●リプレイ本文
●HWの始末
高知県宿毛市は、ミスターS(gz0424)の急襲で大きな損害を受けた。
だが皮肉にも、彼の愛機であるゼダ・アーシュと対峙する傭兵たちにとって、廃墟となった街というのは非常に戦いやすい地形である。決死の包囲網を形成するUPC四国軍は、この有様を指をくわえて見守るしかなかった。
そこへ、傭兵のKVが続々と登場。里見・さやか(
ga0153)は宿毛市に到着すると同時に、アンチジャミングを起動。高度100m付近に位置取ると、宿毛市の三方をぐるりと囲む山をレーダーで走査する。
「さて、伏兵はいないでしょうか‥‥」
報告にあった大型ヘルメットワームは、すぐに見つかった。数は3体。3姉妹の次女・山城カケル(gz0492)が改造した特製のHWコレクションでもなく、何の変哲もないただのHWだった。
この状況をしかと蛇眼で確認した錦織・長郎(
ga8268)は、改めて考察を行う。
「囮とはいえ、こちらの戦力をこんな遠くまで引き寄せにきたのは、おかしな物だよね」
その割に、出迎えの数が少なすぎる。オロチ改「ケツァルコアトル」の中で、長郎は腕組みをして考えた。
「これを利すれば、ゼダ・アーシュ破壊への道筋もつく。くっくっくっ‥‥」
自分たちが罠にかかったのか、それともミスターが自らの策に溺れたのか。それは少し先の未来で明らかになるだろう。
大型HWはミスターの傍を浮遊している。まずはこれの引き剥がしが必要だ。
そこで、シュテルン・G搭乗の赤崎羽矢子(
gb2140)が、仲間たちと連携して先手を奪わんと奮起する。
「東京から逃げて、四国でこんなことを。突破もさせないし、これ以上街を破壊させないよ!」
強い口調は、強い意志の現れか。低空からG放電を繰り出し、ゼダとHWを牽制する。その横をリヴァル・クロウ(
gb2337)の「電影」がすり抜け、とっさに煙幕を巻いた。
「思い通りにはさせん」
リヴァル機は濃煙が立ち昇る空間でVTOLを使用し、いち早く着陸。羽矢子らもそれに続き、人型へと変形。プラズマライフルを構え、あえて敵機の方へと飛び出す。
「先手必勝!」
難敵だからと言って、臆している暇はない。羽矢子機は勇猛果敢に攻め立てる。
しかし、敵との距離は依然として開いたまま。これはまだご挨拶代わりか‥‥と思いきや、同じく着陸を果たした鷹代 由稀(
ga1601)のフィーニクスが、いつの間にか対角線上に控えていた。フィーニクス・レイを構えているところを見ると、プロトディメントレーザーで一気に薙ぎ払うつもりらしい。
「分断、狙ってみる。巻き込まれても、文句は聞かないからね!」
とはいえ、この行動は上空で管制を行う情報機が認識済み。KV各機に射線から外れるよう、警告が出されている。
「手の内は読めてるんだけど、いきなりそれをされると困るねぇ」
ミスターはコクピットの中で、不敵な笑みを浮かべる。そしてHWに対し、速やかな退避を指示した。
金色を纏うヴェズルフェルニルから放たれた破壊の光は、街の残骸を欠片にしながら前に進む。ゼダは防御し、HW各機は回避に専念するも1機だけ被弾。その身から黒煙を上げた。そこへ綾河 疾音(
gc6835)をはじめとするHW対応班が、手負いの敵に止めを刺さんと姿を現す。
「今だッ、好きなダケ撃って、蜂の巣にしちまえよ!」
その言葉通り、レアル・ソルタードはフレキシブル・スラスターを併用した上で、システムテンペスタを使用。被弾箇所の拡大に精を出す。弾丸が傷口を抉り、さらに大きなダメージを与えた。
さらなる追撃はルーガ・バルハザード(
gc8043)が担う。彼女はリヴァティーの飛行形態で対応。アグレッシブ・ファングを起動させ、ミサイルを発射。HWは直撃を免れようと逃げるも、損傷の激しい機体では無理があったか。騎士の覚悟は、敵機を爆破へと追い込んだ。
「これで1機か‥‥お前だけでなく、全員が早々にお帰りいただきたいものだな!」
師匠であるルーガの言葉を聞いた、弟子のエルレーン(
gc8086)。ここは踏ん張りどころである。
「ううっ‥‥怖い、怖い敵なの!」
そんな彼女もまた、ラスヴィエートで空を舞う。地面の状況が悪いので、あえてこの戦法を取った。
今はゼダと距離があるため、背後からの攻撃を受ける心配がない。ひとまず怯えた心を操縦桿の裏に隠し、照準最適化機能を駆使した上で、ガトリング砲を発射。最初こそ機敏な動きで避けられるが、しつこく攻め続ければ次第に命中する。これが彼女の緊張を和らげた。
「そう、そうよ。できることはしなきゃ! このままやられっぱなしなんて!」
「それでこそ、我が弟子。今だ、前に出ろ!」
ルーガは奮起を促しつつ、エルレーンと同じ目標をマシンガンで牽制気味に攻撃。背後に控える疾音に「今だ!」と合図すれば、彼は対空砲で迎撃する。
「鷹代、俺らガンガン攻めてるけど‥‥実は変な装置がついてるとか、ないよな?」
不安に駆られる気持ちは、何もエルレーンだけが感じているわけではなかった。疾音の要請に応える形で、由稀は改めてHWの形状を確認するが、外見は何の変哲もない。
「たぶん大丈夫。気にしたら負けよ」
彼女はそういうと、さらに後方からラバグルートで砲撃。確実にHWを劣勢に追い込んでいく。
「どうせ追われるなら、女の子の方が嬉しいでしょ?」
敵はその言葉に操られるがごとく逃げ回りつつ、反撃のチャンスを待った。HWは背後から迫る師弟コンビにプロトン砲を浴びせ、その勢いを削ごうとするが、それに耐え得るだけの力は持ち合わせている。エルレーンはよく照準を合わせ、必殺のドリルライフルを発射。敵の腹に弾丸をめり込ませた。
「今の私は剣! 貫く剣っ!」
その言葉に応えるべく、師匠のルーガは刺さったままのドリルめがけてミサイルを発射。疾音も「そりゃいい」と、この時ばかりはホーミングミサイルで攻めに出る。最後は由稀がラバグルートでドリルごとHWの身を貫き、確実に始末した。
「残すは1機‥‥だといいんだけど」
彼女の、いや全員の不安は、実はそこにあった。
●挨拶代わり
この間もさやかは丹念に伏兵を探ったが、その姿を見つけることはできない。彼女は気持ちを切り替え、残ったHWに低空から一撃離脱の攻撃を仕掛けた。
とはいえ、やはり引っかかる。
「錦織さん、不穏な動きがあれば連絡をお願いします!」
全体の管制を取り仕切る長郎は「わかったよ」と答えるが、こちらの網にも伏兵はかからない。
「これはどういうつもりなんだろうね‥‥」
彼と同じ空を舞うアルヴァイム(
ga5051)もまた、その事実に疑問を覚えていた。しかし彼の仕事はあくまで裏方。眼下で動くミスター対応班の支援に徹した。
ゼダとの睨み合いは、そう長くは続かない。
早々に着陸したリヴァルは、瓦礫や建物の残骸に身を隠しながらの射撃戦を展開していた。随伴機として行動する神撫(
gb0167)はあえて前に出て、ミスターの気を引く。
「さぁ、がんがんいこうぜぇ」
天駆は建御雷を振りかざす。しかし切り返しはせず、速度に抑揚をつけることで、的を絞らせないように行動。その隙間は、リヴァルのクァルテットガンが埋める。
「どちらもいいセンスをしてるね」
ミスターも複数に狙われるのを承知で、ここに立っている。神撫の太刀筋を読みながら避け、リヴァルの銃撃は防御で凌いだ。ゼダは反撃するために前に出ながら、ライフルからプロトン砲を発射。神撫に苛烈な銃撃を見舞うが、わずかに避けられるように意図して撃っている。そう、これはリヴァルの突出を誘うミスターの策なのだ。
「おやおや、1年経ってもシャイなんですか?」
通信を介して挑発してくるのも、まったく同じ。その憎いまでの演出に対して、神撫は「うるさいねぇ」と注文をつける。
そこへ羽矢子機が参戦。槍で何度も突き、避ける時はブーストを駆使して後ろへと下がる。
「エミタ・スチムソンの守るメトロポリタンXや、ピエトロ・バリウスが居るアフリカが落ちるのも時間の問題だよ。無駄な抵抗は止めて降伏するつもりはない?」
「彼らは彼ら、私は私です。ご自分が面倒なのはよくわかりますが、今日はお付き合いください」
羽矢子は思わず「屁理屈だけは、ジハイド屈指だね」と愚痴る。今は喋りにも余裕があり、ゼダの動きにも余裕があった。まだ攻め時じゃない‥‥羽矢子は仲間との連携に重きを置き、一度はゼダから離れた。
そのタイミングで、漸 王零(
ga2930)のヴァダーナフが前に出た。
「少し前に出すぎているようだ。下がれ、ミスターS」
天をも衝く勢いで刀身が回るジャイレイトフィアーを振りかざすと、ミスターは素直に後ろへ。しかし下がり際にライフルを構え、プロトン砲で反撃を行う。王零も素直に後退し、廃墟となった場所まで逃げた。
隙を見せぬ攻撃でミスターの動きを封じている傭兵だが、相手もまた適当に戦っているように見える。ところが、ゼダはいきなり急速前進。ライフルを打ち鳴らし、周囲にフェザー砲を撒きながら、いきなり前線の突破を図る。
「少し布陣を乱してみましょうか」
そんな余裕の発言を黙らせるかのように、上空に控えていたアンジェリカが動き出す。搭乗者は鹿島 綾(
gb4549)だ。
「籠からは逃さないわよ、ミスター!」
綾はSESエンハンサーを併用し、帯電粒子加速砲で偏差射撃を実行。そのエネルギーは、まっすぐディメントレーザーの発射口を狙っていた。それと同時に王零やリヴァルらが、砲撃や銃撃で地上から攻める。
無論、ミスターの動きは計算されたものだ。敵が牙を剥くと同時に足を止め、すべての攻撃をバリアで防御する。
それを見た綾とリヴァルは、思わず「くっ!」と声を上げた。かつて東京で放った渾身の攻撃は、このバリアの前に敗れ、結果的にはミスターの撤退を許した。
「因縁のバリア‥‥といったところでしょうか」
攻撃を仕掛けてきた雀に銃口を向け、赤色光線を放つ。しかしモーニング・スパローはこれを避け、再びゼダの上空を舞う。
「あなたが何を言おうと同じ。東京での借りは、ここで返すわよ?」
「成長を放棄したお前に、今の俺たちを見定められるかな?」
手痛い敗北を喫したふたりだが、まだ冷静さは失われていない。いや、周囲の仲間たちがそれをさせない。ミスターは「なるほど」と頷き、この戦いが面白くなることを予感した。
●ディメントレーザーの先
ミスターとの本格的な戦闘を遅らせた要因のひとつが、HWの存在だった。その最後の1機を、ラナ・ヴェクサー(
gc1748)搭乗のオウガが仕留める。
「好きにはさせません‥‥よ」
地上に降り立ったラナ機はツインブーストBを起動させ、駆動部を集中的に攻撃。建御雷を振るい、最後は突きを繰り出す。それが彼女が思うよりも深く刺さったらしく、HWはふらふらと宙を舞ったかと思うと、そのまま爆発した。エルレーンは通信を開き、長郎に「目視できたHWを撃破しました」と報告する。
実は今まで、HW対応班に混ざりつつも、じっと展開を見守っていたサヴァーが存在する。それはセラ・ヘイムダル(
gc6766)の操る機体「エンゼルランプ」だ。彼女は常に周囲を観察し、低空に控える管制機に情報を伝えていた。
「伏兵も仕掛けも、存在しないように思えますね」
もちろんHWに対応していたルーガたちも伏兵の登場を常に警戒していたが、まったく出てくる気配がない。ここから先で伏兵を出すなら、今からしばらく間を置いた後のタイミングしか考えられない。今回は上空での監視も万全なので、HW対応班はゼダ・アーシュに向かうことにした。
「黒子、俺たちもゼダ・アーシュに向かうぜ」
疾音の報告を受け、アルヴァイムも「了解」と短く返した。
この頃、ミスターの周りを綾河 零音(
gb9784)搭乗のスフィーダ「ベテルギウス・フレイム」が動き回る。味方の波状攻撃に合わせ、スラスターライフルを掃射。急旋回や加減速で気まぐれに軌道変更し、ゼダにプレッシャーをかける。
「あ、当たったらヤバいんだからー! くっそお! こいつチートキャラだ、絶対っ!」
「褒め言葉だとは思いますが、あんまり嬉しくないですね」
零音の物言いに戸惑うミスターだが、うるさいハエに興味はない。フェザー砲で仕留めようとするも、相手はブーストで回避。しかしミスターはあえてしつこくフェザー砲を放ち、徐々に零音機を追い込む。
「ひーん、ミスターのドS! 鬼畜グラサン! あたし、もうお嫁にいけないっ!!」
それでも挑発は止まないので、ミスターはおもむろに「ドSとは、こういうことでしょう?」と言いながら、ついにディメントレーザー発射の構えを見せる。さすがの彼女も、まさか自分の挑発に痺れを切らすとは思わず、コクピットの中で驚いた。
「さすがにっ、今は死にたくないんでっ、ここから先は真面目にお仕事しまーすっ!」
これを受け、アルヴァイムがゼダの進路を確認。真東を向いていることから、傭兵の包囲網を突破する目的での発射と判断。またライフルなどを使用する素振りを見せないことから、今回は「ディメントレーザーを撃つ」と結論付けた。これを長郎、さやか、セラ機に伝え、さらに傭兵たちにも警戒を促す。
「リヴァルお兄様、来ますわよ!」
「神撫、漸、散れっ! 本命が来る‥‥!」
このタイミングでだいたいの傭兵が射線から逃れ、ラナらHW対応班もブーストなどを使用して回避の構えを取った。さやかは後ろに控えるUPC四国軍に情報を流し、警戒を強めるよう指示を出す。
もっとも危険な状態にある零音は、長郎の合図でブーストとメテオブーストを駆使して避ける算段だ。
「こっ、ここは、ぷち策士の本領発揮ってとこかなー!」
「くっくっくっ、零音君が僕の計算に付き合うのは正解だ。保証しよう」
ミスターがチャージを終えると、すぐさま巨大なエネルギーを放った。その瞬間、長郎からの合図に反応し、零音機は回避を開始。なんとかギリギリのところで避け切った。
実は発射の直前、ミスターは標的を挑発し続ける零音のスフィーダから、外郭に陣取るUPC四国軍へと変更している。彼女はあくまでも発射の口実に利用しただけで、最初からミスター包囲網を築いていたUPC四国軍の一角を崩すことが目的だった。レーザー通過からしばらくして、後方から「配備していた軍に、わずかながら被害が生じた」との報告が、さやか機に寄せられる。
「さ、最初からUPC軍を狙ってたなんて‥‥!」
「能力者の諸君は、無力な人間に嫌われると、何かと面倒なんだろう? その上、レジスタンスにも嫌われると、もう行き場がないよね? どうする?」
四国の人間たちの不和を仕組んだ張本人の口から放たれる嫌味は、傭兵たちの心に火をつけた。
●傭兵の逆襲
ラナはディメントレーザー発射直後に反転し、すぐさまライフルとガトリングで牽制気味に銃撃。あえてミスターの正面から撃ち、敵の気を引く。綾はモーニング・スパローを着陸させ、ラナとは逆の方向からライフルやバルカンを打ち鳴らす。
「負けるわけには、いきません‥‥!」
「ミスター、貴方の挑発はもう聞き飽きました!」
由稀はその隙間を縫うようにして、ラバグルートを発射。この場は、味方の援護に徹する。
「これが不意打ちに変わった時、一定の成果が生まれるわ」
由稀の攻めを不意打ちにできるかどうかは、白兵戦を挑む傭兵の攻めにかかっていた。リヴァルは一時的に切り札を失ったゼダに向かって吶喊。ハイ・ディフェンダーを盾のように構え、ブーストで猛然と迫る。
「君がここから前進できなければ、いくらディメントレーザーで道を開こうとも意味はない」
リヴァルはここぞとばかりに渾身の力を込めた一刀を振るうが、相手の挑発で心が揺れていたせいか、大振りになってしまっていた。ミスターはこれを避け、すばやいパンチで応戦する。
ところが、電影はVTOLを駆使して一気に上昇。捉えたはずのパンチは空を切る。不意に腕を突き出した格好になったゼダの目の前には、いつの間にか神撫のシラヌイが立っていた。天駆はその腕を軽く弾くと、建御雷を抜いてゼダの前に立ち塞がる。
「機体を隠すようにして、同時に前進していたか!」
「さぁ、どっちに斬られたい?」
その声の向こう‥‥つまりミスターの背後には、再びVTOLで着陸した電影の姿があった。その手には、例の剣が握られている。
「東京で俺を殺さなかったことが、君が犯した最も重い失態だ」
その言葉を皮切りに、斬撃による挟撃が始まった。この間、周囲のKVは彼らが離脱した後に仕掛ける集中砲火の準備をしている。
それでもミスターは不敵な笑みを浮かべていた。彼は策士でありながら、享楽主義者でもある。彼は素直に、今の状況を「面白い」と判断した。これくらいしてくれなくては、ひとりでここに降り立った意味がない。
ミスターは高威力の攻撃を繰り出すリヴァルには適宜バリアを用い、神撫の攻撃は武器で受け止めた。
「まだまだ、ここからがお楽しみなんだろう?」
ゼダは傷つきながらも腰を落とし、地面を這うように回転しながら蹴りを放つ。足払いだ。神撫は不意を突かれ、思わず体勢を崩す。リヴァルはそれを剣で受け止めるも、神撫は苛烈な反撃を受ける前に離脱することを提案した。
「っと、ちょっとやばいかな? リヴァル、ここはいったん引こう」
神撫は煙幕を張り、急いで離脱。リヴァル機は神撫と合流し、他の仲間が継続して戦いやすくなるような位置取りを心がけた。その間、アルヴァイムやセラが低空から、ラナや疾音が陸上から銃器で攻め立てる。
「私の大切なお兄様には、指一本触れさせません!」
「ミスターS‥‥その場から動くことは、許しません‥‥よ」
この絶好のタイミングで、UNKNOWN(
ga4276)が漆黒のKVに乗って登場。ゼダの正面が開いたと見るや、「ふむ‥‥少し、いいかな?」と周囲に断った上で、その場に立つ。背後には綾が張り付き、煙幕が晴れると同時に戦闘を再開した。
「お邪魔する、よ。その機体、くれんかね?」
「それはこっちの台詞だね。その機体、ぜひ持って帰りたいよ」
あのミスターも興味を抱く黒い機体は、槍で苛烈な攻撃を繰り出す。紳士はゼダが攻撃した隙を見つけては反撃するので、とても厄介だ。さらに「レディーファースト」と称し、綾をエスコートするかのように動く。
彼女は遠慮なくそれに合わせ、ゼダに向かって遠慮なく機拳を振りかざす。
「吹き飛びなさいっ!」
こちらも負けず劣らずの高火力。これを食らったのでは、いくら機体が強くとも持たない。ミスターは済んでのところで回避するが、綾はいつの間にか、練剣「雪村」を手にしていた!
「撃破してはならない‥‥か。なかなか厳しい注文をしてくれるものね」
これだけ絶好のチャンスは、何度も訪れるものではない。一気に決着をつけたいが、それは依頼のオーダーに反する。綾は悔しさを噛み殺すかのように、刀をディメントレーザーの発射口めがけて振りかざした。
「そのディメントレーザーは、危険すぎるのよ!」
「ぐっ! さすがは心得てるね‥‥歴戦の傭兵は立派なもんだ」
ゼダを駆け巡る衝撃を肌で感じながら、ミスターはしぶしぶ敵を評した。それと同時に、敵の狙いがゼダ・アーシュの撃破ではなく、損傷であることを察知。UNKNOWN機に鋭い一撃を当て、モーニング・スパローにもプロトン砲による集中射撃を仕掛けて、無理やり間合いを取らせた。
「ま、あの機体が素直に下がるわけがないから、これは‥‥」
ミスターは、UNKNOWNが素直に下がった理由をすぐに悟った。それは綾を前に出したのと同じ考えのはず‥‥ゼダはフェザー砲で傭兵たちの動きに縛りを加える。
だが、その合間を縫うかのように、王零機が接近。綾と入れ替わる格好で、前に出る。少しくらいの損傷は覚悟の上だ。
「我を止められるか、ミスターS!」
途中の接近までは全力での移動に止め、途中からいきなりブーストとフォース・アセンションを使用し、ジャイレイトフィアーで綾が狙った箇所を抉り取らんとする。
「やっぱり、狙いはディメントレーザーか‥‥なるほどね」
「お喋りが過ぎるぜ!」
轟音を奏でながら回り出した刀身は、遠慮なく装置を抉る。ゼダもバリアで防ぐが、王零の攻撃が一度で終わるはずがない。味方も息を呑む戦いが、この一瞬で繰り広げられた。
その熱戦を真横から見ていた漆黒のKVが、すばやく槍を薙ぎ、ゼダの右腕を破壊する。
「ぐっ! こ、こんな時に戻ってこないでくれるかな‥‥っ!」
「私たちにディメントレーザーを向けない男の台詞とは思えないね。失礼はお互い様さ」
紳士のフォローもあり、王零は三度目のトライで、ようやく装置に損傷を与えた。
さらにこの機に乗じて羽矢子が接近。PRMで知覚を限界まで上げると、ディメントレーザーのチューブを狙い、電磁ナックルでを振り下ろす。
「おとなしくアジトに帰りな!」
ついには羽矢子機にチューブをねじ切られ、さらには由稀の射撃も抉った部分に命中。ディメントレーザーの使用は困難な状況に陥った‥‥と、誰もがそう思った。
しかしミスターは、さっきと同じポーズを取る。UNKNOWNや王零を狙って撃つ構えを見せた。さやかは「今度こそ」の気持ちを込め、UPC四国軍にさらなる注意を促す。
アルヴァイムと長郎は、瞬時に「撃てない」と判断。ミスターの性格を考慮しても「撃たない」自信があったが、裏の裏ということもある。味方に損害が出るといけないので、全員に回避行動を取るよう指示。これを受け、疾音やエルレーンらも射線から逃れる。
「ミスターは昔のことも覚えてるから、あたしが一番危険っ!」
「逃げることも戦うことよ! しっかり退避しなくちゃ‥‥」
全体的にKVが散ったあたりで、ゼダ・アーシュは踵を返して戦域を離脱。進路を北に向けて逃げ出した。この辺の判断はさすがと言えよう。
「そこの紳士には借りができたってとこかな? 無事に逃がしてくれて感謝するよ」
「こちらにも都合があってね。それに即したまでだよ」
戦闘が終わったと知るや、UNKNOWNは愛用のタバコに火をつける。愛煙家の由稀もまた、それに倣った。
●急襲の価値は
ミスターの離脱で幕を閉じた宿毛市の一戦は、終わってみればあっけないものだ。改めて調査するも、HWの増援や伏兵は一切なく、周囲には罠さえ仕掛けられていなかった。この辺はミスターSに惑わされた部分であろう。しかし結果的には、ゼダ・アーシュに損傷を与えることだけを考えればよく、戦闘の終盤はその目的を達成できた。最後にディメントレーザーを発射しなかったことから察するに、あれは「使用が困難な状況に追い込まれた」と考えるのが妥当だろう。
この間、戦況がめまぐるしく動いた。
榊原アサキ(gz0411)率いる戦力が、UPC四国基地への襲撃を敢行したこと。さらにウィリアム・シュナイプ(gz0251)を亡き者にすべく、UPC阿南基地にも手勢を送ったことが判明。宿毛に立つ傭兵たちに少なからず衝撃が走った。
まずは四国基地について、さやかから報告が入る。四国基地は宿毛までの道に兵を派遣したものの、敵は守備力を脅かすほどの兵力を有していないとのことだ。
「UPC四国基地の守りに問題はなく、敵将のアサキに向けて傭兵を差し向けたとのこと。ひとまずは安心です」
このことから「阿南基地への攻撃がミスターの本命である」と判断するのが妥当だ。この阿南基地については、長郎が驚くべき事実を口にする。
「阿南基地も問題ない。レジスタンスのリーダーである日向‥‥いや、本物の四国の指揮官である日向 柊が現れ、劣勢を跳ね返しているらしいよ」
これを聞いたアルヴァイムは「なるほど」と頷くが、長郎は「うまく騙されたものさ」と肩をすくめた。
それを聞いたラナは「ミスターSは陽動だった、ということですか?」と尋ねる。すると、ルーガが「そういうことだな」と返した。その声は苦々しい表情から放たれたのを、弟子のエルレーンは汲み取る。さすがの神撫も「舐められたもんだねぇ」と呆れるが、リヴァルは「成果はあった」と凛とした声で言い放つ。
「次はゼダ・アーシュが現れる時は、奴が地に伏す時だ。賭けてもいい」
「人を舐めた性格は、死ななきゃ治らないみたいね。困ったもんだわ」
由稀の言葉に、誰もが同意した。その数の多さに、思わず零音は大きな声で笑う。それにつられて、疾音も笑った。
難敵・ミスターSを追い払い、宿毛の地に静寂が戻った。傭兵たちは祈りを胸に、この地を後にした。