タイトル:【神戸】snowconcerto Bマスター:桃谷 かな

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/01/22 17:52

●オープニング本文


 親バグア派拠点より帰還した諜報員によってもたらされた情報は、すぐさま兵庫UPC軍上層部へと伝えられた。
 現在、兵庫県内のバグア勢力の多くは、北西の香美町と新温泉町に集中しており、基地の建造が開始されている。
 最優先攻撃目標は、UPC豊岡基地、そして、意外なことに、明石海峡大橋であった。
 明石海峡大橋は、淡路島のKV演習場や格納庫と本州を繋ぐ交通の要であり、緊急時は滑走路としても使用可能だ。破壊されれば、海上交通も一時遮断され、物資の輸送に支障が出るだろう。
 特に攻撃目標もないはずの兵庫県中北部の山中に現れた、敵エースHW。人類側の護りが固い東側を避け、西側から大回りで明石に接近できるルートを探していたのではないか、と推測される。
 また、確定情報ではないが、兵庫バグア軍を総轄する指揮官は、人間の女の姿をしており、エース機パイロット・上月 奏汰は、その副官のような位置付けではないか、というものもあった。
 そして、親バグア派の拠点は県内に複数存在し、市街地でのテロ、電波ジャックなどを含め、周到な準備が行われているという。
 これを受け、兵庫UPC軍は、県内の警戒レベルを上昇、西側の防衛にも戦力を配置し、バグアの攻撃に備えた。


    ◆◇
 ――兵庫県北西部・兵庫バグア軍拠点。
 荒れ狂う吹雪の中、そこへ降り立ったのは、小麦色の肌を持つ女だった。
 両側にずらりと並び、敬礼を送るバグア兵たちの間を進むと、彼女は、その先に待っていた二人の青年の前で立ち止まる。
「お帰りなさい、プリマヴェーラ様」
「ただいま、心」
 深く頭を下げた黒衣の青年に笑い掛け、プリマヴェーラと呼ばれた女は、もう一人の青年へと視線を向けた。
「奏汰。挨拶ぐらいしなさいね。あたしが留守の間、大した戦果も立ててないでしょ?」
「お忙しいプリマ様には、わかんねー事情があんだよ」
 そっぽを向いたまま、上月 奏汰は、吐き捨てるように言う。
「あたしがいなきゃ何にもできないのかしら? アンタ意外と可愛いのね」
「はぁ? 何言っ――ッ!」
 反論する間もなく、奏汰は、プリマヴェーラの拳を頬に受けて倒れ、地面に体を打ちつけた。
「アンタ達がスパイを逃がしたせいで、兵庫UPC軍の警戒レベルは最高潮よ。殺されたいの?」
 ダン、と踏み下ろされた靴底の衝撃に、奏汰が呻く。心は頭を垂れたまま、静かにそれを見つめていた。
「――いいわ。あたしが出る。ゴーレムを出しなさい。あたしは陸、アンタは空よ。わかったかしら、奏汰?」
「敵が警戒を強めている、今、出撃ですか?」
 心の問いに、プリマヴェーラは、不敵な笑みを浮かべて唇を動かした。
「今だからよ。兵庫全体が警戒状態の今なら、どこを攻めても、敵の増援はそう多く来れないでしょうしね」


    ◆◇
「‥‥戦況を説明します」
 兵庫県北部・UPC豊岡基地。UPC北中央軍所属・UPCキメラ研究所の研究員である琳 思花は、滑走路に降りた傭兵達を前に、説明を始めた。
 普段は北米の研究所にいるはずの思花が、なぜ兵庫にいるのか――それには、理由がある。
 現時点で、傭兵たちにその理由が説明されることはなかったが、ともあれ、現在の彼女は、一時的に兵庫UPC軍大尉であるヴィンセント・南波の指揮下にいるらしい。
「‥‥この基地から西――豊岡市と香美町の境界付近で、敵前線部隊がこちらへ向け、進軍を開始しました‥‥。戻ってきた偵察機は‥‥1機だけ。‥‥相手は、陸戦部隊と空戦部隊に分かれて‥‥相互に連携しながら攻撃してくるようです‥‥」
 要するに、こちらが陸を攻めれば、敵陸戦部隊の他に空からの対地攻撃を受け、空を攻めれば、今度は敵空戦部隊に加えて地上からの対空砲火が打ち上げられる、というわけである。
「今回は‥‥こちらも隊を分け、陸・空で同時に迎撃します。‥‥あなた方の担当は‥‥陸戦です」
 ちらつく雪の向こうに、空戦担当の傭兵たちの姿が見える。
 基地の屋根も、山も、木々も、皆、白銀の雪の世界に埋め尽くされていた。
「‥‥今のところ、敵の陸戦部隊は‥‥エース機と思われるゴーレムが1機、タートルワームが2機‥‥その他に、CWが5機確認されています‥‥。エースゴーレムは有人機と思われますが‥‥パイロットは不明です」

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●依頼内容
・UPC豊岡基地へと進軍してくる敵陸戦部隊を、殲滅、もしくは撃退してください。
・尚、陸・空ほぼ同時に戦闘が展開されますので、どちらかが失敗した場合、もう片方が一時的に陸空両方から敵の攻撃を浴びる可能性があります。

●参加者一覧

幸臼・小鳥(ga0067
12歳・♀・JG
西島 百白(ga2123
18歳・♂・PN
藤村 瑠亥(ga3862
22歳・♂・PN
セージ(ga3997
25歳・♂・AA
三田 好子(ga4192
24歳・♀・ST
宗太郎=シルエイト(ga4261
22歳・♂・AA
鈍名 レイジ(ga8428
24歳・♂・AA
赤宮 リア(ga9958
22歳・♀・JG

●リプレイ本文

 降り積もる雪が、全てを白く染めていた。
 国道脇の森も、山も、点在する民家の屋根の上も、重く冷やかなそれに覆い尽くされ、色のない世界へと埋没していく。
「お久しぶりです。思花さん‥‥いえ、今は琳 大尉でしたね♪」
 琳 思花(gz0087)の雷電を斜め前に見ながら、赤宮 リア(ga9958)は、そう声を掛けた。
「‥‥私に階級はないよ。いつもと同じ――研究所で使う被検体を捕まえに来ただけ。‥‥強化人間をね」
「強化人間‥‥。そう、なのですね‥‥」
 元気そうでよかった、と付け加えた思花に、リアは、少し口を閉ざして黙り込む。
「親バグア派の拠点は県内に複数存在、ですか。‥‥同じ人類でどうして、なんでしょうね‥‥」
 三田 好子(ga4192)の呟きに、鈍名 レイジ(ga8428)がコックピットの中で、ふっと息を吐いた。
(「‥‥大概にしてほしいぜ。地球が人から喰われていくようで気に入らねェよ」)
 9機のKV以外に音を立てるもののない銀世界に、計器の歪みを示す微かな音が混じり始める。
 好子のリッジウェイ、幸臼・小鳥(ga0067)のシュテルンが、狙撃銃を携え、森の中へと消えていった。
「敵機確認。作戦開始です」
 延々と続いた木々が途絶え、一面の白い大地が目の前に広がる。その中に立つ藍色の機影を見つめながら、宗太郎=シルエイト(ga4261)は、空戦部隊へと通信を入れた。
 聞き慣れた声で返ってくる、了解、の一言。
 宗太郎は、白い雪に隠された空を一度だけ仰ぎ、覚醒した――。


    ◆◇
 木々の間から撃ち放たれた二発の弾丸が、敵エースゴーレムに正面から襲い掛かる。
「援護は‥‥任せてくださぃー‥! 少し遠い‥‥でも‥・負けないですぅー!」
CWの怪電波を受けず、かつ命中させられるギリギリのラインからの小鳥の攻撃は、相手の右脚を掠め、蒼い色を雪上に落とした。
 西島 百白(ga2123)、藤村 瑠亥(ga3862)、宗太郎=シルエイト(ga4261)、三田 好子の四機が周囲に地殻変化計測器を打ち込み、全機それぞれの目標を補足すると、陣形を展開した。
「‥‥面倒事が‥‥増えそうだ‥‥」
 百白が呟く。幾つも打ち込まれた計測器が、接近しつつあるアースクエイク群の気配を感じ取っていた。
「まだ遠い。来るまでに、こっちを片付ける!」
 計測器の示す方向と距離を各機に送り、宗太郎は、目の前の敵へと注意を戻す。
『我が名は赤宮リア! 貴方達を此処より先へ行かせる訳には参りませんっ!!』
『ハイハイ、Oi♪ UPCのワンワン達は元気でいーわね!』
 うふふ、と、笑うエース機の女パイロット。機剣を構えるその周囲に、円月輪が一つ、フワフワと浮遊していた。
「始めるか‥‥」
 エース機の左右後方にTWを発見するなり、百白機がうち左側の一機目掛けてブーストを起動する。
『あらら、せっかちな子』
 いきなり、百白機にエース機の収束フェザー砲が撃ち込まれ、機体右側面から大きな破片が吹き飛んだ。
「接近戦しか‥‥能が無いんでな‥‥こいつと俺は‥‥」
「西島さんそっちは任した。とっととこっちを片付けて駆けつけるからな」
「鈍亀野郎が、空見上げてる暇なんてねぇぞッ!」
 損傷部からバチバチとスパークを飛ばし、それでも一方のTWへと辿り着く百白機。セージ(ga3997)のシュテルンと、レイジ機が、文字通り長い首で空を仰ぎ、対空砲火の態勢を見せるもう一方のTW目掛けて飛び出していく。
『あたしの名前はプリマヴェーラ・ネヴェ!』
 前進するレイジ機が、脚部に一発、腹部に一発のフェザー砲を浴びてよろめき、エース機を引きつけんと立ちはだかったリア機もまた、機盾越しの衝撃に、腕の関節部が軋む音を聞く。
『殺してあげるわ。ワンちゃん達』

「行くぞ‥‥ミカガミ。空への脅威は‥‥排除しなければな‥‥」
 怪電波に顔をしかめ、百白がブレる視界の中でソニックブレードを何度か振るう。対空砲火を邪魔され、TWは刃を回避しながら、威嚇するかのように大口を開けた。
 セージの『リゲル』が対戦車砲を放ち、もう一体のTWがかわしたところへ、ブースト接近してきたレイジ機の機剣が振り下ろされる。前肢を傷つけられて吼え、TWは、動き回るレイジ機とセージ機を交互に見ながら、モタモタと巨体を動かした。
「どうした! この程度ついて来れなきゃ話にならないぜ?」
 前へ踏み出したセージ機がヒートディフェンダーで空を薙ぎ、なんとか避けるTW。だが、ほぼ同時に突き出されたレイジ機の二撃目を見逃し、長い首の根元に刃が突き立った。
「舞台は速攻で整える。エースの相手、頼んだぜ!」
 エース機と対峙するリア機、瑠亥機の横を通過し、宗太郎のスカイスクレイパーがグレネドランチャーを発射する。二機のCWの中間に着弾した弾が、膨大な炎を吐いて爆発し、周囲の雪を気化させながら敵機を焼いた。
「見せてやろうか‥‥吹雪よりも強烈な、蒼の疾風をよ!」
 宗太郎機のレーザーガトリングから吐き出される合計100発もの光の弾丸が、焼け落ちていくCWの側面をハチの巣のように穿つ。露出した地面に墜ち、砕け散ったCWの破片が雪の中に舞い踊った。
『痛いの痛いの飛んでけー、なんてね。冗談抜きで邪魔だからさっさと消えて下さいね♪』
 森の中から響く好子の声。百白の背後で、CWが一機、スナイパーライフルの弾丸に撃ち抜かれてヒビに覆われる。試作型高性能照準装置のおかげか、好子は、雪の中のCWですら見逃すことはなかった。
「右だ! こちらにあわせてくれ!」
 瑠亥の合図に応え、リア機のレーザー砲がエース機を狙い、雪上を突き抜ける。ふわりと浮き、身を翻してかわす敵機に、今度は瑠亥機の放った15発のミサイルが襲い掛かり、別の方向からはさらにリアの攻撃が撃ち込まれた。
『あら、素敵な連携。惜しいっ』
 新雪を舞い上げ、二機の攻撃を紙一重で綺麗にかわすエース機。瑠衣は、その様子に小さく舌打ちしながらも、接近するアースクエイクの存在に注意を払う。
「下だ、気をつけろ!」
 複数のアースクエイクの反応が、ほぼ直下の地面を揺らしている。瑠亥が各機へと警鐘を鳴らす中、思花の雷電がスナイパーライフルを構え、好子の一撃でダメージを負ったCWを撃ち抜き、墜とした。
「‥‥いっそ出てきてくれた方が‥‥やりやすんだけど」
 足元を気にしながら、思花がガトリング砲の引き金を引く。弾丸の嵐がCWを襲い、内部から一気に爆裂させた。

 百白機が一機で引きつけていたTWが、巨体を揺らしてプロトン砲の砲首を動かす。
「‥‥面倒だな」
 そして次の瞬間、ディフェンダーを構え、防御態勢に入った百白機目掛けて、高出力のレーザー光が発射された。
 受け止めた機剣を大きく捻じ曲げ、百白機を襲うプロトン砲。装甲を軒並み剥ぎ取られ、内部構造を一部剥き出しにしたミカガミが、溶けた雪の上でフラフラと右腕を振るう。
「黄龍神の力‥‥冥土に土産話として‥‥持っていけ」
 突進してくるTWに向けて、百白機が雪村を発動させる。一瞬だけ生まれた光がTWの甲羅を切り裂き、突き刺さるのと、敵機の体当たりを受けたミカガミが倒れるのとは、同時だった。
「クソッ! 間に合わなかったか!」
 もう一機のTWが頭を下げ、レイジ機目掛けてプロトン砲を撃ち放つ。そしてさらに、機体を反転させて避けたレイジ機をそのままに、もう一発がすぐそばのセージ機を襲った。
 咄嗟にヒートディフェンダーを突き出して受け流そうとしたセージだったが、その威力に負け、機体左肩に被弾して踏鞴を踏む。
「ふう、危ない危ない。気を抜けば落とされる‥‥か。嫌いじゃないぜ。そういうの」
『ほらほらどうしたの? あたしを食い止めるのは誰かしら?』
「――くっ!」
 前進してきたエース機のフェザー砲が、機盾を前に構えた瑠亥機に連続して飛来する。
『あなたの敵は、こちらにもいます!』
 あまりの高威力に機盾ごと左腕を飛ばされ、腰部の装甲を根こそぎ持っていかれた瑠亥機から注意を逸らそうとしたリア機の頭部に、勢い良く飛んできた円月輪が命中した。
 無機質なアンジェリカの首が、ボトリ、と地面に落ち、転がる。
「援護しますぅーー‥!」
 スナイパーライフルの弾がエース機を掠め、ブースト加速した小鳥機が森の中から姿を現した。同時に、前進していた敵機が、少し後ろに退がる。
「皆が‥‥他の敵を相手にしている間‥‥ゴーレムは私達で‥‥なんとか抑えましょぅ」
 そしてもう一発、好子機の放った弾丸が、最後のCWへと突き刺さった。煙を上げて空中で静止したそれに、宗太郎機が機槍を携えて突進し、一息に中心部を突き貫く。
「これで通信網も多少回復――」
 CWを墜とし、再び後退して呟いた宗太郎。その瞬間、粉雪舞う暗い空を落ちてくる、幾つもの炎の塊が視界に入る。
「あれは――!」
 森の中へと墜ちて行った機体は、撃墜された空戦部隊のウーフーであった。それが誰のものであるかを直感的に悟り、宗太郎は、思わずコックピットの壁に拳を叩きつけて沈黙する。
『砲兵は逃がすわけにはいきませんよー、だって貴方達が一番兵隊さんを殺しちゃうんでしょ?』
 飛び出してきた好子のリッジウェイが、百白機を倒したTWに急接近し、腕に生やしたライトニングクローを力の限り叩き込む。思花のレーザー砲が連続して撃ち込まれ、頭部と甲羅を貫かれたTWが、脱力してその場に崩れ落ちた。
「そんな攻撃が当たるかよ。ほら、こっちだ!」
 TWの放ったプロトン砲を、PRMシステムを起動させたセージ機がギリギリでかわし、高温の機剣が敵の後肢を灼き、斬り飛ばす。バランスを崩した敵機の隙を見逃さず、レイジは、ハイ・ディフェンダーを振るって逆側の前肢を斬り落とすと、そのままその切先を相手の頭部に潜り込ませ、止めを刺した。
「EQが‥‥遠ざかってる、か‥‥?」
 全機が共有する計測器のデータを見ながら、レイジが眉を顰める。
 直下にいたアースクエイクの反応が、そのまま通過して行っているように見えるのだ。
「さぁ‥もう、遠慮は致しませんよっ!!」
 ブースト空戦スタビライザーを起動させたリア機、そして瑠亥機が、加速してエース機に迫る。
 左側から瑠亥機が突き出す機槍をかわした敵機に、右側から撃ち放たれたリア機のレーザー弾が着弾した。さらにリアは、隠し持っていたスパークワイヤーを解き放つ。
『うわぁ!?』
『かかりましたねっ‥‥本命はこちらですッ!!』
『あたれば痛いぞ‥‥もっていけ!』
 片足を絡め取られ、隙を見せたエース機に、SESエンハンサーの効果を乗せたリア機の試作剣『雪村』――そして、PRMシステムで最大まで威力を上げた瑠亥機の機槍が、両側から同時に突き込まれた。
 空から降って来たイビルアイズが大地を揺らし、態勢を崩したままのエース機から、肩と側面の装甲が剥げ落ちる。
「な‥‥なにかいますぅー‥!!」

 小鳥の叫びが各機のコックピットに響いたその瞬間、リア機の右腕、そして瑠亥機の左脚が、唐突に吹き飛んだ。

「――スナイパーか!」
『狙撃はチャンスを待たないとね? Tchau♪』
 地面に倒れた瑠亥機が、ワイヤーを引き千切ったエース機の機剣に突き刺され、沈黙する。
 円月輪が宙を舞い、リア機の背を切り裂いて火花を散らす。よろめいたリア機に、エース機の機剣が続けて振り下ろされ、機盾ごと左腕が、そして右足が、一瞬のうちに雪上へと落ちた。
 止めを刺そうとするエース機に、PRMを起動した小鳥機が突進し、剣翼を唸らせる。相手を後退させてリア機から引き離した小鳥は、遠くに積もった雪の中から姿を現したスナイパーゴーレムに向け、弾丸を撃ち放った。
「コイツ‥! 指揮官自ら御出座しってかよ」
 レイジ機が加速し、エース機へと迫る。セージ機が放つ対戦車砲をかわした相手にガドリング砲を撃ち込むが、笑い声とともにゴーレムを操るプリマヴェーラに、全弾を回避されてしまった。
 だが、すかさずセージ機がブーストを起動し、エース機に肉薄して機剣を振り被ると、その背後からレイジ機がシールドガンの一撃を放つ。そしてそのまま、機剣をかわした敵機の背に、レイジの刃が大きく傷をつけた。

「EQがいなくなった? 何なの一体」
 ピッ、と、午後3時を示すデジタル音をコックピット内に聞きながら、好子は、敵機が出てくるどころか地面の下を通過して遠ざかって行くのを感じていた。
 思花のライフルが、こちらへと前進してくるゴーレムを撃ち抜く。加速して接近した宗太郎機がレーザーガトリングで光の雨を浴びせ掛けるが、ゴーレムの前進は止まらなかった。
『あはっ、そろそろ帰るわー。Ate logo♪』
 背後に位置するレイジ機を機剣で思い切り薙ぎ払い、ゴーレムを狙撃する好子機に円月輪の一撃を加えながら、エース機は、唐突に宙へ浮き上がり後退を始める。
 まるで、最大加速で前進してくるゴーレムと入れ替わるかのように。
 後退するエース機に、セージ機が対戦車砲を連射し、態勢を立て直したレイジ機もまた、シールドガンを撃ち放って追撃する。慣性制御を操り、こちらを向いたまま器用に撤退姿勢をとる敵機は、それらの攻撃に当たることすら厭わないように見えた。

「EQはどこに向かってんだ!?」
 ゴーレムに接近した宗太郎機が機槍を突き出し、その腰部の装甲を剥いで再び後退する。ゴーレムは、前進を続けたまま、手にしたライフルでセージ機を狙い、撃ち抜いた。
『あんた、シツコイのよ!』
 撤退するエース機に銃口を向けた好子機が、フェザー砲を受けて弾き飛ばされ、よろめく。

「宗太郎! こっちは撤退か?」

 コックピットに響いた声に宗太郎が天を仰ぐと、見える範囲にボロボロのウーフーが飛んでいた。空戦部隊のヴィンセント・南波(gz0129)の機体である。
「エース機はな。アースクエイクの方は――」
 と、そこで、宗太郎は言葉を呑んだ。
 戦闘を離れ、冷静に、計測器の示すアースクエイクの方向を分析する。
「‥‥基地の方に行った!!」

 小鳥機と思花機の銃弾がゴーレムの頭部を撃ち抜き、ブーストを掛けて敵機の背後に回ったレイジ機が、機剣を振るってその片足を薙ぎ斬った。
 大きくバランスを崩したゴーレムに、セージ機がガトリング砲と対戦車砲を撃ち込み、腕ごと敵の武器を叩き落とす。

「――全員、基地に戻れ!!」

 轟音を響かせ、雪上に倒れるゴーレム。
 南波のウーフーが再び高度を上げ、雪空の中に消えていく。

「‥‥シュテルンは先に離陸して‥‥基地に」
 ライフルを下げ、荒れた雪原の只中で、思花が全機に通信を飛ばした。
「アイツは、逃がすか?」
 レイジが思花に問う、その声に、一同の目が香美町のほうへと向けられる。
「あれは‥‥いいから。‥‥陽動、だったのかな‥‥」
 

 白い雪が降り積もる中、藍色のゴーレムが、静かに森の中へと吸い込まれていった――。