タイトル:オイシイ匂いにご用心マスター:村井朋靖

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/08/06 10:29

●オープニング本文


 本格的な夏を迎えた四国を、ご自慢の移動屋台を引いてせっせと行脚する天満橋・タケル(gz0331)。
 この時期はささやかではあるが、お盆祭りやイベントが催され、まさに大忙し。こんな暑い時にこそ、アツアツのこなもんを食べてほしい。その思いひとつで、ゴールのない旅を続けていた。

 そんなある日、タケルはとある海水浴場で店を構えた。ここは毎年、この時期になると足を運ぶお決まりの場所である。
 ここの砂浜はそれほど広くないが、少し高い場所へ足を伸ばすと小高い山があり、そこでもレジャーが楽しめる。タケルはちょうど海と山の中間に陣取って商売を始めた。
「よっしゃ! 今日は新鮮なタコとイカが手に入ったから、いっちょ得意のたこ焼きとお好み焼きで押して行こか!」
 店主の愛想のよさもいいエッセンスとなり、自然とお客さんが集まってくる。おかげさまで、午前中は売れ行き好調。照りつける日差しをもろともせず、タケルは汗だくで熱気あふれる鉄板と格闘した。

 ところが正午を過ぎると、あれだけ続いた客足がピタッと止まった。その合間を縫うように額の汗を拭い、ひとつ大きなため息をつく。
「ふーっ、やっと一息つけるわ。麦茶でも飲んで休憩せんと、こっちがタコになってまうで‥‥」
 タケルはおもむろにクーラーボックスへ手を伸ばし、中から冷えたペットボトルを取り出した。それをぐいっと一口飲むと、背後に広がる青々とした山を見る。
「ちょうど昼時やからな〜。みんなバーベキューしとんやろ。あれも楽しいんやけどな〜。せや、たまには食う側に回るってのもええなぁ!」
 閑古鳥が鳴いても、それを嘆くことはしない。なぜなら仲間や家族や恋人たちが、楽しく過ごせているのだから。タケルはそんなことを考えながら、再び調理へと戻った。

 すると突然、壮年の男性が息を切らせて屋台に駆け込んできた。タケルは思わず、両手に持ったコテを鉄板の上に落としそうになる。
「な、なっ! なんやねん、驚かさんといてや〜!」
「タ、タ、タケルさん! す、すまん! やっ‥‥山の見回り隊と連絡がつかなくなったんだ!」
「また、えらい物騒な話や〜ん。ほら、たこ焼き一個食うて。落ち着いたらゆっくり話してや」
 できたてのたこ焼きを焦って口に運べば、誰もが衣の中の熱さで慌てる。このおじさんも例外ではなかった。その後は落ち着いて噛み、ゆっくりと飲み込む。
「ほー、慌てた。まま、とにかく話を聞いてくださいよ〜」
 すっかり日に焼けたおじさんは、騒動とやらの一部始終を話した。
 レジャーにやってきたお客さんが山の中で迷子にならないよう、地元の若い衆で結成した『山の見回り隊』が定期的に巡回を実施しているそうだ。
 それとは別に、隊員の安全確認の意味も込めて、決まった時間に無線で連絡を入れる約束になっている。このおじさんは、本部で隊員の安否を確認する役目を負っていた。
 その時、彼は隊員からおかしなセリフを聞く。何もないはずの森の中から「おいしそうな匂いがする‥‥」とだけ言い残すと、その後は通信が途絶えてしまう。おじさんは「まるで何かに操られたかのような言い方で気持ち悪い」と、個人的な感想を漏らした。
「まったく。ここでこんなええソースの香ばしい匂いがしてんのに、失礼な話やで〜」
「そう、そこ。そこなんですよ‥‥」
 タケルは冗談めかして言ったつもりだったが、相手はいたって冷静にそれを受け止め、ある疑問を口にした。
「あいつら、具体的な匂いの話をこれっぽっちもせずに応答しなくなるんですよ。これって、なんだかおかしくありません?」
「なるほどな〜。大将、たこ焼き一個でえらい冴えたね! 男前やで、ホンマ!」
 相手を褒めちぎったタケルは、急いで屋台の奥にしまってあるビデオカメラを取り出した。こんな理屈に合わないことをするのは、キメラ以外にあり得ない。彼は直感的にそう思い、報告を思い立った。
「大将も一緒に映る? その方がありがたいんやけど‥‥」
 タケルは商売そっちのけで、ULTに報告するビデオメールの撮影を始めた。


 その頃、山の中に潜む奇怪な生物が、人間たちの匂いを嗅ぎつけてじりじりと動き出していた。
 透き通るような肌色の長細い体を器用にくねらせ、ゆっくりだが確実に迫っていく。全長5メートルはあろうかというミミズ型キメラは、見回り隊の若者を次々に丸呑みして腹に蓄えていた。のんぺりとした口からは、絶えずおいしそうな匂いが放たれている‥‥そう、これが人間を魅了する原因なのだ。
「いひひひ‥‥もっともーっと! たくさんの人間を連れ去れば、わしも組織に返り咲けるはずだっ!」
 悪行を重ねるキメラの近くに、ガスマスクをつけた老科学者の姿があった。彼が今回の黒幕にして、巨大ミミズの生みの親である。
「たっぷり腹に溜め込んだら、さっさと退却じゃ。いひひひ!」
 しかし、ミミズの歩みは予想以上に遅い。なぜなら、腹にたんまり人間を抱えているからだ。それでもキメラは動き続ける。次の獲物を求めて‥‥

●参加者一覧

幡多野 克(ga0444
24歳・♂・AA
木花咲耶(ga5139
24歳・♀・FT
Cerberus(ga8178
29歳・♂・AA
白藤(gb7879
21歳・♀・JG
カンタレラ(gb9927
23歳・♀・ER
ジリオン・L・C(gc1321
24歳・♂・CA
御鑑 藍(gc1485
20歳・♀・PN
秦本 新(gc3832
21歳・♂・HD

●リプレイ本文

●魅惑の探索劇
 山の中に入ると、照りつける日差しを木々が和らげてくれる。風も通り抜け、幾分か心地がいい。しかし出現したキメラは、オイシイ匂いを発する危険な敵‥‥こんなに暑いのに、メンバーは口を防御して進むことを強要された。
 幡多野 克(ga0444)は「のんびりはしてられないね‥‥」と言い、秦本 新(gc3832)とコンビを組んで森の中に入る。新はAU−KVのバイクに乗って探索するが、あまり克から離れないように心がけた。
「いますかね、この辺?」
 新はフェイスマスクをしている。緊迫した場面で声が聞こえてないとマズいので、今のうちに実験しておこうと考えた。克も匂い対策を講じており、申請したガスマスクを装着している。これにいつものポーカーフェイスも手伝ってか、表情がまったく読めなかった。これで声も聞こえないとなると、新は困り果ててしまう。
「人が捕まってる。早く助けよう‥‥」
 返事が聞こえた。新は胸を撫で下ろしながら「そうですね」と頷き、無線機を取り出すと、他のメンバーに『現時点で手がかりなし』の報告を入れた。

「おいしそうな匂い‥‥どのような匂いなのでしょう‥‥ね」
「好奇心が刺激されますわ〜。でも、嗅いではいけないです‥‥気にはなりますけども」
 オイシイ匂いにすっかり魅了された女性コンビもまた、捜索を行っていた。和装に身を包む雅な木花咲耶(ga5139)と、人見知りをがんばって抑え込む御鑑 藍(gc1485)。ふたりは見回り隊が定めたコースに沿って歩いている。ここから大きく外れたとは考えづらい。何かきっかけになるものをつかめればと、ゆっくり道を進む。
「一筋縄ではいきませんわね」
「あ‥‥そうですね。先ほど‥‥秦本さんから連絡をいただいたので、私も報告します」
 咲耶は「山に入って、まだ間もないですし」と微笑むと、藍も小さく頷いた。

「けーちゃん、まだ見つかってへんって」
 こちらはカップルで行動中のCerberus(ga8178)と、白藤(gb7879)。ふたりはガスマスクを装備して隙がないように見えるが、実はそうでもない。その原因は白藤の虫嫌い。オイシイ匂いに興味があるのは咲耶や藍と変わらないが、出てくるキメラが虫となれば話は別。その形を想像するだけでも恐ろしい。
「虫‥‥まさか丸呑みとかせぇへんよね?」
「いいか、最低でも匂いを吸わないように気をつけろ。誘惑されたらどうしようもない。それで一瞬でも虫嫌いが治るとはいえ‥‥な」
 そんなCerberusの言葉に過敏に反応し、白藤は思わず「そんな治り方、嫌や!」と叫ぶ。けーちゃんは「ごもっとも」と頷くと、先を行くもうひとつのコンビを指差す。
「めっちゃ危ない気がするんやけど、あの人」
「本人がやるってんだから、それでいいんじゃね?」
 ふたりの心配をよそに、カンタレラ(gb9927)とジリオン・L・C(gc1321)はどんどん前へ進む。先頭を行くのも、白藤が心配するのもジリオン。何しろ、配られたマスクを外して「俺様が匂いを嗅ぐ」と言って聞かない。結果的に自らが囮になって、敵の居所を探ろうと躍起になっているというわけだ。さすがは自称・未来の勇者さま。スケールが違う。
 それをフォローするのが、カンタレラ。準備したマスクを装着し、勇者の自尊心を傷つけないよう離れて歩く。今はまだジリオンが周囲の様子を伺っているので、匂いに引き寄せられていない。これだけわかりやすい人だから、誘惑されればすぐにわかるはずだ。
「しかし変なキメラ、ね。誘導ができるなら、もっといろんなことができるでしょうに。もったいない、なぁ‥‥」
 カンタレラは他のメンバーとは違った感想を漏らす。医者という副業が、そのように考えさせるのか。ともかく今は、勇者の行動を見守るだけだ。

●勇者さま、お手柄!
 カンタレラがジリオンを泳がせて、しばらくの時間が過ぎた。彼は誰に見せるわけでもなく、『荒ぶる勇者のポーズ』で自らを鼓舞する。
「空! 裂! 改‥‥おおうっ! オイシイ匂いを感じ取ったぞ‥‥はあはあ、この匂いは‥‥あっち、か‥‥!」
 ジリオンの口調に変化が生じた。今まで以上に落ち着きのない言葉遣いに加え、あまりにも無茶な走り方‥‥カンタレラは確信した。すぐさまカップルを近くに呼び、彼氏に連絡を依頼する。そして今度は3人で追跡を開始。確かに勇者の足取りはおぼつかない。操り人形のように、ふらふらと歩いていた。
「おう、新か。地図上では‥‥ああ、その辺だ。藍にも連絡してくれ。ん‥‥残念ながら、まだジリオンは食われてない。安心しろ」
「この匂いは‥‥なんと上品な。俺様のような超一流の勇者こそが食するに値する。早くよこせー!」
 本当に誘惑されているのかわからない発言も飛び出すが、今のジリオンは間違いなく敵に接近している。白藤は震える手でバロックを抜いて戦闘の準備を整えた。

 ジリオンが山の中を10分ほど徘徊すると、木々の少ない開けた場所に出た。その奥にある木々の間から、今回の犯人が肌色の顔を覗かせる。
「ふっ‥‥魔王の手先め! 隠れて俺様をじらす気か!」
 雄々しく吠える勇者の声にお応えするべく、その巨体をずるずると引きずりながらミミズ型キメラが姿を現した。それを後ろで見ていた白藤は、目を閉じて渋い表情を見せる。どうやらこのビジュアルは、想像以上にダメらしい。Cerberusは身体にツインブレイドを立てかけ、彼女の肩にそっと手を置いた。
 そんな不安を吹き飛ばすかのような壮大なコントが、ジリオンの主演で繰り広げられる。勇者は敵の術中に嵌っているが、自分からキメラの口に飛び込むといった危険なことはしない。ただ匂いの元である口を追いかけるだけ。後はミミズがパクッと丸のみするだけの話である。
「熱い魂が叫んでいるのだ‥‥! この匂い、嗅がねば後悔すると! んー、ジューシー!」
 ミミズは「そうですか」と言わんばかりにひとつ頷くと、大きく口を開いて目の前のエサを召し上がろうとする。いよいよ‥‥という瞬間、エサはなぜか瞬天速を使い、全力で敵との距離を取った。
「あ、危ないじゃないか! 俺様が勇者の必殺技『勇者よけ』で避けなかったら‥‥怪我をしていたぞ!」
 丸呑みをスカして残念そうな呻き声を響かせるキメラに向かって、ジリオンは臆面もなく堂々と言い放つ。それを後ろで見ていた白藤は、彼の清々しい潔さに感心する。そして怖がっている自分がバカバカしくなった。カンタレラは誘惑よりも恐怖心が勝った状況をつぶさに観察。たとえ匂いで追い込まれても、臆病な能力者ならスキルで逃げられるという事実を知る。
「もうちょっとジリオンさんで人体実験したいんですけど‥‥ダメですか?」
「そっ、そんな悠長なん‥‥あ、あかんよ!」
 自分の怯えがまた顔を覗かせぬうちに攻撃したい‥‥白藤はすっと銃を構えた。それを見たカンタレラは即座に電波増幅の効果を発揮させ、予備のマスクを持って勇者さまの下へ走る。
「さぁて‥‥白藤と遊ぼうや?」
 紫の炎が身を包み、バロックの銃口から強弾撃で威力の増した弾丸が飛び出す。上部の口元を狙った一撃は命中し、そのまま皮膚を貫通した。
「ビギャオオオ‥‥!」
「ずいぶんとやわらかいお肌やね。次は小太刀で斬ったる。けーちゃん、背中は‥‥任せたで?」
 彼女の号砲を聞いたタイミングで飛び出したCerberusは、ツインブレイドで身体を切り裂く。ジリオンを飲み込もうとした動作を見る限り、お世辞にもすばやいとは言えない。挨拶代わりに突きと刺しを見舞った。
「悪いが、恋人が苦手なようだからな。思いっきり潰させてもらう‥‥ん、この下腹部は不自然に膨らんでるな?」
 カンタレラは匂いに翻弄されるジリオンに無理やりマスクをかけながら、Cerberusの言葉を耳にした。そして、視線を下腹部に向ける。
「もしかして、この中に見回り隊の人が‥‥?」
「ビンゴ! 貴様の言うとおりだ。勇者さま、お手柄だ!」
 ジリオンが丸呑みされかけたおかげで、推論はすぐに確信へと変わった。見回り隊が行方不明になった原因は、これですべて説明できる。

 このタイミングで、他のコンビも戦闘エリアに駆けつけた。咲耶と藍は比較的近い場所にいたらしく、すでに覚醒して愛用の武器を構えている。克と新は、キメラがひょっこり顔を出したところから姿を現した。新は連絡をもらった後も丹念に地面を調べ、ミミズの這いずった跡を発見。それを追跡することで、このタイミングに間に合った。新は即座にミカエルを装着し、克も二振りの刀に手をかける。メンバーが揃うと、自然と敵を包囲する形になっていた。
 もちろんキメラも黙ってはいない。すでに接近しているCerberusを丸呑みしようと頭を動かすが、これを回避するのは容易。すばやく前転し、武器で体勢を崩さぬよう気をつける。
「お見事。ここからはお手伝いしますよ」
 新の言葉を合図に、能力者の反撃が始まった。

●黒幕も登場?
 探索と同じく、咲耶と藍は連携して動く。咲耶は名刀「国士無双」からソニックブームで衝撃波を放ち、敵の頭を穿つ。
「その醜い顔を見せないでくださいますか」
 凛とした声が奏でる音は、男性をも驚かせるほど強力な拒絶‥‥ジリオンは気圧されて自分を指差すが、カンタレラが「違いますよ」と否定する。藍は疾風を発動させてから、迅雷で敵の口元に接近。そのまま刹那を使用してラサータの一撃を加える。防御に難のあるキメラは重い攻撃を受けて、すっかり意気消沈。
 それでも苛烈な攻撃は止まない。克も藍と同様に前へ立つと、二段撃を駆使して月詠と雲隠で攻め立てる。さらにフィニッシュは流し斬りを使用し、一度にすさまじいダメージを与えた。新は後方に回り込み、ヒベルティアで尻尾のあたりを突く。彼もまた下腹部の異変に気づき、その部分には手を出さないように心がけた。
 白藤は自分の名を冠した小太刀で攻め立て、Cerberusはそれをカバーするような立ち回りを披露。それはまさに息のあったコンビである。勇者さまの一件があったからか、白藤は躊躇なくやわらかい部分を切り裂いていく。どうやら早期の決着を狙っているようだ。
「さぁ、そろそろてめぇの腹ん中ぶちまけてみぃや?」
 言葉だけではとても見回り隊の人を心配しているように聞こえないが、彼女は彼女なりに必死だった。
 そんな皆の働きを見たジリオンは「俺様のピンチに、正義を愛する魂が駆けつけてくれたか!」といたく感動する。カンタレラは適当に頷きながら、再び自分に電波増幅を施して念を入れる。ただ攻め手に加わることはできない。なぜなら、勇者さまの身体から完全に毒気が抜けてないらしく、また口元へ行きそうになるからだ。彼女はいろんな手を使って阻んでいるが、そろそろアイデアも底を尽きる頃である。
 ミミズの反撃は、身体の柔軟性を生かした攻撃にスイッチ。頭を鞭のようにしならせて攻撃を仕掛ける。さっきの丸呑みよりかは早いが、標的にされた克や咲耶、そして藍にしてみればどちらも同じ。これを簡単に避け、いよいよキメラ退治もクライマックスを迎えた。

 ちょうどその時、木陰からガスマスクをした老人が姿を現す。表情は見えないが、声から察するに憤慨しているようだ。
「なんとふがいない! いやっ、それはわしのせいなのか? 人間を溜め込む能力を強化したせいで、肝心の戦闘能力が‥‥きーっ、そこは根性じゃ! 根性で補えっ!」
 その場にいた全員が怪訝そうな顔をしながら、一度は首を傾げた。そして誰もが瞬時に出した答えを、意味もなく疑ってみる。まさかこんなところに、キメラの生みの親がのこのこ出てくるなんてあり得ない。悩んで当然だ。
 そんな中、いち早く行動したのはカンタレラだ。おなじみの電波増幅で能力の底上げをした直後、老人に駆け寄ると手をギュッと握る。
「おじいさん。ここは危ない、です。同じようなキメラが潜んでいるかもしれません。私たちと一緒に行動しましょう。私の側が安全ですから」
 このセリフを聞いた他のメンバーが、今度は逆の方向に首を捻った。いろんな意味で信じたくなかった。サイエンティストであるカンタレラが、天然ボケをかましていることを‥‥何かの間違いで逃がすと厄介なことになると踏んだ藍は、あらゆる敵からの攻撃に備えるべく疾風を使い、迅雷で瞬時に老人の背後へ。勘違いさんに聞こえないよう、小さな声で「動かないで」と耳打ちする。蒼い戦士の迅速な対応は、みんなの頭をクリアーにしてくれた。
 克と咲耶がキメラの前に立って武器を構えると、両側に分かれて同時に流し斬りを繰り出す。これで勝負あり。ミミズが腹を上にして倒れると、新が慎重に下腹部を切って中身を確認。やはりここに見回り隊の面々が捕らえられていた。これを見た老人はガッカリ。自分の野望を打ち砕かれただけでなく、あのカンタレラにプライドをズタズタにされた。
「‥‥まったく。悪趣味だし、強くもないですし‥‥どうして、こんなキメラを作ったんでしょう、ね‥‥」
「ぐぬぬ‥‥しょせん貴様のような小娘には、わしの壮大なロマンはわからんわー!」
 地団駄踏んで悔しがる老科学者に「ガスマスク、もう、外していいと思うぞ‥‥?」と戸惑いながら声をかけるのは、なんとジリオンだった。ひとりでも厄介な天然ボケが、実はふたりも‥‥さすがの藍もいつ真実を話そうか、しばらく頭を悩ませた。

●大団円の屋台にて
 キメラの脅威も消え、消えた見回り隊も全員が無事に保護された。数日は病院で療養となるが、オイシイ匂いは嗅いだだけでウンザリするのだろう。
 天満橋・タケル(gz0331)は「うまいもんの匂いを嗅げんとは、とんだ災難やで〜」と、たこ焼きとお好み焼きを作りながら言った。克はそれを無心で頬張り、咲耶も食事を楽しんでいる。新はタケルにビデオメールの話題を振ると、嬉しそうに「わかる人にはわかるんやねぇ〜」と喜んでいた。

 もちろん、あの老科学者は逮捕された。カンタレラが「そうだったの?」と答え、ジリオンは今さら「魔王の手先めー!」と騒ぎ立てる。それを見た藍は「もっと早く言えば、よかったの‥‥かな?」と、今度は後悔した。

 Cerberusと白藤は、少し離れたところにあるテーブルに料理を並べて座っていた。その場の勢いが手伝ったとはいえ、白藤はミミズが苦手だったらしい。彼女はけーちゃんの服をつかんで、涙目で言った。
「ちょっと‥‥気味悪かった‥‥」
 それを聞いたCerberusは、頭を撫でながら「よくやった」と素直に褒めた。困難を克服することは、地球上にいる人間に与えられた試練‥‥それをみんなで乗り越えた白藤に、彼は惜しみない拍手を送った。