●リプレイ本文
「くっ‥‥何てことだ‥‥」
44個ものヅラに埋め尽くされた会議室の真中で、ヴィンセント・南波(gz0129)は早速、打ちひしがれていた。
「まさかの本物様が降臨とはな‥‥さすがの俺も、今回ばかりはびっくりしちゃったぜ‥‥!」
「ええ〜? そんなに珍しいかなぁ?」
アフロカツラの検証に挑む10人の前に立ち塞がった、本物アフロ――彩瀬・梨衣(
gb1382)。
本物様の前では、並居るヅラも所詮は模造品。
「いいなぁ、俺もそのうち‥‥ううん、無理かな‥‥」
梨衣の頭上に燦然と輝く赤い膨らみを羨ましげに眺めつつ、空閑 ハバキ(
ga5172)が残念そうに肩を落とす。
毛乳頭の強度に自信がない人にとって、『攻撃力5』のパーマはハードルが高すぎるのだ。
「これはもはや、『女王』と呼ばざるを得ないよね」
何故か唐突にそんなことを言い出した南波に、ハバキとクレイフェル(
ga0435)が悪ノリして便乗する。
「女王!!」
「女王!!」
「ちょ、ちょっと、怖いってば〜!!」
なんか知らんが自分を崇め奉り始めた集団を前に、梨衣は、困惑しつつ全力で会議室内を逃げ回った。
「100と20回ひいても当たらない〜♪ 80回引いたころから、入れ替わりでなくなったー♪ 私の名前は阿野次 のもじ(
ga5480)! 好きな掛け声はタンタンドゥ! アフロかつらを貰い受けに来たわ、南波りんよろしくね」
「机の上は靴脱いで上がってね」
長机の上でふんぞり返るのもじを見上げ、南波は、捕獲した梨衣をギリギリセクハラにならないラインで解放しつつ、注意する。
「で何故、攻撃力が上がるかだったわね、ナンバりん」
のもじは、何も聞いちゃいなかった。
「それは――アフロが魂の結晶、否、魂の爆発だからよ」
「あっという間にアフロの季節だね。温かいよね。オサレだし」
「検証すべきは当たらへんハリセンの方やと思う!」
のもじの話も、誰も聞いちゃいなかった。というか、皆、今日という日を好きに生きていた。
自前のレインボーアフロでぬくぬくしているハバキを、愛用のハリセンでドツいてみるクレイフェル。虹色アフロが、もさり、とハリセンを優しく包み込む。
「例え脅威の1000マンぱわーでもアフロを捨てれば、もはやボス敵相手に力負けも否めない995マンぱわー!」
「はい、前世の記憶が甦っちゃったんだねー。あっち行ってようねー」
南波は、ワケのわからない事を口走りながら暴れ出したのもじを引き摺り下ろし、とりあえず、そのへんの床に転がしておいた。
すると、椅子に腰かけたUNKNOWN(
ga4276)が、真剣な瞳でアフロカツラを見つめている様子が目に入った。
「こいつは‥‥危険な奴だ。ヴィンセント。若いお前は、まだあの恐ろしさを知らんだろう」
やや離れたスチール机に置かれたアフロカツラ。
卓上ライトの光が、静かにその膨らみを照らしていた。
「以前、そう、あれはまだ初夏の頃だったと思う。L・Hの茶室での事件だ‥‥」
妙に神妙な面持ちで、彼は話し始める。
「あの時、ある女が水着を着るのに出した条件――私が水着を着たら‥‥そう、スクール水着を着たら、と。私は着て見せた」
「いや、何やってんの」
「ついでに別の女が生着替えで浴衣に着替えた時だ。アフロも被ったのはいいが‥‥難易度高い危険な依頼出発を控え、脱げない、取れない。――出発直前まで苦しんだよ。アレは危ないものだ。大変強力に‥‥己に攻撃してくる」
「いや、だから何やってんのソレ」
南波がチョイチョイ入れる素朴な疑問もスルーし、机に肘をついた姿勢を崩さぬまま、アフロカツラ相手に鋭い視線を送るUNKNOWN。
――と、一通り話し終えると満足したのか、彼は、急に立ち上がり、
「あとは、だが。アフロといえばボクサー‥‥ハングリーになり、強く慣れるのかもしれん。男の世界、だからね。うん」
打って変わって軽い感じで、割と適当にそう言い放つと、卓上ライトを消して片付けを始めてしまった。
「アフロカツラ‥‥だと‥!? ‥ヴィン大尉‥君は‥このような巨大な敵を相手に‥今まで一人で‥!!」
そんなもん他人を巻き込むほうがどうかと思うが、部屋の隅でアフロカツラを抱え、震えながら南波を見ている変な人は、夜十字・信人(
ga8235)である。
彼が変なのは珍しいことでもないので、心配は要らない。
「どうして攻撃力が上がるか教えてあげるよ。暗器が隠せるからだよ。――え? 被る以外? んー、胸に着けて胸毛とか?」
「む。いや、胸はそのままで。勿体無いからね」
おもむろにアフロカツラを胸元に持って行った梨衣を、すかさず止める信人。
折角の巨乳がヅラに埋もれるなんて、人類の大いなる損失に他ならない。
「‥‥何でボク、神戸まで来て‥カツラなんて相手に頭を捻らなきゃならないんだろう‥」
信人の隣で、芹架・セロリ(
ga8801)は、本当にその通りな台詞を口にしていた――否、相棒のてんた君(てんたくるすのぬいぐるみ)の頭をガジガジと激しく口にしていた。
「てか、神戸まで来たら牛だろうがぁーーーー!!!」
「こら、ロリ! 暴れるんじゃありません。はい、どうどう。どうどう。はっはっは、暴れ牛さんめ☆」
机の下でガスガス本気蹴りを入れてくる暴れ牛さんなセロリを、牛っぽい感じで宥める信人。
そのまた隣で、真剣な顔をしつつアフロ頭に変身しているのは、芝樋ノ爪 水夏(
gb2060)である。
「考えれば考えるほど、深みに嵌ってしまうような気がします」
ヅラを触ってみたり、仕掛けがないか確認してみたりしている水夏の真剣さに心打たれたか、信人もまた、手の中のものに視線を落す。
「うむ。しかし、このようなものを被ったところで‥」
「ヅラアターック!!!」
「甘い! ラウル、お前の力はそんなものか!! あー、よっちーゴメーン」
その時、ラウル・カミーユ(
ga7242)と南波が投げて遊んでいたヅラが、ふわり、と美しい放物線を描いて、信人の頭に着地した。
「‥‥」
無言のまま、再びガクガク震え出す信人。
「‥‥何だ。いきなりカレーが‥ボクの頭の中に、新しいカレーの姿が!」
そして彼は、ヅラを被ったまま、何やら使命感に燃える瞳で会議室を飛び出して行ってしまった。
何度も言うが、信人が変なのは普通の事なので、誰も気にしたりしない。
「ちゅーかアフロに負けるハリセンって‥‥俺のハリセンは辛うじて攻撃力上やけど」
「空気抵抗? 手元がスベッてツッコミもスベる〜♪」
「どー見たってアフロのが空気抵抗激しいやないかいっ!!」
ハバキのアフロ頭目掛け、ハリセンを振るうクレイフェル。
だが、なんという事だろう。スパーン、と景気の良い音が響くかと思いきや、もふり、とアフロに呑み込まれたハリセンは、その命たるツッコミ音すら抹殺されてしまったではないか。
「ぬう。恐るべし、アフロ。負けるな、ハリセン‥‥!」
クレイフェルは、あまりの悔しさに膝を着き、肩を震わせた。
「うーん、攻撃力が上がるってことは、武器につけるんじゃないのかな? 南波さん、武器とか借りられない?」
一方、何やら創作意欲溢れる口調で南波に声を掛けてきたのは、弓亜 石榴(
ga0468)であった。
鼻眼鏡Lv6を無意味に装着し、ラウルのヅラ攻撃をかわし続けていた南波は、彼女の申し出に、肩で息をしながら振り返る。
「え、何? 武器って?」
「ロケットパンチとか」
言われた南波はしばし考え、部屋の隅っこに転がっていたペットボトルを拾い上げると、何か作り始めた。
ちょっとワクワクしながら見守る石榴。現在、南波に彼女がいないことは、既に調査済みだ。
(「ラウルさんと夜十字さんが怪しいと思ったけど‥‥」)
一体何故、そこで薔薇な香りを入れてしまうのか知らないが、ともかく石榴の調査では、南波には彼氏もいないらしかった。
「重体の子は、ペットボトルロケットで我慢しようね」
出来上がったものを、はい、と石榴に手渡し、満足気な南波。
「な、夏休みの工作じゃないんだから‥‥」
石榴は、不満そうな顔をしながらも、一応、ペットボトルロケットの先端にアフロカツラを装着し、自転車用空気入れで空気を注入。
そして――
発射。
「ええいっ。さっきからハリセンの話ばっかりやな――ぶぐおぁッ!?」
一直線に飛んだロケットアフロが、クレイフェルと漫才して遊んでいたハバキの顔面に、ものの見事に突き刺さった。
「す、すごい! 見た目のシュールさに、攻撃力が加わってる!!」
頭にレインボー、顔面に茶髪のアフロをめり込ませた、もう何が何だかわからない状態で床に倒れているハバキを前に、石榴はすっかり興奮した様子で、勢い良く南波を振り返った。
「この実験結果は、KVの開発にも応用できるんじゃないかな? アフロ型KVとかアフロ強化パーツとか」
「まて、アフロ型KVって何だ。アフロ頭のKVなのか、それとも全体的にアフロなのか。それが問題だ」
石榴の提案に、熱い議論タイムに突入する南波。無論、痙攣しているハバキは放置である。
「――くっ、こーなったら、俺が! 俺がお前の分まで検証したるからな!!」
首から上が全面アフロなハバキを揺すり、クレイフェルは、涙を拭うフリをする。
そして、どこからともなく運んできた瓦をドンドコ積み上げたかと思うと、巨大ハリセンで空を一閃――瓦の山を、半ば程まで粉砕してみせた。
「実証ってことは力を示せばええねんな? おのれアフロ! 俺のハリセンと勝負や!!」
「ええ〜? やめた方がいいよぉ?」
「とりゃーっ」
梨衣が不安気に止めるのも聞かず、掛け声一発、クレイフェルは、アフロを装着するなり、突然、額を瓦の山へと叩きつけた。
――覚醒もせずに。
「ギャーーー!! 額割れたーーー!!!」
「‥‥‥」
数枚割れた瓦の横で、額からブシーッと盛大な血飛沫を上げつつ転げ回るクレイフェル。
言わんこっちゃない――とでも言いたげな視線が、無駄に負傷しちゃった彼に集中する。
――と、そこへトコトコ現れたのは、のもじと南波である。
「ちょっと見てマイケル!」
「どうしたんだい、キャサリン」
血みどろなクレイフェルと、痙攣中のハバキを見下ろしたのもじは、何やらTV通販風の語りと共に、いきなり、二人の傷口にアフロを激しく擦り付け始めたではないか。
「すごいわマイケル! アフロを擦りつけた部分の傷が、あっという間に消えてしまったのよ!」
「消えるかーーーいッ!!!」
あまりの痛さにギャアギャア喚き、飛び起きた負傷者二人が会議室内を逃げ回る。
「ま、まさか、アフロ姿を見て脱力してしまった相手の防御が下がって、相対的に攻撃力が上がると言う意味なのでは」
そう言ってしまってから――水夏は、気付いた。
もはや誰一人、マトモに検証などしていないのだという事に。
「‥‥大尉さん、会議室にAU−KV持ってきても良いですか?」
「? いいよ?」
水夏は、アフロのままAU−KVを装着したらどうなるのか――そっちの方が気になってきた為、南波の許可を得て外へと出て行ってしまった。
「ですから、ボク、アフロカツラとかどうでも良いです。牛とカ、牛とか、牛とか出てこない限り、やる気とか出ません」
水夏も信人もいなくなった空間で、退屈そうに呟くセロリ。
「‥‥ね、相棒。あなたもそう思‥‥」
てんた君、そして、アフロカツラを交互に見つめ、そして――
「キターーーー!!!」
「うおっ!? どうした、ロリ!」
「なんてこった‥‥この二つ、合体させたら‥‥」
突然の奇声にビビって転んだ南波を無視し、てんた君にアフロカツラを被せてみるセロリ。
なぜか防御が5上昇するてんた君。そして、攻撃が5上昇するアフロカツラ。
「やっべぇ、これ、やっべぇ。もっさヤベェ!! おい、見ろ! これで俺は防御も攻撃も5位上がっちゃったぞ!!」
「‥‥‥」
無敵のてんた君を抱き締め、ルンルンで踊りまくるセロリ。
――携帯品だから、何も上がらねぇよ‥‥。
あまりに嬉しそうなセロリの様子に、誰もが顔を見合わせ、その一言を飲み込んだのであった。
◆◇
場所は変わって、神戸の繁華街。
アフロカツラを被り、ナンパに挑もうとするラウルを、近くのベンチで見守る南波。
ナンパ――それは、アグレッシブなパワーを必要とする行為である。各カツラでの成功率、及びタイムを計り、その違いを検証しようという作戦だ。
「ねえねえ、良かったらお茶でもしナイ?」
「‥‥えっ‥」
微妙に引き気味の神戸っ娘をナンパすること数分。ラウルは、南波が妙に静かなことに不安を覚え、振り返る。
南波は、コンビニの複合機でスピード印刷したらしき写真を封筒に入れ、まさに今、ポストに投函せんとしていた。
「浮気者は報告しちゃうゾー☆ 投・函♪」
「ぎゃーーー!! 何てコトをぉぉぉ!!!」
ちらっと見えたその封筒は、明らかにエアメール。
何と南波は、ラウルのナンパ現場の写真を、北米にいる『一番知られちゃマズい女性』に送りやがったのである。
アフロなラウルは、しばらくポストの前で打ちひしがれ、沈黙した。
「よ、よくも裏切ったな! こーなったら全リセットしてやるーーー!!!」
怒りに燃えたラウル。南波のポケットにガッと手をやると、中から、楕円形の携帯型育成ゲームを4機ほど掴み出し、次々とリセットボタンを押していく。
「うお!? 待て! それだけはヤメテーー!!! ペット殺しーー!!」
「うるさいなっ! 僕の方が泣きたいよっ!!」
「イヤーー!! 同じ子は二度と生まれてこないノーー!!」
神戸の街に、育ちに育ったレアキャラの断末魔が、ピー‥‥と虚しく木霊した――。
◆◇
「さあ、このアフロカレーを食べて欲しい」
とりあえずグダグダだった検証も一段落――もとい、みんな飽きてきた頃、信人が運んできたのは、何やらもっさりとしたカレーであった。
過剰にブチ込まれたブロッコリーとカリフラワーが、煮込み過ぎでバラバラに分解され、鍋の中身が全体的にお粥レベルのどっしり感を醸し出している。
皆、一応一口食べてみて――首を傾げた。
何かモゾモゾするものの、まあ、普通のカレーだ。
「お分かりいただけただろうが、このカツラを装着した状態で制作したカレーは――」
信人は、そこでいきなり胸を張ると、自信満々に、こう言い放った。
「5スコヴィルほど何時もより辛い!!!」
「イエース☆アイアムエライヒト〜」
何にも聞いちゃいないのもじが、バールのようなものを振り回し、平気で信人の台詞を遮って大騒ぎする。
「――思ったのですが」
カレーと血とヅラにまみれた会議室の片隅で、水夏が羊羹など摘みながら、セロリと共に冷静な目で一同を見回していた。
そして、言う。
「販売元か開発元に問い合わせれば良いのではないでしょうか?」
‥‥‥
‥‥‥
検証終了。