●リプレイ本文
●赤紫の機体
密会から数日後。カスタムティターンとハンター10機が、沖縄南部に姿を現した。あの夜の悪夢は、白昼に再現される。
「それじゃ、行くわよ」
榊原アサキ(gz0411)が号令を下すと、改造HW「ハンター」は勢いよく飛び出す。その後ろにアサキが控える。彼女のティターンは全身を血のように赤く染め、要所にトレードカラーである紫のラインが入っていた。次女・山城カケルの心遣いに、アサキもご満悦である。
しかしいい気分も、一瞬にして吹き飛ぶ。自機が複合ESM「ロータス・クイーン」とヴィジョンアイによる妨害を感知したからだ。
「そうこなくっちゃね」
彼女の見据える先には、大神 直人(
gb1865)機のピュアホワイトが立っている。アサキは彼に通信を送った。
「随分と命知らずじゃない」
「ラズベリー風味の苦渋の味に満足できてないようですから、今日は新しい味をお持ちしました」
さわやかな笑顔から繰り出される最上級の嫌味を聞き、アサキはハンターに狩りを開始するよう指示するが、これもまた阻まれる。ヨハン・クルーゲ(
gc3635)のディアマントシュタオプが、フィロソフィーで牽制。バグア式セミオートライフルとの撃ち合いで両者の足が止まると、突如として機槍「アテナ」を装備した雄々しき恐竜が突っ込んでくる!
「アーサキちゃん、遊びましょ♪」
「なっ、なんでそんなところから!」
声の主はミリハナク(
gc4008)。聞き慣れた声の出所は、意外な場所だった。なんとKVを掘った穴に隠して、そこから突進を敢行したのだ。
アサキに見つかると同時にブーストで速度を上げ、超伝導DCを発動させて防御面も充実させる。これを防ぐためにハンター2体がバグア式ブレス・ノウを発動させて制圧射撃を行うも、その勢いは殺せず、そのまま串刺しにされ、爆発炎上の憂き目に遭った。さらにぎゃおちゃんは煙幕を使い、狙撃の火線が集中しないように目くらましをする。
その隙を突いて、巳沢 涼(
gc3648)搭乗のゼカリア改「シャークティ」が、マルコキアスで弾幕を張った。
「やるこたぁ多いが、やってやるぜ!」
彼の位置は、アサキの妨害に専念する大神機の近く。彼の護衛をしながら、ハンターを相手する。涼の持つ武器がチェーンガンなので、ハンターも手を焼いた。
このチャンスにぎゃおちゃんはまたも機槍で暴れ、ドゥ・ヤフーリヴァ(
gc4751)こと「ヴァガーレ・ゴースト」もクロスマシンガンとフィロソフィーを浴びせた。ここでも2機の撃破すると、ゴーストはすかさずハンターの前に立つ。
「どれほど僕の友が恋した花を狂い咲かせたいのか」
亡霊の言葉に意味はあるが、それを思案する暇はハンターにない。残った6機は傭兵と距離を置き、戦闘を継続した。いかに改造したHW言えども、戦い慣れた傭兵たちが相手では存分に真価を発揮できず、しばし膠着状態が続く。
●魅惑の踊り手
アサキの前には、3機のKVが立ち塞がった。
まずは、愛機「忠勝」に乗る榊 兵衛(
ga0388)が前に出る。機槍「千鳥十文字」を持ち、その立ち姿は威風堂々。敵の邪悪なフォルムとは対照的である。
「さて、悪いがしばらく、俺と下手なダンスに興じてもらうぞ」
「うまく踊れたら褒めてあげるわよ」
アサキはそう言い放つと、兵衛と同じく槍を手に持ち、大きく踏み込んでくる。大きく縦に振りかぶるも、忠勝は機槍を地面に刺し、勢いよく後ろへ逃げた。これを見たラサ・ジェネシス(
gc2273)が、毬藻・ツインタワーの中から「ムムッ」と目を凝らす。
「榊殿、なぜ反撃に転じないのデスか?」
彼ほどのKV乗りなら、あの隙を突くのは難しくない。しかし兵衛は、あえて下がった。沖縄の空を戦った者だけが知る、カスタムティターンの底力‥‥これを仲間に伝えたかったからだ。
「いいか、ティターンの側面に立ってはならない。練剣「雪村」のごとく翼が生え、容赦なく切り刻まれる」
それを聞いたラサは、驚きながらも「了解しまシタ!」と答える。しかし彼女はさらに「アサキはまだ何か兵装を隠し持っているネ」と読んでいた。妙に気になるのが、あの槍だが‥‥今は「怪しい」としか言えない。どちらにせよ、効果的に使われると厄介なので、近接攻撃の合間にスラスターライフルを撃って隙間を埋めた。
同じく須佐 武流(
ga1461)も、ラサと同じタマモでアサキ戦線に参加。主に近接戦闘で攻め立てる。
「それでは、俺のダンスはどうかな?」
アサキの前で小さくジャンプし、細かい機動を駆使して半身となり、そこからタイガーファングを繰り出す。
「荒削りでダンスとは呼べないわ」
ティターンの持つ槍の柄で虎の牙を弾くが、武流機のエミオンスラスターはまだ動いている。この時、もうひとつの拳「シルバーブレット」が唸りを上げていた!
「踊っている相手のことを知ろうとしないようでは、まだまだ未熟だな」
振りかぶった勢いも加わり、強力な一撃がティターンの右肩を穿つ。この衝撃はコクピットのアサキを揺るがした。
「ううっ! 思ったよりトリッキーね。そういう性格かしら?」
「手の内を見せないうちに倒されるかもしれないというのに、随分と余裕だな」
兵衛はアサキと距離を置き、長距離バルカンで牽制。しばし近接戦闘を武流に任せた。
この行動は「アサキ機とハンターの連携を寸断するため」だが、カスタムティターンの火力を考えると、あまり余裕はない。
その証明となるアサキの反撃が始まった。アサキは目前に迫る武流機に向かって、傷ついた肩から有線式スパークニードルを射出。金属の乾いた音が周囲に響き渡る。
「く! 小細工を‥‥」
タマモの右胸に針が突き刺さるが、損傷は激しくない。
問題はここからだ。そのワイヤーを手繰って、アサキがさらに距離を詰め、槍で何度も突いてくる。これをすべて避けるのは、さすがの武流でも困難。機体は大きく傷つく。
「踊る相手を間違えたんじゃない?」
「さすがはカスタム、か‥‥やるな」
アサキはとにかく、前に出て戦うことを好む。ある意味で組しやすい敵なのだが、少しでも「アサキ有利」に見えてしまうと、敵軍の士気が上がってしまうのが難点だ。
この時も例外ではなく、ハンターはアサキの指示がなくともうまく連携し、直人機にも適当にちょっかいを出す。
「あれ、アサキさん。いつもの知将気取りはどうしたの? 正攻法で負けたら、もう出る幕ないよ?」
それでも、直人の口撃は激しさを増すばかりだ。今はとにかく、この状況を打開しないと、傭兵たちの背後にある集落が危険だ。勝負の分かれ目が、刻一刻と迫っている。
●傲慢と謙虚
ハンターとの戦闘は、長期戦を余儀なくされた。現在は3体ずつが固まり、接近を阻止しつつ、遠距離からの銃撃に終始する。
その中でも時折、鋭い威力の銃弾が飛んでくることがあった。それはまるで「リンクススナイプ」のような機能で、これがKVの装甲を削っていく。
「逃げるだけが脳じゃないんでしょ?」
ミリハナクは猛然と接近し、手前のHWに傷を負わせるのだが、3体がすかさず後退してすぐに体勢を整えてくる。これが長期戦の要因であった。
ただ、アサキとの分断は成功しているので無理はせず、旗色が悪くなれば次善策を考えるくらいの気持ちで挑んでいる。しかし、敵にこれだけの余裕はない。HW隊のリーダーは今の状況を見誤り、つい「アサキとの合流を図ろう」と色気を出してしまった。
そこでいったん傭兵ともアサキとも距離を取り、隙を突いて一気に合流‥‥と考えたが、ここで生まれた隙を見逃すほど、傭兵は甘くない。
ヴァイスを駆るヨハンは、交互にフィロソフィーを撃ち、リロードの隙さえも見せずに攻撃。ハンターの視線を感じたら煙幕を張り、ブーストとHBフォルムを併用し‥‥なんと、そのまま突っ込んでいく!
「と、突進?! バっ、バカな‥‥!!」
パイロットの虚を突くヨハンの頭脳プレーで、味方に絶好のチャンスを与える。すると亡霊が、音もなく静かに忍び寄った。
「狂い咲けェ! 僕の友が恋した華よ!」
アサルトフォーミュラAを載せた真ツインブレイドの斬撃は、地獄への片道切符か。まずはクロスに斬り、フィニッシュは真横に薙ぐ。これが双柳蘭狂舞‥‥今日も爆破の花が咲いた。
一方、シャークティはバグア式ブレス・ノウによる狙い撃ちに晒されている大神機の盾になりつつ、遠距離からマルコキアスで必死の応戦。それでもミリハナクが目指す先へのフォローも忘れない。
「そこの3体をやるんなら、俺にも考えがあるぜ」
漆黒に輝く大口径滑腔砲から放たれたのは、ゼカリア必殺の徹甲散弾。どちらとも距離を置いたのが仇となった。この3体すべてにダメージと混乱を与え、いよいよぎゃおちゃんが本気の牙を見せ付ける。
「ハンターが竜を狩れるとは思わないことですわね」
ここから機槍「アテナ」による蹂躙が始まる。HWは順番にダメージを負う形で連携していたため、すでに残りの耐久に自信が持てない状況だ。
地面から空へ向けて飛ぶ銃弾は、まるで乗組員の涙のよう。それは自分の力のなさを恨んでか、それともリーダーの判断を恨んでか‥‥急造の1小隊が爆炎とともに姿を消した。
残すは2機。ヨハンのヴァイスが挟み撃ちにされるも、距離が近いことから攻めに打って出る。
「シロフクロウの狩りは、知性的ですよ」
HBフォルムとEBフォルムを同時に起動させ、前方の敵にスパークワイヤーを引っ掛けるようにして攻撃。バランスが崩れたところで背後の射線を外し、自らは接近して練機刀「白桜舞」を突き立てる。ここまでの動きは、まさに動物的な狩りであった。
「手ごたえ、ありですね」
ヨハンの一撃で敵の駆動音が消え、周囲が静かになった。
しかし唯一残ったHWを犠牲にしてでも、最後の1機は背後からマシンガンを構える。また、あの鋭い銃撃を繰り出すのか。
「隙は見逃さねぇ、絶対にだ! 俺の大口径滑腔砲は、伊達じゃねぇぜ!!」
今度は涼が、背後から砲撃‥‥これで勝負あり。色気を見せたハンター部隊を、1機残らず破壊した。
●推理の力
ハンター撃破に乗り出した頃、武流に加え、兵衛も混じってアサキ機の押さえつけをしていた。
少しでも距離が開けば、忠勝は遠慮なくブーストを使って間合いを詰め、千鳥十文字を縦横に振る。さらに超伝導アクチュエータを駆使し、驚きの機動力を確保。回避のみならず、多角的な攻撃を繰り出し、アサキを大いに翻弄した。
「一日の長ってやつね、その武芸は立派だわ。ダンスは下手だけど」
アサキは忠勝の洗練された動きに舌を巻くも、高火力の攻撃で対応。槍と槍が、激しくぶつかり合う。
そこに割って入るのが、武流だ。確実な隙が生まれない状況ではあるが、最悪でも兵衛の攻撃に合わせる形で攻撃をぶつけることはできる。状況の打破には、これが不可欠と武流は腹を括った。
「屈辱にまみれて帰れ‥‥!」
渾身の攻撃は、FETマニューバAの起動から始まる。攻撃力の底上げを行い、持てるブースター類を活用してギリギリまで接近。そこから銀と虎の拳を思い切り振りかぶって放ち、その勢いを利して脚に装着したソードウィングとエナジーウィングの蹴りを見舞う!
「ううっ! こっ、これが本気というわけね、よく踊れるじゃない!」
これだけの攻撃を受ければ、さすがのアサキ機も無事では済まない。殴られた箇所は陥没し、剣翼によってボディも傷つけられた。しかし撃破までには至らず、アサキは反撃。必殺のプロトンウィングで切り刻まんとするも、武流は高出力ブースターを駆使して安全に回避する。
それを見たアサキは、武流を嘲笑した。
「フフフ、バカね。あたしが当てるつもりなら、相討ち覚悟でやってたわよ」
武流機が回避する先を読み、その場所を槍で狙う。武流も回避に専念し、なんとか紙一重のところで避けるも、彼女の攻撃は続く。彼は不利な体勢のままでの回避を強いられた。
ちょうどその頃、ハンター部隊を片付けたゴーストは、カスタムティターンを観察する。
だが、彼はすぐに違和感を覚え、思わずそれを口にした。
「アサキの武器が、槍?」
前線で戦いたがるアサキの性格から察するに、槍というチョイスはあまりにも意外だ。またお世辞にも細身とはいえず、あの形状では素早い突きには適さない。その辺はラサとまったく同じ感想だった。
「ゴースト殿もそう思われマスカ?」
アサキの妨害に徹しているラサは、ショットガンを撃ちながら通信を続ける。武流を救っているのは、彼女のおかげでもあった。
「あの装備だと、今に突進しそうデスネ‥‥」
この瞬間、ゴーストとラサはある推論にたどり着く。それを脳裏に描く前に、ふたりは何とかして言葉で表現した。
「武流君、今すぐ全力で避けろ! そいつの足元は機動力強化の改造がされている!!」
「アサキの性格からして、アレは突進用ダネ! よく見ると、槍にもギミックがあるヨ!」
これを聞いた直人は、すぐさま画面をズームアップ。その両者があることを確認し、すぐさま分析した。
「まさか、機槍突撃‥‥?!」
カケルが手がけた陸戦機には、パラディンやアッシェンプッツェルのエッセンスまで織り交ぜられているというのか。涼はマルコキアスで、ミリハナクは高分子レーザー砲「ラバグルート」を駆使し、アサキ機への懸命の妨害を始める。
「今の武流のタマモに、あれを防ぎ切る力はねぇ! 絶対に避けろ!」
「私、アサキちゃんの悔しがる顔が見たいの。ま、今から見れると思いますけど」
しかしマジックのタネがわかれば、回避のしようもあるというもの。アサキは周囲のご期待に応えるべく、敵の妨害を振り切って機槍突撃を敢行する。槍のギミックは無論、推進力を得るためのものだ。さらに足元のブースターからも推進力を得る。そして地面を抉りながら、宙を舞うKVを破壊せんと突進した。
「これは食らえない!」
先ほどの攻撃と同じ要領で、今回は見事に避け切る。周囲の傭兵も、胸を撫で下ろした。
ところが、肝心のアサキはその勢いを利する形で、戦線を離脱。どうやら最初から当てる気はなく、逃げるのが目的の発動だったようだ。
「本気のダンスは、またの機会にするわ」
「ごきげんよう、アサキちゃん」
ミリハナクは自信たっぷりにご挨拶し、逃げるアサキに追い討ちを浴びせた。
ただ今回は、口だけでなく攻撃も仕掛ける。ラバグルートで、カスタムティターンをずっと撃ちまくったのだ。これにはさすがのアサキも「参ったわね」と嘆息する。
ともかく集落の安全は確保し、敵勢力の排除も進め、カスタムティターンの性能もだいたい判明させることに成功した。
しかし、味方の損傷も激しい。赤紫の死神は、今後の沖縄戦線の大きな障害になりそうだ。