●リプレイ本文
「少尉の熱い心、しかと受け取った! ‥‥なんちゃって。うん、大規模終わってすぐに降って湧いた難題だけど、今回も頑張っていきましょー!」
説明を聞き終えて、いつも前向きな美崎 瑠璃(
gb0339)が、元気良く宣言した。
「孫少尉とは初対面だったな。鳳だ、今回はよろしく頼む」
それに乗じるように鳳 勇(
gc4096)が挨拶する。合わせて一同頷き合うと、軽く打ち合わせをはじめる。
「戦略的に見て俺達の勝利は確定だ。後はどれだけ手早く終えられるかだな」
天野 天魔(
gc4365)が言う。楽観視する気はないが、時間をかけたくないというのは全員同じ気持ちだった。
構造がまったく分からない巨大戦艦の捜索。話し合いの結果、三手に分かれて、ひとまずは設計図の探索に集中するという形にまとまる。
「孫少尉、あたしは一介の傭兵だけど、事の重大さは理解しているつもりよ。全面的に任せろ、と大言壮語を吐くつもりはないけれど、あたし達を信頼して任せてちょうだい」
作戦会議が一段落ついたとき、小鳥遊神楽(
ga3319)が孫少尉に話しかけた。彼女の言葉を受けて孫少尉は小さく頷き、小隊の兵士の方へと顔を向ける。
「‥‥作戦は聞いていましたね。我々も三隊に分かれ傭兵たちの援護をします。道中、傭兵からの要請があれば無理のない範囲で応じること。私の指示と齟齬が発生した場合、現場を優先して構いません!」
力強く命じてから、孫少尉は傭兵たちに向き直る。
「――北京解放は、貴方がたの活躍がなければなしえませんでした。そのお力に、今回も期待させていただきます。ですが‥‥我らもこの地を守る身として。及ばずながら助力させてください」
一度神楽を見てから、改めて傭兵全員に向けて静かに告げると、そこで上空部隊、および軍用輸送機の出撃準備が整ったとの連絡が入る。
「さて、いつかの発言には責任を持たないとな‥‥行こうか少尉。共に戦うと決めてくれた人々とその意志を護る為に」
最後にヘイル(
gc4085)がそう言って、それを合図に皆動きはじめる。
――作戦、開始。
●
上空部隊の援護を受けて輸送機はさしたる障害もなく敵地を進んでいく。やがてハッチを見つけると上空部隊に合図、着地した。強引にこじ開けることに成功すると、全員が素早く滑り込む。
ひとまず、侵入までは問題なく成功。ここから三手に分かれての行動となる。
夏 炎西(
ga4178)が、外観と、突入したフロアの高さからおおよその階層数を割り出すと仲間に告げ、頷き合うとそれぞれのチームに分かれ、行動を開始する。
上層を担当するのは翠の肥満(
ga2348)、紅 アリカ(
ga8708)、ジョシュア・キルストン(
gc4215)、那月 ケイ(
gc4469)。
攻撃力の高いアリカと防御力の高いケイを先頭に、ジョシュアが銃と剣を使い分けての遊撃、翠の肥満が後方から射撃と指示というのが傭兵たちの布陣。それに小隊の一分隊がサポートに回る。それら全員で、緑の肥満の合図で「一方が攻撃、一方が回復・補給」を交互に行い、間断なく実施・敵接近を阻止。敵からの襲撃を一旦退ければ、手近な部屋を見つけては片っ端から捜索する。
「さあさあ、どんどん来ーい! 弾は腐るほどあるんだ、遠慮せずに蜂の巣になれ!」
翠の肥満が楽しげに言う。
「おお、翠の肥満さんやりますねえ。その意気ですよ♪ なんとかなるさ、僕以外が頑張れば!」
傍らでジョシュアが軽口を叩いて、ケイに突っ込まれている。
実際、そんな余裕があるほど、彼らにとって兵士やキメラなど物の数ではなかった。
中層を行くのは炎西、ORT=ヴェアデュリス(
gb2988)、ヘイル、勇。
先頭を行くのは勇。殿をヘイルが務め、炎西はサポートを中心に動く。
そして、ORTは‥‥。
ぐちゃり、と音を立てて、壁に叩きつけられた敵兵が肉塊と化した。銃と、太刀とを用いて、ORTは何の感情も見せず、ただ圧倒的な力をもって殺害を重ねていく。
誰も口を開かなかった。何か言っている、どころか思う余裕も今は惜しい。
「ああぁあああ!?」
無慈悲な殺害を目の当たりにして敵兵はそれでも退かなかった。恐怖に顔をひきつらせながら、逃げ場のない様相で特攻してくる。‥‥それでも、死はやはり恐れるのだろう。自然とORTに向かうのはキメラばかりとなり、兵士を勇が相手取る形になる。
そうなってもORTには何ら思うところのある様子はなかった。別に彼は殺戮を楽しむわけではないのだろう。ただ任務の為に。兵士だろうが、キメラだろうが。
「見敵、必殺」
淡々と、それだけをこなしていく。機械のごとく。
他の者たちは開かれていく道をただ早く駆け抜けた。死によって開かれた道を駆け抜けて、設計図を求め急ぐ。
残る神楽、瑠璃、イーリス・立花(
gb6709)、天魔は下層班だ。
まるでORTと対比するがごとく、天魔は兵士の殺傷を極力避けた。
「生かしておけば救助や治療に敵の手を割かせる事が出来るからな」
冷酷なふうに言う一方で同行する味方兵士たちには気遣いを見せる天魔の思うところはよく分からない。それすらも任務遂行のためとしか考えていないのかもしれないし、またそれらとも違う、独特の価値観によるのかもしれない。
中〜後衛系が集まっているためこちらは陣形の整理に多少手間取っていた。三人が銃を使用し、瑠璃は完全に支援系だ。盾役であるイーリスが、一人でほぼ全ての敵を受け止めることになる。それでも彼女自身の強固な防御力と、神楽の安定した支援射撃によって戦線を維持して見せる。だが積極的に主力となろうとするものの不足により他班より出遅れている感は否めなかった。
三手にわかれたのち、気配の異なる部屋を発見したのは中層班だった。一つの部屋を開けると、すでに待ち構えている兵士の姿。一見変わらないようでいて、軍刀を構えるその姿は他と明らかに雰囲気を違えている。
「強化人間か? 相手にとって不足無し!」
勇が吼えて前に出る。軍刀の一撃を盾で受けると、予想以上の重さによろめく。ついで翻る刃に、勇の肩口から血が流れた。ORTが、無機質な動作のまま、しかし勇をフォローするように強化人間との間に割って入る。その隙に、銃で援護していた炎西が勇の怪我を治療した。
ヘイルも、強敵と見ると後方警戒を小隊に任せ、銃をしまい槍を手に前に出る。
「鳳隼剣流 剛打! 撃倒砕!」
戦線復帰した勇が再び炎西の援護を受けながら、渾身の一撃を叩きこむ。たまらず強化人間がよろめいたその隙にORT、ヘイルが続いた。反撃に手傷を追いながらも、少しずつ傭兵たちは強化人間を追いつめていく。やがてその体が地に伏せると、一息――つく余裕ももったいないとばかりに傭兵たちは部屋へと視線を巡らせた。わざわざ強化人間が守っていたのだ。ここに何かある可能性は、高い。改めて警戒を小隊に依頼し、特に念入りに捜査を開始し――
「これか!」
声を上げたのは炎西だった。手にしたそれを孫少尉が近寄って確認し、頷く。
「突入部隊より地上部隊へ。設計図の入手に成功しました。これよりデータを転送します!」
連絡を取る孫少尉の声が響く。傭兵たちもすぐに別の班に設計書の入手、転送がかなったことを無線で告げる。
これが、やがて天雷を停止させる。無差別な破壊は、これで止まる。地上部隊はきっとやってくれるだろうという確信はあった。
だがまだ、終わりではない。
周囲には無数の殺気がひしめいている。
その全ての大本を叩かない限り――勝利ではない。
●
一同は連絡を取り合い、司令官がいるであろう艦橋を目指し合流することにした。
無事集合し、扉の前に立つとヘイルが閃光手榴弾を取り出す。皆に周知しピンを抜き、慎重にカウント。
重厚な扉を開け放ち、投げつける。
――結果的にこれは、期待した完全な効果はもたらさなかった。
突入の際に物音に気を払わなければこれだけの大所帯だ、監視カメラを破壊しようが接近は当然気付かれている。突入時に何か仕掛けてくるのは相手も当然警戒の上。手榴弾を視認するなり陳小竜と側近の強化人間は目と耳を庇っていた。
とはいえ、キメラはそうもいかない。庇う知能も、ものによっては手段すら持ち得ぬ化け物たちは、轟音と閃光の影響をもろに食らってふらついていた。
エミタのサポートを受けて機先を制した神楽の射撃が、ふらつくキメラを薙ぎ払っていく。同時に味方の突入を援護する射線を展開、翠の肥満も別翼のキメラを同じくガトリングシールドで蹴散らすと、残る傭兵はそれぞれの標的を見い出し走る。
「こんな御大層なモノまで持ち出そうとも最早この国での貴様達の敗北は覆らない。‥‥が、放置も出来んのでな。ここで討たせてもらうぞ」
「推進器は間もなく破壊される。もはや天雷は巨大な棺桶と同義だ。無駄な抵抗は止めて降伏しろ」
ヘイルが、天魔が小竜に告げる。だが小竜は追い詰められた状況ながらも哄笑を上げた。
「はっ! そうのんびり構えているのはお前らごく一部に過ぎんよ! 中国軍も! 人民も! まだまだ容易く揺らぐ! 儂ごとき小物が動いただけで、だ! ‥‥人は容易く絶望する。容易く裏切る。儂の役割はまだ終わらぬよ!」
引き付けるために派手に弾丸をまき散らしながら接近したイーリスを弾き飛ばし、小竜が宣言した。
その叫びを――
ある者はやはり無表情のままで受け流す。
ある者は一笑に付し、
ある者は困ったように肩をすくめる。
またある者はそれがどうした、とばかりに胸を張り、
ある者は意志ある瞳で睨みかえす。
強化人間の一人に向かったヘイル、勇、炎西の三人は先ほどの戦いですでに互いの連携のコツを得ていた。敵の攻撃を引き受ける勇を炎西がサポートし、反撃のタイミングと合わせてヘイルが槍を繰り出す。
もう一体の強化人間にはジョシュアとケイのペアが。これも、まず防御力の高いケイが攻撃を受け‥‥相手の苛烈な攻撃が一瞬やんだ隙をついて、ケイが盾を掲げ踏み込む。
「小賢しい!」
ケイの攻撃を、苛立たしげに強化人間は軽くいなし――
「熱くなりすぎですよ。ほら、隙だらけです――!」
聞こえてきた声に、振り向く強化人間は反応できなかった。ケイが掲げた盾によって生まれた、普段は死角とならぬ場所。故に警戒が遅れ‥‥そこにひねりを加えたジョシュアの一撃が叩きこまれる。
「ぐぁ‥‥!?」
互いに親友であり相棒と認めあう二人の、完全に息の合った連携攻撃。強化人間相手に一気に深手を与えることに成功した。
もちろん二組とも、この人数だけで強化人間を抑え込んでいるわけではない。そこには常に、全体に目を光らせる神楽と翠の肥満による援護が加わっている。
翠の肥満が視線でイーリスの様子をうかがう。大丈夫と首を振って立ち上がる彼女に、瑠璃の超機械から援護と治療の光が走る。再び盾しっかりと構え、小竜の前に立つイーリスの傍らから。
「‥‥貴方に恨みはないけど、倒させてもらうわね」
静かな呟きと共に。アリカが刀を振るう。
――漆黒の刃が落下する瞬間、やけに静かに思えた。
まず、必殺の意思を込めて、彼女が持つ技量で最大の威力をもつ一撃が。それを起点とし、流れる動作で連撃が打ち込まれていく。
「これほど‥‥か‥‥!」
小竜がよろめいて後ずさる。だがその瞳にはあくまで執念が宿っていた。追いつめられた手が繰り出す一撃を、今度はイーリスはしっかりと受ける。
「調子に‥‥乗っているがいい、能力者! 我らはバグアの兵として、最後まで恐怖を撒き続ける――! 貴様らが守る足元は、何度でも腐敗するぞ!」
血みどろの形相で叫ぶ小竜の言葉に手を止める者はいなかった。
まるで。
たとえ何度裏切られようとも。何度絶望しようとも。それでも手を取り直し、希望を持ち直してきたのも人類だ、と言わんばかりに。
神楽と翠の肥満、そして孫小隊の一部の射撃により、まず全てのキメラが駆逐される。
次いで、ジョシュア達が相手取った強化人間が、さらに炎西たちの相手が倒される。
そうして、最後は。
別に何の感慨も、意思もなく。
酷くあっけなく、無造作に。
ORTが、小竜の首を刎ねた。
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小竜を倒すと同時に、ズズズ、と、足元から重たい振動が伝わってくる。
僅かに浮揚しすべるように移動していた天雷が、推進器を破壊され地表に接地。
轟音を立てながら揺れるそれはしかし、地上部隊の成功を示していた。
まるでそれは鬨の声のように、重く、広く響き渡る。
やがて振動が完全に収まって。ジョシュアとケイが、肩を組んで互いを健闘し合う。
兵士たちの中から、歓声が上がった。
徐々に勝利の確信が強まる中、炎西がふと気がついて艦橋にある通信機へと向かう。
「艦は止まった! 犠牲はもう必要ない!」
残る兵への、投降への呼びかけだった。
天魔がやれやれといった様子でそこに近づいていく。
「司令官は戦死し天雷はUPC軍が制圧した。そして司令官の遺命を伝える。『降伏し、次の機会を待て』
これ以上の戦闘は無意味である、各員司令官の遺命に従え」
告げる天魔に、炎西は一瞬きょとん、とした顔を向けた。
「勿論嘘だがね。こう言っておけば余計な戦闘をしなくてすむからな」
しれっと告げる天魔に、炎西は苦笑した。
なんにせよ、天雷の停止、および司令官の死亡は、もはやこの場に居るバグア側のものからごっそりと士気を奪っていることだろう。
北京伏兵殲滅作戦。突入作戦は、文句なしの成果を収めていた。