タイトル:怪盗ハルピュイアマスター:凪魚友帆

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/11/14 14:34

●オープニング本文


「一週間後の午後八時、ヤツはこのビルへ現れます」
 しわのかかった背広を引っ張りつつ、いかつい顔の男は地図を指さす。
「外からの進入経路は三つ。南の窓、北西の窓、東の窓」
 天高くそびえる高層ビルの見取り図は、複雑極まるものだった。目標へつながる赤線が引かれていなければ、場所の把握も大変だ。
 そして。赤線をたどった先、ビルの中央を示す点に、一本のピンが突き刺さっている。
「ヤツの狙いは、ここに保管されている『王の腕』。現代アートの巨匠が作った、実物大の腕の形をしたリアルな彫刻です」
 高値であるのはもちろんだが、これから時が経つ事に、値段は数倍へと跳ね上がっていく代物である。もしこれが盗まれたりすれば、大損害を受けることになる。
「しかし。予告状を送った以上、ヤツは必ずここへ現れるでしょう」
 それは絶対に阻止せねば。男の目には、その意気がありありと見えている。
 の、だが。
「申し訳ない。こちらへの出動要請の要点を聞きたいのだが」
「はい。我らが敵、怪盗ハルピュイアを捕まえ」
「いや待って」
 差し上げた手を下ろし。UPCの隊員は、かみ砕くように言い含める。
「我々が話として聞いているのは、ハーピーの一団の掃討ということなのだが」
「ですから、それが怪盗ハルピュイアなのです」
 男の話は、こうだ。
 高価な美術品が安置された場所に、予告状、もとい、力の弱いハーピーが突撃し、前哨戦とばかりに暴れて去っていく。それから一週間後、今度は、華麗な布をまとった強力なハーピーが率いる一団が現れ、警護を突破し、美術品にたどり着いた後。
「破壊するのです」
「は?」
「ですから、その場で、粉々に」
 所詮、ハーピーに美術品の価値などわからないのか。それとも、何かの目的があって、あえて美術品を破壊しているのか。ともあれ、壊される側としては、取り返すこともできないのだ。迷惑なことこの上ない。
「ということで、我々としても逮捕はできませぬので。そちらさんで倒して頂ければ」
「は、はあ、なるほど」
 わかったようなわからなかったような。とりあえず頷いた隊員は、任務概要作成への手続きを始め。
「‥‥怪盗退治、というわけ、なのか」
 やや嬉しそうな顔で、そう呟くのだった。

●参加者一覧

雨霧 零(ga4508
24歳・♀・SN
クラーク・エアハルト(ga4961
31歳・♂・JG
周防 誠(ga7131
28歳・♂・JG
ブレイズ・S・イーグル(ga7498
27歳・♂・AA
赤宮 リア(ga9958
22歳・♀・JG
美環 響(gb2863
16歳・♂・ST
リリィ・スノー(gb2996
14歳・♀・JG
矢神志紀(gb3649
18歳・♂・GP

●リプレイ本文

●探偵集合
「壊していくのに、怪盗っていうんでしょうか‥‥」
 その腕を見上げ。インバネスコートに鳥打ち帽姿の少女は、やんわりと苦笑した。
「なんにしても。人類の宝をこれ以上壊させるわけにはいきません!」
 もっとも。内心では、こんなものに何の価値があるのか、とても疑問なわけであるが。
 ともあれ。すっかり探偵風になったリリィ・スノー(gb2996)にとって、事件の解決は必然なのである。
 一つ難点を上げるとすれば、そう思った人間が多すぎることだろうか。
「さあ。名探偵と怪盗の、華麗な舞台を始めようか」
「む?」
 振り向いた先。コツン、と靴のかかとが鳴る。
 そこに立つのは、背広をまとった、中性的な印象の少年。さしずめ、小さな都市探偵といった風合いか。
 ふんと胸を張り。美環 響(gb2863)は、守るべき品の安置された一室へ、堂々と歩み入る。
 リリィがムッと身構える中。次なる探偵は、哄笑と共に現れた。
「怪盗退治といえば探偵。探偵といえばこの私ッ! そう、探偵とは神に等しいということなのだ!」
 そういって登場した雨霧 雫(ga4508)は、安置された『王の腕』を見て。
「わはは、これくらいの物が宝だと? ただの腕じゃないか。我々の命の方が宝だぞ? ‥‥うむ、今、私良いこと言った気がしないか?」
 同意を求めるその後ろで、ちょうど問題の品が入る程度の大きさのコンテナが、ごろごろと車輪の音を立てながら、二人の手により持ち込まれる。
「美術品を壊してしまう怪盗なんて‥‥果たして怪盗と呼べるのでしょうか?」
 そう呟いた赤宮 リア(ga9958)は、コンテナを室内に運び終えると、蓋を開け、その中のモノを引っ張り出す。
 それはまさしく、『王の腕』の贋作。
「UPCも無駄に凝ってますね」
「浪漫を理解できなければ、地球防衛などできないのだよ」
 半眼の少女探偵と自慢げな少年探偵の前で、本物と贋作が、確かに入れ替えられる。
 その作業を確認した周防 誠(ga7131)は、再びコンテナに手をかけつつ、ぼそり呟く。
「それじゃしっかり守りますか。正直、これがどれくらい価値があるものかはわかりませんがね」
 その言葉に、その場の全員が深く頷き。
 次に現れたのは、本当の意味で、ここにふさわしい服装の二人だった。
「各窓のバリケード、全て確認終わりました」
 そう報告するのは、軍服に身を包んだクラーク・エアハルト(ga4961)。UPCの性質上、もっとも無難な姿といえるかもしれない。
「これで入り口は一つに絞れた。後はバードウォッチングだな」
 フッと笑って腕を組むのは、SPのごとき黒いスーツをまとった矢神志紀(gb3649)。ある意味では、この状況にもっとも相応しい格好をしているのだった。
 これで役者は揃った――わけではなく。
「この格好は探偵と言うよりも、ヒットマンかな? どう思います、ブレイズさん?」
 クラークの呼びかけに、最後の探偵が姿を現す。
 フェルト帽に古びたマント。どちらかというと怪盗の側に立っているようなブレイズ・S・イーグル(ga7498)は、皆の前に現れ、大仰に首を振る。
「やれやれ。キメラも十人十色‥‥妙なモノも居るもんだ」
 その後の台詞は、少し間があり。
「‥‥まあ、俺たちも一緒か」
 めいめい、己が服装を見下ろし。沈黙の天使が、しばし空に舞うのだった。

●怪盗来襲
 夜闇に紛れ、彼女たちは現れる。
 鳥の翼に人の顔。豊満な肉体を毛皮で彩った鳥人たちは、今回の目標となるビルの周囲を舞いながら、つっつく機会を狙っていた。
 しかし。残念なことに、窓の多くは封印され、容易は中へ入れそうにない。悔しげな鳴き声を上げながら、彼女らはくるくると旋回し。
 ふと。一点を見つけ出した。
 それは、目指す品のある通路へと一直線に続く、大きなガラスの窓だった。暗がりに反射する彼女らの顔に、ニヤリと会心の笑みが浮かぶ。
 瞬間。
 ――ケェェェェェェイ!
 恐ろしい叫び声を上げながら。一直線になったハーピーの群れが、ガラスを割り、建物の中へと侵入する。
 それを待ち受けたのは、激しい照明弾の輝きだった。
 ――キィィイ!
 眩しさに目がくらみ、窓の外へ逃げていくハーピーたち。その姿に向けて、いくつもの銃口が向けられた。
「さあ、諸君。ここからは探偵タイムだっ! 心したまえ」
 雫の号令と共に。いくつもの弾丸が、ハーピーの群れへと突き刺さる。
「やれやれ、数が多いですね」
 そう呟く誠の手には、巨大な回転式拳銃が握られていた。瞬時に照準をつけ、強力な弾丸を発射する。
 飛来した弾丸は、ハーピーの一群へと飛び込み、その中の一羽を打ち落とす。その隣で悲鳴を上げたハーピーの翼に、何本もの矢が突き刺さった。
「きりがありませんね」
 眉間にシワを寄せて首を振るリアの隣に、クラークと雫がすくと立ち。
「では」
「こうしてしまおうじゃないか!」
 瞬間。クラークのSMGと雫の小銃が、無数の弾丸を敵陣へとたたき込むのだった。
「なるほど、質より量ですか」
「そろそろ、次のステージに行った方がいいですね」
 リアの言葉に、皆は視線で頷いて。
「おおっと弾切れだ! 全員退散!」
 雫の号令と共に、能力者たちは後ろへと下がっていく。
 もはや二、三羽に減ってしまったハーピーたちは、これを好機と見て、再び窓から侵入しようと、隊列を整え直す。
 その背後に。ひどく大きな影が差す。
 広く立派な翼を、ゆったりと羽ばたかせ。より一層に豊満な肉体を誇るハーピーが、悠然と現れる。
 ――キィ!
 ――ケェイ!
 主をたたえる配下たちは、先陣を切ろうと、一斉に窓の中に飛び込み、一直線に目的のものへ向かおうと。
 する、その背後。柱に隠れた人影が、鈍く光る銃口を向ける。
「後ろが隙だらけです」
 その言葉に彼女らが反応する前に。リリィの構えた長大なライフルから、死を招く弾丸が放たれた。
 一息で打ち落とされた仲間を見て、驚くハーピー。その全身めがけ、無数の弾丸が降り注いだ。
「汝の魂に幸いあれ」
 ふっと微笑み。響は、手にした小銃を直刀へと持ち替える。
 その間に。囲いを突破した一羽が、室内へと侵入しようとし。
「せいやッ!」
 その直前。志紀のファングが翻り、ハーピーの肉体に致命的な傷を与える。
 落下したハーピーの背後で。志紀は、ファングに付いた血を振り払い。
 その側を、竦むような気配が駆け抜けた。
「ッ!」
 驚いたのは、なにも志紀だけではない。隠れ潜んでいた能力者たちが思わず立ち上がる中、ひときわ大きなハーピーの長は、その太い爪で、目的の品を切り裂こうと。
 させぬために、彼が残ったのだ。
「待てぇぇい!」
 獅子の咆吼にも似た大音声。ハーピーがばさりと羽ばたき、『王の腕』から距離を取る。
 それを見下ろす高台に、マント姿のブレイズが居た。
「人々が己の感性、技術、魂を込めたもの‥‥人、それを芸術という」
 後光にシルエットを描きつつ。仁王立ちしたブレイズは、ばさりとマントを翻し。
「聞かれてないがお前に名乗る名などない!」
 マントと帽子を投げ捨て。鉄板のごとき長剣を構えたブレイズに、ハーピーが威嚇の声を上げた。
 その背後で、コマのように回転する少年の姿。
「陽動お疲れッ」
 その声に振り返る前に。響の手にした刃が、ハーピーの右翼をずたずたに切り裂いた。空を飛ぶ術を欠いて、ハーピーの高度ががくりと落ちる。
 その落下点で、ブレイズが拳を握った。
「奥義を受けろ! ゴッドハ‥‥ファフナーブレイクッ!」
 少し胡乱になりつつも。ブレイズの拳がハーピーを再び空に突き上げ、落下する前に、逆手の剣で、殴打の如く叩き斬る。
 ――く‥‥。
 紅色の血をとどめなく流しつつ。血に落ちたハーピーは、しばしうごめき。
「‥‥死にました、ね」
 そう呟くリリィの声は、少し寂しそうだった。

●余談
「あれが怪盗? くそっ名乗りを上げることができなかった!」
 全てが終わった後。雫の叫びは、空しく響くだけである。
「まあまあ。とりあえず珈琲でも一つ。美味いですよ?」
 全てが元通りになった室内で。いつの間にか持ち込まれたテーブルに、湯気薫るコーヒーが並べられる。
「いただきます。でも、あのハーピー、何がしたかったんでしょうね」
 リアのもっともな問いに、雫はフンと鼻を鳴らして見せ。
「神話の時代から、ハーピーは美しいものを汚すと決まっている。そのサガに従ったまでだよ」
 ならば。ハーピーに認められたあの美術品は、真に美しいものなのだろうか。
 その答えは保留にして。能力者たちは、束の間の休息を楽しむのだった。