●リプレイ本文
「‥‥敵が来たか‥‥」
来襲するキメラたちを目に、神咲 刹那(
gb5472)は呟いた。
「迎撃用意、私が先頭で斬り込む。突撃隊は隊列を崩すことなく私に続け」
希代の剣士として名をはせ、今はこの町の防衛指揮官という立場にある彼は、後ろに控える兵士に向かい、そう告げる。
‥‥兵士からの返答は弱弱しい。
「防衛部隊は防壁に張り付き敵を通すな。ここは人を守る最後の砦だ。自らの愛するものを守るために‥‥敵と刺し違えてでも守るのだ。敵の数はけして多くない、必勝の信念があれば敵を打ち破ることも可能だ。奮起せよ、敵を地平のかなたまで押し返すのだ」
言うと、自ら率先し駆けはじめる。
戸惑う兵士達と、少し距離が生まれ。
「‥‥援軍もなく、口から出るのは精神論‥‥。いよいよ、最後のときも近いか‥‥。とはいえ‥‥私にできることは‥‥眼前の敵を斬るのみ‥‥。最後の其の瞬間まで‥‥な」
聞こえぬと分かる距離まで来ると、彼は呟いていた。絶望的な戦いであることは、他の誰より、彼が承知していた。
殺到するキメラ――獣や人型の入り乱れた、骸骨や死体といったアンデットの群れだ――と、兵士達が激突する。刹那は必死で剣を振るい続けるが、いかんせん、彼ひとりで出来ることには限界があった。数と力を頼りに、キメラたちは兵士達の壁を突き崩していく。一人倒れるごとに兵士の士気は下がっていき、戦線は見る間に崩壊していく。
「‥‥多勢に無勢‥‥か。一端立て直す。皆後方へ下がれ。殿は私が務める」
刹那は告げる。
言わずとも、逃亡を始める兵士達もいた。そんなものたちすら責める風でなく。
「さて‥‥周りは化け物だらけ‥‥気兼ねせずに力を振るえるな。‥‥もう少し付き合ってもらおうか‥‥」
彼はただ、最後の一人となるまで剣を撃ち振るう。
その時‥‥曇り空の隙間から、幾筋かの光が落ちた。
●
「思い出したかったような、そうでもなかったような‥‥」
記憶を取戻したホアキン・デ・ラ・ロサ(
ga2416)は、ポツリと呟いていた。青年の姿をしたその体は今、きらきらとした輝きを放っている。
‥‥戦場ヶ原にあった水晶、それと同じ輝きを。
「わー、昔の私スッゴイですねー、って思い出したくなかった? 私は会えて嬉しかったのにー」
同じくして全てを思い出した和泉譜琶(
gc1967)は、水晶の指輪に向けて話しかけていた。
「頼りにしてるよっ、クォーツ!」
彼女が呼びかける、それこそがホアキンの――戦場ヶ原から地上に落とされた勇気の水晶の一欠けらの――真の姿にして、名。
「頼りないマスターの役に立つのが、仕事なものですから」
クォーツがそう応えれば。
「さぁーて、いくぞー、やりますよー!」
譜琶は元気にそう言って、敵の気配がひしめくその場所へと、なんら臆することなく駆け出していく。
「って、あ、クォーツ連れていかないと‥‥」
そうして、指輪を忘れてすぐに戻ってくると、クォーツはいつものことだと言う風に、やれやれとため息をついた。
「聞こえる‥‥人々の悲しみの旋律が」
セラ(
gc2672)は町に生まれたざわめきの中で、そうこぼしていた。
今の彼女には全てが旋律に聞こえる。敵の気配。人々の叫び。そして、己に流れる真の力。
彼女の声に応えるように、光が四つ、彼女の前に展開される。光は徐々に収束し、現れたのは純白の五線譜だった。言葉で応える代わりに、その表面は瞬く間に音符で埋められていき、旋律を生み出していく。
それは精霊オラトリオによるもの。ずっと、戦場ヶ原でセラと共に戦ってきた相棒。
そして――それを操る彼女の真の名は、魔奏少女・マジカル☆リリック!
一人、荒野を歩きながらも、姫のごとき高貴な雰囲気を漂わせるその女性は、ふらりと人里離れた奥地からその姿を現した。
一歩進むそのたびに、流れ星のように光の欠片が尾を引いてその跡に残される。
そう、彼女こそが天空橋 雅(
gc0864)――またの名を流星の姫、ミヤビ。
「私のいる場所でこれ以上の勝手は許さん。天界を荒らす害獣ども、覚悟するがいい」
普段は人と離れ静かに暮らすことを選んだ彼女であったが、天界の平和を荒らすやからは許すことは出来ない。
「星を操る力、見せてくれる」
すっと彼女が腕を上げると、彼女に付き従う精霊がその姿を現した。
その姿、およそ10メートル。
(「どうして俺が、こんな目に‥‥! えぇい。1分1秒も惜しい! この変な戒めを取り除くため、俺は覇道だろうと歩み切る!」)
己が力に目覚めると、希崎 十夜(
gb9800)は悲壮な覚悟でそう、心で叫んでいた。
彼自身は普通の‥‥この世界における一介の傭兵に過ぎない。だが、戦場ヶ原の一人の英霊の魂が、彼を選んだ。彼ならば、きっと勇気を振り絞り、己の力を引き出してくれると。
‥‥たとえ、それが犠牲を伴うものであったとしても。
英霊の魂の影響を受け、彼の髪が長髪黒髪へと変化する。実際に目の当たりにした己の変化に、彼は戦慄を覚えた。このままシンクロが進めば‥‥どうなってしまうか。
だが、それでも。彼は戦場に向かう足を止めない。
まさに今彼は、英霊の期待に応え、己の魂を犠牲にして戦いに赴こうとしていた!
「んー? 何で私をまた目覚めさせる‥‥かなぁ?」
記憶を、取戻したエイミ・シーン(
gb9420)意外そうに、しかしそう意外でもなさそうにそう言った。同時にその姿からぴょこん、と、小さな翼と尻尾が生える。コミカルながら悪魔を思わせる‥‥それが。
そう。彼女はまさしく悪魔。それも魔神とも言うべき存在。元優秀な英霊の1人でありながら魔界へとその身を堕とし、‥‥そして更なる力を得て戻ってきた存在。
天界に危険とみなされ、その力の大半は抑制されているが‥‥。
軽く手を翻す。その掌にハートの形の光が生まれ、飛んでいく。それが地面に達すると、とたんに大爆発を起こす。
封じられてなお、この力である。
無数のキメラたちに、その姿すら飲み込まんと巨大な影が差す。
出でしは影よりもなお黒き巨体。大きな砲身を抱える姿は、伝説にあるドラゴンそのもの。
それは遺失魔法により辰巳 空(
ga4698)‥‥いや、魔導の国からきた魔道学者、ブロード・アンセムが変身したもの。
「ここは‥‥通しませんよ」
ずぅん、とその身で大地を踏みしめると、キメラをも萎縮させる咆哮が竜の口から発せられる。同時に、抱えられた多連装魔導弾発射装置(以下、略して「MMBS」)から凄まじい火力が放たれた。
‥‥反撃ののろしが、上げられる。
●
光の矢が、動く死体たちを次々に打ち抜き、砂へと返していく。
譜琶の手に掲げられるのは、その身に似合わぬほど長大な弓。水晶でできたそれは、クォーツが譜琶の能力に合わせて変じたもの。
譜琶は獲物が弓であるにもかかわらず敵陣に突っ込み、光の矢を次々に放つ。思いを力に変えるクォーツの弓。それは、まっすぐな心を持つ譜琶の手にかかれば抜群の力を発揮する。
‥‥思いが強すぎて勢い余ってしまう部分は、上手くクォーツが調整する。余計なエネルギーを使わないよう、最適なダメージを一発ごとに食らわせていく。
「私が慌てん坊で、クォーツが冷静で二人で力を合わせたら完璧!」
また一つのゾンビを倒し、譜琶が歓声を上げる。
キメラの動きが乱れ、隙間が生まれたところに、衝撃波が広がり骸骨どもを砕いていく。
「私とオラトリオの前に邪悪は無力だ!」
マジカル☆リリックが叫び、オラトリオが旋律を奏でると、音波による衝撃が群れを更に薙ぎ倒す。
「爆砕弾」
黒き竜は呟き、掲げたMMBSから魔力の弾を連発する。効果は薄いが、これはあくまで牽制と調整のためのもの。この弾の効果と反応によって座標を計算し。
「停滞弾」
続く魔法の弾が、炸裂した地点の周囲の時間を極端に遅らせる。大幅に動きを鈍らせた怪物たちは、その数が仇となって味方の動きを阻害する。
そんな中、十夜もエネルギーガンを放ち、着実に敵たちを焼いていった。魔法の力が乗せられたそれは、通常の兵器よりもはるかに高出力。‥‥だがそれでも、仲間達には劣る感じは否めない。彼はまだ、英霊の力を引き出しきれていないのだ。
「‥‥くっこのままじゃ、やられる?!」
焦る十夜。彼はまだ英霊と完全に同調することには躊躇いがあった。しかし、戦いの中本能が先に理解する。そうするしかない、と。いつしか彼の姿は光に包まれ‥‥
現れたのは英霊の姿。白銀に輝く鎧に‥‥白く眩い太ももが覗くスカート。胸元は柔らかなふくらみ。完全に女性化した『彼』は、いまや完璧に『彼女』と一体化していた。
「‥‥目の前の敵がいなければ、終わるんだ、こんな状況!!」
たとえ屈辱に塗れようとも、勝利するまでは決して退かない‥‥それは覇王の結論であった。
『いいじゃないですか、可愛いのに』
同調する英霊の魂が彼に囁く。同時に。
「うしし♪ あらあら、そんなカッコでどうしたのカナー?」
エイミが十夜をからかいながら現れ、参戦する。軽い調子で振るわれる槍が、拳が、キメラを軽々となぎ払っていく。
「馬鹿な‥‥その力。貴様はむしろ我々に近い存在ではないのか」
エイミの力に驚く、髑髏の男が語りかける。
「ん? 気に入らないのさー。理由なんてそれだけ♪」
あくまで何てことなさそうに、エイミは答えた。
「くっ‥‥だが、我々の本気にはかなうまい!」
叫び錫杖を掲げる青年。すると、大地から更なる不死者達が湧き上がってくる。
再び、キメラたちが戦士達を押し返す‥‥そう思ったとき。
「そこまでだ、怪物ども」
やや遅れ、ミヤビが供の精霊と共に戦場に到着する。精霊の巨体が腕を振るうと、流星雨のごとく光弾がキメラたちに降り注いでいった。
「さあ、今こそ、君の歌を伝える時だ」
ミヤビがマジカル☆リリックに話しかける。
マジカル☆リリックは強く頷き、オラトリオに命じ空へと翔ぶ!
「さぁ歌おうオラトリオ! 地上には勇気があることを私達が証明するんだ!」
譜琶とクォーツが、ブロードが、十夜が、エイミが、ミヤビが。それぞれの武器を、力を手にキメラと戦い続ける。
その姿を、その力を、かつての記憶と、想いに重ねてマジカル☆リリックが歌い上げる。
旋律は、天から響いてきた。
雲の切れ間から差す光とともにもたらされるそれは、天界から響き渡っていた。
「この‥‥光は‥‥それに、歌は?」
刹那は、傷つき動かなくなった身体を、ゆっくりと起こす。
そして彼は‥‥絶望的な状況を、光の戦士達が押し返し始めているのを見た。
再び、剣を握る手に力が篭る。
まだ‥‥諦めない。自分はまだ、戦える!
そうして踏み出した足は、しかし一歩踏み出すと同時に、よろめいて。
だがその身体を、誰かが支える。
「隊長!」
聞こえた声は、先に逃がしたはずの兵士のものだった。
「隊長‥‥命令に背いて申し訳ありません! でも‥‥俺も、まだ、戦います!」
「俺も!」
「私も‥‥! 一緒に戦わせてください!」
震える声がやがて勇気の言葉となり、やがて歓声となったその声が聞こえるのは、兵士達の間だけではない。背後に守る、町からも。
「お前達‥‥」
刹那は、胸にあふれる想いを押さえるように、呟く。
「退却命令は撤回だ。このタイミングを逃すことなく敵を殲滅する」
そうして彼は、びしりと前に戦う戦士達を、歌い続けるマジカル☆リリックを指し示し。
「彼らに続け、あれこそ我らの希望だ」
宣言すると、一気に走り出す。
兵士達も、遅れず続き走り出す。
戦士達が、キメラを駆逐し始める。
天界の戦士ではなく、地上の戦士達が。
いつの間にかマジカル☆リリックの歌は新たな詩を紡いでいた。
戦場ヶ原ではなく、勇気を取戻した地上の人々の。
頼もしき、新たに見つけた戦友(とも)の歌を。
雲が晴れていく。
差し込む光は益々強くなっていく。
水晶の輝きが、地上に満ちていく。
「すごい力だ‥‥これが本当の戦場ヶ原‥‥!」
本来の力が戻っていくのを確信しながら、マジカル☆リリックは思わず零していた。
驚くのは戦士達ばかりではない。
「なんだと!? これほどの力が‥‥ええい、ならばこの私が、バグア72将軍が一人、最強死霊リッチデュラハン・ウィザードナイトが本気を見せてやろう!」
叫び、最強死霊リッチデュラハン(字数制限のため略)を名乗る青年が腕を広げる。生まれた光を消し飛ばさんばかりの闇があふれ、立ち上がった兵士達を再び薙ぎ倒していく!
「さて、ここからが‥‥勝負です」
黒き竜は呟くと、恭しく大地に着地。戦士達に、その背に乗るように促す。
皆頷きあい、ブロードの背に乗り込むと、力強く羽ばたき、最強死霊(以下同様に略)にめがけて一直線に突っ込んでいく。
想いは一つ。皆それぞれの己の力をその手に掲げ。
「真の勇気は眠っているだけ。本当には奪えないものですよ」
クォーツが、譜琶の手の中から言うと、譜琶は頷き。
「二人なら二倍! 地上のみーんなの思いを合わせたら何万倍にもなるんだよ!」
叫び、今までで最大の光の矢を放つ。
「これで、終わりにしよう。どちらかが消し飛べば、決着は付く」
女性化し、露出の高い姿を惜しげもなく晒し、腕を振るうのは十夜だ。勇気とは、恐れないだけじゃない。現実と向き合い。尚且つそれでも前に進むと決めた揺ぎ無い思い。それは、このような姿になってなお、使命を果たすべく前を向く彼の姿が何よりもあらわしている。
「星も勇気も、闇の中でこそ、力強く輝くのだ」
ミヤビが囁けば、流星がまるでコンサートの演出のように降り注ぐ。
「たまには全力解放‥‥だよね!」
そんな中、エイミは相変らず、気楽に笑っている。だが、その楽しそうな顔は、人々の勇気を見た、それゆえにも‥‥思えた。
「ぐおおぉおおお!」
迎撃するように、膨大な闇が、巨竜めがけて放たれる!
力と力がぶつかり合い、そして。
ぴしり。
決着を告げたのは、小さな小さな音だった。
最強(以下略)の仮面に、僅かな亀裂が入る音。
それは、戦士達の力が、闇に競り勝ったことを示していた。
「ば、馬鹿なっ‥‥この私が、馬鹿なぁあああああああ!」
崩壊した一点から、光がどんどんと流れ込み、最(略)の身体が光に飲み込まれていく!
光が消えた後には、闇もまたすべて消えていた。
‥‥戦士達の、勝利だった。
「はぁー終わりましたね〜、どう? 今回のマスターの働きは!」
「突進しすぎで60点。ギリギリ合格点ですね」
戦士たちは思い思いに、それぞれの健闘をたたえ合う。
「では、またな」
ミヤビがそう言って立ち去るのをきっかけに、戦士たちも変えるべき場所へと帰る。
それを、町人の温かな拍手と歓声がいつまでも包んでいた。