タイトル:【神戸】snowconcerto Aマスター:桃谷 かな

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/01/19 17:25

●オープニング本文


 親バグア派拠点より帰還した諜報員によってもたらされた情報は、すぐさま兵庫UPC軍上層部へと伝えられた。
 現在、兵庫県内のバグア勢力の多くは、北西の香美町と新温泉町に集中しており、基地の建造が開始されている。
 最優先攻撃目標は、UPC豊岡基地、そして、意外なことに、明石海峡大橋であった。
 明石海峡大橋は、淡路島のKV演習場や格納庫と本州を繋ぐ交通の要であり、緊急時は滑走路としても使用可能だ。破壊されれば、海上交通も一時遮断され、物資の輸送に支障が出るだろう。
 特に攻撃目標もないはずの兵庫県中北部の山中に現れた、敵エースHW。人類側の護りが固い東側を避け、西側から大回りで明石に接近できるルートを探していたのではないか、と推測される。
 また、確定情報ではないが、兵庫バグア軍を総轄する指揮官は、人間の女の姿をしており、エース機パイロット・上月 奏汰は、その副官のような位置付けではないか、というものもあった。
 そして、親バグア派の拠点は県内に複数存在し、市街地でのテロ、電波ジャックなどを含め、周到な準備が行われているという。
 これを受け、兵庫UPC軍は、県内の警戒レベルを上昇、西側の防衛にも戦力を配置し、バグアの攻撃に備えた。


    ◆◇
 ――兵庫県北西部・兵庫バグア軍拠点。
 荒れ狂う吹雪の中、そこへ降り立ったのは、小麦色の肌を持つ女だった。
 両側にずらりと並び、敬礼を送るバグア兵たちの間を進むと、彼女は、その先に待っていた二人の青年の前で立ち止まる。
「お帰りなさい、プリマヴェーラ様」
「ただいま、心」
 深く頭を下げた黒衣の青年に笑い掛け、プリマヴェーラと呼ばれた女は、もう一人の青年へと視線を向けた。
「奏汰。挨拶ぐらいしなさいね。あたしが留守の間、大した戦果も立ててないでしょ?」
「お忙しいプリマ様には、わかんねー事情があんだよ」
 そっぽを向いたまま、上月 奏汰は、吐き捨てるように言う。
「あたしがいなきゃ何にもできないのかしら? アンタ意外と可愛いのね」
「はぁ? 何言っ――ッ!」
 反論する間もなく、奏汰は、プリマヴェーラの拳を頬に受けて倒れ、地面に体を打ちつけた。
「アンタ達がスパイを逃がしたせいで、兵庫UPC軍の警戒レベルは最高潮よ。殺されたいの?」
 ダン、と踏み下ろされた靴底の衝撃に、奏汰が呻く。心は頭を垂れたまま、静かにそれを見つめていた。
「――いいわ。あたしが出る。ゴーレムを出しなさい。あたしは陸、アンタは空よ。わかったかしら、奏汰?」
「敵が警戒を強めている、今、出撃ですか?」
 心の問いに、プリマヴェーラは、不敵な笑みを浮かべて唇を動かした。
「今だからよ。兵庫全体が警戒状態の今なら、どこを攻めても、敵の増援はそう多く来れないでしょうしね」


    ◆◇
「戦況を説明する」
 兵庫県北部・UPC豊岡基地。兵庫UPC軍大尉、ヴィンセント・南波は、滑走路に降りた傭兵達を前に、説明を始めた。
「この基地から西、豊岡市と香美町の境界付近で、敵前線部隊に動きがあった。こちらの偵察機は5機中4機が撃墜。敵は、陸戦部隊と空戦部隊の二隊に分かれ、相互に連携しながら進軍しているらしい」
 つまり、こちらが空を攻めれば、敵空戦部隊の他に陸からの対空砲火を受け、陸を攻めれば、今度は敵陸戦部隊に加えて上空からの対地攻撃をも相手にしなければならない、というわけである。
「よって、こちらも隊を分け、陸と空から同時攻撃で迎撃する。君達には、空戦担当として動いてもらう」
 少し離れたところでは、陸戦担当の傭兵達が、同様に作戦の説明を受けていた。
 白い雪が舞い、吹きつける風が冷たく肌を刺す。基地を取り囲む山々は、一面の白に染められていた。
 南波は、やや間を置いて小さく息を吸うと、言葉を継ぐ。
「確認された敵空戦部隊は、小型HW3機とCWが5機。そのうち1機のHWは、三日月のエンブレムがついた有人のエース機だ。パイロットは、兵庫バグア軍副官と思われる。油断しないように」

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●依頼内容
・UPC豊岡基地へと進軍してくる敵空戦部隊を、殲滅、もしくは撃退してください。
・尚、陸・空ほぼ同時に戦闘が展開されますので、どちらかが失敗した場合、もう片方が一時的に陸空両方から敵の攻撃を浴びる可能性があります。

●参加者一覧

花=シルエイト(ga0053
17歳・♀・PN
月影・透夜(ga1806
22歳・♂・AA
平坂 桃香(ga1831
20歳・♀・PN
緋室 神音(ga3576
18歳・♀・FT
夜十字・信人(ga8235
25歳・♂・GD
ヴァレス・デュノフガリオ(ga8280
17歳・♂・PN
龍深城・我斬(ga8283
21歳・♂・AA
烏谷・小町(gb0765
18歳・♀・AA

●リプレイ本文

 香美町と豊岡市の狭間に聳える山の麓に広がるのは、雪に覆われた田園地帯。ひらひらと舞い落ちる粉雪が、止まる時を知らぬノイズのように視界を過っては、暗い空と白一色の大地とを繋いでいた。


 先行の陸戦部隊より敵発見の知らせを受け、9機のKVが国道を飛び立った。
「エース級が居るとは言え決して規模の大きい戦力じゃない、なのに偵察隊は四機も落ちた‥‥なにかもう一つ二つあるはずだよなあ」
 前方の空を見据え、訝るような声音で眉根を寄せる龍深城・我斬(ga8283)。
「新年早々出撃か‥‥バグアの連中も忙しいものだ。此処まで労働意欲に溢れているならば、サーヴィス業にでも向いているんじゃないかね」
「バグアに正月って関係あるんやろか‥‥」
 金色のイビルアイズ――ゲシュペンストに搭乗した夜十字・信人(ga8235)のぼやきに、烏谷・小町(gb0765)が首を傾げる。
「ヴィンセント、エースを知っているようだが、生前の操縦のクセとかはあったか? それと‥‥可能な限り落とす、それでいいな」
 ウーフーに搭乗したヴィンセント・南波(gz0129)にそう尋ねたのは、月影・透夜(ga1806)であった。
「‥‥墜とす気で臨んだ方がいいね。癖‥‥っていうか、そもそも自分の事しか考えてないような奴で」
 南波は、少し考えるような間を置いてから、答える。
「‥‥攻撃を避ける時、機首を左か上に向ける確率が高かったような気がする。だが、当時とは大分違う機動を取ってるようにも見えたな」
 戦闘機動が変わったのは、慣性制御のHWに乗り換えた為か、それとも、死してバグアのヨリシロとなってしまったか。
 そして、「ただの強化人間なら、癖も残ってるかもだけど」と、南波が小さく付け加えたその時、各機の計器類が軒並み異常を示し始めた。
「バグアめっ‥‥日本でこれ以上好き勝手な事はさせないんだからっ」
 月森 花(ga0053)が地上の電子戦機との間で取り決めた通信回線にもノイズが混じり出し、聞き取り辛い。
「‥‥ボク達が陸と空にいる事を後悔させてやろうね」


    ◆◇
 計器を乱され、視界を遮る雪の向こうに、3機のHWとCW群が姿を現す。
「作戦開始‥‥目標、敵指揮官。――っ」
『アケマシテオメデトウ? 新年の挨拶、受け取れよ!』
 敵機発見と同時、暗い空にプロトン砲の光が閃いた。
 咄嗟にラージフレアを展開し、機体を反転させて回避を試みる花のウーフーに、敵エース機から放たれた三条の光が集中し、その装甲を次々と弾き飛ばす。
「――アイテール【アグレッシブ・フォース】起動‥‥ここで落ちなさい!」
「挨拶は返さないといけませんよねぇ?」
 緋室 神音(ga3576)、そして平坂 桃香(ga1831)が、敵エース機へとブーストをかけて接近する。CWの怪電波が満ちる中、神音機のガドリングが唸りを上げ、機体を左に傾けて回避した敵機の背面を、超伝導アクチュエータを乗せた桃香機の剣翼が切り裂いた。
 すかさず神音機が発射したレーザー砲、そして桃香の多目的誘導弾が敵エース機へと迫る。
『はは! ブレてんぞお前ら。ダイジョーブかぁ?』
 酷い頭痛に狂う照準。奏汰は、機体をくるりとロールさせて難なくかわした。
『うっさい! お前に心配されんでも、CWぐらいすぐ全滅させたるわ!』
 CWを発見した小町のディアブロが、大きく旋回して敵エース機を迂回し、加速する。
 そして、試作型スラスターライフルの弾丸がCWを斜め上から貫き、蜘蛛の巣のようなヒビを生じさせたのを見て取ると、そのまま突進して剣翼で追撃をかけた。
 四散したCWが破片を撒き散らす中、ロッテを組んだ透夜機と信人機が、向かって左側に浮かぶHWへと接近する。
「タイミングはこちらで合わせる。コンビネーションで撃ちこむぞ」
 透夜機の背後についた信人機が、試作型スラスターライフルの砲首を上げる。吐き気を催す怪電波に歯を食い縛り、信人は雪の中の敵機を見据えた。
 透夜機の長距離バルカンが火を噴き、HWが突然の急降下を見せる。10発の弾丸がわずかに掠めたその背部目掛け、信人機の砲が撃ち放たれた。だが、不意を突いたはずのその一撃もまた、大きく機体を傾けたHWに避けられ、傷を付けることは叶わなかった。
「かわされたか‥‥ヴァレス、サイコロの配置予測座標を送る。ステーキを焼き上げてくれ」
 CWを何とかしなくては――と、信人は、他の電子戦機から送られてくるデータをもとに、雪空では視認し辛いCWの居場所をある程度予測し、それをヴァレス・デュノフガリオ(ga8280)へと伝達する。
「‥‥やれるか? アハト・アハト‥‥!」
 ヴァレス機がPRMシステムを起動、CWへの長距離狙撃に向けて照準を合わせていく。
 透夜機と信人機に挟まれたHWが再び急上昇を見せ、我斬機のマークを受けるもう一機が、反対に機首を下げて急降下を始める。撃ち放たれたプロトン砲が、行く手を阻む透夜機と我斬機の装甲を削って弾き飛ばした。
「コイツら――ウーフー狙いかよ!」
 長射程のプロトン砲が、降り注ぐ雪を貫き、二機のウーフー目掛けて襲い来る。南波が起動させた煙幕装置から黒煙が噴き出し、暗い空を覆う。
「‥‥また来た‥‥」 
 花は、再びラージフレアの子弾をバラ撒き、ブーストを起動して回避を試みるも、避け切れなかった三発のレーザー光に左翼の半分を灼き切られ、背部の装甲を軒並み剥ぎ取られた。
 自機と花機が散らす破片の間を縫い、南波のスナイパーライフルが二機のCWを狙う。弾丸が二機の中枢を貫き、揚力を奪われた敵機が大地へと墜落して行った。
「のろいぜ! サイコロ!!」
 CWに向け、ヴァレスが8.8cm高分子レーザーライフルの引き金を引く。システムに補正された照準は外れることなく、光輝くエネルギー弾が、CWを内部から大きく爆裂させた。
「吹雪いてるって事はSSが居るのかね? MRなら十二面体倒してから即他も叩けば何とかなるが」
 我斬機が高度を上げ、 HWを狙ってスナイパーライフルを構える。敵の陣形は、中央にエース機、その左右にHWが一機ずつの逆三角形。
 彼は、レーダーと熱源探知に注意を払いながら、急上昇して来るHWの機首に一撃を加えた。さらに、そのままブースト加速をかけて敵機に肉薄すると、超伝導アクチュエータを起動、バルカンを向け、引き金を引く。飛び出したペイント弾が敵機の背面に見事命中し、オレンジ色の花を咲かせた。 
「‥‥援護します」
 煙幕の陰から抜け出した花機が、左右エンジンの出力を調整して飛び、敵機を補足する。
「人が乗っていようが‥‥所詮、辿る運命は同じ‥‥」
 敵エース機は、神音機と桃香機に挟まれ、それでも戦域中央を外れるような機動は避けているらしい。花は、神音機と桃香機が肉薄したその瞬間を狙い、G放電装置を起動した。
 青白く、嵐のように荒れ狂う電撃の蔦に絡め取られ、一瞬その動きを止める敵エース機。桃香機の放った螺旋弾頭ミサイルが光の中で爆裂し、暗い空を炎が食む。ブースト突入した神音機が、動けぬ敵をレーザー砲の一撃で灼き貫いた。
『逃がしませんよ。離れたら見えにくいですし』
 エース機の注意が花機へと向かぬよう、桃香機が外部スピーカーをONにしたまま目標へと接近していく。翼の白刃が唸り、わずかに後退して回避した相手の背に、今度は神音機の放ったホーミングミサイルが炸裂した。
「基地には行かせないよ‥‥」
 体のあちこちに痛みが走る。花は、これが最後の一撃になるかもと、ある種の覚悟を決めながら、エネルギー集積砲の砲首を上げた。
 そして、引き金を引く寸前、CWの減少で回復しつつあるレーダーに、何かが映り込む。
「――敵増援確認‥‥左右から、来るよ‥‥」
 雪幕の向こうから、戦域を二方向から挟撃するかの如く、二機のHWが姿を現した。その砲がともに自機、そして南波機に向いていることを感じ取り、花は、煙幕の方向へと逃げ去りながら、そのうちの一機に向けてエネルギー集積砲を撃ち放つ。
 空中で擦れ違う二つの光。エネルギー弾がHWの装甲を大きく剥いだのと、花のウーフーがプロトン砲に貫かれて機体爆発を起こしたのとは、ほぼ同時であった。
 幾つもの炎の塊となって墜ちていくウーフー。その中に、無事切り離された脱出ポッドを確認した直後、南波の機体に激しい衝撃が走る。
「やはりあったか。そっちは任せた。こいつを追い込む」
 増援の二機のうち、一機が自分の方へ向かってくるのを確認した透夜は、自機と信人機で挟んだ敵機から殲滅にかかった。
 透夜機のヘビーガトリングが背後からHWの腹を抉り、信人機のスラスターライフルの一撃が、仰け反るように機首を上げてかわした敵機の鼻先スレスレを飛んで行く。そして、後転して態勢を整えようとするHWのその隙を見逃さず、透夜機の剣翼が閃いた。
 側面を切り裂かれ、墜落していくHW。アグレッシブフォースを起動させた透夜機は、自機と敵エース機の間に立ち塞がった増援の一機をもかわさず、そのまま真っ直ぐに擦れ違って剣翼の一撃を加える。
「堕ちろ、カブトガニ」
 そして、透夜機の背後から現れた信人機が、斬り口から黒煙を上げてもたつくHW目掛け、至近距離からスラスターライフルを撃ち放った。背から腹へと貫通した弾丸に機体の中枢をやられ、HWが墜ちて行く。
 次々に墜落するHWの間を滑り、小町のディアブロが二機のCWへと加速する。スラスターライフルの弾丸が一機を撃ち抜き、そのまま減速することなくさらに剣翼の一撃を加えて敵機を沈めると、小町機は、すぐ隣のもう一機へと向きを変え、再び擦れ違い様にその装甲を切り裂いた。そして、小町機が去った直後、ヴァレスの放った大型ミサイルポッドが着弾、CWは、呆気なくその身を四散させる。
「こちら亡霊。是より本機は魔眼を開く。展開時間40秒‥‥。勝負所だ!」
 接近してきたヴァレス機の背後へと回り、信人は、対バグアロックオンキャンセラーを展開した。周囲の重力波が乱れ、一気にその効果範囲を広げていく。
『‥‥んあ? 何だコレ?』
 不意に、奏汰が不思議そうな呟きを漏らした。
 HWの放ったプロトン砲は、ヴァレス機を外れて彼方へと飛んで行き、もう一発もまた、簡単に受け止められる。
「250発の小型ミサイルだ。方向さえ合っていれば‥‥幾ばくかは‥‥!」
 PBMを起動し、ヴァレス機が放ったK−01ミサイルの子弾が、敵エース機を包み込むようにして襲い掛かった。
 だが、
『ンな大層なモンに当たってられっかよ!』
 機首を右に向け、追い縋るミサイルを誘導するかのように旋回した敵エース機は、なんと、側にいたもう一機のHWの陰を通過し、それにミサイルを集中させることで自機の被弾を逃れた。
『‥‥お前、バグアか? それとも強化人間か? どっちにしろ変わってないな!』
 盾に使われて炎を上げるHWに、南波の放ったミサイルとレーザー砲が命中し、派手に爆散した。
『俺が『どっち』か? どーでもいいだろ。‥‥てか、そこの新型。お前だろ?』
 外部スピーカーから奏汰の声がうるさく響き、ジャミングの元と思われる信人機目掛けてプロトン砲の連射が撃ち放たれる。
 信人機を護るヴァレスのシュテルンが、一撃を浴びてわずかに揺らぐ。二条の光が信人機を貫き、右翼と装甲の一部を完全にもぎ取られた。
 HWに我斬機が迫り、上空からレーザー砲の連撃を浴びせ掛けて装甲を灼く。動きの鈍った敵機に小町機が素早く接近し、真正面からスラスターライフルの弾丸を撃ち込み、それを沈めた。
 そして小町は、信人機へと迫る敵エース機を射程に捉えると、アグレッシブフォースを起動、G放電装置を展開する。
『不意打ちが卑怯? こっちに気付かんお前が悪い!』
『あっは! そーゆーのは嫌いじゃねぇよ?』
 轟音を響かせ、触手のような放電に機体をまかれながらも、奏汰は、小町の皮肉に笑って答えた。
 電撃を纏ったまま急加速してきた敵エース機のガトリング砲が、ヴァレス機を弾き飛ばす。そして擦れ違い様に撃ち込まれた二条のプロトン砲が、信人のイビルアイズを二つに割り、左翼をも吹き飛ばした。
「三日月のエンブレム、同じだな。だが込められた意志が違う。闇を切り裂く光としてのな」
 空中分解を起こした信人機の真横を通過し、透夜機、神音機、桃香機が同時に三方向から敵エース機へと突入していく。
 透夜機のヘビーガトリングが放つ銃弾の嵐を避け、上昇した敵機に、神音機のAAM、そして桃香機の螺旋弾頭ミサイルが同時に着弾し、一時空に爆煙が満ちた。
 風に流れる黒煙の中、透夜機の剣翼が敵機を掠めて甲高い音を立て、神音機のレーザー砲が撃ち込まれる。一瞬揺らいだ敵機は、下方から斬り込んできた桃香機の剣翼をかわし切れず、装甲を裂かれたところに、真正面から透夜機の螺旋弾頭ミサイルの一撃を受けて炎に包まれた。

「こいつらが囮という可能性は‥‥考えすぎか」

 一機になっても退く様子のない敵エース機。前線部隊と呼ぶにはいささか少なかった敵戦力。
 透夜は、僅かに疑問を覚え始めていた。その呟きに、南波が反応を見せる。
「‥‥いや。確かに少ない。‥‥地上の様子を見た方がいいかもな」
 低い声でそう告げて、陸戦部隊と通信を繋ぎながら、慎重に高度を落としていく南波機。その上空で、再びG放電装置を展開した小町機が敵砲に撃たれ、赤い破片を散らした。

 各機のコックピットに内蔵されたデジタル時計が午後三時を示し、ピッ、と電子音を鳴らす。

 ヴァレス機と我斬機が上下から敵エース機に接近し、レーザー砲の連射を浴びせる中、敵機は小さく機体を回転させてそれを避け、そして、突然に向きを変えた。
「急に‥‥何だ?」
 我斬機が動きを止める。
 小町の発生させた青い放電の海に沈み、透夜機のヘビーガトリングが敵機の装甲に大きく傷を付けた。そして、透夜機の放った弾頭ミサイルを機体の側転でかわした敵機は、神音機のホーミングミサイルの直撃を受けながら、唐突に後退し始めたのだ。
「――逃げるつもり?」
 神音機と桃香機が、香美町方面へ移動し始めた敵機に向け、ブーストを起動する。
 だが、その時、遥か下方を舞う雪の間から、南波のウーフーが戻ってくるのが一同の目に映った。

『陸空の敵機が、同時刻に撤退を始めた! 何かおかしい!』

「えっ――?」
「やはり‥‥囮、か?」
 加速を踏み留まった桃香の視界の端を、敵エース機が猛スピードで撤退していく。
 透夜が眉根を寄せ、低く呟いた。
 
『基地にアースクエイクが向かった可能性が高い――全員、基地へ戻れ!』
 南波の言葉に、空に残った傭兵達は、戸惑いを隠せぬまま、再び編隊を組んで豊岡基地の方向へと機首を向ける。


 舞い落ちる雪の中、奏汰の駆るエース機の姿は、もう、どこにも見えはしなかった。