タイトル:【協奏】円舞曲2.蹂躙マスター:村井朋靖

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/05/23 23:04

●オープニング本文



 UPC沖縄軍が基地を設置したと聞き、風祭・鈴音(gz0344)の表情を曇らせた。
「ラルフ、次の一手を」
 不意に放たれた言葉にも動じず、ラルフ・ランドルフ(gz0123)は「ハッ」と答えた。
「UPC沖縄軍に、俺の部下を紛れ込ませた。今頃は連中が流した情報の真偽を確かめるべく、出撃の準備を整えている」
 敵軍にスパイを送るなど、ラルフにとっては朝飯前だ。
「嘉手納基地に上等な餌を用意しておいた。これを3姉妹に迎撃させる」
「あなたは、何もしないの?」
 鈴音の疑問はもっともだ。しかし彼は、不遜な態度で「いいえ」と言い放つ。
「その隙を突いて、俺が直々に‥‥ソウジ・グンベを殺す」
「いいでしょう。3姉妹の手配は任せます」
 鈴音は作戦の概要だけを聞き、後はラルフに作戦の遂行を任せた。
 実は今、鈴音の愛機「フォウン・バウ」は手元にない。3姉妹の次女・山城カケルによるチューンナップが終わっていなかった。だからこそ、ラルフに全権を委任したのだ。
「どんな曲が奏でられるのかしらね、今回は」
 黒煙と鮮血の楽章は、誰も知らないところで幕を開けようとしていた。


 時を同じくして、UPC沖縄軍は嘉手納基地の攻撃準備を整えていた。目指すはバグアの前線基地。敵の数も尋常ではない。
 上層部は作戦部と連携し、進軍を開始するギリギリまで計画を練っていた。
 ここまで方針が定まらないのには、理由がある。「嘉手納基地には、風祭鈴音に関するの機密が保管されている」という情報の取り扱いで揉めていたからだ。
 不確定な情報に惑わされて、虎口に飛び込むのは絶対に避けたい。だが、士気の高い状態ではそうもいかない‥‥堂々巡りは続く。
 そこでソウジ・グンベ(gz0017)が、最低限のルールだけ定める提案をした。
「全軍撤退の合図だけ決めましょう」
 ソウジは前線での指揮を任されており、精鋭を率いる立場だ。彼は上層部の混乱を回避すべく、「これだけは譲れない」と強く出る。
 彼の提案が承認され、UPC沖縄軍はようやく作戦を実行に移すことになった。


「は? ゴ、ゴーレムで出ると? あ、あの、カスタムティターンは‥‥」
 榊原アサキ(gz0411)の申し出を聞いた嘉手納の守将は、声を裏返しながら確認する。
 しかし三女からは、色よい返事は引き出せなかった。それどころか、ますます不機嫌になっていく。
「そんなの、あたしの勝手じゃない。ティターンは修理中で出れないのよ」
「そ、そうですか‥‥」
 あちらはカスタムティターンでのお出ましを希望していたのだが、完全に当てが外れた。相手は「これ以上は言うまい」とスッパリ諦め、話を前に進める。
「UPC軍を圧倒する戦力を有していますが、基地機能の喪失となれば話は別です。アサキ様には、滑走路の防衛をお願いしたく‥‥」
 ティターンと比べて一枚も二枚も落ちる機体で防衛に従事しろとは、ある意味で無礼の極みである。守将の顔色は青くなった。
「いいわよ、あなたが指揮者なんだから。あたしはその指示に従うだけ‥‥ふふふ」
 通信室にいる者は皆、色を失った。普段は敵に向けられるべきあの嘲笑を、自分たちに振り撒いている。これで動揺しない兵はいない。
「あたしはカケル姉さんから預かった戦力を護衛につけていくわ」
「ごっ、護衛は万全の態勢で‥‥」
「いいのよ、あたしのことは。嘉手納は嘉手納で動いてね」
 アサキは清々しい表情で守将を突き放し、一方的に通信を切った。その「プツン」という音は、少女の心境を如実に表しているかのようである。

 アサキはすぐに腹心の部下を近くに呼び、出撃の準備が整ったかを問うた。
「カスタムティターンの偽装は整ったかしら?」
「はい。カスタムティターンのコクピットは、ゴーレムの内装にしました。同じくゴーレムの内装も、カスタムティターンに変えておきました」
 今まで沖縄を荒らしてきた少女が、こんな絶好の機会を見逃すはずがない。先ほどのやり取りは芝居だ。ただ、半分は本当というか、本音なのだが‥‥
 アサキは今回、愛機「カスタムティターン」で出撃する。しかしラルフを信用できない彼女は、嘉手納基地との連携を絶ち、あえて独自の作戦を実行することにした。指揮官機の偽装である。まんまと騙された嘉手納軍はアサキが乗っているゴーレムを守ろうとするので、そこをカスタムティターンで、一気に蹂躙しようというのだ。
「あたしたちは風向きが悪くなったら、さっさと撤退するわよ。嘉手納の指示は無視して構わないわ」

 嘉手納軍、アサキ、そしてUPC沖縄軍‥‥円舞曲の第2章もまた、一筋縄ではいかないようだ。

●参加者一覧

榊 兵衛(ga0388
31歳・♂・PN
UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
時枝・悠(ga8810
19歳・♀・AA
大神 直人(gb1865
18歳・♂・DG
ジャック・ジェリア(gc0672
25歳・♂・GD
レインウォーカー(gc2524
24歳・♂・PN
ミリハナク(gc4008
24歳・♀・AA
ルリム・シャイコース(gc4543
18歳・♀・GP

●リプレイ本文

●虎口での戦い
 嘉手納基地の空を舞う味方にエスコートされ、地上部隊は軍用滑走路に着陸。それぞれが人型形態に変形し、迫り来る敵に備える。

 まずは嘉手納の戦力がお出迎え。恐竜2匹が大量のキメラを従え、猛然と走ってくる。その後ろでは巨亀が控え、せわしなく砲台を動かしていた。まだ指揮官機の姿が見えないのは、充実した戦力を有する証明であろうか。いつもより恐竜の咆哮が力強く聞こえた。
 しかしこの状況は、傭兵にとって特別な感情を抱かせるわけではない。特に時枝・悠(ga8810)は、そう感じていた。KVの駆り出される戦場は、だいたい面倒な状況である。だから彼女はいつも通りの対応をしようと心がけた。
「可能なら全滅させてもいいんだろうが、あの数は面倒臭そうだな」
 愛機・デアボリカに狙いを定めた恐竜に対し、彼女はレーザーガンで対応。敵は遠距離からの銃撃にのけぞりながらも突進を続け、負けじとプロトン砲で応戦する。しかしこれが当たるわけもなく、後衛に立つジャック・ジェリア(gc0672)のスピリットゴースト・ファントムが持つ真スラスターライフルの餌食となった。
「お前の命をもらいに来た」
 エンブレムに刻まれた言葉とともに放たれた弾丸は、赤色光線を吐き出した砲台を破壊。そのまま恐竜を木っ端微塵にした。併走していた恐竜は驚きの声を上げつつも速度は緩めず、漆黒のKVを目指して走り抜ける。それは操縦者・UNKNOWN(ga4276)の名を冠した機体で、彼はおもむろに巨大拳「雷雲」を振り上げた。
「うむ、人妻が来る前に一仕事だね」
 敵を十分に引きつけ、射程内に収めると一気に拳を振り下ろす。恐竜はその圧力に耐え切れず、固い地面とサンドイッチにされて爆発四散。文字通りの「鉄拳制裁」である。それを見たうら若きルリム・シャイコース(gc4543)は「正義が果たされた」と呟いた。そして自らも戦闘に集中すべく、コクピットの中で決意を口にする。
「浄化派の名において、バグアを滅するんだよ」
 この言葉の後、しばらくルリムの言葉は聞かれなくなった。だが、彼女の愛機・浄化天使は雄弁に語るがごとく動き回る。
 恐竜の撃破に慌てるキメラに向かって、彼女は90mm連装機関砲で弾幕射撃を浴びせ、一気にその数を減らす。さらに敵を操るがごとく動き回り、違う角度からガトリング砲「嵐」で攻撃を仕掛けるなどの工夫も見せた。
 UPC沖縄軍のKV隊はルリムの動きに合わせる形で、キメラの確実な撃破を目指す。その甲斐あって、最初こそ無数に見えた敵の数も目に見える形で減った。

●蹂躙せよ!
 あっけなく前衛を崩された嘉手納軍だが、ひとり残された巨亀が前に出てくることはない。接近を阻止すべくプロトン砲を吐き、静かに味方の増援を待った。
 しばらくすると、新手が押し寄せる。今度は恐竜1匹に、無数のキメラ‥‥それに加えて、嘉手納の守将らしきゴーレムが姿を現し、亀の隣に立った。
「アサキ様の到着が遅れているようだ。ここは何としても守り切らねば‥‥」
 戦うことが大好きなアサキの喜びそうな展開を用意せねば、自分たちの首が危うい。彼らもまた必死だった。
 そして彼女の登場を待ちわびる者がもうひとり。アサキの腹心からも「竜の嫁」と呼ばれるようになったミリハナク(gc4008)である。
「敵の策も何もかも、力で撃破って楽しいと思いません?」
 アサキに「出てきなさい」と言わんばかりに、高分子レーザー砲でKV部隊の援護を行う。無残な叫びとともに宙を舞うキメラは数知れず。これには味方の兵士も「ヒュー」と感嘆の吐息を響かせた。
 しかし、彼女の立ち位置は嘉手納基地制圧を目的とする味方とは距離を置いて立っている。すぐ近くには、レインウォーカー(gc2524)搭乗のペインブラッド改・リストレインが、アサキのお出ましを待っていた。
「ふーん、それが兵衛の見たアサキ機かぁ」
 つい最近、赤紫の敵と相対した榊 兵衛(ga0388)が機槍「千鳥十文字」でキメラを薙ぎ払う。もはやこの立ち姿も、バグアにはおなじみとなったか。
「練翼に機槍突撃か、同時使用されると厄介だねぇ」
「潜り込む仲間の時間を稼ぐのが目的だ。無理をしないようにな」
 兵衛の言葉を聞き、レインは「わかったよぉ」と笑う。肯定とも否定とも取れる言葉を返すのが、道化師の心得。練鎌「リビティナ」を構え、また不敵に笑った。
 ここで大神 直人(gb1865)が、ピュアホワイトから仲間に通信を送る。
「敵増援、アサキ機を含むと思われる」
 今の彼は髪が逆立ち、攻撃的な口調になっている。この直人の変化と言葉に、レインは思わず「いいねぇ」と微笑んだ。
 アサキが率いる軍団の構成は、誰が見ても奇妙に思える。以前、脅威を振り撒いたカスタムティターンとカケルコレクションのひとつである改造HW「ランサー」‥‥ここまでは何の変哲もない。ただ、なぜかアサキのトレードカラーに塗られた紫の強化型ゴーレムが寄り添う形で立っていた。
「あれは、マジックのつもりかな?」
 レインはミリハナクに説明を求めるも、彼女は返事するよりも早くラバグルートを撃ち、まずは集団に対してご挨拶する。
「あら、アサキちゃん。ごきげんよう」
 すぐに援軍はこれを回避し、ランサー2機は嘉手納軍の指揮を開始。他はカスタムティターンを守るようにして守りを固める。
「またあなたなの? ホント、どこにでもいるのね」
「そんなことないわよ。遊んでくれるっていうから来てあげてるだけ。気のせいよ」
 麗しき乙女の会話を傍受した直人は、しばし思案に暮れた。すでに複合ESM「ロータス・クイーン」は発動させている。ゴーレムの立ち位置が守備から少し外れており、いわば遊撃する位置に陣取っていた。それに通信に映る画面は、どう見てもゴーレムに見える。
「ミリハナク、もしかするとアサキはゴーレムに乗っているかもしれない」
 その通信にレインも割って入る。
「あの戦力、どうにも違和感がある。ランサーは防衛戦に向かないしねぇ。何か狙ってるのは確かだと思うよぉ」
 それを聞いたミリハナクは、長距離砲をゴーレムに向け、適当に撃ちこむ。たまに損傷を狙って撃つが、基本的には外すように心がけた。
「そんなところにいるアサキちゃんなんて、つまんないですわ」
 挑発しても前には出ず、カスタムティターンに守られながら回避に専念。そのうちランサーが恐竜やキメラを率いて接近してくる。
 これに対応するのはリストレイン。2丁のノワール・デヴァステイターを牽制気味に撃ち、射程範囲に収めれば練鎌で切り刻む。エンブレムのようなピエロが、今日も沖縄の大地で舞い踊る。
「そっちの恐竜はどうするんだい?」
 恐竜は恐竜でも、この場合はぎゃおちゃんのこと。ミリハナクは「射撃とはこうするのよ」とお手本を見せるかのように、まずはオフェンス・アクセラレータを起動し、大型榴弾砲で敵の密集地帯や指揮官機を狙って連続で撃ちこんだ。
 爆音とともに広がるのは、敵の動揺。嘉手納を預かる指揮官機もダメージを受け、キメラも「臆病」という名の動物的反応を垣間見せる。
「くううっ! やりがやったな、あの恐竜め!!」
「ふふっ‥‥蹂躙せよ、傭兵たち!」
 ミリハナクは狙った通りの戦況を作り出すと、満足げに声を上げた。滑走路での戦いも混迷の色を濃くなっていく。

●長期戦
 戦闘開始から1時間近くが経過し、嘉手納軍は思いも寄らぬ消耗戦を強いられていた。
 豊富な戦力が枯渇するまでには至らずとも、予想を遥かに上回る消費で、守将も顔色が優れない。さらにアサキの援軍が思ったよりも少なく、護衛をつけざるを得ないのも予定外だった。
「そういえば、人妻の阿修羅の姿がないな。バニースーツを着ると聞いてきたのだが‥‥」
 UNKNOWNが「不倫はいかんが、倦怠期なら仕方ない」とよくわからないことを言うので、悠が不思議そうな顔をして尋ねる。
「それ、ホントにあずさと約束したの?」
 紳士は弱った恐竜をデアボリカの方へ放り投げながら、「その通り」と頷いた。表情はいつも通りだが、胸は高鳴っているのだろう。
 しかし思わぬところから、真実が語られた。言ったのは、兵衛である。
「ああ、お前に伝言がある。あずさはソウジの護衛でここには来ない。だから約束は、次の機会になるとのことだ」
 せっかく楽しみにしてたのに‥‥決して、決して顔には出さないが、彼は深い悲しみを背広の内ポケットに隠す。そして「騙された」と呟くと同時に、愛機の動きが少し悲しそうに立ち尽くした。有機的な動きが売りのKVだが、こんなところまで再現できるとはさすがである。
 その後のUNKNOWN機の暴れっぷりは、どこか寂しげだった。とはいえ、管制塔や格納庫に八つ当たりする以上、どうしても派手さが際立つ。巨大拳に剣翼で仕留めていく姿はまさにド派手だが、爆発を背に受けて立つ姿は、なぜか悲しそうに映った。
「さすがに可哀想、か?」
 悠がぶっきらぼうにそう言うと、兵衛も「騙すのはよくない」と同意した。
 そんな彼も愛機「忠勝」で、敵の分断に精を出していた。長距離バルカンやレーザーライフルで敵陣の隊列を崩し、途中から指揮官機となったランサーを見つければブーストで急接近して間合いを詰める。そして鮮やかな機槍捌きで敵を圧倒し、最後は渾身の突きでフィニッシュ。動物的本能を兼ね備えるHWに何もさせず、一方的に退場を迫った。
「断ち切ってみせる」
 すっかり怖気づいたキメラは、ルリムとKV部隊がきれいに掃除。連装機関砲を撃ち尽くした後、ヴィガードリルで接近戦を挑み、味方を鼓舞するかのように立ち回る。
「‥‥‥‥‥」
 あの凛とした声を発さずとも、兵士たちはやるべきことを知る。彼らもうまく連携し、迫り来る敵に対応した。
 アサキの動きが鈍いためか、ルリムやKV部隊が前線に出そうになると、ジャックが戦線を抜けようとする敵に向かってキャノン砲を発射。隙を見せぬ状態を維持し、傭兵側の優位を揺るがさぬよう尽力する。悠もフィロソフィーで牽制に参加することもあった。
「遠距離だと、これしかないしさ」
 彼女はそう言いながらも、敵が手の届くところまでくればブーストとSESエンハンサーを駆使して、一気に片をつける。
 嘉手納の守将たる指揮官機こそ、奥に引っ込んでいて無事だったが、それは傭兵が一点集中を狙わないだけの話。首の皮一枚で生き残っている状況に変わりはなかった。

●奇襲の時
 この展開を嫌がったのか、ついにアサキたちが動き出す。1機だけ残ったランサーを引き連れて突っ込んでくるのは、なんとゴーレムの方であった。それに巨亀やキメラ、嘉手納の指揮官のひとりが搭乗するゴーレムがついてくる。一方のカスタムティターンには、ほとんど護衛がいない状態であった。
「あれってどういうことさぁ?」
 レインは疑問を投げかけるが、接近までに返事はなし。彼は「しょうがないかぁ」とすぐさま近接戦闘に切り替え、「回避しつつ斬る」の戦法に出た。
 すると隙を突く格好で、残ったランサーがブーストを唸らせて突撃を敢行。これをミリハナクは超伝導DCを駆使し、機盾ウルで防御して見せる。
「後衛とはいえ頑丈ですから。奇襲なんて許しませんわ」
 恐竜のテリトリーに踏み込んだHWの運命は、もはや定まったも同然。エナジーウィングで切り刻まれ、ディノファングで食いちぎられ、最後はむなしく爆発するのみである。
「今度はあたしが相手よ」
 そう言いながら迫るアサキ搭乗らしきゴーレムに対し、直人は今まで温存していたヴィジョン・アイを使う。すると映し出されている画像はゴーレムを経由し、追従するカスタムティターンから発信されていることが判明した。
「間違いない。アサキはカスタムティターンに乗っている! 後ろが本物だ!」
 直人の声に微笑むのは、道化と竜の娘。そしてアサキ本人であった。彼女はおもむろに槍を構えると、レインに照準を合わせて機槍突撃を発動させた!
「バレちゃったらしょうがない、ってね!!」
 敵も味方も巻き込んでの突撃は、もはや圧巻の一言。すさまじい突進力にレインも「へぇ〜」と驚くが、これをブーストジャンプで回避。あっさりと背後を取る。
「一度晒した手札、何度も通じると思っちゃダメだよねぇ」
 レインはすぐさまブラックハーツを発動させ、先ほどの優雅さから一転、獣のごとく攻め立てる。幸いにして敵は少ない。アサキが蹴散らしてくれたおかげだ。
 彼はアサキと斬り合いを演じると思いきや、急に練爪「セクメト」をティターンの左の肩口に刺し、行動を抑制する。
「この距離じゃ自慢の槍は振るえないよなぁ」
「何言ってんだか。あたしの武器はこれだけじゃないわよ!」
 アサキは半身になって練翼を繰り出そうとするも、仕掛けはレインの方が早かった。この超至近距離から真雷光破を2回連続で使用し、光波と電撃の振幅放射を浴びせる。
「嗤え」
 この一撃で勝負あり。ぎゃおちゃんのエナジーウィングは腕の装甲を切る。さらにジャックは長距離砲の半分をこの時のために温存しており、そのありったけをアサキ機に向けて放つ。直人のマークも厳しく、このままではアサキまでもが蹂躙した仲間と同じ末路になる可能性すらあった。
 しかし、ここは嘉手納軍が必死の妨害でアサキ討伐を阻止する。アサキが企てた奇襲の失敗は自身を窮地に追い込むも、結果的には混戦を導く結果となった。
 アサキも機体の損傷を気にして「潮時ね」と判断し、セクメトを引き抜いて一気に後方へ。ジャックとミリハナクが長距離砲で牽制するも、二度と前へ出てくることはなかった。

 そこへ、沖縄軍からの正式に「全軍撤退命令」が下される。これを聞いた傭兵とKV部隊は、即座に戦線からの離脱を開始した。
「先に行きなぁ」
 レインと悠は手近な敵を切り伏せ、兵衛は後ろを向く前に弾幕掃射で遠くの敵を怯ませ、撤退の隙を作った。まずはKV部隊を先に行かせ、続いてジャックやUNKNOWNが離脱。直人は最後の分析を終えると、周囲にこう伝えた。
「敵軍の被害は大きいらしく、無理には追ってこないようだ。その辺の敵を片付けたら離脱すればいい」
 彼もまた素早く離脱し、空を舞いながら戦況を見守る。そして兵衛にルリム、ミリハナクも戦域を離れ、最後は悠とレインが飛び立った。
「浄化完了」
 そんなルリムの物言いに、悠は納得の表情を浮かべる。
「まさにそんな感じ。勝った負けたっていうか、今回はバグアを浄化したって感じがする」
 滑走路での戦いは、バグアではなく傭兵が蹂躙した感が強い結果となった。