●リプレイ本文
●豪華なエサ?
天満橋・タケル(gz0331)の恨み節を聞いた能力者たちが現場付近へと赴く。そんな彼と別れる際、南十星(
gc1722)は手作りのあんこを渡した。
「おいしいたい焼きでも作って待っていてください。すぐに倒しますから」
タケルは小さなてこであんこを取り、すぐに味見する。
「これ‥‥えらいもんもろたな〜。もう一品考えとかないかんね!」
「大納言とザラメ、和三盆を使用したもので、私の手作りです」
道路が開通するまでのお楽しみをもらったタケルは、スキップで安全なところまで引き返す。それを見送った空言 凛(
gc4106)は「これが終わったらたい焼き作ってくれよな!」とエールを送った。
依頼解決後のお楽しみとして、一流のたい焼きを試食したいという声は多い。オルカ・スパイホップ(
gc1882)もそのひとり。今はラサ・ジェネシス(
gc2273)とともに、死体役を演じる準備をしていた。ケチャップを血糊にし、半端に折れた矢を背中にくっつける。これぞ死体の王道だ。
「彼らもまた、俺様と同じく正義を愛する、正しく熱い魂の持ち主なのだな‥‥」
拳を握り締めて感動に浸るのは、未来の勇者を自称するジリオン・L・C(
gc1321)。無論、誰もふたりを尊い犠牲にするつもりはない。ミカエルにまたがる秦本 新(
gc3832)は前衛に立ち、ホキュウ・カーン(
gc1547)とClis(
gc3913)は超機械で援護する。
「あれがコンドル‥‥何気に初めて見ましたよ」
新が呟くと、ホキュウは敵の行動を分析する。
「キメラの力を使って道を塞ぐわけですか。輸送路を塞ぐのは経済攻撃への典型的戦術ですから厄介ですね」
「コンドルのクセにただエサを待ってるだけなんて、いったい何なのかしら‥‥」
Clisも赤い髪を揺らしながら、ふたりの話に混ざった。狭い電線に身を寄せ合う敵の姿は、不思議と哀愁を感じさせる。
「準備できたよ〜!」
オルカとラサの扮装を見て、みんなが大きく頷いた。南十星は言う。
「オルカくん、エサ役だからといって本当に食べられないでくださいね」
「でも、ラサさんと勝負だから! どっちがキメラを魅了できるかっていうね!」
甘噛みくらいは我慢するんだという気概を見せるオルカ。ラサもその気に見えたので、南十星は彼女にも声をかける。
「ラサさんのアホ花は私が守ります。安心してエサ役、お願いします」
「我輩より、このアホ花が優先なのカ‥‥」
少女の素直な反応は、みんなの笑いを誘った。
いよいよ作戦開始。問題の場所は肉眼でも確認でき、間違いなく4匹が待機している。オルカとラサは行き倒れに見せかけようとふらふら歩き、コンドルの混んどる場所で演技を開始。
「う、うぅ〜。ご飯‥‥」
「やーらーれーター」
オルカは身を震わせ、ひもじさをアピールしながら頃合を見計らい、その場に力なくバタリと倒れこむ。正体不明の何者かに襲われた設定のラサも同じくバタリ。ケチャップのついた彼女の指はダイイングメッセージを残す。
「カケェ?」
足元が騒がしい。キメラは揃って下を見る。敵は身動きひとつせずに見つめているもんだから、討伐班の面々も気が気じゃない。
「はぁ、用心深いのも余計だわ‥‥」
すっかり呆れるClisを尻目に、コンドルは観察を続ける。オルカもラサも、ここは我慢。
すると1匹が降りてくる。どうやら確認にやってきたようだ。地面を歩いて囮に近づき、小首を傾げる。コンドルは先にオルカへ近づき、わき腹をくちばしでツンツンした。なんとこのお肉、まだぬくもりがある。敵は突然、甲高い声で一鳴きした。
「ケーーーッ!」
「なんか‥‥喜んでません?」
新の感想は当たっている。連中は「久しぶりのできたてご飯だ!」とばかりに2匹降りてきた。そして同じようにラサをつつくが、もちろん動かない。するとコンドルは相談を開始。これが「食っちゃおっか?」という内容であることは明白である。そしてこの瞬間は隙だらけ‥‥上に1匹を残していたが、ホキュウはここしかないと判断した。
「作戦開始! とっとと仕留めるか!」
覚醒した彼女の嬉しそうな声に背中を押され、討伐班は動き出した。
●道を阻むもの
「まずは、キメラの反撃を封じます」
南十星はSMG「ターミネーター」で制圧射撃を敢行。4匹すべての行動に制限をかける。Clisは自らに練成強化を施し、アスモデウスで上空に残った1匹に攻撃。禍々しき杖から発せられる電磁波を受け、敵は上空さえも安息の地でないことを悟る。
「そんなに驚かなくていいわよ。お仲間も同じ気持ちになるんだから」
彼女がそう言うが早いか、新はミカエルで地上の敵に接近すると同時にAU−KVを装着。そのまま竜の爪と竜の瞳を発動させ、ヒベルティアでオルカの生死を確認したキメラの翼を狙う。その攻撃が命中しても手を休めず、続いて竜の咆哮を駆使した突きで敵を吹き飛ばさんとする。
「さらに、もう一発っ!」
「ピギュエッ!」
AU−KVの一部に生じていたスパークが、今度は全身を駆け巡る。そして回避に失敗したコンドルを後ろへと弾き飛ばした。この新の流れるような動きは、まるで一陣の風。この勢いに乗ろうと、凛も負けじと瞬天速を使ってラサを狙っていた敵を襲う。
「イヤッホゥ!」
地を這えと言わんばかりに天拳を振り下ろし、そのままワンツー。狙われた方は驚きの声も出せぬまま、凛のサンドバッグになってしまう。ホキュウはもう1匹に狙いを定め、マジシャンズロッドを振りかざして豪快に電磁波を浴びせた。
これだけの騒ぎになった以上、もう演技はいらない。オルカは大喜びで立ち上がり、新に吹き飛ばされたコンドルに向かって「とったどー!」と猛アピール。そのまま蛇剋で攻撃を仕掛け、ダメージを重ねる。ラサもとっさに起き上がると、スタイリッシュに後方転回しつつ、スピエガンドですべての敵に一度ずつ銃撃を浴びせた。
「意気衝天! キメラは昇天ネ」
不意を突かれたコンドルはそれぞれ鋭い一撃を食らい、またしても悲鳴を響かせる。さっきまでの歓喜はどこへやら‥‥とその時、ジリオンが乱戦の中心で語り始めた!
「とーぅ! 俺様はジリオン! ラヴ! クラフトゥ! 極上の傭兵として日夜絶賛される俺様。彷徨える魂を危機よりを救うべくただいま参上!」
あれだけ慌てていたコンドルが、きょとんとした表情でジリオンを見る。ある意味で名乗りがバッチリ決まり、ジリオンはすっかり満足。
「行くぜ! 秘密の特訓で強化された俺様の! 神秘の直接攻撃をくらいやがれ!」
雄々しく叫び、おもむろに炎剣を構える未来の勇者。ところが、彼は自分から攻撃に行かない。あれだけ派手に出れば、どうしたって標的になるというもの。ジリオンは1匹の嫌な視線を感じるや否や、いきなり瞬天速で十分すぎる間合いを取った。これぞ選ばれし者だけが使える奥義「勇者よけ」である。
「‥‥あ、あぶな! その目つき‥‥け、怪我をするとこだったぞ!」
ターゲットがあっさり逃げたので、コンドルは手近なところにいた新をついばむが、装備が固くダメージが通らない。凛も反撃を受けるが、これをなんとか回避。ホキュウも爪の反撃を受け、これを回避し損ねて手傷を負わされた。
「ははは! そんな攻撃なんか効くかよー。こっちには‥‥こういう技があるんだぜー」
ホキュウは大笑いしながら活性化を使い、傷を回復させ、何事もなかったかのように振る舞う。同じく凛もお返しとばかりに目の前の敵にストレートを打つと、お高く留まっているコンドルを見上げた。
「降りてこねぇなら、こっちから行くぜ!」
凛は瞬天速を使って地面を蹴り、電線でくつろぐコンドルに奇襲のパンチを食らわせる!
「ケ、ケケーーーッ?!」
「オッラァ!」
驚くコンドルは全身に衝撃を受けたまま落ちた。それはまるで喝を入れられたかのようである。凛は再び瞬天速を使って、確実に地面へと降りた。彼女は近くにいたジリオンに後を託す。
「そいつの追撃、よろしく!」
これ以上なくオイシイ場面を用意され、勇者は奮い立つ。
「任せろ! おい、貴様。俺様を敵に回すと割に合わないと知れ!」
すっかり弱気な敵に対し、炎剣ゼフォンの容赦ない攻撃が襲う。相手に敵意が見えない時ほど、ジリオンは無類の強さを発揮する。そこにClisが再び超機械で攻撃を仕掛け、コンドルを確実に追い込む。仲間の援護を受け、ジリオンは声をかける。
「応援ありがとう! 熱くさまよえる魂よ‥‥!」
「その表現、詩としてはなかなかいいんじゃないかしら?」
勇者の熱き魂に触れる麗しい女性からも賞賛を受け、ますますやる気のジリオンであった。
●撃墜の時!
ラサはリロードの後、南十星に代わって制圧射撃を実行。再びコンドルたちの行動に制限を与えることに成功する。南十星は凛のサンドバッグになっていた敵に向かって銃を発射し、確実に息の根を止めた。
「残り3匹。皆さん、たい焼‥‥いえいえ、周辺の皆さんのためにもさっさと倒してしまいましょう」
「おー! やるやる、僕もがんばる!」
オルカの元気のいい返事は、タケルのたい焼きを望む声である。少年は地面を跳ねるように動きながら新に加勢、剣で攻撃を仕掛けた。新もまた高空へ逃げぬよう牽制射撃を織り交ぜつつ、槍で攻撃するというしたたかな面を見せる。
「さすがに素早い‥‥だが、捉えたっ!」
動きを抑制したおかげか、新とオルカの攻撃はよく当たり、このコンドルにもトドメを刺した。
残すは2匹。ホキュウは近接武器のように杖を振り回し、目標とする敵の撃退を狙う。さすがのコンドルも遠隔攻撃があることを知ってか、三度の攻撃を一度だけ避けた。これを見た彼女はたまらず嘆く。
「くー、あたらねえー。やっぱりダークファイターは近接距離で殴り合う方がお似合いってか?」
それでも彼女は武器を持ち替えずに、じりじりと敵との距離を縮めていく。息の荒くなってきたコンドルは「もう勘弁」という表情を浮かべているようにも見えた。
コンドルもジリオンに見せ場を作ってやろうと、決死のついばみ攻撃を繰り出す。勇者はこれを受けてしまい、手傷を負わされた。周囲の不安そうな表情とは裏腹に、本人は気丈に立ち上がって雄々しく笑う。空元気も元気。みんながホッとする。
ホキュウと対するもう1匹は、攻撃するどころか上空に逃れようと舞い上がった。逃がさない‥‥リロードを終えたスピエガンドを構え、ケチャップだらけのラサが超長距離狙撃を発動させ、羽の付け根を狙う!
「せめて安らか二眠レ!」
「ピギューーーッ!」
彼女の放つ一撃は狙い通りの場所に命中。空中で悶えるコンドルを引導に渡そうと、ホキュウが両断剣を付与した杖の一撃を叩き込む!
「逃がさねぇ! 必殺技だ。この大技、止められるか?!」
この大博打はホキュウの勝ち。ド派手な攻撃は敵の体を轟かせ、か細い叫びを奏でながら地面へと落ちていく。最後の1匹を仕留めるべく、Clisはジリオンの傷を練成治療で癒した。すると勇者は真デヴァステイターを構える。
「真の勇者とは! いかなる時も飛び道具を忘れないものだ! 古典的な勇者とは違うのだよ‥‥!」
そう言って容赦なく銃弾の雨を浴びせ、すっかり怯んだところに凛が突っ込んだ。
「オラオラオラァ!」
彼女のラッシュは確実に敵を撃ち抜き、最後は地面へと叩きつけられた。これでサンドバッグは1匹もいなくなり、国道のお掃除が完了。凛は満面の笑みを浮かべる。
「ふぅ! 戦った戦った! 戦ったら腹減ったな!」
「俺様はこれからも、俺様街道を伝説へとひた走るだろう‥‥ときめきながら待ってろよ! 運命よ!」
ジリオンの締めの言葉も飛び出し、これで遠慮なくたい焼きパーティーを楽しめる。それぞれが覚醒を止め、みんなでタケルの屋台を押して目的地へ急がせんとする勢いだった。
●スイーツパーティー
念願のあんこを手に入れる頃には、空は暗く月が昇っていた。タケルは屋台を照らし、その中で自分が思い描くたい焼きを作って見せる。
「オルッチ、お楽しみタイムだぜ!」
凛は嬉しそうに語る。焼き上がりを待つ間、タケルは南十星に黒いお椀を差し出した。
「あんなええもんもらえると思ってなかったから、ずいぶん考えたけど‥‥こういう形になったわ!」
南十星がふたを取ると、上品な匂いが周囲を包み込む。中身は変わり種のぜんざいだ。黒いあんこの荒波を、ミニサイズのたい焼きが泳いでいる。彼は一口食べると、いい表情でひとつ頷いた。
「なるほど。たい焼きはパリッと作り、中に何も入れなかったのですね。いいアクセントになってます」
「おっと、おいしいものは食べてこそ感想を共有できるものですよ。ねぇ、タケルさん?」
「さすがは新さん、察しええね! もちろんみんなの分は用意してるよ。でもその前にメインが出来そうやから、ちょっと待ってや!」
タケルはメインディッシュのたい焼きを完成させ、それを皿に乗せてみんなの前に出した。ラサは皿を持ってじっくりと報酬を観察する。
「ふむふむ、これがタイヤキですカ。見た目もかわいいスイーツですネ。でもなぜ、魚の形をしているのでしょうカ」
「あのまーるい今川焼きから派生したのが、このたい焼きらしいで。ま、養殖もので悪いけどな!」
店主の説明を聞いて、Clisは不思議そうな顔をした。
「ちゃんと焼いてるのに、養殖って‥‥どういうこと?」
「ああ、ゴメンゴメン。説明が足らんかったな。実はいっぺんに何枚も作るのを養殖ものって言うんやわ。逆に一枚だけ焼くのは天然ものな!」
疑問が解決すれば、またおいしくたい焼きが食べられる。彼女は何気なくおかわりを頼むと、オルカと凛も口を揃えて「もっともっと!」とおわかりを要求した。
「んー! うめぇな! さすが、ビデオレターで熱く語ってただけあるな!」
「そんなに甘くないから、何個でもいけるよ!」
モニターの反応も上々で、タケルも満面の笑みを浮かべる。南十星の提供で作られたスペシャルメニューも評判がよく、ホキュウからも「正式なメニューにすれば、さらなる売り上げが見込めます」とアドバイスを受けていた。
その話を小耳に挟んだラサが、タケルに話しかける。それは店主が夢見るKV広告についてだった。
「こなもん屋のKV広告の話を聞きましタ。ステッカーやマントなら、できると思いマス」
「日本の暫定首都である大阪発祥の食文化をアピールするKV‥‥なるほど、戦場では目立つことをしなければならない時もあります。場合によっては効果を発揮するでしょう」
「やってくれるんなら、どんどんやってや! いやぁー、世界が広がるなぁー」
これを聞いたタケルはすっかり上機嫌。みんなを腹いっぱいにするまでたい焼きを食べさせる勢いで、調子よく手を動かす。このパーティーはまだ終わりそうにない。