●リプレイ本文
「‥‥言うだけあって大した数だ。あながち大言でもないらしい。だが、それこそ今さらだ。今更この程度で怯むものか」
迫りくる敵の勢力に、ヘイル(
gc4085)が事もなげに呟く。
「マスドライバーか。なんか縁があるみたいだね、地上でもここでも」
ソーニャ(
gb5824)の声はどこか感慨深さの滲んだものだった。
「いや、それぞれが生き残る希望や望みをかけてたターニングポインントだったからね。それだけ、この架け橋の意味が大きいってことだね」
確かにこのマスドライバーがもつ意味は大きいのだろう。ならばこの戦闘も、ある意味必然。
「やれやれ。土壇場の襲撃にも困ったものだけど、ここで押し返さないと宇宙開発が推進できないしな」
地堂球基(
ga1094)は、頭をポリポリと掻きながら言う。
「‥‥まだまだこの世界も静かにならないのですね」
D‐58(
gc7846)の口調はいつもの通り機械的で冷静な響きだった。傭兵として受けた依頼は黙々とこなす。彼女の信条は変わらない。だけど、少しずつ違うものが混じりつつあるのを彼女は自覚していた。ようやく平和へと近づいた世界を護る。義務感めいた気持ちが、間違いなくそこにある。
「フン、この戦に勝って巻き返し出来ると思っているのかね。一網打尽のチャンスじゃないか。そんな妄想ぶち壊してやる」
BLADE(
gc6335)はそういって気勢を上げた。それに対し。
「皆、分かってると思うけど、敵はこの状況や戦力差を本気でひっくり返すつもりだよ」
赤崎羽矢子(
gb2140)は唯一、皆とは少し違うトーンで全体に通信を入れる。
「相手は以前のあたし達と同じ覚悟で挑んで来てるんだ。油断してると今度はこちらが滅ぼされる。そのくらいの覚悟で迎え討つよ!」
その言葉に、何名かが表情を変えた。勝負の行方は最後の最後まで分からない。これまでは、人類たちが証明してきたことだ。
「‥‥崑崙を墜とさせるわけにはいかないからな。何としても死守するしかあるまい。俺も全力を尽くすこととしよう」
榊 兵衛(
ga0388)が、静かに、だが確かな意思を込めた声音で応えた。
各自それぞれに気合を入れたところで、オペレーターが鋭い声を上げる。
「敵先頭部隊、各主砲に反応あり!」
HWの群れ、そのプロトン砲の先端に次々と光がともる。最大射程からの挨拶代わりの一撃。人類軍はこれを散開して回避。行き場を失ったエネルギーが虚空に消え、爆発が昏い宇宙空間を彩る。
――戦闘、開始。
前線部隊の管制を司るのはヨダカ(
gc2990)。レーダーとカメラから敵味方の分布を確認、膨大な情報の波を掻い潜り、傭兵、軍共に味方と共有する。
ヨダカから送られてきた情報をもとに、ヘイルが味方の分布の薄い場所へフォローに向かった。K−02ミサイルを一気に吐き出す。タマモのFETマニューバAを乗せた一撃。まともに着弾したHWが炎に包まれ沈黙する。だがこれはあえて喰らわせたのだろう。これは盾にされた無人機、ならば‥‥。思考と同時に、ミサイルの爆炎を切り裂いてフェザー砲の光線が迫りくる。鋭い攻撃に目を細めて回避行動をとる。敵もやすやすと突破はさせてくれないらしい。だがそれも見極めて、有人機に向けて、本命のブリューナクIIが放たれる。
別の場所で球基機がUPC軍とともに出ている。
「敵右翼来たですよ! 対応よろしくです」
ヨダカの叫びに応えるように、敵前進を阻むべく動く。声をかけてのライフル射撃。連携しながら徐々に前に出て敵軍を掻き分ける。突出はしすぎないまでも前のめり気味の球基機へ向けて、立て続けに敵の射撃が襲い掛かる。目の前の攻撃に集中。一条‥‥二条、三度目の攻撃、ここで――浮上回避! 幾度か装甲を掠め取られながらも、大きなダメージはない。死角は味方が補ってくれているため、眼前の攻撃に集中できたおかげだ。
更に別翼。
「わざわざ来てくれたんだたっぷりとおもてなしをしよう。受け取れ!!」
BLADEの声とともに、敵編成の中心に向けミサイルの群れが舞う。ヘイルのときと同様、それは敵指揮官機に当たる前に別のHWに阻まれる。だが、同時に進行する水無月 紫苑(
gb3978)にとってそれは織り込み済みのこと。まずは敵戦力を着実に削り取りに行く。有人機にはレーザーライフルと遠隔機を用いて多角的に攻め、動きを追い詰めたところで――
「引っかかったね。本命はこっちだよッ」
決め手の兵器は、荷電粒子砲「レミエル」、彼女の高い知覚性能から放たれる一撃が強化HWの装甲を大きく穿つ。‥‥だが無論、敵もこちらの攻撃に黙っているばかりではない。多角的に攻撃できるのは相手とて同じことだ。単純に数という力によって。複数のHWからロックされると、紫苑機もBLADE機も対処しきれず被弾する場面がいくつかあった。BLADEは静かに計器を見つめる。まだいける。ぎりぎりまで退くつもりはない。二機が目指すのは指揮官機より更に奥、地上へとキメラを降下させる輸送HW。だが‥‥突破力は、まだ、足りない。
そうして、前線から少しはなれたところに、ハミル・ジャウザール(
gb4773)の西王母がある。
「あの‥‥西王母持って来いと‥‥言われた気がして‥‥」
頼りなさげに呟く彼は、後方について補給に専念している。補給中に狙われればもたない機体だ。無理をするつもりはないらしい。一台の補給だが、可能な限り弾幕に頼りたい前線争い、特にミサイルを使用する面々には重宝されたようだ。
その間、前線中央を、ミリハナク(
gc4008)中尉率いるUPC軍が支えていた。
「ミリハナクお姉様の、はうとぅーばとる〜♪ ちゃららっらちゃ〜♪」
明るく協力的なところをアピールしたいのだろうが、真面目なシーンでは不安も呼ぶ。
だが強力な機体が足並みをそろえてくれるというのはそれだけで心強い。兵士を意識しながら、速度を揃えての進軍。言葉よりも行動が、兵士に安心をくれる。
「敵の弱い所に弾幕を重ねましょう」
戦場に似つかわしくない明るさを伴う彼女の声に逆らう動きはなかった。彼女の機体からの機関砲を中心に、制圧火力が津波となって敵前線に襲いかかる。避けようもない圧力に敵最前線の装甲が剥がれ落ちていく。
「相手も同じことするでしょうから、フォロー要員を立てる」
初手の成功に油断はしない。ミリハナクの声に応えるように、後方で控えていたKVが反撃に出ようとした敵後衛を牽制する。彼女の機体もまた、初撃のやり取りで体勢を立て直す味方軍を、その頑強な機体で庇うべく動いている。彼女の細やかな活躍により、戦線そのものは磐石となっていた。
拮抗する戦況に、ミリハナク中尉の次なる指示は。
「敵精鋭には、取り巻きを潰しつつ牽制程度でこちらの被害を抑えましょう。向こうが焦れたらチャンスですわ――」
「こちらはこんな所です、そちらはどうです?」
ヨダカが激しい戦闘の間隙を縫って通信を送る先。
前線での戦闘はあらかた決まりつつあった。夢守 ルキア(
gb9436)は最前線にではない、もう一つの目として戦場の端から端まで目を光らせている。地上からやや離れデブリの漂う障害空域。
「見たカンジ、タロスなどが潜めそうなのは――」
戦況と、注意すべきポイントを探り出す。
そうした情報から、タロス対応に控えていた班の中で最も速く反応を見せたのは新居・やすかず(
ga1891)の機体だった。ルキアの示すポイント、それから最前線の様子。硬直を打破するために敵が打ってくる手はどこか。予測しながらの航行が、飛び出してきたタロスに先制の一撃を叩き込むことを成功させる。ブーストから回り込み、横手から叩き込んだ一撃がタロスの身体を揺らす。
「なめたマネを――!」
苛立ち紛れ、敵が旋回とともに放った反撃は虚しく空を切る。既にやすかず機はそこにない。一撃離脱。戸惑いを見せるタロスに向け、再び急旋回からのホーミングミサイル、爆炎で動きを止めたところに大口径ガトリング砲「ブーリャ」が襲い掛かる。再生能力を持つタロスに決定打を与えるには中々至らないが、敵の警戒を保ち前線への奇襲を防ぐという役割はきっちりとこなしていた。
一方、受動的な防戦一辺倒ではなく、人類側からも仕掛けに行くものがいる。
「さぁ踊るとしようかリストレイン。宇宙の戦場を舞台に、ねぇ」
四つのウイングバインダーにウィングエッジに煌きを引きながら、レインウォーカー(
gc2524)の機体が虚空を走り抜ける。光の残像を引いてその軌跡が目指すのは、無論敵中枢、旗艦の居座るその場所――と、見せかけて。ロックオンアラートともに急旋回。こちらの動きにあわせ追撃をかけてきたタロスに向けて、出鼻に機関砲を食らわせるとそのままウィングエッジで襲い掛かる。すれ違い様に切りかかるその勢いのままに距離をとり、人型へ変形して、練機刀を構える。タロスの持つ剣と剣とレイン機の機剣。剣戟の軌跡が宇宙に華麗な図を描く。
他方、バグアもまた、人類側前線に向け急発進をかける存在がいた。ルキアが最優先のマークをつけたそこには、タロスを先頭にした一群が速度を上げて前線に割り込もうとしている。やや強引な突撃、だが最低限の連携は組まれているため簡単には止められない。
「させませんよ。ラヴィーネ、ファイエル!」
ヨハン・クルーゲ(
gc3635)機から大量のミサイルが吐き出される。そのままタロスに向むけて中距離を保ちプレスリーを放ち離脱。一撃離脱戦法を取りながら、敵連携を崩しにかかる。が、直後複数のロックオンアラートがヨハン機コックピットに鳴り響いた。落としきれなかった護衛とともに、タロスがヨハンに迫る。ヨハン機、アリスシステムを起動、立て続けに向かい来るレーザー光を紙一重、あるいは薄皮一枚切られるような危うさの中、堅実に後退する。
そこに兵衛機の援護が到着した。タロスに対するアサルトライフルの牽制に、敵が速度を緩め機体を翻す。隙に、距離を詰めて機棍「蚩尤」を振りかぶる。兵衛機の杖と敵タロスの持つ剣ががっちりとぶつかった。
「‥‥停戦したといって、こちらが備えを怠ると考えるとはバグアの末端は慢心に過ぎるな。
『治に居て乱を忘れず』
悲しいが、この十数年の積み重ねで不測の事態に対する心構えは出来ているから、な」
兵衛の呟きに、バグアから帰ってきたのは薄い笑い声だった。
『だろうな。貴様らはそういうものだと、聞いているさ――だからこそわが将に乗ることにしたのだよ。さあ‥‥貴様の闘争をもっと見せてみろ!』
二度三度。タロスが立て続けに手にした剣を振るう。兵衛機はブーストのかかった機体の慣性制御を意識して、最大効率の動きでそれを避け、連撃にも隙を見せずに受け流す。だが、その言葉の意味までは、流しきれずにいた。
●
『――将。報告いたします。現状での前線の動きは膠着、いえ、ややこちらが押されている状況でございましょうか。‥‥奇襲や増援は、今のところ結果を出せずにおります』
『‥‥そうか』
副官の報告に、バグアの将は静かに答えていた。その目線は机上の戦略マップではなく直接戦場を映し出すカメラモニタにある。前線で火花を上げあう互いの兵。絡み合う最前線をちょうどかたどるように瞬く灯りは、互いに喰らいつこうとする二匹の獣を思わせた。
その中で、想いが、交差する。
『うろたえるな。我が求めているのは今日明日の戦闘結果などではない。この戦いはあくまで見出すためのもの。それこそが我らの勝機――』
モニタに映らぬ戦況の端々で、機体の熱量とともに宇宙に吐き出されていくもの。それは。
「そうだね。本当に退屈な数カ月だったよ」
互いに削り削られながら、紫苑は誰ともなしに答えていた。
「それまでは本当に楽しかった。充実していた。だからボクは嬉しいよ。まだお前らみたいのが残っていてくれたことが――またお前らを叩き潰せることが!」
突きたてた攻撃が、また一つ、無人のHWを爆散させる。
(まったくもって愉快な話だ。このバグアは、人間の本質を理解している‥‥少なくとも、ボクの本質をねぇ)
レインウォーカーは、幾度となく攻撃を交差させながら、静かに認めていた。
(ああそうだ、ボクは戦いが好きだ。戦って生きる事がボクの選んだ道だ)
機剣越し。斬りつける瞬間のトリガーの振動から覚える『斬った』感触。
――戦って生きる事がボクの選んだ道だ。戦って戦って、戦い続けて
「敵を屠り、屍を踏み躙り、血で世界を赤く染め。その先にあるのが何なのかを見てみたい」
突き入れてきた敵の剣を、受け流し機体を回転させて。
「さぁ、一緒に愉しく踊ろうじゃないかバグア。同類同士の盛大な殺し合いの舞台で!」
そのままバインダーのウィングエッジを翻してさらに傷を抉る。
「嗤え」
「戦鬼とは褒め言葉ですわね。人の業を誰よりも理解して生きていますの」
ミリハナクが、色香と倦怠感を纏いながらひそかに呟く。
「御託は結構、死にたいならば相手をしてやるのです! ヨダカは悪鬼、是非も無し」
迫り来る敵の波をただ情報として捌きながら、ヨダカは真正面からその覇気を受け止める。
『――さあ、進め。この戦いの行く末に、貴様らは何を見せてくれる?』
●
月面地上。
夏 炎西(
ga4178)はその以前から、味方より得ていた情報を元に、双眼鏡での状況の確認を済ませている。上空が頑張ってくれているおかげで敵軍の急接近はない。ラインガーダーや最前線の兵士達の動きは、傭兵達との細かな情報のやり取りもあって十分に間に合った。一斉射撃により敵進軍が押し留められ、なぎ払われる。築かれた屍の山を越えて這い進み出るキメラたちに、炎西は更に目を光らせる。無数の敵、その中で厄介なものは。
敵軍の衝突とともに戦線に加わっていった炎西から引き継ぐように、天野 天魔(
gc4365)はそのまま後方にて状況に目を光らせ続けた。探査の目を乗せた視線が、大型キメラの影を縫うように進む「ナニカ」の姿を一瞬、捉える。
「そこか‥‥」
無線機に、地点と警告を伝えた数秒後。
「がっ‥‥は」
その少し先の地点に兵士の動揺が走る。隠れ潜み進んでいたバグアが、姿を隠し切れないと見てバグアが到達前に行動を起こしたのだろう。
「今行きます!」
鐘依 透(
ga6282)が叫ぶと同時に、周囲のキメラが吹き飛んだ。一旦周囲の敵を蹴散らすと、その場は軍に任せ迅雷を乗せて一目散に駆け抜ける。無論、複数のキメラがその行動に反応した。引きずり倒そうと、幾つもの爪がその小柄な体に向かって伸びる。
「戦争で僕が見てきたのは地獄だ‥‥やっと一区切り付いたのに‥‥こんな‥‥」
キメラのものか兵士のものか。血に塗れた爪が透の服に触れた、かと思えば一瞬の後、掻き消える。回転舞。残像を残す円の動きは低重力において制動を殺すすべでもある。手にした魔剣がついに、銃を構えるバグアを間合いに捕らえる。
群れ来るキメラは兵士が止める。傭兵たちが注力したのは自爆や突破、浸透してくる強敵の対処に集中すること。‥‥だが、敵も決して弱くはない。数名を止められて尚、敵隠密部隊が人類側陣営深部に到達することに成功する!
‥‥すぐさま、避難民の直衛部隊が迎撃に向かう。互いの警戒もあって、奇襲はされていなかったのが幸いか。だが敵もなりふりかまわぬのだろう、容赦なく一般人を狙い揺さぶりをかけ、そこから兵士の体力を削り取りに行く。
――そして、その状況に前にでた孫中尉に、バグアは今その銃口を突きつけていた。
『飛び込ませないのか? 兵どもを。盾となって守れと命じないのか? ここで有象無象が死ぬことと貴様が俺に殺されることの意味の違いが分からんわけでもあるまい――待ってやる。命じるがいい。弱者を放棄して有能なものを守れと』
挑発するように告げるバグア。
静かに響き渡る声は、激戦の最中、その戦場にいるものほとんどに響き渡っていた。
『偽るな。勝つために何でもしてきたからこそ、今の貴様らがあるのだろう!? 見せてみろ、その本性をっ‥‥!』
バグア精鋭と、中尉、それを守る兵士たちの射線が幾度か交差する。数回の攻防では、明らかにバグア有利。ならばその言葉は正しかった。
周囲の兵士は、覚悟を決めた様子で、号令を待つ。
兵士にとって、傭兵にとって、避難民にとって、永いような刹那の待機時間。
「‥‥せっかくのご忠告ですが、余計なお世話です。今はまだ、私はここで、これでいい」
そして、やっと告げられた中尉の言葉はごく穏やかなものだった。
『‥‥いいだろう! なおも、幻想にしがみつくなら、その死をもって愚かさの証明となるがいい!』
その態度が気に食わないのか、苛立ちとともにバグアは手にした銃のトリガーを引いて――
那月 ケイ(
gc4469)が、その間に割り込んでいる。今まで庇ってきた一般人達、そして今尚中尉を庇ってできた傷がある。
そうして守ってきた人たちは彼の姿をどう思ったのだろう。楽観はしていなかった。能力者が『人類』にとってどんなモノなのかはよく分かっている。守られて当然という態度のものもいて。もっとはっきり、助けられたことを不快に思うものもいたかもしれない。
――それでも能力者として戦い続けるのは。
「愚かでも、幻想でもない。ちゃんと私は把握した上でのことです。今この場に集まっているのが‥‥どういう方たちなのか」
孫中尉は、ケイのほうは見ずに、ただバグアに向かって静かにそう告げる。
中尉の叱咤と号令の元、再び体勢を立て直す陣営に。
「ハッ――」
応じるように、前線では炎西が裂帛の気合とともに跳ぶ。高く跳んで味方の射線を通してから、地に叩きつけるような超機械での強襲。低重力に囚われないようにした上で、あえてこの環境を生かす戦い方も、この地での戦いに慣れてきた彼ゆえか。
「‥‥戻って、貴様の主たちに告げるがいい‥‥お前が見ているのは人の一面に過ぎないと。自分の見たい部分しか見ていないと! ――さっさと立ち去れ! これ以上、友の手を煩わせるな!」
叫びながら、キメラたちを吹き飛ばす。
透もまた、目の前のバグアと切り結びながら、瞳にはただ真っ直ぐな、血に飢える獣ではない、純粋な意思をその目に湛え続けている。
「なんと言われようと僕らは平和を目指す‥‥! この先に希望があるって信じる!」
次々と上がる仲間の声に――ケイからは、思わず苦笑が漏れていた。
(宇宙へ、未来へ続く希望。守ってみせる、絶対に)
静かに、決意を固める。一般兵。非戦闘員。それから、ともに立つ仲間達。もう何も奪わせない。
現状を変えたい、変わりたいと思ってるのが自分だけじゃないと確信しているから。
投げ出して、後悔はしたくないから。
「‥‥諦めが悪いのは、俺も一緒だな」
苦笑は止まらなくて、でも悪い気はしない。
『何なのだ‥‥一体‥‥』
バグアが恐怖を覚えるとすればそれは「未知」に対してなのだろう。目の前の存在。目の前の状況。その根源。
『有り得ん! 純粋な力と‥‥闘争心。戦場において他に、何が要ると言うのだ――!』
●
「‥‥ご高説は結構だが、人類は『どちらかを殺し尽すまで』戦争をしたことは無いのだがな。個人間ではそうでもないが」
宙を切り裂き敵を打ち倒しながら、ヘイルは淡々と呟く。
「そもそも今そんなことを言って何になる。正当性が欲しいのならば滑稽だ。絶望を与えたいなら的外れ。負け惜しみならば切実に過ぎる――戦いの引き金を引くのに理由が要る時点で、自ら否定しているようなものだろうに」
「そのお話は我々ではなく争いを続けたい自分に言い聞かせているのではないですか?」
ヨハンは聞こえぬと知りながらもそう言い返していた。確かに人は争いを辞められるほどまだ成熟してはいない。だがバグアとは争いを辞めると決めたのだ。‥‥そこに、様々な思いを飲み込んで。無碍になど、出来ようか。
「確かに人の本質の一面を捉えてはいますが、それだけが全てではありません」
やすかずは静かに、確信を持って告げていた。そう、バグアの言うそれだけが全てではない。争いも、それから――
「戦争は素晴らしき劇を生む
だが良き劇も長く続けば惰性に堕ちる
故に人は戦争と戦争の間に平和という幕間を設けてきた。
平和の間に憎悪と対立を深め兵と武器を調達し次の戦争に備え、戦争を過去に平和を日常とする事で次の戦争を新鮮な気持ちで迎える、
こうして心身の準備を整えた後に次の戦争を起こしてきたから人は今まで戦争を続けてこれたのだ」
天魔は厳かに、劇的に。朗々と読み上げる。
「こんな簡単な道理を解せず既に幕が下りた劇を続けようとする愚かな役者には退場してもらおう」
「戦争が続くのは一向に構わない。人類は昔から途切れる事なく戦い続けてきた。何より僕の食い扶持が無くなっちゃうし」
クローカ・ルイシコフ(
gc7747)が述べるのは、天魔とは違い柔らかい口調、分かりやすい言葉。単純な事実。
「でも、だからこそ、伝えるよ。バグアはもはや人類の敵として不足である、とね」
だが良く聞くと、言っている事は似ている気もした。
「分かるかい? その見飽きた面を引っ込めろと言ってるんだっ!」
「まぁ、バグアのアイデンティティー‥‥文化の乗っ取りもその一つの形かもしれないけど。ボクはもっと別なものが見たいなぁ」
ソーニャは、バグア自体に興味がないというわけでない、という風に嘯く。
――許されない禁断の夢。ボクはもう見てるのかな
バグアの実権派ももしかして同じことを考えていたのかも。それはもはや、彼女の勝手な幻想に過ぎないが。ふと思い出した悪戯。その感触を思い出して、唇を指でなぞる。
「答えは戦いに抜いたその先ってわけだけど。屍を敷き詰めた長い道のその先」
彼女の目の前で、また一機の敵が炎を上げながら、虚空に消えていく。
『なん‥‥だ‥‥?』
バグアの将は、戦況を眺めていて徐々に違和感が膨らんでいくのを感じていた。
人類を勝利たらしめたのはなんなのだろう、と。
例えばよく耳にする優しさ。そんなものに負けたのだと言うのは解せない話だった。弱者をいちいち気にする相手に戦場で負けるなど。そんな話があってたまるか。
おそらく我らを敗北せしめたのは、その殻に隠された我等以上の底知れぬ狂気。自分達が負けたのは、それが顔を出す瞬間を見誤り続けたのだろうというのが、バグアの推察だった。
そこを見極めれば、勝機は見出せる。技術は、身体能力はこちらが上なのだから、と。
そうして、戦争を仕掛け、その端々を見渡すその結果は。
『解せぬ‥‥』
分からない。読めない。
闘争心をむき出しに破壊にかかってくるものがいる。
弱者を庇うように無駄な動きをするものがいる。
そして、まったく不可解な、予測不能の言動をしてくるものがいる。
読めない。
目の前の相手。その隣の相手。
今日闘う敵、明日闘う敵。
何を想い何を仕掛けてくるのか。
個々の動き方、信念はバラバラで‥‥。
『なぜ、どうやってそれが、一体となって向かってくるっ!?』
それが、一番解らない。人類の底知れなさの、正体。
連携の支点はわかっている。前線、遊兵、本丸、その三つを繋ぐ傭兵達の電子戦機。
幾度となくそれを落とそうと兵を向かわせてはいる。が。
ルキアの機体は、ユーリ・ヴェルトライゼン(
ga8751)が「本格的な戦闘は久しぶりだな」とぼやきながらもきっちりと守っていた。回避型の機体、本来は護衛に向く性能ではない。近づく敵を着実に叩き落す形での防御。そして、それでもすり抜けようとする弾丸に対しては、回避型のアイデンティティーを捨てる形となってもその身を挺して守る。それが出来るのは、ルキア機を守るのがユーリ機一機ではないからだ。
黒に赤のラインの塗装されたフォビドゥンガンナーがルキア機のモニタの端に映って、彼女は奇麗な笑みを浮かべる。
「道化の使いが守ってやるよ、最高の銃。だから雑音は気にせず仕事をしなぁ」
モニタに映る『使い』に向けてピッと指を立てると、ルキアは再び戦域の解析に意識を集中する。
ヨダカ機に至っては――
「さぁ、鬱陶しい電子戦機はここにいるのですよ?」
積極的に声を上げ、その通信を秘匿しようともしない。積極的に管制機としての己の存在をアピールするそぶりすら見せた。それを可能にするのは、安定の味方の布陣と、それからやはり、直接護衛であるD‐58の存在。ユーリと同じく回避型の彼女は、守り方もやはり似ている。前線を抜けてきた敵、ヨダカ機を狙う機体を集中して着実に徹底排除。
「電子戦機を狙ってくるのは分かっていますので。ヨッチーはみすみすやらせませんよ」
だが、遊兵であるルキア機に対し、純粋に敵の数が多い前線においては、強引に突破してくる敵もやはりそれなりに増える。徐々に増えていく敵影。そこに。
「頼みますよイツハ、タッチダウンなのです!」
ヨダカはむしろ嬉々として。
「‥‥囮にするようで申し訳ありませんね、ヨッチー」
そしてイツハ、と呼ばれたD‐58はすまなそうに、それぞれ声を上げて。
プロトディメントレーザーが、空間ごと敵をなぎ払う。
巡洋艦『オニキリマル』のそばで控える秋月 祐介(
ga6378)と、そのそばで戦うアルヴァイム(
ga5051)の間にはさして劇的なやり取りはなかった。ただ、適切なタイミングで祐介がデータを更新する。それだけで数分後、巡洋艦と祐介機にとって致命的となりうる位置にいた敵は何も言わずとも灰塵と化していた。
連携の支点はわかっている。その中心となる電子戦機が落とせない。だがこの情勢は、そんな単純なもので片付けて、いいのだろうか。
「データリンクOK。射線確保に必要な目標を抽出して送る。射界を切り開く‥‥」
祐介がアルヴァイムにそう通信をいれ、対応すべくアルヴァイム機が前に出る動きを見せたとき。オニキリマル艦橋にて、艦長土橋 桜士郎(gz0474)もまた表情を変える。
「さて、と。めんどくせぇがこっちもそろそろ本気出さないとか」
いよいよ、前進のための機運が生まれたのだろう、と確信して。
「‥‥罠の可能性は、ありませんか」
「ああ。だからそういう心底面倒くせえのは、傭兵がやってくれてんだろ」
副官の問いに、丸投げするような言葉は主にアルヴァイムへのものだ。敵布陣の作為的な穴、光学迷彩に奇襲。考えれる脅威に対して、これまでの戦果と報告から、十分に対処してくれる判断されたようだ。
そうして。
「さあいよいよ出番だ! クローカ、何度もやってるんだから手順は分かってるね。エスコートは盛大に行くよ!」
羽矢子が中心となって、これまで、そのために力を温存していたものたちが、動く。
羽矢子機から放たれるGP−7。合わせてクローカ機がミサイルポッドを解き放つと、まずは純粋に邪魔な目の前の敵を蹴散らしにかかる。航路上の敵をクローカが続けて、立て直しの動きを読んで射撃でその行動を阻害すると、こじ開けた敵ルートにねじ込むようにソーニャ機が敵陣営に切り込んでいく。
アリスシステム機動、マイクロと通常のブーストを重ね最高性能を引き出したソーニャ機は縦横無尽、止めることなく敵戦線を駆け回りかき乱す。キャノンからレーザー。彼女の通り過ぎた先ではあちこちと小爆発が起こり、敵陣営は更に混乱を極めた。
その混乱の隙を、ハンフリー(
gc3092)機が掻い潜る。
「貴様の戯言など知ったことか。私は未知を追い求めるのに忙しいのでな。戦争などしている暇はない」
これまで護衛に努めていた彼の機体は、ここで直接、敵旗艦に向けてブースト突撃を図る。
狙うのは、より確実にG5弾頭を着弾させるため、敵砲台をつぶすこと。
「宇宙開発の邪魔立てはさせんぞ。火星には私も行きたいのだからな!」
フォース・アセンションを乗せ、積み込んだGP−9を惜しみなく連射。敵も旗艦の護衛を甘くするほどこちらを舐めきってはいないが‥‥この手で、その迎撃機能も飽和させる。砲台の死角に滑り込み、127mm2連装ロケット弾をその根元に、叩き込む!
「カウントダウン開始。G5弾頭、発射まで10‥‥9‥‥」
オニキリマルより通信が入る。何をすべきなのか、羽矢子はこれまでの戦いできちんと分かっていた。射線上の敵を、倒す必要はない。だが、G5弾頭を迎撃する余裕を与えない。すべきことはただの戦闘と変わってくる。その最後の瞬間、リンデンバウムのお守りを無意識に握り締めていた。そして。
「確かに人は争う生き物かも知れない。だけどそれだけじゃない。それと同じか、それ以上に互いを想い合い、手を取り合う心があるんだ!!」
彼女自身が、この戦場にかける想いを。
ここで、あの、何も分からぬバグアに向けて、もう一度。
『解らぬ。我等はいったい、【何に】負けるのだ――?』
もはや敗北は認めていた。己は全てを読み間違えていたということに。
勝利への執着も隣人への優しさも。すべてが全て人類であり、ただ人類は人類であるということを。
このバグアは、理解できぬまま。月の空に消えた。
「喜びなさいバグアよ。争いを求む意思は受け継いであげますわ」
それでもミリハナクは、消え行く敵にそう告げて。
「地球生命は誕生以来、何億年も争い続けてきた。人類の戦争は全て生存競争の一部、極地戦に過ぎない。
つまり、生きることは戦うことと同義。「この」戦争の後にも、僕らは戦い続けるんだろう。
宇宙のどこかで、見知らぬ何者かと、ね。だって僕らは生き続けなければいけないんだから」
クローカが、そう呟いていた。
●
このころには、一般人の避難もどうにか完了していた。戦況の縮小にあわせ順次、兵士が帰還、傭兵もそれに続く。‥‥次第に、雑談が生まれる余裕も出始める。
「一寸大仰かもですが「天元」はいかがでしょうか」
炎西に話しかけられて、孫中尉はきょとん、という顔をした。
マスドライバーの愛称のことですよ、とニコリといわれて、中尉はばつ悪そうに微笑み返した。そう言えば、そんな話もしていたっけ。
「宇宙に歩みだしたばかりの人類を、天の元気で育んでくれるようにと」
そうして炎西は、自信がその愛称に乗せた思いを語る。
「青鳥トカ」
愛称の話になったことを聞きつけたのだろう、ルキアがそこに加わってくる。
「――幸せを運ぶ鳥。生贄を運び、知らせを運ぶ。何かを『運ぶ』モノだから」
正であり、負でもある。
どちらの意味も与えれば、痛みも、そして希望も無くさないよね。ルキアはこれに、そんな意味を込めたいようだ。
「昔、1つの言葉しか持たなかった人は力を合わせ天と地を結ぶ塔を作ろうとした。だがその行いに神は怒り人から1つの言葉を奪い無数の言葉を与えた。言葉が通じなくなり意志の疎通ができなくなった人が争った結果塔は破壊された」
それに合わせるように切り出した天魔の口調は、相変らず芝居がかっている。
「塔の名はバベル。時を経て無数の言葉を乗り越え意思を疎通できるようになった人が再び力を合わせて作り上げた外宇宙である天と地である地球を結ぶ塔に相応しい名と思うがどうだ?」
ふうむ、と、その物語の背景に集まった皆は顔を見合わせる。
「また未来に人が争った結果破壊されても、再び崩された塔は人の争いの象徴となる。つまり平和と戦争の2つの象徴となるのだよ。お得だろう?」
中尉としては、やはり話の上では破壊された塔、というのが、微妙に引っかかりを覚えてしまう、というのが素直な感想だった。なんというか、やはりどうにも不吉さを感じてしまう。
ヨダカが伝えてきたのは、日本の小説に出てくる、人々の未来の為にその身を捧げた学者の名前、というものだった。だが、著名な作家の作品に出てくる名を使う、となると、色々問題や手続きが発生しそうだ、ということで、この場では保留になる。
「宇宙という大海へ赴く船を導く建造物ですから、かつてファロス島にあったという大灯台にちなんで『アレクサンドリア』というのは如何でしょう?」
これはヨハンの案。注意としては何気なくいっただけなのに、思った以上に色々といい物が集まって、中々選考に苦労しそうだった。
「愛称‥‥「天山」はどうでしょう‥‥?」
「キボウ、ミライ‥‥ピンと来ないな」
ハミルが、BLADEが、それぞれ呟く中で。
「空を奪われていた僕らの戦いは終わりです。だから次は平和な空‥‥その先へと‥‥」
そっと遠慮がちに、透が言った。
――Catch the Sky‥‥略してCTSっていうのはどうですか? と。
「次は戦いではなく、豊かさと希望を求めて未知なるあの空の先を目指して‥‥掴む為に――」
透の言葉に、中尉は思わずそっと目を閉じて、思いを馳せていた。
空に手を伸ばす物語のことを。
奪い取られた地球の空をこの手に掴むために月へ。
その月から、次は火星へ。
たどり着いたその先にも、きっと空は広がっていて。また、新しい空を掴みにいく。
そんな夢は。そんな物語があれば。
それは、永遠に終わらないものとなるだろう。
‥‥そんな物語の一部に、自分も、なることが出来たなら。
「単純でしょうか‥‥?」
アハハ、と笑って、こういうの考えるの、あまり向いてないかもな‥‥と沈みがちな透の表情に、中尉は穏やかに首を振る。
「とても良い名だと思いますよ‥‥まだ始まりの始まりに過ぎないここで用いるには惜しすぎるほど、良い名だと思います」
――暫く話し合った後、月面のマスドライバーの新名称は、『ハルモニア』に決定した。
「目指す火星の神であるアレスの娘で『調和』を司る女神の名。戦神の星を目指すのは争う為ではなく、平和と調和を願う故に」
それが、提案者であるヘイルの言葉。
戦の神から生まれた、調和の神。それが、今この状況にぴったりではないかというのが、決定の理由だった。
戦いと、調和。反発するようで、それは、そう――
●
「ひとまず、主要施設にも人員にも、大きな被害は出なかった――よくやった、というべきなのでしょうけど――孫中尉」
報告を確認した李若思中佐の声は硬かった。
「バグアの狙いはわかっていた。有事に際しても、士官には迂闊に前に出すぎるなと伝えていたはずね?」
咎めるような声音。だがその棘の刺さる先がなんであるか、孫中尉にはおおむね理解できている。自分ならそうすることも理解のうえで、一般人の近くに己を配置させたのだろうに。ある意味これは予定調和だ。自分のように多少軌道から外れがちなものに対しては、試しつつも抑えるところで抑えておきたいのだろう。
別段、そうした争いごとに興味はない。
なかったのだが――
「命令違反、重々承知しております。ならばこそ、そのツケ、というわけではありませんが、この崑崙基地の繁栄の為に今すぐなすべきことついて提案したいことがあります」
反射的に、相手の思惑に切り返す形で中尉はそう答えていた。
「今回の一件。単純な戦闘の勝利で終わらせるべきではありません。即座にバグア本星と連絡をとり、この『始末』についての話し合いを開始すべきです――」
「‥‥まあ、実際のところ、今の私に、どれほど上への繋ぎが出来るかは、微妙でしたね」
そうして、会議を終えて、孫中尉は祐介にそう報告をしていた。
今回の戦争の外交カード化‥‥それは、祐介から中尉へと提案されたものだった。
奴等の言ってた、延々と殺し合うだけの戦争‥‥生産にならない行動なんて無意味ですよ、とそう前置きして。
そうして、バグアとの交渉を始めるならば、その交渉役として祐介は自分自身を売り込みに来ていた。
「ま、戦争は外交の一手段。それでも出来るだけ切らないでいい札であればいいんですけどね‥‥」
戦争は外交の一種。確かに、これからはバグアとの関わりも、その性格が顕著になっていくだろう。宇宙空間においては、人類とバグアの間で検案すべき事故、事件は起こりえる。現場での対話の積み重ねが必要になる場面は、おそらく今後、増えていく。
ひとまず崑崙基地として、「バグア担当の士官」というものは必要だと考えられた。
「『この世は舞台、ひとはみな役者』。望む望まないの区別無く、我々は舞台上の役者ですよ。なら、その中で、できるだけいい役を演じたいじゃないですか‥‥」
出来るだけいい役、か。中尉はただ、今を生きるだけで精一杯で、そんなこと考えることもなかったが。なんだろう。今は少し興味が湧く。
己の命があるうちに、人類は空にどこまで手を伸ばしているだろう。走り出す誰かの為に、蹴躓く小石をどける程度のこと出来ないだろうか――
「貴方の提案と、あなた自身のこと。今後も積極的に上に伝えることをお約束しますよ。それから‥‥結果が出るそれまでは暫く、私の力にもなっていただけませんか?」
戦争は終わった。そうだろうか?
祐介は言った。戦争とは外交の一手段だと。
その言葉はしばし、こうも続けられる。――外交とは、武力を伴わぬ戦争だと。
果たしてバグアは、どこまで覚悟あってのことなのか。
●
もう一度。
此度戦いにより守られた、生まれる象徴の名はハルモニア。
戦争の神から生まれた調和の神。