●リプレイ本文
「――あぁ、来たか無月」
無月のミカガミを確認し、御影・朔夜(
ga0240)が回線を開く。
「彼は本星型と戦った経験があり、そしてその能力を暴いた当人でもある。彼の情報は、必ず役に立つ筈だ」
「ならば、強化型FFについて聞かせてくれ」
リュイン・カミーユ(
ga3871)の求めに応じ、無月は手短に説明した。
本星型HWの持つ特殊なFFは、攻撃の種類を問わず如何なる攻撃に対しても反応し、事前に発動させていない限り、既に為された攻撃に対して効果を発揮することは無い。また、解除のタイミングは限られており、解除することが出来ずに燃料限界を迎える場合もある。
飯島 修司(
ga7951)もまた、それに同意を示した。
「しかし、噂の新型HWにシェイドまで‥‥なんでバイパー達は逃がして貰えたんだろう?」
「シェイド以外の戦力が少な過ぎるのも気に掛かる。陽動か偵察が目的かもしれないな」
呟く龍深城・我斬(
ga8283)に言葉を返したのは、レティ・クリムゾン(
ga8679)。
「‥‥だが、後方に下がっているなら、そのまま前に出こなければありがたい」
「姿を見せながらも傍観姿勢、ですか。まあ、いつでも攻められる、という事の裏返しでしょうが」
時任 絃也(
ga0983)が低く言えば、修司が目を細め、ふっと息を吐く。
「ロスへの進行を防ぐためにも、こちらの弱気は見せられません。皆さん、今回は命がけの駆け引きになりますわよ」
月神陽子(
ga5549)は、そう言って目の前のHUDを睨んだ。
須磨井 礼二(
gb2034)が、眼下に流れる景色を見、そして再び前へと視線を固定する。
「敵うはずもありませんが、甘く見られては困りますからね。‥‥こちらの力を存分にご覧いただきましょう」
彼の機体を、直江 夢理(
gb3361)のフェイルノートが追い抜いて行くのが見えた。
◆◇
シーヴの岩龍、クラークのウーフーが、乱れたレーダー上に敵影を発見、やがて目視で確認する。
前衛に5機の小型、中衛に中型2機。ただ、殆どのCWは中型の背後に隠れており、正確な数を得ることができない。そして、最後列に本星型HWが控え、それらはジリジリと前進を開始していた。
「シェイド‥‥」
白く蟠る雲の下に見える、小さな黒い点。
「強敵だけれど‥僕には、ミユお姉様の妹、リリア・ベルナール(gz0203)を取り戻したいって目標があるっ」
水理 和奏(
ga1500)は、操縦桿を強く握り締めてそれを見据えた。
「ツインブースト・ミサイルアタック起動‥‥ロックオン」
先頭の夢理機が、カウントを始める。
「敵小型全機に大型ミサイルコンテナ確認!!」
「「「何っ!?」」」
「3、2、1、GO!!」
クラークと夢理の声が混じり合うようにして全機に伝えられる。
フェイルノートから吐き出された750発のミサイルが白煙を撒き散らし、橙の爆炎と膨大な量の煙が空を埋め尽くす。
「全機散開して!!」
最悪の事態を察知して、和奏が煙幕装置とラージフレアを展開した。さらに、絃也機、我斬機からも子弾がばら撒かれていく。
「敵K−02、来ます!」
礼二が叫んだ。
HW群が一瞬紅い光を放ったかと思うと、先程の返礼かのように撃ち出された2500発もの小型ミサイルが、傭兵たちの機体へと一気に襲い掛かる。
「この程度ッ!!」
レティ機のファランクス・テーバイが唸りを上げ、自機に殺到する無数の脅威を撃ち落していく。
「テーバイがなかったらと思うと、ゾッとしますね――!」
同じくテーバイに護られ、それでも表面装甲の大部分を剥ぎ取られた礼二機に、さらにプロトン砲が浴びせられる。それに続く和奏のアンジェリカもまた、片翼に大きく損傷を受け、左右の出力を調整しながら爆音の中にあった。
「まだ飛べます‥‥! せめてこのミサイルが尽きるまでは!」
最前衛にいたが為か、最も損傷が酷い夢理機は、最終装甲まで曝け出した状態でなお、ヨロヨロと飛行を続ける。
そして、次々に撃ち込まれる淡紅の光線が煙幕を裂き、我斬機の尾翼の一部を吹き飛ばす。
ミサイルの嵐を神速の機動で掻い潜り、殆ど無傷のままの朔夜のワイバーンと修司のディアブロが、煙幕を抜けて陽子機と合流した。陽子の駆るバイパーもまた、まだ目立った損傷は見られない。
『うふふ‥‥CWはそう簡単に墜とさせないわ‥‥』
幾筋もの光が絶えず襲い来る。レティはブーストを吹かし、それらを紙一重でかわし切った。
「そんな温い攻撃、我の雷電には効かん!」
中型2機が放った大型ミサイルに被弾し、爆炎に包まれたリュイン機を、プロトン砲が穿つ。それでも、鍛え上げられた雷電は損傷軽微のまま、ビクともしない。
そして空に閃く紅光は、煙幕に隠れた絃也機と和奏機、さらに礼二機にも容赦なく降り注いだ。
「さて‥‥シェイドは後ろか? まあ居ないなら居ないで今のうちに叩けるものは叩いとくか」
CWの射程に入ったか、強烈な頭痛に顔をしかめる我斬。だが、それは敵がこちらの射程に入ったという意味でもある。
我斬機に合わせ、陽子機、レティ機、礼二機、さらに夢理機のミサイルコンテナが勢い良く開き、今度は2250発の白条が青い空を埋める。敵編隊目掛けて無数の小型ミサイルが殺到、小爆発の連鎖に渦巻く黒煙が見る見る膨張し、空を侵食していく。
「中型程度に遅れを取る訳にもいかなくてな――悪いが、手早く片付けさせて貰うぞ」
「ええ、その通りですわ」
HWやCWの残骸が地上へと降り注いで行く中、黒煙を抜けてきた中型を朔夜機のD‐03スナイパーライフルが狙う。自機に向けて撃ち出された弾丸を、中型は前方に急加速して難なくかわした。
しかし、かわした先の軌道に現れたのは、太陽を反射して煌く白刃。
「中型程度に時間をかけてはいられません‥‥沈みなさい!!」
ブースト加速した陽子機の剣翼が、中型の装甲を切り裂き、抉る。再び回避機動に入ろうとした中型を朔夜の弾丸が貫き、さらに、陽子機が反転、速度を上げて斬りかかった。
「レティさん、錬力を遣わせることを最優先に」
「ああ。敵が強化型FFを張った後が勝負どころだな」
本星型に向かったのは、修司機とレティ機の2機。修司機の放ったスナイパーライフルの一撃が敵機を掠め、そこへレティ機がブースト接近を試みる。
「まだCWが隠れているか‥‥」
スラスターライフルの全弾をかわされ、レティが小さく舌打ちした。
『‥‥中々速いのね。いいわ‥‥このドリスが相手になってあげる――っ!?』
その瞬間、目の前のレティ機に気を取られていた本星型に、修司機の銃弾が命中した。
「成程。例の賞金首バグアですか」
『異性人バグアがこんな所で何を? 吸血鬼ならば誇りは高くありそうだが』
『‥‥ヨリシロの性質なんて知ったことではないわ。最も誇り高きは私たちバグアよ‥‥』
レティの問いに、ドリスは機体をやや後退させながら、ふっと嘲笑を漏らす。
『この宇宙の頂点に立つ私たちに、人類はヨリシロ候補として選ばれたの。喜びなさい‥‥』
『それは驕りだ、侵略者』
吐き捨てるレティに、ドリスはクスクスと笑ってみせた。
「何時もの事とはいえ、この頭痛は頂けないな」
絃也のR−01改が至近距離で放ったマシンガンの掃射を回避し、HWがプロトン砲を撃ち込んでくる。被弾を何とか免れ、絃也は小さく毒づいた。
「螺旋ミサイルを撃ちます。HWの足を止めて下さい!」
「了解した。頼むぞ」
手近なCWを螺旋弾頭ミサイルで叩き落とした夢理機から、通信が入る。絃也は真正面から小型HW目指して突進をかけ、その周囲にマシンガンの弾をありったけバラ撒いた。
機体損傷は既に限界、全身の痛みに耐え、夢理は眼前のHWに照星を合わせる。
「これで最後――絶対に当てます!!」
血に濡れた手で発射レバーを引いた。
ミサイルの先端がHWの装甲に突き刺さり、内部から機体を大きく爆裂させる。
「‥‥あのドリスの美貌を拝んでみたかったですが――すみません、離脱します」
「わかった。後は任せてくれ」
ふふ、と微笑む夢理。離脱していくフェイルノートを見送り、絃也は次の目標を探して操縦桿を倒した。
「あれ?」
HW目掛けてレーザー砲を放った礼二が、不思議そうな声を上げる。思ったほど出力が出ない。
「ああ、なるほど。CWのせいですね」
礼二はそう判断し、先にCWを捜した。
「小煩いサイコロは、早々に潰すに限る。――しかし、どれだけいるやら」
リュインの雷電は、遠距離からの狙撃に徹している。スナイパーライフルが火を噴き、1機のCWが落下を始めると、僚機の動きに鋭さが戻る。
「CWがいるとは言え、小型相手に梃子摺る訳にはいかんな」
ポツリと呟き、リュインは自機の前方に浮かぶ小型HW目掛け、エンジンを吹かした。そして、敵機が回避機動を取りかけたその瞬間、リュイン機は唐突に失速し、相手の腹の下へと潜り込む。
「相変わらずの軌道だが、喰らいついてやるさ」
慣性制御を駆使し、前転でかわそうとするHWの背部に、螺旋弾頭ミサイルが突き刺さり爆発した。
「たとえシェイドに敵わなくても、僕は――!!」
空中で動きを止めたHWを狙い、スタビライザーとエンハンサーを起動させた和奏のアンジェリカが飛来する。敵機の放つプロトン砲の迎撃を受けながらも、和奏機は至近距離からレーザー弾を撃ち込み、撃墜した。
「わかな砲はまだ取っておくつもりだったけど、仕方ないよね‥‥」
ボロボロに損傷したアンジェリカが、M‐12帯電粒子加速砲の砲首を上げる。
「お願い、当たってーーッ!!!」
生み出された光の奔流が、圧倒的な威力を以って空を貫いた。
轟音が響き、本星型の背部装甲の一部が融解していく。その様を目に焼き付けながら、和奏は基地へと撤退した。
「よし、これで最後です!」
礼二機のレーザー砲が、最後のCWを撃ち抜いた。半透明のキューブがヒビ割れ、四散すると、皆を苛んでいた頭痛が嘘のように消え失せる。
「よし貰った! フルブースト、ソードウイングアクティブ!!!」
CWが全滅したと知った瞬間、我斬はそれまで付かず離れずを保っていた中型目掛け、一気にブーストをかけた。超伝導アクチュエータを起動し、螺旋弾頭ミサイルを撃ち放つ。
「それは見せ玉だ!」
紙一重でミサイルをかわした中型の真上に、我斬機が迫っていた。
◆◇
(「冗談でしょう‥‥なんてタフなの」)
ドリス機が撃ち出した三発のミサイルが、レティ機の側面に命中する。さらに修司機にもプロトン砲を照射するが、2機ともに掠り傷程度しか与えられなかった。
修司機のG放電装置が電撃の嵐を巻き起こし、幾度もドリス機を捕えて放さない。さらにレティ機のバルカンが唸りを上げ、装甲を抉った。
「あれは‥‥エミタ・スチムソン、かな」
シェイドを見上げたレティの視界を、白煙が通り過ぎる。我斬機の放った螺旋ミサイルだ。
(「‥‥え?」)
不意打ちを食らって揺れる機内で彼方此方を打ち、前を向いたドリスの鼻先から、一滴の血液が落ちた。
『い‥‥いやあああぁぁぁっっ!? 鼻が‥血が! 私の、私の顔‥‥!!』
「鼻血でも出たんでしょうかね?」
突然取り乱したドリスの声を聞き、修司が頭を捻る。
『よ、よくも‥! 殺してやる!!!』
「アレに対するなら全力か。俺の機体でどこまでやれるか疑問だが」
墜ちるまで戦う、と決めた絃也が、マシンガンを撃ちながらドリス機へと向かっていく。気付けば8機に囲まれていたドリスは、必死にプロトン砲で迎撃した。
「‥‥張った!」
絃也は、自機がバラバラに空中分解する直前、マシンガンの弾をドリス機の強化FFが弾き返すのを見た。
「追い込みをかけてやろう」
「‥成る程、これが強化型FFか‥」
リュイン機がAAMを撃ち込み、レーザー砲で突進をかける。それを援護するのは朔夜機のスナイパーライフルだ。
我斬機のツングースカが弾丸の雨を降らせ、再び螺旋ミサイルが発射される。
その全てを弾き返し、ドリス機は我斬機とリュイン機を目標に、放電装置を起動した。轟音と電撃が2機を捕え、プロトン砲が照射される。
機体を真っ二つに折り、墜落していく我斬機。そこへ、赤い光を纏った礼二のフェニックスが割り込み、ドリス機の至近で人型に変形する。
「本命はこちらですっ」
真ツインブレイドをかわされた礼二機が、すかさず逆の腕を振るった。だが、虎の子の白雪すらも、強化FFを貫通することはできない。
『墜ちなさい』
飛行形態に戻った礼二機が離脱するよりも速く、ドリス機の砲がそれを撃ち貫いた。
『そろそろ限界では?』
黒煙を上げ、落下していく礼二機の上を抜け、レティ機が敵機に迫る。
『くぅ‥‥っ!!』
バルカンの掃射を全て弾き、ドリス機が後退した。だが、朔夜機による狙撃に阻まれ、それ以上退くことができない。
「ドリス、貴方が強い事など判っています。ですが‥‥今回だけは、それを利用させていただきます」
AAMと螺旋ミサイルを発射し、ドリス機に迫る陽子のバイパー。着弾したミサイルの爆炎を遮り、輝く強化FF。
『あ――!?』
陽子機の剣翼が間近に見えたその時、ドリスの機体が、かくん、と傾いだ。
◆◇
「‥‥シェイド!」
一瞬で眼前に現れた黒い悪魔に、咄嗟に後退する陽子機。だが、シェイドから伸びたワイヤーは、墜落していくドリス機を絡め取っただけであった。
『ドリス、もう結構です』
『エミタ様‥‥』
ドリス機を引き上げ、どこか冷めた口調で言うエミタ。
『エミタさん、偵察だけのご予定でしたら、今回は大人しく、このまま帰ってはいただけませんか? ですが、無理にでも戦うと言うのであれば――』
『私は無駄が好きではありません。ここでKVを数機墜とした所で、何も変わらないことでしょう。大人しく帰るのは、あなた方の方ですよ』
陽子の言葉を遮り、エミタは柔和な声でそう返した。口を閉ざした陽子に代わり、朔夜が外部スピーカーをONにする。
『私達の後ろにいる機体‥‥純白のミカガミが見えるか? 彼は君を追って幾つもの戦場を巡ったそうだ』
彼が示したのは、無月のミカガミであった。
『彼からの伝言だ。「終夜・無月、この名を再度其の心に刻んでおきなさい、次に会う時‥刃と知略を交えましょう」とな』
『‥‥では、その者にお伝え願います。「勇敢と無謀は紙一重。よくお考えなさい」と』
嘲るでもなく、吐き捨てるでもなく。
エミタはただ、淡々とそう告げると、静かに機体を反転させた。
◇◆
「‥‥送られて来たのは傭兵のみ。ロスの正規軍が減少しているのは確かか」
シェイドのコックピットで、エミタはひとり、呟いた。
ただし、代わりに傭兵が配置されているとすれば、厄介だ。正規軍に比べれば統率に欠けるだろうが、個々の能力は侮れない。
(「やはり、中米のバグア軍を動かす他無い――か」)