タイトル:【Hw奪還】獅子の咆哮マスター:桃谷 かな

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/12/15 18:01

●オープニング本文


 ――カナダはオタワにあるUPC北中央軍の戦艦ドック。
 そこには完成したばかりのユニヴァースナイト弐番艦が船体を横たえ、出航の時を待っている。
 船体は壱番艦と同じ、白地に赤のラインが入ったカラーリング。しかし、壱番艦と異なるのは、特に目を引く艦首に付けられた対艦対ドリルだろう。その上に主砲の対衛星砲SoLCが燦然と輝き、艦橋の前後に三連装衝撃砲が搭載され、取り囲むように連装パルスレーザー砲が設置されている。
 また、艦底部には艦載機を発射させる遠心カタパルトが2基備えられている。
「いよいよですな」
「ああ。これで我が軍もバグアに後れを取る事はなくなる。奪われた地を取り返す事も出来る」
 弐番艦を感慨深く見つめる2つの人影。1つはUPC北中央軍を指揮するヴェレッタ・オリム(gz0162)中将。もう1つはこの弐番艦の艦長覇道平八郎中佐だ。
「欧州軍がグラナダ攻略に動いてくれたお陰で、東海岸側のバグアの主力部隊も今は迂闊に軍を動かせまい。西海岸の都市を奪還する好機だ」
 オリム中将は壁に備え付けられたモニターを操作し、北米の地図を呼び出す。西海岸の南に、作戦の目標値が赤く点滅していた。
「ハリウッドですか」
「正確にはロサンゼルスだが、ハリウッドと言っても過言ではない。ハリウッドを取り戻す事が、本作戦の最優先事項だからだ」
 ロサンゼルスはまだ完全なバグアの支配地域ではないが、市街地にバグアの侵入を許してしまっている競合地域故に、ハリウッドで映画が制作できない状況にあった。
 アメリカ人にとって映画はアイデンティティの1つであり、北アメリカの「歴史」なのだ。
 ハリウッドを取り戻す事で、北アメリカ人の士気を大いに高める事が出来る。それは消耗品でしかない一般兵の補給に直結していると言えた。
 もちろん、それだけではない。北アメリカを南北に貫くロッキー山脈の存在だ。バグアといえども一部の機体を除き、ロッキー山脈を越える軍の展開は鈍るのだ。東海岸側のバグアの目がグラナダに向けられている今なら、西海岸側のバグアとメキシコのバグア軍を相手にするだけで済む。

 斯くして、オリム中将の指揮の下、ロサンゼルスならぬハリウッド奪還作戦が開始される事となった。


    ◆◇
 ――ロサンゼルス市街・アーバイン地区。
 この場所では、今作戦の要とも言える、大規模な橋頭堡の建造が行われていた。
 現在に至るまでバグアの侵入を許してきたロサンゼルスを護るべく、リッジウェイ中隊を中心に急ピッチで造られているそれの全長は、実に数キロにも及ぶ巨大なものである。
 橋頭堡が完成しさえすれば、少なくともこれ以上のバグア勢力の市内侵入は防がれることとなり、水際での迎撃がより容易になることだろう。
 だが、このような人類の動きを見逃すほど、バグアも甘くはない。
 グラナダ決戦に兵を割かれる中、北米バグア軍は、西海岸側に残る戦力を動員し、ロサンゼルスへと向かわせたのである。

 建造中の橋頭堡を破壊すべく送り込まれた対空キメラ部隊。大群となって押し寄せるそれらの敵を、アーバイン地区上空で迎え撃つのは、UPC北中央軍に属するUPCキメラ研究所より徴用された、能力者研究員たちの駆る10機のナイトフォーゲルであった。
「全く、所長も人遣いが荒いわよねっ!」
 群れの大半を墜とされ、蜘蛛の子散らすように撤退していくキメラたちの姿を見送りながら、一人の研究員が、溜息混じりにそう吐き捨てた。
 彼女らは、ユニヴァースナイト弐番艦とともにマドリードへ派兵され、つい先程北米に帰還したばかりの面々である。
 当然のことながら、極めて短期間に連続して前線に立たされているお陰で、皆一様に疲れ果て、搭乗中の機体にも損傷が目立つ。キメラの相手が精一杯、という状態であった。
「‥‥もう少し待てば、増援部隊が来るから。ちょっとは‥‥楽になるよ」
 隊の中央付近を飛び、同じく研究員の琳 思花(gz0087)が言う。
 間もなく、ULTの傭兵たちを含む増援が到着し、彼らと合流する事になっているのだ。
「――それはいいんだけど。また来たんじゃない?」
 誰かの疲れた声に遠い空を見遣れば、一度は撤退したはずのキメラたちが、新たに現れた別働隊を吸収し、再び大群となってこちらへ向かって来ているのが見えた。

 ――増援到着まで持ち堪えよう。 

 燃料、残弾ともに乏しくなった機体に鞭打って、10機が隊列を組み直す。
 その時だった。

「狙われてる!!」
 誰かが叫ぶ。
 バイパー、アンジェリカ、S−01、ウーフー、ディスタン――研究員たちの乗る5機のHUDに、ロックオンアラートが明滅し始めたのだ。
 正面に迫るキメラの軍勢、そこにミサイルの類はない。
「――機体を捨てて!!」
 回避行動に移る5機に向け、思花が通信を入れた、次の瞬間。
 虚空から現れた無数のミサイルが、5機を捉えた。
 爆炎が空を焦がし、大破した機体が黒煙を上げ、次々と地面目掛けて墜ちていく。

 そして、どこまでも続く空の色を切り裂き、目の前に現れる――赤い機体。

「‥‥ファームライド‥‥」
 鮮やかな赤で彩られた機体に光る、獅子座のシンボル。
 光学迷彩を解いたその姿を見つめ、思花が小さく呟いた。
 彼女の雷電を含め、空に残された味方機は、わずか5機。そのどれもが激しく消耗し、とてもではないが、ファームライドの相手ができるような状態ではない。
『――我が名はルウェリン・アプ・ハウェル』
 外部スピーカーを通じ、ファームライドのパイロットらしき声が、ロサンゼルスの空を震わせ高らかに響き渡る。
『地を這い、空を食み、この星を蝕み害成す人間共よ! 我が前に伏し、朽ち果てるが良い!!』

 視界を黒く覆い尽くすキメラの群れに、一際映える赤い悪魔。
 研究員たちは、覚悟を決めて操縦桿を握り直した。


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●依頼内容
・橋頭堡を破壊しに来た敵を、ロサンゼルス上空で迎撃してください。

●参加者一覧

緑川 安則(ga0157
20歳・♂・JG
雪ノ下正和(ga0219
16歳・♂・AA
赤霧・連(ga0668
21歳・♀・SN
皇 千糸(ga0843
20歳・♀・JG
平坂 桃香(ga1831
20歳・♀・PN
新居・やすかず(ga1891
19歳・♂・JG
ラルス・フェルセン(ga5133
30歳・♂・PN
菱美 雫(ga7479
20歳・♀・ER
シェスチ(ga7729
22歳・♂・SN
神浦 麗歌(gb0922
21歳・♂・JG

●リプレイ本文

「え‥‥そ、そんな‥‥ファームライド‥‥!?」
 隊の後列を行きながら、不安気な声を上げたのは、菱美 雫(ga7479)だった。
 FR出現――特に、比較的戦闘データが少ない獅子座の登場と聞いて、傭兵達の間に緊張が走る。
「今回の作戦はハリウッド奪還のためのお祭りだ。英雄気取りさまのご帰還というからには盛大な花火を準備してやらないとな。疲れている友軍にはキメラの歓迎をしてもらうことでいいよね?」
「ハードね、全く」
 苦笑しながら、しかし比較的余裕の表情で通信を入れた緑川 安則(ga0157)の言葉に、皇 千糸(ga0843)が、吐息混じりの呟きを洩らした。
「思花さんのSOSです。アンジェリカ、共に空を駆けましょうッ♪」
「駆けつけてみれば獅子座とは――冷静に全力で当たりましょう。居候君に恨まれたくはありませんからね」
 赤霧・連(ga0668)のアンジェリカが陽光の中、くるりと軽やかに側転する。屈託の無い彼女の台詞を聞きながら、ラルス・フェルセン(ga5133)は、ふふ、と僅かに微笑った。
「え‥‥あの、弐番艦の位置は‥‥あ、アナハイム地区です‥‥! 戦闘空域は‥‥その、じゃ、ジャミング中和範囲内、です‥‥!」
 ウーフーのコックピットから、未だ動揺したままの雫の声が全機に響き渡った。

「橋頭堡‥‥あれに攻撃が及ばないようにしないとね」
 千糸の言葉に、一同は、前方の大地に視線を落とす。
 澄んだ空の下に姿を現したのは――ロサンゼルスの町を護らんと動き回る多くの兵士たちと、リッジウェイ中隊、そして、建造中の巨大な橋頭堡。
「ついこの間グラナダで一緒に戦った人達だ‥‥借りはすぐに返してもらうよ‥‥」
 空にわだかまる、怪物たちの群れ。その中に輝く紅い機体を見据え、シェスチ(ga7729)はひとり、小さく呟いた。


    ◆◇
「超伝導アクチュエータ発動! ロックオン! 歓迎の花火を打ち上げるぞ!」
 キメラの群れを間に挟み、FRと対峙するUPC北中央軍のKV5機。青空に映える赤い機体、それを護るCW目掛け、安則機のK−01小型ホーミングミサイルが襲いかかった。
 空を埋め尽くすかの如く撒き散らされた子弾が3機のCWを捉え、動揺したキメラたちが、喧しい鳴き声を上げて逃げ惑う。
「‥‥キース機、佑幸(ウヘン)機、旋回してキメラの背後に。FRから引き離して」
「了解」
「りょーかいっ! 悪いけどFRはヨロシク! 傭兵サン♪」
 先発隊隊長機は既に地面の上。副隊長機の雷電――琳 思花(gz0087)の号令のもと、2機のKVがそれぞれ旋回し、バルカンを乱射してキメラたちを追い立てていく。
「申し訳ありませんが、もう少し頑張って下さいね」
「そっちこそ、墜とされないでよね」
 ラルスの掛けた優しい一言に、先発隊の一人、バイパーのパイロットが、いやに不吉な返事を返してくる。
「命中率高めのこれならいけるはずだ」
 安則の放ったホーミングミサイルG−01が二条の軌跡を残し、一番手前にいたCWを爆散させた。キラキラと煌く破片の中を突き抜け、ブーストをかけた平坂 桃香(ga1831)の雷電が、目の前のFR目掛けて敵陣へと斬り込んで行く。
「マルチロック兵器はヤバイですねぇ。装弾数にもよりますけどー」
 照準を合わせ、ロケット弾を撃ち放つ。わずかに後退して回避するFRの姿を視界の端に見ながら、桃香はそのまま、敵機を通り越して対角に移動した。
 シェスチのワイバーン、そして千糸のS−01改が、十分な距離を保ったまま左右に展開、FRを前後から挟み込む。
『何機で来ようと結果は変わらん。数分先の未来も読めず、我に戦いを挑むとは――愚かな生物よ』
 自機を取り囲まんと動き回る10機のKVを前に、嘲りを込めた声音で静かに吐き捨てる、ゾディアック獅子座。
(「外部スピーカー‥‥うるさいな‥‥」)
 FRを取り囲む4機のCW。激しい頭痛をもたらすそれらと、煩く響き渡るルウェリンの声を聞きながら、神浦 麗歌(gb0922)は、スッと目を細め、マイクロブーストを起動させた。
『キミの怒りも憎しみも、その傲慢も全て受けて立ちましょう』
 斜め前方から、高分子レーザー砲を携えた連のアンジェリカがFRに接近する。
 シェスチ機、千糸機の放ったAAMが、逃げ道を塞ぐかのように、前後から同時にFRを狙う。慣性制御で真上へと急上昇する敵機を追い切れずに装甲を掠め、二本のミサイルが空中爆発を起こした。
 眼前へと急上昇してきたFRに、SESエンハンサーを起動した連機が突進し、レーザー砲で狙い撃つ。
「せめて次に繋げられれば‥‥!」
 機首を上げ、更に上昇しながら砲撃を回避したFR目掛け、すかさず背後に回り込んだ新居・やすかず(ga1891)のスナイパーライフルが火を噴き、同時に、ガドリング砲を構えた雪ノ下正和(ga0219)のR−01改が真っ直ぐに突入していく。
「白兵戦の方が得意だが、真のサムライたるもの空戦もできんで何とするっ!! 負けるな、俺っ!!」
 空中でピタリと静止したFRの鼻先を、ライフルの銃弾が通過していく。目の前で動きを止めた敵機に、正和機のガトリングが至近距離から唸りを上げて襲い掛かった。
『その程度――回避できぬ筈がない』
「うおっ!?」
 素早く右翼を上げ、機体を大きく傾けて弾丸の嵐をかわし、FRが逆に正和機へと迫る。
 だが、正和機と擦れ違おうとした敵機の右翼の先を、突如として空中に出現した電撃が青白い腕を伸ばし、絡め取った。
『‥‥その程度だと思ってるから当たるんでしょうね』
 G放電装置を構えたまま後退し、憎悪すら感じさせる声音で吐き捨てる雫。荒れ狂う電撃を纏い、一瞬バランスを崩した獅子座のFRを、前後左右に展開した僚機がすかさず取り囲み、しっかりと包囲する。
(「‥‥目標はCW2機‥‥墜とせるものから、撃墜する」)
 FRの注意が包囲網に向いている隙に、麗歌のワイバーンが空中で大きく旋回し、初撃のK−01ミサイルで装甲にヒビの入った2機のCWを目標に定め、猛スピードで距離を詰めていく。そして、敵を射程に捉えるなり、速度を落とさないまま、ロケット弾を撃ち放った。
 真横から攻撃を受け、バラバラに弾け飛ぶCW。それの最期を見届けることもせず、麗歌は、続けて射程に入った2機目に向けて、更に二発のロケット弾を叩き込んだ。
 そして、同じくワイバーンを愛機とするラルスが、その機動力を生かして包囲網の外側を回り、残る2機のCWを視界に捉える。
「頭痛の種もそろそろ尽きます‥‥でしょうか」
 スナイパーライフルの砲首を上げ、引き金を引く。回避が間に合わず、機体の一部を銃弾にえぐり取られたCWが、大きく揺らめいて黒煙を上げた。

『私は赤霧・連です』
 外部スピーカーを通じ、連が呼び掛ける。
 町を破壊し、人類を蹂躙し、支配せんとする侵略者であり、招かれざる客の、バグア。
 連は、彼らの真実を――心のうちを知りたかった。
『思いが重なるまで、納得するまで戦いましょう』

『UPCの犬にも満たぬ害虫共が――思い上がりも甚だしい!』
 ルウェリンが叫ぶや否や、FRの猛反撃が開始された。
 桃香の展開した煙幕を貫き、幾条ものプロトン砲の光が空を引き裂く。
 即座に操縦桿を切り、機体を反転させて回避しようとした連機の腹の装甲を、高威力のレーザー光が広範囲に渡って吹き飛ばし、二撃目が左翼の一部を大きく抉った。ぐらりと傾いだアンジェリカの向こう側で、後列の千糸機、新居機が即座にブーストを起動し、回避の機動をとる。
「く‥‥っ! 避けきれない!!」
 操縦桿を思い切り引き、ロールを描く機体の尾翼を、撃ち込まれたプロトン砲に飛ばされ、必死に出力を調整する新居。やや離れた空では、加速した機体を側転させて回避しようとした千糸機が、背中側の装甲を軒並み剥ぎ取られ、無残な姿を晒していた。
「プロトン砲ですか。‥‥これもできれば喰らいたくないですよねぇ」
 煙幕の中へと逃げ込んだ桃香機を追い、猛進してくるFR。
 だが、なんとか包囲網を崩さず、立ち塞がった連・千糸・新居の3機に行く手を阻まれ、急旋回して再び後退する。
『精が出るわね、バグアの小間使いさん!』
 再び距離を取り、対峙したFRに、千糸が挑発的な言葉を投げつける。
 包囲網の外側で、安則の雷電が損傷したCWを発見し、G−01ミサイルを発射、FRの足元にあたる空間に、爆炎を巻き上げた。そして、そのすぐ横に浮かぶ最後のCWを見咎めると、そちらへも攻撃を叩き込む。
「これで――最後ですね」
 ラルス機の撃ち放ったライフルの弾丸、そして安則のミサイルがほぼ同時に装甲を突き破り、機体の半ばを吹き飛ばされたCWが、黒煙を上げながら地面へと墜落していく。
「さぁ、畳み掛けるわよ!」
 千糸の合図とともに、煙幕を突き破り、螺旋弾頭ミサイルがFRに横合いから襲い掛かった。旋回してそれをかわしたFRの前に、ミサイルを追うようにしてブースト接近していた桃香機が現れ、超伝導アクチュエータを起動、その翼に搭載されたソードウィングで以て、装甲の一部を斬り飛ばす。
 桃香機を避けようと動いた敵機を、ブレス・ノウを用いてその機動を予測していた千糸機・新居機のスナイパーライフルが狙い、銃弾がFRを掠めて飛んだ。
「‥‥合わせれば‥‥届く‥はずっ!」
 シェスチ機の放ったAAMが、僅かに急上昇したFRの速度を追えず、あさっての方向へと飛んで行く。そこへすかさず突入してきた連機がFRと肉薄し、SESエンハンサーで威力を増したレーザー砲を撃ち込んだ。
 さすがに通常の機動では避けきれないと判断したか、FRは出力を一気に上げ、恐ろしいまでの急加速――ツインブースト起動に踏み切った。
「‥‥そこ‥‥せめて牙1本‥‥砕かせてもらうよ!」
 一瞬で連機のマークを外れたFRは、今、シェスチの眼前に。
 今が好機と、マイクロブーストを発動させたシェスチのワイバーンが、下方から突き上げるようにして接近する。
 FRの背後からは麗歌機の螺旋弾頭ミサイルが発射され、上空からはアグレッシヴ・ファングで一撃必殺を狙う正和機が急降下をかける。そして足元から襲い掛かるのは、白く輝くシェスチ機の剣翼だ。
「命を喰うだけの奴が‥‥暴れてさえいれば頂上に登れるなんて、出来の良い夢でも見たかい?」
 シェスチ機の剣翼が唸り、紅く塗られた装甲を大きく引き裂く。前方に逃れようと動くFRを正和機の銃弾の雨が襲い、背後から迫り来る麗歌機のミサイルが、再びツインブーストを起動して回避した敵機の姿を見失って飛んで行った。
「敵機は――‥‥桃香さん! そちらです‥‥!」
「――!」
 雫の声に、桃香が動く。
 一瞬のうちに雷電の前へと移動してきたFRに向け、桃香が螺旋弾頭ミサイルの発射ボタンを叩き、同時にブーストをかけて突進する。
 一発目を外し、距離を詰めた桃香機が、二発目のミサイルを撃ち込む。紅い機体の背で派手な爆炎が巻き起こり、更に、ラルス機の放ったもう一発のミサイルが着弾する。爆炎と黒煙が渦巻く中、一気に肉薄した桃香機の剣翼が、すかさず敵機尾翼の一部を薙ぎ切った。
『「一機で防がれるなら三機で叩きこめ」が貴方の口癖だったそうですね。‥‥では、それ以上では如何ですか?』
 目の前に充満する爆煙を見つめ、ラルスが問い掛ける。

『――虫ケラにしては上出来だと、褒めてやろう』
 爆煙が過ぎ去り、紅く煌く機体が露わになる。
 そして、空に――溶けた。

『だが、お遊戯は終わりだ。我が目的、果たさせてもらう!』
「光学迷彩――!」
 千糸機が、咄嗟に照明銃を打ち上げる。だが、桃香の張った煙幕に映るは、僚機の影のみ。
 安則機・千糸機・正和機・桃香機・シェスチ機にロックオンアラートが鳴り響き、危険を知らせる。
 ブースト・機体特殊能力を起動して回避の機動をとろうとする5機を狙い、包囲網の外から、突如として現れる数百ものミサイル子弾の群れ。
 ある者はラージフレアで回避を、ある者は武器を向けて迎撃を試みるも、無数の子弾の前に、次々と被弾。爆炎に機体を灼かれ、爆風に巻かれて装甲を剥ぎ取られていく。
 更に、別の方向から撃ち込まれたプロトン砲が、正和機、シェスチ機、ウーフーを庇った連機を襲い、完膚無きまでに叩きのめした。
 機体を引き千切られ、墜落して行くアンジェリカとR−01改。連と正和が乗った脱出ポッドが射出されるのが見えた。
 なんとか撃墜を免れたシェスチもまた、激しく損傷した機体を駆り、キメラ戦へ移行すべく、FRとの戦闘空域を離脱して行く。
 見えない敵を、傭兵達が捜す。ウーフーのコックピット内で、雫が計器類を必死に見比べる。
 弐番艦の援護を受けても尚強い、バグアのジャミング。狂わされたレーダー、前方しか索敵できないIRST、僅かに影を映す照明銃。
 錬力消費の大きい光学迷彩を使用するとは思わず、十分な対策を取っていなかったことが悔やまれた。

 そこから、戦局は一気に、獅子座へと傾いた。
「橋頭堡!!」
 千糸が叫ぶ。
 ツインブーストを起動し、猛スピードで橋頭堡へと突進する赤い悪魔が、遥か下方の空に姿を現した。
 即座に全機ブースト・機体特殊能力を起動、全速で急下降し、FRを追う。

 建造中の橋頭堡。FRの登場に逃げ惑う地上の兵士たち。
 それらのものがハッキリと見え始めた頃、FRの爆撃は行われた。
 橋頭堡のやや手前に投下された何かが、一瞬光を放ったかと思うと、超高温の熱波が周辺を襲った。

 追い付いた傭兵達が、持てる限りのミサイルを、銃弾を、FRへと向け、真っ赤に沸するクレーターの上空から敵機を引き離そうと攻撃を再開する。
 ミサイルと弾丸の嵐をその赤い機体に甘んじて受け、放たれたプロトン砲が桃香機の装甲を剥ぎ、千糸機を貫き引き千切る。
 再びツインブーストを起動したFRの、その進路上――後列にいたラルス機と麗歌機が、一瞬のうちに、敵の砲撃に遭って片翼を失った。
『我が目的は橋頭堡の破壊。いつまでも貴様らと遊んでいるつもりなど、無い』
 爆炎と爆風に満ちた空で、獅子座が嘲笑う。
 傭兵達の攻撃をその身に受けながら、残り少ない錬力を燃やし、加速して大空を突っ切って行く。

「撤退――か‥‥」
 一応の目的を果たし、青い空へと消えていく、赤い悪魔。
 それを見つめながら、安則が一言、ポツリと呟いた。達成感など、感じぬままに。


    ◆◇
 全長数キロに及ぶ、巨大橋頭堡。
 獅子座によって破壊されたのは、そのうちの数十メートルに過ぎない。
 一般兵の死傷者数は、16人。うち5人が即死、後に3人が死亡した。

 FRの攻撃を受けたにしては、被害は軽微であったと言えるのかもしれない。
 敵を錬力不足へ導き、橋頭堡への爆撃を一度だけに留めた傭兵達には、後に、『作戦成功』の一言のみが伝えられた。