●リプレイ本文
「‥‥。俺たち、ピタ○ラ装置‥‥?」
ユーリ・ヴェルトライゼン(
ga8751)がひっそりと呟く。
「まあ冗談は置いとい――」
「缶珈琲用のヘパイトスイッチをください」
ユーリが続けて呟こうとしたところで、クラフト・J・アルビス(
gc7360)が声をかぶせる。というわけで冗談は置いとけなかった。もうちょっと引っ張るらしい。しかも意味が分からない。
「優人! 俺はオーストラリアで成長したよ! もう、ディアマントシュタオプもヘパイストスだって言えちゃうぜ!」
どや顔のクラフト。
「ぬう? ヘトパイトスっ!」
「違うよ! ヘパイストスっ!」
「そうそう。ヘスパイトス」
「だからヘパスっ‥‥あれ?」
3度目あたりで混乱してきたらしい。
「へぱいすとす‥‥っ」
入間 来栖(
gc8854)が、ちゃんと言えるかどうかこっそり確認して一人ほっとしていた。ちょっとふにゃっとしていたが。
「へパ何とかっつーか屁みたいだしヘッパップーでいーじゃん言いやすくて」
そういうのは村雨 紫狼(
gc7632)である。
「ヘッパップー‥‥ヘッパップーか」
「いや真面目に検討してんじゃねえよお前らそのうち本気で本物のヘパイストスに祟られるぞ‥‥?」
言いやすさを確認するようにぶつぶつと呟きはじめた優人に徹が突っ込むと、何かに気付いたようにはっと顔を上げる優人。
「でもそんなの関係ねぇ!」
「はいっ! ヘッパッピー!」
そして何故か即座に反応した紫狼。
「いい加減にしろっ!」
「シロも悪ノリを加速させないー」
優人にはいつもの徹の拳が。紫狼にはユーリのピコはんがツッコミに入る。ボケが増えたと思ったらツッコミも増えてたらしく一安心。
「ほれ、いい加減出撃準備するぞ!」
「‥‥まって、その前に一つだけ」
「なんだよ!」
「‥‥結局、ヘパ何とかって、なに?」
‥‥‥‥。
「‥‥確か、鍛冶の神様だったかな。昔、ブーシェの絵画を見たことがある」
生ぬるい沈黙が流れる中、答えたのはピエール・アルタニアン(
gc8617)だった。生真面目な青年はいたって誠実に回答したが、果たしてそのかいはあるのか。
――こんな騒ぎであるが、もう少し俯瞰した位置から見ればここは敵拠点を攻めようとする宇宙艦隊、その先頭を行く輸送艦、なのであった。
(ふしぎな方です‥‥)
出撃前、優人を振り返って来栖は思う。一見不真面目そうだが‥‥? ともあれ、緊張はほぐれる。そんな第一印象を抱いていた。
●
だが、こちらが軽いノリでふざけあって言おうが、無論敵がそれにあわせてくれるわけがない。数に物を言わせた無人機とくればなおさら。
レーダーの端に敵をあらわす光点がにじむように点り出す。
『結界輪起動‥‥! EWAC開始しますっ!』
来栖が乗る幻龍、Cyaから皆に通信が入る。
3機編成、三角の陣形を取って進んでくるHWたちのフェザー砲が、一斉に角度を調整する。
『敵一斉射撃、来ま――』
来栖の次の声は途中から掻き消えた。先に、傭兵たちの機体が動く。
ユーリのR−01改、ディースよりK−02ミサイルが一斉に放たれる。同様にファリス(
gb9339)機、コロナのロスヴァイセよりGP−9。計8体のHWにミサイルの弾幕が襲い掛かり隊列を乱す。そこから一手遅れてHWの一斉射撃。だが距離があるうちの、HWの単調な攻撃。出鼻をくじかれてムラのできたそれに、傭兵たちは危なげなく対処する。そこからさらに両軍距離を詰めたところに、シンディ・ユーキリス(
gc0229)のクルーエル、PM−J9 S・Y 『Blaster』よりDRAKE STORMが撃ち出される。
足の鈍った敵群に、傭兵たちも2機編成を組んでそれぞれの標的へと突撃していく。
「行くぜ、ダイホルスチェェンジッ!」
紫狼機、タマモこと魔導鳥神ダイバードが前に出る。ちなみにダイホルスってのは飛行形態時の名称とのこと。
「ここでたくさんの敵を引き付ける事が出来れば、それだけ本作戦で戦うみんなの役に立てるの。だから、ファリスもここで頑張るの」
突っ込んでいく紫狼機をファリス機が援護する。初撃のミサイルで消耗した敵をレーザーガトリングで削り取っていく。
「魔導‥‥鳥神ッ!! ダイッバアァァァドッ!」
敵前衛に肉薄した紫狼機がここで再び人型に変形、天下無敵のスーパーロボット、ここに見参!
ファリス機が動きを止めたHWを、機刀「陰」で斬りつける! コックピットを切り裂き沈み込んで行く刃先、敵ワームは気色の悪い内部組織を見せながらまっぷたつ!
‥‥とか、アニメだったらそうなりそうな光景だが、見かけはスーパーロボット仕立てでも残念ながら戦場はリアルである。実際には損傷を受けたHWがやや姿勢を流されつつも反撃。紫狼機、避けながら次撃を入れたいところだが連携する別のHWが横槍、ファリス機がが再びレーザーガトリングで応射し両チーム体勢を立て直し‥‥仕切り直して、再び対峙する。
「よし、もう一仕事頼むよ!」
出撃に際しクラフトは愛機、ハヤテのアラン・ジェスターにそう呼びかける。大規模作戦中は結構危ない戦域を飛んでもらっていたが‥‥今しばし、宇宙でも仕事がある。
クラフト機のバックを守るのはシンディ機。
(大規模作戦が終わって‥‥間もないうちから、慌ただしいことだけど‥‥間もないうち、だから、却っていいのかな‥‥?)
短期間で決戦を決断した軍の判断。メリットもデメリットもあるだろうが、さて今回はどう出るか。
ただ、なんにせよ。
(シンディたちは、掃除役‥‥G5弾頭の通り道を、しっかりと掃除しなきゃ‥‥ね?)
傭兵たちにとっては大した問題ではない。今すべきことをしっかりとこなすだけである。シンディは初撃のDRAKE STORMに続き、G放電装置を、3機で来るHWの隙間をこじ開けるように通していく。命中の高い兵装を使っての、フォーメーションを崩すことを主眼とした攻撃。先頭を行く一体と、後続の二体との距離が離れたところに、クラフト機がアサルトライフルで攻撃を加える。数発の銃弾を叩き込んだところで、旋回。少し遅れて、先ほどまでクラフト機がいた位置を数条のフェザー砲の光が通過していく。クラフト機は照準を取らせにくいよう動きまわり、敵弾を回避していく。単純な思考しかできないAIには有効だった。
クラフトがある程度攻撃を浴びせかけたところで、シンディ機が兵器をレーザー主体へと切り替える。後衛から容赦のない弾幕が集中される。数は脅威だ。ならば‥‥相手が体勢を立て直す前に仕掛け、一体ずつ集中撃破を狙う!
(この要塞の攻略の要は先鋒たる俺たちだといっても過言では無いだろう。ヘパイストスの攻略‥‥必ずやこの手で成功させてみせる!)
熱い闘志を秘めた乗り手の心意気そのままに、ピエール機は機銃で敵を牽制しつつ敵陣に向かっていく。手にしたブーステッドランスのブースターが、彗星のように尾を引く輝きを残しながら。
反応する敵後衛はユーリ機がカバー。ミサイルポッドから吐き出された小型ミサイルの群れが立て続けにHWに突き刺さり爆風で動きを押しとどめる。一度、敵同士の間に距離が生まれたところでユーリ機は再び、前に出たHWに照準を合わせる。初撃のK−02、それからピエール機がつき立てたランスで損傷した個所に向け、バルカンで追撃。傷口を押し広げようとする。
ピエールもそれに呼応し、まずは目の前の一体に攻撃を集中する。
「俺は相手が誰であろうと手を抜くことはしない‥‥それが例え無人機であったとしてもだ! さあ来い、全身全霊をかけて貴様の相手をしてやる!」
みしりという手ごたえと共に、ランスの先がHWの表面に出来た亀裂へとめり込んだ。
二人の機体はR−02改とS−02。地上の初期型機の系統と、宇宙の初期型機、その二機の連携。
ユーリの戦い方は戦場になれた者の円熟さがあり、ピエールの戦いは若き情熱と勢いに燃えていた。まるで、これまでのKVの底をささえた技術と、これから発展していく新技術を見せるかのように。
‥‥一体集中撃破という意図が一致していたため、撃墜マークはこのチームが最初に付けた。幾度目かのピエールのランスがHWの壁をとうとう深く穿ち、それが中枢に深刻なダメージを与える。力を失い宇宙空間を流されていくHWが、少し後に爆散した。
ユーリ・ピエールチームの撃破を皮切りにして、他のチームでも少しずつ、だが確実に戦果を重ねていく。2機以上で死角をカバーしあえば、HWの動きには十分対処できる。まして来栖機が後方から目を光らせている。
‥‥だがそれでも、衛星攻略戦。楽が出来る戦いでは、ない。
『敵群第二陣、接近しています! 距離100‥‥90‥‥はち‥‥いや、プロトン砲きます!』
カメラで敵群を監視していた来栖が緊急の声を上げる。
それぞれのチーム、後衛が牽制の攻撃を放つと共に前衛機が一度距離を取る。動きやすい空間が生まれたところで急加速をかける。まだ距離のある後方から、虹色の強大な光が迫り、過ぎる。
「味方‥‥ごとっ‥‥!」
来栖が唇をかむと共に、巻き込まれたHW、元々傭兵たちによって撃墜寸前だったそれが爆発する。無人機ゆえに出来る戦法。それが、相手の数を想像させて、一瞬気が重くなる。首を振る。それでも、引くわけにはいかない。
『各チーム、被弾と燃料の情報をお願いしますっ!』
長い戦いになる。そのことを予感して来栖は己の役割をあらためる。補給と、損傷が拡大した機体のカバーは確実にこなさなければならない。
『‥‥ろじゃーですっ! A班補給に下がります』
各機からの情報を元に、すばやく動きを取りまとめ来栖は声を張り続ける。
『了かーい。こっち丁度終了だしカバー行くよー』
リトルフォックス隊の声が返ってくる。‥‥さすがに多少は気を引き締めている色はあるが、口調は優人の口調は戦場でも変わらないのだなあと、そんなことをふと思った。
前線は拮抗。‥‥いや、このままならじわじわと人類軍が押す形か。前線の戦いを、後方に控える巡洋艦はどう見るか。
「‥‥堅実ですな」
呟く士官の声は、落ち着きをもっている。齎される報告、先鋒の部隊は前線を堅持している、というものであった。逆にいえば、大きく突破する気配はない。が。
軍からすればそれはもっとも信頼のおける状況であった。傭兵は個人主義の者も多いと聞く。下手に功を焦って突出したり大将首を狙いにいったりなどされれば、そこから戦線が崩壊する懸念もあった。だが、彼らは己が果たすべき役割をしっかりとわきまえているようだ。
「‥‥しかし、敵もこのまま進ませてはくれんでしょうな」
士官は続けてそう呟く。艦長はただ、鷹揚に頷いて、そして。
これで敵が何陣目だろうか。再び後方から現れた敵チームに、シンディがこれまでと同様、ミサイルによる分断を狙う。‥‥一方でシンディは残弾数を確認。巡洋艦では錬力と水素の補給は出来るが弾薬は不可能だ。先制が取れる回数は限られてくる。ならばこそここは確実に‥‥と狙い澄ました一撃に対し、敵がこれまでと違う機動を取る。
『‥‥! クラフト‥‥後ろのそいつ‥‥気をつけて‥‥。少し‥‥違うかも』
警告を発したシンディに、クラフトは兵装をアサルトライフルから、威力の高いスナイパーライフルへと切り替える。「水素は考えて使わないとねー」とここまで出し惜しんでいた地上兵装だが、ならばここが考えた使いどころか。
『宇宙もオーストラリアとおんなじくらい大切だから、かえってくんないかな?』
『勘違いするなよニンゲンがっ! 宙はもとより我らの領域、先日まで地を這う芋虫だった分際でっ‥‥!』
クラフトの挑発に、怒りとともに返って来た射撃は、これまでとは違い鋭く、タイミングも計ってくる。‥‥闇雲に足を回すだけでは、止まった瞬間を狙われる。
有人機が現れた情報は、瞬く間に戦域全体へと回される。各機警戒の元対処に当たる。横手から薙ぎ払われた紫狼の剣閃が、HWのアームに止められる。二刀と二本のアームが打ち合いになる。
援護を中心としていたファリスがここで仕掛けに行った。周囲の敵はUK−12SSMで牽制、距離を詰め、これまではガトリングでの一撃離脱を主体にしていたが、この場でファリス機もまた人型形態に変形、紫狼機とは逆方向から、光輪「コロナ」の一撃を叩き込む!
ピエール機には、猛進してきたHWが痛烈な体当たりを仕掛けてくる。咄嗟にランスを掲げ機体を庇う、が、勢いに体勢が流される。
『ユーリさん、敵が一機そちらへ向かった。迎撃してくれ!』
同時に横を通過していった一体をピエールは見逃さない。ユーリもまた。新手の登場の時点から、迎撃の心構えは出来ている。足回りならば常時ブーストをかけているユーリ機が一番利くのだ。強引な突破への洗礼は、リニア砲による痛烈な一撃だった。HWの姿が揺らぐ。
新手の登場にも状況は揺るぐ気配がなかった。傭兵達の動きと連携はきっちりとしている。ただ逆に言えば、短期で派手な戦果もみられなかったため、敵の注意を大きく引くことはなかったようだ。同時攻撃の布陣に、敵はこちらの局面へ戦力を追加するタイミングを見極められなかった。
――別の結果が、別の成果が、あっただろうか?
もはやそれをここで論じる意味はない。ただ、現状。この戦域における敵の戦力は、開始段階と比べ目に見えて疎になっている。
そして‥‥――
『全艦隊、前進! 機は満ちた、ヘパイストスを射程に捉えるぞ!』
UPC軍は、傭兵の働きに満足している。
ジワリと進んでいく巡洋艦。準備されるG5弾頭。
『弾道計算完了。発射準備OK。各自援護をお願いします』
やがて戦域に、派手な衝撃が伝わっていく。ヘパイストス攻撃が開始されたのだ――
余談だが。
「‥‥ヘパッイトッスイッチ‥‥」
着弾の振動が伝わってきたとき、シンディがこっそりと呟いていた。
‥‥妙に気に入っていたらしい。