●リプレイ本文
●遭遇への備え
開けた高台に、一丁の狙撃銃がセットされる。
「対空戦、か。スナイパーとして、そろそろ経験しておくべきだろうな」
そう呟くカララク(
gb1394)の表情は厳しい。その隣でエネルギーガンの準備をするファイナ(
gb1342)にも、その緊張が伝わってきた。
「カララクさん、いつも通りにお願いしますね」
そう笑顔でいいつつも、ファイナにも気にかかることがないわけではない。その原因は、二人の前方、狙撃班の盾となるアセット・アナスタシア(
gb0694)にある。
「アセット、怪我しないようにね‥‥」
つのる心配をよそに、アセットはコンユンクシオを構える。その隣では、お揃いの剣を手にした霞倉 那美(
ga5121)が、遠く空を見つめていた。
「メンバーを二つに分けて、お互いがお互いをフォローできるような位置取りを出きれば、ゴムパインに余計な時間をかけなくても済むはずです」
そのために、同じ空を見上げる仲間たちが居る。視線を下げた先、高台の中腹に陣取っているのは‥‥。
●発見への努力
「ピネウスじゃあるまいし、何でハーピーに苦しめられなきゃいけないのか」
一人ごちる甲(
gb0665)は、スパークマシンを脇に置き、双眼鏡を構える。A班に先んじてハーピーを発見、狙撃と共にこちらも射撃開始。ゴムパインが投下された際は、両班の前衛が挟撃する。それが、こちらの立てた作戦だった。
「小さいころは鳥の羽で空を飛びたいと思っていたけど、こんなのは嫌だよ〜」
ロングボウを構えつつ眉をしかめるリーウィット・ミラー(
gb0635)の隣では、やや小振りなロングボウを空に向けた六道 菜々美(
gb1551)が、長く延びた前髪の奥で、不安そうに空を見上げていた。青く晴れ渡った空に、ハーピーの姿はまだない。それがまた、緊張を増幅させる。
そんな三人の後ろでは、ヌアージュ・ホワイト(
gb0637)が、ハルバードをぶんぶんと振り回していた。B班の純粋な前衛は彼一人であり、少し人見知りの気があるヌアージュとしても、ここで頑張って、仲間たちに認められたいという願いがある。
それぞれの思いを抱きつつ。空を監視していた甲が、あ、と声を上げる。
「居た、ハーピー発見!」
高まる緊張。A班にも素早く合図が送られ、戦いの時が、刻一刻と迫る。
その始まりを、告げるのは。
●撃墜
待つ。狙う。定める。
銃の質、風の性、弾丸の重さ。
小さな照準の中に、全ての要素を押し込めて。
瞬間。研ぎ澄まされた弾丸が、ハーピーの翼を貫いた。
「命中」
言葉少ななカララクの額に、汗がにじむ。
先制攻撃を受け、ハーピーたちの隊列が乱れた。狙撃を受けた一羽の高度がぐんと下がり、その両隣にいた二羽が、さっと旋回する。相手も、強化された視覚でこちらを捉えているだろう。既に、戦いは始まったのだ。
「‥‥照準セット、牽制射撃開始‥‥」
ファイナの銃から放たれたビームは、網のように、ハーピーたちの散開を防ぐ。一気に落としてしまえないのは、彼女らが足に掴んだゴムパインが、予想外の場所に落下するのを防ぐためだ。
じわじわと包囲網を固め。ハーピーたちは、B班の上空へと近づいていった。
●迎撃
「初手から全力でっ‥‥ブチ抜けぇッ!」
その言葉に嘘はなく。覚醒によって熱血度を増した菜々美の手から放たれた矢が、弱っていたハーピーの銅を貫いた。
飛行の勢いが弱ったところで、リーウィットが放った弓もまた、ハーピーの翼に突き刺さる。滞空するための力を失い、傾いたハーピーの足から、ぽろり、と、パイナップル状の物体がこぼれ落ちた。
ゴムパインの落下点。そこに素早く近づいたヌアージュが、ハルバードを思い切り振りかぶる。
「スタンドまで飛んでいけーーーーッ」
一閃。落下の速度そのままに、身体を凹ませたゴムパインが宙を舞う。
その軌道を追っているのは、リーウィットの矢。引き絞られた弓がパンと弾け、空を切った矢が、ゴムパインの中心を貫いた。
「はいっ。残念。アウトだねっ!」
これで、残るは二羽と二個。その姿はB班の上空を越え、A班へと迫り。
――ぽろり。
●地上戦
「ゴムパイン落下!」
ファイナの弁を借りるまでもなく。地上に激突したゴムパインは、ひと跳ねすると、アセットと那美に向けて襲いかかった。
「アセット!」
「焦るな。まだ上に居る」
カララクの言葉通り、上空にはまだ、無傷のハーピーが二匹いる。彼女らを倒さなければ、前線は更に危険となる。
空を狙う二人に背中を預け。アセットと那美は、ゴムパインに切りかかる。
「剣は一度抜いたら引き下がらない‥‥絶対にだ」
その言葉通り、果敢に剣を振り下ろすアセット。だが、回避力に勝るゴムパインに、なかなか致命傷を与えられない。
その隣。文字通りゴム鞠のように跳ね回る敵に対して、那美の我慢が切れた。
「‥‥うっとーしい‥‥!」
怒りを隙と感じたのか、ゴムパインが那美に向かって突進する。それを、那美は思い切り蹴り飛ばした。
「アセットちゃん、フルスイングして!」
叫びと共に飛来するゴムパイン。それを真正面に見つめ。
「時には突き、時には返す。そして極意は」
瞬間。剣が一片の残像となる。
「一撃必殺‥‥!」
両断されたゴムパインは、ようやく動きを止めた。ほっとしたアセットに、一瞬の隙が生まれ。
背後から襲いかかったもう一体のゴムパインが、アセットの背を打つ。
「ぐッ」
「アセットちゃん!」
親友に声をかけつつ。大きくバウンドしたゴムパインを追って、那美が駆ける。
「いい度胸してるじゃない‥‥ケンカは買うよ!」
アセットの剣が剛なら、那美の剣は柔。しかし、この時ばかりは事情が違った。
半月の軌道を描き。激流の勢いを持った剣が、ゴムパインを切り裂く。
剣を振り切る。その動きが、ぐるりと弧を描いた。
「ハッ!」
初撃の勢いそのままに、二撃、三撃と攻撃を繰り返す那美。
寄せては返す波のような攻撃に、さしものゴムパインも、ずたずたに切り裂かれるのだった。
その後ろ。背中を押さえるアセットに、武器を放り出したファイナが駆け寄る。
「大丈夫?」
「うん‥‥」
打撲の手当をするファイナの頭上。牽制攻撃が途切れ、自由に跳び始めたハーピーが、爪を光らせ来襲し。
「させるかあ!」
爪がファイナに届く直前、弓を剣に持ち替えた菜々美が、ハーピーを振り払う。B班の他の面々も、A班の近くまで駆け寄っていた。
攻撃のチャンスをつぶされ、怒るハーピー。再び、高度を上げようとする直前。
――ぽとり。
落ちたのはゴムパインではない。白くねちょりとした、鳥の落とし物。
「ひぇッ!? ‥‥これ洗うの誰だと思ってんですかぁッ!」
怒り心頭。拳を突き上げた菜々美の上空で、高らかに舞うハーピー。
その身体めがけ、唸る電光が飛びかかった。
「戦闘って苦手なんですよね」
そうは言いつつ。甲のスパークマシンから放たれた電流は、ハーピーを地上にたたき落とすのに十分な威力を秘めていた。
再び飛び上がろうとするハーピー。その頭上に、太い刀身が振り下ろされる。
「ッやあ!」
斬撃というよりは殴打。ハーピーの頭を叩き潰しても、菜々美の怒りは収まらないようだ。
そう。にっくき鳥人はもう一羽いる。その場にいる全員の頭に、『落とし物』の幻影がよぎり。
「ハーピーなんて、大! 大! 大っ嫌いだ!」
武器をスコーピオンに持ち替えたリーウィットが、弾丸の雨を空へと放つ。
猛攻を受け、ハーピーの羽根が蜂の巣と化す。地上へと力なく落ちていく、その下には、ヌアージュの姿があった。
「僕だって、やる時にはやれるんです‥‥ッ」
低い位置から振り上げられるハルバード。それは、ハーピーの胴から頭にかけてを、真っ二つに切り裂いた。
しばしの沈黙。もう、羽音も、跳ねる音も、一つも残ってはいない。
巻き上げられた羽根が、空を舞う。その切れ端を浴びながら、八人はようやく、戦いの終わりを実感した。
●予感
ファイナの手により、軽い傷の治療を終え。八人の能力者たちは、現場の後始末をしていた。
「キメラの行動の進化って、きちんと研究して論文でも書けば、以外と面白い分野かもしれないですね」
そう呟く甲は、最期に残ったハーピーの羽根を回収する。彼女たちがいかにしてモノを使う術を手に入れたのか、それはわからない。
「どちらにしろ、俺たちは倒すだけだ」
ライフルを整備しつつ、カララクが低く呟く。他の皆も、志は違えども、やることは同じだ。
願わくば、この戦いが早く終わるよう。
見上げた空。小さな鳥の群が、自由に、広々と空を舞っていた。