タイトル:【BD】戦場の赤い薔薇マスター:桃谷 かな

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/12/02 23:02

●オープニング本文


 ドローム社の新型知覚砲撃機「マリアンデール」。
 同社にて開発された高出力荷電粒子砲DR−Mを固定兵装とする為、既に市場に流通しているスピリットゴーストを大幅に改造し、専用ジェネレータと冷却システムを積載した大型機である。
 物理攻撃に特化したスピリットゴーストを知覚武装に対応させる為には、実に多くの障害を乗り越えねばならず、その開発は困難を極めた。特に、DR−Mに搭載された『掃射モード』の使用は機体への負担が大きく、発生した高熱を如何にして機外へ逃すかが一番の課題であったのだ。
 しかし、その問題は、強制開放型装甲と放熱フィン、さらに放熱索を併用することで一応の解決を見た。また、強制開放型装甲は閉鎖時の耐弾性に優れ、結果的にマリアンデールの生存性はスピリットゴーストのそれを上回っている。
 だが、DR−M『掃射モード』使用時の熱管理については未だ不完全であり、冷却のため同兵装の連続使用が不可能となる等、課題を残したままの完成となった。
 使用局面が限られるとの判断から正規軍での採用は見送られたものの、スピリットゴーストの特徴たる高精度高威力の遠距離砲撃、高い耐弾性と生存性を生かした近接戦闘能力、そして、新たに搭載されたDR−Mによる『掃射』――知覚機としてこれら全てに対応した「マリアンデール」は、多種多様な機体を駆り、幾つもの戦場を渡り歩くULT傭兵にこそ相応しい機体である。

 そして、ULT傭兵への貸与が検討される中、完成した試作機の稼働実験が計画された。
 傭兵専用機として最前線での使用にも十分耐える機体であるという証明を得る為、テストパイロットには現役のULT傭兵を雇い、現在最も世界の注目を集めている戦場として、実験の舞台には南米が選ばれた。


    ◆◇
――南米、クルゼイロ・ド・スゥル基地近郊。
「これって、正規軍では採用しない機体なんですよね?」
 青空の下で愛機のウーフーを駆りながら、兵庫UPC軍大尉ヴィンセント・南波(gz0129)が問う。通信先の地上に居るのは、ラスト・ホープから派遣されたUPC特殊作戦軍の将校達である。
『そうだ。しかし、傭兵専用機というのなら、我が特殊作戦軍にとっても無関係ではない』
 武骨な、軍人然とした声が返って来る。遠い地上を見下ろせば、彼ら特殊作戦軍の面々の他、ドローム社の研究員、営業社員、広報社員など、マリアンデールの稼働実験の為に集まった大勢の人間の姿が見てとれた。
 今回の南波の仕事は、稼働実験の一環としてキメラと戦闘を行うマリアンデール及びその他傭兵機の周囲を飛び、ウーフーに搭載した高性能カメラでその様子を記録する事である。
 兵庫UPC軍に所属する彼が何故、特殊作戦軍と共にそのような仕事をしているのかというと――今の時点では秘密らしい。
「キメラ相手の戦闘では、特に問題は見受けられません。記録を継続します」
 マリアンデール試作機3機を含めた傭兵達のKV部隊が空を舞い、数十の中型翼竜キメラ達を蹴散らしていく。
 大規模作戦時に墜ちたビッグフィッシュから湧いたのか、それとも元々野良であったのかは不明だが、それなりの戦闘力を持つはずの翼竜達ですら、KVの前では雑魚に等しい。稼働実験は問題なく進み、遥か下方の地面にキメラの残骸だけが積もっていった。
 全てのキメラを駆逐した傭兵機とマリアンデール、そして南波機が基地へ戻ろうと向きを変えた――その時だった。

『エクアドル方面より敵機出現! 防衛戦を突破し、こちらへ接近中――高速機です!』

 基地からの緊急通信を受け、地上の『観客』達が一斉に退避を開始する。
 南波は機体のカメラをオフにして、その他の装備を確認。基地へ通信を返した。
「兵庫UPC軍ヴィンセント・南波。試作機の稼働実験を終了し、緊急出撃可能です」
『了解。緊急出撃を要請します』
 すると、地上で退避準備中の将校が無線を手に回線を開き、割り込んできたではないか。
『こちらUPC特殊作戦軍。試作機を含め、稼働実験を終了したULT傭兵各機も出撃可能だ。指示を』
「えっ!?」
 稼働実験に参加していた傭兵の持参機体だけならまだしも、試作機のマリアンデールまで、突如襲来したワームの迎撃に向かわせようと言うのだ。驚きのあまり、コックピット内で素っ頓狂な声を上げる南波。
『了解。傭兵各機、緊急出撃を要請します』
 南波より冷静に対応し、敵機の座標データを送信して来る基地の女性オペレーター。物資もKVも足りない南米戦線を生きる彼女的には、使えるものは全て使うのが当たり前、という感じなのかもしれない。

 指示に従い、基地を離れて迎撃に向かう傭兵部隊。 
 その中を飛びながら敵機を目指す南波のコックピットに、先程の特殊作戦軍将校が再び通信を入れて来る。
『マリアンデールの性能を試す良い機会だ。実戦データの記録は継続してくれ』
「‥‥えっ!?」

 更に間の抜けた声を上げる南波。
 そんな彼のウーフーには、基地から送られて来る敵機の情報が次々と表示され、更新されていく。

  敵部隊構成:タロス3機、新型HW『ヒュドラ』2機 (全て有人機の疑い有り)
  敵進路予想:ギガワーム墜落地点方向

「‥‥これ相手に稼働実験とか、厳しくない?」
 KVカメラの電源をオンにした南波の呟きは、残念ながら件の将校には届かなかった。



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●依頼内容
・大規模作戦で密林に墜落したギガワームの残骸へ、エクアドルから高速機5機が接近しています。ドローム社の新型機『マリアンデール』3機を含む編成で、敵機を撃破or撃退してください。

●参加者一覧

里見・さやか(ga0153
19歳・♀・ST
アルヴァイム(ga5051
28歳・♂・ER
月神陽子(ga5549
18歳・♀・GD
藍紗・バーウェン(ga6141
12歳・♀・HD
アーサー・L・ミスリル(gb4072
25歳・♂・FT
望月・純平(gb8843
32歳・♂・ST
来栖・繭華(gc0021
11歳・♀・SF
天小路 皐月(gc1161
18歳・♀・SF

●リプレイ本文

「飛ぶのも久し振りで、タロスが相手か。たまらんね」
 基地を背に、速度を上げて行く9機のKV。赤と銀に塗られた真新しい機体のコックピットに座し、アーサー・L・ミスリル(gb4072)は苦笑を噛み殺して一言呟いた。
「俺で悪いけど、よろしく頼むよ」
 頬を僅かに歪ませ、マリアンデールの機内に視線を巡らす。
「アーサー、我は汝の支援を主としよう。ヒュドラのブレスに関しては、出来る限りを尽くす」
 アルヴァイム(ga5051)からの通信に、隣を飛ぶディスタンへと目を遣った。風防越しに見える彼の瞳は真っ直ぐに前方を捉え、徐々に鋭さを増していく。
「ふむ、同じコンセプトの新型機と言う事じゃから、見に来たが‥‥正直、相手が弱すぎて物足りなかったところじゃ」
 犬歯を光らせ笑う藍紗・T・ディートリヒ(ga6141)。マリアンデールに自機のアンジェリカを並べ、キメラを叩き落とすだけの簡単なお仕事に飽きた心をギガワーム方面へ向けた。
「はい、マリアンデールの実力を引き出せる様に努めます」
 天小路 皐月(gc1161)が操縦桿を切ると、スピリットゴーストに似た大型機が風を割り、藍紗機のやや上方へと浮上する。
「にゅ‥‥どんな感じか見るのが少し楽しみですの」
 来栖・繭華(gc0021)が、まるで衣擦れのように繊細な声音で呟く。望月・純平(gb8843)機マリアンデールに向ける視線は、興味と期待に満ちていた。
「バイパーの乗り手として、ドロームにはお世話になっておりますから、このくらいのお手伝いでしたら何でもありません」
 柔らかに言葉を紡ぐ月神陽子(ga5549)の姿は、その口調とは裏腹に鬼と化していた。血色の瞳で微笑み、夜叉姫の名を冠するバイパーを駆る。
「私もです。いえ‥‥力不足は承知しています。でも、こんな大役を任されたのだから‥‥絶対に、完遂させます!」
 里見・さやか(ga0153)のウーフー2『Spenta Armaiti』のレーダーが敵機の反応を捉えたのは、その時だった。
「私は‥‥これ以上皆さんの足手まといになりたくない。だから、力を貸して。アールマティ!」
 さやかは自衛艦旗を映すその左手に力を込め、応と告げる愛機の声を聞いた。


    ◆◇
 敵機に迫るさやかの目が、敵陣形の乱れを捉えた。傭兵機に気付いたタロス2機が突然加速し、ヒュドラ2機とタロス1機を残してギガワーム方面へと飛び去ろうとしている。
「‥‥敵が分断する。想定とは逆位置になるが――」
 冷静に状況を分析しながら、アルヴァイムは僅かに目を細めた。
「手前の3機を引き離すのは困難だ。狙撃班はタロスを追い、我らは手前を相手しよう」
 元々は、狙撃によってタロス3機を手前に釣り出し、ヒュドラとの間に傭兵機が割り込み分断する予定であった。しかし、敵はギガワーム方面への突破を優先し、全機での戦いを挑んでは来ない。釣り出すどころか、タロスを追わねばならない状況だ。
『我らが彼の地へ往くを妨げるな。退がれ』
 不意に、手前に残るタロスのパイロットと思しき女の声が、空に響く。
『ここは我ら人類の土地じゃ。バグアに見られとうない物はいくらでもあろう。見逃すわけにはいかぬ』
 言葉を返したのは藍紗だ。敵には何か目的がある――そうは思ったが、相手の言葉通りに退く事など選択肢に無い。
『良い。ならば、そなたらの屍を越えて往くまで』
 女の言葉に応え、タロスの左右で銀の霧を吐き出す2機のヒュドラ。奥のタロスを追うさやかと繭華、藍紗と皐月はそれぞれロッテを組み、手前の敵機3機を上下から追い越すべく加速をかけた。さらに、アルヴァイムとアーサー、陽子と純平は、2機ずつ左右に分かれて前進しながら、手前のタロスに砲を向ける。
 空戦スタビライザーを起動した陽子機が霧の外から3射、ロングレンジライフルを撃ち放つ。穴を穿たれたタロスはプロトン砲で応戦するが、鍛え抜かれたバイパーには掠りもしない。
「タロスを追った4機を割り込み班に替えて、俺たちは回り込まずに引き付ける方法もあるよな」
 位置取りが予定通りでない事を考え、アルヴァイムと相談するアーサー。言われた彼は暫し沈黙したが、
「‥‥いや、予定通りタロスとヒュドラの間に入ろう。敵の目的はギガワームへの突破だ。いつ我らを振り切り、先に行った者を追うとも知れん」
 最終的に、そう結論付けた。
「ああ、確かに。突破されるか、追撃組が挟撃されるかもしれないな」
 ヒュドラのフェザー砲がアーサー機を捉え、閃く。装甲が弾ける衝撃にアーサーは歯を食い縛り、操縦桿を切った。しかし、恐れていた2撃目は来ない。
「相手になろう。当たるつもりは無いがな」
 マリアンデールの前に出て、敵機に突進していくアルヴァイム機。ヒュドラは標的を変え、アーサー機への攻撃を止めたのだ。
「‥‥この機体、結構やるな」
 アーサー機の機体損傷率は、17%。無改造の試作機が有人ヒュドラの砲を喰らって、その程度であれば上等だ。
「霧を迂回してブーストを。タイミングを合わせましょう」
 タロスの螺旋ミサイルが純平機の左腹に突き刺さり、派手な爆発とともに赤と銀の破片が空に舞う。しかし、陽子機の正確な射撃の前には敵も後退せざるを得ず、純平のマリアンデールは未だ健在だ。
「‥‥行きます!」
 陽子が合図した、その直後。
 ブースト加速した4機が敵両翼の左右を高速で通過、旋回――敵の背後へと回り込んだ。

『背を向けて良いのかの? では遠慮なく落すとしよう』
 追撃を開始してから僅か1km、ブーストで加速し、タロスを射程に捉えた藍紗がSESエンハンサーを起動、左のタロス目掛けてアハト・アハトを撃ち放った。背に光弾を受け旋回する敵機。その進行方向に待っていたのは、皐月のマリアンデールから放たれた100発もの小型ミサイルだ。
 優れた照準能力で発射されたドゥオーモが、タロスを瞬く間に青白い放電で包み込む。右のタロスが慣性制御を以て急停止、旋回しながら長距離バルカンを連射し、弾丸の鞭を繭華機へと浴びせかけた。
『繭華達がお相手しますの、逃がしませんですの』
 自機が蹂躙される音と衝撃の中、繭華は機体をロールさせて少しでも被弾率を下げ、迫り来るタロス目掛けて迎撃のAAEMを撃ち放つ。体躯を捩るようにしてミサイルを回避するタロス。そこへ、さやかのウーフーが急降下を仕掛けた。
「新たな力が私たちに加わろうとしているのです。負けるわけにはいきません!」
 ジャミング集束装置を起動、接敵と同時に無数の弾丸をタロスへと吐き出す。弾幕をかわした敵の砲がウーフーの装甲を見る見る溶かし、しかし怯むこと無く2発のAAEMを発射するさやか。進行方向を繭華のライフル弾に塞がれたタロスは、避け切れずに被弾。真っ白な光がタロスを包み爆発する様を横目に見ながら、さやか機と繭華機が僅かに後退した。光を突き抜け光線砲とロケット弾を撃ち迫ろうとするタロスの攻撃をラージフレアで避け、時には受けながら応戦し、敵機へのダメージを重ねていく。
「来栖殿、無理はせぬように、いざとなれば我の陰に入るが良い」
「にゅ‥‥まだやれますの」
 損傷率の高い繭華機を気遣いながら、左のタロスへ狙撃とAAEMの発射を繰り返す藍紗。反撃とばかりにプロトン砲を連射しアンジェリカの装甲を削るタロス目掛け、皐月の赤い機体が背後から突撃する。
「こちらはマリアンデール1機‥‥掃射モードで2機一度に狙ってみたいですね」
 マリアンデールの機体練力は元々少ない方ではないが、そう何度も一撃必殺の技を繰り出せる程多くもない。皐月は練力を温存したままレーザー砲を撃ち放ち、タロスの背を灼いた。その威力は藍紗の改造アンジェリカに及ぶはずもないが、それでも、タロスを前に決して無力ではない。
「天小路殿!!」
 皐月機とすれ違い様、不意に、タロスが体当たりを仕掛けてきた。皐月の耳に異音が響く。
 剣翼に引き裂かれるマリアンデール。最終装甲まで露出させながら、皐月は必死で操縦桿を切り、離脱する。
「大丈夫です。まだ飛べます」
 スピリットゴースト同様、マリアンデールの弱点は、一度狙われれば逃れられないその鈍重さだ。だが、それをカバーできるだけの強固な装甲がある。
「我が囮となる、コースを良く見て好機を逃がすでないぞ!」
「わかりました。私達は右のタロスを追い立ててみます」
 さやかの返事を聞き、藍紗のアンジェリカがSESエンハンサーとブースト空戦スタビライザーを起動、プロトン砲の直撃を物ともせずAAEMとアハト・アハトを撃ち捲った。リロードの隙には皐月機のレーザー砲が撃ち込まれ、後退していくタロス。
 そして右のタロスには、さやか機が猛然と襲い掛かる。ほぼ真正面からアハト・アハトを撃ち込み、敵がかわした瞬間にAAEMを喰らい付かせた。光塊と化したタロスに銃弾をバラ撒き、斜め後方へ抜けて上昇反転。そこへすかさず繭華機がSESエンハンサー付与のAAEMを追い討ちで叩き込む。
「にゅ‥‥絶対に逃がしませんの」
 タロスが離脱しようと動いたのを見て、繭華はそれを妨害せんと回り込み、ライフル弾を撃ち込んだ。足を止められたタロスは繭華機に砲を向け、容赦なく引き金を引く。
「来栖殿!」
 機関部を貫かれ墜落していくアンジェリカ。後に残ったのは、誘導され空に並んだ敵機2機であった。 
「ファルコン・スナイプ改起動。DR−M高出力荷電粒子砲、掃射モードスタンバイ――‥‥行きます」
 皐月の声が響いた、その瞬間。
『キュアノエイデス様――‥!!』
 マリアンデールの砲が輝きを放ち、凄まじいまでの光の奔流がタロス2機と――その最後の叫びを呑み込んだ。


 銀の霧に包まれたアーサーのマリアンデールから、8発のロケット弾が次々とヒュドラに襲い掛かる。減衰した威力では――特にマリアンデールの物理攻撃では敵機に大きなダメージを与えられないが、それでも赤い機体は執拗に付き纏い、まるで弾幕かのようにロケット弾をバラ撒き、さらに、隙をついて接近してはレーザー砲を叩き込んだ。
 業を煮やしたヒュドラがフェザー砲の照準をアーサーに合わせるも、その瞬間を狙ってアルヴァイム機に狙撃されてしまう。
『忌々しいウジ虫め。この世に人間なぞおらねば、キュアノエイデス様がお亡くなりになることもなかったというに‥‥!』
 2機をプロトン砲で迎撃しながら、タロスのパイロットは憎々しげにそう言い放った。
『だったら、さっさと地球から出て行くんだな!』
『黙れ! 我には理解できぬ‥‥なぜ、あんな女の戯言をお聞きになったのか。あの女にも、人間にも、価値などないと言うに‥‥!』
 アーサーに反論され一喝を返すと、その後は一人でブツブツと話し続けるのみ。
 ヒュドラ2機が銀の塊を吐き出し、陽子機とアルヴァイム機の至近に霧を充満させる。だが、少なくともこの2機にとっては――威力の半減など、大きな問題ではない。
「たしかに武器の威力は落ちますが‥‥判って戦うのならばどうという事はありません」
 砲を乱射して接近を拒むヒュドラに、微笑みすら浮かべて自機を突っ込ませる陽子。剣翼が妖しく輝き、敵機を真正面から斜め後方へ、削ぐように刻んでいく。不気味な首が装甲とともに、ひとつ、またひとつと空に舞った。
『そんな‥‥馬鹿な!』
 予想を超越した攻撃力を目の当たりにし、上下左右に必死で逃げ回るヒュドラ。しかし、純平機の放ったAAEMに逃げ道を塞がれ、さらに銀の霧を掻き分けてレーザーガトリングを撃ち突進してくる大型機マリアンデールに気を取られている間に、再び陽子機に追いつかれてしまった。
 純平機のAAEMが炸裂し、光が収まると同時に陽子機のスラスターライフルの弾幕に抉られ、鉄屑と化して墜ちていくヒュドラ。陽子機と純平機はそれを見送り、銀の霧が消えた敵右翼からタロスへと接近する。
「行かせるか!」
 タロスを効果範囲に収めようと、銀の霧を引き連れて移動を図るヒュドラ。しかし、大型のアーサー機がその進路に機関砲を撃ち込み妨害していた。さらに、霧の外に出ていたアルヴァイム機が急降下、敵機に肉薄する。
 ヒュドラの至近で射出されたラージフレアが一瞬、運良く本来とは別の効果を発揮した。吐き出されたブレスは微妙に照準を外し、陽子機には届かない手前の空域に霧を拡散させる。
 霧の効果など物ともせず、アルヴァイム機がブリューナクを撃ちヒュドラの装甲と首を抉った。その隙に、アーサー機は迂回して霧を抜け、陽子機と純平機とともにタロスを包囲する。
 陽子機のエニセイがタロスの再生能力を超えて情け容赦なく撃ち込まれ、そこへ2機にマリアンデールが突入していく。アルヴァイム機がヒュドラを撃墜したのを確認しながら、アーサーと純平はタロスを中心に交差するように前進し、同時にレーザー砲の引き金を引いた。
 光弾がタロスを穿ち、貫く。
「お二人とも、タイミングを合わせて下さい。ファルコン・スナイプと掃射モードのスタンバイを!!」
 陽子の声が響いた。ヒュドラを排除した今、掃射モードの本領を発揮できるほどの敵機がいない点は残念であったが、それでも、記録に残すなら派手な倒し方が良い。
「――いくぜ」
「スタンバイOK。――発射する!」
 砲の先に見えた眩い光。タロスのパイロットは己の敗北と、もはや使命を果たせぬ絶望を知る。
『‥‥キュアノエイデス様‥‥申し訳ございませ――』

 南米の空に光が交差し、緑に覆われた大地を爆音が揺るがした。


    ◆◇
「おつかれー」
 基地へ帰還した傭兵達に、記録係のヴィンセント・南波(gz0129)とドローム社の営業社員が駆け寄って来た。無茶な稼働実験ではあったが、かなり満足のいく結果だったらしい。
 繭華も無事救出されたと聞き、ホッと胸を撫で下ろす傭兵達。
「いやぁ、素晴らしい! 今回の映像は、是非とも我がドローム社でマリアンデールの売り込みに使わせて頂くよ」
「はい、ちゃんと撮れていたようで何よりです。マリアンデールの制式化を楽しみにしていますね」
 名刺を差し出す営業社員へ、微笑みと期待の眼差しを向けるさやか。
「アンジェリカ乗りとして提案したいのじゃが、副兵装スロットは増やせんかの?」
「今回は‥‥難しいかもしれません。固定武装で副兵装スロットを一つ潰しているのですが、その重量とサイズが大きく‥‥」
 200mm4連キャノン砲に比べればDR−Mの方が多少軽いが、これ以上のスロット追加は、回避や速度の部分で致命的な代償を必要とするかもしれない。今後の機体開発への課題になりそうだ――と、藍紗に答える営業社員。
「成程の‥‥。では、販売を心待ちにしておるでの」
「ありがとうございます!」


 こうして、マリアンデールの稼働実験は成功に終わった。
 しかし、その後行われたギガワームの再調査でも、敵の目的が判明することは無かった。