へと墜ちて行く。
「一葉、無茶すんなよ!」
「わかっています。ただ、これくらいで逃げていたら、皆に笑われますからね‥‥」
 スナイパーライフルの砲首を下げ、主兵装へと切り替えながら、エルガが叫ぶ。一葉は、それを受けて苦笑しながら、次の敵を探して機体を大きく旋回させた。
「もう避けられねぇです!」
 攻防の末、ようやく敵機の上位を取ったシーヴ機が、急降下とともにレーザー砲を発射、そして、相手の迎撃を受けながらも変わらぬ速度で、一直線に突進をかける。接触と同時に右翼のソードウイングがHWの装甲を擦り、耳に残る切断音を残して切り裂いた。
「しつこいモンは、嫌われ度UPでありやがるですよ? ‥とっとと墜ちるが良し、です」
 切断面から火花を散らし、シーヴ機を追い越して墜落していくHW。それ冷静に見下ろしながら、シーヴは、右手をミサイル発射ボタンへと叩き付けた。
「高性能と名前が追加されたラージフレアや。どれだけ楽になるんかなー?」
 ビッグフィッシュの艦首付近では、小町機の攻撃を受けたHW一機が、進路上に立ち塞がる一葉機に向け、迎撃態勢に入っていた。
 被弾を避け、ラージフレアを展開する一葉機。その上空から重ねるようにして、小町機が高性能ラージフレアの子弾をバラ撒き、一葉機をカバーする。
「は‥‥挟み撃ちです‥‥! 逃がしません‥‥!」
 無数の子弾が周囲の重力派を乱し、HWの照準を狂わせる。ブーストを起動し、機首を上げて一気に急上昇する一葉機と入れ替わるようにして、紅緒機が高度を下げ、小町機と挟撃する形でHWへと迫った。
「試作型やけど、スラスターライフルの試し撃ち〜♪ 欲しかったから嬉しいったらありゃしないわ」
 小町機のライフルが火を噴き、激しい反動がコックピットを揺らす。圧倒的な火力がHWの装甲を見る見るうちに抉り、吹き飛ばした。さらに、装甲が剥げ、剥き出しになった部分を狙い、逆方向から飛来した紅緒機が、高分子レーザー砲の一撃を叩き込む。
 黒煙を上げてヨロめき、宙に浮かぶのが精一杯のHW。
 猛スピードで急降下してきた一葉機の弾丸の嵐に巻かれ、あっという間に眼下の海へと墜ちて行く。
「んー‥‥CWはこれで終わりだな」
 機体を前進させた南波が、螺旋弾頭ミサイルで2機のCWを狙う。回避できずに爆裂したCWの破片が広範囲に散り、暗い空に舞い踊った。
「さあ、こちらも手早く片付けてしまいましょう」
 操縦桿を一杯まで引き、空中で機体を一回転させながら、HWの一機が放った二条の光をかわす霞澄。そのままの速度で転進し、正面に捉えた敵機をレーザー砲の連撃で撃破、叩き落とした。
「さっさと、あの鯨に取り掛かりたいですからねぇ」
 桃香機の発射した二発の螺旋弾頭ミサイルが、HWの両側面から突き刺さり、一瞬のうちに機体を爆散させる。同時に、逃げ回るHWを追い回していたリアもまた、頭痛が消えて冴えた目で、敵機中央に狙いを定めた。
「まだ大物が控えていますからねっ!」
 二条のレーザー光が空を灼き、最後のHWを真後ろから貫く。火花と黒煙を撒き散らして墜落する敵機を視界の端で見送り、リアは、一気に高度を上げていった。
「よっしゃD02でビッグフィッシュ一本釣りとくらぁ」
 最初にビッグフィッシュへの攻撃を仕掛けたのは、ブースト接近で距離を詰めたエルガ機であった。艦側面にスナイパーライフルを叩き込み、さらに、接敵して主兵装の135mm対戦車砲を発射、艦体に衝撃を走らせる。
「桃香さん、リアさん、今です!!」
 艦後部、艦橋付近へと移動した霞澄機が、桃香機・リア機とは逆の方向から、G放電装置の電撃を放った。展開した仄青い電撃が止まぬうち、桃香の雷電が真上から急降下、フレア弾を投下する。
 艦橋のやや後部に着弾したフレア弾が、凄まじいまでの熱量でもって、広範囲を破壊する。そこへ、ブースト空戦スタビライザーを発動させたリア機が、Gプラズマ弾を携えて接近してくる。
「ここです‥‥! 虎の子のGプラズマ弾‥‥投下!!」
 速度を落とし、発射レバーを引くリア。急上昇する機体のすぐ真下で、艦橋を覆い尽くす大規模な放電が巻き起こった。
 赤熱し、溶解していく艦橋を、荒れ狂う電撃が破壊していく。揺らぐ艦体を見下ろし、桃香機は螺旋弾頭ミサイルを発射、リア機の放った高分子レーザー砲とともに、さらなる攻撃を続けた。
「悪魔の雷撃。これこそ衝雷撃ってなー♪」
 艦首付近では、高度を上げた小町機が、少しでも装甲の薄い位置を狙い、G放電装置の連撃を展開していた。鼓膜を震わす轟音を伴って艦体を襲った電撃が、装甲の一部を剥ぎ取り、内壁を露わにする。そして、南波の放った二発の弾頭ミサイルが、脆くなったその部分に連続して突き刺さり、爆裂して艦首に大穴を開けた。 
「此処が急所‥‥ですね‥! い、いきますよ‥!」
 紅緒機の構えた帯電粒子加速砲が、既にその大部分を灼かれた艦橋目掛けて火を噴いた。大火力のエネルギー光が、紅緒のワイバーンに大きな反動を残して、斜め上からビッグフィッシュに襲い掛かる。
「‥‥そっちも‥‥!」
 艦橋後部を吹き飛ばされ、コントロールを失って揺れる艦体下部で、ワーム射出口が稼働したような気がして、紅緒は、再び粒子加速砲の引き金を引いた。高威力の光が射出口のやや上を貫き、艦体そのものに二つ目の大穴が開く。
 艦橋の機能を完全に失い、見たところ有効な打撃兵器も持たないビッグフィッシュは、艦体各部から黒煙と炎を噴き上げながら、ゆっくりとその高度を下げて行く。
 目指す城崎・津居山湾は、もうすぐそこに見えている。
 だが、護衛を全て失い、自力で飛ぶ力すらも失い掛けた鯨にとっての終着駅は、もはやそこではなかった。
「仕上げですディスタン! 全力でいってくださいっ」
 腹の下に潜り込んだ一葉機のスラスターライフルが、艦体下部の装甲板を次々と剥ぎ取って行く。側面に開いた大穴に引っ掛けるようにして、リア機の剣翼が艦体を抉り、大きく斬り裂く。
 遥か海面目指し、突き進む鯨に止めを刺したのは、シーヴだった。
「防衛成功。傭兵部隊の面目躍如っつートコ?」
 叩き込んだ螺旋弾頭ミサイルの爆炎が、艦橋を覆い、灼き尽くす。
 炎に巻かれて墜落していく巨大輸送艦・ビッグフィッシュの最期を、9機は、暗い雲の下で見守っていた。
「もう一隊の方も‥‥無事に終わっていますように‥‥」
 ミネラルウォーターのキャップを開け、祈るような気持ちで呟く紅緒。
 振り返った視線の先で、兵庫北部の空は、未だ赤く染め上げられたままだった。


 ――その日、兵庫県内への揚陸に成功した敵輸送艦は、二機。
 傭兵部隊と正規軍によって後発隊が撃墜されたことにより優勢となった兵庫UPC軍は、侵入した敵勢力を、豊岡市内より駆逐、香美町以西へと後退させた。


    ◆◇
 翌朝、ポートアイランド駐屯地へ帰投した傭兵部隊は、作戦終了とともに一旦その任を解かれ、L・H への帰路についていた。
「じゃ、俺はこのへんで」
「大尉‥‥あんまり自責するなよ‥そもそもバグアが来なけりゃ誰も死ななかったんだ。奴らを罰そうぜ」
 神戸最大の繁華街、三ノ宮駅前。南波との別れ際に、エルガは、急にそんなことを口にした。
 今回のことではない。前回現れた敵エース機のパイロットの話をしているのだと気付き、南波は僅かに笑って見せる。
 その時だった。

『――愚かなる人類諸君に告ぐ』

 三ノ宮の街に、嘲りを含んだ男の声が響き渡る。

『本日、我々バグア軍は、兵庫県北部で大規模な輸送作戦を展開、これに成功した』
 人々のざわめきが向く方向――ショッピングビルの側面の大型ビジョンに映し出されていたのは、二人の黒服の青年だった。
『我らが温情に甘え、傲慢にも徹底抗戦を唱える諸君らに、もはや未来など存在し得ない』
「‥‥あれは‥‥?」
 自らバグアと名乗った二人の姿を食い入るように見つめ、リアが呟く。
『人類はその進化を止めている。我らがエミタ・スチムソンの言葉が正しかったことを、今こそ思い知ることとなるでしょう』
 次第に映像が乱れ、雑音とともに画面が揺れる。
 そして、一面の砂嵐と化したビジョンを見上げる人々を嘲笑うかのように、二人目の男の声だけが、町中に響き渡った。

『ただし――地獄でな!』


 何事もなかったかのように、冬服を纏ったモデルの姿を大写しに、人気ブランドの宣伝を再開する大型ビジョン。
 人々の雑踏の中、南波と傭兵たちは、口を固く閉ざしたまま、静かにそれを睨み続けていた――。