タイトル:学園戦隊ドラグナーマスター:聞多 薫

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/03/08 10:25

●オープニング本文


 戦隊ヒーローモノ。
 その起源は定かではないが、何時の頃からか忽然と姿を現した、戦士軍団である。
 テーマカラーコスチュームを身に纏い、地球を侵略するアレやコレと戦う。
 あれ‥‥? これって何かに似てやしませんか。

「分からない女ですわね。仕方ありませんわ。もう一度説明して差し上げます」
 時は放課後、場所はカンパネラ学園1年某組。ヒステリックな声が教室に響く。
 戦隊モノの良さなる主観を延々と説明しているのは、暴走お嬢様と名高いカレン・オハラという女子生徒。なんでも先日、TVをチラ見してたらハマったらしい。
 教室からは既に人が脱兎のごとく逃げ出しており、それを聞いているのはクラス代表の白石夏音のみとなっていた。
 今日は早々と寮に戻って、乙女ゲーの続きをしたかったのに‥‥と心の内で涙する彼女は、それでも彼女の説明を真剣に聞く。
 クラス代表選考で他薦され、結果就任熱烈希望で自薦の彼女を差し置いてしまった経歴から、一方的に毛嫌いされていると感じていた白石は、これを切欠に仲良くなれればと思っていたのだが‥‥。
 しかし、カレンの熱弁の半分も理解できず、何とか会話を成立させようと焦った彼女は、とある噂を思い出し口走ってしまう。
「そう言えば‥‥」
 言いかけ、この情報をカレンに与えれば、また無用な問題が起こりかねないと言葉を引っ込めたのだが、運が悪い事に、お嬢様は台詞の続きに興味を示してしまったのである。
「なんですの? そう言えばなんですの?」
 あまりの食い付きに、白石はぎこちない笑顔で、学園の敵を成敗したグループ戦士を見たと云う男子生徒の話を続けた。
 あくまでも噂だから、と付け加える白石の話も聞かず、お嬢様は舞い上がり、それからと云うもの、彼女はヒーローを探して園内を徘徊するようになった。


 入学から数カ月を経て、学園生活に緩んだ結果、不良が急増しており、学園は少なからず危険度を増していた。
 能力者の学園である特殊性から、問題あるからと簡単に放校処分は下せず、寧ろそんな生徒にこそ学園生活の中での成長を期待していく。
 不良化は、能力者としての不安や、親元を離れた不安の表れかもしれない。
 厳しい戒律で取り締まれば、更なる歪みを生み、不良行為は陰湿さを増して行われるだろう。
 あくまで学園内での出来事であり、能力を一般人に向ける者が出ていない事から、学園側としては、基本的に静観している様子であった。

 ともあれ、そんな環境下で夜歩きを繰り返すクラスメートの身を案じ、また責任を感じた白石は、行動を決意する。
『なかったら、つくればいい』
 心なしか、なんとなく身近で耳にするフレーズな気もするが、兎に角、自らの言動に責任を持ち、そして無垢なる同級生の想いを汲む為に立ちあがったのである。
 それは、サンタクロースの存在を信じる子供を持った母親の心境であったかもしれない。


 そして計画は動き始めた。


 それはとある日の昼下がり。学園校舎裏。
「ンだコラァ。やんのかコラァ」
 授業エスケープ中の不良達の溜まり場に、一人の戦士が舞い降りていた。
 桃に染めたAU−KVを身に纏い、腕を交差し指さすようなポーズを彼等に向ける。
「‥‥」
 そのまま無言。決め台詞的なキャラ設定は固まっていなかったらしい。
 ひゅうう‥‥と風が吹き、カサカサと落葉の流れる緩やかな時間を挿み、痺れを切らした不良達は、謎の戦士に襲いかかった。
「‥‥や、やっちまえ!」

 さらに後日。体育館裏。
「跳ねてみろや‥‥」
 怯えてピョンピョンする男子生徒を取り囲み、顔を必要以上に近付けている三人の不良。
 その後ろから、AU−KUの起動音が響く。
「やめなさい‥‥」
 台詞の後に再びポージング。前回よりは進歩したが、まだまだ作りが浅くキャラが弱い。
「ああ〜?」
 振り返った彼等の顔が、とてもじゃないけど未成年とは思えず、やや腰の引けた謎戦士。
 そんな相手に、不良達は猛然と襲いかかった。

 学園問題にならない程度の平和なスケールで不良と謎戦士との抗争は続き、学園に出没した変なヒーローの噂は、瞬く間に広がった。
 しかし、光有る所、闇が有り。
 その存在を知った一年生不良グループのリーダー格が『ヒーロー狩』に動き出していたのである。

――そしてついに事態は動く。
 それは不良軍団からの宣戦布告であった。
『告! 謎のヒーローへ継ぐ。本日十六時、グラウンドへ来い。姿を見せなかった場合、我らの破壊は一般生徒へと向けられるであろう』
 
「ヒロシ一味らしいぜ‥‥」
「確か十数人規模のグループで、新入生でも一、二を争うって聞いた‥‥」
 説明的な不安を口にしてザワザワする生徒達と共に、掲示を見上げる白石。
 キャッキャウフフとカメラを磨くお嬢様を見て、負けられないと拳を握る。
 しかし、多勢に無勢。敵の顔も分からぬまま、その罠に飛び込まねばならない。

 真の戦隊ヒーローとなる為に、決定的に欠けているもの、それは『仲間』であった。
 しかし、正体を明かして友人に援軍を求める事はできなかった。
 なせなら、自分自身の正義行為もまた、学園視点で見れば、大いに問題があるのではないかと感じていたからである。
 
 もしかしたら、この掲示を見て、誰か立ち上がってくれる人がいるかもしれない。
 縋れるのは、そんな一縷の望み。
 
 決戦に向け、覚悟を固めた一人の女子生徒。
 待ち受けるのは、巨大な悪に屈する未来か。
 それとも、まだ見ぬ『ヒーロー仲間』との出会いか。
――果たしてその運命は?

●参加者一覧

RENN(gb1931
17歳・♂・HD
大槻 大慈(gb2013
13歳・♂・DG
芹沢ヒロミ(gb2089
17歳・♂・ST
ランディ・ランドルフ(gb2675
10歳・♂・HD
鳳(gb3210
19歳・♂・HD
郷田 信一郎(gb5079
31歳・♂・DG

●リプレイ本文

 砂煙巻きあがる校庭の真ん中に、『ヒロシ一味』と記された幟を翻らせる総勢二十名の不良集団。
 その統領たるヒロシはパイプ椅子に腰を下ろし、甲冑風に装飾されたAUKVを纏っている。彼を取り巻く構成員達は、体型、ルックス共に個性無く、AUKVも無改造で、明らかにエキストラ臭を漂わせていた。
 集まった見物客は不安に囁く。
「謎のヒーロー、来るかな?」
「これじゃ来ても嬲り殺しだよ」
 その中にはカメラを構えてハァハァしてるカレン・オハラの姿があった。

「きたぞー!」
 姿を現した桃のAUKVは、不良達と中央で対峙する。
「逃げずによく来たな。それは誉めてやろう」
 とりあえず褒めだすヒロシ。意外と気を使う性格なのかもしれない。
「だが、賢い選択ではないな!」
 卑屈な笑いを浮かべ、桃色を取り囲む不良達。
「傷めつけた後、その泣き顔を晒してくれよう‥‥」

「待てぇい!」
 絶体絶命の空気を切り裂き一括が響く。
「何奴!?」
 皆の視線が、全身黒衣のAUKV(郷田信一郎(gb5079))を捕らえる。
 背に白抜きで描かれた竜、それを見せ付けるようなポーズで後ろ向きに立っている雄姿!
「弱きを助けバグアを挫くべき能力者が、いや男が、たった一人の能力者相手に数任せとは情けない! 俺とこの背中の竜が貴様らに能力者の、そして男のあるべき姿というものを見せてやろう!」
 漢の口上に、ヒロシは持っていた軍扇をへし折る。
「何を黙って聞いておれば、小癪な!」 
「そこの桃色よ。このご、いや、黒竜、助太刀するぞ!」

 その時、後方よりガサガサと音がして何かが落下した。

 決戦三十分前。
 グラウンド傍の大樹に這い上がるAUKV(大槻大慈(gb2013))が一機ございました。
「ふっふっふ。ヒーローは地味な努力は人に見せないんだぜ」
 そのままオトナシク人が集まりだすのを待ちます。孤独な時間に、あれこれと考えてしまい、これで謎のヒーローが現れず、自分だけタコ殴りの悲しい目にあったらヤダナと悩む。
 桃AUKVの登場に、待ってました! と喜んだ所、響いたのが黒竜の前口上。
「出遅れたあああ!?」
 もうしばらく様子を見て美味しいタイミングを狙うか? いや、やはりここは時間通り参上のポリシーを優先させて?
 考えが纏まらぬまま身体が動き、姿勢を崩して落下するも、なんとか着地し、ふーっと一息ついた彼に、装甲を透過する程の視線が突き刺さる。

 全員が見てた。

 見物人も不良も桃色も黒竜も。
 今までそこの木に生ってたんだけど、熟成したので落ちました♪‥‥みたいな全体が艶消し濃紫色で胸元と額にハリセンマークのあるAUKVを見てました。
「てめぇらの悪事、カプロイアが見逃そうがこの俺が許さんっ! ハリセン王見参っ!」
 全員の視線を一身に集め、びしぃい! とポーズを決めた。それはそれで快感だったが、めげることなく名乗りを上げたその精神力に圧倒されてか、皆無言である。
 再びポーズを取る。
「ハリセンキング・オブ・ドラグナー!」
「は‥‥ハリセンキング!」
 観客の誰かがリピートしてくれた。それだけで嬉しかった。


 開始前から準備していたヒーローは一人ではなかった。
 周囲の茂みにAUKVを装着したまま待機していた芹沢ヒロミ(gb2089)は、戦闘開始の瞬間にメット装着し、拳を鳴らす。
 茂みから身を起こした所で黒竜が登場し、屈伸運動をしてました、的な動きでさり気無くごまかし、再び身を伏せる。
「あぶねぇ‥‥」
 後塵を拝するのも止むなし。セカンドインパクトを狙って、その名乗りが終わった瞬間にもう一度姿を現す。
「狼藉は‥‥!」
 その瞬間、木からハリセン王が落ちた。
 まさかの出来事に、三度身を隠し、更なるサードインパクトを求め、サッカーのゴールの上に全力で移動する。幸い周囲の目はハリセンの化身に釘付けだ。思いっきり息を吸い込み、シャウトする。
「狼藉はそこまでだぜ!」
「な、なにぃ!?」
「今度はどこだ!?」
「あそこだ!」
 右手を左斜め上へビッと伸ばし、左手は腰に。不良達を見下ろす!
「こっからはこの俺‥‥仮面ドラグナー・ブラックが相手だッ!!」
 とう! と声をあげ着地し、ヒーロー集団の先頭に躍り出る。
「さあ、死にたい奴からかかってこい!」
 イメージカラーがモロ被った黒竜も負けじと最前面にでて再び背中をアピールする。
「この黒竜に向かってくる度胸があるのならな!」

「たった四人で刃向うとは愚かな! 者ども、我らの力を見せてやれ!」
 ボスの号令が飛び、不良達はAUKVを装着し覚醒する!
「イヒー!」
 どうやら声が高くなって若干知性が薄くなる感じの覚醒変化で統一されているらしい。
 ヒーロー達を取り囲み、素早く回転を始めるその姿。彼等の無個性も手伝って幻惑効果が生まれる。

「多勢に無勢っちゅうんは、おもろいシチュエーションやないか♪」
 唐突に不良陣の後方から声が通り、振り返れば、そこにはパンダ(鳳(gb3210))がクンフー胴衣を着て立っていた。
 皆で目をごしごしした後もう一度見る。
「いや、ごめん。俺映画みてないんだ‥‥」
 申し訳なさそうに謝るヒロシ。
「某映画とか関係ないっちゅーねん‥‥で、どっちがどっちなん?」
「イヒー!」
 奇声を上げる集団を見て、パンダはそそくさとヒーロー側に加わった。
「この飛龍が龍に代わってお仕置きしたる! 来い! ひろしーあじとやら」
「いちみだ! ヒロシいちみ!」

 突如、一塵の風が舞い上がり、高速で姿を現すAUKV−AL011「ミカエル」(柿原 錬(gb1931)。ハルバードを振り回し騎士のようにガシッと構える
「よどみを押し流す旋風葵碧の幼竜ドラグナー! グリーンワイバーン!」
「せ‥‥正統派だ!!」
 新ヒーローの参入に、ギャラリーより一斉に驚きの声が上がる。

 このまま軍団を超えるヒーローが集結しまうのでは?
 内心ドキドキしていたヒロシは、やや疑心暗鬼に周囲を見る。
「イヒー?」
 部下達の姿が実に頼りない。
 フェイクを入れて背後を見たりして、誰の影も無いのを執拗に確認し、落ち着きと威勢を取り戻した。
「ふははは、馬鹿な奴らめ! 奴らに本当の恐怖を教えてやれ!」

 ついに始まる大決戦。再び円陣を組み、回り始めた不良達。
「これぞ車掛の陣!」
「車掛ってこんなのだっけ?」
 勝ち誇る親玉へハリセン王が突っ込みを入れるが、聞く耳なし。
 円を離れ攻撃し、そのまま対角線で円陣に戻る者、回りながらチェーンによる遠距離攻撃を仕掛ける者。
 円の淵は不良達の手にした武器がぎらつき、宛らチェーンソーの刃の様である。近寄れば無事では済まされない。
「この陣を破らないと勝ち目はねぇ!」
 ドラグナー・ブラックが叫ぶ。
 激しさを増す敵の攻撃を、ハリセン王は、かわして、かわして、かわして、かわすっ!
「フッ‥‥お前らの攻撃なんざ当るわけがねぇんだよっ!」
 反復横飛を奥儀まで昇華させた男は、世界広しと言えど彼だけだろう。
 身軽かつアクロバティクな動きで回避を続けていたパンダは、天に向けて叫んだ。
「俺も全力出そか。小飛虎(シャオフェイフー)! 合体や!」
 誰かが射出したのか、無人のまま猛然と突っ込んで来る白黒ツートンカラーのAUKV。それにヒラリと跨り、着装する。
「くそっ! その手があったか!」
 登場にプラスして合体シーンでも見せ場を作ったパンダの姿に、膝を叩いて悔しがるブラック。
「俺登場やり直して良い?」
 結構本気で木の方に走り出すハリセン。

「イヒー!」
 突っ込んできた不良の一撃を受け、桃色が倒れる。そこに降り注ぐチェーンに足を取られ、引きずり廻される。
「ああぅ!」
 砂煙をあげて転がり、そのまま円陣の際で敵の刃に晒されそうになった刹那、銃声と共にチェーンが砕け散った。

「やれやれ、不良ども相手に少々遊んでやるか」

 銃撃が続き、その間に桃色を助け起こすグリーンワイバーン。
「大丈夫?」
 白石はその声に聞き覚えがあった。

 一体、救世主は、何処に!?
「あそこだー!」
 それは校舎屋上に居た。背中にライフルを背負い、左腰にサーベルを持った白銀の鎧(ランディ・ランドルフ(gb2675))。左肩に流星のような狼を屠る竜の紋章が輝く。
「見つけてもらえてよかった‥‥」
 安堵の独り言の後、スナイパーライフルを構え、彼は高らかに名乗りを上げる。
「私の名前はドラグナー・ザ・ジャッジメントアーチャー。貴様らに裁きの弾を撃ち込む者だ」
 更なるヒーローの追加で浮足立った敵の乱れに、黒竜の目が光る。手にした戦斧の腹を、円陣の一瞬の緩みに打ち込み、怪力を発揮してその流れを止める。
「車掛の陣、破れたり!」

 前を行く者に次々にぶつかり、イヒイヒと顔をおさえる不良達。
「車間距離を守らないからそうなるんやで!」
 三節棍を広げた飛龍は、それを両手に構え、ぐぐっとタメた後に派手に振りまわす。自分も回る!
「奥儀、大旋風!」
 周囲数人を巻き込み、蹴散らす。

 ハリセン王は飛んだ。太陽を背に、大上段からのハリセン振り下ろしっ!
「喰らえっ!ハリセンスプラッシュっ!」
「イッヒッヒー」
 大振りのそれをかわし、小馬鹿にしたように踊った不良の顔面を、そのまま振り向きざまに横に薙ぎ払うっ!
「甘いんだよッ! ハリセントルネードぉっ!!」


「一般生徒に手を出そうとするたぁ、不良の風上にも置けねぇ野郎だな」
 ドラグナー・ブラックは喧嘩殺法で戦う。「ああん? お前ドコ中よ?」そんな台詞が聞こえてきそうな気迫。殴って蹴って頭突きして踏みつける。
「おいおい‥‥不良だったら気合入れろや、ゴラァ!!」
「イヒーん!」
 胸倉掴まれた不良、ちょっと泣いてた。

「これまでの自分の行いを、病院のベッドの上で悔いるがいい!」
 鬼神降臨。最早その体格差は反則の域に達していた。
 黒竜を必死に殴る不良だが、彼は動じずそれを受ける!
「気合をいれんか!」
 その爪を滾らせ、黒き竜は咆哮する。巨大な重機で圧殺するかのような、ショルダータックル。
「竜の怒り、その身で味わえ! 一撃必殺! ドラグーンボンバァァァァァ!!」
 吹き飛んだ不良が可哀想で見てられなかった。

「黒竜!」
「おうよ!」
 共に黒を冠する二人が、飛ぶ。飛んで着地して移動して、ポーズを決めてから倒れた不良にエルボーをかます。
『Wヒーローズエルボー!』

 ハリセンキングは、どこか自分と同じ匂いのする飛龍と背を合わせた。
「相棒、背中は頼んだぜ?」
 飛龍も同じように感じていたのだろう。小指を立ててみせる。
「がってん承知や!」

「殺しはしない。だが、AUKVの機能は破壊させてもらう」
 アーチャーの狙撃の前に散っていく不良達。結構手加減なし。
 屋上から校庭に降り立った彼は、銃さえなければと突進してくる敵を前に、冷笑を浮かべ、サーベルをスラリと引き抜いた。
「裁きの弾を放つ者とて近接戦闘に対応できないわけではないのでな。注意しろよ」
 銀に翻る剣技が悪を斬る。

 グリーンワイバーンは水の流れのように動き、相手の動きを受け流す。しかし、その動きには余裕がない。
 喧嘩慣れしている他のメンバーと違い、彼は迷いを抱えていた。そこに付け込まれ、不良の攻撃を食らう。
 「ぐあ!」
 蹲った彼は、リンチ状態となって傷めつけられる。
(らしくないな、こういう事で憤るなんて‥‥)
 彼は戦いに迷っていたのだ。そしてその理由に。
 彼の中の正義感の起源である、能力者の姉を思い浮かべる。
「イヒー! イヒー!」
 初の優勢にどこまでも調子に乗っていく不良達。
「能力者とはいえ人間‥‥間違える事は有る。でもこれは何なんだよ」
 彼は理不尽な暴力に対する怒りを力に変えて立ち上がった。
「吹き飛べ、旋風刃!」
 奮い立った緑竜。逞しく敵を弾き飛ばし、彼は叫んだ。
「誰だって恐怖を抱えてる。だからこういう事になるかも知れない‥‥でもこんなやり方は間違ってる!」

「あかーん! 必殺技かぶってるやーん!」
 がっくりと膝をつく飛龍を、相方がハリセンで慰めた。

「これが‥‥俺の自慢の拳だ。ドラグナー‥‥アルティメット・ナックルッ!!」
 ブラックの拳がエキストラを打ちのめし、残された敵は、ボス一人となった。
「馬鹿な‥‥貴様等生かして帰さん!」
 全ての部下を失い、ヒロシは形相を鬼と化し、鎧を装着しての最後決戦に臨む。
 しかしヒーロー達は構えず、黒竜が桃色の肩を叩いた。
「俺達はただの助っ人だ。決着はお前がつけろ」
 驚き振り返った彼女に、無言で頷く一同。
 顔も名前も知らない仲間達に背中を押され、白石は歩み出た。
 恐怖はなく、不思議と体中に力が沸き上がる、熱い感覚があった。
(これが戦隊ヒーローの力!)
 皆に見守られながら、桃色のドラグーンは吼えた。
「かかってきなさい!」

 正義は、勝利した。
 倒れた敵を見下ろし、ブラックは言う。
「‥‥不良少年は格好良くなきゃダメなんだぜ? 今のお前らは、単なる非行少年なんだよ」
 止めの一言に項垂れる不良達。
「ヒロシ‥‥ちゅうたっけ?なぁ、俺らと一緒に学園の平和、守らん?」
 悪を屠った、それだけでは単なる暴力に過ぎない。飛龍は、寛大な心で正義のなんたるかを示した。

 夕陽に浮かぶ7人のシルエット。
「これからも俺達で学園の平和を守らねぇか? 名前は‥‥そうだな。学園戦隊ドラグナーとかどうだ?」
 ブラックの提案に、一同顔を見合わせる。最初に頷いたのは、アーチャーだった。
「ふ‥‥悪くないな。だが、敵はまだまだいるのだろうか?」
 空を見上げ、敵を探すその視線に、飛龍が答えを示す。
「おるおる。バグアもおるしな」
 自信に満ちた仲間達へ、緑竜が照れ臭そうに独白する。
「分かったんだ、ここは温室なんかじゃない。誰もが勇気を振り絞って、戦わなければいけないんだ。未来の為に。格好付けようとか‥‥考えてた僕も、ヒーローになれるかな?」
「これから宜しくっ!」
 ハリセンが緑竜と肩を組む。
 今ココに、学園戦隊ドラグナーが結成された。

「みんな‥‥ありがとう」
 深々とお辞儀した白石の頭を、黒竜はわしわしと撫でる。
「今まで、一人でよく頑張ったな」
 ハリセン王はその腰をパンっと叩いた。
「何でも独りでやろうとするなよ? 俺達仲間がいるんだからよっ」

 別れを前に、全員が名残を惜しみ、見つめ合う。
「俺の名を告げておく‥‥」
 信頼の証として、己の名を告げた郷田信一郎。
 それに倣い、皆正体を明かし合ったのだった。
 彼等はその秘密を、一生守っていくであろう。



 カレンはご機嫌であった。
「ああよかったですわ、黒竜の雄々しさ、ブラックのワイルドさ、キングの可愛さ、飛龍の天真爛漫さ、アーチャーの知的さ、グリーンの儚さ」
 うっとりとヒーロー達を振り返る級友を見て、白石は頑張ってよかったと思う。
「桃は?」
「桃? あれイラナイ」
 彼女は独りトイレで涙を流したのだった。