●リプレイ本文
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空を往く六機。向かう先は、既に乱戦の様相を呈していた。
先行するのは、鳳覚羅(
gb3095)機と、リヴァル・クロウ(
gb2337)機、鹿島 綾(
gb4549)機、ルノア・アラバスター(
gb5133)機の四機。
そのやや後方から、アレックス(
gb3735)機と、灯華(
gc1067)機が続く形。
狙いは巨鯨。
彼らは歴戦の兵だった。だからこそ、後方に未だに控えているBFを看過出来なかった。
敵もそれは見越しているのだろう。混戦を極める戦場にも関わらず、BFの護衛としてか、戦場とBFのその中頃程の位置に一機のタロスと三機のHWが佇んでいた。
「招集を受けて赴いたが」
リヴァルは怜悧な視線で現状を確認。
――状況は、不利か。
元より損耗を重ねた部隊の戦闘。数の不利もある。軍の被害を思えば時間がかけられない。
六機は混戦のただ中へと居たろうとしていた。その瞬前。彼は告げた。
「果たすべき結論は明らかだ。――行こう」
彼の傍らには、信頼に足る仲間達が居たから。
突入の瞬前。リヴァル機から無数の噴煙が放たれた。鍛え上げられた機体から放射されたK−02が、軍KVを追い立てていたHW達へと向け不規則な機動で抜けて行く。
噴煙が爆発に転じると、混戦に更なる動きが刻まれた。対ミサイル兵器が猛火をあげるが、十分に気勢は削いだ形。
『行くぞ!』
アレックスの声に続くように、六機は更に加速。リヴァルが拓いた道を、機首を潜り込ませるようにして往く。
何れの機体も、並ではない。卓越した機動が強烈なGを生むが、その中を――抜けた。
彼らの眼前には護衛と思しき四機がいる。
傭兵達は、示し合わせていた通りに――再度、道を切り開かんとした。
灯華は、動きの直前に嘆息するように言った。
「ここにもユダの爪痕‥‥ですか。厄介ですね」
アフリカを覆う影を厭うような声だ。そこに、声が重なる。
「確かに厄介だが‥‥まずは目の前の敵だな。行くぞ!」
「はい‥‥守り、きって、みせないと、ね」
長く美しい赤髪を束ねた鹿島が、その眼差しに力を籠めながら言った。続いて、両の瞳に同じ色を灯したルノアが応じた。
瞬後。鳳機と、鹿島機、ルノア機から、ミサイルの雨が放たれた。先ほどのリヴァル機に勝る程の、瀑布の如き噴煙。
――その動きを、見つめる者が居た。
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地上。『彼女』はそれを見つめ――瞬時の判断でこう告げた。
「行きな!」
言葉のままに、BFが加速。
「無視してくれりゃァな‥‥ま、後はこちらの土俵に上がって貰うだけさね」
元より戦術に秀でたヨリシロを得ていた彼女は、戦場での腹の探り合いを好んでいたから。
先の闘争――その構造を、忘れていなかった。
「ハ。――意趣返しだよ、人類共。アンタらの大好きなとんち合戦だ」
視線を巡らす。遠方からこちらへ近づく機体が二機。付近では、HWと射撃戦を演じている雑魚共がいるが。
『釣れたのは二匹だけか。アンタらは、楽しませてくれンのかい?』
折角、あたし自身を餌にしたのにね――呟きは、小さくコックピットにのみ響いた。
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噴煙が視界を覆っている。元よりHW、タロスと交戦予定だった三機は噴煙に紛れるように進んでいたが、鹿島機と灯華機だけがその噴煙を跨ぐような機動をしていたから‥‥それが、見えた。
「BFが、こちらに前進を開始!」
機械的な口調に、僅かな焦りを滲ませながら灯華が言った。
彼我の距離が縮まる。彼女達の速度も相まってそれは。
『灯華、建て直せるか!』
『いえ‥‥!』
覚醒による、数値化された世界で彼女はそう判じた。打ち合わせていた機動には、間に合わない、と。
その言葉に、鹿島は僅かに舌打ちをしながら、2連のロケットランチャーを幾重にも重ねた。狙うはBFの艦橋と思しき部位。研澄まされた機体だ。全弾命中。
だが、白いBFは止まらない。
灯華はそれを見据えながら、言葉を呑み込んだ。
元より、フレア弾を狙った位置に落とす際には速度を落とす必要がある。難事であったかもしれないが――やれる目はあった筈だ。だが。
鹿島機、灯華機の下を潜るようにして――白いBFが、抜けた。
爆炎に飛び込むように、BFは加速していく。
『灯華!』
『はい‥!』
それを追うようにして二機も加速。追走に移る。
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地上、セージ(
ga3997)のリゲルと宗太郎=シルエイト(
ga4261)のストライダーは赤いタロスと相対していた。
いずれの機体も十分に鍛え上げられた機体だ。
だが、それでも。
『覚悟決めねぇと食われるぞ、こいつは』
宗太郎が、張りつめた口調で言う。それほどに、眼前の敵の佇まいには、覇気が満ち――隙が無い。
彼らは、罠、伏兵の類いを警戒していた。当然だ。斯様に目立つ機体が単機。
だが。
宗太郎の要請で、軍のKVが地殻変化計測器を設置していた。だから、彼らはそれが解った。
『単機で此処にいるのか』
「ああ」
感嘆すら示す彼の通信に応じながらセージは機刀を抜いた。
『なんだ、こねェのか?』
女性の声が響く。鷹揚に槍を掲げているが――。
「獣みたいだな、あんた」
言葉を曳き、蒼い意思に沿ってリゲルが加速。
その背を追うように、後方の摩天楼から銃撃が飛ぶ。
『なァに‥‥ヨリシロにしたヤツの育ちが悪くてねェ!』
盾で正確に銃撃を凌ぎながら、槍の間合いでセージ機の機刀を受けた。接近によって射線が重なり、火線が途切れる。
「構わず撃て! 弾はこっちで避ける!」
それを察したセージは、前衛・後衛の構築を優先。
摩天楼がそれに応じ動き、再度銃弾をバラまく。
目紛しく立ち位置が入れ替わる中、幾合もの刃と銃弾が重なりあっていた。
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(白いBF。白鯨か)
「だが‥‥逃がさねェ!」
爆炎を潜った巨鯨を迎えたのは、アレックスのカストルだった。灯華の通信を聞いた彼は、ブーストで転進を果たしていたから、追走は誰よりも速かった。
「白鯨の腹ン中、暴かせて貰うぜ!」
機に据えた長大な電磁加速砲から砲弾が放たれると、瞬後にはBFの装甲を削り取っている。凄まじい火力。
――ッ!
同時、こめかみを赤熱した鉄線が貫いたような錯覚を抱く。
目を開けることすら困難な激痛の中、彼は辛うじてそれを目にした。
混戦を演じていた一角に、幾多ものCWが投下されて行く様を。
そして。
数の利を活かして空中戦を演じていた筈のHW達が、
――こちらに砲を向けている様を。
加速した世界の中。彼らと交戦していたKV達が慌てて機首を転じようとしているのが見えた。
爆炎を抜け、後方から灯華達も向かって来ているのが、感覚で解る。
「‥‥ッ」
幾多もの光条が、追走する者達へと放たれた。
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他方、護衛のワーム達に相対していた者達は、爆炎の後に姿を表した彼らと交戦を果たしていた。
「このHW達、平素の敵とは違うみたいだ」
機動が、装甲が、精度が。全てが、これまでに蹴散らしてきたHWとは大きく異なっていた。
となれば、数の不利がそのまま、予想以上に負荷としてかかる形だが。
「‥‥です、が」
赤翼の女帝。それを駆る少女の心は、揺らがない。鳳機の光刃を躱した機体に螺旋弾頭ミサイルを発射。回避機動上に届いたそれは、小型HWの赤光を貫き――爆炎を生む。
「まだ、大丈夫、です」
「そうだね」
長きに渡り戦場を共にした彼らの連携は強固で――その機体も鍛え上げられたものだったから。
被弾に泳いだHWを狙う鳳機。彼を狙うHW達。円環に至る構造をルノア機が穿ち、道を作る。
「行くよ黒焔凰」
その道を抜ける漆黒の鳳凰。吐き出された高火力の銃弾がHWを貫く。
耐えきれずに、HWは爆炎に飲まれて消えた。
すかさず、続く敵機に相対しながら、鳳は呟いた。
「やれやれ‥‥駐留していて正解だったようだね」
「そう、ですね‥‥私達、が、いて、良かった、です」
名だたるエース達‥‥頼もしい戦友。
つと巡らした少女の視線の先。
黒色に黄色の縁取りが施された【電影】が、単機で敵のタロスと渡り合っていた。
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凄まじい機動だ。操縦者にかかるGは伺い知れぬ程。
加速。
機首を転じた先で、タロスが砲をこちらへと向けていた。
光条。
幾条ものそれを、彼はまさに電影の如き機動で躱す。幾つかが掠り、装甲を灼くが。
『頑強だが、大した事はない』
敵機の中でも、単機では指揮官機に次ぐ程の機体だ。それを彼はそう評した。
加速する電影。返す刃で、チェーンガンによる銃撃と、続く剣翼が赤光ごとタロスを貫く。
彼は敢えて通信を通して言った。
『――俺は折れないぞ、バグア』
決着まで、幾合か。
それを冷徹に見据えながら、ただ彼は愛機を駆った。
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鍛え上げられた二機を相手にしても、深紅のタロスは一歩も譲らぬ戦いぶりであった。
それはセージ機を中心にした、踊るような闘争。後衛の火力を位置取りで潰しながら、時に砲で宗太郎を薙ぎ、槍を振るう。
幾度も重ねた互いの暴威は、膠着に至っていた。
「はっ!」
だが、その膠着を宗太郎は心底愉しそうに笑う。
煮え切らぬ膠着は、敵の立ち回りによるものだという事を彼は理解していた。
「やっぱ腕が立つねぇ‥‥面白ぇじゃねぇか!」
ブースト。更なる加速を得た摩天楼が、再度、タロスの右手‥‥槍を持つ方へと転じる。
『ッと!』
急速に視界から掻き消えた摩天楼による射撃を、女はセージ機から大きく距離を開けるようにして躱す。
瞬後。
『おォ‥‥ッ』
雄叫びと共に、セージ機が猛進、PRMを重ねた機刀の刺突が放たれる。女は回避に傾げながらも盾で強引に受けるが、次の瞬間には態勢を馬力で建て直すと――槍を、右手、宗太郎の方に向けた。
飛び込もうとしていた宗太郎の機先を制するように。一対二程度では、まだ余裕があるようだ。
その時。
『‥‥オイオイ、まさか、アレを抜けたッてのかい』
赤いタロスが、呆然とした口調で、言った。
『よそ見は、感心しないな』
膠着に隙を見出したセージ機が、肩に据えた砲から砲弾を吐き出した。
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爆炎が生まれていた。
次の瞬間には、HW達は再度KV達との交戦を再開していたが。
「‥‥ふゥ。カストル。まだ行けるか」
カストル――神話上は、不死性が無いが故に死した故事を有するが。
集中砲火の中でも、彼の機体は落ちなかった。
意思と同時、それに応えるように推力が漲る。
『アレックス! 無事か!』
「あァ、追うぞ!」
その砲火の多くが彼に注がれていたから、後方の二機も無事だった。
赤髪の少年は、鹿島の通信に覇気を持って応じた。遠くには、白鯨の威風。
三機は再度、加速する。最早遮るものの無い道を高鳴りをあげ、疾風となって駆けた。
元より、速力に秀でた機体達だ。障害さえなければ、白鯨に追いつくのは容易で。
数十秒の後、三機は白鯨に並ぶ。
『‥‥そこです』
開かれた、搬出口。被弾の痕。狙うべきは多く、また、狙うものも多かった。
幾度目かのK−02が灯華機から放たれる。漆黒の機体から分たれたそれは、凄まじい速度で距離を縮め――命中。
剥落する装甲を尻目に、鹿島機が続いた。
『俺達に狙われたのが運の尽きだ』
高速BFは未だ高速機動を続けていた為、フレア弾による追撃は困難――そう判断した鹿島は、備えた粒子砲で、灯華が押し広げた白鯨の傷口に、狙いを定め、
『沈んでいけ‥‥!』
放つ。
超絶的な威力に、一気に赤熱する砲身。放たれた光条は、白鯨の身を削ぎ取る。
動力系の一部が立たれ、失速。
そして。
「ソードウィング、アクティブ!」
それでもなお足掻こうとするBFに、最後の一閃が振われる。
「いっけぇッ!」
赤髪の少年の情動に応えるように、濃紺の機体が加速。翼を覆う刃が計算され尽くした角度で露出した機関部を断ち‥‥。
白鯨は炎上。墜落した。
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眼前の二機と相対。手強い二機ではあったが、戦闘に支障は無かった。
だが、遠く、上空で。白鯨が沈んで行くのが見えた。
――ちィ。
舌打ちが零れる。
戦術上、取れる手が一気に狭まった。
何より。
――幾ら雑魚を蹴散らしても、敵の精鋭が、止まらねェ。
上空は、護衛の機体を蹴散らした精鋭達に食いつぶされようとしていた。
ユダが居たら、話は違っただろう。あるいはBFが目論みを果たせていたら、戦略的な勝利が狙えていた筈だ。
進退窮まった事を否応無しに自覚する。
「だけどねェ‥‥!」
被弾を無視して、槍を振るった。緩急の動きで、刀を持つ青い機体が右手に泳ぐ。
その鼻先にプロトン砲を突きつけ――放射、放射、放射。
「それが、どうした!」
吼えるのと同時、熱量に耐えきれず敵機の左腕が爆ぜる。こちらの左腕も、槍を持つ手ごと敵の後衛に撃ち抜かれた。
「ここからが、本当の戦場だ!」
――血塗れの消耗戦だ!
こちらが勝てば、顔も知らないが『アイツ』が手に入る。
この場にいる戦力を思えば、何が最善手かは解っていた。
――種の為に。
「たとえあたしが此処で散っても、ねェ!」
機械融合。
『‥‥付き合ってもらうよ、人類!』
身を起こしつつある青い機体。長大な槍を携えた蒼白の機体。空を往く精鋭達に聞こえるようにそう言った。
――あるいは、遠く。基地に届けと。
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女の最後は壮絶なものだった。
軍のKV八機と、空から降り立ったリヴァル機、爆槍を構えた宗太郎機、隻腕で刃を振るい続けたセージ機。
計十一機を相手に対等に渡り合い、電影の片腕、ストライダーの脚部、リゲルの頭部を呑み込んだ。
そして今、赤色のタロスは翼刃に片腕を断たれ、爆槍に腰部を貫かれ、機刀にコクピットを貫かれた姿で立ち尽くしていた。
激戦の終わりは唐突で。赤熱した時間に置いて行かれた戦士達は、呆然とその姿を見つめていた。
上空では未だ殲滅戦が行われているが、上空にあり続けた赤翼の女帝と漆黒の破暁の奮迅もあって、犠牲は抑えられている。
――事実上の勝利を、人類は手にしていた。
だが。
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『未確認機を補足! ユダが二機、南西から――』
突然の報告だ。突破の報せは届いていなかった。
対応していた部隊が全滅したのか。とにかく、情報が無い。
高速で迫る背徳者達は戦場を避け基地へと一直線に向かっている。
此処からではKVでも間に合わない。軍人達を絶望が覆うが。
「いや、慌てなくていい」
疲労困憊といった様子のセージが、敵機の様子をみてそう言った。
「‥‥成る程な」
視線の先を辿ったリヴァルが、そう応じた直後。
遠景。基地に在る巨砲から、白色の光が放たれた。
それは、彼らが最後まで温存したこの戦闘の成果でもあり‥‥清々しい、光だった。
跡形もなく、異形は消え失せた。
「‥‥どうした、宗太郎?」
安堵の息をついたリヴァルが視線を転じると。
「え。い、いや、なんでもないですよ?」
そこには、合掌し、威容に何事かを念じていた宗太郎が居た。
兎角――。
こうして、テベサの攻防戦は一応の決着を見た。
それは、傭兵達によって手繰り寄せられた、確かな結末であった。