タイトル:南波の休日マスター:桃谷 かな

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/02/19 17:10

●オープニング本文


 その日、兵庫UPC軍大尉ヴィンセント・南波(gz0129)は、柄にも無く、海を眺めていた。
 いや、そもそもポートアイランド駐屯地は周り全部海だろ、とか、そういう地理的な話ではなく。彼は、夜勤明けで欠伸を噛み殺しながら宿舎へと帰って行く同僚達を追おうともせず、ただぼんやりと海を眺めていたのである。
 普段、少なくとも自宅外では比較的高めのテンションを保って生活している彼だけに、その姿はいささか不気味に見えた。どれくらい異様かといえば、さては新作ゲームの予約を忘れていたのではないか、などとあらぬ噂が立つほどである。
「南波。どうした、大人しいな」
「あ、元木中尉。おはよーございます」
 皆が遠巻きに見守る中、そんな南波に声をかけたのは、かつての教官の元木鉄平中尉だった。
 元木は、彼が大人しい理由を知る者の一人であった。苦い笑みを返す南波の肩を軽く叩き、言う。
「北中央軍に転属だろ? 次の任地は五大湖か。ったく、落ち着かねぇな」
「まー、任地が変わるのは軍人の定めですよねー。兵庫も静かになったんで、後の事も心配はしてません」
「いつからだ?」
「2月です。今は荷物纏めるのに必死で」
 そこまで話してから二人は不意に黙り込み、波の音を耳にしながら、冬の遅い日の出へと視線を移した。
 兵庫県では現在、ワームの被害は殆ど起きていない。県北西部を占領していたバグア軍が壊滅してからというもの、少数の哨戒ワームが日本海側に時折現れてはUPC軍に追い返される程度で、中国山地に潜む野良キメラの駆除も少しずつ進んでいる。
 この一年ほどの間に、いくつかの部隊が兵庫を去り、次の戦場へと散って行った。
 兵庫北部の奪還作戦で南波と関わりの多かった諜報員の小田垣 舞は、もう随分前から南米で諜報活動を始めているらしい。
 そして南波もまた、2月半ばには兵庫県を離れることになったのだ。
 次の任地は北米最大の激戦区、五大湖である。
「ま、北中央軍の本拠地に行けるってのは、能力を認められたってことかもしれんさ。喜んどけ」
「はあ」
「次はいつ日本に帰って来れるかわからねぇんだ。こっちでのんびりできるうちに、遊んどけよ。親戚の旅館が空いてたら、餞別にどーんと奢ってやってもいい」
 はっはっは、と声を上げて笑いながら、宿舎へと戻って行く元木中尉。
 朝日の中に取り残された南波は、彼の背中を見送りながら大きく伸びをし、白い息を吐き出した。



    ◆◇
 数日後。
 南波はULTの知り合いを通じて、ラスト・ホープのUPC本部に一枚のチラシを貼ってもらった。

 『水族館&城崎温泉カニツアー! 参加者募集☆』


●参加者一覧

シルバー(ga0480
27歳・♀・ST
要 雪路(ga6984
16歳・♀・DG
ラウル・カミーユ(ga7242
25歳・♂・JG
百地・悠季(ga8270
20歳・♀・ER
芹架・セロリ(ga8801
15歳・♀・AA
紅月・焔(gb1386
27歳・♂・ER
冴城 アスカ(gb4188
28歳・♀・PN
ユイリ・ラフィアス(gc5135
21歳・♀・SN

●リプレイ本文

 ポートアイランド駐屯地前のミニバスには、城崎カニツアーの参加者が集合していた。
「ほえー? 南波はんは、エエ人おらへんの?」
 ヴィンセント・南波(gz0129)の後ろに付いて回っているのは、要 雪路(ga6984)である。
「いるよ。最近はリアルタイムでカップル気分を体験できるゲーム――痛ッ!」
 おもむろに長方形の携帯型ゲーム機を出す南波。冴城 アスカ(gb4188)は思わず、手にしたクリーニング店の袋で彼をどついた。
「やめなさい南波くん。雪路が困ってるじゃない」
「なんばりん‥‥とうとう帰って来れない道に‥‥」
 沈痛な面持ちのラウル・カミーユ(ga7242)の背後では、琳 思花(gz0087)が完全にドン引きしている。
「そうだ‥‥はい、これ。クリーニング出しておいたから返すわね」
「おお、そういえばこんなのも貸したね」
 アスカが差し出したのは、1年ほど前のパーティーで眠ってしまった彼女に南波が掛けたタキシードの上着だった。
「ん? 今時上着の裏に名前シールを貼る人も珍しいからね。すぐ分かったわ」
「友達に借りたレンタルだったから、失くしたらやだなーと思って。上着以外も返すの忘れてたけど」
 それってもう借りパクなんじゃ‥‥と、傍らの百地・悠季(ga8270)と顔を見合わせるアスカ。
「ほぼ一年ぶりに兵庫に来たわね。あの時考えてた未来予想図は一応達成してるけども‥‥」
 少し体調の悪い悠季は、お腹をさすりながらミニバスの窓際の席に座った。アスカがそれに付き添う。
「はじめまして、ユイリ・ラフィアスです。今日はヨロシクお願いしますね、南波大尉さん♪」
「はじめましてー。もうすぐ出発するよー」
「はいっ! 水族館なんて、子供の頃行ったきりなんです。楽しみ!」
 笑顔で挨拶し、南波に荷物を積んでもらって車に乗り込むユイリ・ラフィアス(gc5135)。しかし、その様子を邪な視線で見つめる者がいた。
『温泉旅行、その甘美なる響きに釣られ今迄幾度となく打ちのめされ、夢破(中略)‥‥何度諦めようと思ったか‥何度(中略)‥だが俺は諦めないぜ! いつか覗き王になるために!』
「あれ? 誰かいるヨ」
『ぃよう、リア充君。しかし女性が多いツアーだな‥これは素晴らしい旅になりそ――』
 車の下に潜んでいたところをラウルに発見され、ゴソゴソ出てくる紅月・焔(gb1386)。しかし、シルバー(ga0480)と芹架・セロリ(ga8801)の姉妹の姿を発見し、固まる。
「おおー、南波さん、久しぶりですー」
「おー、ロリー!」
『な‥なんてこった! ‥‥いきなりゾディアック級2体と遭遇しちまった! ヤバイどころじゃねぇっすよ! ゲバイっすよ!』
「蟹が食えると聞いたが、その言葉に違いはあるまいな? 嘘だったら泣くぞ。喚くぞ」
 シカトしようとした焔の頭を、ガシッと掴むシルバー。カクカクと必死で頷くガスマスク。
「ほら、わらび姉ちゃんもあいs‥‥ぐぎゅ」
「言われなくとも挨拶ぐらい――‥え?」
 本名を呼んだセロリに鉄拳を喰らわせたシルバー、南波を見るなり、いきなり薔薇を散らす勢いで恥じらい始めた。
「ひ、久しぶりですね。わ、私の事なんか覚えてないよね?」
「‥‥えっ?」
 もじもじするシルバーの顔に全く見覚えがなく、変な声を出す南波。
「その、貴方は、初恋の人だったんです」

 南波は本当に、彼女を知らなかった。


●水族館へGO
「ん〜〜〜っ! 潮風が気持ちいいわねぇ」
 水族館の前でバスを降りると、海の匂いが鼻をくすぐった。大きく伸びをするアスカ。
「南波くん、独り者同士仲良くしましょ――って言いたいところだけど、今日はモテモテね」
「え‥‥あ、いや、うん‥‥いや‥‥」
 ソフトクリームを買って「一緒に食べます?」とか訊いて来るシルバーをチラリと見遣り、「助けてくれ」な視線をアスカに送る南波。しかし、
「悠ちゃん、寒いのはダメよね。中入りましょ」
 無情にも、さっさと館内に消えるアスカと悠季。一方、焔はシルバーが故意に入館料を払わなかったため、彼女の分まで請求されて涙目だ。
 とりあえず、南波達はイルカショーを観ることに。
「わァー。どいつもこいつも、美味しそうやー!」
「えっ!? 美味しそう‥‥ですか?」
 華麗なジャンプを決めるイルカ達に拍手喝采の最中、雪路がたてた「じゅるり」という音に、ユイリは思わず耳を疑った。
『それでは、今からイルカのフレディ君が、フリスビーに挑戦です!』
「水の中カラ位置がわかるのカナ?」
「‥‥光の屈折で‥わかり辛いと思うんだけど‥‥」
 結構ハシャいで観ていたラウルと思花の目前で、フレディ君が見事に円盤をキャッチ。歓声に片ヒレを振るイルカ達が可愛らしい。
 続いて、イルカタッチ。
 プールの隅に顔を出したイルカがヒレを出し、ユイリと握手を交わす。
「すごい‥‥! イルカさん可愛いなぁ」
「うわ、ゴムみたい! 思花サンも触ってみて?」
 すっかり癒された様子のユイリの横では、ラウルと思花が別のイルカと戯れていた。その隣では、「す、少し怖いですね」などと心にもない台詞を吐いているシルバーと南波、そして無垢な瞳でヨダレを拭く雪路が、イルカに接近中である。
「イルカって海豚って書くやん。フグは河豚書くやん。食べ物的には、親戚みたいなもんちゃうん?」
 雪路を見つめるイルカの動きにある種の緊張感が感じられるのは、気のせいだろうか。
「イルカとフグ? 明らかに見た目が――うお!?」
「風呂に落とされた恨み! どーん!!」
 ラウルの声とともに、突然、南波の視界が揺れた。
 ラウルも本気ではなく、ギリギリ踏ん張って耐え切る南波。しかし、
「ギャーーーーー!!」
 ポケットから零れた携帯型ゲームが宙を舞い、南波の『彼女』は、極寒のプールにてその人生に幕を閉じたのであった。

「くそーあいつ等どこ行きやがった。目を離すと何しでかすか」
 一方、南波達とはぐれたセロリは、シルバーと焔を探して水族館内を駆け回っていた。
「‥‥ハッ、そうだ!」
 急に何かを思い付いたのか、ダッシュでどこかへ向かうセロリ。

 館内を見て回っていた悠季とアスカは、ふと、天井を過った大きな影に目を奪われた。
 トンネル水槽の中からは、エイや小型のサメ、様々な魚達が優雅に泳ぎ回っている様が良く見える。
「まるで海の底にいる感じね。‥‥でも、気持ちいいかも」
「皆でダイビング旅行、なんて素敵ね。勿論、未来の話だけど」
 お腹を気にしながら微笑む悠季を見て、実はカナヅチであるアスカは、何とも微妙な笑顔を返した。そんな二人を水槽の陰からいやらしい目で見つめるガスマスクの姿に、一般来館者がドーナツ化現象を起こしている。
 その後も思い思いに館内を散策するツアー参加者達だったが、

『迷子のお呼び出しを申し上げます。LHからお越しのわらび様。妹さんがお待ちですので――』

「セロリてめぇその名前使うたぁ良い度胸だゴルァーーーー!!!」
 迷子センターが一時大騒ぎになった以外は、それなりに平穏な半日を楽しんだ。


●温泉街にて
「私は内風呂にいるけれど、寒さと男湯に気をつけてね」
「男湯ですか?」
 外湯巡りの3軒目、露天風呂がメインの施設にやって来た女性陣一同は、悠季から注意を受けていた。ユイリはキョトン、とした表情を浮かべ、外へ出る。
「んんー、気持ちー! 温泉幸せーっ」
 寒い外気の中を駆け、首まで浸かった温泉の心地よさ。ユイリは温かな岩風呂で大きく伸びをした。
「南波大尉、見張りしっかり頼むで〜」
 マイタオルとマイ湯桶を岩の上に置き、男湯に向かって叫ぶ雪路。返事が返って来た所で、彼女も至福の一時を楽しみ始める。
 一方、男湯では、
「焔、ガスマスク取れば?」
 離れた岩の陰に見えるガスマスク。声を掛けても、ただ無言で南波を見続けている。
「噂で聞いたケド転属だって? 金髪の彼女出来るとヨイね!」
「そーだねー。『彼女』死んだしねー」
「ソレは僕が悪かったケド、正直ヨイ機会だと思うヨ‥‥」
 半眼で見返してくる南波に、ラウルは複雑な心境で呟いた。彼の目を覚ましてくれるリアル女子の登場を切願しながら。
「よく来たな。ここが温泉だ。覗きをする輩は、成敗されるかもしれないぜ」
「‥‥!?」
 突如、女湯との境の垣根のあたりから、シルバーの怒声が響き渡った。
「ほら来たコレだよ! 頼むから大人しくしてくれっ!」
 慌てふためくセロリの声。振り返ると、麻袋を被った不審者が垣根の前でオロオロしている。焔がいるはずの岩陰に駆け寄った南波が、中身のないガスマスクを取り上げて頭を抱えた。
「――お前みたいにな。チェストォー!!」
 ブッ飛んでいく焔を背景に、南波とラウルは他人のフリを決め込むしかなかった。

「すっかりここも立ち直ってるわね‥‥一昨年の戦闘が嘘みたい‥」
 立派に再スタートを切った温泉街を歩きながら、アスカは人間の持つ底力のようなものを感じていた。
「湯上りは乳飲料、なんて時代もあったでしょうけど」
 隣では、ほかほかに温まった様子の悠季が『とろ〜り温泉ぷりん』を楽しんでいる。とろとろの食感を持ちながら、さっぱりとしてしつこくない自然な甘みが売りの新名物だ。
 悠季は定番のご当地キーホルダーを買い、他に何かないかと視線を巡らせる。
「扇子はどう? 今はまだ要らないけど、夏は物凄く暑く感じるって言うわよ」
「そういえば、そうね‥‥」
 今日何度目になるのか、お腹をさすりながらアスカの差し出した扇子を受け取り思案する悠季。
 可愛らしい兎が書かれた、朱色の扇子であった。

 その頃、思花と合流したラウルもまた、お土産探しに勤しんでいた。
 しかし、旅館の女将が皆へのお土産として、珍しいカニ缶と温泉饅頭を用意してくれた為、万事解決。
「何かおそろの小物とか、欲しくナイ?」
「そうだね‥‥バレンタインも近いし‥私からプレゼントしてもいい‥‥?」
 湯上りの思花の、上気した頬が僅かに綻び、ラウルは少しドキドキしながら頷いた。
 去年のバレンタインは、船の上。二人はそこで、人生を共に歩む約束を交わしたのだ。
 彼女は『麦わら細工』の店で暫く店員と話した後、
「手作業だから今日明日には無理だけど‥記念に作ってもらうね。‥‥次に会った時に‥渡すから」
 北米への発送伝票を書きつつ、振り返る。
「うん。楽しみにしてるネ!」
 次はプリンだ、と二人はMAPを広げ、店を探し始めた。


●旅館の夜
「かーにっ、かーに♪ くいほーだいっ」
 セロリの前には、蟹づくしの豪華な食事。テンションMAXで蟹の脚をバキッとへし折ると、プリプリの身が顔を出した。
「ほう、これは流石に、冷凍モノとは全く違うな」
 セロリの口に入る筈だった蟹の身は、いつの間にか隣のシルバーの箸へと移動していた。めげずにもう一本、蟹の脚を折る。
「あ、あの、よかったらどうぞ‥‥」
「え、うん、あ、ありがとー‥」
 だが、その第二の脚までも、南波に媚を売るシルバーに奪われてしまった。何故だ。
 既に大量の飲酒をしているシルバーだが、普段が普段なだけに酔っているかどうかも分からない。南波は戸惑っていた。
「と〜れとれぴ〜ちぴtもにゅもにゅもにゅ‥」
「ふむふむ‥‥こうやってほじるのですね‥‥」
 歌っていたつもりが、蟹の身をほじるうちについ無言になってしまう雪路。蟹の食べ方が良く分からないユイリは、それを真剣に観察しながら、美味しく食べ進んで行く。
「あーん」
「えっと‥‥今日は私から‥‥。あーん‥‥」
 いつも通りに食べさせ合いを楽しむラウルと思花だが、蟹の身がデカすぎて苦労しているようだ。
 上等の日本酒が蟹の甘みをさらに引き立て、おかわりが進む。
「大尉さん、飲み物注ぎましょうか?」
「おー、せんきゅー!」
 気配りのできる女・ユイリは、食べ放題を満喫する皆にお酌をして回ることも忘れない。
「宴会といえば無礼講! 無礼講といえばセクハラOK! いざ行かん! げへへへ!!」
「「んな訳あるかあぁぁぁぁーーー!!!」」
 犯罪ちっくな持論垂れ流しの焔がユイリを捕捉した瞬間、セロリと南波の鉄拳がボディに炸裂。テーブルの上に着地した焔は、料理を蹴散らしながら逃げて行く。
「コラー!!」
 大騒ぎの宴会場を見守る仲居さん達の目は、とても生温かかった。

「随分騒いでるわね‥‥」
 旅館内の露天風呂では、アスカが一人で月見酒を楽しんでいた。
 宴会場の喧騒を聞きながら、「一人酒を嗜むなんて、私もトシかしら」などと笑みを零す。
 美しい月を見上げていると、どこからか、歌が聞こえてきた。
 ユイリの歌声だ。
 しっとりとした曲調のそれを聴きながら、アスカは空に浮かぶ赤い月を杯に映し、
「あんた達に、この星は贅沢すぎるわ」
 一気に、飲み干した。

「暫くこーしてて?」
「え‥‥うん‥‥」
 部屋に戻り、膝枕をねだったラウルに、思花は恥ずかしそうな顔をしたものの、断ることはなかった。
「また暫く会えないケド‥‥気持ちは一緒だカラ」
 次に会ったら贈り物を、と思花は言った。
 それはいつになるだろう、という想いは、戦場に赴く事を生業とする者にとって、時に重苦しい程の不安に変わる。
 大事な人を見上げたラウルの瞳に、窓の外の赤い月が映し出されていた。

「ふふーん、良いでしょう。可愛い子になるかなと」
「可愛くないわけないわよ。悠ちゃんと彼の子じゃない」
 部屋でゆっくりと蟹スープや雑炊を楽しんだ悠季は、温泉から戻ってきたアスカを出迎え、布団の中で将来の話に花を咲かせていた。
「蟹の食べ放題は惜しかったけれど、また来られるわよね」
「そうね。その頃には‥‥世界平和も実現できてるかしら?」
 いつか行きたい場所、いつかやってみたい事。
 夜が更けて、どちらともなく深い眠りに落ちてしまうまで、二人は夢中で語り合った。

「ごめんなさ‥っ、お兄ちゃん。ボクもうヤダ。あいつらの相手、無理」
 そして夜中。セロリは泣きながら携帯電話を弄っていた。
 しかし、LHは遠すぎ、コール音すらしてくれない。
「もう我が侭言わな‥。お家の、手伝い‥‥する。お仕事‥の、だって‥。だから、だから。お願い今すぐ来て‥」
 可哀想になるぐらいしゃくり上げて必死で電話を掛け続けるも、バグアの妨害電波は無情であった。
 

●誤解の朝
 翌朝、南波を起こしに行った一同は、寝不足の彼と、そこで寝ていた雪路の姿に激しく誤解した。
「あー! よう寝た♪ 準備して帰るでー!」
 元気に身支度を整える雪路だが、南波は昨夜起こった事を説明するのに必死である。
 まあ、単に夜中に押しかけてきた雪路と早朝までカードゲームで遊んでいたところ、気付いたら雪路が寝ていた‥‥というだけなのだが。
「だから! 違う。誤解。超誤解!」
「時に大尉殿」
 と、不意に、シルバーが真剣な面持ちで南波の肩を叩いた。
「初恋云々という話だが」
「え?」

「すまん、人違いだった」


−南波の休日・完−