●リプレイ本文
「花壇を荒らすなんて‥‥許せません」
水無月春奈(
gb4000)は、今回の依頼を受ける決意を固めた一人である。
そんな彼女は掲示板前で御門砕斗(
gb1876)を見つけ、ツツ‥‥と歩み寄り、笑顔で肩を叩く。
「御門さん」
名前を呼ばれ、振り返った砕斗は、相手の顔を見てそれが既に失敗であったと悟った。
「暇そうですね。なら、学園の平和を守りませんか? むしろ、守らねばならないと思いませんか?」
言葉は質問形だが、既に彼女の中で答えが出ている事は明白だった。
「そうか。無茶するなよ」
サヨナラ、と回避を試みた砕斗の意向を無視し、春奈は彼の襟を掴んで強引に歩き出す。
「と、言う訳で行きましょう」
「解った、解ったから引き摺るなっつーか背中熱っ!」
「酷いと思わない?」
掲示を見て熱弁を振う東雲智弥(
gb2833)の隣、如月菫(
gb1886)は面倒な事になる前に、私は興味ないと断っておこうと考えていた。
花壇荒しに共感する訳ではないが、その暴走が理解出来なくもなかったのである。
「東雲さん、あの‥‥」
笑顔で彼の話を聞き、その台詞の切れ目を狙って口を開いた彼女の耳に、隣を通り行く教員の会話が飛び込んでくる。
「困ったものです不良達には‥‥僕だったら取り締まってくれる子には単位おまけしちゃうね」
その瞬間、彼女の脳内で新たな行動理念が形成された。
「‥‥とりあえず、園芸スペース見に行きません?」
「どうしてこんな事するのかしら?」
職員に聞き込みをする道すがら、ナレイン・フェルド(
ga0506)は一連の犯行の動機を考える。
「ただのガキじゃないかと思うんですけど」
やや語気荒く答える東野灯吾(
ga4411)には、バグアの攻撃で母校を失った過去があり、今回の不良達の行為に憤りを隠せず、掲示を見て依頼を即受けしたのも当然の流れだった。
保険室の前で立ち止まったナレインは、何処かうっとりとその扉を眺める。
「保健の先生って、何かいろいろ知ってそうじゃない?」
「失礼しまっス!」
灯吾は声をあげ一礼してから入室した。
「荒らされてない花壇は‥‥」
水無月雪江(
gb2656)は現場を回り、園芸スペースを把握していた。
「わるい奴等だな〜。一生懸命お花を咲かせている人が居るのにそれを荒らすヤツはオイラが許さないぞ!」
とことこと歩きつつ、愛剣を構える火茄神渉(
ga8569)。
「おねーちゃん、がんばろうな!」
ニカッと微笑むその顔は、まるでわんこの様である。彼にしっぽがあれば、今はきっと横に振られている事だろう。
無垢で穢れの無い好意を感じ、普段受け身な水無月は自ら名を告げる。
「水無月雪江です」
「火茄神渉だよ。雪江はオイラが守るからね!」
少年の突然の『君は僕が守る宣言』に、雪江の白頬に薄く紅が差す。
園内を見回った彼等は、現場検証をしていた如月達に出会い、共に依頼人のいる病棟に行く事になった。
病室で八人全員が初めて顔を合わせる。
「うわ〜。皆も悪者をやっつけにいくんだね。よろしくな!」
人見知りゼロではしゃぎだす渉を、雪江がそっと両肩に手を置き制する。
「先輩、皆さんがきてくれましたよ」
後輩の出した林檎を咀嚼しつつ、眼鏡のミイラ男は読みかけのラノベを伏せた。
「知ってる情報を教えてもらおうか」
部屋の隅に背を預け乱暴に問う御門の横腹を、春奈が叩いて咎める。
眼鏡はバナナを食べつつ、腕を組んで考え込む。ほぼ瞬殺で何も覚えていないらしい。後輩が会話を誘導する。
「なんか、気をつけろとか‥‥」
「ああ、あれか」
メロンを食べ、眼鏡は一息つくと、八人へ視線を向ける。
「気をつけろ。奴らは‥‥乱暴だぞ」
菫のハリセンが唸り、快音が響き渡った。
聞き込みで情報は得られず、把握出来たのは荒らされる可能性の高い四か所の花壇の位置のみである。
調達された道具は、ライトに無線、捕縛縄。
「此処が狙われ易そうですね」
「ペアでそれぞれを見回って、連絡を取り合いましょう」
ナレインの提案に、皆が頷く。
メンバー表と作戦地図を見比べ、灯吾は思案する。
「司令役が欲しかったけど、これじゃ現場で手いっぱいだな」
「僕がやりますよ」
細かな作戦を詰めて行く東雲の眼は、何か役に立たなければという使命感で燃えていた。
「助かるぜ」
日没後それぞれが持ち場で待機し、無線で東雲に連絡を集める事で情報を共有する作戦となった。
ある意味では二人きりの夜。東雲は隣の菫を見つつ、胸を高鳴らせていた。
「なに?」
その視線に気が付いた彼女に見つめられ、顔を逸らし、良い所を見せなくちゃ! と気合を入れ直した所‥‥。
「ヒャッハー!」
自転車で爆走するリーゼント男とグラサン男が目の前の花壇を駆け抜けていった。
菫は、まだハシャぎたい年頃なのねと優しい気持ちになったが、それはそれとして遠慮なく完全武装のAU−KVで登場する。
「もう逃がしません。大人しく花壇荒しをヤめて捕まりなさい」
敵の気を引き、花壇から引き離すつもりだったが、不良達は二人に目もくれず、花畑を駆けまわってお遊戯中。
「人の話をきけー!」
無視された彼女はAU−KVバイクモードで突進し、リーゼントを跳ね飛ばした。
「ぴぐ!」
不良を乗せた自転車は月を背後に宙を飛んで大破する。
「ああ! ツワブキ君!」
グラサンが声をあげ、唾を飛ばしてメンチを切った。
「ンダコラぁ。こっちの方が交通弱者だろうが!」
無言のまま、低いモーター音を立て、鎧はその頭を掴む。
「降伏か退学か停学か死か。好きなモノの中から選んで下さい」
「如月さん、もう少し穏便に‥‥」
物騒な台詞を言う彼女を、東雲が宥めるも効果はナシ。
「お、オメーだって花踏んでるじゃねーか!」
指摘され足元見れば、確かに花壇内。しーんと静まりかえる。
「ひ、人のフリみて我がフリ直せー!」
そのまま不良を投げ飛ばした菫の行為に、「えー!?」と東雲は声を上げたが、結果だけを評価する事にした。
「ここはコレで終わりかな?」
他メンバーに報告を入れようと思った時、ゆらりとリーゼント男が立ち上がる。
彼は金櫛を取り出し髪型を整え、呟いた。
「危なかった‥‥リーゼントでなければ即死だったぜ」
深夜の園内に、ゆらゆらと揺れる柑色の灯り。
「夜の学校って、とっても静か‥‥時間によって、こんなにも姿が変わるのね」
こちらはナレイン、東野組の見回りである。
立ち止まった灯吾の瞳が真紅に変わり、犬歯が発達する。覚醒をし、その感覚を研ぎ澄ませて周囲を探っているのだ。
「灯吾ちゃん、なにかわかった?」
「妙だな‥‥感じ取れる気配が多いぜ」
緊張を解き、通常状態に戻って東野は一息つく、そして隣の綺麗なお姉さまに真剣な顔を向けた。
「俺達も戦わなければならないみたいっスね」
二人の前を塞ぐように、茂みから不良達が出てくる。その手にはバットやチェーンが握られていた。
「お二人さん、野エロするならギャラリーになるぜ」
一人が発した下品な台詞に同調し、一斉に笑い出すその数六名。
しかし、挑発に対して二人のリアクションは薄く、東野は無線を耳にしていたし、ナレインに至っては微笑みさえ浮かべていた。
「悪い事する子は逮捕しちゃうわよ?」
チャラリ、と手錠を見せてどこか楽しそうな彼。
「A班ピンチかもしれないんで、急いでもらっていいですか」
繋がらない無線をしまい、肩を鳴らして歩み出る灯吾。
不良達は自らのちっぽけなプライド故に選択を誤り、武器を振り上げ二人に迫った。
「そこの不良、花壇を荒らすとは言語道断です。大人しく縛につきなさい」
「‥‥たく面倒な。もう少し考えろよ」
陰より敵の状態を確認し、報告をした後奇襲をかける。そんな手筈を考えていた御門だが、春奈が飛び出し名乗りを上げた事により、五人の敵に囲まれていた。
「御門さん、フォローはお願いしますね」
戦闘が開始され、敵は二手に分かれて襲いかかってくる。
「手向かうならば、容赦はしません」
前後を取られた春奈は、防戦に回って数歩追い詰められるも、敵の同時攻撃を跳躍でかわし、着地と同時に渾身の突きを見舞う。
砕斗は三人を相手に、巧みに攻撃を捌き、前進して一人の鼻柱に掌を打ち込んだ。
腰の入った一撃を受けて倒れた仲間を見て、リーダーと思しき大柄な男が怒声を上げて突進してくる。迫力はあるが、粗暴で整合性のない動きだ。
砕斗は冷静に間合いを保ち、敵の拳を掻い潜って、その目に右掌をヒットさせる。動きを止めた巨漢の喉仏へ左貫手、そして即座に鳩尾を蹴りこむ怒涛の連撃を決めた。
「生憎と、それは筋が通らない、ってな」
一瞬の内に勝負が付き、実力差を悟った最後の一人は背を向けて駈け出すが、春奈が退路を断ち、捕らえてその肘を捻じり上げた。
「逃がすと思ったのですか? 花壇を荒らした理由はなんです」
詰問にニヤニヤとした笑みでせめてもの抵抗を示す不良を見て、御門は何かを見落としているような感覚を掴み、思案する。
(花壇を荒らすような輩だ、取るに足らない小者であっても不思議はないが、この程度なら、依頼に発展する程の騒動にならないのではないか?)
「春奈、こいつらは恐らく違う‥‥」
「雪江は下がっててよ。オイラ一人でやっつけちゃうから」
「そうはいきません。私も戦います」
二人は背中合わせに不良と対峙していた。
「ガキは帰ってママンのオッパイでも飲んでな!」
そう言われ、大好きな母親を思い浮かべ、えへへ、と照れる男の子。
「いや、今のは怒る所なんだが‥‥」
不良の一人が親切に教えてくれたりする。
「そうなの? とにかく花を大事にしないヤツはオイラが倒してやるぜ!」
かかってこい! と愛剣を振るう少年。
一方、雪江は模倣刀剣をピタリと構え、言葉少なに彼等に問う。
「なぜ花を‥‥?」
その凛とした空気は淀みなく清んでおり、じっと見据える瞳は、どこか寂しげでもあった。
天真爛漫な少年と、聖憐な少女を前に、不良は構えを解く。
「‥‥やめた。相手がこれじゃハリがねぇ。俺達はツワブキとは関係ねぇ。花壇荒らしちゃいねーよ」
「あれ? あんちゃん達、悪者じゃないのか?」
彼等は掲示を見て不良を懲らしめようとやってくる優等生気取りの生徒が気に入らず、喧嘩に参戦した別集団であった。
「マジすいませんでした」
「お陰で余計な時間くっちまったじゃねーか」
ズラリと正座した不良達。東野は溜息をついて、ぽかんと一人の頭を叩く。
ナレインは一人の不良の顎を、指先で持ち上げ質問する。
「その花壇荒しのツワブキ君って、どんな子なのかな〜?」
照れ気味の不良から得られた情報は、鬼の様に強く乱暴であるとの事だった。
不良の言動に不安になった二人は急ぎA班の元に向かった。
「菫さん!」
意識を失っている菫を抱き止めると、智弥は敵を睨みつけた。
リーゼントは覚醒し、その力を女生徒に向けたのである。
「‥‥許さないぞ」
彼も覚醒し、髪を金色に輝かせ、背に3対の天使翼を纏う。
果敢に殴りかかったが、その動きを捕らえられず、逆に殴られ何度もダウンする。
敵は攻撃特化能力者だろう。ドラグーンが生身のまま一矢報いるには、捨て身の覚悟が必要と実感した智弥は、一度菫を見、そして固く拳を握った。
「やああ!」
意識を取り戻した菫の瞳に、防御を捨てて突っ込んでいく智弥の姿が映る。
「智弥くん、駄目!」
力を振り絞り、声を上げて制止するが、男の戦いを止める事は出来なかった。
響く殴打音。
狂拳に沈む智弥を予想し、悲鳴を上げた菫が見たもの‥‥。
それは一枚のマント。
「火茄神渉! 参上〜!」
少年は二人の間に滑り込んでリーゼントの打撃を受けとめており、智弥の拳は敵の顔面に深々と食い込んでいた。
救急セットを用い、菫と智弥の治療を行う雪江。
「余計な心配させないでよね!」
「ごめん‥‥でも、許せなかったんだ」
菫は彼を怒り、智弥は照れ臭そうにそれを聞く。
そこに他班も合流した。
「やったのか?」
御門が倒れているツワブキの顔を覗き込む。途端、その目が開かれ、跳ね起きた敵の攻撃を腹に受け、彼は吹き飛ばされた。
全員の視線が不良に向けられる中、彼は立ち上がり、コキコキと首を回す。
「やるじゃねぇか‥‥小僧」
火茄神、東野が前に出て皆を庇う。渉は体中に紋章を浮かび上がらせ、灯吾もまた瞳に深紅を宿した。
「オイラと同じダークファイターだな!」
ナレインは踏み出し、負傷者と女性陣を手で制する。
「雪江ちゃんはそのまま二人を。春奈ちゃんは砕斗ちゃんの面倒を見てあげて」
「行くぜオラァ!」
丸太を振りまわすような拳を振う不良。その一撃は鋭く、そして重たい。
渉を心配し見守る雪江は、行けば足手まといになると冷静に判断し、踏留まる。
「くそ、油断したぜ‥‥」
身を捻り直撃は回避したが、御門のダメージは深く、戦いに参加しようとする彼を、春奈は襟首掴んで制止する。
「ダメだってば! 寝てなさい!」
二対一の殴り合いの末、敵の剛腕を、東野が豪力発現で受け止め、その隙に渉の流し斬りが決まる。グラリと揺れるツワブキに対し、灯吾の急所突きが突き刺さった。
勝負あり。
不良は驚異的な粘りで踏み留まったが、これ以上は喧嘩の範疇を超えると判断した東野は覚醒を解く。
「もうやめろ。勝負は付いてるぜ」
ツワブキは忠告を聞き入れようとせず、尚も一歩を踏み出す。そこにナレインの静かな声が響いた。
「どうして、花畑を荒らすような真似をしたの‥‥」
「軟弱な女々しいモンが嫌いだからに決まってんだろ。花だぁ? まさにお笑い草だぜ!」
戦いに高揚して笑いだす不良の答えに、ナレインは俯く。
「力技って、好きじゃないんだけどな‥‥」
彼の纏う空気が一変し、白い肌が褐に変色していく。
「‥‥いや、あの、若気の至り?」
その気配に異変を感じたツワブキは、やや丁寧に理由を告げ直したが、時既に遅かった。
「一番女々しいのはアンタでしょーが!」
火を噴いた電光石火の一撃。哀れ不良は直立姿勢のまま数メートル飛翔し、頭部より地面に刺さってKOとなった。
「‥‥」
周囲からの驚愕の視線を感じた彼は、キャっと可愛く恥じらってみせる。
「お姉さんをおこらせないで♪」
ツワブキ君、おパンツ一丁で正座中。
その姿を激写する菫を智弥が制止し、渉と雪江が彼の手当をする中、お説教タイムである。
「生徒会に突き出しましょう」
「お前な、一回プロトン砲の焼け野原見てみろ。雑草一本貴重に思えてくるからよ」
「もう悪い事したらダメだよー」
完全に戦意喪失状態のツワブキは、全てにコクコクと頷き、事件解決後に御門が課した花壇修復作業にも素直に従事したと云う。
こうして花壇に平和が訪れた。
「夏に綺麗な花が咲く予定なんです。是非見に来て下さい」
そんな言葉を報酬に受け取り、八人の正義の味方は、其々の日常へと戻ったのでありました。