●リプレイ本文
疲労の色が濃厚な兵士たちから放たれる射撃は、明らかにその精度と速度を落としていた。
乱れ、弱くなった弾幕を、キメラの群れ達は押しのけ、ジワリと、だが確実に前進してくる。
やがてそれは、すでに限界に達している防御線へと殺到して――
破られる。そう、覚悟した時だった。
今まさに、陣営で剣を振るう兵士に迫ろうとしていたキメラの一団に向かって、雷光が落ちた――ように見えた。
数体のキメラが吹き飛ばされる。
『諦めるなっ‥‥前を見よ‥‥』
同時に、拡声された音声がそこから響き渡る。
そこに居たのは、終夜・無月(
ga3084)。窮地の兵士を庇うように剣を振るいつつ、彼は声を上げ続ける。傭兵たちの到着の知らせと、戦意高揚の檄を。
相手は所詮有象無象、力を合わせれば我らの敵ではない、と。
勝利を信じ、最後まで協力して戦おう、と、堂々と呼びかける。
その言葉を繋ぐように、幾人もの傭兵たちが続きその場に現れた。
鳴神 伊織(
ga0421)は無月の横に並ぶと、突出してきた敵を集中的に狙い孤立化を図る。
大群を前にしても冷静さは崩さない。不安を見せることで士気を崩したくない、という意図もあったが、他の参加者に手練の者も多数いることも知っているが故の、確信めいた自信は実際に存在した。
伊織が分散させた敵を、夏 炎西(
ga4178)が文字通り脚甲で蹴散らしていく。彼もまた、敵を絶対後ろには抜かせないと、力強くその場に立ちはだかる。故郷の危機に、彼が秘める想いは強い。故郷の、ひいては地球の為に、必ず役に立ってみせるとその背中は告げていた。
前衛が直接、最前列のキメラを食い止めるうちに、回り込んでこようとする別の一群を後衛が射撃によって食い止める。
ユーリ・ヴェルトライゼン(
ga8751)は、なるべく遠方の敵を弓によって狙い撃ちにしていた。乱戦になれば弓による攻撃は難しい。距離を詰められる前に、削れるだけ相手の体力を削っておきたかった。
小鳥遊神楽(
ga3319)は、SMGでの射撃。
「‥‥確かにこれだけ悪条件が重なると滅入るのも判るわね」
呟いて、彼女は戦況を見渡して。
「でも、ともかくここを乗り切れば、活路も見出せるんでしょうし、今は自分が出来る事をするだけね」
そうして、見極めた状況から判断して、集弾して打ち倒す攻撃と、弾幕を張って足止めする射撃を使い分け。一歩一歩、着実に戦線の安定化を図る。
「ここは我々が食い止める。その間にそちらは態勢の立て直しを。大丈夫だ、任せて貰おう!」
状況が一度拮抗したのを見て取って、白鐘剣一郎(
ga0184)が兵士たちに向けて言った。
「これより状況が悪くなる要因は限られよう。後は持ち直すことを考えればいい」
御山・アキラ(
ga0532)が重ねて言うと、まだ戸惑いの浮かぶ兵士たちの目に再び活力が宿り始めた。
とはいえ、もうほとんど限界だった隊は、剣一郎の言葉に素直にしたがって一度下がることにする。
「さあ、ここからが逆転劇の始まりですよ。皆さん、準備は良いですか?」
陣にたどり着いたソウマ(
gc0505)が、兵士たちを迎え入れるように不敵に笑いながら言った。ちょうどその時、前衛のどこかで「ラッキー!」と言う声が上がる。キメラが足を滑らせ、そこから敵の隊列が崩れたらしい。‥‥別に、ソウマが何をしたわけではない。ただ、タイミングは良すぎた。
逆境からの脱出劇は、こんな感じで始まった。
●
やってきた傭兵、全てが一度に戦線に参加したわけではない。
長期戦になるとは予め聞いている。だからこそ移動中に、耐え切るための作戦、役割分担をしっかりと傭兵達は相談していた。
戦線の維持に努めるもの。
劣勢時に、大火力で打破に出るもの。
戦況を見極め調整、指示を出すもの。
緊急、不測の事態に備えておくもの。
医療や、陣地の設置などの後方支援。
これらのものが、数名ごとに班を作り、体力や状態を見て、必要なときに交代、休憩を取れるようにする。
――まずは、その体制をしっかりと構築することが課題となる。
先ほど前に出たのは、戦線の維持に努めることを役割としたものたちの一部。
だが、傭兵達が到着したとき、UPC軍はもうすでにかなりの劣勢だった。押され切った前線を、ひとまず押し返す必要があると、劣勢打破班に要請が出る。
「怯むな! まだ終らんぞ!!」
孫六 兼元(
gb5331)が叫びながら、豪快に敵陣に切り込んでいく。錬力を温存しなければならない分スキルの使用は控える。だが研鑽された剣の腕前だけで、雑兵の相手には十分。銀の甲冑に、長剣から繰り出される野太刀術。和洋折衷の戦闘スタイルが、キメラを次々と血祭りに上げていく。
魔津度 狂津輝(
gc0914)も、AU−KVを纏うと御剣雷光(
gc0335)を抱き上げて、戦いが苛烈な地点へと突っ込んでいった。無駄に抱きかかえているわけではない。雷光の体力温存の意味もある。雷光は突入するなり、双剣を両手に旋風と化した。円の動きから繰り出される、渾身の一撃がキメラたちを次々となぎ払う。
「さぁ、頑張ろうぜ。今まで以上にな」
佐賀繁紀(
gc0126)がそう声をかけると、手にした真デヴァステイターが唸りを上げる。キメラには重い一撃、味方には援護の弾を。惜しみなく振舞って戦況を押し返す味方を支援する。錬力に不安を感じてなお、UPC軍たちに見せる背中には決して見せなかった。
前線の活躍により、戦局が一旦持ち直していく中、後方の準備も進められていく。
アルヴァイム(
ga5051)は、下がってきた兵士から詳しく現地の状況を確認、己の目でも確認し、考えうる最良の状態で陣を再構築すべく情報を収集、整理する。その間、敵の動きも、可能な限り把握に努め、知能や指揮者の有無の可能性などを調整役に伝えていく。
UNKNOWN(
ga4276)は休憩に入るものの為に大深鍋で料理をいくつか準備。温かいシチューに甘湯といった体を温めるもの。戦場であることを考えて、塩、砂糖を加減する。他には、雨にぬれた身体を拭くために、湯でぬらした布も準備していたりもした。そうしながら彼もまたアルヴァイムと同じように、時折覚醒し強化した知覚で周囲の状況を把握。板に貼り付けた大きな紙に記載されたそれは、誰の目にも留まるよう配置されていた。
ヘイル(
gc4085)もそうした状況を見て、兵士の中でまだ動けそうなものに、陣の設営への協力を呼びかける。
その中に、知った顔を見つけて声をかけた。
「あの時以来だな。答えは見えたか? 『牛 周敏』?」
「‥‥あんたの言うことは、回りくどくて俺みてえな馬鹿にはわかんねえんだよ」
呼ばれた青年は、ややばつ悪そうに顔をしかめて応えた。
「ただ‥‥無理矢理でも隊に戻してくれたこと。今は感謝してる」
「フ。それならそれでいいさ。今はここで踏み止まらなければな。頼りにさせて貰うぞ、『伍長殿』!」
ヘイルが言うと同時に遠くから集合がかかり、牛伍長はそちらに顔を向ける。一度ヘイルと視線を交わすと、彼は走り出した。――階級で呼ばれたその意味。兵士として戦う、その存在を全うするために。ひとまず今は、彼はそうしている。
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時折満ち引きがありながらも、キメラの猛攻の波は完全には引いていかない。
長引く戦いは、まだまだ終わりを見せる気配は、ない。
そんな中、それでも時間が経つうちに、設営が完了した陣地内では。
「大丈夫ですよ〜。これぐらい治して見せますよ〜」
八尾師 命(
gb9785)の、語尾の延びたゆるい声が救護用テントに響く。
そこから漂うのはおおらかな‥‥マイペースな空気。
だが医療の手は決して緩くない。
可能な限り医療活動を行うことで、少しでも被害を減らす。しっかりと立てた目的に応じ、彼女は彼女にやれることをこなしていく。
「きれいなネーチャンでなくて残念だったな」
別の場所では、館山 西土朗(
gb8573)が、陣地に連れてこられた負傷者に、笑いながら治療を施していた。
(「数で負ける戦か‥‥何か昔を思い出すな」)
想いを馳せるのは、過酷な少年兵時代のこと。だが、そのことがあるからこそ、今思う。あの時に比べれば、勝ちの目があるだけましだと。
(「さて、勝ちにいくか!」)
内心で叫ぶと、彼は己が役割を果たすために、再び周囲に目を向ける。
「衛生兵、美空・桃2(
gb9509)ただいま着任したのであります」
桃2がへたり込む戦士たちの間をとてとてと駆けていく。
「腹がへっては戦が出来ないであります。まずはこれを食べて元気だしてくださいなのです」
握り飯を配給しながら、怪我人がいないかを確認。軽症でも、可能な手当ては施していく。
そうして走りまわる彼女が、一つの個所で明らかに、ぴたり、と足を止め。
「治療をお願いできますか?」
微笑とともに桃2にそう声をかけたのはエシック・ランカスター(
gc4778)だった。
「はっ。美空が必ずエシックさんを前線復帰させるのであります」
びしりと敬礼、その後に、精を込めて桃2はエシックの怪我を診る。
殺伐とした戦場の空気が、そこだけ少し違っている。
綾河 零音(
gb9784)もまた、酒瓶抱えて休息所をひょこひょこと歩いていた。
「少なくてごめんねー、でもあったまるにはコレが一番でしょ?」
瓶の中身を、紙コップに僅かずつ供しながら、陣地で休むものに配布していく。もともと小隊が張っていた陣を補強する形で作成された陣営には、今傭兵と兵士が共有している状態だ。零音はそのどちらにも分け隔てることなく、明るく接している。一通り配り終えると、UNKNOWNやジャック・ジェリア(
gc0672)がいる元へ。傍に座ると、彼女も休息の為に目を閉じる。そうして、緊張を持続したままの野生動物のような浅い眠りに落ちた。
リズレット・ベイヤール(
gc4816)も、皆に温かい飲み物をふるまうと、自身も悴む手をコーヒーで温めて、武器の手当てをしていた。銃は湿気を嫌う。肝心な時に使えない、ではたまらない。休憩中のこの時に、出来ることはしておかなければ。丹念に、彼女は銃器を整備する。自分にも出来ることを、確実にこなすために。
「パン‥‥ダーーーー!!!」
零音と共に突撃を終え、休息の為に戻ってきた七市 一信(
gb5015)は、そう叫んでAU−KVを解除した。疲れと緊張で俯いていた者が、何名かのろのろと顔を上げる。
「がんばるんだよ、本体くるまでは‥‥負けられません勝つまでは!」
そのまま、おどけた、愛嬌のある姿と態度で声をかけると、疲労の滲む戦士の顔の幾つかに、少し笑みを作った。
――長く続く戦い。だが、状況は決して、変化がないわけではなかった。
作戦は的確に遂行され、状況は予め傭兵達が想定していたルーチンに完全に填まりつつある。
前線を維持しながら、交代要員を残し、休むべきときにはきっちり休めるという環境が構築できている。
そうして、その一角で。
「リーチ!」
聞こえてきたのはロジー・ビィ(
ga1031)の声。
「あー‥‥とりあえずじゃあそれポン」
続く声は巳沢 涼(
gc3648)のもの。「むっ‥‥そうきましたわね? 地味な嫌がらせを‥‥負けませんくてよ!」と返すロジーとの会話の内容から察せられるのは――麻雀。
なぜか休憩用テントの一角で、本物の麻雀が始まっていた。
こんなときに? いや、彼らから言わせれば、こんなとこだからこそ。
「見てるなら混ざったら?」
たまたま見かけたのだろう、思わずぽかん、と視線を向けた孫少尉に、ジャックが声をかける。
どこまで本気なのか分からない誘いを、少尉は状況と性格から、今は出来ませんと固く辞する。まあ、普通に考えればそれが当然なの、だが‥‥
「ですから、いつか、余裕が出来たときにでも」
可笑しそうに微笑いながら、つい、と言う感じで少尉はそう答えた。
「お? じゃあそのときは、全力でかっぱぎに行くから覚悟しとけよー。それまでは、死にたくても死なせないから」
飄々とジャックが言うと、笑みを少し固まらせて、頼りにしています、と少尉が答えた。
「右翼側より増援要請、劣勢打破班、援護をお願いします」
ちょうどその時、調整役を務めるネオ・グランデ(
gc2626)から連絡が届く。
卓を囲んでいた面子はすぐさま表情を切り替えて立ち上がった。
――休むときには休む。だが、一時たりとも油断などしない。意識の一部は常に戦場へ。それもまた、傭兵たるゆえに。
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――再び、戦線。
「数えるのも‥‥面倒だな‥‥」
一度途絶えたキメラの攻撃。だがその向こうに新たな群れを確認して、西島 百白(
ga2123)は零した。
「面倒だが‥‥仕方ない‥‥か」
溜息とともに、口癖になっている「面倒」という言葉を吐きだし続ける。
だが、やがてキメラの動きが激化、突撃してくるとともに、その顔が楽しむためのものに変わっていく。
「ガアァァァァァ!!」
虎のごとき咆哮を上げ、彼は狩りを楽しむべく突入していった。
加賀・忍(
gb7519)は、ただキメラ相手に只管無双できると聞いてここへ来た。
北アフリカでの手ごたえを、彼女はまだ忘れていなかった。
薙ぎ払い、断ち切り、踏み躙る。戦いの過程で得られるものを糧とする。
そのことに生き甲斐を感じながら、彼女は戦場に赴く。
桂木 一馬(
gc1844)は、自分の現状の力でどれだけキメラと渡り合えるか力試しのために参加していた。
拠点から、ガトリングによる弾幕でキメラの進行を防ぐ。
「雨の中で銃ぶっ放してるのって、なんかの映画を思い出すな‥‥」
長引く戦闘に、時折集中力が減じて無駄なことも考えながら。
「ぎゃおー! キメラなんて食べちゃうぞー!!」
ミリハナク(
gc4008)は怪獣の着ぐるみ姿で現れた。キメラと誤認される可能性を配慮して、背中には『味方だから撃つな』との張り紙が。
雨が降る、冬に差し掛かる中国大陸での戦闘故の防寒対策‥‥と、言えなくもないが、結局のところ、大半は趣味だろう。
「守る戦となりゃ、この皆遮盾荊信の本領発揮だ。何もかも皆、悉く遮ってやるぜ!」
荊信(
gc3542)が戦いの中胸に掲げるのは『皆遮盾』の綽名だった。自称するがゆえにその名に恥じることのないように、銃で、盾で、味方の守りを強固にする。
雨の中、文字通り『泥沼』の戦況。
「ククッ‥‥周りは敵だらけ。何処を狙おうと外しやしねぇよ。なかなかやり甲斐のある喧嘩じゃねぇかよ!」
だがそれすらも愉しんでやろうと、その想いを常に声ににじませ続けていた。
ドゥ・ヤフーリヴァ(
gc4751)の闘う姿から、ただ伝わるのはひたむきさ。
がむしゃらなまでに剣を振るい、迫りくる無数のキメラを睨みつけ‥‥キメラがここに存在する理由、その先に居る者たちに、目で示す。
どうやっても、心は折れない。折らせてたまるか、と。
「お前達の主に伝えろ! お前たちを生むような力なんか持って使い続ける限り僕はお前らを許さないし世界もお前達なんかに負けはしない!!」
――そうだろ、ペレグジア。
最後の一言は、心の中だけで叫んでいた。
集まったのは、目的も性格も能力も個性的な者たちだった。だから兵士とは違う。上に立つ指揮官など置けるわけもなく、完璧な命令系統、一糸乱れぬ連携などは出来ようはずもない。
もちろん全員がバラバラというわけではない。
例えば劣勢打破班としてチームを組んだエメルト・ヴェンツェル(
gc4185)、龍乃 陽一(
gc4336)、那月 ケイ(
gc4469)の三人組。
もともと同じ兵舎に属していた者同士で組んだこのチーム、互いの戦い方も、その中での己の仕事も熟知していて、全体の中で一番きれいな連携を見せる。
「守りは任せて暴れてこい!」
ケイが告げると、陽一が大きく斧を振り下ろした。試験的に『蛟』と名付けられた技から生まれた衝撃がキメラに向かって飛んでいくと、エメルトが合わせて動き、剣で追撃を与えてキメラの腕を両断する。
派手な技や武器がなくとも、彼らはこの息の合った連携で、苦境の戦線を突破していく。
だが。そうではない、普段顔を見合せることすら少ない者たち同士すらも。
「リロード!」
銃弾を撃ち尽くしたベーオウルフ(
ga3640)が声を出すと、傍にいた水無月 魔諭邏(
ga4928)が、当たり前のようにフォローに動く。
彼女が盾となり囮となるその隙に、ベーオウルフが弾を換装しようとした時、右腕に厄介な痛みを感じて顔をしかめた。シン・ブラウ・シュッツ(
gb2155)に目を向けると、前線にて目を光らせ、調整役との連絡係を行っていた彼は、すぐさま医療班に連絡してもらう。
「頼む。戦える様にしてくれ」
腕を差し出し、ベーオウルフは言う。痛みはいい、だが闘えなくなることはつらいんだ、と。
やってきた北柴 航三郎(
ga4410)は、超機械による治療を施しながら答える。
「絶対持ちこたさせて見せますからね。皆さんも頑張って生きてて下さいですよ」
支えて見せるから、心配いらないと。努めて明るい振舞いは、疲労を感じつつある己を励ますためでもある。
「もう一名! 深手です! 一度下がる必要があるので援護を!」
再びシンが、別の場所を見て声を上げる。
すぐさま、陣営から駆けつける者がいた。緊急対応班として待機していた守原有希(
ga8582)である。
「足場が悪かとか言っとられっか!」
滑る体を身体能力で無理矢理押さえつけ、跳ねる泥など気にも留めずに走り抜け。素早く負傷者をカバーする位置に入ると手にした剣を閃かせる。
見事に連携していた。傭兵たちは、間違いなく。
指揮官はいない、上下関係がない、だからこそ互いに声を出し合い、周囲に気を配ることで。
突出しない。
錬力を無駄に使わない。
厳しくなったら言う。
周囲との連携重視。
主に戦いに出る全員が、きっちりこの原則を守っていた。
「絶対生きて帰るぞ!!」
ヒューイ・焔(
ga8434)が叫ぶ。
戦場に居る意味も、戦い方も多彩な傭兵たちだが、共通していることはある。
――まず、誰ひとりとして、この状況を絶望的な、負け戦などと思っちゃいないこと。
それから‥‥
義か。信念か。力試しか。あるいは酔興か。
もともとの目的は違えども、とりあえず今、彼らが見据える先は同じ場所。
己の力を用い、この難局を打破して見せる。
そのことに、異を唱える者は、いない。
だからこそ、そのための方向性が一致すれば、その連携は時として訓練された兵士すらも凌駕する。
「‥‥ラストホープの者として‥‥その名に恥じぬ希望を‥‥届けましょう」
救護班として戦況を見つめ続けてきた奏歌 アルブレヒト(
gb9003)は、そんな心情でもってこの地に来ていた。
その通り、希望は、確かに届けられていた。
キメラはまだ多数存在している。
負傷者は絶えない。
雨は降り続いている。
そんな状態が続いても、誰ひとり絶望することなく、戦い続けている。
そして――ついにこの局も終わりを迎える。
UPC軍、本隊、到着。
それまでとは比較にならない火力が投入されると、敵も、これ以上は無駄と判断したのだろう。無限にすら思えたキメラの軍勢が、新たに姿を現すことはなくなり。
その姿が、見る間に駆逐されていく。
人類側の逆転勝利、だった。
●
引き際に、孫少尉は、傭兵たちに丁寧に礼を述べた。この勝利は全て、貴方たちのおかげだと。必ず恩に報いるよう、今後UPC中国軍として務めます、と。
――やがて、戦地から近隣にあった市街の住民に、UPC中国軍本隊の連隊長より高らかに勝利の報がもたらされた。
そこには、ULTの傭兵たちの勇敢な活躍があったことも、しっかりと盛り込まれている。
避難していた住民たちは、自分の住処が戦禍に巻き込まれることなく、すぐに戻れる状態と知らされ、手放しでその勝利を讃えた。
山西省の該当区域住民の、傭兵たちへの感情は、間違いなく良いものへとなっただろう。