タイトル:南瓜色に染めてマスター:凪魚友帆

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 4 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/08/31 02:19

●オープニング本文


 夜の街。響き渡る哄笑。
 吹き付けられたラッカーで、染まる高架下。
 南瓜頭の来訪者が、その場を去った時。
 そこには、恐怖に怯えた犠牲者が居た。


「愉快犯。そう考えるしかないのでしょうかね」
 難しい顔で呟いて、男は、傭兵たちに資料を示してみせる。
 線路下のトンネルや、ビルの壁面。およそ物を描く場所ではないそこに記された、黄色い南瓜のマーク。
 そのマークの根っこのあたりには、壁に貼り付けられ、表情を凍らせた男女の姿がある。
「被害者は、傷を負っているものの、命に別状はありません。いや、肉体には、でしょうか」
 彼らは言う。通販で買ったアオカボチャストラップを着けてあるいていたら、南瓜頭の怪物に襲われ、さんざんいたぶられたあと、壁面に貼り付けられ、ラッカーを吹き付けられたと。
「まあ、そこまで聞き出すのが精一杯でした。皆、心に消せないトラウマを刻まれています」
 眉根を寄せ。男は、こう呟く。
「恐らくは。敵の目的は、キメラに対する潜在的な恐怖を持つ人間を増やすことでしょう。そこから人類の足並みを徐々に乱れさせる。嫌な戦法です」
 そこで。と前置きして。男は、傭兵たちの前に、あるストラップを差し出した。
「例の通販で購入できる、アオカボチャストラップです。これを所持して暗い道に行った所で、敵は襲って来るでしょう」
 目撃例から見て、敵の数は一体。男はそう報告すると、ストラップを傭兵たちに渡した。
「宜しくお願いします。季節外れのハロウィンに、人類からの制裁を」

●参加者一覧

ドクター・ウェスト(ga0241
40歳・♂・ER
ケイ・リヒャルト(ga0598
20歳・♀・JG
鳥飼夕貴(ga4123
20歳・♂・FT
アルフレド(ga5095
20歳・♂・EL

●リプレイ本文

●作戦会議
「何か、ふざけたキメラね‥‥」
 ブリーフィングルームの机を指先で叩きつつ、ケイ・リヒャルト(ga0598)がぼそり呟く。長い睫毛の下の鋭い目は、資料に添付された、哀れな被害者たちを見つめていた。
「なんの罪のない人を狙い、自分たちのルールを押しつけて、いためつける。カボチャキメラ‥‥許せないわね」
 鳥飼夕貴(ga4123)の口元は、怒りできつく結ばれていた。キメラとは、人を襲い傷つけるものだ。だが、今回の南瓜頭は、その範疇を超えている。
 なんとしても、南瓜頭は倒さねばならない。それが傭兵たちの任務なのだから。
 と。それはそれとして。
「ところで。南瓜キメラって美味しいのかしら?」
 ケイの素朴な質問に、場の空気が一瞬にして変わった。
「果たして食べられるんですかね?」
 真剣に地図を確認していたアルフレド(ga5095)も、興味津々といった感じで、会話の輪に加わる。なにせ南瓜なのだ。キメラとはいえ、どのような味がするか、気になるではないか。
「でも、そこまでキメラの生態に詳しいわけじゃないし‥‥」
「――そこは我が輩に任せたまえ!」
 朗々としつつも甲高い声。一斉に振り向いた三人の前に現れたのは、白衣を翻した、ドクター・ウェスト(ga0241)。
 さくさくと仲間たちに歩み寄ったドクターは、資料を一瞥すると、ふむと一言。
「オレンジジャックとはまた違うのかね〜?」
「いや、どうなのかしら。似たものとは思うのだけど」
 ケイの呟きに大きく頷き。ドクターは、こう断言した。
「大丈夫。美味しく頂けるよ」
「ほう。それは興味深いですね」
 身を乗り出すアルフレド。他の皆も、さっきとは違ったモチベーションで、南瓜退治に勤しもうとしていた。
「まあ、まずは作戦会議ね。南瓜を呼び出すために」
「これが必要なのよね」
 夕貴が取り出したのは、厳重に封をされたガラスの箱。その中には、青色をした南瓜の人形が付いたストラップが、ひとつ、ぽつんと入っていた。
「やっぱり、電波なんかが出ているんでしょうか」
「UPCの研究班では、何も出なかったそうだけど‥‥」
「なあに。相手はバグア。人の身でわかる細工はしないさ〜」
「大事なのは、これを持って街に出れば、敵が現れるということ。それで‥‥」
 問題は、誰が囮役になって、南瓜頭をおびき寄せるか。
 一瞬の間の後。手を挙げたのは、意外な人物だった。
「我が輩に任せるが良いよ」
「ドクターが?」
 うむ、と頷いて。ドクターは、ガラスの箱を手に取り、にんまりと微笑む。
「キメラの変種、まずは自分の目で見てみたいからね、ひひっ」
 薄く輝くドクターの目。顔を見合わせた仲間たちは、ともあれ、ドクターに任せてみる事にしたのだった。

●路地裏の南瓜
 その夜。見上げた月は、やけに青かった。
「予兆は信じないけれど、雰囲気はたっぷりだねえ〜」
 にまにまと嬉しそうな顔。ドクターは、人気のない路地裏の壁に背を預け、じっとその時を待っていた。
 飲食店から出されるゴミの、すえた臭いの漂う中。一見した所では、その場に、ドクター以外の人間は居ない。しかし。
『気をつけて。敵はどこから現れるかわからない』
 通信機から漏れる声。ケイの姿は、ドクターの背負う高い壁の、ちょうど反対側にあった。いざという時は、壁を打ち壊しても駆けつけられる距離だ。
 一方。ドクターの足下にあるマンホールの蓋から、コツコツという音が聞こえる。ドクターはそれに合わせ、靴先で、蓋を軽く小突いた。
「アルフレドクンも、変わった事をするものだ」
 刀が得物のアルフレドは、そう遠くから攻撃することができない。そこで、直下のマンホールの中に潜み、その時を待っているのだった。中の環境は察するにあまりあるが、上手い方法ではあるだろう。
 そしてもう一人。刀を握った夕貴の姿は、飲食店の勝手口近く、ひっくり返したポリバケツの中にあった。
「我慢、我慢‥‥」
 残暑厳しい頃、密封されたポリバケツの中は、マンホールどころではない不快指数をたたき出す。流れ出す汗を拭う隙間もなく、ひたすら願うのは、ここから開放される時のこと。
 色々な意味で皆の期待を背負いつつ。ドクターは、通信機を片手でもてあそぶ。その端からは、青い南瓜のストラップが、虚ろな笑みを浮かべていた。
「さあて‥‥」
 深呼吸して、にまりと笑い。見上げた空には、青い月。
 ――いや。
「来たね」
 にやり笑い見遣る先。ふらりふらりと空を舞う、青く丸いなにか。それは次第に高度を落とし、ふわり、と、ドクターの前に軟着陸した。
「あえて問わせてもらおうかな?」
 一歩、近付くドクター。その眼前で、青い南瓜が、穴で出来た顔を上げた。
「キミが、この事件の犯人かね」
 ――ィ、イイ、ィ。
 ぎこちない動き。何かを見定めるよう、ドクターの顔をじっと見つめ。
 ――ギィ!
 刹那。南瓜頭は、オモチャのような鎌を振り上げ、ドクターへ襲いかかる。
 攻撃は予想できた。横にかわしたドクターの――目の前に、南瓜の顔がある。
「なッ」
 同種のものよりもはるかに高い俊敏性。まるで重力を感じさせないような動きに、ドクターの反応が遅れ――。
 鎌が肩口に突き刺さる直前。背後の壁を突き抜けて、弾丸が、南瓜の鎌のみを、正確に射貫いた。
 ――ギッ!
 南瓜が後ろに飛び退く。その瞬間。ドクターの居た場所の、隣の壁面が、銃弾の雨に砕け散った。
 土煙の中。睫毛を伏せたケイが、どう猛な笑みを浮かべる。
「美味しく調理してあ・げ・る」
 ――その一言が、引き金となった。

●報い
「たあ!」
 マンホールの蓋をはね飛ばし、アルフレドが南瓜へ迫る。
 刀の間合いから離れようとする南瓜頭。しかし、その背後には、カタカタと揺れるポリバケツがあった。
「いらっしゃい‥‥ッ」
 はい出すのももどかしく。真っ二つに割られたポリバケツの中から、夕貴の姿が現れた。
 ――ギギッ!
 慌てて止まる南瓜頭。しかし、その位置は、二人共に、絶好の間合い。
「人々に恐怖を与えた罪」
「ゆっくりと償いなさい」
 アルフレドと夕貴。二人の持つ月詠の刃が、南瓜を挟み込むように、ざっくりと食い込んだ。
 ――ギ、ギギ、ギイッ!
 それはさながら、切れ味の悪い斬首台のごとく。
 ゆっくりと皮を斬られ、実を断たれた南瓜頭は。最後にギッと断末魔の声を上げると、力なく横たわるのだった。

●料理の時間
 ことことこと‥‥。
「どれどれ」
 鍋の中で煮える一片を、口元に運び。夕貴の顔に、笑みが浮かんだ。
「うん、おいしい。バグアもなかなかやるわね」
 楽しそうに調理を行う夕貴の後ろでは、任務の疲れをゆっくりと癒す、仲間たちの姿があった。
「結局、あの南瓜は何がしたかったんでしょうか」
「理由なんて無いのよ。もしくは、あたしたちには分からないか」
 そうですか、と呟くアルフレドに、そういうもの、と頷くケイ。親バグア派でもない限り、人の身で、バグアに連なる者の思考など分からない。
 だが。
「楽しそうではあったねえ」
 眼鏡の奥の目を細め、ドクターが面白そうに呟いた。今回の作戦でもっとも利益を得たのは、研究材料のデータを手に入れたドクターかもしれない。それに加えて、彼には、思う所があるようだ。
「楽しいから、あんなひどい事をしたと?」
「ああ。娯楽はときに全てに優先される。人間だって同じさ、けひゃひゃ」
 データを納めたメモリカードを手の中でもてあそびつつ、笑うドクター。顔を見合わせたアルフレドとケイは、確かにそうだ、と、内心思うのだった。
「おまたせえ」
 華やいだ声。夕貴の持ったお盆の上には、南瓜の煮付けと、湯気の立つ白飯が盛ってあった。
 歓声を上げる仲間達。遅い夕食をとりながら、四人はまた、次の任務への思いをはせるのだった。