タイトル:【El改革】楽園創造計画マスター:桃谷 かな

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/02/26 04:02

●オープニング本文


 ――北米・サンフランシスコ。

 暗幕に覆われ、漆黒の闇に支配された部屋。
 中央に置かれた丸テーブルには燭台が据えられ、揺らぐ炎が頼りない光を放つ。
 のし掛るかのような沈黙と緊張。時計が針を進める音だけが、室内に木霊する。

「――よく集まってくれた」
 丸テーブルに両肘をつき、黒いローブにフードを被った男が、静かに口を開く。
 彼が視線を巡らせた先では、同じように黒ずくめの者たちが椅子に掛け、蝋燭の灯を囲んでいた。
「同志よ。諸君らを呼び立てた理由は――もう、察しがついていることだろう」
 男の言葉に耳を傾け、微動だにせず口を閉ざす一同。強風が窓を打ち、暗幕が揺れる。
「――シカゴだ」
 しばらくして、誰かが声を上げた。
「ユイリー・ソノヴァビッチ。彼女がシカゴに現れた」
「左様」
 男が頷き、肯定する。
 次いで、他の者たちも声を上げ始めた。
「エルドラドの代表――未だ十代半ばの小娘だ」
「君主を失った国。彼女は、それを建て直すと言う」
「愚かな。エルドラドが過去、バグア側についたことは周知の事実」
「学校建設の計画が持ち上がったとか」
「まさにゼロ――いや、マイナスからのスタート」

 愚かなことを。
 口々に、だが淡々と、彼らは言う。

 男は、皆が鎮まるのを待ち、一枚の紙を――記事を取り出した。
「諸君。これは、ユイリー・ソノヴァビッチがシカゴを訪れた際に受けた、インタビュー記事だ」
 記事のコピーが、人の手を介して全員へと渡る。
 ユイリーが記者に語ったエルドラドの理想、そして改革への熱意をまとめたその記事は、一度に読むには少し多いくらいの文章量があり、彼女がどれほどの強い意志を持ってシカゴへとやって来たのかが窺い知れた。
「彼女は今回、特に学校建設に意欲を燃やしていた。そこで諸君、蛍光ペンでチェックを入れてある部分に目を通して頂きたい」
 男の指示に、一同は、薄暗い蝋燭の明かりの下、記事の中からチェックの入った一文を探し、見つけ出す。

 『もちろん学校には避難所としての役目もあり、制服などによる国内の工業需要になることもあわせての考えです』

「制、服‥‥!?」
「制服だと!?」
「学校に‥‥制服!?」

 愕然とした声を上げ、ガタタッ、と椅子から立ち上がる、黒ずくめの男たち。
 よろめき、その場に崩れ落ちる者まで現れた。

「左様‥‥エルドラドには、学校制服の構想があるのだ」
 そして、ゆっくりと、男が立ち上がる。
「マイナスイメージからのスタート。まっさらな国に建てられる、神聖な学び舎。そして、そこに集う、制服姿の無垢な少女たち――」
 腕を天へと伸ばし、血が滲むほどに握り締めて、声を張り上げた。

「萌えるじゃないか!!!!」

 一瞬、部屋を通り過ぎる沈黙。

「「「うおおおおおおおおおおおおおッッ!!!!!」」」

 賞賛の声と盛大な拍手が、部屋を揺るがした。
「うおおおお!! 言われてみれば確かに萌えぇぇッ!!!」
「見ろ! 今のエルドラドは子どもと老人がメインだってユイリーたんも言ってるぞ!! 幼女パラダイス国家設立フラグキターーーーー!!!?」
「制服は膝上20センチ以上でヨロシクぅーーーーッッ!!!」
「ハァハァ!! まっさらな国を萌え色に染めるチャンス!?」
「ニーソ! ニーソ!!」
「健気なユイリーたんは俺の嫁!!!」
「じゃあ俺はエルドラドの美少女5人ほどもらう!!」
「だったら俺は――‥‥」


   ◆◇
「っていうわけでぇ〜‥‥ブフッ。エルドラドの子どもたちのために、チャリティーイベントなんかいいと思うんだよねぇ〜ぐへへへへ」
 暗幕を取り払い、燦々と差し込む陽光の中、汗まみれの男は言った。
 部屋の中には、勝手に『エルドラド萌え萌え制服パラダイス化計画』を妄想して暴れ疲れたヲタクが10人程、転がっている。毎日座りっぱなしで画面の中の美少女と話してばかりいるから、こうなるのだ。
「ハァハァ‥‥売上げと寄付金で、『エルドラド萌え萌え制服パラダイス化計画』を発動するんですね。わかります」
 ぶへへへへへ、と、不気味な笑い声をあげるヲタクたち。汗と脂の臭いが、部屋中に充満していた。
「そうだよぉ〜。聞いた話じゃ、学校資金は集まったけど、制服工場とかは全然らしいからさぁ〜」
 鼻息荒くそう語るのは、マーティン・スミス(37歳・独身)。身長163cm、体重150kgの巨体を揺らし、真冬だというのに和風の扇子で涼んでいる。
「――今こそ我らヲタクの力を世間に知らしめる時、ということか」
 誰もそんなこと頼んでないが、ひとりでシリアスになるヲタクも、中にはいた。

 マーティンがヲタク仲間を集め、提案したのは、エルドラドの子どもたちの救済を主眼に置いた、チャリティーイベントの開催であった。
 イベントの内容は、コスプレコンテストを中心に、有志による同人誌の販売ブースなどを置き、来場したヲタクから入場料と寄付金を募る形式。
 チャリティーの大義名分があれば、きっといつもは隠れヲタクな人たちだって気兼ねなく来れるし、来場者数もそれなりに期待できるだろう、というのがマーティンの読みであった。
 そして集まったお金は、エルドラドの子どもたちに可愛い学校制服を作るための縫製工場建設資金として、現地へと送られる。さらに運良く余剰金が出たならば、不足しがちな小児科医と看護師の現地派遣活動費用や、こども病院の建設費用にも充てる。

 ‥‥というのはまあ、建前で。
 本音を言えば、萌え萌え制服の美少女学園と、女医とナースと少年少女が戯れる楽園をエルドラドに作り、あわよくば現地視察とかに呼ばれたいだけだった。

「その話、我が輩も乗らせていただく! 全てを――賭けようじゃないか」
「ニーソのためなら俺は死ねる‥‥!」
「ユイリーたん待っててね! 制服と萌えと正しい性教育をエルドラドにお届けゴフゲフガハァッッ!!!」
 ヲタク達は、燃えて(萌えて)いた。
 自らの手で制服パラダイスの夢を掴み取るべく、インドア生活で弱った体に鞭打って、使えるコネは全て使う気で、このイベントの成功に命を賭ける。


 それからほどなくして、遠く離れたラスト・ホープの傭兵達のもとにも、『北米ヲタク連合』を名乗る謎の団体から、妙な依頼が届けられた。

 『コスプレコンテスト出場者募集! あなたの萌えを身体で表現してみませんか?』

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●依頼内容
・サンフランシスコで開催されるヲタク向けのチャリティーイベントにて、コスプレコンテスト出場者を募集しています。

●参加者一覧

鷹司 小雛(ga1008
18歳・♀・AA
熊谷真帆(ga3826
16歳・♀・FT
阿野次 のもじ(ga5480
16歳・♀・PN
シーヴ・王(ga5638
19歳・♀・AA
芝樋ノ爪 水夏(gb2060
21歳・♀・HD
レイチェル・レッドレイ(gb2739
13歳・♀・DG
ディアナ・バレンタイン(gb4219
20歳・♀・FT
九頭龍・聖華(gb4305
14歳・♀・FC
舞 冥華(gb4521
10歳・♀・HD
ウレキサイト(gb4866
22歳・♀・DF

●リプレイ本文

 『エルドラドに愛の手を! 萌えは地球を若干救うかもしれない2009!』
 
「コスプレコンテストにチャリティか。ヲタクなりにいいアイデアじゃないの」
「ん、冥華はえるどらどの事よくわからないけど、復興のためがんばってるって聞いた。ん、いべんと成功がんばる」
 露出度的にギリギリな衣装に着替えながら、ディアナ・バレンタイン(gb4219)が呟くと、傍らにいた舞 冥華(gb4521)は、コクコクと頷いてみせた。
「‥‥‥あ♪」
 他の出場者を眺めるウレキサイト(gb4866)。そして、レイチェル・レッドレイ(gb2739)の背後に移動すると、一気に飛び付いた。
「うーん、生着替えの個室はどうやって確保――わぁっ!?」
「うふふ、大きなおっぱいですねぇ」
 自分の巨乳を棚に上げたウレキサイトが、微笑みを浮かべてレイチェルを抱きしめ、胸をまさぐる。
「可愛いですわねぇ。お姉ちゃんって呼んでもらえると嬉しいですわぁ♪」
「ちょ、可愛いのは確かだけどー!」
 ウレキサイトに捕獲され、きゃあきゃあと絶対的な自信に満ちた声をあげるレイチェル。
「‥‥‥」
 それを呆然とした目で見つめているのは、九頭龍・聖華(gb4305)であった。
「わたくしの中の萌えを表現‥‥果たして皆様に受け入れられるか、これもスリルある勝負、ですわね」
 気合いを入れ、鷹司 小雛(ga1008)が愛刀を磨く。
(「何故‥‥我は‥ここに‥いるのだろう‥‥」)
 聖華のこめかみを、滝のような汗が伝うのだった‥‥。



 舞台袖で小道具をセットしていた芝樋ノ爪 水夏(gb2060)は、立ち見まで発生している客席を幕間から覗いて身震いした。
「こんなに沢山の人が‥‥変な格好をしなくて良かったです」
 貪欲な主催者は、コネをフル活用して地元のTV局を呼び、お昼のローカルニュースでコンテストの様子を中継してもらうつもりらしい。ご近所さんの更なる来場を狙っているのだ。
「水夏ちゃぁ〜ん! もう始まるみたいだよぉー‥‥おっと転んだぁ〜!」
「‥‥‥」
 巨体を揺らし、わざとらしく倒れ込んでくるマーティンを、難なくかわす水夏。
「セクハラは禁止です。今度やったら、これで叩きますからね」


『諸君!』
 制服魔法少女『萌えっ子魔女★ぷりてぃマキちゃんXO!』こと阿野次 のもじ(ga5480)が、マイマイク音量全開で観客に呼び掛ける。
「うおおおーーー!! マキちゃぁーーーん!!」
「魔女っ子キターーー!?」
 一斉に沸く客席。のもじはリボンのついた胸を張り、居並ぶヲタク達に人差し指を突き付け、叫んだ。
『私は萌え衣装が好きだ! メイドさんが好きだ巫女さんが好きだ白衣のナースさんが好きだセーラー服の女学生がとてもだい好きだ!』
 一体何を言い出すのか。ポカンと見つめる近所の奥様(非ヲタ)と、ヲタク達との温度差が初っ端から激しい。
『ようじょのあどけなく遊ぶ姿など見ると心が躍る。故に一心不乱の萌え制服を!!』
 TV局のカメラに拳を向けて、のもじが吼える。
『おおおおお――タンタンドウゥ!!!』
「「「タンタンドゥーーー!!!」」」
 謎のコールっぽいものまで登場したところで、のもじの姿がスモークに包まれた。
 そして次の瞬間には――幕が上がり、マキちゃん戦闘形態『スクール水着』に変身したのもじの姿が露わになる。
『一心不乱の萌え制服を! コスプレ大会始まるよ☆ ――エントリーNo.1、華麗に舞っちゃえ! 舞 冥華ちゃん♪』
 既に酸素吸入とかする者が現れ始めた会場に、白梅の花弁と純和風の音楽が舞い踊った。
 舞台袖から進み出る、真っ白な着物姿の小柄な少女。
 その手には花のついた白梅の枝が握られ、着物の裾には洋風のフリルがあしらわれていた。
 音楽に乗せ、たどたどしさを残しながらも、練習の成果を思わせる動きで、冥華は懸命に舞を踊る。
 指先や爪先の動きに出てしまう素人っぽさとは裏腹に、時折見せる大人びた流し目が、ヲタク達の弱った心臓をクリーンヒットだ。
『出だしはシットリ! そしてこのまま逝くぞファッションショー☆ エントリーNo.2、妹萌えの熊谷真帆(ga3826)ちゃん!』
 優雅にお辞儀をする冥華と入れ替わり、飛び出してきたのは、アメリカでは珍しいセーラー服の真帆だった。
「緑一杯のエルドラド‥‥真帆も素敵な制服を着て通いたいなぁ〜」
 手元の本から目を離し、夢見るように遠くを望む。
「そうね! 例えばこんなお洋服っ」
「「セーラーはぁはぁ!! セーラーはぁはぁ!!」」
 セーラー服で一回転する真帆を、思わずローアングル目線でガン見するヲタク集団。
「真帆も転校したいですぅ。お兄ちゃん達の力を貸して下さぁい」
 舞台上に膝をつき、胸の間で両手を組んで懇願する真帆。ここぞとばかりに主催者が客席を回り、寄付集めに精を出していた。
 そしてスモークが焚かれ、舞台袖のマーティンがボールを投げる。
「スタイルの良い南米っ娘に負けないもん」
 体操服に変身した真帆が、ネットボールをキャッチ、ブルマなヒップを客席に向けて見返ると、華麗なドリブルを披露した。
 さらにボールをパス、一気に体操服を脱ぎ捨てると、スカートワンピースのようなスクール水着に早変わり。
「河は危ないけど夏はプールで水遊びしようよお兄ちゃん♪」
『エントリーNo.3、制服といえばこの私! L・Hのリアル女子高生、芝樋ノ爪 水夏ちゃん!』
 緊張した面持ちで登場する水夏。ぎこちなく舞台中央まで進み出ると、何やらカンペを取り出した。
「えっと、ポイントは黒のオーバーニーソックスとミニスカートの間の『ぜったいりょういき』です」
「「ニーソ! ニーソ!!!!!」」
「ニーソ! ニーソ!」
 観客席と、なぜか舞台袖のヲタクから発せられる歓声が体育館を支配し、水夏の声が掻き消される。
 一応、他に説明したいこともあったが、萌えるヲタク共に届いたかは不明だ。
 水夏は、想像を絶する事態に焦りながらも、カンパネラ制服のスカートを翻し、腰に手を当てて怒ったような表情を作る。
「また遅刻ですか? 毎日毎日、注意する身にもなって下さい。今度遅刻したら、家まで迎えに行きますよ?」
 そして、ノリの良いヲタク達の「それでもいいよーーー!」という魂の叫びを聞き、ポッと頬を赤く染めた。
「え、それでも良いって‥‥何を言っているんですか。そんな事を言うと、本当に迎えに行っちゃいますよ?」
「「「ツンデレキターーーーーー!!!!」」」
 のたうち回る数人の最前列組。
(「こ、これは、思った以上に恥ずかしいです」)
 水夏は、顔を真っ赤に染めて舞台袖に逃げ帰って行ったのだった。
『お次は白黒ロリの共演! ぶつかるきょぬーにドッキドキ☆ エントリーNo.4、ウレキサイトちゃん&エントリーNo.5、レイチェル・レッドレイちゃんダー!!』
 黒のゴシック・ロリータにヘッドドレスのウレキサイト、白の甘々ロリータドレスに身を包んだレイチェルが、黒と白の羽根が舞う舞台へと軽快なステップで躍り出る。
「こんにちは、お兄ちゃんお姉ちゃん♪ ボクと一緒に遊ぼうよ♪」
 Hカップの童顔少女、レイチェルが放った一言は、集う男性ヲタクの鼻から鼻息以外のモノまで噴出させ、同時に女性ヲタクをたじろがせた。
「こんなに集まってくれて、ボク嬉しいな♪」
 フリフリの裾を揺らし、ウィンクを飛ばしながら跳ね回るレイチェルの前で、実は彼女の倍以上は生きているらしい童顔女性・ウレキサイトが、ペロリと舌を見せながら、はにかんだような微笑みを浮かべる。
 はち切れそうな胸元を意識的に寄せ、ポニーテールを解いて軽く頭を振って見せた。
 眼鏡を直すウレキサイト、その肩に、さらりとした髪がスローモーションのように解け落ちる。
「うーん、遠くてみんなの顔がよく見えないよぉ」
 と、ここで、レイチェルが客席をぐるりと見渡し、少し考えるような仕草を見せたかと思うと、突然、舞台から客席へと飛び降りたではないか。
「「「「うおおおおおおーーーーーーーッッ!!!」」」」
 殺到しようとする男性ヲタク達と暴走した主催者ヲタクを、まだ良識のあるヲタク達が必死で止める。
 そんな事態もどこ吹く風、レイチェルは、無邪気に客席を駆け抜けると、数人のヲタク達と握手を交わし、頬にキスのプレゼントを贈って回った。
「しっかりしろジム! 傷は浅いぞ!!」
「畜生羨ましいぜーーー!!!」
「「「「うおおおおーーーーーー!!!」」」」
 舞う鼻血。スタッフ通路に逃げ込んだレイチェルを追い、ドミノ倒しになるヲタク。失神者まで現れた。
 舞台上のウレキサイトは、ただただポカンと立ち尽くすのみであった‥‥。


 ――10分後。
『よいですか萌え萌え教の同士達よ。醜く取り乱すのはやめなぬぁさい〜』
 そのへんにいた鉄道ヲタクと基盤ヲタク達の手を借り、騒ぎを収めたのもじは、酸素吸入している観客たちを見下ろし、コンテストを再開した。
『そんなお前らにはお仕置きだ! エントリーNo.6、ディアナ・バレンタインちゃん☆』
「下等な地球人共よ。我々銀河帝国がお前達を支配する。逆らう者は皆殺しだ!」
 ビシィ! と鞭を打つ音が響き、暗い舞台にディアナが躍り出る。
 黒い眼帯にトゲつきボンテージ、形の良いヒップを隠すものは、わずかにTバックの布地のみ。
「ただし! 私に従うというのならペットとして可愛がってあげてもいいわよ?」
 ハイヒールブーツを鳴らし、舞台上で鞭を振るうディアナ。ヒュン、と空を裂く音の後、妖艶な笑みを客席に向けた。
「さあ? 私のペットになりたい者はいるかしら?」
「「「「女王様ああああぁぁぁぁーーーーーッッ!!!」」」」
 再び制止を突破し、舞台ギリギリまで殺到するヲタク軍団。
 ディアナは、舞台の端に立ち、肌も露わな衣装を見せつけるように舞い、鞭を振るった――が、
「あっ!?」
 落ちた。

「あっ、ゴ、ゴメン‥‥ってこら触ってくるんじゃない! お尻に触ったのは誰!?」
 そして、えらい目に遭った。
「おのれ下賎な地球人ごときが! 私に手を触れるなど許されるかと思っているのか!」
 辛うじてキャラを保とうとしつつ、命からがらスタッフ通路に逃げ込むディアナ。
 もみくちゃにされたドサクサで知識のイヤリングを失くす、という女王様の悲しい末路であった。
『続いてこれぞ日本! 鷹司 小雛ちゃん!』
 雅楽の流れる中、紺の袴に胴丸鎧、ポニーテールに鉢金のサムライが、月詠を携えて進み出る。
 閉じた瞼を開くと同時、居合いから始まるダイナミックな剣舞を披露した。
「「おお‥‥!」」
 静まり返った客席に漏れる、感嘆の声。
 黒子なマーティンが持ってくる巻藁を、袈裟、横一文字と続けて斬り飛ばし、最後に、5本並んだものを前に流し斬りを発動して一気に駆け抜けた。
 小雛が刀を収めると同時に、ゆっくりと床に落ちる巻藁。
 客席からの盛大な拍手に少しだけ微笑み、小雛は再び、刀に手を掛ける。
 そして次の瞬間、舞台袖、そして舞台の天井から、十を超える数の小さなボールが彼女に襲い掛かり、肉薄した。
「その程度‥‥!!」
 小雛が刀を抜いた、その時、彼女の衣装が突然床に脱げ落ちる。
「「「えええっっ!?」」」
 驚く観客の前で、さらしに褌姿となった小雛が舞い、全てのボールが真っ二つに割れた。
 チン、と刀を収めて礼をする小雛。彼女が舞台袖に目配せすると、和装の少女が静かに舞台上に姿を現す。
『最後の締めは九頭龍・聖華ちゃん! 自慢の着物で勝負だっ!!』
「‥‥‥」
 注目を浴び、無表情で困惑する聖華。
 褌姿で退場していく小雛を不思議そうに見つめ、とりあえず、舞台上を一周してみる。
(「‥‥皆‥恥かしく‥無いのだろうか‥‥?」)
 結城紬、そして本振袖をきちんと着こなした聖華は、舞台上で静かに礼をした。
 それは、コンテスト終了の合図として受け取られたのだろう。
 逃げ帰って行く聖華にも、盛大な拍手が送られたのであった――。



「私もまだまだ駆け出しですのでぇ、余り多くはお出し出来ないのが心苦しいのですけどぉ」
「あたしも、あんまりいいアイテムないし。現金で寄付するわね」
「これは私と姉からです」
 コンテスト終了後、事務局前では、ウレキサイト、ディアナ、水夏の三人が、それぞれ包んだ寄付金を募金箱に入れていた。
「‥‥我も‥‥アイテムを‥寄付‥する‥‥」
「私はこのアイテムと‥‥あとは、この新刊を売ったお金を寄付しますっ!」
 聖華が、持参したアイテムを籠に入れる。真帆は、『マホ』が主人公の百合百合同人写真集を事務局前に並べ、絶好調な売れ行きにホクホク顔であった。
「えと、真帆のどうじんしかってね。冥華のいやりんぐとかちょこ、いらない?」
 真帆のブースで売り子をしながら、服やアクセサリーをオークションっぽく売っているのは、冥華だ。その頑張りに心打たれたヲタクや奥様方が、通常の2、3倍の値段で交渉している。
「ボクの使用済み‥‥と言うか生着替え付きコスチュームのオークションやってるよー♪」
「「「「うおおおおーーーー!?」」」」
 またしても騒ぎを起こしているのはレイチェルだ。バニーやら制服類やらを着込んで通常の5倍近くの金額を受け取り、物陰にヲタクを連れ込んでいる。
 そして、警備員に見つかった彼女を、小雛とのもじがズルズルと回収して行くのであった。
「ふぅ‥‥みんなホントにありがと〜! 来場者1500人超えたんだよぉ〜!!」
 大勢のヲタクでごった返す事務局前で、主催のマーティンが汗を拭き拭き頭を下げる。
「ちゃんとした工場を建ててくださいね。マーティンさん」
 微笑み、そう言った水夏の言葉に、マーティンは、決意を込めて強く頷き返すのだった。


●結果は?
 盛り上がりまくったコンテストのお陰で、イベントは大成功に終わり、入場料の他、来場した多数のヲタクから寄付が寄せられた。
 会場を市民体育館にして節約したこともあり、ブースの売上や傭兵の寄付、主催者の自腹も合わせると、小さなプレハブ工場建設と最低限の設備購入、当面の工場維持費として十分な金額を集めることができた。
 そして、病院建設とまで行かないが、半ボランティアの小児科医を派遣する費用も残った。
 
 ――そう、やる気満々で立候補してきたマッチョな男性医師一人を派遣できる程度には。

 微妙に打ちひしがれる北米ヲタク連合を尻目に、多額の寄付金と小児科医は、海を超えてエルドラドへと送られていく。

 そして気になる、コンテストの優勝者。
 それは――ボンテージでクールな悪役に徹し、男性のエロ魂と女性ウケで票を伸ばしたディアナであった。

 喝采の中で表彰されたディアナのもとには、後日、マーティンからささやかな賞品が届けられた。
 もみくちゃにされた可哀想な女王様へ――

 ――失くしたのと同じ、知識のイヤリングが。