●リプレイ本文
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お気に入りのゴシックコーデに身を包んだ少女‥‥厳密には覚醒した少年であるエイルアード・ギーベリ(
gc8960)は、道路の脇にある岩に身を潜めながら双眼鏡を覗く。無論、これはA地点からやってくるというキメラの偵察だ。
「リンスガルトさん、後はお任せします!」
「うむ! ここは妾に任せておけ!」
少女は軽く髪をなびかせ、その存在感をアピール。それを見た警官も安堵し、その場から退避する。
すると敵キメラも、存在感抜群のいななきを響かせた。さすがは白馬、いい鳴きっぷりである。
「‥‥む、キメラが来おったわ」
リンスガルトが呟くと、無線機で仲間たちと通信を開始。現在の状況を正確に伝える。
「予定通り、B地点で接触となりそうじゃな。汝等、準備は整っておるか?」
その通信は、車で移動中の山下・美千子(
gb7775)が受け、返事をする。
『大丈夫だよ。あたしたちに任せといて』
それを聞いた少女は「頼んだぞ」と答えながらも、いそいそと奇襲の準備を始める。オイシイところは逃さない。それが、リンスガルトの正義。
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傭兵側には基本的な作戦が存在するが、キメラたちは自由気まま。C地点からの奇襲よりも先に、我先にとB地点を通過しそうな勢いだ。大草原でも走らせたら、さぞかしいい絵面になることだろう。
そんな連中の姿を始めに見たのは、バイクで先頭を走るクレミア・ストレイカー(
gb7450)。金色の髪が風に揺れる。
「もしかして白馬のキメラっていうのは名前忘れたけど、あの『白スーツ』の所有物じゃない?」
彼女は、かつて「四国を美しさで支配する」と語っていたバグア、フィリス・フォルクード(gz0353)を思い出していた。彼は美しさの象徴として、やたらと白を好む。このキメラは、いわばフィリスの亡霊‥‥なのかもしれない。
「とにかく、迷惑なのは変わりないけどね」
脅威が出たなら、排除するまで。クレミアは騎乗状態でも慣れた手つきで拳銃「ヘリオドール」を操り、先頭を走る1頭に対して跳弾を放つ。
「ブヒヒッ!」
音で違和感を得たキメラだが、ほぼ同時に痛みが走った。クレミアの銃弾が、深く深く突き刺さる。それを感じた瞬間、思わず脚を止めた。
これを好機と見るや、武者鎧を身に纏った孫六 兼元(
gb5331)がバイクで飛び込む。その姿はまさに、現代の騎馬武者だ。その後ろには、夢守 ルキア(
gb9436)が乗り、ニーグリップで銃を構えている。
「思えば夢守氏とは、今まで随分といろいろな戦地を共にして来たな!」
「兼元君の運転なら安心だ。私も自分の仕事に専念できる」
「奴の横へ回り込む、上手く足止めしてくれ!」
体勢を崩した1頭に対し、孫六はあえて側面を突く。他の白馬との分断、さらには県道からの逃亡を阻止するためだ。
バイクが急停車を始めると同時に、横からC地点へとすり抜けようとする敵に対して、制圧射撃を敢行。本星での戦いからまだ半年、敵との距離感はバッチリだ。後ろからはリヴァル・クロウ(
gb2337)、そして伴侶のオルカ・クロウ(
gb7184)の姿が見える。走り去らんとした敵はふたりに任せた。
そして自らは、孫六が狙う敵に対して呪歌を聞かせ、その行動を抑止する。
「相手の行動力を削り、動きを鈍らせ――後は、数と火力で、攻める」
孫六がバイクを降り、鬼刀「酒呑」を抜いて駆け寄ると同時に、B地点への接近を果たしたクレミアが援護射撃でフォロー。
「さ、見せ場は整ったわよ」
「これで負けては、武士の名折れだ!」
側面から迫る孫六は「八双の構え」を披露。これは「右肩に刀を担ぎ、低く腰を落とした」攻撃主体の構えだ。
白馬は体勢を直すと、麻痺を帯びた体で体当たりを試みるが、武者には当たらず。そこを右袈裟斬りで反撃を受ける。
「ガッハッハッハ! まだ終わらんぞ!」
孫六は刀を止めず、そのまま下から斬り上げ、敵からさらに悲鳴を引き出す。そしてまた、八双に構えを戻した。
これでは埒があかぬと、白馬は渾身の後ろ蹴りを披露するが、ルキアの呪歌で思うように体が動かない。武者はそこを見逃さず、今度は右袈裟斬りから、左側より円運動で刀を左の肩口まで持ち上げ、左袈裟斬りという連撃で反撃。もはやこの場は、孫六の演武会と化した。
圧倒的有利においても、ルキアは状況を操作する重要性を手放そうとしない。ここはダメ押しで、呪歌を重ねがけし、完全なる決着を望んだ。
「兼元君、任せたよ」
「おうよ! 任されたぁ!!」
孫六は虚を突くかのように、脚甲での天地撃を撃つ。白馬の巨体は空に向かって打ち上がった。そして地面へ落ちてくるのを、猛撃のオーラを纏った武者がじっと待っている!
「ワシの斬撃、冥土の土産に見せてやる!!」
「ブ、ブヘェヒィィーーーッ!」
白馬の恐怖は、すぐさま断末魔の叫びとなって消えた。
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ルキアが制圧射撃で足止めした敵は、その呪縛を逃れ、C地点へと駆け抜けんとしていた。
そこへ一台のAU−KV、ミカエルに騎乗するオルカが現れる。夫のリヴァルが出発前、「うちの家内は‥‥凶暴だ」と紹介に付け加えていた。
「今は、命を懸けることが恐ろしい。ふふ、弱くなったものです‥‥それがまた心地いい」
夫であるリヴァルを失いたくない、共にいたいという気持ちから生まれる、オルカの今の心境。それを理解しつつも、体は勝手に動く。
そんな彼女のミカエルは弾丸となって突進、スピードに乗った白馬の出鼻を挫く。
「ブゲヒィ!」
それでも前を向く敵は、また走り出そうとする。オルカはUターンをしつつ、拳銃で牽制。次いで同じ方向へマシンを切り返す夫に合図を出す。
「――参りましょう、貴方様‥‥援護をお願いします」
その言葉に「ああ」と返すと、リヴァルはSMGで脚を狙って攻撃。オルカは二刀小太刀「疾風迅雷」を構える。この武器での戦闘は、彼女が得意とする形だ。文字通り、体の一部であるミカエルを操り、すぐさま白馬の隣につける。
この時点で、すでに戦況は有利だった。残るは1頭だが、B地点にはリンスガルトも控えている。大勢は決したと言えよう。
リヴァルは「ふむ」とひとつ頷き、妻に「C地点までに仕留めればいい」と伝えよう‥‥とした、その時だった。
「うおわっ!」
リヴァルの愛機が、不意に跳ねた。急ブレーキにも似た大幅な減速で、彼は体勢を崩してしまう。
視野角の広い馬が、人を襲うことに特化した獣が‥‥この状況に反応しないわけがない。オルカの攻撃を自らの走りを遅らせることでうまく回避し、背後から迫るリヴァルを後ろ足で蹴り飛ばそうと準備を始める。残酷を奏でる蹄の音が、リヴァルの耳に響く。
「貴方様‥‥! ――させるものですかッ!」
自らの死よりも、夫の死を恐れていたオルカはミカエルを一気に減速させ、そのまま白馬の背に飛びつき、無我夢中で不敗の黄金龍を発動。竜の紋章が金色に輝き出すと同時に、必死に小太刀を振り回す。
「失わない‥‥絶対に!」
この状況に気づいたリヴァルは、大いに驚く。
今まで見たことのない覚醒の状態であるオルカ。そして、ガーディアンである自分を守ろうとするオルカの姿を見て、一気にバランスを立て直す。そして金色の力を発揮する彼女に対し、練成超強化で強力に援護する。
「貴方様!」
「‥‥俺がお前を遺して逝く思ったか」
妻の覚悟を、その心を知ったリヴァル。内心は喜んでいたが、それはすぐさま憎悪へと変わる。それはふたりの道を塞ぐ、白馬型キメラへの底無しの憎悪であった。彼はゆっくりと眼鏡を外し、バイクの速度を上げ、月詠の届く位置に急接近。
しかし、敵も身動ぎをして反撃を試みた。その皮膚がリヴァルの顔を叩くが、傷を負わせるには至らない。白馬は驚き、思わず嘶いた。相手は避けようともせず、ただじっと自分を睨みつけている‥‥まるで深淵が、こちらを覗き込んでいるかのようだ。
「俺の女に‥‥手を出してんじゃねぇぞ」
リヴァルは刹那、四肢挫きで怨敵の脚を止め、月詠を鋭い突きで刺し貫き、一気に心臓を裂いた。そして金色が薄れ、覚醒が解除されるオルカを救い出し、ブレーキをかける。それと同時に、朱に染まった白馬が道路へと倒れこんだ。
「普段なら、あのような行動には出ないアイツが‥‥」
相手に聞かれる心配がないからか、憎悪の冷めたリヴァルはそう呟く。しかし、彼女の目覚めは予想以上に早く、しっかりとそれを聞かれてしまった。
「――貴方、様‥‥?」
「う、聞いていたのか‥‥今のを」
リヴァルがばつの悪そうな表情をすると、オルカは彼の腕の中で「ええ」と答える。
「すみません、でも心配で‥‥」
彼女もまた赤面し、頬を掻きながら言葉を続けた。もう無粋な奴はいない。ふたりは安心した。
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残すは1頭。B地点へは車で到着した美千子が、独特の手法と武器を使って戦いを挑む。
「お金が貯まって、ダイエットにもなる。ほんと、いい仕事だよね」
白馬は華奢な少女を狙って攻撃するが、相手は持っていたビーチパラソルを開くだけ。さすがの白馬も目が点になった。
しかしこのパラソル、仕込み刀が備わっており、美千子は流し斬りを発揮して白い皮を切り裂く。
「ブヒィィイ!」
再び攻撃を仕掛けるも、今度は闘牛士のようにパラソルを操り、今度は背後で流し斬りの一撃。もはやこの白馬、遊ばれている。
「お次は、マジックだよー。じゃーん!」
ビーチパラソルを右から左に振れば、一瞬にしてリンスガルトが登場。先手必勝を駆使し、大鎌「マーダー」を勢いよく振り回す。
「我が大鎌の一撃、受けてみよ! 汝の白毛、赤く染めてくれるわ! ふはははは!」
大鎌の動きはトリッキーだが、基本は円の軌跡。白馬は時折、少女の攻撃を本能的に避けてしまう。
それを見たクレミアは「かわいい子にはご褒美よ♪」と、スナイパーライフルによる超長距離狙撃でフォロー。その隙にリンスガルトが豪破斬撃を発揮し、赤く染まった武器で敵の脚を狙う。さらにルキアから練成弱体が飛び、敵はまさに踏んだり蹴ったりの状態に。
「ヒヒーン!」
「よし、この鎌で滅多切りにしてくれるわ!」
紅蓮衝撃によって炎に包まれた大鎌を振るい、少女は渾身の力で戦うも、絶命までには及ばなかった。
そこへ突如現れたのは、紫のカラーリングを施した1台のバイク。これには、ミリハナク(
gc4008)が乗っていた。手にしているのは細身の剣・ハミングバード‥‥どうやら、何か仕掛けがあるようだ。
「行くわよ! 私流! 騎龍とつげきー♪」
あまりの奔放さに驚きとわくわくが止まらないリンスガルトは、ニヤリと笑いながら飛び退く。
ミリハナクはまず、進路上にいる白馬に向かってソニックブームを放つ。強力な衝撃波でその身を穿ち、身動きできなくなったところを、すれ違いざまに天地撃を放つ。そこそこの巨体であるキメラだが、軽々と宙に浮く姿は圧巻だ。それが地面に落ちれば、もはや虫の息である。
バイクから降りるミリハナクを待つ間、美千子がゾウキンシールドを敵の鼻っ面に押し付け、白馬をさらに無残な姿にさせた。
「ブゴゲッ! ビヒッ!」
これにはリンスガルトも「惨めじゃのー!」と喜んだ。だがまもなく、生き恥を晒さずに済む。すぐにミリハナクが、トドメを刺してくれるから。
「キメラが美しく散るなんてこと、あり得ませんわよ?」
その言葉通り、キメラはみんな仲良く無残に散った。
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戦いが終わり、周囲の安全が確保されると、周辺住民にも笑顔が戻った。現場の警察を仕切っていた坂神・源次郎(gz0352)は、傭兵たちに「お疲れさん」と伝え、杉森・あずさ(gz0330)も「今日はありがとうね」とねぎらった。
夕方になると、村の公園でささやかな食事会が開かれた。天満橋・タケル(gz0331)の移動屋台と、料理自慢の村人が腕を振るい、ちょっとしたお祭りのようである。
クレミアは戦闘中から目をつけていたリンスガルトや住民たち一緒に、食事を堪能していた。
「うっみゃー! うみゃいのじゃ♪」
楽しそうにはしゃぐ少女を見て、クレミアは「楽しいのが何よりね」と飲み物を煽る。
その隣では、山盛りのたこ焼きを食わんとする孫六の姿があった。彼の武者姿は村の年寄りにウケがよく、感謝の意を込めて酒を持っていくのだが、当の本人は「ここまでバイクで来とるからな」と、ソフトドリンクへの変更を希望。その実直さが、またウケていた。
タケルから出来立てのたこ焼きをもらったオルカは、夫の元へ。その隣に座り、1個勧める。
「ちょっと熱いですけど‥‥食べます? ‥‥あーん」
かわいい妻にここまでやらせといて、夫がそれに応えないわけにはいかないが、なかなか思い通りにならないのが男の性である。
「ば、そ、そういうのは慣れてなくてだな‥‥じ、じゃあ、一回、あーん」
この姿は村人はおろか、タケルや坂神にまで見られており、ほくほくのが口に入れると、周囲から自然と拍手が巻き起こる。まぁ、酒の席ではよくあることだ。
オルカはやさしく微笑んで、少し首を傾げながら言う。
「一度やって見たかったんです、如何でしょう?」
「ほむ‥‥んぐんぐ、な、なるほどな‥‥」
ところがリヴァルは納得したと見せかけて、妻の持っていたたこ焼きの皿をさっと奪い、手早く爪楊枝に1個刺す。
「んぐんぐ‥‥俺ばかりというのも不公平だろう。ほら、口を開けてみろ」
お返しか仕返しかはわからないが、リヴァルも同じことをオルカに要求。彼女は一瞬戸惑うも「ええ」と答え、静かに口を開ける。そして夫がたこ焼きを運ぶのを待った。若い夫婦、愛の一幕である。
美千子は猫舌なので、作り置きしたものを食べる。世界食べ歩きツアーを夢見る少女にとって、この報酬はたまらない。
しかし、まだ冷め切ってなかったらしく、「あち、あちっ!」と言いながらもがんばって食べた。そしてイカ焼きを注文し、さらに「それから、持って帰る分、これに詰めて」と自前のお持ち帰りセットを広げる。これにはさすがのタケルも「かなわんなー!」と白旗を上げるしかなかった。
「はい、肉と肉と肉! 育ち盛りだから、お腹ぺっこぺこなんだよ。5年くらい前から、身長伸びてないケド」
そう言いながら、ルキアが一生懸命に肉を食べている。食いっ気に走りつつも、自らが始めたギルドの宣伝も欠かさない。村人に「キメラが出たら、やっぱり怖いよね。避難ダケ済ませて、あとは連絡して、ね?」と声をかけたり、軍に入ったミリハナクに「おねーたま、良ければどう?」と勧誘したりしていた。ミリハナクは「狂犬を楽しませてくれるなら、ね」と微笑む。
そんな彼女は、今まで四国でうどんとミカンしか食べてなかったことに気づき、ルキアと一緒に食事をエンジョイすることに決めた。
「シェフ、おいしいのをくださいな」
こうして、四国の夜は更けていく。空は遠き星々を輝かせ始めていた。