タイトル:美しさを進化する。マスター:村井朋靖

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/12/28 00:18

●オープニング本文


 UPCの調査機関に所属する、もはやおなじみの諜報3人組『ジェントルメンブラック』‥‥通称『GMB』。
 いつもお気楽な感じで任務に挑んでいるメンバーだが、今回ばかりは頭を抱えた。
 なんとせっかく上から与えられた仕事を、あろうことか盛大に失敗したのである。失敗の原因は、特定の誰かではなく全員のせいだった。
「ヘイ、ミスターM‥‥こりゃ参ったぜ。ずずず‥‥」
 ハンタは落胆の面持ちで、静かにうどんをすする。
「‥‥四国の侵攻計画を着々と進めるバグアの対人間、とりわけ民間人に対する活動の一端。それを我々が甘く見たのは事実だ‥‥」
 2杯目のうどんを食らうミスターMは、今までの経緯を冷静に分析した。

 1週間前、GMBは四国で活動する美しきバグア、フィリス・フォルクード(gz0353)が主催していると噂される『テーブルマナー講座』の潜入捜査を命じられた。
 主催者からボーイに至るまで、白スーツ着用のイケメンとなれば、もはや疑う余地はない。3人は黒のタキシードを着込み、一般客として会合に参加した。
 建物は親バグア組織の所有物らしく、うまく滞在を長引かせれば重要なデータなどが手に入るチャンスが生まれるかもしれない。ハンタが「楽な仕事だぜ」と呟きながら、次々と出される料理を丁寧に平らげていった。
 出されたものを食う‥‥これは当然の行動だ。しかし、これがいけない。デザートまで食べ終えると、主催者は拍手をしながら3人に近づき、最高の賛辞とともに賞状を差し出した。
「すばらしい! 本日おいでの皆さんの中で、あなた方が一番美しいマナーを披露してくださった! 皆さんは美しいテーブルマナーの鏡です!」
 他の一般客も「おおー」と言いながら、GMBに惜しみない拍手を送る。そして主催者に出口までピッタリ付き添われ、そのまま建物から退場させられた。
 いったい何が起きたのか。さっぱり訳のわからない3人は、肌寒い屋外で自分たちが置かれている状況を整理する。
「えーっと、俺たちは潜入捜査に来たんだよな。で、もっと長い時間の滞在を目指そうってことにした」
 ハンタは順序立てて、論理的に進める。それにトモも続く。
「オウ、ハンタ。その通りだ。そうすることで建物の徘徊するチャンスが生まれる。それを利用して情報を得ようとしてたんだ、アーハァン?」
「だけど、今は外にいる。客の半数はまだ建物の中にいるってのに‥‥」
 実は彼らが退出を求められた時、約半数の一般客も同時に帰されていた。いったい、建物の中に残る条件とは何なのか。その答えは窓から様子を伺っていたミスターMが持ってきた。
「‥‥残っているのは、テーブルマナーを知らない人間たちだ。今、ボーイとマンツーマンで教わっている。ある程度の自由も与えられているようだ‥‥」
 それを聞いたハンタとトモは「あっ!」と声を上げると、そのまま絶句した。
 GMBは商売柄、テーブルマナーは熟知している。だからコース料理を出されても、何不自由なく食べられる。ところが、もっと長く滞在できるのは「テーブルマナーが未熟」な方だったという‥‥思わず3人は渋い表情を浮かべた。
「そりゃ盲点だったな‥‥仕方ない、出直すか」
 ガックリと肩を落とすハンタは、恨めしそうに無駄に豪勢な建物を見上げた。

 そして帰った後、ミスターMは賞状をもらったことを逆手に取る作戦を立案した。
 自分の周囲にはテーブルマナーの習得を目指す人間がたくさんいる。先週のチャンピョンである我々としては、優れた指導力を発揮する主催者たちに教育をお願いしたい。それが『美しいテーブルマナー』を習得する近道ではないか‥‥と、相手が喜びそうな口実を用意した。
 この「テーブルマナーの習得を目指す人間」の役は、例によってULTで募集する。テーブルマナーができる人間は途中で帰されてしまうが、そこはGMBが体を張って意地でも潜入できる隙を作る。後半は『居残りで練習する者』と『潜入調査をする者』に分かれて行動。すべてが終わるまでに情報をかき集め、無用な騒ぎを起こさずに撤収する。これが作戦の全容だ。
 しかしこの作戦には、ひとつだけ問題がある。それは「確実に居残りになる人が必要」という点だ。これだけはGMBで準備しなければならない。ちょうどその時にトモが戻ってきた。なぜか赤い髪の女性を連れている。
「オウ、ハンタ! ミスターM! ちゃんと見つけてきたぜ!」
 トモは無神経にも、本人の前で「確実に居残りになれる杉森・あずさ(gz0330)さんだ、アーハァン?」と紹介した。次の瞬間、部屋中に鈍い音が響く。あずさがトモの頬をグーで殴ったのだ。
「ひ、人が真剣にテーブルマナーを学びたいって言ってるのに‥‥!」
「ヘイ、あずさ! 落ち着け! もっともだ。確かに今のはトモが悪い。俺が謝る!」
 ピクリとも動かないトモを見ながら、ハンタは必死になだめる。ミスターMは「これは間違いない」と大きく頷いた。
「‥‥杉森さんは潜入捜査に加われない。もっとも我々も加われないから、そのつもりでいてほしい」
「親バグア組織にテーブルマナーを教わるのは癪だけど、どこかで習得しないと‥‥旦那としゃれた店にも行けないからね」
 顔を赤らめながら、あずさは参加の動機を語る。ハンタは指笛で冷やかそうとしたが、足元に転がっている同僚の横に添い寝したくないので、全力で自重した。
 一風変わった潜入捜査‥‥GMBのリベンジが、今始まる。

●参加者一覧

終夜・無月(ga3084
20歳・♂・AA
雨霧 零(ga4508
24歳・♀・SN
ヨグ=ニグラス(gb1949
15歳・♂・HD
エイミー・H・メイヤー(gb5994
18歳・♀・AA
流叶・デュノフガリオ(gb6275
17歳・♀・PN
メシア・ローザリア(gb6467
20歳・♀・GD
ラサ・ジェネシス(gc2273
16歳・♀・JG
エドワード・マイヤーズ(gc5162
28歳・♂・GD

●リプレイ本文

●それぞれの思惑を秘め
 GMBはリベンジの舞台・四国へと再び降り立った。
 白銀の髪をなびかせる終夜・無月(ga3084)の立ち振る舞いは、講習を受ける前からすでに洗練されていた。GMBから全員分のケータイを借り、それをみんなに手渡す。
 これはマナーモードに設定されており、作戦の要となるタイミングでバイブが震える。最初は『停電の前』だが、この仕掛けは前日にGMBが「電気の点検」と称して設置済み。好きなタイミングでブレーカーを落とすことができる。そして次が撤退の時‥‥この合図あらば、潜入組はひとつの場所に集まって脱出のタイミングを計るのだ。
 悪の組織で捜索‥‥このシチュエーションに目を輝かすのは、雨霧 零(ga4508)だ。いつものように自信満々の笑みを浮かべている。しかし捜査をするためには、講座に合格しなければならない。そこでメシア・ローザリア(gb6467)にお願いして、テーブルマナーの確認をした。
「ええ、それで大丈夫ですわよ」
 お嬢様から太鼓判を押され、零も一安心。丸眼鏡がまぶしい英国紳士のエドワード・マイヤーズ(gc5162)も潜入組に名を連ねる。
 それを横目で見ていた居残り組の杉森・あずさ(gz0330)は、盛大に溜息をつく。悩みの種は「ちゃんと居残れるのか」ではなく、「ちゃんと帰れるか」である。いつまでも居残りさせられて、次の日の朝になったりしたら‥‥そんな悪い予感が頭をよぎる。
 それとは裏腹に、能天気な居残り組さんもいる。ヨグ=ニグラス(gb1949)も、そのひとりだ。
「ヘイ、あずささん! しゃれた店でバシッとマスターしましょうですぜっ」
 GMBの口調を真似て励ます少年に、あずさは力のない笑みを浮かべて「ああ」と返事する。あまりの覇気のなさに、ヨグは「んと、大丈夫ですか〜?」と心配したほどだ。
 潜入班のエイミー・H・メイヤー(gb5994)は、素敵なお友達で居残り組のラサ・ジェネシス(gc2273)が着る白いドレスのよれを直している。
「嫌々叩き込まれたテーブルマナーが役に立つなんて複雑だな」
 そう呟くエイミーとは対照的に、ラサは感慨深げに一言。
「今、まさに我輩がビューティエヴォリューションなのカー」
 その言葉にハッとするあずさ。そしてさらに、流叶・デュノフガリオ(gb6275)も過敏な反応をする。
 あずさはふと、彼女を見て疑問に思った。なぜ似た者同士の反応になったんだろう、と‥‥その疑問は、すぐに解消された。

 かくして潜入捜査が開始。GMBを先頭に、会場へと入る。エイミーはみんなをエスコートしたがったが、この場は招待される身なのでぐっと我慢。エドワードに活躍の場を譲る。
 零は組織から男性用の白のタキシードを借り、それに着替えて登場。あまりの変身っぷりにエイミーも驚いた。
 ヨグは常に真顔のあずさを相手に、マナーの講習会。得意げに知識を披露する。
「アレでしょ? 食事中はテレビばっかり見ないとか。食べながら話さないとか‥‥」
 あずさはなぜか赤面する。どうやら日常的にそういうことをやっているらしい。ヨグは「覚えるまでもなく知ってますですっ」と胸を張った。
 ところが、彼の行くところにテレビはない。潜入したみんながテーブルにつくと、ヨグは疑問を投げかける。
「‥‥あれ、テレビどこですか?」
 その言葉にラサも反応し、周囲を見渡す。エイミーはてっきり『ジョークだ』と思っていたが、本気で言ってると知ると目を丸くした。
 メシアは出席者に挨拶するために近づいてきた主催者に対し、うやうやしく礼をした。
「この場に招かれたこと、光栄に思いますわ」
 エイミーもそれに続き、小さく微笑みながら「ええ」と頷く。相手は「さすがはご紹介にあった方々だ」と褒めた。
 その足でステージに立った主催は「まずはご自由にどうぞ」とアナウンスすると、フランス料理のフルコースが次々と出される。潜入組はこれを難なく食べ、エドワードは「量が少なめなのは、満腹にならないための配慮ですね」と言いながら、無月と談笑したりして楽しい時間を過ごした。
 一方の居残り組は個性全開。ヨグはスプーンを落とすと椅子から降りて「ああっ」と言いながら拾い、あずさは残ったスープの飲み方を考えて肘をつく。ラサは食べ物が来るたびに教会仕込みのお祈りを捧げ、流叶はナイフとフォークを持つ手が震えるたびにカチャカチャと音を鳴らす。
 ミスターMは胸を撫で下ろした。居残り組に、誰ひとりとしてわざとらしい演技がないからだ。これは絶対に居残りさせられる。ハンタとトモは余計なことを言いそうなので、セリフと一緒に食事を必死に飲み込んでいた。

●二手に分かれる
 いよいよメインディッシュ。アートのように飾られた肉や魚が、テーブルを鮮やかに彩る。
 ここでも居残り組は、全力で立ち向かう。ラサはナイフを無視してフォークだけを使い、皿にあるものすべてを突き刺してバーベキューの串を完成。それを豪快に食べる。
「うん、ウマイ! そこの方! おかわりクダサイな!」
 ラサのイレギュラーな要望にも、スマートに応えるボーイたち。さすがは講座を開くだけのことはある。まったく動じない。かくして2本目の串ができあがった。
 そういう意味では、ヨグも負けていない。ナイフとフォークは、常に同じものを使ってエコスタイル。出されたものはセロリとお酒以外は全部食べる。未知の味にはお塩などの調味料を頼んで、自分のわかる味に調整したりとこちらも大暴れ。
 誰もそれを「ダメだ!」と遮らないから、流叶とあずさも「やっていいのかなぁ」と思いながらも、真似していいと思ったところは真似してしまう。
 この時、あずさは不思議そうな顔をして流叶を見た。そして小声で話す。
「あれっ‥‥流叶さん、捜査は?」
 不意に彼女は「ギクッ」という表情を見せる。やはりそう思われていたか‥‥流叶は伏目がちに声を発した。
「実は、ナイフとフォークの使い方をつい最近、夫に教えてもらったばっかりで‥‥」
 まさかの告白に動揺しつつ、あずさは「じゃ、覚えて帰ろうよ」と声をかける。これで少し気が楽になったのか、流叶も遠慮せずに自分のスタイルで食べ始めた。あえて箸を要求せず、ナイフとフォークでがんばる。

 デザートが出る頃、GMBはケータイで連絡を送った。停電作戦が軸だが、失敗してもこの後の選別で人間が移動するので、その隙を突いて潜入できる。
 最初に無月が行動開始。デザートの途中でボーイに断りを入れて席を立つ。そして化粧室に入ると同時に覚醒し、先手必勝と迅雷を駆使して物陰へと隠れた。それを知った零もマジメモードに入るが、ヨグに「眠いの?」と心配される始末。いつもならズッコケそうになるが、今回ばかりは我慢した。
 エイミーはホットドリンクが出た時点で席を立ち、化粧室の中で暗視スコープを準備。エドワードは苦手なコーヒーをあえて飲み、本気のゲップを抑えながら化粧室へ。その後はゲップを止めるため、個室でいろいろがんばった。メシアだけはその場に残り、優雅に紅茶を飲む。
 この時、流叶がボーイを呼んだ。これがすべての合図である。
「すみません。少し寒いので、暖房を強くしてもらえますか?」
 ボーイは「かしこまりました」と返事し、すぐさま暖房が強くなった。その数分後、ハンタはブレーカーを落とすためのスイッチを押す。

 ガタン!

 周囲は一瞬にして闇に包まれる。その刹那、流叶が「きゃっ!」と悲鳴を上げ、あずさの腕をつかんだ。ヨグもラサも普通に驚いて、スプーンを落とす。
 この手の騒動は、あっという間に広がっていく。一般客の間にも動揺が走って戸惑いの声が上がるが、ボーイは「どうかご安心を」と冷静な口調で落ち着かせる。彼らはすぐに非常電源が作動することを知っていた。しかし零はそれを見越して、GMBに「非常電源も作動しなくなるように細工を」と事前に依頼していた。だから照明は、すぐには復旧しない。だんだん騒ぎは大きくなっていく。
 メシアはその隙に席を立ち、暗視スコープを装着して2階へ。別々に潜んでいた潜入組も同じ場所を目指して移動。零は隠密潜行の効果を発揮する。
 照明が復旧する頃には、潜入組は勢ぞろい。メシアは覚醒し、GooDLuckと探査の眼を発動。エドワードも探査の眼を、無月はGooDLuckを使って捜査を開始する。そして零を先頭に歩き、堂々と道案内。そう、彼女の服は白のタキシードである。一見すると関係者を案内しているボーイ‥‥服を忘れたのも、すべて計算ずくなのだ。
「こちらでございます」
 探偵の勘がここだと囁いたのか。無月は笑顔で応え、部屋の中に入る。
 すると、そこは事務室のような場所だった。とはいえ、あまり見慣れぬ通信装置が据え置かれていることから、何かの情報がここにあると思われる。その辺にあるメモを見ながら、エイミーは零に声をかけた。
「さっすが、名探偵さん。作戦は大成功だな!」
「そこまで褒められるとたまらないね! これこそ『あくのそしき』の醍醐味っ!」
 こうして潜入組の捜査は順調に進んだ。

●あーちゃんと名探偵
 その頃、主催は停電のお詫びとして、全員にもう一度分のコースを振る舞うと発表する。もちろんテーブルマナーが苦手な人には、指導のオプションつき。この判断のおかげで、ボーイと料理人は総動員となり、結果的に潜入が楽になった。
 暗闇に怯え、しばらく震えが止まらなかった流叶も気持ちを切り替えて補習に挑む。今日は流叶の意外な姿を見る機会が多く、あずさは戸惑っていた。
「こんな情けないところ、見られたことなかったし‥‥杉森殿も驚いた、だろう?」
「そ、そんなことないよ! わ、私もナイフとフォークを持ってるだけなのに肩に力入ってるし、こんなの旦那に見られたら笑われるよ‥‥」
 その話題にヨグも食いつく。
「んとんと、あずささんは旦那さんにあーちゃんと呼ばれてるんですよね? ボクもあーちゃんって呼んでいいですかっ?」
 今度は流叶が「あーちゃん‥‥」と呟いて驚く。無邪気なラサが「ホントデスか?」と問い質すと、あずさはフォークで皿に丸を描いていじけながら「‥‥はい」と答えた。
「杉森殿‥‥ほ、本当なの‥‥か?」
 完全にヘコみモードのあずさに追い討ちをかけるように、ヨグが遠慮がちに妥協案を提示する。
「えと、ダメならあずさ姉様でいいですけどっ」
「い、いいよ! あーちゃんで。それ、昔からのあだ名だし、一応は聞き慣れてるから‥‥」
 本人からの許可が出たのを境に、ヨグは「あーちゃん」と呼ぶようになった。流叶は「旦那とはうまくいってるんだね」と感想を漏らすと、あずさは「うまくいってないのは義母だよ」と強がる。同じ立場の流叶とあずさは、指導の合間にそんな話をして盛り上がった。

 一方の潜入組はエドワードの勘が冴え渡り、ナイスなメモをいくつか手に入れる。
「ふむふむ。年明けから四国の侵略がいっそう激しくなると。それと並行する形で、人間の進化を促す前段階として、このような講座を開いている、と‥‥」
 戦闘の激化を予感させる情報が手に入り、捜査にも熱が入る。この辺でスクープを手に入れたいところだ。そこで零とメシアが考えを巡らせる。
「探偵さん、ワインの銘柄と年代を見ました? あれはずいぶんと上等なワインですのよ」
「ということは、ワインセラーがある!」
 零はみんなを連れ立って、1階にあるというワインセラーへと向かった。その頃には今日の必要分はすべて運び出しており、ここにもボーイの影はない。だからこそ怪しいとも受け取れる。
 するとエイミーが部屋の突き当たりに、地下へと下る階段を発見する。彼女は無月とエドワードとともに捜索を開始、メシアと零はその場に残って見張りを担当した。その時、メシアがおかしなものを見つける。
「あら、ワインセラーの一角を大衆ワインで埋め尽くすなんて。しかもこんなに若いワイン‥‥4日前に製造? これなら常温保存でいいでしょうに」
 その言葉に過敏な反応を示したのは、名探偵の零。彼女はボトルを手に取り、奇妙な行動を始める。
「ちょっと、あなた。ラベルなんて剥がしても‥‥」
「メシアさん、お手柄! 最高の発見は、ここにあったよ!」
 剥がしたラベルは意味もなく防水性に富み、破れにくい素材で作られている。もしボトルを割っても、ラベルだけは無事だろう。
 名探偵は、推理を披露した。
「早すぎる製造日は、バグアが組織に連絡を送った日! ボトルに仕掛けがないなら、ラベルのどこかに文字列が刻まれてるはず。ふふ、暗号だよ。それが書いてあるのは‥‥」
 零の言葉通り、ラベルの裏に解読不能な文字の羅列があった。さすがのメシアも、これには「お見事」と言うしかない。エイミーたちを地下から呼び戻して、潜入組はラベル剥がしを開始した。

●合流、そして退出!
 それらの収穫を得た頃、ケータイが震える。そろそろ帰る時間らしい。潜入組は流叶の耳栓型無線機で連絡をキャッチ。それをGMBに伝え、すぐさま戻るに適した環境を作り出す。主に手の空いているボーイを動かすのだが、その見事なお手並みを見たラサは思わず「GMBメンバーって、実はスゴい人達なのカモ‥‥」と感心した。

 潜入組は零を先頭に途中まで戻り、あとは席を立った時と同じ方向からテーブルへ戻る。
 無月は席に着くと、さっそくシェフを呼び出した。そして料理について食材から調味料、調理方法までズバリ言い当て、褒めるべきところと改善点を列挙していく。あまりの的確さに、シェフはただ聞き入るばかり。どこかヘコんでいる感じもする。無月はこう振る舞うことで、ずっとここにいたと誤認させようとした。
 そして主催から講座の終了を告げられ、ボーイたちが退出を促す。メンバーも一般客に紛れて、堂々と外に出た。

 外で無月は、あずさにあるメモを手渡す。なんでも料理の味と雰囲気が最高の店を、ふたり分予約してあるというのだ。
「この間のお礼ですよ。楽しんできてください‥‥」
 無月の微笑みとともに、あずさは「ありがとう」と素直に受け取った。それを見たエイミーも、ラサに「マナーが覚え切れなかったのなら、あたしが補習授業してあげようか?」と誘う。ラサは安心した表情で「ありがタイ」と喜んだ。
 しかし今日は肩に力が入って疲れたらしい。流叶もぐったりしていた。エドワードはひとつ手を叩き、GMBにうどん屋へ寄り道を提案する。
「食べた気がしないというのは、最大の不幸です。いかがでしょう?」
「エドワード、ナイス提案! ヘイ、トモ。近くにいい店ないのかよ?!」
「オウ、ハンタ。すぐ近くにあるぜ。みんな行くかい、アーハァン?」
 ハンタとトモの申し出に、居残り組は歓声を上げた。やっと気楽な食事ができるし、調査の報告もできる。一行はリラックスムードで、四国の街へと消えていった。