タイトル:プールでプツンマスター:凪魚友帆

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/09/24 18:42

●オープニング本文


 夏の名残を楽しむように。街唯一のレジャープールには、大勢の人でごった返していた。
「うわあ、多いねえ」
「こんなもんだろ」
 浮き輪をかかえた少女の隣で、少年がつまらなそうに呟く。二人はどちらも水着姿で、しかし、テンションに随分と差があった。
「よっし。泳ぐぞお」
「夏休みも終わったのに、わざわざプールかよ」
「なによ。見たかったでしょー、あたしのみ、ず、ぎっ」
 ビキニにパレオで仁王立ち。そばかすの残るあどけない顔をじっと見つめた少年は、その下をちらりと一瞥し。
「哀れな」
「ばかーっ!」
 とはいえ。ぐーで殴るのはいかがなものか。
 ノックダウンした少年を置いて、少女は大股でプールに向かう。いいのだ。はつらつとした身体の魅力に気づかない男など、放っておけばいい。同年代の子よりもちょっとくらい育ちが遅れていたって、なんだというのだ。むしろ、最近の女子は無駄に育ちすぎて中身が云々かんぬんエトセトラ。
 少女のとめどない思考は、耳をつんざく悲鳴で幕を下ろす。
「ん?」
 顔を上げた少女が見たのは。胸をかき抱いて座り込む女性たちと、それを見て歓声を上げる男共の姿だった。
 しゃがんだ女性たちは、水着のトップを、すっぱりと切り裂かれていた。悲鳴が上がる毎に、その数が増えていく。
 そして。女性たちの間を、星形をした何かが高速で駆け抜けていった。
「あれ、もしかして、キメラ‥‥ッ」
 そうこうしている内にも。悲鳴の波が、少女の方へと近づきつつあった。心なしか、星形のキメラのスピードが、上がっているように感じる。
「た、助けっ」
 叫び声をつまらせながら、来た道を駆け戻る少女。その背後では、悲鳴と歓声の帯が、勢いを増しつつあった。
 半泣きの少女が駆け寄った先には、頭を押さえながら起きあがろうとする少年の姿があった。少女のただならぬ様子に、少年は、彼方の光景に目を凝らし。
「良き哉」
「バカいってないで逃げようよ!」
 ならば、少年を置いてさっさと行けばよいのだが。期待はするではないか、そうなったとき、少年がどんな反応を返すか。
 期待と不安と少しの恐怖と。少女の背に、気配が近づき。
 ――プツン。
「きゃああっ」
 いつもより多めに悲鳴を上げつつ。しゃがんだ少女は、上目遣いに少年を見上げ。
 当の彼は。完全に、向こうで繰り広げられるパラダイスに見入っていた。
「あの」
「良き哉良き哉」
「あのっ!」
「‥‥ん?」
 ようやく声に気づき。少女を見下ろした少年は、一言。
「見るも哀れな」
「ばかあああっ!」
 とはいえ。アッパーカットなどどこで覚えたのだ。
 弧を描いて宙を舞う少年と、泣き崩れる少女。
 ――能力者たちが現場に到着したのは、まさにその時だった。

●参加者一覧

ミオ・リトマイネン(ga4310
14歳・♀・SN
MAKOTO(ga4693
20歳・♀・AA
西村・千佳(ga4714
22歳・♀・HA
紅 アリカ(ga8708
24歳・♀・AA
ジェイ・ガーランド(ga9899
24歳・♂・JG
依神 隼瀬(gb2747
20歳・♀・HG

●リプレイ本文

●惨状
 能力者たちがそこに現れた時。しくしく涙ぐむ少女の前で、気絶する少年の姿があった。
「大丈夫ですか?」
 駆け寄るMAKOTO(ga4693)に背中をさすられ、少女はぐすんと鼻をすする。その隣では、ジェイ・ガーランド(ga9899)が、少年の様態を見ていた。
「これは‥‥」
「相当な腕前のキメラの仕業ですか?」
 ミオ・リトマイネン(ga4310)がそう呟くのに、彼はかぶりを振り。
「プロボクサー並の腕前の、見事なアッパーカットです」
 思わずぽかんと目を丸くするミオの向こうでは、少女から何とか事情を聞き出そうとする依神 隼瀬(gb2747)の姿があった。
「えっと、話をまとめると。星形のキメラがプツンと?」
「ついでにきみもプツンとしたわけ?」
 思わず呟いたMAKOTOを見上げ、更に豊かに膨らんだそれを見つめ、少女は、とうとう大声で泣き始めてしまった。
「うわーどうしよー」
「あまり、その子に構っている暇はないみたい」
 冷静に呟いたのは紅 アリカ(ga8708)。彼女の見る先には、うずくまる女性たちと、その間を飛び回る星形キメラの姿があった。
「にゃにゃ!? キメラが人を襲ってるにゃ! ‥‥女性だけ?」
 西村・千佳(ga4714)の声に、一斉に振り向く能力者たち。これ以上、悲しい事件が増える前に、キメラを倒さねばなるまい。
 どことなく釈然としないものを感じつつも。能力者たちは、それぞれの持ち場へ散っていくのだった。

●誘惑
「‥‥たまにバグアの行動が理解できなくなる‥‥。そうは言っても、みんなが楽しんでいるプールで暴れるのじゃ少し‥‥許せない‥‥」
「と、とりあえずさっさとキメラを倒してプールで遊ぶのにゃ〜♪ 僕の遊びの邪魔はさせないのにゃ!」
 静かに怒るミオと、目を輝かせながら得物を構える千佳。プールわきに陣取った二人は、既に軍服を着ていなかった。
 千佳の方は、黄色のセパレートタイプで、フリフリがかわいらしさを強調する水着。更に猫耳と猫尻尾装着で、魔法少女感をキープしている。
 対するミオは、布地を紐で結んだような、過激さ抜群の水着を着用して言える。細身のわりに豊かな胸が、太陽の日差しに輝いていた。
「‥‥このハレンチなキメラ‥‥覚悟しなさい」
 腰に手を当て、アイドルはだしのポーズ。その気配に、星形キメラたちの動きが変わった。
「ほら、こっち来るにゃー♪ 水着美女はこっちにゃよ♪」
 にこやかに手を振る千佳のそばを、急スピードで星形キメラが通り過ぎていく。あれ? と小首を傾げた千佳の背後に、再び迫る気配。
「って、みゃあ、!? しまったにゃ!?」
 あわててうずくまる千佳。しかし、能力者たるもの、それだけでは終わらない。
「ふにゃ!」
 逃げ去ろうとする星形キメラを、大きな爪で捕縛する。
「女の子の水着を狙う悪い子は‥‥まじかる☆チカがお仕置きなのにゃ♪」
 じたばたと暴れる星形キメラを、思い切り空中に振り上げて。
「これで‥‥おしまいにゃ! まじかる♪あたーっく!」
 ざしゅ。
 哀れ。微塵に斬られた星形キメラは、どこか刺身にも似ていた。

●その間
 一方その頃。ジェイと隼瀬は、被害にあった女性たちや、逃げまどう一般人の避難を担当していた。
「あわてないで。ゆっくり一列に」
 てきぱきと指示を飛ばすジェイの前に、応急処置としてタオルを巻いた女性たちが、しずしずと進んでくる。その布地の谷間からちら見える谷間を、思わず目にして。
「‥‥いやいや、浮気心はいけません」
「とか言いつつ目は離さないんですね」
 う、と振り向いた先。半眼の隼瀬は、道路工事で使うような指示棒を持っていた。不機嫌そうに棒をぺしぺしと掌に打ち付ける姿は、何かに堪え忍んでいるようでもある。
「と、ともあれ。そろそろ誘導も終わりそうですね」
「さっさと倒して遊んでやる!」
「そう怒らずに、隼瀬君だって」
 ‥‥。
「そういえば、女の子でしたっけ」
「納得するな! ぽんと手を叩くな!」
 べしべしべしと指示棒で殴られつつ。ジェイは、なんとか最後の誘導までをこなすのだった。

●真剣
 その頃、プール際の一角では。
「‥‥ヒトデはヒトデらしく、岸壁にへばりついて大人しくしていなさい!」
 怒りの三点バーストが、飛来する星形キメラをたたき落とす。水着の上に着たTシャツを汗に透けさせながら、アリカは隣の仲間へと叫ぶ。
「後は‥‥ッ」
 その言葉に返事はなく。ただ、気配だけが揺らぐ。
 静かに目を閉じたMAKOTOが携えているのは、一本の、淡黄色の穂先を持つ槍。彼女が息をする度、その先が、わずかに揺れる。
 その間合いの内側に入ろうと、星形キメラは勢いよく迫る。あっと言う間の接近にも、彼女は臆することはなく。
「セイッ!」
 瞬間。回転する槍から放たれた黒い波動が、星形キメラを巻き込み、遠く遠く吹き飛ばす。
 地面に落下し、息も絶え絶えな様子で力なく跳ねる星形キメラ。その上に、影が差した。
「‥‥覚悟‥‥」
 ミオの手に逆さに握られた刀が、ざくりと突き刺さる。
 星形キメラが動きを止めるのを確認して。ミオは、いまだ明るい空を見上げ。
「‥‥ふふ」

●戦い終わって
 ちゃぷん。
「ふう‥‥」
 人気のないプールにゆらり浮かんで、ミオは静かに目を閉じていた。戦いの時に着ていた派手な水着は封印し、今は、自分の趣味に合う、落ち着いたものに変えている。
 思えば、ここ最近は、往く日も来る日もバグアとの戦い。ゆっくりプールに浮かぶ時間など、取れるはずがなかった。
 今のこの時間を、大切にして。ゆったり、水をかき。
 ばしゃばしゃばしゃ。
「うぷ!?」
 慌てて顔を上げた先。大きな浮き輪を身につけた千佳は、目をつり上げて怒っていた。
「女は胸だけじゃないのにゃ! 胸なんて飾りなのにゃ! エロい人にはそれがわからないのにゃーっ!」
 じたばたと腕を振る度に、大きなしぶきがミオを襲う。しばらくなすがままにされていたミオだったが、やがて、ほほえみと共に、千佳に反撃するのだった。
 その頃。ぐるぐると廻るスライダーの出口に、隼瀬が勢いよくつっこんでいた。
「っはあ! やっぱり気持ちいいなあ」
 なにより、いつもは行列に並ばねばならない遊具を、自分たちだけで独り占めできるというのが最高だ。帰還命令が出るまでの短い間、なるべく沢山の遊具で遊ばねば。
 そう思って泳ぎだそうとした時。ふと、背後の声に気が付いた。
 振り返った隼瀬が見たもの。それは、プール版を下敷きに、頭を下にしてスライダーをすべる、MAKOTOの姿だった。
「で、でかい」
 思わずそんな感想を漏らす。その間に、二人の間が見る間に近づいていき。
 むに。
「うご!?」
「あ、ごめんごめん」
 水中に押しつぶされながら、隼瀬はしばし、人体の不公平について悩んで居たのだった。
 そんな喧噪から少し離れ。プールサイドのチェアに、ハーフパンツ姿のジェイが寝ころんでいた。
 いつものポニーテールも、伊達眼鏡も外して。日差しに暖められながら、ゆったりとリラックスする。
「後は、のんびり、遊ぶだけ、と」
 ねえ? と振り向いた先。そこには、紫のビキニを身にまとったアリカの姿があった。
「‥‥お待たせ‥…。‥…あの‥…似合ってるかしら‥‥?」
 腰のパレオをいじりつつ、恥ずかしそうに頬を染めながら。そのいじらしい姿に、ジェイはクスリと微笑んで。
「これは、他の男に見せるには、少々勿体なさすぎるな」
 とはいえ、心配は無用。ここには、他の男など居ないのだから。
「さあ、どうやって遊ぼうか?」
「うん‥‥」
 さきほどの戦いで見せたものとは、まったく別の顔。能力者とはいえ、素顔はこういうものなのだ。
 夏の終わりは、意外と長い。水面にあがる二つの水しぶきは、しばらく止みそうにないのだった。