●リプレイ本文
●忍び寄るヒーロー
かさり、かさり。
風音さえもしない廃墟のビルに、やけに小さな足音が響く。
そこにあるのは、お月見に使うような供物台と、そこに盛られた大量の団子。
かさ、かさかさり。
その場に現れたのは、五色の塊。人よりもはるかに小さい、彼らの名は。
「現れたな、ゴキレンジャー!」
若い男の叫び声。五匹のブラインドビートルが、一斉に振り返った。
●悪の軍団
闇の中。薄明かりから、四人の人影が現れる。
「僕、じゃない、我が輩は、場当たり怪人☆メトロニウ魔!」
そう言うシェスチ(
ga7729)の格好は、いかにも悪の怪人らしい、ごてごてとしたもの。むしろ付属物が多すぎて、元の姿が何かがわからない。恥ずかしさのなせる技である。
「孤独戦態、セクハラレッド!」
と、微妙にヒーロー側の名乗りを上げた紅月・焔(
gb1386)の格好は、名乗りに反した黒装束。どことなく、ゴキレンジャーの面々に似ていなくもない。二人の背後に守られるように、おどおどと隠れる皆城・乙姫(
gb0047)の姿もあった。
「ご、ゴキブリにうらみはないけど、キメラは倒さなきゃ。に、苦手だけど、が、がんばろう」
思わず、小声でつぶやき。挙動不審な乙姫のそばに、すっと立つ人影。黒の眼帯、豪華な着物に小銃という姿の篠ノ頭・すず(
gb0337)は、乙姫の肩にそっと触れ、大丈夫、という風にうなづいてみせる。
――ぶぅんぶぅん。
威嚇するゴキレンジャーに向かって、彼女は大きく胸を張る。
「我は、悪の能力者エミータ。我らの罠にまんまと引っかかったな、ゴキレンジャー!」
――ぶん!
怒りを露わにするゴキレンジャーに対して、にじりよる悪の軍団。緊張が、嫌がおうにも高まる。
声がしたのは、その時だ。
「その勝負、待った!」
中性的な子供の声。それと共に現れたのは……。
●能力者戦隊エミタンジャー
どこからか照射されるスポットライト。その中には、三人の男がいた。
「変身!」
格好よく決めポーズ。その瞬間、仕掛けられていた爆竹が、火花と共に暴れ回る。
「リサイクル戦士、エコグリーン!」
そういうM2(
ga8024)の姿は、海賊のように頭を覆ったバンダナと、ヒーローを意識したゴーグル。相棒の槍、エリシオンも、今日はヒーロー装備仕様だ。ちなみに、先ほどの爆竹も、おびき出しようの団子も、全て彼の手配である。
「悪で遊ぶゲーマー、ヒッキー戦士ゲーマーブラック!」
M2の隣でそう叫ぶのは、覚醒の効果で黒い肌と化した五十嵐 彩斗(
gb1543)。刀をビシッと構えつつ、目が笑っている。
(丁度、ゲームでギャグキャラが必要だったのですが‥‥まさか、自分でやることになるとは)
そんな思いなどつゆ知らず。この立場をもっとも楽しんでいる白虎(
ga9191)が、得物の100tハンマーを振り上げた。
「皆のアイドル・ホワイト☆メイド! がお仕置きだよっ☆」
図らずも白兵武器を揃えた三人。覚醒の迫力も相まって、かなりの威圧感を与える。小さな背で思い切り伸び上がった白虎は、悪の軍団を指さし、高らかと宣言した。
「力を悪用する能力者たちめ。ボクら、能力者戦隊エミタンジャーが、成敗してくれる!」
「‥‥ほう、面白い」
女幹部エミータことすずが、片目をにやりと細める。
「たかだか三人ごときで、我らを倒すことなどできるのか? そもそもそちらは白兵武器ばかり、こちらは連写できる射撃武器を構えている。まずはこちらに近寄らねば、そもそも攻撃することも」
「突撃いいいッ!」
「待て。相手の話を聞かないのはルール違反だぞ!」
そんな主張もむなしく、雪崩式に戦いが始まった。仮装しているとはいえ、どちらも能力者。ともすれば廃墟が崩壊してしまうような、激しい戦いが繰り広げられる。
――という状況が、目の前にあり。
完全に取り残されたゴキレンジャーたちが、ようやく我に返った。目の前で行われる、正義と悪の戦い。それを見て、彼らは。
――ぶぅぅぅん。
とりあえず、悪を倒そうと決めるのだった。
●偶然?
――ぶぶーん。
得意の空中攻撃で、メトロニウ魔ことシェスチを狙おうとするゴキブルー。彼がそれに気づいたときには、必殺☆顔面張り付きは、ほぼ成功しようとしていた。
が。横合いから突き出された槍の先が、その軌道を乱す。
「あ、すまん」
しれっと言い放ったエコグリーンことM2は、再び戦いに戻る。
一方、別の方角からは、三匹フォーメーションを取ったゴキイエロー、グリーン、ピンクが、乙姫に向けて迫ろうとしていた。戦いの緊張で周囲が把握できず、無防備な彼女に、ゴキトリオが迫る。
という所で、振り下ろされた100tハンマーが、三匹の進路を塞ぐ。
「あは。ごめーん」
屈託なく笑う、ホワイト☆メイドこと白虎。苦情を言うように羽をばたつかせた三匹は、踏みつけられないよう、方々に散っていくのだった。
そして。ずっと戦いの隙をうかがっていたゴキレッドは、エミータことすずの隙をうかがって、じわりじわりと忍び寄る。ゴキレンジャーのリーダーとして、悪の幹部は、絶対に倒さねばなるまい。
味方であるゲーマーブラックこと彩斗の背後より、すずの太股をねらって飛びかかろうとし。
次の瞬間、彩斗の持つ刀の背が、ゴキレッドを大きく吹き飛ばした。
「あ、すいません、当たってしまいました。エミータめ、得体の知れない術を使いましたね‥‥」
と、ゴキレンジャーたちにアピールしつつ、彩斗は再び、すずとの戦いに戻っていく。
そんなことが何度も続き、ゴキレンジャーたちの間に、少しずつ、疑念が広がっていく。
――その傍らで、こそこそと動く、六匹目のゴキレンジャーが居た。
表向きは、ゴキレンジャーと闘うフリをしつつ。戦場の外周でおろおろしている乙姫に、そっと近づき。
さわっ。
「きゃぁぁぁっ!」
お尻を押さえて真っ赤になる乙姫の背後から、そっと立ち去る黒い影。振り返った乙姫がみたのは、取り残されたゴキレッドだった。
「だ、だれかったすけてぇぇぇ」
スパークマシンを乱射する乙姫に、皆の視線が集中する。慌てて逃げ去るゴキレッドは、命からがら、電撃と銃弾の雨から逃走する。
それを眺めつつ、至福の表情を浮かべた彼は。
――とんとん。
「ん?」
振り返ったセクハラレッドこと焔が見たのは、悪鬼の如き表情をしたすずだった。
「貴様。誰に手を出しているのか‥‥わかっているのか?」
わかりませんとはいえない雰囲気。このままだとゴキ諸共倒されると判断した焔は、さっと姿勢を正して頭を下げる。
「いや、もう、すんませんでした、ちょっとした出来心です、はい」
必死に言い訳を並べつつ。つい、口が滑る。
「今からゴキ退治に戻るんで。そろそろヒーロー側も本格的に加勢を‥‥あ」
‥‥。
――ぶ、ぶぶぶ。
「しまった!」
「いえ、いずれはバレることでしょう。彼らが『道化』ということは」
場の空気が冷めていく。しかしそれは、次に起こる爆発までの、嵐の前の静けさだった。
ヒーロー側と悪人側のそれぞれが、がちゃり、と武器をゴキたちに向け。
「あは☆ 総攻撃!」
白虎のかけ声と同時に、一斉に襲いかかるのだった。
●そして数分後
ぷちっ。
「よーし、最後の一匹をしとめたぞー」
「むしろ‥‥むちゃくちゃ弱かった‥‥」
槍の柄をぬぐうM2の隣で、シェスチがぼそりと呟く。
戦隊を気取っても、しょせんはブラインドビートル。能力者七人がかりで攻められれば、多勢に無勢なのだった。
「あ、これですね。カメラ見つけましたあ」
「どれどれ。見せて見せてー」
ひょいひょいと近寄る白虎に、カメラのディスプレイを見せる彩斗。そこには、ゴキレンジャー最期の日の一部始終が、克明に記録されていた。
「これからは、エミタンジャーの時代だね!」
「いや、さすがに表に出すのは」
と言いつつ、この映像をゲームの資料にしたい彩斗。激しい強奪戦の末、上層部に差し押さえられるのは、これから少し後の話である。
そして、終わっていない戦いがあと一つ。
「あはっ。動けないまま殺されるのって怖い?」
「はい! 怖いんで助けてください!」
キメラ相手には通用しない粘着シートも、能力者相手には有効なのだ。乙姫がすずをなんとかなだめ、焔が生きながらえるまで、しばし、時が必要だった。
ともあれ、戦いは終わった。廃墟の中には、彼らの姿は。
――かさり。
‥‥いや、確証はない。最近のヒーローは、五人では終わらないのだから‥…。