タイトル:【FC】ミスターの急襲マスター:村井朋靖

シナリオ形態: イベント
難易度: 難しい
参加人数: 17 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/08/19 21:05

●オープニング本文


●謎の作戦?
 沖縄戦線で活躍した3姉妹との合流を果たしたミスターS(gz0424)は、高知県宿毛市に滞在。しばし部下の慰労に努めていた。
 これから部下となる3姉妹を手厚く歓迎する一方、他の部下も拗ねないよう、ちゃんとその輪に混ぜてやる気配りを見せる。

 この会合をセッティングしたのには、訳があった。実はこれ、次の作戦を実行するための決起集会を兼ねている。
「宴もたけなわ、って時にすまないね。少し話をさせてほしい。残念ながら、お仕事の話だ」
 彼はワイン片手に部下の前に立った。そして、四国の現況を語る。
 ミスターは昨日、「レジスタンスとUPCの仲を裂く作戦の実施が一定数を超えた」との報告を受けた。これを受け、彼は侵攻作戦を次の段階に進める決断をしたと、皆に伝える。
「今回の作戦がどのような結果をもたらしたかはわからないが、人類が団結して戦うには難しい状況だろう。これを狙う」
 ここで彼は、ある事実を打ち明けた。実はこの土地に、愛機「ゼダ・アーシュ」を持ってきているという。
 これを聞いた部下たちはざわめくが、ミスターは軽く笑った。
「ああ、別に誰かを信用してないとかじゃないよ。ただ、作戦を打ち明けたら‥‥周囲に止められるから黙ってただけで」
 そんなミスターの口から紡がれたプランは、部下の酔いを吹き飛ばすには十分な衝撃があった。完全に酔っ払い、かわいい妹に絡んでいた照屋ミウミ(gz0491)だが、ご陽気な態度はどこへやら。今はミスターへのツッコミに専念している。
「はぁ?! アサキんから噂は聞いてたけど、ミスターって無茶苦茶すんね!」
 これを聞いた次女の山城カケル(gz0492)も小さく頷き、「私も呆れたわ」と呟く。唯一、彼の性格を知る三女の榊原アサキ(gz0411)だけが、「こういう人なのよ」と笑っていた。
「人はおろか、バグアをも出し抜くのが、彼の趣味よ。あら、悪趣味って言った方がいいかしら?」
「言うじゃないか、アサキくん。実は、君にお願いがある。十分な戦力を預けるから、徳島にあるUPC四国基地を攻めてほしい」
 現在のUPC四国基地は、徳島空港周辺に位置する。背後には淡路島があり、ここは人類側拠点だ。すぐにでも援軍や補給を受けられる。ここに攻め入れとは、半ば「死んでこい」と言っているようなものだ。現地の部下は、ついには色を失う。
 無論、ミスターもそのことを知っている。だから「無策ではないよ」と前置きした上で、ミウミ・カケルの反感を買わぬよう、早口で説明を始めた。
「いいかい、アサキくん。UPC四国基地の南西から攻めてほしい。ちょうどUPC阿南基地に背を向ける格好だ。挟撃を避ける策は用意してあるから、その辺は安心して。所定の場所に布陣したら、適当に攻撃を仕掛けてほしい。ただし、北から南に突破しようとする敵は全力で殲滅。ここが肝だ」
 ミウミとカケルは眉をひそめた。指示の意図がまったく読めない。ある意味、鈴音よりも厄介な上司だ。ふたりは同時に酒を煽る。
 謎の指示は、まだ続く。
「間違いなく傭兵が出てくるだろうから、アサキくんはこれに対応。本気でやってくれて構わない。ただし身の危険を感じたら、迷わず全軍撤退だ」
 アサキは少し戸惑いながら「全軍撤退? ずっとは戦わなくていいの?」と何度も確認するが、ミスターは「構わない」と繰り返した。
「それで一連の作戦は、きっと成功するさ」
 そうは言われても‥‥ここにいる誰もが、作戦の意図がわからずに困惑した。なぜならミスターは宿毛に残り、ゼダ・アーシュを操って囮になるというのだから。
「上等な餌だろ? ま、後はお楽しみだね」
 一大作戦の真意はバグアにさえ読めぬまま、決行の時を迎えた。

●対する指揮官は
 ある晴れた日の朝。起床してまもなく「バグア軍、現る」の報を聞いたウィリアム・シュナイプ(gz0251)は、すぐさま作戦室に駆け込んだ。
「おはようございます。状況の説明をお願いします」
 彼はいつものように冷静さを備えていたが、今日は周囲が慌てていた。少年は「落ち着いて」となだめるも、まったく効果がない。
「‥‥いったい、何があったんですか?」
「高知県宿毛市付近に、ゼ、ゼダ・アーシュが出現! ライフルを発射し、周辺の市街地に被害を及ぼしています! 搭乗者、ミスターS!」
 ウィリアムは耳を疑った。思わず「これも奇策か」と言いそうになったが、あえて言葉を飲み込む。おそらく、それは事実だから。

 UPCの若き指揮官は今、徳島に滞在している。ここから高知までは、かなりの距離があった。しかし攻撃を仕掛けたということは、何かの目的があってのことだろう。これを放置するわけにはいかない。
「敵の数はわかりますか?」
「実は‥‥ゼダ・アーシュ以外、大した戦力はいません。大型のヘルメットワームが3機いるだけで‥‥」
 巧妙な罠なのか、それともただの陽動か‥‥どちらにせよ、UPC四国軍の戦力を大幅に割くわけにはいかない。ウィリアムはそう考えた。
 彼が大軍を投入すべきではないと判断した理由は、「二段構えの策であった場合に対処しきれないから」である。
「敵軍の目的や進路がハッキリしませんが、UPC軍としてはミスターの動きを封じ込める形で対応します。四国基地から増援を出して、被害の拡大を防ぐ方向で。ミスターの相手は、傭兵にお願いしましょう」
 別のアクションを起こされると困るので、ミスターにぶつける傭兵の数を限定するように指示を出す。
「ミスターは囮でしょう。傭兵の皆さんには、絶対に撃破を目指さないよう伝えてください。きっと他に目的があるはず‥‥」
 今までの流れなら、絶対にまだ仕掛けがある。それを読まずして、四国での勝利はない。
 ただ、相手はゼダ・アーシュ。それもミスター搭乗となれば、東京の再現になりかねない。ウィリアムは難しい判断を迫られた。
「後手に回っている気もしますが、ここから巻き返します! 絶対に!」
 彼はひとりではない。部下に兵士もいる。傭兵たちの協力もある。自分は考えることを止めてはいけない‥‥指揮官は必死に状況を分析し続けた。

●参加者一覧

/ 里見・さやか(ga0153) / 鷹代 由稀(ga1601) / 漸 王零(ga2930) / UNKNOWN(ga4276) / アルヴァイム(ga5051) / 錦織・長郎(ga8268) / 神撫(gb0167) / 赤崎羽矢子(gb2140) / リヴァル・クロウ(gb2337) / 鹿島 綾(gb4549) / オルカ・クロウ(gb7184) / 綾河 零音(gb9784) / ラナ・ヴェクサー(gc1748) / セラ・ヘイムダル(gc6766) / 綾河 疾音(gc6835) / ルーガ・バルハザード(gc8043) / エルレーン(gc8086

●リプレイ本文

●HWの始末
 高知県宿毛市は、ミスターS(gz0424)の急襲で大きな損害を受けた。
 だが皮肉にも、彼の愛機であるゼダ・アーシュと対峙する傭兵たちにとって、廃墟となった街というのは非常に戦いやすい地形である。決死の包囲網を形成するUPC四国軍は、この有様を指をくわえて見守るしかなかった。

 そこへ、傭兵のKVが続々と登場。里見・さやか(ga0153)は宿毛市に到着すると同時に、アンチジャミングを起動。高度100m付近に位置取ると、宿毛市の三方をぐるりと囲む山をレーダーで走査する。
「さて、伏兵はいないでしょうか‥‥」
 報告にあった大型ヘルメットワームは、すぐに見つかった。数は3体。3姉妹の次女・山城カケル(gz0492)が改造した特製のHWコレクションでもなく、何の変哲もないただのHWだった。
 この状況をしかと蛇眼で確認した錦織・長郎(ga8268)は、改めて考察を行う。
「囮とはいえ、こちらの戦力をこんな遠くまで引き寄せにきたのは、おかしな物だよね」
 その割に、出迎えの数が少なすぎる。オロチ改「ケツァルコアトル」の中で、長郎は腕組みをして考えた。
「これを利すれば、ゼダ・アーシュ破壊への道筋もつく。くっくっくっ‥‥」
 自分たちが罠にかかったのか、それともミスターが自らの策に溺れたのか。それは少し先の未来で明らかになるだろう。

 大型HWはミスターの傍を浮遊している。まずはこれの引き剥がしが必要だ。
 そこで、シュテルン・G搭乗の赤崎羽矢子(gb2140)が、仲間たちと連携して先手を奪わんと奮起する。
「東京から逃げて、四国でこんなことを。突破もさせないし、これ以上街を破壊させないよ!」
 強い口調は、強い意志の現れか。低空からG放電を繰り出し、ゼダとHWを牽制する。その横をリヴァル・クロウ(gb2337)の「電影」がすり抜け、とっさに煙幕を巻いた。
「思い通りにはさせん」
 リヴァル機は濃煙が立ち昇る空間でVTOLを使用し、いち早く着陸。羽矢子らもそれに続き、人型へと変形。プラズマライフルを構え、あえて敵機の方へと飛び出す。
「先手必勝!」
 難敵だからと言って、臆している暇はない。羽矢子機は勇猛果敢に攻め立てる。
 しかし、敵との距離は依然として開いたまま。これはまだご挨拶代わりか‥‥と思いきや、同じく着陸を果たした鷹代 由稀(ga1601)のフィーニクスが、いつの間にか対角線上に控えていた。フィーニクス・レイを構えているところを見ると、プロトディメントレーザーで一気に薙ぎ払うつもりらしい。
「分断、狙ってみる。巻き込まれても、文句は聞かないからね!」
 とはいえ、この行動は上空で管制を行う情報機が認識済み。KV各機に射線から外れるよう、警告が出されている。
「手の内は読めてるんだけど、いきなりそれをされると困るねぇ」
 ミスターはコクピットの中で、不敵な笑みを浮かべる。そしてHWに対し、速やかな退避を指示した。
 金色を纏うヴェズルフェルニルから放たれた破壊の光は、街の残骸を欠片にしながら前に進む。ゼダは防御し、HW各機は回避に専念するも1機だけ被弾。その身から黒煙を上げた。そこへ綾河 疾音(gc6835)をはじめとするHW対応班が、手負いの敵に止めを刺さんと姿を現す。
「今だッ、好きなダケ撃って、蜂の巣にしちまえよ!」
 その言葉通り、レアル・ソルタードはフレキシブル・スラスターを併用した上で、システムテンペスタを使用。被弾箇所の拡大に精を出す。弾丸が傷口を抉り、さらに大きなダメージを与えた。
 さらなる追撃はルーガ・バルハザード(gc8043)が担う。彼女はリヴァティーの飛行形態で対応。アグレッシブ・ファングを起動させ、ミサイルを発射。HWは直撃を免れようと逃げるも、損傷の激しい機体では無理があったか。騎士の覚悟は、敵機を爆破へと追い込んだ。
「これで1機か‥‥お前だけでなく、全員が早々にお帰りいただきたいものだな!」
 師匠であるルーガの言葉を聞いた、弟子のエルレーン(gc8086)。ここは踏ん張りどころである。
「ううっ‥‥怖い、怖い敵なの!」
 そんな彼女もまた、ラスヴィエートで空を舞う。地面の状況が悪いので、あえてこの戦法を取った。
 今はゼダと距離があるため、背後からの攻撃を受ける心配がない。ひとまず怯えた心を操縦桿の裏に隠し、照準最適化機能を駆使した上で、ガトリング砲を発射。最初こそ機敏な動きで避けられるが、しつこく攻め続ければ次第に命中する。これが彼女の緊張を和らげた。
「そう、そうよ。できることはしなきゃ! このままやられっぱなしなんて!」
「それでこそ、我が弟子。今だ、前に出ろ!」
 ルーガは奮起を促しつつ、エルレーンと同じ目標をマシンガンで牽制気味に攻撃。背後に控える疾音に「今だ!」と合図すれば、彼は対空砲で迎撃する。
「鷹代、俺らガンガン攻めてるけど‥‥実は変な装置がついてるとか、ないよな?」
 不安に駆られる気持ちは、何もエルレーンだけが感じているわけではなかった。疾音の要請に応える形で、由稀は改めてHWの形状を確認するが、外見は何の変哲もない。
「たぶん大丈夫。気にしたら負けよ」
 彼女はそういうと、さらに後方からラバグルートで砲撃。確実にHWを劣勢に追い込んでいく。
「どうせ追われるなら、女の子の方が嬉しいでしょ?」
 敵はその言葉に操られるがごとく逃げ回りつつ、反撃のチャンスを待った。HWは背後から迫る師弟コンビにプロトン砲を浴びせ、その勢いを削ごうとするが、それに耐え得るだけの力は持ち合わせている。エルレーンはよく照準を合わせ、必殺のドリルライフルを発射。敵の腹に弾丸をめり込ませた。
「今の私は剣! 貫く剣っ!」
 その言葉に応えるべく、師匠のルーガは刺さったままのドリルめがけてミサイルを発射。疾音も「そりゃいい」と、この時ばかりはホーミングミサイルで攻めに出る。最後は由稀がラバグルートでドリルごとHWの身を貫き、確実に始末した。
「残すは1機‥‥だといいんだけど」
 彼女の、いや全員の不安は、実はそこにあった。

●挨拶代わり
 この間もさやかは丹念に伏兵を探ったが、その姿を見つけることはできない。彼女は気持ちを切り替え、残ったHWに低空から一撃離脱の攻撃を仕掛けた。
 とはいえ、やはり引っかかる。
「錦織さん、不穏な動きがあれば連絡をお願いします!」
 全体の管制を取り仕切る長郎は「わかったよ」と答えるが、こちらの網にも伏兵はかからない。
「これはどういうつもりなんだろうね‥‥」
 彼と同じ空を舞うアルヴァイム(ga5051)もまた、その事実に疑問を覚えていた。しかし彼の仕事はあくまで裏方。眼下で動くミスター対応班の支援に徹した。

 ゼダとの睨み合いは、そう長くは続かない。
 早々に着陸したリヴァルは、瓦礫や建物の残骸に身を隠しながらの射撃戦を展開していた。随伴機として行動する神撫(gb0167)はあえて前に出て、ミスターの気を引く。
「さぁ、がんがんいこうぜぇ」
 天駆は建御雷を振りかざす。しかし切り返しはせず、速度に抑揚をつけることで、的を絞らせないように行動。その隙間は、リヴァルのクァルテットガンが埋める。
「どちらもいいセンスをしてるね」
 ミスターも複数に狙われるのを承知で、ここに立っている。神撫の太刀筋を読みながら避け、リヴァルの銃撃は防御で凌いだ。ゼダは反撃するために前に出ながら、ライフルからプロトン砲を発射。神撫に苛烈な銃撃を見舞うが、わずかに避けられるように意図して撃っている。そう、これはリヴァルの突出を誘うミスターの策なのだ。
「おやおや、1年経ってもシャイなんですか?」
 通信を介して挑発してくるのも、まったく同じ。その憎いまでの演出に対して、神撫は「うるさいねぇ」と注文をつける。
 そこへ羽矢子機が参戦。槍で何度も突き、避ける時はブーストを駆使して後ろへと下がる。
「エミタ・スチムソンの守るメトロポリタンXや、ピエトロ・バリウスが居るアフリカが落ちるのも時間の問題だよ。無駄な抵抗は止めて降伏するつもりはない?」
「彼らは彼ら、私は私です。ご自分が面倒なのはよくわかりますが、今日はお付き合いください」
 羽矢子は思わず「屁理屈だけは、ジハイド屈指だね」と愚痴る。今は喋りにも余裕があり、ゼダの動きにも余裕があった。まだ攻め時じゃない‥‥羽矢子は仲間との連携に重きを置き、一度はゼダから離れた。
 そのタイミングで、漸 王零(ga2930)のヴァダーナフが前に出た。
「少し前に出すぎているようだ。下がれ、ミスターS」
 天をも衝く勢いで刀身が回るジャイレイトフィアーを振りかざすと、ミスターは素直に後ろへ。しかし下がり際にライフルを構え、プロトン砲で反撃を行う。王零も素直に後退し、廃墟となった場所まで逃げた。
 隙を見せぬ攻撃でミスターの動きを封じている傭兵だが、相手もまた適当に戦っているように見える。ところが、ゼダはいきなり急速前進。ライフルを打ち鳴らし、周囲にフェザー砲を撒きながら、いきなり前線の突破を図る。
「少し布陣を乱してみましょうか」
 そんな余裕の発言を黙らせるかのように、上空に控えていたアンジェリカが動き出す。搭乗者は鹿島 綾(gb4549)だ。
「籠からは逃さないわよ、ミスター!」
 綾はSESエンハンサーを併用し、帯電粒子加速砲で偏差射撃を実行。そのエネルギーは、まっすぐディメントレーザーの発射口を狙っていた。それと同時に王零やリヴァルらが、砲撃や銃撃で地上から攻める。
 無論、ミスターの動きは計算されたものだ。敵が牙を剥くと同時に足を止め、すべての攻撃をバリアで防御する。
 それを見た綾とリヴァルは、思わず「くっ!」と声を上げた。かつて東京で放った渾身の攻撃は、このバリアの前に敗れ、結果的にはミスターの撤退を許した。
「因縁のバリア‥‥といったところでしょうか」
 攻撃を仕掛けてきた雀に銃口を向け、赤色光線を放つ。しかしモーニング・スパローはこれを避け、再びゼダの上空を舞う。
「あなたが何を言おうと同じ。東京での借りは、ここで返すわよ?」
「成長を放棄したお前に、今の俺たちを見定められるかな?」
 手痛い敗北を喫したふたりだが、まだ冷静さは失われていない。いや、周囲の仲間たちがそれをさせない。ミスターは「なるほど」と頷き、この戦いが面白くなることを予感した。

●ディメントレーザーの先
 ミスターとの本格的な戦闘を遅らせた要因のひとつが、HWの存在だった。その最後の1機を、ラナ・ヴェクサー(gc1748)搭乗のオウガが仕留める。
「好きにはさせません‥‥よ」
 地上に降り立ったラナ機はツインブーストBを起動させ、駆動部を集中的に攻撃。建御雷を振るい、最後は突きを繰り出す。それが彼女が思うよりも深く刺さったらしく、HWはふらふらと宙を舞ったかと思うと、そのまま爆発した。エルレーンは通信を開き、長郎に「目視できたHWを撃破しました」と報告する。
 実は今まで、HW対応班に混ざりつつも、じっと展開を見守っていたサヴァーが存在する。それはセラ・ヘイムダル(gc6766)の操る機体「エンゼルランプ」だ。彼女は常に周囲を観察し、低空に控える管制機に情報を伝えていた。
「伏兵も仕掛けも、存在しないように思えますね」
 もちろんHWに対応していたルーガたちも伏兵の登場を常に警戒していたが、まったく出てくる気配がない。ここから先で伏兵を出すなら、今からしばらく間を置いた後のタイミングしか考えられない。今回は上空での監視も万全なので、HW対応班はゼダ・アーシュに向かうことにした。
「黒子、俺たちもゼダ・アーシュに向かうぜ」
 疾音の報告を受け、アルヴァイムも「了解」と短く返した。

 この頃、ミスターの周りを綾河 零音(gb9784)搭乗のスフィーダ「ベテルギウス・フレイム」が動き回る。味方の波状攻撃に合わせ、スラスターライフルを掃射。急旋回や加減速で気まぐれに軌道変更し、ゼダにプレッシャーをかける。
「あ、当たったらヤバいんだからー! くっそお! こいつチートキャラだ、絶対っ!」
「褒め言葉だとは思いますが、あんまり嬉しくないですね」
 零音の物言いに戸惑うミスターだが、うるさいハエに興味はない。フェザー砲で仕留めようとするも、相手はブーストで回避。しかしミスターはあえてしつこくフェザー砲を放ち、徐々に零音機を追い込む。
「ひーん、ミスターのドS! 鬼畜グラサン! あたし、もうお嫁にいけないっ!!」
 それでも挑発は止まないので、ミスターはおもむろに「ドSとは、こういうことでしょう?」と言いながら、ついにディメントレーザー発射の構えを見せる。さすがの彼女も、まさか自分の挑発に痺れを切らすとは思わず、コクピットの中で驚いた。
「さすがにっ、今は死にたくないんでっ、ここから先は真面目にお仕事しまーすっ!」
 これを受け、アルヴァイムがゼダの進路を確認。真東を向いていることから、傭兵の包囲網を突破する目的での発射と判断。またライフルなどを使用する素振りを見せないことから、今回は「ディメントレーザーを撃つ」と結論付けた。これを長郎、さやか、セラ機に伝え、さらに傭兵たちにも警戒を促す。
「リヴァルお兄様、来ますわよ!」
「神撫、漸、散れっ! 本命が来る‥‥!」
 このタイミングでだいたいの傭兵が射線から逃れ、ラナらHW対応班もブーストなどを使用して回避の構えを取った。さやかは後ろに控えるUPC四国軍に情報を流し、警戒を強めるよう指示を出す。
 もっとも危険な状態にある零音は、長郎の合図でブーストとメテオブーストを駆使して避ける算段だ。
「こっ、ここは、ぷち策士の本領発揮ってとこかなー!」
「くっくっくっ、零音君が僕の計算に付き合うのは正解だ。保証しよう」
 ミスターがチャージを終えると、すぐさま巨大なエネルギーを放った。その瞬間、長郎からの合図に反応し、零音機は回避を開始。なんとかギリギリのところで避け切った。
 実は発射の直前、ミスターは標的を挑発し続ける零音のスフィーダから、外郭に陣取るUPC四国軍へと変更している。彼女はあくまでも発射の口実に利用しただけで、最初からミスター包囲網を築いていたUPC四国軍の一角を崩すことが目的だった。レーザー通過からしばらくして、後方から「配備していた軍に、わずかながら被害が生じた」との報告が、さやか機に寄せられる。
「さ、最初からUPC軍を狙ってたなんて‥‥!」
「能力者の諸君は、無力な人間に嫌われると、何かと面倒なんだろう? その上、レジスタンスにも嫌われると、もう行き場がないよね? どうする?」
 四国の人間たちの不和を仕組んだ張本人の口から放たれる嫌味は、傭兵たちの心に火をつけた。

●傭兵の逆襲
 ラナはディメントレーザー発射直後に反転し、すぐさまライフルとガトリングで牽制気味に銃撃。あえてミスターの正面から撃ち、敵の気を引く。綾はモーニング・スパローを着陸させ、ラナとは逆の方向からライフルやバルカンを打ち鳴らす。
「負けるわけには、いきません‥‥!」
「ミスター、貴方の挑発はもう聞き飽きました!」
 由稀はその隙間を縫うようにして、ラバグルートを発射。この場は、味方の援護に徹する。
「これが不意打ちに変わった時、一定の成果が生まれるわ」
 由稀の攻めを不意打ちにできるかどうかは、白兵戦を挑む傭兵の攻めにかかっていた。リヴァルは一時的に切り札を失ったゼダに向かって吶喊。ハイ・ディフェンダーを盾のように構え、ブーストで猛然と迫る。
「君がここから前進できなければ、いくらディメントレーザーで道を開こうとも意味はない」
 リヴァルはここぞとばかりに渾身の力を込めた一刀を振るうが、相手の挑発で心が揺れていたせいか、大振りになってしまっていた。ミスターはこれを避け、すばやいパンチで応戦する。
 ところが、電影はVTOLを駆使して一気に上昇。捉えたはずのパンチは空を切る。不意に腕を突き出した格好になったゼダの目の前には、いつの間にか神撫のシラヌイが立っていた。天駆はその腕を軽く弾くと、建御雷を抜いてゼダの前に立ち塞がる。
「機体を隠すようにして、同時に前進していたか!」
「さぁ、どっちに斬られたい?」
 その声の向こう‥‥つまりミスターの背後には、再びVTOLで着陸した電影の姿があった。その手には、例の剣が握られている。
「東京で俺を殺さなかったことが、君が犯した最も重い失態だ」
 その言葉を皮切りに、斬撃による挟撃が始まった。この間、周囲のKVは彼らが離脱した後に仕掛ける集中砲火の準備をしている。
 それでもミスターは不敵な笑みを浮かべていた。彼は策士でありながら、享楽主義者でもある。彼は素直に、今の状況を「面白い」と判断した。これくらいしてくれなくては、ひとりでここに降り立った意味がない。
 ミスターは高威力の攻撃を繰り出すリヴァルには適宜バリアを用い、神撫の攻撃は武器で受け止めた。
「まだまだ、ここからがお楽しみなんだろう?」
 ゼダは傷つきながらも腰を落とし、地面を這うように回転しながら蹴りを放つ。足払いだ。神撫は不意を突かれ、思わず体勢を崩す。リヴァルはそれを剣で受け止めるも、神撫は苛烈な反撃を受ける前に離脱することを提案した。
「っと、ちょっとやばいかな? リヴァル、ここはいったん引こう」
 神撫は煙幕を張り、急いで離脱。リヴァル機は神撫と合流し、他の仲間が継続して戦いやすくなるような位置取りを心がけた。その間、アルヴァイムやセラが低空から、ラナや疾音が陸上から銃器で攻め立てる。
「私の大切なお兄様には、指一本触れさせません!」
「ミスターS‥‥その場から動くことは、許しません‥‥よ」
 この絶好のタイミングで、UNKNOWN(ga4276)が漆黒のKVに乗って登場。ゼダの正面が開いたと見るや、「ふむ‥‥少し、いいかな?」と周囲に断った上で、その場に立つ。背後には綾が張り付き、煙幕が晴れると同時に戦闘を再開した。
「お邪魔する、よ。その機体、くれんかね?」
「それはこっちの台詞だね。その機体、ぜひ持って帰りたいよ」
 あのミスターも興味を抱く黒い機体は、槍で苛烈な攻撃を繰り出す。紳士はゼダが攻撃した隙を見つけては反撃するので、とても厄介だ。さらに「レディーファースト」と称し、綾をエスコートするかのように動く。
 彼女は遠慮なくそれに合わせ、ゼダに向かって遠慮なく機拳を振りかざす。
「吹き飛びなさいっ!」
 こちらも負けず劣らずの高火力。これを食らったのでは、いくら機体が強くとも持たない。ミスターは済んでのところで回避するが、綾はいつの間にか、練剣「雪村」を手にしていた!
「撃破してはならない‥‥か。なかなか厳しい注文をしてくれるものね」
 これだけ絶好のチャンスは、何度も訪れるものではない。一気に決着をつけたいが、それは依頼のオーダーに反する。綾は悔しさを噛み殺すかのように、刀をディメントレーザーの発射口めがけて振りかざした。
「そのディメントレーザーは、危険すぎるのよ!」
「ぐっ! さすがは心得てるね‥‥歴戦の傭兵は立派なもんだ」
 ゼダを駆け巡る衝撃を肌で感じながら、ミスターはしぶしぶ敵を評した。それと同時に、敵の狙いがゼダ・アーシュの撃破ではなく、損傷であることを察知。UNKNOWN機に鋭い一撃を当て、モーニング・スパローにもプロトン砲による集中射撃を仕掛けて、無理やり間合いを取らせた。
「ま、あの機体が素直に下がるわけがないから、これは‥‥」
 ミスターは、UNKNOWNが素直に下がった理由をすぐに悟った。それは綾を前に出したのと同じ考えのはず‥‥ゼダはフェザー砲で傭兵たちの動きに縛りを加える。
 だが、その合間を縫うかのように、王零機が接近。綾と入れ替わる格好で、前に出る。少しくらいの損傷は覚悟の上だ。
「我を止められるか、ミスターS!」
 途中の接近までは全力での移動に止め、途中からいきなりブーストとフォース・アセンションを使用し、ジャイレイトフィアーで綾が狙った箇所を抉り取らんとする。
「やっぱり、狙いはディメントレーザーか‥‥なるほどね」
「お喋りが過ぎるぜ!」
 轟音を奏でながら回り出した刀身は、遠慮なく装置を抉る。ゼダもバリアで防ぐが、王零の攻撃が一度で終わるはずがない。味方も息を呑む戦いが、この一瞬で繰り広げられた。
 その熱戦を真横から見ていた漆黒のKVが、すばやく槍を薙ぎ、ゼダの右腕を破壊する。
「ぐっ! こ、こんな時に戻ってこないでくれるかな‥‥っ!」
「私たちにディメントレーザーを向けない男の台詞とは思えないね。失礼はお互い様さ」
 紳士のフォローもあり、王零は三度目のトライで、ようやく装置に損傷を与えた。
 さらにこの機に乗じて羽矢子が接近。PRMで知覚を限界まで上げると、ディメントレーザーのチューブを狙い、電磁ナックルでを振り下ろす。
「おとなしくアジトに帰りな!」
 ついには羽矢子機にチューブをねじ切られ、さらには由稀の射撃も抉った部分に命中。ディメントレーザーの使用は困難な状況に陥った‥‥と、誰もがそう思った。

 しかしミスターは、さっきと同じポーズを取る。UNKNOWNや王零を狙って撃つ構えを見せた。さやかは「今度こそ」の気持ちを込め、UPC四国軍にさらなる注意を促す。
 アルヴァイムと長郎は、瞬時に「撃てない」と判断。ミスターの性格を考慮しても「撃たない」自信があったが、裏の裏ということもある。味方に損害が出るといけないので、全員に回避行動を取るよう指示。これを受け、疾音やエルレーンらも射線から逃れる。
「ミスターは昔のことも覚えてるから、あたしが一番危険っ!」
「逃げることも戦うことよ! しっかり退避しなくちゃ‥‥」
 全体的にKVが散ったあたりで、ゼダ・アーシュは踵を返して戦域を離脱。進路を北に向けて逃げ出した。この辺の判断はさすがと言えよう。
「そこの紳士には借りができたってとこかな? 無事に逃がしてくれて感謝するよ」
「こちらにも都合があってね。それに即したまでだよ」
 戦闘が終わったと知るや、UNKNOWNは愛用のタバコに火をつける。愛煙家の由稀もまた、それに倣った。

●急襲の価値は
 ミスターの離脱で幕を閉じた宿毛市の一戦は、終わってみればあっけないものだ。改めて調査するも、HWの増援や伏兵は一切なく、周囲には罠さえ仕掛けられていなかった。この辺はミスターSに惑わされた部分であろう。しかし結果的には、ゼダ・アーシュに損傷を与えることだけを考えればよく、戦闘の終盤はその目的を達成できた。最後にディメントレーザーを発射しなかったことから察するに、あれは「使用が困難な状況に追い込まれた」と考えるのが妥当だろう。

 この間、戦況がめまぐるしく動いた。
 榊原アサキ(gz0411)率いる戦力が、UPC四国基地への襲撃を敢行したこと。さらにウィリアム・シュナイプ(gz0251)を亡き者にすべく、UPC阿南基地にも手勢を送ったことが判明。宿毛に立つ傭兵たちに少なからず衝撃が走った。
 まずは四国基地について、さやかから報告が入る。四国基地は宿毛までの道に兵を派遣したものの、敵は守備力を脅かすほどの兵力を有していないとのことだ。
「UPC四国基地の守りに問題はなく、敵将のアサキに向けて傭兵を差し向けたとのこと。ひとまずは安心です」
 このことから「阿南基地への攻撃がミスターの本命である」と判断するのが妥当だ。この阿南基地については、長郎が驚くべき事実を口にする。
「阿南基地も問題ない。レジスタンスのリーダーである日向‥‥いや、本物の四国の指揮官である日向 柊が現れ、劣勢を跳ね返しているらしいよ」
 これを聞いたアルヴァイムは「なるほど」と頷くが、長郎は「うまく騙されたものさ」と肩をすくめた。
 それを聞いたラナは「ミスターSは陽動だった、ということですか?」と尋ねる。すると、ルーガが「そういうことだな」と返した。その声は苦々しい表情から放たれたのを、弟子のエルレーンは汲み取る。さすがの神撫も「舐められたもんだねぇ」と呆れるが、リヴァルは「成果はあった」と凛とした声で言い放つ。
「次はゼダ・アーシュが現れる時は、奴が地に伏す時だ。賭けてもいい」
「人を舐めた性格は、死ななきゃ治らないみたいね。困ったもんだわ」
 由稀の言葉に、誰もが同意した。その数の多さに、思わず零音は大きな声で笑う。それにつられて、疾音も笑った。

 難敵・ミスターSを追い払い、宿毛の地に静寂が戻った。傭兵たちは祈りを胸に、この地を後にした。